説明

ペーパースラッジ灰の製造方法並びに該製造方法で製造されたペーパースラッジ灰を含有してなるセメント組成物および該セメント組成物を固形化してなるセメント固形物

【課題】ペーパースラッジ灰に含まれている塩化物イオンを効果的に除去し、同時にふっ素およびその化合物を除去する製造方法および該製造方法で製造されたペーパースラッジ灰を含むセメント固形物を提供する。
【解決手段】以下の工程(1)から(4)を含む、塩化物イオンが0.03%であり、ふっ素およびその化合物が0.8mg/l以下であるペーパースラッジ灰の製造方法。
(1)ペーパースラッジ灰に水を加えて攪拌して、ペーパースラッジ灰水を形成する工程
(2)形成したペーパースラッジ灰水に電磁波を照射する工程
(3)電磁波照射後のペーパースラッジ灰水を脱水する工程
(4)脱水後のペーパースラッジ灰を乾燥する工程
この製造方法で製造されたペーパースラッジ灰は、塩化物イオンが0.03%、ふっ素およびその化合物が0.8mg/l以下であり、かつ、セメント固形物の機械的強度の向上に寄与する針状結晶であるエトリンガイドを多く含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーパースラッジ灰の製造方法並びに該製造方法で製造されたペーパースラッジ灰を含有してなるセメント組成物および該セメント組成物を固形化してなるセメント固形物に関する。
【背景技術】
【0002】
建設分野などに大量に使用されるコンクリートは、その主原料となるセメントの他に粗骨材(砂利)と細骨材(海砂あるいは砕砂)という自然資源を大量に消費するなど、地球資源の保持と環境の保護に対して十分な対策・処置がなされておらず、またその研究も大幅に遅れているのが現状である。中でも海砂の大量使用は沿岸・海域環境や生態を著しく悪化させるものであり、極力抑制することが求められている。
【0003】
また、構造用コンクリートとして、通常の骨材と細骨材を使用したコンクリートに比べて単位容積質量の小さい軽量コンクリートが近年注目されている。
軽量コンクリートには、密度の小さい骨材を用いた軽量骨材コンクリートと多量の気泡を混入した低強度の気泡コンクリート、シリカヒュームなどを添加した高強度の軽量コンクリートなどが知られている。
【0004】
一方、製紙工場では古紙から新聞紙、上質紙および再生紙に至る製造工程で、ペーパースラッジ(紙汚泥)が大量に排出される。このペーパースラッジは焼却してペーパースラッジ灰(以下、「PS灰」と呼ぶ場合がある。)として処理されるが、このPS灰は極めて軽量であることに加え、その成分構成が二酸化珪素、酸化アルミニウムおよび酸化カルシウムがそれぞれ約3割前後で、他に酸化マグネシウム、三酸化硫黄、酸化第二鉄などを含み、比率が異なるものの、通常のセメント成分に近い。そのため、PS灰をセメント原料の1つとして再利用することが期待されている。
【0005】
ところで、構造用コンクリート中に含まれる塩化物イオンの制限値は0.30kg/m3(コンクリート1m3当り2000kgとすると、0.015%に相当)を以下とすることが日本工業規格(JIS)で定められている。PS灰中には相当量の塩化物イオンが含まれているため、多量のPS灰をセメントと混合するとその制限値を容易に超えてしまう。そのため、製紙工場で排出されたPS灰をそのまま建築・土木の構造用材料として大量に使用する場合には塩化物イオンの除去が、また土壌などに対して利用する場合にはふっ素およびその化合物の除去が必要となる。
【0006】
PS灰から塩化物イオン除去する方法としては、例えば、特許文献1と特許文献2には、水洗によりPS灰から塩化物イオン除去する技術が開示されている。また、PS灰からふっ素およびその化合物の除去技術には、例えば、非特許文献1に開示された消石灰などを多量に投与してカルシウムスラッジとして処理する方法などがある。
【0007】
一方、PS灰をセメント原料に使用する方法として、特許文献3にはPS灰の粉末度を3000〜12000cm2/gの範囲内にある粉粒物にしてセメント用混和材料とする方法が開示されている。特許文献4には、PS灰などを水熱焼成して軽量であるセメント組成体およびその固形物の製造例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−187748号公報
【特許文献2】特開2003−238221号公報
【特許文献3】特開平7−69694号公報
【特許文献4】特開2007−15893号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】朝田裕之:最新のフッ素処理技術、環境浄化技術、平成20年1月、第7巻1号、pp.14-17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のようにPS灰には建築・土木の構造用材料として多量に使用する場合に問題となる塩化物イオンと土壌汚染で問題となるふっ素およびその化合物が許容値を上回る量で含まれている。そして、塩化物イオンの除去技術と、ふっ素およびその化合物の除去技術とはそれぞれ個別に提案されている。
しかしながら、特許文献1と特許文献2に記載されるような水洗による方法では、PS灰と強く結合した塩化物イオンを効果的に除去することはできない。
また、塩化物イオンと、ふっ素およびその化合物とを同時に除去する技術は存在しない。
【0011】
また、PS灰をセメント原料に使用する方法として、上述の特許文献3に開示された技術では、セメントに混入させるPS灰の量が25重量%程度とそれほど多くない。また、細骨材あるいは粗骨材に加えて、PS灰をセメントの25重量%程度を混入したモルタルあるいはコンクリート固形体の圧縮強度は、強さの基準となる打設日から28日経た時点(材令28日)で30N/mm2以下であり、高強度に至っていない。
【0012】
また、特許文献4のコンクリートの製造方法では、その製造に高温・高圧の水熱処理を必要とするため、特殊な設備が必要となり製造コストが高い。また、PS灰だけでなく生石灰やセメントを加えるため、コンクリートに添加するPS灰の割合が小さく、PS灰を多量に使用する技術とはいえない。
【0013】
以上のように、塩化物イオンとふっ素およびその化合物とを同時に除去可能であり、かつ、PS灰を多量に使用した強度の高いコンクリートを製造する技術はいまだ実用化されていない。
【0014】
かかる状況下、本発明の目的は、PS灰に含まれている塩化物イオンだけでなく、同時に、ふっ素およびその化合物を除去する技術を提供するものである。さらに本発明の他の目的は、該PS灰を用いるセメント組成物およびその固形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 以下の工程(1)から(4)を含む、塩化物イオンが0.03%であり、ふっ素およびその化合物が0.8mg/l以下であるペーパースラッジ灰の製造方法。
(1)ペーパースラッジ灰に水を加えて攪拌して、ペーパースラッジ灰水を形成する工程
(2)形成したペーパースラッジ灰水に電磁波を照射する工程
(3)電磁波照射後のペーパースラッジ灰水を脱水する工程
(4)脱水後のペーパースラッジ灰を乾燥する工程
<2> 工程(2)における電磁波が、配管に巻き付けた電線に交流電流を流すことにより発生した、周波数が一定の範囲でランダムに変動する電磁波である前記<1>記載のペーパースラッジ灰の製造方法。
<3> 工程(2)における電磁波が、1〜60kHzの範囲でランダムに変動する電磁波である前記<2>記載のペーパースラッジ灰の製造方法。
<4> 工程(1)から工程(3)を複数回繰り返す前記<1>から<3>のいずれかに記載のペーパースラッジ灰の製造方法。
<5> さらにエトリンガイトを含む前記<1>から<4>ののいずれかに記載のペーパースラッジ灰の製造方法。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の製造方法で得たペーパースラッジ灰を含有してなるセメント組成物。
<7> 水セメント比が0.3〜0.6であるセメントと水を含んでなる前記<6>記載のセメント組成物。
<8> さらにアクリル系樹脂剤を0.5〜3重量%含有する前記<7>記載のセメント組成物。
<9> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の製造方法により得られたペーパースラッジ灰に水セメント比が0.3〜1.5であるセメントと水を加え、揺動による拡散混練で攪拌し、その後周波数100〜170Hzで振動させて製造するセメント組成物の製造方法。
<10> 前記<6>から<8>のいずれかに記載のセメント組成物を固形化してなるセメント固形物。
<11> 曲げ強度が4N/mm2以上である前記<10>記載のセメント固形物。
【発明の効果】
【0016】
本発明のペーパースラッジ灰の製造方法によると、ペーパースラッジ灰に含まれる塩化物イオンとふっ素およびその化合物とを同時に効果的に除去することができる。該ペーパースラッジ灰は、砂や砂利などの粗骨材と細骨材の代替として使用することができ、また、土壌用の材料としても利用できる。また、該ペーパースラッジ灰を含むセメント組成物は、機械的強度が高く、粗骨材と細骨材の代わりにペーパースラッジ灰を使用しているため、軽量なセメント固形物を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のペーパースラッジ灰の製造方法の概念図である。
【図2】巻き線式電磁波の周波数分布を示す図である。
【図3−1】電磁波未照射のペーパースラッジ灰(原材料)の12000倍拡大電子顕微鏡写真である。
【図3−2】電磁波照射あり(巻き線式)の4回目の「加水・電磁波発生装置への通過・脱水」の繰返し終了後における試料の12000倍拡大電子顕微鏡写真である。
【図4】曲げ試験のおける加力位置と支持方法を示す図である。
【図5】樹脂剤の種類および添加量が、曲げ強度に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、以下の工程を含む、塩化物イオンが0.03%であり、ふっ素およびその化合物が0.8mg/l以下であるペーパースラッジ灰の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と呼ぶ場合がある。)に係るものである。
(1)ペーパースラッジ灰に水を加えて攪拌して、ペーパースラッジ灰水を形成する工程
(2)形成したペーパースラッジ灰水に電磁波を照射する工程
(3)電磁波照射後のペーパースラッジ灰水を脱水する工程
(4)脱水後のペーパースラッジ灰を乾燥する工程
図1に本発明の製造方法の概念図を示す。なお、詳しくは後述するが、工程(1)から(3)は、必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0019】
ここで、「ペーパースラッジ灰(PS灰)」とは、狭義には古紙を再生するときに生ずる産業廃棄物を焼却したもののみを意味する場合もあるが、本発明においては、この狭義の産業廃棄物由来のもののみならず、パルプ製造工程、紙製造工程、古紙処理工程等から発生する紙組成物を焼却することにより生成する灰も含む概念と定義する。
【0020】
本発明の製造方法では、塩化物イオンが0.03%であり、ふっ素およびその化合物が0.8mg/l以下であるPS灰を得ることができる。さらには、該PS灰中にエトリンガイトを析出させることができる。
ここで、塩化物イオンの含有量は、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析法」により決定することができる。また、ふっ素およびその化合物の含有量は、環境庁告示第46号に基づき作製した検液を、計量はJIS K0102 34.1「吸光光度法」により決定することができる。
【0021】
以下、工程(1)から(4)のそれぞれについて詳細に説明する。
工程(1)は、ペーパースラッジ灰に水を加えて攪拌して、ペーパースラッジ灰水を形成する工程である。
本工程において、PS灰と水とを混ぜて得られる混合液のPS灰と水の混合割合(PS灰と水との質量比)は、1対5以上であることが望ましい。1対5未満の場合には、ドロドロの状態に近く、後述する電磁界発生冶具を通過しにくい場合がある。攪拌する方法は特に制限はなく、処理されるPS灰の量を考慮して、従来公知の方法で行えばよい。
【0022】
工程(2)は、形成したペーパースラッジ灰水に電磁波を照射する工程である。
PS灰水に対して電磁波を照射することにより、PS灰と強く結合した塩化物イオンを分離し、水中に塩化物イオンを遊離させることができ、また、ふっ素およびその化合物に対してはふっ素を水中に遊離させることができる。さらにPS灰中に針状結晶であるエトリンガイトが生成する。
ペーパースラッジ灰水に電磁波を照射する方式としては、特に制限がなく、バッチ式、フロー式のいずれの方法でもよい。特に生産性の観点からは、フロー式である、ペーパースラッジ灰水を電磁波が照射されている配管に通過させる方法が好適である。
【0023】
本工程において、交流電流を利用して電磁波を発生させる代表的な方法には、次の2つがある。
(a)配管に電線を巻つける方法(以下、「巻き線式」と称す。)
塩ビ管などの配管に電線を巻つけて、この電線に交流電流を通すと、水流と同方向に電磁界が発生し、同時に電磁波も生じる。この方法によると、電磁波はある特定の下限値と上限値を定めることができるが、その下限値と上限値間の周波数は一過的に、かつ、ランダムに生じる。また、ある特定の周波数をもつ電磁波を複数個発生させることはできない。例えば、電磁波の下限値を2kHz、上限値を8kHzと設定した場合の電磁波のランダムな周波数の発生状況は、図2に示す通りである。
(b)配管に磁界発生用コイルを取付ける方法(以下、「磁界コイル式」と称す。)
塩ビ管などの配管の円周面にN極とS極の磁界発生用コイルを相対して取り付け、交流電流を流すと水流と直交方向に電磁界を発生する。この場合、電磁界で発生する周波数はある特定の下限値と上限値の間で任意に生じさせることはできないが、ある特定の周波数をもつ電磁波を集中的に複数個以上発生させることができる。
なお、以下、上述の電線あるいは磁界発生用コイルを取り付けた配管を「電磁界発生冶具」と称す。
【0024】
本発明の特徴の一つは、電磁波照射によるエトリンガイトの析出にある。PS灰中におけるエトリンガイトの析出は、最終品である処理後のPS灰及び該PS灰を含むセメント固形物に次のような効果をもたらす。
(a) 多量の水を結晶水として取り込む。そのため、例えばエトリンガイドが析出したPS灰を土壌などに加えて混合すると、土壌自体の含水比を低下させるとともに、土粒子の移動を抑える効果がある。
(b) エトリンガイドの針状結晶は固形物の微細孔にまで侵入し、固形物の空隙を減少させると同時に相互に絡み合い、緻密な状態になる。そのため、処理後のPS灰を含むセメントは機械的強度が向上する。
また、エトリンガイドの存在は、セメント中の重金属の溶出も抑制する。水和反応で生成する針状結晶は、例えば水和過程で六価クロムを取り込む作用があり、セメント成分中の六価クロムを固定化し溶出を防ぐ作用がある。
(c) セメント固形物を膨張させる性質がある。すなわち、エトリンガイドの生成により硬化体に膨張性が生じる。そのため、一旦硬化すると、乾燥時に収縮しにくくなる。
(d) エトリンガイトが多く析出すると、より一層、セメント固形物の空隙を減少させると同時に相互に絡み合い、緻密な状態が進むため、結合力、すなわち付着力が強化される。そのため、より一層の早期強度を発現すると共に経時的に強度が増加する。
(e) エトリンガイトが多く析出すると、緻密なセメント固形物になるため、風化しにくくなる。すなわち、より一層耐久性が向上する。
【0025】
なお、巻き線式は、磁界コイル式と比較して、より効果的に塩化物イオンとふっ素およびその化合物とを除去可能である。その理由については完全に明らかではないが、巻き線式によると、電磁波の周波数はある特定の下限値と上限値の間に一過的に、かつ、ランダムに生じることに一因があると推測される。
この場合、塩化物イオンやふっ素の遊離を促進させるための最適な周波数はPS灰中の成分構成に依存するために、一義的には定めることができないが、原材料が製紙工場などで排出されるペーパースラッジを焼却した焼却灰の場合には、配管に巻き付けた電線に交流電流を流すことにより、1〜60kHzの範囲でランダムに変動する電磁波の照射を行うと、特にふっ素およびその化合物を効果的に減少させることができる。
【0026】
電磁波の出力は、最終品である処理後のPS灰中の塩化物イオン濃度が0.03%以下、ふっ素およびその化合物が0.8mg/l以下となる出力であり、さらにはPS灰中に十分な量のエトリンガイトが生成する出力であることが好ましく、処理するPS灰水の量によって適宜決定される。
具体的な条件を例示すると、電磁界発生冶具として、+極と−極の接続口に3線の電気コードを取付け、そのコードを直径25mmの塩ビ管に1箇所につき10巻で巻きつけたものを2箇所設けて使用し、PS灰5kg、水25kgからなるPS灰水を使用する場合、該PS灰水を電磁界発生冶具にポンプを用いて、PS灰水を5kg/分で4回繰返し通すことによって、上記所望の塩化物イオンおよびふっ素およびその化合物と十分な量のエトリンガイドを析出させるための好適な電磁波の出力は60W以上(特に好適には80W以上)である。
【0027】
工程(3)は、工程(2)における電磁波照射後のペーパースラッジ灰水を脱水する工程である。
本工程において、PS灰水の塩化物イオンおよびフッ素化合物を含む水分の大部分を除去して、PS灰の含水量を30%程度とする。
【0028】
脱水方法は、特に限定はないが、好適には回転式の脱水機を使用し、遠心力によって脱水する方法が挙げられる。より効果的に脱水する場合には回転速度は、2000回転/分以上(特に3000回転/分以上)が好適である。
【0029】
なお、工程(1)から(3)は、処理されるPS灰が、上記所望の塩化物イオンの濃度、ふっ素およびその化合物の濃度となり、十分な量のエトリンガイドを析出するようになるように、複数回繰り返し行ってもよい。
繰り返しの回数は、処理するPS灰の量、電磁波の照射方式、照射出力、作業効率などによって適宜決定されるが、通常、3回以上である。3回以上繰り返しを行うことにより、確実に上記所望のPS灰を得ることができる。
【0030】
工程(4)は、脱水後のペーパースラッジ灰を乾燥する工程である。
本工程における乾燥は、PS灰を急速にかつ短時間で乾燥させることが望ましい。乾燥方法としては、従来公知の方法を用いることができ、処理するPS灰の量などの諸条件により適宜決定される。
【0031】
以上の製造工程により、塩化物イオンとふっ素およびその化合物の含有量がそれぞれ0.03%、0.8mg/l以下であり、さらには、エトリンガイドを含有する乾燥したPS灰を製造することができる。なお、塩化物イオンの含有量は、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析法」に準じて測定することができる。また、ふっ素およびその化合物の含有量は、環境庁告示第46号に基づき作製した検液を、計量はJIS K0102 34.1「吸光光度法」に準じて測定することができる。
製造したPS灰は、後述するセメントへの混入材料として使用する以外にも、土壌用の材料として、そのまま使用することができる。
【0032】
次に、以上の製造によってもたらされたPS灰を用いて、セメント組成物を製造する方法及び該セメント組成物からなる軽量で高圧縮強度のセメント固形物を製造する方法について、実施の形態に基づいて説明する。
なお、以下に記載する実施の形態は、本発明のセメント組成物を製造する方法及び該セメント組成物からなるセメント固形物を得るための一例であり、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0033】
本発明の実施形態は、次のS1からS3からなる。
(S1)セメント組成物の攪拌
(S2)振動処理
(S3)型枠の撤去
【0034】
(S1)セメント組成物の攪拌
セメント組成物の攪拌は、樹脂剤を添加しない場合と添加する場合で次の2つに分かれる。
【0035】
樹脂剤を添加しない場合は次の通りである。
はじめに、PS灰、セメント、水、高性能減水剤および空気量調整剤を計量する。次に容器に水と空気量調整剤を入れて、攪拌機で5分間攪拌して溶液1aを作製する。また、別の容器にPS灰とセメントを入れて、攪拌機で5分間攪拌して紛状物Aを作製する。
【0036】
樹脂剤を添加する場合は次の通りである。
はじめに、PS灰、セメント、水、樹脂剤、分散剤、高性能減水剤および空気量調整剤を計量する。次に容器に水、空気量調整剤を入れて、攪拌機で5分間攪拌して溶液1bを作製する。別の容器に樹脂剤と分散剤を入れて攪拌機で5分間攪拌し、溶液2bを作製する。それに溶液1bを入れてさらに5分間攪拌して溶液3bを作製する。また、別の容器にPS灰とセメントを入れて、攪拌機で5分間攪拌して紛状物Bを作製する。
【0037】
セメント組成物を攪拌するにあたって、オムニミキサーを使用する。
セメント組成物を製造するために使用する材料はPS灰、セメント、水およびアクリル系樹脂などであり、これらを均一に、かつ、きめ細かく混合して、品質が安定したセメント組成物とするためには、通常のコンクリートの製造のようなミキサーによる混練では製造することができない。そのため、拡散混練方式ミキサーであるオムニミキサーを用いる。このオムニミミキサーは粉粒体、繊維材料、樹脂、セメントなどの混合に最適なミキサーである認知されている。すなわち、オムニミキサーによって攪拌することで、本発明のセメント組成物は安定した品質を確保することができる。
【0038】
具体的な攪拌方法としては、オムニミキサーに、樹脂剤を添加しない場合は溶液1a、紛状物Aの順で投入、樹脂剤を添加する場合は溶液3b、紛状物Bの順で投入し、5分間揺動して攪拌する。その後、必要量の高性能減水剤を添加し、さらに5分間揺動して攪拌する。以上の操作で流動性を増し、軟らかくなったセメント組成物を作製することができる。
【0039】
以下、本発明に係るセメント組成物の各成分について詳細に説明する。
【0040】
PS灰は、上述の本発明の製造方法で作製した塩化物イオンとふっ素およびその化合物がそれぞれ0.03%、0.8mg/l以下のPS灰を使用する。
PS灰の添加量は、水セメント比により定まり、必要な機械的強度など、最終品であるセメント固形物の用途に合わせて、適宜決定される。なお、PS灰の添加量が多いと強度が低く、量が少ないと高強度になる。また、水セメント比が大きくなるとPS灰の添加量も大きくすることができ、単位体積当りの重量が小さくなり、より軽量になる。
【0041】
PS灰と混合するセメントとしては、高炉セメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、フライアツシユセメント等を挙げることができる。これらのうち、使用するセメントは塩化物イオンの含有が一番少ない高炉セメントB種が望ましい。また、普通ポルトランドセメントなどのポルトランド系のセメントを使用しても良い。
【0042】
アクリル系樹脂は、セメントとPS灰を結合する役割を果たす。セメント組成物の硬化後の曲げ強度を増大するために、アクリル酸エステル共重合樹脂やアクリル共重合樹脂などのアクリル系樹脂剤を使用することが好ましい。市販の好適な樹脂剤としては、丸菱油化工業株式会社の「ノンネンR066−2(商品名)やグレースケミカルズ株式会社の社製、「ノンネンR083−9(商品名)」が挙げられる。この中で、特にアクリル酸エステル共重合樹脂が、セメント固形物の曲げ強度の増大に寄与するので、好適である。
【0043】
アクリル系樹脂の添加量は、必要なセメント固形物の曲げ強度に応じて適宜決定される。セメント組成物100重量部に対して、3重量部(乾燥重量基準)以上あることが好ましく、その曲げ強度は添加しない場合の2倍以上となる。また、セメント組成物100重量部に対して、10重量部を添加すると、曲げ強度は添加しない場合の8倍以上となる。
一方、添加量が1重量部より小さいと添加しない場合の曲げ強度とほぼ同程度であり、曲げ強度の増大に寄与しない場合がある。
アクリル系樹脂の中でもアクリル酸エステル共重合樹脂がセメントとPS灰を結合し、曲げ強度が増大する理由については完全に解明されているわけではないが、アクリル酸エステル共重合樹脂の粘度が500(mPa・s)であり比較的大きいためと推測される。
なお、アクリル系樹脂を十分に拡散させるために適当な分散剤を添加することが好ましい。
【0044】
高性能減水剤としては市販のポリカルボン酸系化合物を用いることができる。高性能減水剤を用いることによって、セメント組成物を後述する揺動拡散時および振動処理時に著しく流動化をさせることができる。高性能減水剤の添加量は、セメント組成物100重量部に対して1重量部程度である。
【0045】
空気量調整剤は、セメント組成物あるいは固形物中の微細な気泡を排出するために用いる。空気量調整剤としては、市販の天然樹脂酢およびアルキルエテール系アニオン界面活性剤を使用する。添加量は100重量部に対して0.002重量部程度である。
【0046】
アクリル樹脂以外の添加材として、ガラス繊維、各種金属スラグ(高炉スラグ、電炉スラグ等)、川砂、砕石等などの粗骨材などを添加してもよい。これらの添加材は単独あるいは、組み合わせて用いてもよい。添加材の割合は添加材を添加することで得られる効果(圧縮・曲げ強度の向上、曲げ剛性の向上など)と単位体積当たりの重量の増減など、バランスや用途に応じて適宜決定すればよい。
【0047】
(S2)振動処理
S1で得た攪拌後のセメント組成物を所定の型枠内に流し込み、この型枠を振動させることで流動化したセメント組成物を得ることができる。また、このセメント組成物を硬化することによりセメント固形物を得ることができる。鉄筋を内蔵する場合には、事前に型枠中の所定の位置にそれを設け、セメント組成物を流し込めばよい。
【0048】
本実施形態では、あらかじめ、所定の振動数を発生させているテーブルバイブレータ上の型枠にオムニミキサーで製造したセメント組成物を流し込む。該組成物が所定の量に達し、かつ、より一層の流動性を帯びたならば、振動を停止するこの振動処理は、高周波振動モータを用いたテーブルバイブレータ(以下、「高周波震動テーブル」と記載する場合がある。)、振動パイルハンマ等の振動手段を用いることで行うことができる。このうち、高速振動テーブルバイブレータを用いるのが最適である。高速振動テーブルバイブレータを使用する場合には、100〜170Hz(好適には150〜170Hz)が望ましい。この範囲の振動数であると、振動テーブルに共振が起きず、液状の組成物のみならず粉状の組成物であっても短時間(例えば10分程度)で十分に流動化させることができる。
なお、本発明のセメント組成物は、上述のS1において安定した品質を確保できるオムニミキサーによる攪拌と、S2において高速振動テーブルバイブレータを使用した振動処理とを組み合わせることによって、特に品質が安定したセメント組成物が提供できる。
【0049】
(S3)型枠の撤去
上記セメント組成物は、振動処理を止めると徐々に硬化し始める。振動停止後、セメント組成物が十分硬化していることを確認して、テーブルバイブレータ上の型枠を取り外す。型枠の取り外しは、セメント組成物が十分に硬化したのちであればよく、振動停止後2日が目安である。
【0050】
以上で、本発明のセメント固形物が完成する。
本発明のセメント固形物に含まれるPS灰の量は水セメント比により定まる。その量は、上述のように必要な機械的強度など、最終品であるセメント固形物の用途に合わせて、適宜決定される。なお、PS灰の添加量が多くすると強度が低くなるがより軽量になり、量が少ないと高強度になる。
本発明のセメント組成物における好適な水セメント比(Water/Cement, W/C)は、こ0.3〜1.5であり、この範囲とすることにより、該組成物を固形化して得られる本発明のセメント固形物は、1〜100N/mm2に及ぶ広範囲の圧縮強度が実現でき、建設用部材をはじめとした様々な用途に使用出来るセメント固形物を得ることができる。
特に本発明のセメント組成物における水セメント比(W/C)が、0.3〜0.6(特に好適には、0.5〜0.6)であると、十分な圧縮強度(30N/mm2)を有し、軽量なセメント固形物を得ることができる。
本発明のセメント組成物における標準的な例を具体的に例示すると水セメント比(W/C)が0.3の場合、添加可能なPS灰の量はセメントの重量に対して0.4〜0.5倍である。この場合、固形化後の固形物の圧縮強度は、70N/mm2以上である。また、単位容積当たりの重量は約20kN/m3であり、通常のコンクリート(23kN/m3)より軽量である。また、水セメント比(W/C)が0.6に対しては、PS灰の量はセメントの重量に対して、0.7〜1.2倍(好適には、0.9〜1.0倍)である。この場合、固形化後の固形物の圧縮強度は25N/mm2以上であり、単位容積当たりの重量は約16kN/m3となる。さらに、水セメント比(W/C)が1.5の場合、添加可能なPS灰の量はセメントの重量に対して2.0〜2.5倍である。この場合、固形化後の固形物の圧縮強度は、約1.7N/mm2であり、単位容積当たりの重量は約12kN/m3である。
【0051】
なお、本発明の製造方法で製造されたPS灰を使用した本発明のセメント固形物は、細粗骨材を用いないので、軽量化も実現できる。さらには、その製造過程にアクリル系樹脂剤を重量比0.5〜3%の割合で添加すると、軽量で高圧縮強度、かつ、曲げ強度が大きく向上した固形物を製造できる。また、セメント組成物に鉄筋を内蔵して固形化した建設用部材も製造できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の試験例1〜3において、使用したPS灰は、日本製紙株式会社八代工場から実験用試料として提供されたものであり、古紙から新聞紙、上質紙および再生紙に至る製造工程で排出されたペーパースラッジ(紙汚泥)を焼却して得られた灰である。
【0053】
「試験例1」 塩化物イオン、ふっ素およびその化合物の除去
本発明の製造方法は、図1の構成のPS灰処理装置を使用して行われた。処理手順(主要な装置構成含む)を以下に示す。なお、工程(1)〜(3)は、2回から5回繰返した。

工程(1)
PS灰と水との重量割合は1対5となるように、攪拌槽にPS灰5kg、水25kgを投入して十分に攪拌した。

工程(2)
(2−1)巻き線式電磁波発生装置
配管:3m、直径25mm、塩化ビニル製
電磁界発生冶具:電磁波発生機器の+極と−極の接続口に3線の電気コードを取付け、そのコードを配管の2箇所にそれぞれ10巻/1箇所当たりで巻きつけたもの
電磁界発生制御機器:株式会社マキシム、型番:MKII−DX
電磁波の出力:80W
PS灰の流量:15L/分

(2−2)磁気コイル式電磁波発生装置
配管:3m、直径25mm、塩化ビニル製
電磁界発生冶具:塩ビ管を磁気コイルで挟み込み、そのコイルについている3線の電気コードを電磁波発生機器の+極と−極の接続口につないだもの
電磁界発生制御機器:ロイヤル機器株式会社、型番:ESR25AW
電磁波の出力:200W
PS灰の流量:15L/分

工程(3)
脱水機:日本ゼネラル・アブライアンス社、型番:C−14L SS
脱水条件:回転数3000回/分、6分

工程(4)
乾燥条件:120℃、120分
【0054】
電磁波照射の効果を評価するために、以下の3種の方法の比較を行った。

(A)電磁波照射なし (試料1,2)
(B)電磁波照射あり(巻き線式) (試料3,4)
照射した電磁波の周波数:1〜60kHzのランダム波
照射した電磁波の電圧: 15V
(C)電磁波照射あり(磁気コイル式) (試料5,6)
照射した電磁波の周波数:40、60、80及び120kHzの4波

なお、電磁波照射あり(磁気コイル式)における、各周波数の電磁波はそれぞれカルシウム、マグネシウム、鉄およびシリカに対してイオン化を促進すると考えられる周波数である。なお、塩化物イオン(Cl-1)とふっ素およびその化合物濃度の測定値はJIS R 5202およびJIS K0102 34.1に準拠した測定による。
【0055】
結果を表1に示す。
原材料の塩化物イオンと、ふっ素およびその化合物の測定値は同一ブロックからであっても深さなどの採取位置によってばらつきがあるが、繰返し後の変動について、以下のような結果になった。
巻き線式の電磁波と磁気コイル式の電磁波の照射は共に、加水のみの場合(電磁波を照射しない)と比較して、2回の繰返し終了時点で塩化物イオンは1/2以下に減少し、また0.03%以下となり、電磁波の照射の効果が認められる。わずかであるが、塩化物イオンの除去の効果は巻き線式の電磁波の方が磁気コイル式の電磁波よりも効果が高いようである。
一方、ふっ素の除去については、巻き線式の電磁波による場合、繰り返し4回目で、環境基準の下限値0.8mg/lの1/4以下となっているが、磁気コイル式の電磁波の場合低下が見られるものの、環境基準の0.8mg/l以下になっていない。
以上のことから、巻き線式で周波数が1〜60kHzのランダム波を照射すると、繰返し回数が2回程度で塩化物イオンが0.03%以下に、またふっ素およびその化合物も0.8mg/l以下に除去できることが分かる。したがって、巻き線式コイルによる電磁波を用いて、「PS灰水の作製、電磁波発生装置への通過、脱水」を4回繰返して行えば、塩化物イオンを0.03%以下に、またふっ素およびその化合物も0.8mg/l以下に除去できるといえる。
したがって、巻き線式コイルによる電磁波の照射は、塩化物イオンと、ふっ素およびその化合物を同時に除去できる点で、磁気コイル式による電磁波の照射よりもすぐれているといえる。
【0056】
【表1】

【0057】
「試験例2」電磁波処理後のPS灰の構成成分及び微細構造の評価
未処理のPS灰である原材料(以下、「原材料」と記載する。試料名:PP0)と、電磁波照射あり(巻き線式の4回目の「加水・電磁波発生装置への通過・脱水」の繰返し終了後の試料(以下、「4回照射試料」と記載する。試料名:PP4)の2つについて、成分分析と電子顕微鏡による観察を行った。
【0058】
表2に、上記2つの試料PP0及びPP4の構成成分の化学分析結果を示す。なお、成分分析は、塩化物イオンはJIS R 5202に準拠して行い、塩化物イオン以外の成分の分析方法はJIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して行った。
4回照射試料(PP4)の結果を原材料(PP0)と比較すると、塩化物イオンCl―1が0.094から0.024%に、三酸化硫黄SO3が3.50から2.91%に減少しており、ポルトランドセメントのCl―1とSO3の制限値0.03%及び3%を満足している。すなわち、「加水・電磁波発生装置への通過・脱水」を行うことによって、化学成分はポルトランドセメントの制限値以下となっていることが確認された。
【0059】
【表2】

【0060】
図3−1および図3−2に、原材料および4回照射試料の電子顕微鏡による12000倍の拡大写真を示す。
図3−2(4回照射試料)には図3−1(原材料)には確認されない、針状結晶物が確認される。写真右下にあるスケールから、写真左中央部の針状結晶物の大きさは長さ4μm、径0.4μm程度であり、直線的な形状からして、エトリンガイトの針状結晶と考えられる。この結晶物は、電磁波を照射した水との接触により、セメントの水和反応の際に生じる水和物が生成したものと思われる。
【0061】
「試験例3」電磁波処理を行ったPS灰を含むセメント組成物の評価
上述の巻き線式の電磁波処理(4回)を行ったPS灰を使用し、PS灰を大規模に用いた場合のセメント組成物の硬化後の圧縮強度や曲げ強度などの機械的強度を評価した。
PS使用した材料および評価用試料の詳細は以下に示す。
【0062】
(使用した材料)
・セメント:高炉セメントB種 (日本高炉セメント株式会社製)
・PS灰:巻き線式の電磁波処理(4回)を行ったPS灰
・水
・高性能減水剤(ポリカルボン酸系化合物)(品名:スーパー300E、グレースケミカル株式会社製)
・空気量調整剤(品名:AEA−S、グレースケミカル株式会社製)
・アクリル系樹脂剤(物性は表3)
樹脂剤A(品名:ノンネンR066−2、丸菱油化工業株式会社製)
樹脂剤B(品名:ノンネンR083−9、グレースケミカル株式会社製)
【0063】
【表3】

【0064】
(試験体の製作)
以下に示す2種類の試験体を作製した。
圧縮強度用試験体はφ100×200mmの円柱とし、本数は同一配合に対して3本ずつ製作した。
曲げ強度用試験体の形状寸法は断面(100×30mm)×長さ(400mm)の平板とした。曲げ強度用試験体の本数は同一配合に対して1〜3本である。
【0065】
圧縮強度用試験体および曲げ強度用試験体は、使用する型枠のみが異なり、それ以外は共通の製造方法で行った。
表4と表5に示すように、実験パラメータは水セメント比W/Cと、樹脂剤比PR(樹脂剤の全重量に対する比率)とし、W/Cは0.6と1.0の2タイプを主とし、その他に0.3〜1.5の試験体も製作した。樹脂剤比PRは0.5、1.0および3%とした。なお、空気量調整剤と高性能減水剤の全重量に対する重量比は空気量調整剤の場合で0.003〜0.006%、高性能減水剤の場合で1.0%とした。
最初に、樹脂剤、空気量調整剤と水を混合して混合液(樹脂剤を添加しない場合は不要)を作製した。
その混合液にセメントとPS灰を加えてオムニミキサーで混練した。その後、高性能減水剤を添加して再度オムニミキサーで混練した。その混練したものを147〜153kHzで振動している高周波振動テーブルの上にある圧縮強度用試験体用(あるいは曲げ強度用試験体用)の型枠に入れ、完全に流動化の状態した後に振動を停止した(振動時間は約10分)。2日後に、その硬化した固形物を型枠から取り外すことにより、圧縮強度用試験体(あるいは曲げ強度用試験体)を得た。
【0066】
(評価方法)
「圧縮強度実験」
評価には材令37〜94日の圧縮強度用試験体を使用した。
試験機は1000kN万能アムスラー試験機(島津製作所株式会社製、型番:REH−100 T.V)を用いた。測定方法として、圧縮強度実験の場合、側面に歪ゲージを貼り付け、その側面の歪と荷重を測定した。

「曲げ強度実験」
評価には曲げ強度実験は材令41〜104日を使用した。
図4に示す加力位置と支持方法により、試験体の支持を単純支持とし、加力を2点対称集中荷重で一方向単純加力で行った。試験体中央点の下面に歪ゲージを貼り付け、その歪、中央点の変位および載荷力を測定した。
【0067】
表4に樹脂剤添加なしの圧縮強度実験の結果を示す。

(1) 水セメント比W/Cが大きくなると、水結合比(W/(P+C))も大きくなる。W/C=0.8でW/(P+C)は0.37であり、セメントの約1.1倍のPS灰を加えることができる。
(2) W/C=0.8以上では、単位体積当たりの重量は12.3kN/m3であり、普通コンクリートの標準的な値23kN/m3の約53%であり、かなり軽量である。
しかしながら、W/C=0.8以上では、圧縮強度Fpは9N/mm2以下であり、構造用の材料としては強度がかなり低い。W/Cが0.6以下になると、Fpは35N/mm2以上となり、構造用材料としての強度を期待できる。特に、W/Cが0.5ではFpは47N/mm2、特にW/Cが0.3ではFpは83N/mm2であり、かなりの高圧縮強度を期待できる。
【0068】
【表4】

【0069】
表5に樹脂剤がある場合の圧縮強度実験の結果を示す。
水セメント比W/Cは1.0と0.6の場合であり、またセメント、水及びPS灰の配合を統一している試験体のシリーズの結果である。
W/C=1.0の場合、アクリル酸エステル共重合樹脂、アクリル共重合体樹脂およびアクリル共重合体は、共に、圧縮強度を増大する効果は見られない。
一方、W/C=0.6の場合では、圧縮強度は、樹脂剤がない場合に比べて、アクリル酸エステル共重合樹脂剤の場合添加量が1%で1.60倍、添加量が3%で2.08倍を示し、アクリル共重合体樹脂剤の場合添加量が1%と3%で2倍強を示している。アクリル共重合体樹脂剤の場合添加量が3%で1.1倍となっている。アクリル酸エステル共重合樹脂とアクリル共重合体樹脂剤はアクリル共重合体樹脂剤よりも圧縮強度を増大させる効果があることがわかる。
【0070】
【表5】

【0071】
図5に樹脂剤の種類および添加量が、曲げ強度に及ぼす影響を示す図を示す。
アクリル酸エステル共重合樹脂剤とアクリル共重合体樹脂を添加した試験体は、添加量が増えると曲げ強度が増大する。添加量が0.85〜1%の場合1.07〜1.30倍、2.54%の場合、曲げ強度は1.75〜1.92倍となった。このことから、アクリル酸エステル共重合樹脂剤とアクリル共重合体樹脂は曲げ強度の増大に寄与することが分かる。
【0072】
以下に試験例3の結果をまとめる。
(1)水セメント比W/Cが大きくなると、水結合比(W/(P+C))も大きくなり、セメントよりも多くのPS灰を加えることができ、また、コンクリートに比較してかなり軽量となる。しかしながら、W/C=0.8以上では構造用の材料としては強度がかなり低くなる。W/Cが0.6以下になると、構造用材料としての強度を期待できる。特に、W/Cが小さくなるとかなりの高圧縮強度を期待できる。
(2)W/C=0.6の結果によると、アクリル酸エステル共重合樹脂とアクリル共重合体樹脂剤は圧縮強度を増大させる効果がある。
(3)アクリル酸エステル共重合樹脂とアクリル共重合体樹脂剤は、添加量が増えると圧縮強度や曲げ強度を増大させる。特に、添加量が約2.5%の場合曲げ強度は、樹脂剤が添加されていない場合より、約1.8倍前後大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法によると、塩化物イオンとふっ素およびその化合物を同時に除去し、また、エトリントガイトを析出したペーパースラッジ灰を安価に製造できる。該PS灰は、砂や砂利などの粗骨材と細骨材の代替として使用することができ、また、土壌用の材料としても利用できる。また、該PS灰を含むセメント組成物は、機械的強度が高く、本日広く普及しているコンクリート製造物に替わり得る材料として期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)から(4)を含むことを特徴とする、塩化物イオンが0.03%であり、ふっ素およびその化合物が0.8mg/l以下であるペーパースラッジ灰の製造方法。
(1)ペーパースラッジ灰に水を加えて攪拌して、ペーパースラッジ灰水を形成する工程
(2)形成したペーパースラッジ灰水に電磁波を照射する工程
(3)電磁波照射後のペーパースラッジ灰水を脱水する工程
(4)脱水後のペーパースラッジ灰を乾燥する工程
【請求項2】
工程(2)における電磁波が、配管に巻き付けた電線に交流電流を流すことにより発生した、周波数が一定の範囲でランダムに変動する電磁波である請求項1記載のペーパースラッジ灰の製造方法。
【請求項3】
工程(2)における電磁波が、1〜60kHzの範囲でランダムに変動する電磁波である請求項2記載のペーパースラッジ灰の製造方法。
【請求項4】
工程(1)から工程(3)を複数回繰り返す請求項1から3のいずれかに記載のペーパースラッジ灰の製造方法。
【請求項5】
さらにエトリンガイトを含む請求項1から4のいずれかに記載のペーパースラッジ灰の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製造方法で得たペーパースラッジ灰を含有してなることを特徴とするセメント組成物。
【請求項7】
水セメント比が0.3〜0.6であるセメントと水を含んでなる請求項6記載のセメント組成物。
【請求項8】
さらにアクリル系樹脂剤を0.5〜3重量%含有する請求項7記載のセメント組成物。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載の製造方法により得られたペーパースラッジ灰に水セメント比が0.3〜1.5であるセメントと水を加え、揺動による拡散混練で攪拌し、その後周波数100〜170Hzで振動させて製造することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項6から8のいずれかに記載のセメント組成物を固形化してなるセメント固形物。
【請求項11】
曲げ強度が4N/mm2以上である請求項10記載のセメント固形物。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【公開番号】特開2010−269293(P2010−269293A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125867(P2009−125867)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(501195728)
【出願人】(308027374)株式会社EPSテクノロジー (1)
【Fターム(参考)】