説明

ホイール用誘導加熱装置

【課題】 短時間でホイール全体を均一に加熱するホイール用誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】 ホイール用誘導加熱装置は、ホイールのハブ取付部101に近接して配置される第1の加熱部201と、ホイールのリム部の外周側であって前記スポーク部が偏って連結された側である第1の円周部102aに近接して配置される第2の加熱部202と、前記リム部の外周側であって前記第1の円周部102aと対向する側の第2の円周部102bに近接して配置される第3の加熱部203と、を有するホイール加熱部200を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールを加熱する誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱容量が大きい製品、例えば自動車ホイール等の塗装には、強制乾燥型の塗料が用いられる。前記塗料を用いて塗装をした場合、塗布の直後に形成される塗膜が液状であるため、塗装物を把持等することは困難である。従って、次の工程に進む前に、塗装されたホイール等の部品を一定時間放置するか、又は加熱することによって塗膜を完全に乾燥させる必要がある。従来の方法により乾燥させる場合には、かなりの時間が必要であり、塗装工程における乾燥時間が待機時間となって塗装工程のサイクルタイムを長くし、その効率性を低下させる要因になっている。このため、塗膜を乾燥させる時間はより短縮されることが好ましい。
【0003】
例えば自動車のホイール等の工業部品を塗装する工程では、常温で放置するセッティング工程に3〜5分、乾燥炉中で加熱する乾燥工程に約25分、及び手で取扱える温度まで冷却する冷却工程に2〜5分の所要時間で塗膜が乾燥されており、塗料の塗布から手で取扱い可能になるまで約30〜40分の時間を要している。これら一連の工程のなかで、特に乾燥工程の占める割合は大きく、この乾燥工程にかかる時間の短縮化が望まれている。
【0004】
これに対し、塗装された熱容量の大きな部品等を、該塗装された塗料を乾燥可能な温度に短時間で加熱させる方法として、誘導加熱を利用した加熱装置が提案されている。例えば、短時間の乾燥と同時に部品全体を均一に加熱するために、部品の形状に応じ、加熱する面に沿うように変形が可能な螺旋状誘導コイルを有する誘導加熱装置が発明されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−124512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の自動車のホイール等を乾燥する工程では、乾燥炉の熱風で所定の温度に加熱するだけでも、例えば30分程度の時間が必要であるため、乾燥工程で必要な時間が長くなることでトータルの製造時間が長くなるという問題があり、これは、作業コストや作業効率に影響を与える。また、誘導加熱を利用した誘導加熱装置でホイールを加熱した場合、そのホイールの大きさや特殊な形状に起因する加熱ムラが生じ、ホイール全体を均一に加熱することが困難であった。
【0006】
特許文献1の誘導加熱装置は、全体を均一に加熱するために、螺旋状誘導コイルが加熱対象の形状に応じて変形可能となっているが、この特許文献1の装置では構造が複雑になりすぎるという問題がある。また、加熱対象の形状が変わるたびに調整が必要になるため、加熱開始までに時間や手間がかかるという問題もある。そして、これらが本発明の課題といってよい。
【0007】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものであり、短時間でホイール全体を均一に加熱するホイール用誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、上記目的を達成するため、誘導加熱の原理を応用し、ホイールの形状に応じてコイル等の加熱部を配置することで、短時間で均一な昇温が可能であることを見出し、以下のようなホイール用誘導加熱装置を発明した。
【0009】
(1) 車両のハブに締結するためのハブ取付部と、前記ハブ取付部の外周から放射状に延びる複数のスポーク部が一方の円周面側に偏って連結する円環状のリム部と、を有するホイールを加熱するホイール用誘導加熱装置であって、前記ハブ取付部に近接配置される第1の加熱部と、前記リム部の外周側であって前記スポーク部が偏って連結された側である第1の円周部近傍に近接配置される第2の加熱部と、前記リム部の外周側であって前記第1の円周部と対向する側の第2の円周部近傍に近接配置される第3の加熱部と、を有するホイール加熱部を備えるホイール用誘導加熱装置。
【0010】
(1)の発明によるホイール用誘導加熱装置は、第1の加熱部はハブ取付部を加熱し、第2の加熱部はリブ部の終端が連結された側の前記第1の円周部、言い換えるとスポーク部が連結された側の円周部であって車両に締結した状態では外側に位置する側の円周部近傍を加熱し、第3の加熱部は前記第1の円周部と対向する側の第2の円周部、言い換えると、前記スポーク部が偏って連結された側の円周と対向する側の円周部であって車両に締結した場合に内側に位置する側の円周部近傍を加熱し、熱容量が大きな各部を短時間で加熱すると共に、直接加熱されていないスポーク部やリム部の他の部分(中間部等)を熱伝導により加熱することでホイール全体を均一に加熱する。
【0011】
(1)の発明によるホイール用誘導加熱装置は、誘導加熱の原理を利用することにより短時間でホイールを120から160度(393.15Kから433.15K)に加熱することが可能である。なお、加熱開始前のホイールの温度は常温である。更に、熱容量が大きい部分に近接して配置された第1から3の加熱部よって、ホイールの熱容量が大きい部分を集中的に加熱することにより、全体を均一に加熱することができる。該第1から3の加熱部で加熱された部分からの熱伝導により、前記加熱部で直接加熱されていない部分も昇温させることができるため、短時間で全体を均一に昇温させることができる。
【0012】
第2及び第3の加熱部が近接する位置として端部の近傍も含めて規定しているのは、加熱する部分を端部に限定しない趣旨であり、例えば、スポーク部がリブ部の端部から少しずれた位置に連結されている場合には、端部ではなくその近傍であるスポーク部が連結した位置に対応する外周部を加熱することができるということである。第2又は第3の加熱部は、ホイール形状や、熱伝導を考慮しながら決めることができる。
【0013】
近接配置とは、各加熱部でホイールにおける加熱対象部を誘導加熱が可能な位置に配置されていることをいう。好ましくは、所望の加熱条件に適した距離に調整して配置される。また、前記第1から3の加熱部はそれぞれが独立して形成されていてもよく、後述するように一体的に形成されていても良い。
【0014】
ここで、本発明のホイール用誘導加熱装置はホイールに塗装された塗料を乾燥させるために行われる加熱工程において利用することができる。本発明の加熱装置は、塗装されたホイール用乾燥装置として使用することができ、この場合、塗料の乾燥時間を大幅に短縮することができる。これにより、塗装時間を含む製造時間を短縮させことができるため、作業効率が向上すると共にコスト面でもメリットが生じる。
【0015】
(2) 前記ホイール加熱部は、前記ホイールを挿入可能に開口された略円筒状に設けられる(1)記載のホイール用誘導加熱装置。
【0016】
(2)の発明によるホイール用誘導加熱装置はホイール加熱部が、前記ホイールを挿入可能に開口された略円筒状で、ホイールよりも大きくなるように形成されている。この開口面からホイールが挿入されて該ホイール加熱部がホイールを覆うような状態においてホイールの加熱を行う。ホイール加熱部をこのような形状とすることで、第1から3の加熱部をホイールに対して適した距離に保った状態で、簡易に、且つ、連続的に加熱作業をすることができる。また、ホイールの基本的な形状は同じであるため、加熱部の位置等を微調整するだけで、各種ホイールの形状に応じた態様とすることができる。
【0017】
(3) 前記第1の加熱部は、前記ハブ取付部に略平行に配置される渦巻状に巻回されたコイルであり、前記第2の加熱部は、前記第1の円周部近傍の周囲に螺旋状に巻回されたコイルであり、前記第3の加熱部は、前記第2の円周部近傍の周囲に螺旋状に巻回されたコイルである(2)記載のホイール用誘導加熱装置。
【0018】
(3)の発明によるホイール加熱装置は、前記ホイールを挿入可能に開口された略円筒状に設けられるが、該ホイール加熱部に配置される誘導加熱を利用した第1から3の加熱部は、その一態様として上記の形状をとることができる。第1から3の加熱部を上記の形状とした場合には、後述するように一つ以上の電線で第1から3の加熱部を形成することができる。また、一つの電線で第1から3の加熱部を形成しながら全体の形状を略円筒状で一方がホイールを挿入可能に開口した形状とすることもでき、さらに、二つ以上の電線で各加熱部を個別に形成することもできる。
【0019】
(4) 前記ホイール加熱部は、一つ以上の電線が巻回されてなる(2)又は(3)記載のホイール用誘導加熱装置。
【0020】
(4)の発明によるホイール用誘導加熱装置は、上記した通り、全体が略円筒状であって一端面が前記ホイールを挿入可能に開口された形状のホイール加熱部を有し、該ホイール加熱部の所定部には第1から3の誘導加熱を利用した加熱部が配置されている。本発明のホイール加熱部は、一つ以上の電線を所定の形状に巻回して形成することができる。例えば、一本の電線を第1から第3の加熱部を所定の渦巻状や螺旋状に形成しながら全体の形状が略円筒状で一方が開口された形状になるように形成することができる。この場合、ホイール加熱部を簡易に製造することができる。また、ホイールの大きさや形状が大きく異なる場合には、これに対応するように何度でも作り直すことができる。また、二つ以上の電線を用いる場合には、例えば、第1の電線で前記第1の加熱部を形成し、前記第1の電線とは異なる第2の電線で第2の加熱部と第3の加熱部とを形成することができる。この場合、第1の電線に出力する電力と、第2の電線に出力する電力を別々に制御することができるため、より細やかな加熱制御をすることができる。
【0021】
(5) 前記第1の加熱部は、前記渦巻状の直径が200から300mmでありコイルの巻き数が4から10巻きであり、前記第2の加熱部は、螺旋状の直径が300から500mmでありコイルの巻数が2から5巻きであり、前記第3の加熱部は、螺旋状の直径が300から500mmでありコイルの巻数が2から5巻きであり、且つ、前記第1の加熱部から前記ハブ取付部までの離間距離が5から20mmであり、前記第2の加熱部から前記リム部までの離間距離が5から20mmであり、前記第3の加熱部から前記リム部までの離間距離が5から20mmである(3)又は(4)記載のホイール用誘導加熱装置。
【0022】
(5)の発明によるホイール用誘導加熱装置は、前記第1の加熱部である渦巻状に形成されたコイル、第2及び第3の加熱部である螺旋状のコイルがホイールを加熱するのに適した巻き数等で形成された加熱装置である。上記条件を満たす場合には、特に好適にホイールを短時間で全体を均一に加熱することができる。
【0023】
(6) 前記ホイールを所定の第1の位置から移動させると共に前記加熱部により加熱可能な位置に位置決めをする位置決め手段と、前記位置決め手段により位置決めされ加熱された前記ホイールを、前記第1の位置とは異なる第2の位置に搬出する搬出手段と、を更に備える上記(1)から(5)のいずれかに記載のホイール用誘導加熱装置。
【0024】
(6)の発明によるホイール用誘導加熱装置は、所定の第1の位置にホイールを配置することで、自動的に加熱可能な位置にホイールを移動させ、所定の条件で加熱した後、自動的に排出することができる工業的に優れた加熱装置である。特に、ホイールは重いため、手動で加熱位置に移動させ位置決め固定するだけでも大変な作業である。さらには、加熱されたホイールは高温であるため、これを加熱位置から冷却をする位置に移動させることは困難である。本発明のホイール用誘導加熱装置はこれらの点からも優れている。
【0025】
(7) 前記位置決め手段は、前記ホイールを前記第1の位置から前記ホイール加熱部の下方に水平移動させる第1の水平移動手段と、前記第1の水平移動手段により移動されたホイールを上方に移動させると共に前記ホイール加熱部により加熱可能な位置に位置決めする上方移動手段と、を備え、前記搬出手段は、前記上方移動手段により位置決めされ前記加熱部により加熱されたホイールを下方に移動させる下方移動手段と、前記下方移動手段により移動されたホイールを前記第2の位置に水平移動させて搬出する第2の水平移動手段と、を備える上記(6)記載のホイール誘導加熱装置。
【0026】
(7)の発明によるホイール用誘導加熱装置は、特にホイール加熱部が固定されている場合に好適である。例えば、所定位置に固定されたホイール加熱部にホイールを挿入して加熱する場合に好適である。つまり、所定の第1の位置に配置されたホイールを、固定されたホイール加熱部の下部に水平移動させ、次いでホイールがホイール加熱部に挿入されるよう下方から上方に垂直移動させ、加熱可能な位置に位置決めする。そして、加熱後、加熱されたホイールを下方に垂直移動させてホイール加熱部から排出し、次いで水平移動させて所定の冷却位置等に移動させる。
【0027】
ここで、ホイールを水平方向に移動させる手段として各種コンベア等を使用することができ、垂直方向に移動させる手段として各種リフト等を使用することができる。また、本発明は(6)の発明と同様の効果を得ることができる。
【0028】
(8) 前記ホイールを略均一に加熱可能な(1)から(7)のいずれかに記載のホイール用誘導加熱装置。
【0029】
(8)の発明によるホイール用誘導加熱装置は、ホイールを全体的に略均一に加熱することができるため、均一な加熱が製品の品質に影響を与えるような工程において好適に使用することができる。例えば、(8)の発明におけるホイール用誘導加熱装置をホイールに塗装された塗料を乾燥させる工程で使用することで、好ましい塗膜が形成されたホイールを得ることができる。
【0030】
ここで、(1)から(8)に記載された本発明におけるホイール用誘導加熱装置は、上述の通り、塗料が塗装されたホイールの乾燥工程において好適に利用することができる。つまり、本発明のホイール用誘導乾燥装置は塗装されたホイール用乾燥装置としての発明を含んでいる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のホイール用誘導加熱装置によれば、短時間でホイール全体を均一に加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0033】
図1は、本発明のホイール用誘導加熱装置に適用されるホイールの斜視図である。図2は、本発明のホイール用誘導加熱装置におけるホイール加熱部の構成図である。図2(a)は、斜視外観図であり、図2(b)は、平面図であり、図2(c)は、側面図である。図3は、本発明のホイール用誘導加熱装置の概略構成図である。図4は、本発明のホイール用誘導加熱装置に適用されるホイールの平面図である。図5は、実施例において温度を測定するポイントを示すホイールの斜視図である。図6は、実施例における各部の表面温度を測定した結果を示すグラフである。図7は、実施例におけるリム部と各スポーク部の表面温度を測定した結果を示すグラフである。図8は、比較例におけるホイールの温度を測定した結果を示すグラフである。
【0034】
図1において、本発明のホイール用誘導加熱装置の加熱対象は金属製のホイール100である。ホイール100は、車両のハブに締結可能なハブ取付部101と、ハブ取付部101の外周から外側に向けて放射状に延びるスポーク部103と、ハブ取付部101の外周側に配置され、スポーク部103の終端部と第1の円周部(外端部)又はその近傍で連結した円環状のリム部102とを備える金属製のホイールである。ホイール100の金属材質は特に限定されないが、アルミニウムを例示することができる。
【0035】
図2(a)から図2(c)及び図3において、本発明のホイール用誘導加熱装置は、ハブ取付部101に近接配置され、ハブ取付部101を加熱する第1の加熱部201と、リム部102の第1の円周部(外端部)102a又はその近傍に近接配置され、第1の円周部(外端部)102a又はその近傍を加熱する第2の加熱部202と、リム部102の第1の円周部(外端部)102aとは反対側の端部である第2の円周部(内端部)102b又はその近傍に近接配置され、第2の円周部(内端部)102b又はその近傍を加熱する第3の加熱部203を有するホイール加熱部を備える。また、このホイール加熱部に電圧を供給する電源301を備えている。
【0036】
図4において、第1の加熱部201がホイール100のハブ取付部101を加熱し、第2の加熱部202がリム部102の第1の円周部(外端部)102a又はその近傍を加熱することで、図4中の矢印が示すように加熱されたハブ取付部101からの伝導熱と、加熱されたリム部102の第1の円周部(外端部)102aからの伝導熱とにより、スポーク部103が加熱される。
【0037】
更には、図示しないが、第2の加熱部202がリム部102の第1の円周部(外端部)102a又はその近傍を加熱し、第3の加熱部203がリム部102の第2の円周部(内端部)102b又はその近傍を加熱することで、加熱されたリム部102の両端部(102a、102b)からの伝導熱でリム部102全体が加熱される。
【0038】
これにより、ホイールは全体的に均一に加熱される。本発明のホイール用誘導加熱装置は、第1から3の加熱部を所定の位置に配置することで、実質的に他の加熱部を設けることなく短時間でホイール全体を均一に加熱することができる。
【0039】
ホイール加熱部は、その実施の一形態として、図2(a)から(c)で示すような略円筒状に設けられたコイル部材200を用いることができる。具体的には、ホイール100を挿入可能に開口された略円筒状に設けられるコイル部材200を用いることができる。そして、第1の加熱部として、ハブ取付部101に略平行に配置される渦巻状に巻回されたコイル201を用いることができる。例えば、開口部と対向する面の中心を渦の中心として渦巻状に巻回することができ、この渦巻状のコイル201は平坦状にすることができる。また、開口部と対向する面の略中央に配置することができる。
【0040】
第2の加熱部として、第1の円周部102a近傍の周囲に螺旋状に巻回されたコイル202を用いることができる。例えば、開口部と対向する面の外周又はその近傍に円筒状の側面を形成するように螺旋状に巻回されたコイルを用いることができる。
【0041】
第3の加熱部として、第2の円周部102b近傍の周囲に螺旋状に巻回されたコイル203を用いることができる。例えば、開口の外周又はその近傍に円筒状の側面を形成するように螺旋状に巻回されたコイルを用いることができる。
【0042】
ホイール加熱部は、図2において図示したように、1本の電線によって形成することができる。電線を連続的に渦巻状又は螺旋状に巻回しながら、ホイールを挿入可能な円筒形に形成することができる。この場合には、簡易に本発明のホイール加熱部を形成することができる。また、当然に、二本以上の電線によりホイール加熱部を形成することもできる。例えば、不図示の第1の電線を渦巻き状に巻回して第1の加熱部201を形成し、第1の電線とは異なる不図示の第2の電線で第2の加熱部202と第3の加熱部203とを形成することができる。この場合、第1の電線に出力する電力と、第2の電線に出力する電力を別々に制御することができるため、より決め細やかな加熱制御をすることができる。
【0043】
ここで、図2においては、一本の電線でホイール加熱部であるコイル状部材200を形成しているため、スポーク部103やリム部102の中間部にも電線が配置されているが、これは当該部位を加熱するために配置されているのではなく、また、これによる加熱の影響もほとんどない。
【0044】
第1の加熱部である渦巻き状に形成されたコイル201の大きさ(径)や巻き数、第2又は第3の加熱部である螺旋状に形成されたコイル202、203の径や巻き数は、加熱対象である金属製ホイール100の大きさや形状によって異なっている。例えば、普通乗用車に使用されるホイール100を加熱する場合におけるコイル状部材200の形状として、第1の加熱部である渦巻き状のコイル201は、渦巻状の直径が200から300mmでありコイルの巻き数が4から10巻きであり、第2の加熱部である螺旋状のコイル202は、螺旋状の直径が300から500mmでありコイルの巻数が2から5巻きであり、第3の加熱部である螺旋状のコイル203は、螺旋状の直径が300から500mmでありコイルの巻数が2から5巻きであるコイルを例示できる。
【0045】
そして、コイル状部材200により金属製ホイールを加熱する場合における好ましい距離として、第1の加熱部である渦巻き状のコイル201からハブ取付部101までの離間距離が5から20mmであり、第2の加熱部である螺旋状のコイル202からリム部202までの離間距離が5から20mmであり、第3の加熱部である螺旋状のコイル203からリム部202までの離間距離が5から20mmである場合を例示できるが、この条件に限定されるわけではない。
【0046】
本実施形態のホイール用誘導加熱装置は、ホイールとして主要な材質の一つであるアルミニウム製のホイールを、加熱開始後、2分から7分間で、ホイールの表面温度を120から160度(393.15Kから433.15K)へ昇温させることができる。熱風による加熱方法では、120から160度(393.15Kから433.15K)へ昇温させるのに数十分を要していたのに比べ、非常に短時間で昇温が可能である。例えば、本発明のホイール用誘導加熱装置を、ホイールに塗装した塗料を乾燥する工程で使用した場合、乾燥に必要な時間を大幅に短縮することができる。
【0047】
また、ホイール用誘導加熱装置は、アルミホイールを昇温させた後、アルミホイールの表面温度を120から160度(393.15Kから433.15K)に保持可能である。つまり、短時間でホイール全体を均一に加熱すると共に、加熱されたホイールの温度を所定の温度に保持することができる。ホイールの表面温度を120から160度(393.15Kから433.15K)に保持することが可能であるので、本発明のホイール用加熱装置は、塗料が塗装されたホイールの乾燥工程において好適に使用することができる。
【0048】
図3において、ホイール用誘導加熱装置は、ホイール100を所定の第1の位置から移動させると共にホイール加熱部により加熱可能な部位に位置決めをする手段と、位置決め手段により位置決めされて加熱されたホイール100を、第1の位置とは異なる第2の位置に搬出する手段と、を更に備えることで、自動的、連続的にホイールを加熱することができる。本実施の形態は、大量生産する場合において好ましい形態である。
【0049】
更に、位置決め手段は、ホイール100を第1の位置からホイール加熱部の下方に水平移動させる第1の水平移動手段(図中の矢印1の方向に移動)と、この手段により移動されたホイール100を上方に移動させ、ホイール加熱部により加熱可能な位置に位置決めする上方移動手段(図中の矢印2の方向に移動)とを備える。第2の移動手段は、上方移動手段により位置決めされてホイール加熱部により加熱されたホイール100を下方に移動させる下方移動手段(図中矢印3の方向に移動)と、下方移動手段により移動されたホイール100を第2の位置に水平移動させて搬出する第2の水平移動手段(図中矢印4の方向に移動)とを備える。
【0050】
ここで、第1又は第2の水平移動手段として、例えばベルトコンベア等をあげることができ、上方又は下方移動手段として、例えばリフト機能を有する機器をあげることができる。そして、上方移動手段によりホイール加熱部によってホイール100を加熱可能な位置、つまり、図3におけるコイル状部材200の内部(第1から第3の加熱手段であるコイル201・202・203で三方を囲まれた内部)の所定の位置にホイール100を移動させる。更に好適な位置に調整する場合や、加熱するホイール100の種類を変更したことにより移動位置が変わる場合には、手動又は不図示の所定の位置制御手段により、好適な位置にホイール100を移動させるような調整をすることができる。
【0051】
本発明のホイール用誘導加熱装置は、金属製のホイール100を短時間で全体を均一に加熱できるため、塗料を塗装したホイール100の乾燥装置としても好適に使用することができる。つまり、本発明のホイール用誘導加熱装置を、塗装されたホイール用乾燥装置として使用することができる。この場合、不図示の塗料を塗装する手段により塗装されたホイール100を、ホイール加熱部で塗料の乾燥に適した温度、例えば120から160度(393.15Kから433.15K)に加熱することで、短時間で全体を均一に乾燥させることができる。これより、乾燥時間を短縮することができると共に、製造時間も短縮することができるので、生産性の向上やコスト面のメリット等を享受することができる。
【0052】
また、本発明の装置によれば、短時間でホイール全体を均一に加熱することができるため、乾燥された塗料により形成される塗膜の品質に対して好適である。具体的には、ホイール側から昇温するので、熱風で外部から加熱した場合のように表面だけが乾燥されてしまうことがなく均一に加熱乾燥される。また、加熱乾燥時間が短時間であることや、熱風を吹き付けるような乾燥ではないため、塗膜にゴミやチリが付着する可能性も低い。本発明の装置を塗料が塗装されたホイールの乾燥工程に使用することは、塗膜の品質面からも好適であるといえる。
【0053】
ホイールに塗装する塗料としてはアクリル系やメラミン系、エポキシ系、ウレタン系などの焼付塗料を例示できるがこれに限定されない。
【0054】
<実施例>
次に、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0055】
<実施例>
本発明のホイール用誘導加熱装置を用いて下記条件でホイールを加熱した。この加熱中におけるホイールの温度を、図5に示すAからHまでのポイントにおいて測定した。測定結果を図6又は図7のグラフにおいて示す。
図6には、A:上部リム(第1の円周部)、B1:スポーク、C:上部コイル下(ハブ取付部の一部)、D:中心部(ハブ取付部の一部)、E:側面中間(リブ部の中間部)、F:リム下部(第2の円周部)、G:マド中間部(第1の円周部のスポーク部とスポーク部の間)、H:マド中間部(第1の円周部のスポーク部とスポーク部の間)、における測定結果を示す。
図7には、A:上部リム(第1の円周部)、B1からB7:各スポーク、における測定結果を示す。
【0056】
<条件>
「ホイール」
九州ホイール社製(材質:アルミニウム)
直径:ハブ中央部(図5のDの部分) φ170mm
リム第1の円周部(外端部) φ470mm
リム第2の円周部(内端部) φ470mm
高さ:200mm
「ホイール加熱部(コイル状部材)」
・電線:銅製
直径 φ8mm(導水用の中空部:φ6mm)
・コイル部材の径:490から510mm、高さ:200から220mm
「塗料」
アクリルメラミン系塗料(日本ペイント社製、商品名:「スーパーラック500」)
「塗装条件」
スプレー塗装、ウェット膜厚 50マイクロメータ
「誘導加熱装置各部」
電源・発信部・操作部(日本サーモニクス社製)
最大出力 50KW、9KHz
【0057】
<比較例>
実施例と同一のホイールを下記条件で乾燥炉により熱風乾燥した。この加熱中におけるホイールの温度を測定し、測定結果を図8のグラフにおいて示す。なお、乾燥炉においてホイールは長時間かけて緩慢に加熱されるため、ホイールにおける複数の離間したポイントの温度はいずれも大きな差異はなく略同一であることから、図5におけるDのポイントのみの温度を測定した測定結果を図8に示す。
<条件>
上記実施例と同様の条件におけるホイールを、熱風炉内の雰囲気温度を140度(413.15K)に保った状態にして加熱した。
【0058】
実施例と比較例とを比較すると、図6および図8から、実施例における本発明のホイール用誘導加熱装置で加熱したホイールの方が、比較例における乾燥炉で熱風加熱したホイールに比べて、極めて短時間で昇温されている。このことから、本発明のホイール用誘導加熱装置によれば、3から5分でホイールを120から160度(393.15Kから433.15K)という高温に加熱することができることがわかった。これに対し、比較例ではホイールを140度(413.15K)まで加熱するのに45分掛かることが分かった。
【0059】
また、図6および図7から、本発明のホイール用誘導加熱装置は、ホイールを全体的に均一に加熱できることがわかった。ホイールの位置による温度差も少なく、全体的に均一な温度分布を保った状態で加熱できることがわかった。
【0060】
更に、加熱装置で直接加熱されていないスポーク部(ポイントB1からB7)も短時間に昇温されることがわかった。本発明のホイール誘導加熱装置によれば、加熱されたハブ取付部(ポイントC、D)やリム部(ポイントA、G、H)から伝導する熱により、直接加熱されていないスポーク部(ポイントB1からB7)も4から5分で120から140度(393.15Kから413.15K)に加熱されることがわかった。同様に加熱されたリム部(ポイントA、G、H及びF)から伝導する熱により、直接加熱されていないリム中間部(ポイントE)も好適に加熱されることがわかった。
【0061】
実施例と比較例において、加熱乾燥されることで形成された塗膜の品質を評価した。具体的には、塗膜が均一に形成されているか、表面にゴミ・チリが付着していないか、ピンホールが生じていないかを指標として評価した。この評価結果から、実施例における本発明のホイール用誘導加熱装置により加熱乾燥されて形成された塗膜の品質は、比較例における熱風炉により加熱乾燥されて形成された塗膜の品質と同等以上であることがわかった。具体的には、塗膜の均一性やピンホールに関しては大きな差異はないが、ゴミ・チリの付着については加熱乾燥の時間が短いことや、系外からゴミ・チリが持ち込まれて塗膜に吹き付けられることがないため、実施例において形成される塗膜の方が良い評価であった。
【0062】
本発明のホイール用誘導加熱装置により塗料が塗装されたホイールを加熱乾燥することで、ホイールの表面に好適に塗膜を形成できることがわかった。よって、本発明のホイール用誘導加熱装置は、塗料の乾燥装置としても好適に使用できることがわかった。
【0063】
上記より、本発明のホイール用誘導加熱装置によれば、熱風炉による乾燥に比べて短時間でホイールを加熱することができ、また、全体を均一に加熱することができることがわかった。また、本発明のホイール用誘導加熱装置は塗料の乾燥装置として好適に使用することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のホイール用誘導加熱装置に適用されるホイールの斜視図である。
【図2】本発明のホイール用誘導加熱装置におけるホイール加熱部の構成図である。
【図3】本発明のホイール用誘導加熱装置の概略構成図である。
【図4】本発明のホイール用誘導加熱装置に適用されるホイールの平面図である。
【図5】実施例において温度を測定するポイントを示すホイールの斜視図である。
【図6】実施例における各部の表面温度を測定した結果を示すグラフである。
【図7】実施例におけるリム部と各スポーク部の表面温度を測定した結果を示すグラフである。
【図8】比較例におけるホイールの温度を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
100 ホイール
101 ハブ取付部
102 リム部
102a 第1の円周部(外端部)
102b 第2の円周部(内端部)
103 スポーク部
200 ホイール加熱部
201 第1の加熱部
202 第2の加熱部
203 第3の加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のハブに締結するためのハブ取付部と、前記ハブ取付部の外周から放射状に延びる複数のスポーク部が一方の円周面側に偏って連結する円環状のリム部と、を有するホイールを加熱するホイール用誘導加熱装置であって、
前記ハブ取付部に近接配置される第1の加熱部と、
前記リム部の外周側であって前記スポーク部が偏って連結された側である第1の円周部近傍に近接配置される第2の加熱部と、
前記リム部の外周側であって前記第1の円周部と対向する側の第2の円周部近傍に近接配置される第3の加熱部と、を有するホイール加熱部を備えるホイール用誘導加熱装置。
【請求項2】
前記ホイール加熱部は、前記ホイールを挿入可能に開口された略円筒状に設けられる請求項1記載のホイール用誘導加熱装置。
【請求項3】
前記第1の加熱部は、前記ハブ取付部に略平行に配置される渦巻状に巻回されたコイルであり、
前記第2の加熱部は、前記第1の円周部近傍の周囲に螺旋状に巻回されたコイルであり、
前記第3の加熱部は、前記第2の円周部近傍の周囲に螺旋状に巻回されたコイルである請求項2記載のホイール用誘導加熱装置。
【請求項4】
前記ホイール加熱部は、一つ以上の電線が巻回されてなる請求項2又は3記載のホイール用誘導加熱装置。
【請求項5】
前記第1の加熱部は、前記渦巻状の直径が200から300mmであり、コイルの巻き数が4から10巻きであり、
前記第2の加熱部は、螺旋状の直径が300から500mmであり、コイルの巻数が2から5巻きであり、
前記第3の加熱部は、螺旋状の直径が300から500mmであり、コイルの巻数が2から5巻きであり、
且つ、
前記第1の加熱部から前記ハブ取付部までの離間距離が5から20mmであり、
前記第2の加熱部から前記リム部までの離間距離が5から20mmであり、
前記第3の加熱部から前記リム部までの離間距離が5から20mmである請求項3又は4記載のホイール用誘導加熱装置。
【請求項6】
前記ホイールを所定の第1の位置から移動させると共に前記加熱部により加熱可能な位置に位置決めをする位置決め手段と、
前記位置決め手段により位置決めされ加熱された前記ホイールを、前記第1の位置とは異なる第2の位置に搬出する搬出手段と、を更に備える請求項1から5のいずれかに記載のホイール用誘導加熱装置。
【請求項7】
前記位置決め手段は、
前記ホイールを前記第1の位置から前記ホイール加熱部の下方に水平移動させる第1の水平移動手段と、
前記第1の水平移動手段により移動されたホイールを上方に移動させると共に前記ホイール加熱部により加熱可能な位置に位置決めする上方移動手段と、を備え、
前記搬出手段は、
前記上方移動手段により位置決めされ加熱されたホイールを下方に移動させる下方移動手段と、
前記下方移動手段により移動されたホイールを前記第2の位置に水平移動させて搬出する第2の水平移動手段と、を備える請求項6記載のホイール誘導加熱装置。
【請求項8】
前記ホイールを略均一に加熱可能な請求項1から7のいずれかに記載のホイール用誘導加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate