説明

ホエイパウダー、ホエイパウダーの製造方法、および製パン用品質改良剤

【課題】 脱脂粉乳代替物として、脱脂粉乳と同等以上の優れた製パン性を有し、製パン用品質改良剤として使用されるホエイパウダー、その製造方法、製パン用品質改良剤、その製造方法、製パン方法、およびパンを提供する。
【解決手段】 ラクチュロースを120mg/100g以上の含量で含むホエイパウダーを有効成分として含む製パン用品質改良剤とする。中でもpH7.0以下を示すホエイを、121℃以上の高温加熱処理することにより、ラクチュロース含量が120mg/100g以上で、良好な製パン性を有する製パン用品質改良剤が得られる。かかる製パン用品質改良剤を、原料と配合して製パンする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホエイパウダーに関し、特に製パン用品質改良剤の有効成分として用いられるホエイパウダー、その製造方法、およびホエイパウダーを含有してなる製パン用品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パンの食感や風味に影響を及ぼす要因としては、原料の選択、パン生地の調製法、および焼成条件等がある。特にパンの生地ダレという現象は、原料や発酵条件によって左右されるとされている。生地ダレが生じると、生産性の低下や食感・風味に障害を及ぼすため、パンの生地ダレを防止することはパンの製造管理において重要な事項である。なお、本明細書において「パン生地」とは、パンの原料を捏ねて発酵させたものを意味し、「パン生地の調製法」とは、原料を配合し捏ねて発酵させる工程に係る方法を意味するものとする。
【0003】
パンの主原料は小麦粉であり、パン生地は小麦粉に、水およびイースト等を混合して捏ねた後、発酵することにより得られる。従来、これら以外の原料として、風味の向上や老化抑制のために脱脂粉乳が使われているが、近年、これに代わってホエイパウダーがパンの原料として注目されている。ホエイパウダーは、乳清(ホエイ)蛋白質を主とする蛋白質、および乳糖を多く含み、その他にもビタミン類等を含んでおり、これらの成分の多くに栄養・生理活性上の価値があり、脱脂粉乳と比較してコストが掛からない点でも優れている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、ホエイパウダーは緩衝能が優れず、製パン適性は必ずしも良好でない。前記非特許文献1によれば、ホエイパウダーをパン原料として使用した場合、パン生地の性状や焼成されたパンの膨らみ具合に好ましくない影響を及ぼす等、製パン性には不十分な点が多い。このため、脱脂粉乳の代わりにホエイパウダーをパン原料として使用するためには、技術の改良が必要であった。そこで、ホエイを加工したり、他の物質と併用したりすることでホエイパウダーをパン原料として使用する際の製パン性を改善させる技術が提案されている。
【0005】
例えば、ホエイを加工して製パンに利用する技術としては、部分加熱変性させた乳清蛋白質を有効成分とする製パン用品質改良剤が提案されている(特許文献1)。また、乳清蛋白質濃縮物とミルクカルシウムからなるケービング防止剤を、パン原料として配合することにより、外観や食感が良好となるパンの製造方法が開示されている(特許文献2)。さらに、ホエイパウダーのような製パン適性に乏しい素材を、食品添加物として広く食品に利用されているカゼイネートとともに配合し、パンを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開平8−256672号公報
【特許文献2】特開2002−119196号公報
【特許文献3】特開2005−73547号公報
【非特許文献1】乳技協資料、第36巻、第3号、1986年、p.3−4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したとおり、ホエイパウダーは、栄養・生理活性上有用な成分を多く含み、脱脂粉乳に比べて低コストである一方、製パン性は必ずしも良好でない。このため、上記従来技術以外にも、製パン性を低下させることなく、ホエイ由来の成分をパンの原料とする技術が求められている。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、ホエイパウダーを使用するにも拘わらず、簡便にかつ効果的に製パン性を良好に保つことができる製パン用品質改良剤を提供することを目的としている。また、本発明の他の目的は、脱脂粉乳を使用する場合と比較して、低コストでパンを製造することが可能であって、製パン性の良好なパンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記背景技術に鑑み、ホエイパウダーについて製パンへの利用価値を高めるために、鋭意研究を重ねた結果、ラクチュロース含量が120mg/100g以上のホエイパウダーは製パン性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、ラクチュロース含量が120mg/100g以上のホエイパウダーをパン原料として配合することにより、パンの生地ダレを抑制し、パン生地ミキシング時および成形時のまとまりが改善されることを見出し、このようなホエイパウダーは、パン原料に一般的に使用されている脱脂粉乳の代替物として、優れていることを見出した。
【0010】
より具体的には、前記課題を解決する請求項1に係る発明は、ラクチュロースを120mg/100g以上含有するホエイパウダーである。
【0011】
前記ホエイパウダーは、10質量%水溶液のpHが7以下であることが好ましく、請求項2に係る発明は、10質量%水溶液のpHが7以下である請求項1に記載のホエイパウダーである。
【0012】
本発明に係るホエイパウダーは、例えば次に述べる請求項3に係る製造方法によって製造される。
【0013】
請求項3に係る発明は、ラクチュロースを120mg/100g以上含有するホエイパウダーの製造方法であって、(1)pH7.0以下を示すホエイの固形分含量を1〜40質量%に調整する工程、(2)前記ホエイを75℃以上95℃以下の所定温度まで昇温して1分以上30分以下で加熱保持する工程、(3)次いで121℃以上145℃以下の所定温度まで昇温して2秒以上5分以下で加熱保持する工程、(4)加熱保持したホエイを噴霧乾燥する工程、からなる製造方法である。また、請求項4に係る発明は、ホエイパウダーの10質量%水溶液のpHが7以下である請求項3に記載の製造方法である。
【0014】
このような製造方法によれば、ホエイに複雑な処理(例えば他の材料を混合して化学反応させる、等)を行うことなく、加熱という単純な処理を行うことで得られるため、製造コストの上昇を回避できる。
【0015】
上述したホエイパウダーは、製パン用品質改良剤としての優れた特性を有する。そこで請求項5に係る発明は、ラクチュロースを120mg/100g以上含有するホエイパウダーを有効成分として含む製パン用品質改良剤としたものである。また、請求項6に係る発明は、ホエイパウダーの10質量%水溶液のpHが7以下である請求項5に記載の製パン用品質改良剤である。
【0016】
請求項7に係る発明は、原料を配合し、配合した原料を混涅し、混握した原料を発酵し、および発酵した原料を焼成することからなるパンの製造工程において、焼成前に請求項5または6に記載の製パン用品質改良剤を原料に添加することを特徴とするパンの製造方法であり、請求項8に係る発明は、小麦粉に対して、前記製パン用品質改良剤を0.1〜5.0質量%添加して行う請求項7に記載のパンの製造方法である。
【0017】
請求項9に係る発明は、請求項7または8に記載の方法で製造したパンである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製パン用品質改良剤は、ホエイ由来であるにもかかわらず、パンの原料に配合することにより、パンの生地ダレを抑制し、パン生地ミキシング時および成形時のまとまりを改善するという特性を有する。また、本発明の製パン用品質改良剤はホエイ由来であるため、この製パン用品質改良剤を脱脂粉乳と代替することで、低コストであって、食感や風味が良好な優れたパンを製造することが可能であるという効果も兼ね備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量(乾燥質量)による表示である。
【0020】
製パン性品質改良剤として使用され、本発明に係るホエイパウダーは、ラクチュロース含量が120mg/100g以上であり、中でも126mg/100g以上が好ましく、130mg/100g以上であることがより好ましく、290mg/100g以上であることが特に好ましい。ホエイパウダーは、ラクチュロース以外の乳糖、乳清蛋白質を主体とする蛋白質、および脂肪等を含んでよい。
【0021】
上述したホエイパウダーは、ホエイの加熱処理、特に121℃以上の高温加熱処理をした後、水分を除去することにより得られる。なお、本発明で用いられるホエイパウダーは、「乳および乳製品の成分規格等に関する省令」で「ホエイパウダー」として定義されているホエイパウダーに該当するものである。
【0022】
ラクチュロースは生乳中には含まれておらず、乳中の乳糖(ラクトース)が加熱された時、アルカリ異性化反応を起こすことによって生成することが知られている。
【0023】
かかるホエイパウダーは、乳を乳酸菌で発酵させ、または乳に酵素若しくは酸を加えてできた乳清(ホエイ)のみを原料とするため、上記製法上、その水溶液のpHは7以下である。なお、本発明において、pH7を超えるアルカリ性条件下でホエイを加熱した場合は、ホエイパウダーの褐変や風味不良が予想されることから、加熱時のpHは7以下であることが好ましい。
【0024】
よって、本発明におけるホエイパウダーは、チーズあるいはカゼイン製造時等に得られるホエイのpHについては、7以下を示す条件により、所定の条件で加熱保持することにより120mg/100g以上のラクチュロース含量を示すホエイパウダーを得ることが可能である。また、本発明で用いられるホエイパウダーのラクチュロース含量の上限は特に限定されないが、特に500mg/100g以下であることが好ましい。
【0025】
ここで、「ホエイ」とは、牛乳に酸やレンネット等の凝固剤を添加して、主としてカゼインおよび乳脂肪を凝固させて液分と分離する際に得られる上澄液である。ホエイとしては、例えば、牛乳を原料とするカゼイン製造、またはチーズ製造時などに副産物として得られるホエイを用いればよい。
【0026】
ホエイは、加熱処理を行う前に濃縮、または水で希釈して濃度調整してもよい。濃度調整を行う場合、固形分含量として1〜40%となるように濃度調整することが好ましく、特に固形分含量1〜10%となるように濃度調整することが好ましい。また、加熱処理前にホエイのpHに影響を与えない範囲で、ホエイから1価のイオン、例えばNa(ナトリウム)、K(カリウム)、Cl(塩素)等を低減することを目的として脱塩処理を行うことが可能である。脱塩処理の具体的な方法としては、ナノフィルトレーション膜を用いた膜濾過方法を使用することが好ましい。なお、ホエイから1価のイオンを低減することにより、ホエイパウダーに特有の塩味が低減し、ホエイパウダーの風味が良好となり、さらには、製パン用品質改良剤としてパン原料に添加して、パンを製造した場合、焼き上がったパンの風味を良好にすることが可能である。
【0027】
ホエイは、121℃以上の高温加熱処理する前に、75〜95℃で1〜30分間予備加熱しておくことが好ましい。好ましくは予備加熱した後、超高温加熱処理法(UHT法)により直接加熱又は間接加熱により所定の温度で加熱処理する。超高温加熱処理法(UHT法)としては直接加熱法を使用することが好ましく、蒸気吹き込み式直接加熱法(injection type)または乳噴射式直接加熱法(infusion type)が例示される。また、高温加熱の際の加熱温度は121℃以上が好ましく、121〜145℃がより好ましく、130〜145℃が特に好ましい。また、高温加熱の時間は、2秒〜5分間とすることが好ましく、特に10秒〜2分間とすることが好ましい。さらに、予備加熱した後、せん断式ポンプまたは均質機等を用いて予備加熱過程で生成したカード等を破砕することも好ましい。
【0028】
ホエイは、上記操作により加熱処理した後、冷却し、常法により濃縮し、乾燥(例えば、噴霧乾燥等)して本発明に用いられるホエイパウダーを得ることができる。
【0029】
さらに、本発明の製パン用品質改良剤は、前記ホエイパウダーを用いることによって調製することが可能であるが、ホエイパウダー以外に、リン酸塩等、具体的にはリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、またはリン酸二カリウム等を含んでもよい。製パン用品質改良剤におけるリン酸塩の含量は、0.001〜5.0%、特に0.01〜2.0%とすることが好ましい。ホエイパウダー以外にリン酸塩等を含ませた製パン用品質改良剤は、脱脂粉乳を用いる場合に近い特性を有し、脱脂粉乳の代替物としての使用に適する。
【0030】
本発明の製パン用品質改良剤を用いてパンを製造する場合、原料の小麦粉に対して0.1〜5.0%、特に好ましくは1.0〜5.0%、さらに好ましくは2.0〜5.0%添加する。製パン用品質改良剤の添加量が0.1%より少ないと目的とする品質改良に十分な効果が得られにくく、また、5%を越えるとドウを調製する際に逆に小麦蛋白質の吸水を阻害しやすくなり良好な組織が得られにくくなるおそれがある。
【0031】
本発明の製パン用品質改良剤が用いられるパンは特に限定されず、プルマン型やワンローフ型の成形食パン、および菓子パン等、いかなるパンの製造においても好適に使用することが可能である。
【0032】
本発明のパンの製造においては、原料と前記本発明の製パン用品質改良剤とが用いられる。原料は、主たる原料として用いられる小麦粉、水、およびイーストを含み、これら以外を含んでよい。なお、イーストには、乾燥イーストおよび生イーストが含まれるものとする。
【0033】
上述した小麦粉等の以外の原料としては、一般にパン類の製造に使用されている材料、あるいはパンの種類や望まれる品質等によって適宜選択して使用されている材料があり、これらを必要に応じて必要量、原料として用いることができる。具体的には、例えば、前者に該当する原料として、砂糖、食塩、脱脂粉乳、全粉乳、ホエイパウダー、乳清蛋白質濃縮物、および乳清蛋白質分離物等の乳製品、ショートニング、マーガリン、バター、および乳化油脂等の油脂類、並びに、グリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤が挙げられる。ここで、上記ホエイパウダーとしては、従来、用いられているものを用いればよく、および脱塩処理されたもの等を用いることもできる。
【0034】
パンの種類等により適宜、選択される後者の原料としては、シナモンやバジリコ等の香辛料、ブランデーやラム酒等の洋酒類、レーズンやドライチェリー等のドライフルーツ、アーモンドやピーナツ等のナッツ類、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、およびグルコアミラーゼ等の澱粉分解酵素、バニラエッセンス等の香料、アスパラテーム等の人口甘味料、難消化性デキストリン等の食物繊維、活性グルテン、並びに、抹茶やココアパウダー等が例示できる。
【0035】
本発明のパンの製造においては、主原料として用いられる穀粉等の粉類は、小麦粉を単独で用いてもよいが、所望により小麦粉と小麦粉以外の粉類とを含むものとしてもよい。そのような小麦粉以外の粉類としては、例えば米粉、大麦粉、ライ麦粉、オーツ粉、コーンフラワー、きな粉、もち粉、わらび餅粉、本葛粉、および白玉粉等が挙げられる。
【0036】
本発明のパンの製造には、その他の物質を所望により添加してもよい。所望により添加されるその他の物質としては、各種食物繊維、ペプチド類、ビタミン類、ポリフェノール類、ミネラル等が挙げられる。
【0037】
上記各種材料は、従来公知の任意の方法により、配合され、混捏されることによりドウが得られる。ドウは、従来公知の任意の方法により発酵させることによりパン生地が得られる。パン生地を所望の形に成形する等した後、焼成することによりパンが製造される。
【0038】
各種材料の配合割合は、用いる材料の種類によって異なり、一般的なパン類の製造方法に従って適宜決定されうる。本発明のパンの製造方法は、特に限定されず、例えば公知の直捏法(ストレート法)、中種法、中麺法、液種法、ノータイム法、オーバーナイト法、低温長時間法(冷蔵生地法)、および冷凍生地法等が挙げられる。
【0039】
本発明に係るホエイパウダーを含む製パン用品質改良剤は、捏ねられた生地(ドウ)に含まれて発酵に供され、製パン用品質改良剤の添加タイミングは特に限定されない。したがって、本発明の製パン用品質改良剤は、原料を配合する際に原料に混合してもよく、各種原料を混合して混捏する過程で添加してもよい。より具体的には、製パン法として例えばストレート法を採用する場合は、原料と製パン用品質改良剤とを配合し、この配合原料を混捏して得られたドウを発酵に供せばよい。また、製パン法として2回以上のミキシングを行ってパン生地を得る場合(例えば中種法を用いる場合)、原料の一部を混捏して発酵させ発酵種を得、この発酵種に原料の残りの量と製パン用品質改良剤とを加えて混捏してさらに発酵させればよい。なお、中種法を用いる場合のように、原料の一部を混捏して一次発酵させた後、一次発酵により得られた生地に原料の残部を加えて混捏して二次発酵させる場合、製パン用品質改良剤の添加タイミングは、一次発酵前、二次発酵前のどちらか一方、又は両方であってよい。
【0040】
本発明の製パン用品質改良剤を使用して製造されたパン生地における製パン性の評価は、パン生地製造のいずれの工程で得られるパン生地について行ってもよく、パンの原料に当該製パン用品質改良剤を添加して混捏した後のパン生地であれば、いずれの工程で得られたパン生地も製パン性評価に供することが可能である。例えば、ストレート法においては一次発酵後のパン生地、中種法においてはフロアタイムを取った後のパン生地について、それぞれ製パン性評価を行うことが可能である。なお、具体的なパン生地の評価は、以下の実施例に示すとおりである。
【実施例】
【0041】
次に試験例および実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[試験例1]
(1)ホエイパウダーの調製
試験例1では、ホエイを原料として異なる温度でホエイを加熱処理した後、冷却し、濃縮後、さらに噴霧乾燥してホエイパウダーを調製し、各ホエイパウダー中のラクチュロース含量を測定した。原料として使用したホエイは、チーズ製造時に副産物として得られたホエイ(森永乳業株式会社製)を、固形分含量が5%となるように濃度調整したホエイを用いた。なお、当該ホエイの組成は次の通りである。
〈試験例1のホエイの成分組成比〉
脂肪 : 0.05(質量%、以下同じ)
蛋白質 : 0.65
炭水化物: 4.01
灰分 : 0.29
水分 :95.00
【0043】
上記ホエイ12Lを用いて、85℃で5分間予備加熱した後に、インフュージョン式直接加熱法により加熱温度121℃、135℃、または145℃にて30秒間加熱処理した。加熱処理後のホエイは、冷却後、常法により濃縮し、噴霧乾燥してホエイパウダーを調製した。得られた3種類のホエイパウダーは、それぞれ試料1(121℃で処理)、試料2(135℃で処理)、試料3(145℃で処理)として次に述べるラクチュロース含量測定に供した。
【0044】
また、74℃で30秒間保持して予備加熱を行った後、インフュージョン式直接加熱法による高温加熱処理を行わずに加熱処理後のホエイを冷却した以外は、上述のホエイパウダー調製法と同じ手順で調製したホエイパウダーを対照試料として、ラクチュロース含量測定に供した。
【0045】
(2)ラクチュロース含量測定試験
試料1〜3、および対照試料について、以下の手順でラクチュロース含量を測定した。各試料1.25gを水100mlに溶解し、溶解した試料を分画分子量10,000ダルトンの限外濾過膜にて限外濾過して濾液を測定サンプルとした。
【0046】
ラクチュロース含量は高速液体クロマトグラフ法による絶対検量線法により測定した。具体的には、以下の装置、移動相、蛍光波長にて各サンプル中のラクチュロース含量を測定した。
〈高速液体クロマトグラフ操作条件〉
機種:LC-10Advp(島津製作所社製)
検出器:蛍光分光光度計RF-10AXL(島津製作所社製)
カラム:TSKgel SUGAR AXI φ4.6mm×15cm(東ソー社製)
カラム温度:60℃
移動相:0.5mol/lホウ酸緩衝液(pH8.7)
移動相流量:0.4ml/min
注入量:20μl
蛍光励起波長:320nm
蛍光測定波長:430nm
ポストカラム:反応コイル;ステンレス管、φ0.3mm×10m
反応試液;1w/w% L−アルギニン溶液
反応液流量;0.7ml/min
反応温度;150℃
【0047】
(3)試験結果
本試験の結果は表1に示すとおりである。表1は各試料のラクチュロース含量を表し、表1に示すとおり、加熱処理温度を121℃とした試料1のホエイパウダーのラクチュロース含量は126mg/100gであり、135℃とした試料2は、290mg/100g、145℃とした試料3は491mg/100gであることが判明した。また、74℃の予備加熱のみを行った対照試料のラクチュロース含量は48mg/100gであった。
【0048】
【表1】

【0049】
[試験例2]
試験例2では、試験例1で調製した試料1〜3、対照試料、または脱脂粉乳を小麦粉に対して2%配合して製造した食パンの製パン性を検討した。
【0050】
(1)食パンの調製
試験例2の食パンの原料配合比および食パン調製法は以下の通りとした。原料配合比はベーカーズ%で表示するが、ベーカーズ%は、配合中の小麦粉の重量を100%とし、その他の材料(砂糖、食塩、イースト、水など)をその小麦粉に対する割合で表わす方法である。なお、試料とは、上述したホエイパウダーまたは脱脂粉乳を意味する。
〈食パン調製法〉
70%中種生地法(食パン配合)
〈食パン原料〉

【0051】
一捏分の小麦粉重量を300gとし、上記中種原料をミキサー(品川工業所製、Type 5DM)に投入し、捏上温度24℃の条件で、低速(141rpm)で1分30秒間、ミキシングした。
【0052】
次いで、温度28℃で4時間一次発酵を行い、一次発酵後の中種にショートニングを除く上記生地原料を投入した。握上温度28℃の条件で低速で45秒間ミキシングした後にショートニングを加え、低速で1分30秒間、高速(285rpm)で2分30秒間ミキシングした。さらに28℃にてフロアタイムを30分間取り、さらに450gに分割し丸目を行い、28℃にて15分間ねかしを行った後、成形モルダー(ナショナルMFG社製、Sheeter−moulder)を用いて成形して型(上縁20.5×9.8cm、下縁18.9×8.5cm、深さ8.0cm=1445cm)に詰めた。次いで、ホイロを用いて温度38℃、湿度90%の状態で型上縁2.0cm上に達するまで二次発酵させた。
【0053】
二次発酵後、発酵が完了した各パン生地について、オーブン(フジサワ・マルゼン社製、リールオーブンERT−6)の焼成温度を220℃、および焼成時間を23分として焼成してワンローフ型の食パンを製造し、焼成品としての食パンを得た。
【0054】
(2)パン生地の評価
これら各試料について、パン生地の性状を評価した。具体的には、フロアタイム後のパン生地を分割した際、および分割したパン生地をねかせた後の成形の際、パン生地の性状を評価した。評価は、それぞれ伸展性(E:生地の引き伸ばし具合、生地の「あし」)、抗張力(R:生地を引き伸ばした際のコシ、抵抗力)、バランス、つまり抗張比(R/E)について、それぞれ、○:良好、△:やや良好、×:劣る、の3段階評価にて実施した。
【0055】
(3)焼成品の評価
また、製パン用品質改良剤が異なる上記各焼成品の評価は、パンの外観、内相について五感審査(合計100点)にて実施した。具体的には、審査得点を、それぞれ、外観30点(体積:10点、表皮色:10点、形均整:5点、表皮質:5点)、内相70点(内部色相:10点、ス立:10点、触感:15点、香り:10点、味:25点)として評価した。
【0056】
(4)試験結果
(a)パン生地の評価
パン生地の評価は、表2に示すとおりである。その結果、パン生地分割時の抗張力については、脱脂粉乳を試料に用いたパン生地が良好であり、製パン用品質改良剤としてホエイパウダーを使用した試料についてはいずれもやや良好という評価であった。しかしながら、分割時の伸展性は試料1〜3および対照試料の方が脱脂粉乳を用いた場合より良好であった。さらに、成形時の抗張力、および伸展性については、121℃以上で加熱処理しラクチュロース含量が126mg/100g以上のホエイパウダーを使用して調製したパン生地は、ラクチュロース含量が少ない対照試料より優れるとの結果が得られ、本発明に係るホエイパウダーを含有する製パン用品質改良剤が優れることが判明した。
【0057】
【表2】

【0058】
(b)焼成品の評価
焼成品の評価は、表3、および図1に示すとおりである。その結果、各試料の五感審査において、121℃以上で加熱処理しラクチュロース含量が126mg/100g以上のホエイパウダーを使用して製造したパンはいずれも99点以上の高得点が得られ、これらのホエイパウダーを含む製パン用品質改良剤が優れていることが示された。中でも、135℃で加熱処理したラクチュロース含量が290mg/100gのホエイパウダーを使用して製造したパンは100点を獲得することができた。
【0059】
【表3】

【0060】
[試験例3]
試験例3では、製パン用品質改良剤の配合割合を2%ではなく5%とした以外は試験例2と同様にして食パンを製造し、試験例2と同様にしてパン生地および焼成品を評価し、製パン性を検討した。試験例3において、製パン用品質改良剤の配合割合以外の原料種類および配合割合、製パン法、パン生地および焼成品の評価法は、試験例2と同じであるため、説明を省略する。
【0061】
(a)パン生地の評価結果
パン生地の評価は、表4に示すとおりである。その結果、パン生地分割時の抗張力については、脱脂粉乳を製パン用品質改良剤として用いたパン生地が良好であり、ホエイパウダーを使用した試料についてはいずれもやや良好という評価であった。しかしながら、分割時の伸展性、成形時の抗張力、伸展性、およびバランスについては、121℃以上で加熱処理したラクチュロース含量が126mg/100g以上のホエイパウダーを使用して調製したパン生地が、全てにおいて良好な結果が得られ、これらのホエイパウダーを含む製パン用品質改良剤が優れていることが判明した。なお、74℃で加熱処理したラクチュロース含量が48mg/100gのホエイパウダーを使用して調製したパン生地は、分割時、成形時のいずれも伸展性が劣り、パン生地がだれる現象が確認された。
【0062】
【表4】

【0063】
(b)焼成品の評価
パン焼成後の評価は、表5、および図2に示すとおりである。その結果、各試料の五感審査において、121℃以上で加熱処理したラクチュロース含量が126mg/100g以上のホエイパウダーを使用して製造したパンが99点以上の高得点が得られ、これらのホエイパウダーを含む製パン用品質改良剤が優れていることが判明した。
【0064】
【表5】

【0065】
[実施例1]
試験例1で用いたホエイ原料と同じホエイ原料を、試験例1と同様に固形分含量が5%となるように濃度調整したホエイ12Lを用い、試験例1と同様に85℃で5分間予備加熱した後に、インフュージョン式直接加熱法により加熱温度121℃にて30秒間加熱処理した。加熱処理後のホエイは、冷却後、常法により濃縮し、噴霧乾燥してホエイパウダーを調製し、約500gの製パン用品質改良剤を製造した。
【0066】
[実施例2]
実施例1において、インフュージョン式直接加熱法による加熱処理温度が135℃であること以外は同様の方法で、約500gの製パン用品質改良剤を製造した。
【0067】
[実施例3]
実施例1において、インフュージョン式直接加熱法による加熱処理温度が145℃であること以外は同様の方法で、約500gの製パン用品質改良剤を製造した。
【0068】
[実施例4]
実施例1で製造した製パン用品質改良剤を使用して、下記の配合に従って、直捏法でワンローフ型食パンを5kg仕込みで製造した。なお、その他の原料はいずれも市販品を使用した。また、以下の数値はベーカーズ%である。
〈食パン原料および製パン用品質改良剤〉
強力粉 :100(%)
水 :72.0
イースト :2.5
イーストフード :0.1
食塩 :1.8
上白糖 :7.0
ショートニング :5.0
製パン用品質改良剤 :2.0
【0069】
ショートニングを除く上記原料および上記製パン用品質改良剤をそれぞれミキサー(愛工舎製)に投入し、捏上温度26℃の条件で、低速(141rpm)で3分間、中速(169rpm)で4分間ミキシングした後、ショートニングを加え、さらに低速で2分間、中速で4分間ミキシングしてドウを得た。次いで温度26℃で90分間一次発酵を行い、発酵生地を得た。この際、パン生地には生地ダレが起きず、一次発酵は良好に完了した。
【0070】
一次発酵後の生地を各400gに分割して丸目を行い、ベンチタイムを20分間取った後、成形モルダーを用いて生地を成形して型に詰めた。次いで、ホイロを用いて温度38℃、湿度85%の状態で約50分間、型の75%程度の膨張度になるように二次発酵させた。
【0071】
二次発酵が終了した生地をオーブン(三幸機械製、コンポオーブンNC−CG−13)に入れ、上火を200℃、下火を210℃に設定して30分間焼成した。その結果、風味および食感が共に良好なワンローフ型食パンを得た。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の製パン用品質改良剤を2%配合したときの、パン焼成品の評価(五感審査)を表す図である。
【図2】本発明の製パン用品質改良剤を5%配合したときの、パン焼成品の評価(五感審査)を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチュロースを120mg/100g以上含有するホエイパウダー。
【請求項2】
10質量%水溶液のpHが7以下である請求項1に記載のホエイパウダー。
【請求項3】
ラクチュロースを120mg/100g以上含有するホエイパウダーの製造方法であって、
(1)pH7.0以下を示すホエイの固形分含量を1〜40質量%に調整する工程、
(2)前記ホエイを75℃以上95℃以下の所定温度まで昇温して1分以上30分以下で加熱保持する工程、
(3)次いで121℃以上145℃以下の所定温度まで昇温して2秒以上5分以下で加熱保持する工程、
(4)加熱保持したホエイを噴霧乾燥する工程、
からなる製造方法。
【請求項4】
ホエイパウダーの10質量%水溶液のpHが7以下である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
ラクチュロースを120mg/100g以上含有するホエイパウダーを有効成分として含む製パン用品質改良剤。
【請求項6】
ホエイパウダーの10質量%水溶液のpHが7以下である請求項5に記載の製パン用品質改良剤。
【請求項7】
原料を配合し、配合した原料を混捏し、混捏した原料を発酵し、および発酵した原料を焼成することからなるパンの製造方法において、焼成前に請求項5または6に記載の製パン用品質改良剤を原料に添加することを特徴とするパンの製造方法。
【請求項8】
小麦粉に対して、前記製パン用品質改良剤を0.1〜5.0質量%添加して行う請求項7に記載のパンの製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法で製造したパン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−161073(P2008−161073A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351151(P2006−351151)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】