説明

ホルムアルデヒド検出用試薬及びホルムアルデヒド検出センサー

【課題】簡便な取り扱い性と鋭敏な検出感度を兼ね備えたホルムアルデヒド検出センサーを提供すること。
【解決手段】一般式[I]で示される化合物を用いたホルムアルデヒド検出用試薬、及びこの化合物を多孔質シート中に含有させたホルムアルデヒド検出センサー。一般式[I]において、Arは、アリール基、あるいはヘテロ環置換基を示し、Rは、アルキル基あるいはアラルキル基を示す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材、家具の接着剤、塗料等に含有され、シックハウス症候群の原因物質とされているホルムアルデヒドを検出するための試薬及びそれを利用したホルムアルデヒドセンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒドは、反応性に富む化合物で、接着剤や塗料に含まれる揮発性の化学物質である。このホルムアルデヒドは有用な工業原料ではあるが、シックハウス症候群の原因物質の一つとして問題視されている。日本国内では、1997年に、世界保健機構(WHO)の基準を元に、健康に害が及ばないホルムアルデヒドの室内濃度指針値は0.08ppm以下と決められている。
【0003】
ホルムアルデヒドの室内濃度を測定する方法としては、検知管法、吸光光度法(比色法)、化学発光法等の種々の分析方法が知られている(例えば、非特許文献1〜2、特許文献1〜2参照)。これらの方法は厳密な分析結果を得ることができる反面、分析機器の操作が煩雑であること、精密な分析装置と高度な技術が必要であること、反応に用いる薬品自体に環境上問題があること等、種々の問題があり、簡便な操作でホルムアルデヒドの室内濃度を測定する方法が切望されている。
【0004】
近年、ホルムアルデヒドの検出方法がいくつか提案されているが、簡便な取り扱い性と鋭敏な検出感度を兼ね備えた方法は未だ提案されていないのが実情である(例えば、特許文献3〜4参照)。
【特許文献1】特開2005−274288号公報
【特許文献2】特開2001−356117号公報
【特許文献3】特開2005−3673号公報
【特許文献4】特許第3828427号公報
【非特許文献1】「検知管式測定器について」、[online]、株式会社ガステック、[平成19年4月18日検索]、インターネット<URL:http://www.gastec.co.jp/reference/c4-con.htm>
【非特許文献2】百瀬勉著、「有機定性分析」、第四改稿版、廣川書店、昭和57年9月15日、p.185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、鋭敏な検出感度を有するホルムアルデヒド検出用試薬を提供すること、また、それを利用した簡便な取り扱い性と鋭敏な検出感度を兼ね備えたホルムアルデヒド検出センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一般式[I]で示される化合物を用いてホルムアルデヒド検出用試薬及びホルムアルデヒド検出センサーを得ることによって、目標を達成することができた。
【0007】
【化1】

【0008】
一般式[I]において、Arは、アリール基あるいはヘテロ環置換基を示し、Rは、アルキル基あるいはアラルキル基を示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、一般式[I]で示される化合物を用いることにより、簡便な取り扱い性と鋭敏な検出感度を兼ね備えたホルムアルデヒド検出センサー及びホルムアルデヒド検出センサーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
一般式[I]で示される化合物の詳細について説明する。
【0011】
一般式[I]において、Arはアリール基あるいはヘテロ環置換基を示す。Arの具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−フェナントリル基、1−ピレニル基等のアリール基、2−ピリジル基、4−ピリジル基、2−ピラジル基、3−ピリダジル基、2−キノリニル基等のヘテロ環置換基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
一般式[I]において、Rはアルキル基あるいはアラルキル基を示す。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
次に、本発明の一般式[I]の化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
一般式[I]において、Arがアリール基の化合物については、公知の方法(例えば、E.Knoevenagel.、Chemische Berichte、36巻、1903年、p.2180〜2190に記載の方法、Claudete J.Valduga et al.、Synthesis、1998年版、p.1019〜1022に記載の方法)によって容易に合成できる。
【0018】
一般式[I]において、Arがヘテロ環置換基の化合物についても、公知の方法(例えば、Michael M.Robinson et al.、Journal of Organic Chemistry、31巻、1966年、p.3206〜3213に記載の方法と、Robert Levine et al.、Journal of American Chemical Society、73巻、1951年、p.5614〜5616に記載の方法)を組み合わせることによって容易に合成できる。
【0019】
一般式[I]で示される化合物は、ホルムアルデヒドと反応して、呈色する。例示化合物(A−1)を用いて、この反応機構を以下に示す。例示化合物(A−1)2分子とホルムアルデヒド1分子が縮合閉環反応を起こした結果、化合物B(ジヒドロピリジン誘導体)が生成する。化合物Bは黄色化合物である。
【0020】
【化5】

【0021】
一般式[I]で示される化合物のように、−CO−CH=C(NH)−を分子内に有する化合物は、ホルムアルデヒドと反応して、黄色化合物を生成する。このような化合物としては、例えば、公知のホルムアルデヒド検出用試薬「Fluoral−P(商品名)」(東京化成工業社製、4−アミノ−3−ペンテン−2−オン)がある。Fluoral−Pは、ホルマリンの検出感度は優れているが、熱力学的に不安定な化合物であるため、経時保存性に優れた簡便なホルマリン検出用試薬としては不適切である。本発明では、ホルムアルデヒドとの化学反応速度が迅速で、経時保存性に優れ、かつ、生成したジヒドロピリジン誘導体の保存安定性にも優れたホルマリン検出用試薬として、一般式[I]で示される化合物を提供することが可能となった。
【0022】
一般式[I]で示される化合物とホルムアルデヒドとの反応によって生じるジヒドロピリジン誘導体は、ジヒドロピリジン環の2位と6位の置換基が、立体的な混み合いの少ないアルキル基、あるいはアラルキル基である。また、ジヒドロピリジン環の3位と5位の置換基が電子吸引性であるため、ジヒドロピリジン環が形成されるときの反応速度が大きく、かつ、ジヒドロピリジン誘導体の保存安定性が優れている。
【0023】
本発明のホルムアルデヒド検出センサーは、一般式[I]で示される化合物を多孔質シートに含有させたものである。多孔質シートとしては、不織布、紙、織物、編物、多孔質フィルム、成型ボード等が使用できる。その材料には、特に制限はなく、パルプ、レーヨン等のセルロース、合成樹脂繊維、無機繊維、合成樹脂粒子、無機粒子等が挙げられるが、本発明の化合物との親和性が良いこと、安価なことの両面から、紙が特に好ましい。
【0024】
多孔質シートに含有させる方法としては、一般式[I]で示される化合物を有機溶媒に溶解させた溶液を各種の塗布法で多孔質シートに塗布方法、あるいは多孔質シートを溶液中に含浸させる方法等を挙げることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、THF、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル類、DMF等の種々の有機溶媒を単独、あるいは混合して使用できる。
【0025】
一般式[I]で示される化合物を含有させた多孔質シートは、有機溶媒を完全に蒸発させた乾燥状態でホルムアルデヒド検出センサーとして使用することができる。なお、ホルムアルデヒドを効率的に吸収するために、ホルムアルデヒドの検出を行う際に、予め高沸点の有機溶剤や水を本発明のホルムアルデヒド検出センサーに含有させてからホルムアルデヒド検出センサーとして使用しても良い。
【実施例】
【0026】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0027】
実施例1
例示化合物(A−1)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、水30mlを加えてホルムアルデヒド検出用試薬を作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で、このホルムアルデヒド検出用試薬に吹き込むと、吹き込み開始から1分後にホルムアルデヒド検出用試薬は黄色に変色した。
【0028】
実施例2
例示化合物(A−1)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、pH=5.6のリン酸二水素カリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液3gを加えて含浸用溶液を調製した。この含浸用溶液に濾紙(商品名:No.2、Advantec製)を含浸した後、70℃で1時間加熱乾燥してホルムアルデヒド検出センサーを作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で、このセンサーに吹き付けることにより、吹き付け開始から5分後にセンサー表面がはっきりと視認できる程度に黄色に着色した。さらに、この発色したホルムアルデヒド検出センサーをホルムアルデヒド蒸気の存在しない室内で12時間保管した後に、センサー表面を観察したところ、黄色の着色が維持されていた。
【0029】
(比較例1)
比較化合物(C−1)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、pH=5.6のリン酸二水素カリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液3gを加えて含浸用溶液を調製した。この含浸用溶液に濾紙(商品名:No.2、Advantec製)を含浸した後、70℃で1時間加熱乾燥してホルムアルデヒド検出センサーを作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で、このセンサーに吹き付けたところ、吹き付け開始から黄色に着色するまでに、10分必要であった。さらに、この発色したセンサーをホルムアルデヒド蒸気の存在しない室内で12時間保管した後に、センサー表面を観察したところ、無色に戻っていた。
【0030】
【化6】

【0031】
実施例3
例示化合物(B−1)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、水30mlを加えてホルムアルデヒド検出用試薬を作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で、このホルムアルデヒド検出用試薬に吹き込むと、吹き込み開始から1分後に検出用試薬は黄色に変色した。
【0032】
実施例4
例示化合物(B−1)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、pH=5.6のリン酸二水素カリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液3gを加えて含浸用溶液を調製した。この含浸用溶液に濾紙(商品名:No.2、Advantec製)を含浸した後、70℃で1時間加熱乾燥してホルムアルデヒド検出センサーを作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で、このセンサーに吹き付けたところ、吹き付け開始から5分後にセンサー表面がはっきりと視認できる程度に黄色に着色した。さらに、この発色したセンサーをホルムアルデヒド蒸気の存在しない室内で12時間保管した後に、センサー表面を観察したところ、黄色の着色が維持されていた。
【0033】
(比較例2)
比較化合物(C−2)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、pH=5.6のリン酸二水素カリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液3gを加えて含浸用溶液を調製した。この含浸用溶液に濾紙(商品名:No.2、Advantec製)を含浸した後、70℃で1時間加熱乾燥してホルムアルデヒド検出センサーを作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で、このセンサーに吹き付けたところ、吹き付け開始から黄色に着色するまでに10分必要であった。さらに、この発色したセンサーをホルムアルデヒド蒸気の存在しない室内で12時間保管した後に、センサー表面を観察した所、無色に戻っていた。
【0034】
【化7】

【0035】
実施例5
例示化合物(A−1)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、pH=5.6のリン酸二水素カリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液3gを加えて含浸用溶液を調製した。この含浸用溶液をガラス製サンプル瓶に入れて密栓し、50℃で一週間加温保存した。保存液を室温に冷却後、濾紙(商品名:No.2、Advantec製)を含浸し、70℃で1時間加熱乾燥してホルムアルデヒド検出センサーを作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で、このセンサーに吹き付けることにより、吹き付け開始から5分後にセンサー表面がはっきりと視認できる程度に黄色に着色した。さらに、この発色したホルムアルデヒド検出センサーをホルムアルデヒド蒸気の存在しない室内で12時間保管した後に、センサー表面を観察したところ、黄色の着色が維持されていた。
【0036】
実施例6
例示化合物(B−1)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、pH=5.6のリン酸二水素カリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液3gを加えて含浸用溶液を調製した。この含浸用溶液をガラス製サンプル瓶に入れて密栓し、50℃で一週間加温保存した。保存液を室温に冷却後、濾紙(商品名:No.2、Advantec製)を含浸し、70℃で1時間加熱乾燥してホルムアルデヒド検出センサーを作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で、このセンサーに吹き付けることにより、吹き付け開始から5分後にセンサー表面がはっきりと視認できる程度に黄色に着色した。さらに、この発色したホルムアルデヒド検出センサーをホルムアルデヒド蒸気の存在しない室内で12時間保管した後に、センサー表面を観察したところ、黄色の着色が維持されていた。
【0037】
(比較例3)
「Fluoral−P(商品名)」(東京化成工業社製、4−アミノ−3−ペンテン−2−オン)0.3gをエタノール29.7gに溶解し、pH=5.6のリン酸二水素カリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液3gを加えて含浸用溶液を調製した。この含浸用溶液をガラス製サンプル瓶に入れて密栓し、50℃で一週間加温保存した。保存液を室温に冷却後、濾紙(商品名:No.2、Advantec製)を含浸し、70℃で1時間加熱乾燥してホルムアルデヒド検出センサーを作製した。0.2ppmのホルムアルデヒド濃度を有する空気を、エアーポンプを用いて毎分500mlの流量で12時間、このセンサーに吹き付けを行ったが、Fluoral−Pが分解しているため、黄色への変色は全く観察されなかった。
【0038】
実施例7
実施例2で作製したホルムアルデヒド検出センサーを、ホルムアルデヒド濃度が0.1ppmの密閉された室内の壁に張り付け、12時間保存した。12時間後のセンサー表面を観察したところ、淡黄色に変色していた。
【0039】
実施例8
実施例4で作製したホルムアルデヒド検出センサーを、ホルムアルデヒド濃度が0.1ppmの密閉された室内の壁に張り付け、12時間保存した。12時間後のセンサー表面を観察したところ、淡黄色に変色していた。
【0040】
実施例1〜8、比較例1〜3から明らかなように、一般式[I]で示される化合物を用いることにより、鋭敏な検出感度を有するホルムアルデヒド検出用センサーを提供できることがわかる。また、実施例7〜8から明らかなように、本発明のホルムアルデヒド検出センサーを室内に設置することにより、操作の煩雑な装置を何ら用いることなしに、室内空気中のホルムアルデヒドの存在を検出することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のホルムアルデヒド検出用試薬は、多孔質シートに含有させて使用する以外に、溶液、ゲル状物の形態でも、ホルムアルデヒド検出センサーとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]で示される化合物を含有するホルムアルデヒド検出用試薬。
【化1】

(一般式[I]において、Arは、アリール基、あるいはヘテロ環置換基を示し、Rは、アルキル基あるいはアラルキル基を示す。)
【請求項2】
多孔質シート中に前記一般式[I]で示される化合物を含有させてなるホルムアルデヒド検出センサー。

【公開番号】特開2009−8484(P2009−8484A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168989(P2007−168989)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】