説明

ホスホノ基含有重合性化合物

【課題】歯質との親和性及び脱灰力を備え、歯科用の接着性組成物に有用な酸性基含有重合性化合物において、その接着性をさらに向上させ、初期接着力だけでなく接着耐久性についても高度に優れる新規なホスホノ基含有重合性化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


で表されるホスホノ基含有重合性化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホノ基含有重合性化合物、詳しくは、特に、歯科用接着材または歯科用接着プライマーとして用いた場合、接着力に優れ、また優れた接着耐久性を発現する接着性組成物を調製しうる、新規なホスホノ基含有重合性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷を受けた歯の修復には、主にコンポジットレジンと呼ばれる充填材料が用いられる。このコンポジットレジンは歯の空洞に充填後重合硬化して使用されることが一般的である。
【0003】
しかし、この材料自体は歯質への接着性を持たない為、歯科用接着材が併用される。この接着材にはコンポジットレジンの硬化に際して発生する内部応力、即ち、コンポジットレジンと歯質との界面に生じる引張り応力に打ち勝つだけの接着強度が要求される。さもないと過酷な口腔環境下での長期使用により脱落する可能性があるのみならず、コンポジットレジンと歯質の界面で間隙を生じ、そこから細菌が侵入して歯髄に悪影響を与える恐れがあるためである。
【0004】
歯の硬組織はエナメル質と象牙質から成り、臨床的には双方への接着が要求される。従来、接着性の向上を目的として、接着材塗布に先立ち歯の表面を前処理する方法が用いられてきた。
【0005】
このような前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液が一般的であり、リン酸、クエン酸、マレイン酸等の酸水溶液が用いられてきた。エナメル質の場合、処理面との接着機構は、酸水溶液の脱灰による粗造な表面へ、接着材が浸透して硬化するというマクロな機械的嵌合であるのに対し、象牙質の場合には、脱灰後に歯質表面に露出するスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な空隙に、接着材が浸透して硬化するミクロな機械的嵌合であると言われている。
【0006】
但し、コラーゲン繊維への浸透はエナメル質表面ほど容易ではなく、酸水溶液による処理後に更にプライマーと呼ばれる浸透促進剤が一般的に用いられる。即ち、この方法ではエナメル質と象牙質の双方に対して良好な接着強度を得るためには、歯科用接着材を塗布する前に2段階の前処理が必要な3ステップシステムであり、操作が煩雑であるという問題があった。
【0007】
この操作の煩雑さの軽減を目的として、酸水溶液の脱灰機能と象牙質プライマーの浸透促進機能を併せ持つセルフエッチングプライマーと歯科用接着材で処理する2ステップシステム(例えば、特許文献1、2)が提案された。また、近年、酸水溶液の脱灰機能と象牙質プライマーの浸透促進機能および歯質への接着材としての機能すべてを併せ持つ接着材で処理する1ステップシステム(例えば、特許文献3、4)が提案され、実用化されている。
【0008】
上記接着システムによれば、酸エッチング剤を使用しないので、水洗の工程が不要で乾燥のみで対応できる。また、エナメル質のみならず象牙質に対しても、ある程度の接着性および辺縁封鎖性が得られる。しかし、この接着システムでは、プライマー(セルフエッチングプライマー)を使用するも、未だ実用上十分な接着耐久性(つまり、接着性の持続性)および辺縁封鎖耐久性(つまり、辺縁封鎖性の持続性)が得られない。すなわち、接着に対する耐久性試験を実施すると、使用する酸または酸性基含有重合性単量体の種類によって程度の差はあるものの、接着性および辺縁封鎖性が経時的に大きく低下する。
【0009】
このセルフエッチング型の接着システムでは、接着性組成物中に、カルボン酸基、リン酸基あるいはスルホン酸基などの酸性基を分子内に含有する、酸性基含有重合性単量体を、一種または複数種配合している。これまで、この酸性基含有重合性単量体としては、以下の化合物群に示すような重合性化合物が考案されており、実用化されているものもある。
【0010】
【化1】

【0011】
しかし、これらの酸性基含有重合性化合物を接着材に配合しても尚、接着耐久性の経時的な低下が見られることから、接着材として使用した際に初期の接着力のみならず、この接着耐久性についても優れる、新たな酸性基含有重合性化合物が求められている。
【0012】
他方で、近年、以下の化合物
【0013】
【化2】

【0014】
や、さらには、以下の化合物群
【0015】
【化3】

【0016】
〔式中、R'は、水素原子または置換または非置換のC〜C18アルキル基、置換または非置換シクロアルキル基、置換または非置換のC〜C18アリール基またはヘテロアリール基、置換または非置換のC〜C18アルキルアリール基またはアルキルヘテロアリール基、置換または非置換のC〜C30アラルキル基を表し、;R'およびR'は互いに独立して、二官能性置換または非置換のC〜C18炭素鎖基、二官能性置換または非置換シクロアルキレン基、二官能性置換または非置換のC〜C18アリール基またはヘテロアリール基、二官能性置換または非置換のC〜C18アルキルアリール基またはアルキルヘテロアリール基、二官能性置換または非置換のC〜C30アラルキル基を表す。〕
に示すような、耐加水分解性が良好なホスホン酸基含有重合性化合物がいくつか考案されている(特許文献5、6)。
【0017】
そうして、近年実用化され主流となっている1ステップ型の接着材として、上記のホスホン酸基含有重合性化合物を配合した場合には、その歯質に対する(特にエナメル質に対する)初期接着力がある程度に優れた状態で、前記接着耐久性についてもかなり良好なものを得ることができる。しかしながら、該ホスホン酸基を利用したのでは、歯質との親和性において今一歩十分ではなく、この初期接着力も接着耐久性も、これで満足できるレベルとは言えず、さらに向上させることが望まれていた。
【0018】
【特許文献1】特開平06−009327号公報
【特許文献2】特開平06−024928号公報
【特許文献3】特開平10−236912号公報
【特許文献4】特開平10−245525号公報
【特許文献5】特開2002−12598号公報
【特許文献6】特表2005−514338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記の要望に応えるべくなされたものであって、歯質との親和性及び脱灰力を備え、歯科用の接着性組成物に有用な酸性基含有重合性化合物において、その接着性をさらに向上させ、初期接着力だけでなく接着耐久性についても高度に優れるものを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を続けてきた。その結果、特定の構造をした新規なホスホノ基含有重合性化合物を創出し、該ホスホノ基含有重合性化合物を用いることにより上記の問題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
【0022】
【化4】

【0023】
〔式中、Rは炭素数1〜20の鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の脂環炭化水素基、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、または炭素とヘテロ原子の合計原子数5〜10の複素環基であり、Rは炭素数2〜8のラジカル重合性基含有基であり、Rは炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数3〜8の脂環炭化水素基、または炭素数6〜8の芳香族炭化水素基である。〕
で表されるホスホノ基含有重合性化合物である。
【0024】
また、本発明は、上記ホスホノ基含有重合性化合物、及び重合開始剤を含んでなることを特徴とする歯科用接着材も提供する。
【0025】
また、本発明は、上記ホスホノ基含有重合性化合物、および揮発性有機溶媒を含んでなることを特徴とする歯科用接着プライマーも提供する。
【0026】
さらに、本発明は、上記ホスホノ基含有重合性化合物の製造方法として、一般式(3)
【0027】
【化5】

【0028】
〔式中、Rは炭素数1〜20の鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の脂環炭化水素基、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、または炭素とヘテロ原子の合計原子数5〜10の複素環基であり、Rは炭素数2〜8のラジカル重合性基含有基であり、Rは炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数3〜8の脂環炭化水素基、または炭素数6〜8の芳香族炭化水素基である。〕
で示される化合物を、3級アミンの存在下にハロゲン化ホスホリルと反応させる方法も提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明のホスホノ基含有重合性化合物は、該ホスホノ基が強酸性基であるため、歯質との親和性に優れ、高い脱灰力を備えている。したがって、該化合物を歯科用接着材の接着成分として利用した場合、酸エッチングやプライマー処理を施さずに使用する1ステップ型の接着材として使用可能であり、その場合において、エナメル質、象牙質などの硬質組織に対して優れた接着力を示し、これは初期接着力のみならず、接着耐久性についても高度に優れたものになる。同様に、歯科用接着プライマーの成分として利用した場合も、酸エッチングを施さずに使用するセルフエッチングプライマーとして使用可能であり、この場合も、優れた接着性を発揮する。
【0030】
本発明のホスホノ基含有重合性化合物がこのように優れた接着性を有する理由は、その分子構造が、親水基と疎水性基をそれぞれ2個有する、所謂、ジェミニ型(2量体型)の界面活性剤と似たような構造をしており、少量の添加で、歯科用接着材中で効果的に界面活性能を発現することができることが関係しているのではないかと推定される。すなわち、親水性部分であるホスホノ基が歯面に作用して歯を脱灰し、その対抗側で疎水性部分であるRおよびRのラジカル重合性基が凝集して重合性が向上することにより得られるのではないかと予想される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明におけるホスホノ基含有重合性化合物(以下、本発明の化合物とも言う)は、その構造中にホスホノ基を2箇所有し、この各ホスホノ基が、次に説明するRとリン酸エステルからなる基の2本に夫々結合する構造を有してする。
【0032】
ここで、前記一般式(1)中Rは、炭素数1〜20の鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の脂環炭化水素基、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、または炭素とヘテロ原子の合計原子数5〜10の複素環基である。
【0033】
このRは、上記条件を満足するものであれば特に限定されないが、好ましい具体例を例示すれば、次のものが挙げられる。
【0034】
炭素数1〜20の鎖状炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ペンタデシレン基、オクタデシレン基等のアルキレン基;プロペニレン基、イソプロペニレン基、ブテニレン基、イソブテニレン基、ペンテニレン基、イソペンテニレン基、デセニレン基、テトラデセニレン基、ヘキサデセニレン基、イコセニレン基等のアルケニレン基;プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘプチニレン基、デシニレン基、ペンタデシニレン基、ノナデシニレン基等のアルキニレン基が挙げられ、このうち炭素数2〜12のアルキレン基が好ましい。
【0035】
炭素数3〜10の脂環炭化水素基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、2−メチル−シクロへキシレン基、2,5−ジメチル−シクロへキシレン基、2−ブチル−シクロへキシレン基等が挙げられ、このうちシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、2−メチル−シクロへキシレン基等の炭素数5〜8のものが好ましい。
【0036】
炭素数6〜15の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、メチルフェニレン基、ナフチレン基、等のアリーレン基;キシリレン基、ベンジリデン基、 等が挙げられ、このうちフェニレン基、メチルフェニレン基、 等の炭素数6〜10のものが好ましい。
【0037】
炭素とヘテロ原子の合計原子数5〜10の複素環基としては、2,5−ピリジニレン基、2,5−フラニレン基、2,5−チオフェニレン基、2−ピリジニルメチレン基、2−ピリジニルエチレン基、3,7−キノリニレン基等が挙げられ、このうち2,5−ピリジニレン基、2,5−フラニレン基、2,5−チオフェニレン基等の炭素とヘテロ原子の合計原子数5〜6のものが好ましい。
【0038】
上記Rの基の中でも、本発明の効果との関係から、特に好ましいのは炭素数2〜12のアルキレン基である。
【0039】
これらRおよびRの各基は、同一分子内において通常は同種のものであるが、異種のものとしても良い。なお、各基において、炭素数の上限を超えた場合、接着力が著しく低下するために好ましくない。
【0040】
前記一般式(1)中Rは、炭素数2〜8のラジカル重合性基含有基である。こうしたラジカル重合性基含有基としては、スチリル基、ビニル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基等の公知のものが制限無く適用できる。この他、上記Rのラジカル重合性基含有基としては、これらのラジカル重合性基が、必要に応じてエステル結合やエーテル結合を介在させて鎖状炭化水素基等に結合する、全体の炭素数が2〜8の基が好適に使用される。これらRの各基は、同一分子内において異種のものであっても良いが、通常は同種のものとするのが一般的である。なお、該ラジカル重合性基含有基において、炭素数8を超えるものの場合、接着力が著しく低下することになり好ましくない。
【0041】
こうしたラジカル重合性基含有基のうち接着力の向上という観点から、アクリロイル基、およびメタクリロイル基であるのが特に好ましい。
【0042】
本発明の化合物において、上記RとRの各基の組合わせは、これら両基の合計炭素数が8以上、特に好ましくは10以上であるのが、重合性を向上させ硬化体の強度をより高いものにして接着性を向上させる観点から望ましい。
【0043】
さらに、前記一般式(1)中においてRは、炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数3〜8の脂環炭化水素基、または炭素数6〜8の芳香族炭化水素基である。各基において、炭素数の上限を超えた場合、接着力が著しく低下することになり好ましくない。
【0044】
炭素数1〜8の鎖状炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等のアルキレン基;プロペニレン基、イソプロペニレン基、ブテニレン基、イソブテニレ基、ペンテニレン基、イソペンテニレン基、 等のアルケニレン基;プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基 等のアルキニレン基が挙げられ、このうち炭素数2〜6のアルキレン基が好ましい。
【0045】
炭素数3〜8の脂環炭化水素基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基等が挙げられ、このうちシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基 等の炭素数5〜8のものが好ましい。
【0046】
炭素数6〜8の芳香族炭化水素基としては、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基、 等のアリーレン基;o−キシリレン基、m−キシリレン基、p−キシリレン基、ベンジリデン基、基等が挙げられ、このうち1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基等の炭素数6〜7のものが好ましい。
【0047】
こうした本発明のホスホノ基含有重合性化合物において、代表的なものを例示すると、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(エイコシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ペンタデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ヘプチルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ノナデシルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(デシルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘプチルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(プロピルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ドデシルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(プロピルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(トリデシルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ペンチルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ブチルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(エチルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−o−フェニレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−o−フェニレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−m−フェニレンジアミン、N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−m−フェニレンジアミン、N,N’−ジスチリル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジビニル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(フェニルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ベンジルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ピリジニルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミ等が挙げられる。
【0048】
これらのホスホノ基含有重合性化合物の中でも、本発明の特に顕著に発揮される化合物は、次の一般式(2)に示されるものである。
【0049】
【化6】

【0050】
〔式中、Aは水素またはメチル基であり、lは2〜12の整数であり、mは1〜8の整数である。〕
本発明の化合物は、例えば核磁気共鳴スペクトル法(NMR)、赤外線吸収スペクトル法(IR)、元素分析法等を用いていることにより確認することができる。以下に、特徴的な同定部位の具体例を例示し、目的の化合物の同定法について示す。
H−NMR(核磁気共鳴)スペクトル法において、特徴的な吸収は次の範囲に表れる。
【0051】
のラジカル重合性基がメタクリロイル基の場合、そのプロトンの吸収が次の範囲に表れる。1.90〜2.20ppm(s、3H、C−C(CH)−)、4.90〜5.20ppmと5.00〜5.30ppm(それぞれs、2H、CH=C);Rのラジカル重合性基がアクリロイル基の場合、そのプロトンの吸収が次の範囲に表れる。6.00〜6.50ppm(それぞれ2H、C=C);Rのラジカル重合性基がビニル基の場合、そのプロトンの吸収が次の範囲に表れる。4.70〜5.20ppm(それぞれs、3H、C=C);Rのラジカル重合性基がスチリル基の場合、そのプロトンの吸収が次の範囲に表れる。4.90〜5.90(それぞれs、3H、C=C)、6.30〜7.50(m、4H、−C)。PO(OH)−O−の結合するメチレン基のプロトンは、次の範囲に吸収が表れる。3.00〜4.50ppm(t、2H、−C−O);リンに結合するヒドロキシ基のプロトンは、次の範囲に吸収が表れる。1.00〜6.00ppm(s、2H、(OP=O)
31P-NMRスペクトル法において、ホスホノ基のリンは次の範囲に吸収が表れる。:0.10〜30.00ppm
・IR(赤外吸収、1回反射ATR(全反射法))スペクトル法において、特徴的な吸収は次の範囲に表れる。
【0052】
P−O部位は次の範囲に吸収が表れる。980〜1050cm−1;P=O部位は次の範囲に吸収が表れる。1250〜1320cm−1
・元素分析法では、本発明の化合物を構成する元素(炭素、水素、窒素)の含有割合を定量することができる。
【0053】
本発明のホスホノ基含有重合性化合物は、如何なる方法により製造しても良い。一般的な合成方法としては、以下に示す方法が挙げられる。すなわち、一般式(3)
【0054】
【化7】

【0055】
〔式中、Rは炭素数1〜20の鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の脂環炭化水素基、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、または炭素とヘテロ原子の合計原子数5〜10の複素環基であり、Rは炭素数2〜8のラジカル重合性基含有基であり、Rは炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数3〜8の脂環炭化水素基、または炭素数6〜8の芳香族炭化水素基である。〕
で示される化合物を、3級アミンの存在下にハロゲン化ホスホリルと反応させる方法である。
【0056】
この方法において、ハロゲン化ホスホリルは、塩化ホスホリル、臭化ホスホリル等の公知の該化合物が制限無く使用され、このうち塩化ホスホリルを用いるのが好適である。この塩化ホスホリルの使用量は、一般式(3)で示される化合物1当量に対して2〜4当量、より好適には2.0〜2.8当量であるのが効率的である。
【0057】
また、上記一般式(3)で示される化合物とハロゲン化ホスホリルの反応を促進する3級アミンとしては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の公知の該化合物が制限無く使用され、このうちトリエチルアミンを用いるのが好適である。該3級アミンの使用量は、ハロゲン化ホスホリル1当量に対して1当量以上であること、より好ましくはハロゲン化ホスホリル1当量に対して1.0〜1.2当量であるのが効率的である。
【0058】
上記各原料の反応は、如何様に実施しても良いが、通常は、ハロゲン化ホスホリルを溶媒に溶解させた後、必要に応じて冷却して−40〜0℃の温度下で、一般式(3)で示される化合物と3級アミンとを同一溶液或いは別々の溶液として、滴下等の手法により徐々に加えることにより行うのが好ましい。ハロゲン化ホスホリルは1〜10質量%の濃度となるように溶解させて使用し、一般式(3)で示される化合物と3級アミンは、それぞれ5〜20%濃度となるように溶解させて加えるのが好ましい。
【0059】
上記反応は、攪拌下に実施するのが好ましく、一般式(3)で示される化合物と3級アミンの添加後、一般式(3)で示される化合物が消失 するまで続ける。途中でリン酸基を生成させるため、1〜10モル量の蒸留水を反応液に加えるのが好ましい。反応終了後、希塩酸、塩化ナトリウム水溶液、蒸留水等を用いて反応溶液を洗浄し、必要に応じて重合禁止剤を添加し、反応液を濃縮・乾燥することにより、本発明の化合物が得られる。
【0060】
上記反応において反応溶媒は、一般式(3)で示される化合物、ハロゲン化ホスホリル、3級アミンの各原料を溶解可能であり、且つ反応を阻害しないものであれば、特に制限されずに公知の有機溶媒が使用できる。具体的には、トルエン、ジエチルエーテル、塩化メチレン等が挙げられる。
【0061】
上記本発明の化合物の製造方法を実施するに際して使用する一般式(3)で示される化合物は、如何なる方法により入手しても良いが、例えば、次の方法により効率的に合成できる。すなわち、一般式(4)
【0062】
【化8】

【0063】
〔式中、Rは前記説明したものと同義である。Xはハロゲン原子を表す。〕
で示されるハロゲン化アルコールを、一般式(5)
【0064】
【化9】

【0065】
〔式中、Rは前記説明したものと同義である。〕
で示されるアルキレンジアミンと反応させて、一般式(6)
【0066】
【化10】

【0067】
で示される化合物を得、次いで一般式(6)で示される化合物を、一般式(7)
【0068】
【化11】

【0069】
〔式中、Rは前記説明したものと同義である。Xはハロゲン原子を表す。〕
で示されるハロゲン化物と反応させる方法である。
【0070】
この方法において、一般式(4)で示されるハロゲン化アルコールとしては、前記したRで説明した各基を有し、Xとして塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を有する化合物が制限なく使用できる。同様に、一般式(5)で示されるアルキレンジアミンも、前記したRで説明した各基を有するものが制限なく使用できる。
【0071】
これら一般式(4)で示されるハロゲン化アルコールと一般式(5)で示されるアルキレンジアミンの反応も、如何様に実施しても良いが、これらを反応溶媒中で、加熱攪拌下に反応させるのが好ましい。加熱温度は、40〜120℃、より好ましくは50〜100℃であるのが一般的である。また、この反応は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基を必要する。これら無機塩基は公知のものが際限なく使用できるが、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルコール溶媒に良く溶けるものを用いるのが好ましい。これら塩基の存在量は、一般式(4)で示されるハロゲン化アルコール1当量に対して1.0〜2.5当量、より好ましくは1.0〜1.5当量であるのが好ましい。これら塩基は、1〜30質量%の溶液として、上記一般式(4)で示されるハロゲン化アルコールと一般式(5)で示されるアルキレンジアミンが溶解する反応溶液に滴下する等して徐々に加えるのが好ましい。
【0072】
この反応の反応溶媒は、一般式(4)で示されるハロゲン化アルコールや一般式(5)で示されるアルキレンジアミンの各原料を溶解可能であり、且つ反応を阻害しないものであれば、特に制限されずに公知の有機溶媒が使用できる。具体的には、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール溶媒が使用される。
【0073】
上記反応終了後、溶媒を留去して、必要により得られた粗生成物を再結晶等して精製することにより、前記一般式(6)で示される化合物を得ればよい。
【0074】
さらに、このようにして得た一般式(6)で示される化合物と一般式(7)で示されるハロゲン化物との反応は、特に制限されるものではないが、使用する一般式(7)で示されるハロゲン化物の種類(例えば、ハロゲン化メタクリロイルやハロゲン化アクリロイル)によっては3級アミンの存在下に実施するのが好ましい。3級アミンとしては、前記一般式(3)で示される化合物とハロゲン化ホスホリルとの反応で説明したものが、同様に好適に使用される。該3級アミンの使用量は、一般式(7)で示されるハロゲン化物1当量に対して1.0当量以上であること、より好ましくは1当量に対して1.0〜1.5当量であるのが効率的である。
【0075】
一般式(7)で示されるハロゲン化物は、前記したRで説明した各基を有し、Xとして塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を有する化合物が制限なく使用できる。
【0076】
これら一般式(6)で示される化合物と一般式(7)で示されるハロゲン化物の反応も、如何様に実施しても良いが、これらを反応溶媒中で、攪拌下に反応させるのが好ましい。反応温度は、0〜80℃、より好ましくは0〜60℃であるのが一般的である。また、この反応は、上記一般式(7)のハロゲン化物を1〜30%の溶液として、上記一般式(6)で示される化合物と3級アミンが溶解する反応溶液に滴下する等して徐々に加えるのが好ましい。
【0077】
この反応の反応溶媒は、好ましくは一般式(6)で示される化合物や一般式(7)で示されるハロゲン化物の各原料を溶解可能であり、且つ反応を阻害しないものであれば、特に制限されずに公知の有機溶媒が使用できる。具体的には、塩化メチレン、ジエチルエーテル、トルエン、N,N’−ジメチル−ホルムアミド等の有機溶媒が使用される。
【0078】
上記反応終了後、溶媒を留去して、必要により得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー等を用いて精製することにより、一般式(3)
【0079】
【化12】

【0080】
で示される化合物を得ればよい。
【0081】
このような一般式(6)で示される化合物と一般式(7)で示されるハロゲン化物の反応では、反応の途中で、目的物である一般式(3)で示される化合物以外に、一般式(8)
【0082】
【化13】

【0083】
で示される副生物が生成する場合がある。
【0084】
しかしながら、この一般式(8)で示される副生物が生成した場合には、これを無機塩基と反応させることにより、上記一般式(3)で示される化合物に変換することができる。この一般式(8)で示される副生物を一般式(3)で示される化合物へと変換する反応も、如何様に実施しても良いが、これらを反応溶媒中で、攪拌下に反応させるのが好ましい。反応温度は、0〜100℃、より好ましくは0〜80℃であるのが一般的である。また、この反応は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基を必要とし、これらを制限なく使用できる。これら塩基の添加量は、一般式(8)で示される化合物1当量に対して1.0〜20.0当量、より好ましくは1.0〜10.0当量であるのが好ましい。これら塩基は、好ましくは固体として、上記一般式(8)で示される化合物が溶解する反応溶液に加えるのが好ましい。
【0085】
この反応の反応溶媒は、一般式(8)で示される副生物を溶解可能であり、且つ反応を阻害しないものであれば、特に制限されずに公知の有機溶媒が使用できる。具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の水または低級アルコール溶媒が使用される。
【0086】
上記反応終了後、溶媒を留去して、必要により得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーを用いる等して精製することにより、前記一般式(3)で示される化合物を得ればよい。
【0087】
本発明のホスホノ基含有重合性化合物は、その優れたラジカル重合特性の他、該ホスホノ基が備えた親水性や酸性を生かして、種々の用途に使用可能である。好適には、上記ホスホノ基が備えた親水性や酸性は、歯の表面の脱灰機能や象牙質プライマーの浸透促進機能を発揮するため、歯科用接着材や歯科用接着プライマー等を用途とした歯科用組成物における重合性単量体成分として有効にに使用できる。こうした歯科用接着材や歯科用接着プライマーとして用いる場合の、該化合物の配合量は、組成物の全質量に対して、1〜50質量%の範囲が好ましく、5〜40質量%の範囲がより好ましく、10〜30質量%の範囲が最も好ましい。
【0088】
歯科用接着材として用いる場合、上記本発明の化合物には、重合開始剤と、必要に応じてフィラーが配合される。この重合開始剤としては、公知のものが制限無く使用できる。その中でも代表的な重合開始剤としては、有機過酸化物およびアミン類の組み合わせ,有機過酸化物類、アミン類、およびスルフィン酸塩類の組み合わせ,酸性化合物、およびアリールボレート類の組み合わせ,バルビツール酸,アルキルボラン等の化学重合開始剤;並びにアリールボレート類および光酸発生剤類の組み合わせ,α−ジケトン類および第三級アミン類の組み合わせ,アシルフォスフィンオキサイドおよび第三級アミン類の組み合わせ,チオキサントン類および第三級アミン類の組み合わせ,α−アミノアセトフェノン類および第三級アミン類の組み合わせ等の光重合開始剤、等が挙げられる。また、これら化学重合開始剤と光重合開始剤を併用し、化学重合と光重合のどちらによっても重合を開始させることの出来るデュアルキュアタイプとすることも可能である。
【0089】
上記各種化学重合開始剤に使用される各化合物として好適に使用できるものを以下に例示すると、有機過酸化物類としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジt−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を配合して使用することができる。
【0090】
アミン類としては、第二級または第三級アミン類が好ましく、具体的に例示すると、第二級アミンとしてはN−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン等が挙げられ、第三級アミンとしてはN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。これらは、単独または2種以上を配合して使用することができる。
【0091】
また、前記各種光重合開始剤に好適に使用される各種化合物を例示すると、α−ジケトン類としては、カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、p,p'−ジメトキシベンジル、p,p'−ジクロロベンジルアセチル、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等が挙げられる。
【0092】
第三級アミンとしては、化学重合開始剤の成分として例示したものと同じものが挙げられる。
【0093】
アシルフォスフィンオキサイド類としては、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0094】
上記重合開始剤の配合量は、公知の添加範囲が特に制限なく採用される。好適には、本発明の化合物100質量部に対して、0.01〜20質量部(好ましくは0.1〜8質量部)である。
【0095】
また、歯科用接着材に対してフィラーは、接着材の強度を向上させるために、必要に応じて配合すればよい。こうしたフィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラーおよび無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーなど公知のものが制限無く使用できる。
【0096】
無機系フィラーとしては、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al23、B23、TiO2、ZrO2、BaO、La23、SrO2、CaO、P25などを含有する、セラミックスおよびガラス類が例示される。ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好ましい。これらの外、結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好ましい。
【0097】
有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴムが例示される。
【0098】
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合性単量体にてコーティングしたものが例示される。
【0099】
硬化性、機械的強度、塗布性などを向上させるために、フィラーをシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0100】
フィラーは、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。その配合量は、歯科用接着材の具体的な接着対象によって異なる。例えば、歯科用接着材を充填用コンポジットレジン用の接着材として使用する場合のフィラーの配合量は、歯科用接着材の全質量に対して、0.1〜30質量%の範囲が好ましく、0.5〜20質量%の範囲がより好ましい。また、歯科用セメント組成物として使用する場合のフィラーの配合量は、セメント組成物の全質量に基づいて、30〜85質量%の範囲が好ましく、40〜80質量%の範囲がより好ましく、50〜75質量%の範囲が最も好ましい。
【0101】
上記本発明の化合物を用いた歯科用接着材を、前処理、すなわち、前記した酸水溶液による歯の表面の脱灰処理や象牙質プライマーへの透促処理(プライマー処理)の少なくとも一方を行わないで使用する場合、特に、その両方の処理を行わない1ステップシステム型の接着材として使用する場合、水を配合することが好ましい。水は、一般に、歯質に対する酸性基含有重合性単量体の脱灰作用を促進するとともに、接着材の歯質への浸透性を向上させる。使用に際しては接着性に悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有しないものを使用する必要がある。そのため、蒸留水またはイオン交換水が好ましい。
【0102】
水の配合量は、組成物の全質量に対して、0.01〜70質量%の範囲が好ましく、0.05〜50質量%の範囲がより好ましく、0.1〜30質量%の範囲が最も好ましい。この水の配合量が過多および過少いずれの場合も接着性が低下することがある。
【0103】
本発明の化合物を接着成分とする歯科用接着材は、歯質のみならず、口腔内で破折した歯冠修復材料(金属、陶材、セラミックス、コンポジットレジン硬化物など)に対しても優れた接着力を発現する。本発明に係る歯科用接着材を破折した歯冠修復材料の接着に用いる場合は、本発明に係る歯科用接着材を、市販の金属接着用プライマー、陶材接着用プライマー等のプライマーや次塩素酸塩、過酸化水素水等の歯面清掃剤と組み合わせて用いてもよい。
【0104】
本発明のホスホノ基含有重合性化合物を含んで成る歯科用組成物を歯科用接着プライマー組成物として用いる場合、該本発明の化合物は、揮発性有機溶媒に溶解されて使用される。この揮発性有機溶媒としては、室温で揮発性を有するものであれば公知の有機溶媒が何等制限なく使用できる。ここで言う揮発性とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。
【0105】
このような揮発性有機溶媒として具体的に例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレン、ヘキサン、酢酸エチルなどが挙げられる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する為害性を考慮すると、エタノール、プロパノール又はアセトンが好ましい。
【0106】
本発明の化合物を用いた歯科用接着プライマーにおける揮発性有機溶媒の配合量は、上記のように配合される各成分が均一となる程度であれば良いが、一般的には組成の全質量に対して、15〜60質量%である。好ましくは20〜50質量%である。
【0107】
また、歯科用接着プライマーには、必要に応じて水を配合することが好ましい。該水は、前記に説明したものと同様のものが用いられる。その配合量は、組成の全質量に基づいて、0.01〜70質量%の範囲が好ましく、0.05〜40質量%の範囲がより好ましく、0.1〜15質量%の範囲が最も好ましい。同配合量が過多および過少いずれの場合も接着性が低下することがある。
【0108】
この他、本発明の化合物を含んでなる前記歯科用接着材や歯科用接着プライマー等の歯科用組成物には、必要に応じて、歯科用組成物の配合成分として公知の他の成分、例えば、他の酸性基含有ラジカル重合性単量体、酸性基を有しないラジカル重合性単量体、紫外線吸収剤、重合禁止剤、重合抑制剤、染料、顔料などが配合されていてもよい。また、揮発性水溶性有機溶媒は、歯科用接着材にも適宜配合可能である。
【0109】
以上説明した歯科用組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の歯科用組成物の製造方法に従えばよく、一般的には、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合すればよい。
【実施例】
【0110】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下で用いる略記号、略称は次の通りである。
【0111】
[酸性基含有重合性単量体]
PM;2−メタクリロイロキシエチル ジハイドロジェンホスフェート(PM1)とビス(2−メタクリロイロキシエチル)ハイドロジェンホスフェート(PM2)の混合物
MDP;10−メタクリルオキシデシルリン酸
MAC−10;11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸
4−META;4−メタクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物
ホスホン酸;N,N'−ジメタクリロイル−N,N'−ジ(オクチルジヒドロキシホスホリル)−エチレンジアミン
[重合性単量体]
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
TMPT;トリメチロールプロパントリメタクリレート
D−2,6E;ビスフェノールAポリエトキシメタクリレート
[重合開始剤]
CQ;カンファーキノン
DMBE;4−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
[重合禁止剤]
HQME;ヒドロキノンモノメチルエーテル
[フィラー]
シランカップリング剤で表面処理したシリカ−チタニア粒子
実施例1
〔N,N’−ジウンデカノール-エチレンジアミンの製造〕
三つ口反応容器中、250mlエタノール中に11−ブロモ−1−ウンデカノール24.50g(97.5ミリモル)を溶かし、そこにエチレンジアミン2.83g(47.1ミリモル)と指示薬としてチモールブルーを適量加え、撹拌しリフラックスさせた。その反応溶液中に水酸化ナトリウム3.96g(99.0ミリモル)をエタノール150mlに溶かした溶液を、指示薬の色を見ながら滴下させた。24時間リフラックス下で反応させた後、減圧下にて溶媒を留去した。溶媒留去後、よく水洗して残留水酸化ナトリウムや生成した塩を除去し、得られた粗生成物をメタノールより再結晶した。
【0112】
以上により得られた結晶を、H−NMRにより同定したところ下記の吸収が確認され、N,N’−ジウンデカノール−エチレンジアミンが製造されたことが確認された。収量6.784gであり、収率40.0%であった。
H−NMR(500MHz、d1−CDCl、ppm):
1.20〜1.35(m、17H、−CH−CH−CH、−NH−)、1.44〜1.49(m、2H、−NH−C−)、1.53〜1.59(m、2H、−C−CH−OH)、2.57〜2.60(t、2H、−NH−C−)、2.71(s、1H、−OH)、3.62 〜3.64(t、2H、−C−OH)
〔N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジウンデカノール−エチレンジアミンの製造〕
三つ口反応容器中で、前工程で製造されたN,N’−ジウンデカノール−エチレンジアミン8.50g(21.2ミリモル)を200mlのトルエンに加えて撹拌し、氷浴しながらトリエチルアミン5.50g(54.4ミリモル)を加えた。同じく氷浴中で、塩化メタクリロイル4.76g(45.5ミリモル)をトルエン100mlに溶かした溶液を、ゆっくりと滴下した。そのまま12時間撹拌した後、反応溶液の溶媒を減圧下にて留去し、真空乾燥する。得られた生成物をメタノール中に溶解させ、炭酸カリウム6.00g(43.4ミリモル)を加えて室温で撹拌した。5時間撹拌した後、炭酸カリウムを濾過して除き、反応溶液の溶媒を減圧下にて留去した。この粗生成物を塩化メチレンに溶解させ、0.1N HCl水溶液にて5回洗浄した。有機相を取り出し、シリカゲルにて溶液を乾燥した後シリカゲルを濾別、溶媒を減圧下で留去し真空乾燥した。
【0113】
以上により得られた白色結晶を、H−NMRにより同定したところ下記の吸収が確認され、N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジウンデカノール−エチレンジアミンが製造されたことが確認された。収量8.08gであり、収率71.0%であった。
H−NMR(500MHz、d−CDCl、ppm):
1.27〜1.34(m、14H、−CH−CH−CH−)、1.53〜1.59(m、4H、−C−CH−OH、−C−CH−N−)、1.95(s、3H、C−C(CH)−)、3.32〜3.38(m、2H、N−CH)、3.52〜3.56(m、2H、N−CH)、3.62〜3.64(t、2H、−C−OH)、5.00と5.15(それぞれs、2H、CH=C)。
〔N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン;化合物1)の製造〕
四つ口反応容器中でメカニカルスターラーを用いて撹拌下、トルエン200ml中に塩化ホスホリル5.66g(36.9ミリモル)を溶解させた。−40℃にて、前工程で製造されたN,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジウンデカノール-エチレンジアミン7.48g(13.9ミリモル)とトリエチルアミン4.42g(43.7ミリモル)をトルエン100mlに溶解させた溶液を、この塩化ホスホリル溶液に1時間かけてゆっくりと滴下し、その後−20℃にて1時間撹拌した。
【0114】
さらに0℃に昇温し、蒸留水を30ml(1.67モル)加えて時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を0.4N塩酸水溶液で3回、0.2%食塩水で3回、蒸留水で5回洗浄し分液した。その反応溶液を、シリカゲルを用いて乾燥させた。シリカゲルを濾過して除去した後、安定剤(重合禁止剤)としてHQMEを生成物に対して1000ppm添加し減圧下にて溶液を濃縮した。その後真空乾燥し、収量3.53g、収率36.3%で淡黄色の高粘性液体を得た。
【0115】
この単離生成物を下記構造解析手段により分析し、このものがN,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン
【0116】
【化14】

【0117】
であることを確認した。
・元素分析:
この生成物の元素分析値は、C54.04%であり、H8.78%であり、N4.13%であり、この化合物の計算値であるC55.16%であり、H8.97%であり、N4.02%とよく一致した。
・IR(1回反射ATR、cm−1):
1018(b)、1260(b)、1619(s)、1644(s)、2854(s)、2924(s)
H−NMR(500MHz、d−CDCl、ppm):
1.24〜1.28(m、14H、−CH−CH−CH−)、1.54〜1.58(m、2H、−C−CH−N−)、1.64〜1.69(m、2H、−C−CH−O)、1.95(s、3H、C−C(CH)−)、2.35(s、2H、(OP=O)、3.33〜3.37(m、2H、N−CH)、3.51〜3.55(m、2H、N−CH)、4.01〜4.05(t、2H、−C−O)、5.00と5.15(それぞれs、2H、CH=C)。
31P-NMR(202.35MHz、d−CDCl、ppm):
1.12(s、(OH)=O)
実施例2〜24
実施例1において、〔N,N’−ジウンデカノール-エチレンジアミンの製造〕工程におけるアルキレンジアミンとハロゲン化アルコール、および〔N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミンの製造〕工程におけるR導入のためのハロゲン化物として、それぞれ表1〜5に示した化合物を用いた以外は、実施例1と同様に実施してホスホノ基含有重合性化合物〔化合物2)〜24)〕を製造した。得られた最終生成物であるホスホノ基含有重合性化合物の各全体収率を表1〜5併せて示した。
【0118】
また、この得られた最終生成物について、実施例1と同様の構造確認手段を用いて構造解析した結果、下記化合物であることを確認した。表6〜7に、各化合物の元素分析値、構造式から求めた計算値、およびH−NMRスペクトルの特徴的ピークを示した。
2);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、
3);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、
4);N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ペンタデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、
5);N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ヘプチルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、
6);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(オクタデシルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、
7);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(デシルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、
8);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘプチルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、
9);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(プロピルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、
10);N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(プロピルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン
11);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、
12);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ペンチルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、
13);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ブチルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、
14);N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ノニルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、
15);N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(エチルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン、
16);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−p−フェニレンジアミン、
17);N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−p−フェニレンジアミン、
18);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−o−フェニレンジアミン、
19);N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−o−フェニレンジアミン、
20);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−m−フェニレンジアミン、
21);N,N’−ジアクリロイル−N,N’−ジ(ヘキシルジハイドロジェンホスフェート)−m−フェニレンジアミン、
22);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(フェニルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン、
23);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ベンジルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミン、
24);N,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ピリジニルジハイドロジェンホスフェート)−ヘキサメチレンジアミン
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
【表3】

【0122】
【表4】

【0123】
【表5】

【0124】
【表6】

【0125】
【表7】

【0126】
実施例25
〔N,N’−ジスチリル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン;化合物25)の製造〕
ハロゲン化アルコールとして8−ブロモ−1−オクタノールを用いて、実施例1における〔N,N’−ジウンデカノール-エチレンジアミンの製造〕工程に準じた方法により合成したN,N’−ジオクタノール−エチレンジアミン5.30g(16.7ミリモル)を250mlの無水エタノール中に溶解させた。65℃に加温して激しく撹拌しながら、4−塩化スチレン5.62g(36.7ミリモル)を10分かけて加えた。系を65℃に保ち、5時間加熱撹拌した。その後反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液を減圧下にて濃縮した。得られた固体を少量の無水エタノールで洗浄し、乾燥した。これを少量の無水ベンゼンで洗浄し、真空下で乾燥し、収量6.15g、収率66.9%にて白色固体が得られた。
【0127】
この固体6.15g(11.2ミリモル)を実施例1における〔N,N’−ジメタクリロイル-N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミンの製造〕工程に準じた合成法にてリン酸エステル化したところ、収量3.54g、収率42.9%で淡黄色の高粘性液体を得た。
【0128】
この単離生成物を下記構造解析手段により分析し、このものがN,N’−ジスチリル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン
【0129】
【化15】

【0130】
であることを確認した。
・元素分析:
この生成物の元素分析値は、C60.48%であり、H8.04%であり、N4.14%であり、この化合物の計算値であるC59.99%であり、H8.00%であり、N4.12%とよく一致した。
H−NMR(500MHz、d−CDCl、ppm):
1.20〜1.28(b、14H、−CH−CH−CH−、N−CH)、1.65〜1.69(m、2H、−C−CH−O)、2.05〜2.10(b、2H、Ph−C)、2.38(s、2H、(OP=O)、4.01〜4.06(t、2H、−C−O)、5.09〜5.78(それぞれs、3H、C=C)、6.46〜7.39(m、4H、−C
31P-NMR(202.35MHz、d−CDCl、ppm):1.64(s、(O=O)
実施例26
実施例25において、アルキレンジアミンとしてテトラメチレンジアミンを使用しN,N’−ジオクタノール−テトラメチレンジアミンを中間性生物として製造し、これを4−塩化スチレンに代えて塩化ビニルと反応させる以外は、実施例25と同様に実施してN,N’−ジビニル−N,N’−ジ(オクチルジハイドロジェンホスフェート)−テトラメチレンジアミンを製造した。その全体収率は表8に示したとおり14.8%であった。
【0131】
また、この得られた最終生成物について、実施例1と同様の構造確認手段を用いて構造解析した結果、上記化合物であることを確認した。表9に、各化合物の元素分析値、構造式から求めた計算値、およびH−NMRスペクトルの特徴的ピークを示した。
【0132】
【表8】

【0133】
【表9】

【0134】
参考例1
比較対象として、N,N'−ジメタクリロイル−N,N'−ジ(オクチルジヒドロキシホスホリル)−エチレンジアミン(以下ホスホン酸と示す)を、以下の方法により合成した。
〔N−[8−(ジエトキシホスホリル)−オクチル]メタクリロイルアミドの製造〕
8.15g(43.1ミリモル)の(8−アミノオクチル)ホスホン酸ジエチルエステルの150ml塩化メチレン溶液に、温度が0〜5℃に保たれるように6.31g(60.3ミリモル)塩化メタクリロイルの50ml塩化メチレン溶液および2.41g(60.3ミリモル)水酸化ナトリウムの50ml水溶液を攪拌しながら同時に加えた。その後、前記混合物を室温でさらに2時間攪拌した。反応を100mlの水の添加により終了させた。
【0135】
層を分離させるために、適量の塩化ナトリウムを加えた。有機相を分離し、水相から塩化メチレンで2回抽出した。有機相を1N HCl水溶液で5回、1N NaHCO水溶液で5回、および水で5回洗浄した。シリカゲルで乾燥して、ろ過し、溶液に生成物に対して1000ppmのHQMEを添加した後、溶媒を留去することにより、粗生成物として黄色の高粘性液体を得た。最終精製として、溶出液として酢酸エチルを用いてこの物質のシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った(R=0.31)。これにより、7.33g(収率:51%)の黄色の高粘性液体を得た。
〔N−[8−(ジヒドロキシホスホリル)−オクチル]メタクリロイルアミドの製造〕
8.08g(52.8ミリモル)臭化トリメチルシリルを、前工程で得られた7.33g(22.0ミリモル)のN−[8−(ジエトキシホスホリル)−オクチル]メタクリロイルアミドの50ml塩化メチレン溶液に攪拌しながら室温で滴下した。続いてこの反応溶液をリフラックス下で4時間撹拌した。その後溶媒を留去し、残渣をメタノールに溶解した。この溶液を室温で16時間攪拌した。次に溶媒を留去し、残った高粘性液体をトルエンに溶解させ、このトルエン溶液を塩化メチレンで2回洗浄した後、生成物に対して1000ppmのHQMEを添加し、減圧濃縮した。この物質を真空下にて乾燥後、濃黄色に着色した高粘性液体を5.49g(収率:90%)得た。
〔N,N'−ジメタクリロイル−N,N'−ジ(オクチルジヒドロキシホスホリル)−エチレンジアミン(ホスホン酸)の製造〕
前工程で得たN−[8−(ジヒドロキシホスホリル)−オクチル]メタクリロイルアミド5.49g(19.8ミリモル)を300mlの反応容器内で50mlのエタノールに溶解させ、その溶液にジブロモエタン1.69g(9.0ミリモル)を添加し、反応溶液をリフラックスさせた。この反応溶液に、水酸化ナトリウム0.76g(18.9ミリモル)をエタノール50mlに溶解させた溶液を、8時間かけて滴下した。リフラックス下で20時間撹拌を続けた後、加熱、撹拌を止めた。反応溶液をエバポレートして濃縮し、得られた黄色の高粘性液体をジエチルエーテルに溶解させた。この溶液を濃塩酸で3回洗浄し、2%塩化ナトリウム水溶液で5回、水で5回洗浄した。その後ヘキサンで5回洗浄し、有機相をシリカゲルで乾燥した後、シリカゲルをろ過し、有機相をエバポレートして濃縮した。これを真空乾燥することで、濃黄色に着色した高粘性液体1.14g(収率10.0%)を得た。
【0136】
この単離生成物を下記構造解析手段により分析し、このものがN,N'−ジメタクリロイル−N,N'−ジ(オクチルジヒドロキシホスホリル)−エチレンジアミン
【0137】
【化16】

【0138】
であることを確認した。
・IR(1回反射ATR、cm−1):
1308cm−1(b)、1677cm−1(s)
H−NMR(500MHz、d−CDCl、ppm):
1.25〜1.29(m、10H、−CH−CH−CH−)、1.53〜1.57(m、2H、−C−CH−N−)、1.77〜1.99(m、2H、C−P)、1.98(s、3H、C−C(CH)−)、2.41(s、2H、(OP=O)、3.31〜3.35(m、2H、N−CH)、3.50〜3.55(m、2H、N−CH)、5.05と5.20(それぞれs、2H、CH=C)
31P−NMR(202.35MHz、d−CDCl、ppm):11.30(s、(OH)=O)
実施例27
実施例1で製造したN,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン(化合物1)を2g、MAC−10を1g、D−2,6Eを1.5g、3Gを1.5g、HEMAを3g、水を1g、CQを50mg、DMBEを50mg、及びフィラーを2g混合し歯科用接着材を製造した。
この歯科用接着材について下記の方法により、歯質に対する接着性を評価した。結果は、接着初期の引張り強さはエナメル質に対して17.3MPa、象牙質に対しては17.5MPaを示し、接着耐久性試験後の引張り強さはエナメル質に対して17.2MPa、象牙質に対しては17.0MPaを示した。

〔歯科用接着材の歯質に対する接着試験〕
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に本発明の歯科用接着材を10秒間擦り塗布し、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。次に、可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し接着材を硬化させた。更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライト(株)トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射し、接着試験片を作製した。
【0139】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を初期接着強度とした。
また、37℃の水中に24時間浸漬した上記接着試験片を熱サイクル試験機(サーマルショックテスター、トーマス社製)にて3000回、4度の冷水と60度の湯水を往復させた後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を、接着耐久性を示す接着強度とした。
【0140】
また、上記接着耐久性試験を行った試験片の、引張り試験後の破断面を目視で観察し、歯面の着色の有無を調べた。
実施例28〜52、比較例1〜3
実施例2〜26で製造した化合物2)〜26)のホスホノ基含有重合性化合物を用いて、実施例27と同様の方法にて同様の組成(表10)の歯科用接着材(量は質量部)を調製した。
【0141】
【表10】

【0142】
また、本発明のホスホノ基含有重合性化合物を用いた接着材との比較を示すために、参考例1で合成したホスホン酸、他の比較対象としてMDPおよびPMを用いて同じ組成の歯科用接着材を調製し、比較に用いた(比較例1〜3)。
【0143】
それぞれの歯科用接着材について歯質に対する接着性を評価した結果を表11〜12に示した。本発明のホスホノ基含有重合性化合物を用いた歯科用接着材のいずれにおいても、高い初期接着強度に加えて優れた接着耐久性が得られた。
【0144】
【表11】

【0145】
【表12】

【0146】
実施例53
実施例1で製造したN,N’−ジメタクリロイル−N,N’−ジ(ウンデシルジハイドロジェンホスフェート)−エチレンジアミン(化合物1)を2g、水を3g、アセトンを5g混合して歯科用接着プライマーを製造した。
【0147】
この歯科用接着プライマーについて下記の方法により、歯質に対する接着性を評価した。結果は、接着初期の引張り強さは17.1MPaを示し、接着耐久性試験後の引張り強さは17.0MPaを示した。

〔歯科用接着プライマーの歯質に対する接着試験〕
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に表13の組成の歯質用接着プライマー組成物を10秒間スポンジにて塗布し、これを30秒間静置した後圧縮空気を約10秒間吹き付けた。その後、メチルメタクリレート(80質量部)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(20質量部)、N,N−ジメチル−p−トルイジン(3質量部)、ポリメチルメタクリレート(130質量部)、過酸化ベンゾイル(2質量部)から成る接着性レジンセメントを模擬窩洞内に充填した後、その上からあらかじめ「MRボンド(トクヤマ製)」で処理した直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して、接着試験片を作製した。
【0148】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
実施例54〜66
前記実施例で製造した表14〜15に示したホスホノ基含有重合性化合物を用いて、実施例53と同様の方法にて同様の組成(表13)の歯科用接着プライマー(量は質量部)を調製した。
【0149】
【表13】

【0150】
また、本発明のホスホノ基含有重合性化合物を用いた歯科用接着プライマーとの比較を示すために、参考例1で合成したホスホン酸および、他の比較対象としてMDPおよびPMを用いて同じ組成の歯科用接着プライマーを調製し、比較に用いた(比較例4〜6)。
【0151】
それぞれの歯科用接着プライマーについて歯質に対する接着性を評価した結果を表14に示した。本発明のホスホノ基含有重合性化合物を用いた歯科用接着プライマーのいずれにおいても、高い接着強度に加えて優れた接着耐久性が得られた。
【0152】
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

〔式中、Rは炭素数1〜20の鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の脂環炭化水素基、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、または炭素とヘテロ原子の合計原子数5〜10の複素環基であり、Rは炭素数2〜8のラジカル重合性基含有基であり、Rは炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数3〜8の脂環炭化水素基、または炭素数6〜8の芳香族炭化水素基である。〕
で表されるホスホノ基含有重合性化合物。
【請求項2】
のラジカル重合性基が、スチリル基、ビニル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基である請求項1記載のホスホノ基含有重合性化合物。
【請求項3】
一般式(2)
【化2】

〔式中、Aは水素またはメチル基であり、lは2〜12の整数であり、mは1〜8の整数である。〕
で示される、請求項1記載のホスホノ基含有重合性化合物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載のいずれかのホスホノ基含有重合性化合物、及び重合開始剤を含んでなることを特徴とする歯科用接着材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3に記載のいずれかのホスホノ基含有重合性化合物、および揮発性有機溶媒を含んでなることを特徴とする歯科用接着プライマー。
【請求項6】
一般式(3)
【化3】

〔式中、Rは炭素数1〜20の鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の脂環炭化水素基、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、または炭素とヘテロ原子の合計原子数5〜10の複素環基であり、Rは炭素数2〜8のラジカル重合性基含有基であり、Rは炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数3〜8の脂環炭化水素基、または炭素数6〜8の芳香族炭化水素基である。〕
で示される化合物を、3級アミンの存在下にハロゲン化ホスホリルと反応させることを特徴とする請求項1記載のホスホノ基含有重合性化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−161622(P2007−161622A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357801(P2005−357801)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】