説明

ホルムアルデヒド検知素子

【課題】空気中に含まれているホルムアルデヒドを、高精度にかつ簡便に測定可能にする。
【解決手段】塩基性フクシンより作製されたシッフ試薬5.0mlと例えば質量パーセント濃度が96%の濃硫酸1mlとを水に溶解して全量を11mlとした検知剤溶液101を、容器102の中に作製し、検知剤溶液101に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103を24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知剤溶液を含浸させた後、これを乾燥して検知素子103aを作製する。検知素子103aには、シッフ試薬及び酸(硫酸:H2SO4)よりなる検知剤が導入され、検知素子103aの多孔質の孔内に上記検知剤が担持されているものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に存在するホルムアルデヒドを検出するホルムアルデヒド検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
室内環境汚染の原因物質の1つとしてホルムアルデヒドが問題となっている。ホルムアルデヒドは、新築の住宅に用いられている建材や家具などより室内中に発散し、化学物質過敏症の人にとっては、シックハウス症候群を引き起こす原因の一つとされている。
【0003】
このため、例えば、室内の換気の契機とするためなどに、ホルムアルデヒドの空気中濃度を簡便に測定する検知テープ(特許文献1参照)や検知紙(特許文献2参照)などが提案されている。例えば、特許文献1の技術では、ヒドロキシルアミンの塩酸塩及び酸性領域に変色域を有する水素イオン濃度指示薬を多孔質担体に展開してホルムアルデヒド検知テープとしている。この検知テープによれば、相対湿度が80%以上という高湿度領域においては、ホルムアルデヒドを用いた消毒後に空気中に残留する数ppmのホルムアルデヒドを検出することが可能とされている。
【0004】
また、特許文献2の技術では、メチルイエロー,メチルオレンジ,ベンジルオレンジ,及びトロペオリンなどの水素イオン濃度指示薬と、硫酸ヒドロキシルアミンとを多孔質担体上に展開してホルムアルデヒド検知紙としている。この検知紙によれば、相対湿度30%環境下で0.3から4ppmのホルムアルデヒドを検出することが可能とされている。
【0005】
また、4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾールのアルカリ水溶液で湿潤したフィルターを用いることで、0.04−10ppmのホルムアルデヒドを検出する測定方法もある(特許文献3参照)。この方法によると、0.04−10ppmのホルムアルデヒドが検出可能とされている。
【0006】
また、XD−XA01(4-amino-4-phenylbut-3-en-2-one)とリン酸などの緩衝液とを含む発色液を、シリカゲルを含有する基材(吸着体)に含侵させて溶媒を揮散させて構成したホルムアルデヒド検知材もある(非特許文献1参照)。この検知材によれば、0.05−0.7ppmのホルムアルデヒドの検出が可能とされている。
【0007】
【特許文献1】特開平07−055792号公報
【特許文献2】特開平07−229889号公報
【特許文献3】特開2003−247989号公報
【非特許文献1】Y.Suzuki, et al. "Portable Sick House Syndrome Gas Monitoring System Based on Novel Colorimetric Reagents for the Highly Selective and Sensitive Detection of Formaldehyde", Environ. Sci. Technol., 2003, 37, 5695-5700.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の測定技術では、以下に示すように、空気(大気)中に含まれているホルムアルデヒドを、高精度にかつ簡便に測定することができないという問題があった。まず、特許文献1の検知テープでは、使用環境が高湿度下に限られるため、測定条件の規制が大きいという不都合がある。また、特許文献2の検知紙では、環境基準値の0.08ppmの測定は不可能であるという不都合がある。また、特許文献3の方法では、測定の直前にフィルターを溶液で湿潤させる工程が含まれるという不都合がある。
【0009】
また、非特許文献1の検知材では、基材が不透明であるため、検知材の色の変化を測定するには反射光を測定する必要があり、精度が十分でないという不都合があった。また精度を向上させるためポンプ等を用いて単位時間当たり通過させる空気量を多くするために電力を必要とするという不都合があった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、空気中に含まれているホルムアルデヒドを、高精度にかつ簡便に測定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るホルムアルデヒド検知素子は、ガラスからなる多孔体と、この多孔体の孔内に配置されたシッフ試薬及び酸よりなる検知剤とを備えるようにしたものである。ホルムアルデヒド検知素子の孔内にホルムアルデヒドが浸入すると、孔内に配置されたシッフ試薬とホルムアルデヒドが反応する。
【0012】
上記ホルムアルデヒド検知素子において、シッフ試薬は、塩基性フクシンより作製されたものである。また、酸は、リン酸であればよい。また、酸は、濃硫酸であればよい。なお、多孔体は、孔径が20nm以下であればよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ガラスからなる多孔体の孔内に、シッフ試薬及び酸よりなる検知剤を備える(配置する)ようにしたので、空気中に含まれているホルムアルデヒドを、高精度にかつ簡便に測定することができるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子について、検知素子の作製方法とともに説明する。まず、ホルムアルデヒド検知素子の作製方法について説明すると、図1(a)に示すように、塩基性フクシンより作製されたシッフ試薬5.0mlと例えば質量パーセント濃度が96%の濃硫酸1mlとを水に溶解して全量を11mlとした検知剤溶液101を、容器102の中に作製する。ここで、シッフ試薬について説明する。まず、塩基性フクシン0.2gを120mlの熱水(熱湯)に溶解させ、これらを冷却した後、無水亜硫酸ナトリウム2.0g及び濃塩酸(12N)2mlを加えて上記シッフ試薬とする。よく知られているように、シッフ試薬は、塩基性フクシンを亜硫酸ナトリウムにより脱色させることで作製されたもである。
【0015】
次に、図1(b)に示すように、検知剤溶液101に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103を浸漬する。多孔体103は、例えば、コーニング社製のバイコール#7930である。バイコール#7930は平均孔径4nmの複数の細孔を有する多孔体である。また、多孔体103は、例えば、8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔体103は、平均孔径が20nm以下であるとよい。
【0016】
多孔体103をガラス(硼珪酸ガラス)から構成した場合、この平均孔径を20nm以下とすることで、可視UV波長領域(波長200〜2000nm)での透過スペクトルの測定において、可視光領域(350〜800nm)では光が透過する。しかし、平均孔径が20nmを越えて大きくなると、可視領域で急激な透過率の減少が観測されることが判明している(特許第3639123号公報)。このことにより、多孔体は、平均孔径が20nm以下とした方がよい。本実施の形態1における多孔体103の比表面積は1g当たり100m2以上である。なお、多孔体103は、多孔質ガラスに限らず、シッフ試薬など担持する検知剤(検知溶液)と反応しない透明な(透光性を有する)材料から構成されていてもよい。
【0017】
上述した多孔体103を検知剤溶液101に24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知剤溶液を含浸させた後、検知剤が含浸した多孔体103を風乾し、図1(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、検知素子(ホルムアルデヒド検知素子)103aを作製する。従って、検知素子103aには、シッフ試薬及び酸(硫酸:H2SO4)よりなる検知剤が導入され、検知素子103aの多孔質の孔内に上記検知剤が担持されているものとなる。このように構成された検知素子103によれば、孔内にホルムアルデヒドが浸入すると、孔内に配置されたシッフ試薬とホルムアルデヒドが反応し、脱色されたフクシンの色が発現するようになる。なお、ここでは検知素子103aを板状としたが、これに限るものではなく、ファイバ状に形成するようにしても良い。
【0018】
上述した本実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子によれば、測定対象のホルムアルデヒドを溶液に溶解させておく必要がなく、また、室温程度の低温の状態でも検知可能である。本実施の形態1における検知素子によれば、検知剤が、多孔質ガラスの複数の孔内に担持されているために、この孔内に滲入してきた気体のホルムアルデヒドと、孔内に担持されているシッフ試薬を含む検知剤との反応が、室温においても進行するものと考えられる。
【0019】
上述した多孔質ガラスの複数の孔内のガラス表面では、ここに吸着されて互いに近距離に存在する状態となった各物質(分子)が、室温の熱エネルギーによりこれら距離感を自由に移動できる状態となり、反応性の高い特殊な状態になるものと考えられる。このため、多孔質ガラスの孔内では、ここに滲入してきた気体のホルムアルデヒドと、孔内に担持されているシッフ試薬を含む検知剤との反応が、進行するものと考えられ、本発明のホルムアルデヒド検知素子を用いた測定では、ガス状のホルムアルデヒドであっても、室温において高感度に測定が行えるものと考えられる。
【0020】
次に、検知素子103aを用いたホルムアルデヒドの検出方法について説明すると、まず、検知素子103aの厚さ方向の吸光度を測定する。例えば、図1(d)に示すように、光強度I0の入射光を透過させた透過光の強度Iを測定し、これらより吸光度(=log10(I0/I))を求める。
【0021】
次に、図1(e)に示すように、例えば、1ppmの濃度のホルムアルデヒドが存在する測定対象の空気104中に、検知素子103aを1時間暴露する。この暴露は、例えば室温(約20℃)の状態で行う。この後、測定後の検知素子103bを測定対象の空気104中より取り出し、図1(f)に示すように、検知素子103bの厚さ方向の吸光度を再び測定する。
【0022】
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を図2に示す。なお透過光測定波長350nm以下の吸収は、検知素子を構成する多孔質ガラス(バイコール#7930)自体の吸収である。図2では、測定対象の空気に暴露する(晒す)前の吸光度の測定結果を破線で示し、暴露した後の吸光度の測定結果を実線で示す。図2に示すように、波長350〜600nmの範囲、特に波長424nm及び波長576nm付近において、実線と破線との間に大きな違いが見られる。測定前の検知素子103aは、図2中に実線で示すように、波長424nmを中心とした吸収を持つ吸光特性を有している。これに対し、測定後の検知素子103bは、図2中に点線で示すように、波長405nmを中心とした小さな吸収と波長576nmを中心とした大きな吸収とを持つ吸収特性を有している。
【0023】
このように、ホルムアルデヒドが含まれる空気に検知素子を暴露した後の吸光度の測定(実線)では、波長424nmを中心とした吸収が減少し、波長576nm付近を中心とした吸収が増加している。これは、検知素子103aに導入されている検知剤(シッフ試薬)が、ホルムアルデヒドと反応して色を変化させたことを示し、検知剤を構成している色素が別の色素に変化したものと考えられる。言い換えると、検知素子103aを構成している多孔体の孔内において、ホルムアルデヒドと反応することで、検知剤を構成している色素分子の構造と電子状態が変化して可視〜近赤外領域の吸収スペクトルが変化したものと考えられる。従って、本実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子における光吸収の変化の測定や、色の変化の観察により、ホルムアルデヒドの測定及び定量などの測定が可能となる。例えば、黄緑色発光ダイオード(中心波長572nm)からの光の透過率を測定することで上記光吸収の変化が検出可能である。
【0024】
次に、本実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子を用いた測定例について説明する。例えば、ホルムアルデヒドの濃度を0.007〜20ppmの濃度範囲で作製した試料空気に、本実施の形態1のホルムアルデヒド検知素子を、1時間暴露する。この暴露の前と後とにおける検知素子の、波長572nmにおける透過吸光度の差と、試料空気におけるホルムアルデヒド濃度との関係を調べると、図3に示すようになり、ホルムアルデヒド濃度が高い試料空気に暴露された検知素子ほど、吸光度の差が大きいものとなる。また、ホルムアルデヒドの濃度が7ppbと極低濃度であっても検出されており、高感度でホルムアルデヒドの検出が可能であることが分かる。
【0025】
一方、試料空気に本実施の形態1のホルムアルデヒド検知素子を、1時間暴露した場合と2時間暴露した場合とを比較すると、これらの間に上述したような吸光度の差はない。また、一度ホルムアルデヒドを検出した本実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子を、ホルムアルデヒドがほとんどない空気中(室内)に放置すると、検知素子の吸光度が、徐々に図2の実線で示す測定前の状態に戻る。また、このように、もとの状態に戻った検知素子により、再度、前述同様にホルムアルデヒドの測定が可能である。このように、本発明におけるホルムアルデヒド検知素子におけるホルムアルデヒドの検知は、ホルムアルデヒドとの可逆的な反応を基本とするものと考えられる。
【0026】
以上に説明したように、本実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子によれば、光を透過する多孔質ガラスである多孔体を基質とし、この複数の孔内に塩基性フクシンより作製されたシッフ試薬含む検知剤を担持させたので、空気中に含まれるppbレベルの極微量なホルムアルデヒドを、精度良く測定することが可能となる。
【0027】
前述した本実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子を用いた測定装置としては、例えば、発光光の中心波長が572nmの黄緑色発光ダイオードとフォトディテクターとの間に本検知素子を配置し、検知素子からの透過光をフォトディテクターで検出可能とし、フォトディテクターからの出力信号を処理して検知素子の吸光度の変化を出力する構成とすればよい。このような簡便な装置構成で、上述した極微量なホルムアルデヒドの測定が容易に行える。また、本装置によれば、上記検知素子が再利用可能である。
【0028】
[実施の形態2]
次、本発明の実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知素子について、検知素子の作製方法とともに説明する。はじめに、ホルムアルデヒド検知素子の作製方法について説明する。以下でも、実施の形態1と同様に図1(a)〜図1(f)を用いて説明する。まず、図1(a)に示すように、塩基性フクシンより作製されたシッフ試薬5.0mlとリン酸1mlとを水に溶解して全量を11mlとした検知剤溶液101を、容器102の中に作製する。ここで、シッフ試薬について説明する。まず、塩基性フクシン0.2gを120mlの熱水(熱湯)に溶解させ、これらを冷却した後、無水亜硫酸ナトリウム2.0g及び濃塩酸(12N)2mlを加えて上記シッフ試薬とする。
【0029】
次に、図1(b)に示すように、検知剤溶液101に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103を浸漬する。多孔体103は、例えば、コーニング社製のバイコール#7930である。バイコール#7930は平均孔径4nmの複数の細孔を有する多孔体である。また、多孔体103は、例えば、8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔体103は、前述したように、平均孔径が20nm以下であるとよい。
【0030】
上述した多孔体103を検知剤溶液101に24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知剤溶液を含浸させた後、検知剤が含浸した多孔体103を風乾し、図1(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、検知素子(ホルムアルデヒド検知素子)103aを作製する。従って、検知素子103aには、シッフ試薬及び酸(リン酸:H3PO4)よりなる検知剤が導入され、検知素子103aの多孔質の孔内に上記検知剤が担持されているものとなる。このように構成された検知素子103によれば、孔内にホルムアルデヒドが浸入すると、孔内に配置されたシッフ試薬とホルムアルデヒドが反応する。なお、ここでは検知素子103aを板状としたが、これに限るものではなく、ファイバ状に形成するようにしても良い。
【0031】
次に、検知素子103aを用いたホルムアルデヒドの検出方法について説明すると、まず、検知素子103aの厚さ方向の吸光度を測定する。例えば、図1(d)に示すように、光強度I0の入射光を透過させた透過光の強度Iを測定し、これらより吸光度(=log10(I0/I))を求める。
【0032】
次に、図1(e)に示すように、例えば、1ppmの濃度のホルムアルデヒドが存在する測定対象の空気104中に、検知素子103aを1時間暴露する。この暴露は、例えば室温(約20℃)の状態で行う。この後、測定後の検知素子103bを測定対象の空気104中より取り出し、図1(f)に示すように、検知素子103bの厚さ方向の吸光度を再び測定する。
【0033】
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を図4に示す。なお透過光測定波長350nm以下の吸収は、検知素子を構成する多孔質ガラス(バイコール#7930)自体の吸収である。図4では、測定対象の空気に暴露する(晒す)前の吸光度の測定結果を破線で示し、暴露した後の吸光度の測定結果を実線で示す。図4に示すように、波長350〜600nmの範囲、特に波長424nm及び波長576nm付近において、実線と破線との間に大きな違いが見られる。測定前の検知素子103aは、図4中に実線で示すように、波長424nmを中心とした大きな吸収と、波長566nmを中心とした小さな吸収とを持つ吸光特性を有している。これに対し、測定後の検知素子103bは、図4中に点線で示すように、波長405nmを中心とした小さな吸収と波長576nmを中心とした大きな吸収とを持つ吸収特性を有している。
【0034】
このように、ホルムアルデヒドが含まれる空気に検知素子を暴露した後の吸光度の測定(実線)では、波長424nmを中心とした吸収が減少し、波長576nm付近を中心とした吸収が増加している。これは、前述同様に、検知素子103aに導入されている検知剤(シッフ試薬)が、ホルムアルデヒドと反応して色を変化させたことを示し、検知剤を構成している色素が別の色素に変化したものと考えられる。言い換えると、検知素子103aを構成している多孔体の孔内において、ホルムアルデヒドと反応することで、検知剤を構成している色素分子の構造と電子状態が変化して可視〜近赤外領域の吸収スペクトルが変化したものと考えられる。従って、本実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知素子における光吸収の変化の測定や、色の変化の観察により、ホルムアルデヒドの測定及び定量などの測定が可能となる。例えば、黄緑色発光ダイオード(中心波長572nm)からの光の透過率を測定することで上記光吸収の変化が検出可能である。
【0035】
次に、本実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知素子を用いた測定例について説明する。例えば、ホルムアルデヒドの濃度を0.007〜3ppmの濃度範囲で作製した試料空気に、本実施の形態2のホルムアルデヒド検知素子を、1時間暴露する。この暴露の前と後とにおける検知素子の、波長572nmにおける透過吸光度の差と、試料空気におけるホルムアルデヒド濃度との関係を調べると、図5に示すようになり、ホルムアルデヒド濃度が高い試料空気に暴露された検知素子ほど、吸光度の差が大きいものとなる。また、ホルムアルデヒドの濃度が7ppbと極低濃度であっても検出されており、高感度でホルムアルデヒドの検出が可能であることが分かる。
【0036】
一方、試料空気に本実施の形態2のホルムアルデヒド検知素子を、1時間暴露した場合と2時間暴露した場合とを比較すると、これらの間に上述したような吸光度の差はない。また、一度ホルムアルデヒドを検出した本実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知素子を、ホルムアルデヒドがほとんどない空気中(室内)に放置すると、検知素子の吸光度が、徐々に図4の実線で示す測定前の状態に戻る。また、このように、もとの状態に戻った検知素子により、再度、前述同様にホルムアルデヒドの測定が可能である。このように、本発明におけるホルムアルデヒド検知素子におけるホルムアルデヒドの検知は、ホルムアルデヒドとの可逆的な反応を基本とするものと考えられる。
【0037】
以上に説明したように、本実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知素子によれば、光を透過する多孔質ガラスである多孔体を基質とし、この複数の孔内に塩基性フクシンより作製されたシッフ試薬含む検知剤を担持させたので、空気中に含まれるppbレベルの極微量なホルムアルデヒドを、精度良く測定することが可能となる。
【0038】
前述した本実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知素子を用いた測定装置としても、例えば、発光光の中心波長が572nmの黄緑色発光ダイオードとフォトディテクターとの間に本検知素子を配置し、検知素子からの透過光をフォトディテクターで検出可能とし、フォトディテクターからの出力信号を処理して検知素子の吸光度の変化を出力する構成とすればよい。このような簡便な装置構成で、上述した極微量なホルムアルデヒドの測定が容易に行える。また、本装置によれば、上記検知素子が再利用可能である。
【0039】
また、上述したホルムアルデヒド検知素子における吸光度の変化は、色の変化として目視により確認容易である。例えば、波長550〜600nm付近の光吸収強度が、5段階に変化しているカラーチャートを用意し、このカラーチャートとの比較により、各ホルムアルデヒド検知素子における色の変化を、評価値が大きいほど色が濃く観察されたことを示す5段階で評価する。予めホルムアルデヒドの濃度が既知の試料空気を用意してこれを測定し、この測定結果を上記カラーチャートで評価しておくことで、カラーチャートの5段階の色毎にホルムアルデヒドの濃度値を割り当てる。このようにして、濃度値が割り当てられたカラーチャートを用い、測定後のホルムアルデヒド検知素子の色を目視で評価すれば、測定した空気中におけるホルムアルデヒドの濃度が判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態におけるホルムアルデヒド検知素子について説明するための説明図である。
【図2】実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子を用いた測定における、ホルムアルデヒドを測定対象とした前後2回の吸光度の測定結果を示す特性図である。
【図3】ホルムアルデヒドの濃度を0.007〜20ppmの濃度範囲で作製した試料空気に、実施の形態1におけるホルムアルデヒド検知素子を1時間暴露することによる測定の結果を示す特性図である。
【図4】実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知素子を用いた測定における、ホルムアルデヒドを測定対象とした前後2回の吸光度の測定結果を示す特性図である。
【図5】ホルムアルデヒドの濃度を0.007〜3ppmの濃度範囲で作製した試料空気に、実施の形態2におけるホルムアルデヒド検知素子を1時間暴露することによる測定の結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0041】
101…検知剤溶液、102…容器、103…多孔体、103a…検知素子(ホルムアルデヒド検知素子)、103b…測定後の検知素子、104…測定対象の空気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスからなる多孔体と、
前記多孔体の孔内に配置されたシッフ試薬及び酸よりなる検知剤と
を備えることを特徴とするホルムアルデヒド検知素子。
【請求項2】
請求項1記載のホルムアルデヒド検知素子において、
前記シッフ試薬は、塩基性フクシンより作製されたものである
ことを特徴とするホルムアルデヒド検知素子。
【請求項3】
請求項1又は2記載のホルムアルデヒド検知素子において、
前記酸は、リン酸である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検知素子。
【請求項4】
請求項1又は2記載のホルムアルデヒド検知素子において、
前記酸は、濃硫酸である
ことを特徴とするホルムアルデヒド検知素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のホルムアルデヒド検知素子において、
前記多孔体は、孔径が20nm以下である
ことを特徴とるホルムアルデヒド検知素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−224590(P2008−224590A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66639(P2007−66639)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人国立環境研究所「センサネットワーク用パーソナルセンサ」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】