説明

ホログラム装置及びホログラム記録方法

【課題】信号光に含まれるDC成分を抑制する光学フィルタの特性の如何に拘らず、画質劣化のない良好な記録を行うことができる2次元変換コードを提供すること。
【解決手段】
空間変調器9に表示される2次元変調コードによって変調された信号光と別途照射される参照光との干渉縞をホログラム記録媒体50に記録するホログラム記録方法であって、前記空間変調後の信号光光路に信号光のDC成分をカットするアパーチャ(DCカットマスク)21を挿入し、且つ、前記空間変調器9の2次元変調コードは基準となる変調パターンよりも周期の短いパターンとすることにより、信号光に含まれるDC成分を抑制する光学フィルタの特性の如何に拘らず、画質劣化のない良好な記録を行ことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムをホログラム記録媒体に体積記録するホログラム記録装置及び方法に係り、特に記録時に信号光を変調する2次元変調コードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホログラム技術を利用して大容量データの記録再生を行うホログラフィックストレージシステムが提案されている。このホログラフィックストレージシステムは、例えば液晶素子等の空間光変調手段によって生成される記録データを含む信号光と、この信号光に対応して設定される参照光とを所定の角度でホログラム記録媒体(以降単に記録材料と称することもある)に照射することにより、信号光と参照光によって生じる干渉縞を記録材料に記録する記録系と、このホログラム記録媒体に再生照明光を照射することによって記録された干渉縞に対応する回折光(再生信号光)を生成し、これをCCDイメージセンサ等の受光素子によって受光してその解析を行うことによりデータを再生する再生系とを有する構成となっている。なお、このようにして記録された空間光変調手段1つあたりのホログラムをページと呼ぶ。
【0003】
また、ホログラフィックストレージシステムにおいては、記録密度向上のために多重記録と言う手法を用いる。これは、従来の光ディスクにおける記録と異なり、1箇所に多数の独立なページを記録するというものである。このような多重記録方式の代表的なものとしては、角度多重記録、シフト多重記録、位相コード多重記録方式などが公知で、その他多くの多重方式が知られている。
【0004】
角度多重方式は、参照光の角度を変えることで1箇所に多数の独立なページを記録、再生するものである。シフト多重は記録位置を少しづつずらすことで、多重記録を行うものである。位相コード多重はひとつのページを記録する際に、色々な方向から参照光を同時に当てて記録する。しかし、その際に、各方向からの参照光に位相の変化を与えておく。この位相の変化を色々と組み合わせることで、1箇所に多数枚の独立なページを記録再生するものである。また、上記の3種類以外にも多くの多重方式が考えられている。
【非特許文献1】(例えば非特許文献:Holographic Data Storage;H.J.Coufal,D.Psaltis,G.T.Sincerbox ED;Springer; p.185 Photopolymer System)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホログラム記録において記録密度を向上させるためには、多重度の向上が重要な要素の一つである。しかしながら、多重度を向上させるためには、記録メディアのダイナミックレンジは有限であるために、ホログラム再生に必要最低限の記録パワーでホログラム記録を行うことが必要とされる。従来、記録用のデータページには、2/4変調などのブロック変調方式(2次元変調コードの一種)が用いられており、ホログラム記録が行われる周波数空間においては、情報への寄与が少ないDC成分が支配的となり、メディアのダイナミックレンジを無駄に消費することが問題であった。
【0006】
上記、DC成分を抑制する手段として、ホログラム記録光学系の信号光の光路上にアパーチャを設置し、信号光のDC成分を抑制することが知られているが(例えばK. Kawano, K. Haga, J. Minabe, S. Yasuda, M. Furuki, Y. Ogasawara, K. Hayashi, and H. Yoshizawa, “Band-Pass Filtering in Holographic Data Storage”, Lasers and Electro-Optics Society, 2005. LEOS 2005. The 18th Annual Meeting of the IEEE, 22-28 Oct. 2005, 491-492)、一般的なブロック変調コードをこのような光学系に適用した場合は、光学フィルタの特性により変調コードの画質劣化を伴い、エラーレート悪化の要因となっていた。
【0007】
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、光学フィルタの特性を考慮しつつ、信号光に含まれるDC成分を抑制して、画質劣化のない良好な記録を行うことができるホログラム記録再生装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、空間変調器の2次元変調コードによって変調された信号光と別途照射される参照光との干渉縞をホログラム記録媒体に記録するホログラム記録方法であって、前記空間変調後の信号光光路に信号光のDC成分をカットするフィルタを挿入し、且つ、前記空間変調器に表示される2次元変調コードのパターンは基準となる変調パターンよりも周期の短いパターンとする。
【0009】
このように本発明では、フィルタ(ハイパスフィルターまたはバンドパスフィルターが用いられ、さらにDCカットマスクと称する場合もある)によって空間変調された信号光からDC成分が抑制され、記録パワーを抑制することが出来る。しかも、前記空間変調器の2次元変調コードのパターンは基準となる変調パターンよりも周期の短いパターンとして変調時のDC成分を抑制することにより、前記DCカットによる画質劣化を抑制して良好な画像記録を行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空間変調後の信号光光路にハイパスフィルタを挿入し、且つ、前記空間変調器の2次元変調コードのパターンは基準となる変調パターンよりも周期の短いパターンとすることにより、良好な画像記録を保持しつつ、記録パワーを抑制することができ、記録メディアのダイナミックレンジを有効活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施例1)
図1は、本発明の一実施の形態に係るホログラム記録再生装置の構成を示した概略図である。ホログラム記録再生装置は、角度多重方式で画像データを多重記録再生する構成を有し、レーザ光源1、シャッター2、半波長板3、偏光ビームスプリッタ(PBS)4、シャッター5、ミラー6、ビームエキスパンダ7、13、ミラー8、14、空間変調器(SLM)9、レンズ10、11、12、16、17、19、回転ミラー15、アパーチャ20、21及びイメージセンサ22を有し、ホログラム記録媒体50に対してホログラムを記録再生する。尚、レンズ10、11と、レンズ12、16と、レンズ17、19はそれぞれ4F系を構成している。
【0012】
次に本実施形態のホログラム記録再生装置の動作について概略説明する。まず、記録時、シャッター2、5が開放されている。レーザ光源1から出射されたレーザ光はシャッター2、半波長板3を通してPBS4に入射され、ここで信号光100と参照光200に分岐される。信号光100はシャッター5、ミラー6、ビームエキスパンダ7、ミラー8を通ってSLM9を通ることによりデータページにより空間変調される。空間変調された信号光100はレンズ10、11、12を通って、ホログラム記録媒体50に集光される。一方、参照光200はビームエキスパンダ13、ミラー14、回転ミラー15を通してホログラム記録媒体50に照射される。これにより、信号光100と参照光200の干渉縞がホログラム記録媒体50に記録される。この際、信号光100を変調するデータページを変更する毎に回転ミラー15を回転させて参照光200のホログラム記録媒体50への入射角度を変えることにより、ホログラム記録媒体50の同一記録領域に角度多重による多重記録がなされる。
【0013】
再生時、シャッター2が開放され、シャッター5は閉じている。再生時には、記録メディア上のホログラムに対して記録に用いたときと同一の角度から参照光(再生参照光)を入射させ、ホログラム再生を行い、その再生像をイメージセンサ22で撮像する。そのため、参照光200のみが回転ミラー15を通してホログラム記録媒体50へ照射され、発生した再生信号光300がレンズ16、17、19を通してイメージセンサ22に入射され、ここで再生画像データが得られる。この際、回転ミラー15を回転させて参照光200のホログラム記録媒体50への照射角度を変えることにより、多重記録された画像データが順次再生される。尚、ホログラムのスポットサイズは、信号光光学系中のフーリエ面に配置されたアパーチャのサイズによって規定される。
【0014】
ここでは、ホログラムストレージにおいて、記録密度はおおまかに、データページ当たりのビット数、多重度、スポットサイズ、スポットピッチなどで決定される。これらのパラメータの中でホログラム記録を特徴付けるパラメータの一つである多重度を向上させるためには、メディアのダイナミックレンジが有限であるがゆえに、読み出しに用いるイメージセンサ22で検出できるレベルの必要最小限のパワーでホログラム記録を行う必要がある。ホログラム記録は、フーリエ空間における記録であり、通常のブロック変調コードの主成分はDC成分であるため、このDC成分を抑制することが記録パワーの低減に繋がる。
【0015】
本実施形態では、代表的なブロック変調方式の一つである2/4ブロック変調を例にとって、信号のDC成分を抑制した変調コードの作成方法を提案する。また、同時に、記録光学系において、図1に示すように光路中のフーリエ面においてDC光をカットするアパーチャ20を配置することによって信号光100の記録パワーを低減させたときにも、そのフィルタ特性による変調シンボルの画質劣化を最小限に抑えるために有効な変調コードを提供するものである。
【0016】
図2に2/4ブロック変調によるデータページを、図3に2/4ブロック変調によるデータシンボルを示す。2/4ブロック変調は図3に示すように2 x 2画素で2bitのデータを表現している。2 x 2画素のうち、1画素のみがハイレベル信号であり、残りの3画素はローレベル信号となっている。図2のデータページの周辺に配置されているパターンは、変調コードをデコードするときに用いる位置決め用のマーカである。
【0017】
図4に図1に示した信号光光路の詳細例を示す。通常の記録データページ(変調画像)に対してフーリエ変換を施すと、DC成分のパワーが支配的であることがわかる。ホログラム記録は、周波数空間で行われており、多重度を向上させるために記録パワーを下げるには、DC成分を抑制させると効果的である。図4の光学系では、ホログラムのスポットサイズを規定するアパーチャ21に図5に示すような変更を加え、アパーチャ21の中心部を遮光部31としたDCカットマスクを用いている。即ち、本実施形態ではアパーチャ21にDCカットマスク機能を兼用させている。
周波数空間上で、DC成分は光軸近辺に分布するため、この遮光部31によって信号光のDC成分がカットされることになる。謂わば、このアパーチャ(DCカットマスク)21によりバンドパスフィルタ(信号光のDC成分をカットするHPFと信号光のフーリエ面サイズを規定するLPFの組み合わさったもの)が構成されていることになる。21によりハイパスフィルタ(HPF)が構成されていることになる。このため、この光学フィルタに最適化されたデータページをSLM9に表示させないと、ホログラム記録以前にすでに画質劣化を伴った画像を記録することになる。
【0018】
図6に光学フィルタ特性を考慮せずに通常の変調コードを図4に示したDCカット光学系に適用した結果を示す。同図(A)の画像が元画像(2/4ブロック変調画像)であり、同図(B)がその画像に対して変調コードの最高周波数の0.5をカットオフ周波数とした光学HPFを適用した画像である。当然ながら、HPF適用後の画像は、DC成分が大きく除去され、マーカはほぼエッジのみが抽出され、隣接する変調シンボルによって低周波成分が含まれる箇所は、変調コードそのものも大きく劣化する。そのため、数画素程度のエッジのみが撮像されたマーカによる位置決めにおいては、ロバストなマーカ認識が困難となる場合が多い。マーカの認識に失敗した場合は、最悪、該当ページのデータが一切デコード不能となる場合もある。
【0019】
光学フィルタ適用後の画像劣化によるエラーレートへの影響についての評価を行った結果を図7に示す。図中境界線が黒くなっている箇所がエラーシンボルを示しており、このエラーは、低周波成分を含んでいたために光学フィルタにより画像劣化を生じたシンボルに集中していることがわかる。本画像は、多重記録を行わずに1データページのみをホログラム記録した場合の再生像である。多重記録を行わない場合、図4のDCカットマスクが存在しない従来の光学系においては、エラーフリーで再生されるため、エラーの原因がDCカットマスク21により構成されるHPFによる変調画像の画像劣化によるものであることがわかる。
【0020】
上記の状況を鑑みて、図1の光学系の光学フィルタの特性に最適化された変調コードを考案した。その具体的方法を図8に示す。図中、上段に示したシンボルが通常の2/4ブロック変調コードであり、下段に示したものが改良されたシンボルである。DC成分を抑制するために縦・横方向の周波数を2倍とした。また、符号間干渉を抑制するために符号間距離が近い縦・横方向には無相関のパターンを配置することとした。これらの変調シンボルを適用した変調コードを図9(A)に示す(変調コードの一部を切り出した画像)。
【0021】
また、同図9を見ればわかるように低周波成分を多く含む位置決め用のマーカ(画像中左上隅)40の形状についても変更を加えている。DC成分を抑制するために、ドット状のマーカを考案した。一般的に位置決めマーカによる位置決めアルゴリズムにおいては、マーカのエッジ情報が位置決めのための重要な情報の一つとなりうるため、ドット状のマーカにおいては、マーカのエッジ検出が困難となる。そこで、マーカ検出処理の際に、検出されたマーカ画像に対して形状補正処理を行うことにより、従来のマーカと同等のエッジ評価が行え、必要充分な精度で重心検出を行うことが可能となった。形状補正処理は、いわゆる膨張・縮退処理により実現されており、ドットの間隔は、この処理によって効果的に補正が行えるように設定されている必要があり、それは十分可能である。
【0022】
図9(B)に光学フィルタに最適化された変調画像を図1に示す光学系に適用した結果を示す。この画像をみればわかるように、図7で見られたような光学フィルタによる変調シンボルの劣化は存在しない。図8と同様に、新たな変調コードを適用して再生されたホログラム画像に対してエラーレートの評価を行った結果を図10に示す。同図をみればわかるように、新たに提案した変調コードを用いることにより、光学フィルタによる変調シンボルの画質劣化が抑制され、図7のときにみられた変調シンボルの画質劣化によるシンボルエラーは皆無となった。
【0023】
本実施形態によれば、信号光のDC成分を抑制するためにホログラム記録光学系の信号光の光路上にアパーチャ(DCカットマスク)21が設置された光学系においても、基準となる変調パターンよりも周期の短いパターンを有するブロック変調コードを用いることにより、変調シンボルの画質劣化を伴うことなく、ホログラム記録を行うことが可能となった。その結果、多重度を向上しつつ、実用的なエラーレートを達成することが可能となり、記録密度の向上に大きく貢献することが可能となった。また、本実施形態によるデータページ上の位置決め用のマーカについても、光学系の特性に最適化されているため、画質劣化を伴うことなく、本マーカに対応させた画像処理アルゴリズムにより、従来の角度多重光学系と同等の位置決め精度を確保することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るホログラム記録再生装置の構成を示した概略図である。
【図2】2/4ブロック変調によるデータページ例を示したブロック図である。
【図3】2/4ブロック変調によるデータシンボル例を示した図である。
【図4】図1に示した信号光光路の詳細例を示した図である。
【図5】図4に示したDCカットマスクの構成例を示した平面図である。
【図6】2/4ブロック変調画像と光学HPF適用後の画像例を示した図である。
【図7】HPF適用画像のエラーマップ例を示した回路図である。
【図8】2/4ブロック変調コードの最適化を説明する図である。
【図9】最適化された2/4ブロック変調画像と光学HPF適用後の画像例を示した図である。
【図10】本実施形態のHPF適用画像のエラーマップ例を示した回路図である。
【符号の説明】
【0025】
1……レーザ光源、2、5……シャッター、3……半波長板、4……偏光ビームスプリッタ(PBS)、6、8、14……ミラー、7、13……ビームエキスパンダ、9……空間変調器(SLM)、10、11、12、16、17、19……レンズ、15……回転ミラー、20、21……アパーチャ、22……イメージセンサ、50……ホログラム記録媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間変調器に表示され2次元変調コードによって変調された信号光と別途照射される参照光との干渉縞をホログラム記録媒体に記録するホログラム記録装置であって、
前記空間変調後の信号光光路に信号光のDC成分をカットするフィルタを具備し、
前記空間変調器は基準となる変調パターンよりも周期の短いパターンを有する2次元変調コードを表示することを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項2】
前記フィルタは前記信号光光路の光軸付近に位置させる遮光板を備え、この遮光板の外周部に開口部を備えたことを特徴とする請求項1記載のホログラム記録装置。
【請求項3】
前記2次元変調コードは、符号間距離が近い位置では無相関のパターンを有することを特徴とする請求項1記載のホログラム記録装置。
【請求項4】
前記2次元変調コードによって変調された信号光を用いて記録されたホログラムを再生する際の再生画像の位置決めを行う位置決めマーカは、DC成分を抑制する形状を有することを特徴とする請求項1記載のホログラム記録装置。
【請求項5】
前記位置決めマーカはドットによって形成されていることを特徴とする請求項4記載のホログラム記録装置。
【請求項6】
前記位置決めマーカの検出時に、当該位置決めマーカの形状補正を行う画像処理を施すことを特徴とする請求項4記載のホログラム記録装置。
【請求項7】
前記2次元変調コードは2/4ブロック変調コードであることを特徴とする請求項1記載のホログラム記録装置。
【請求項8】
空間変調器の2次元変調コードによって変調された信号光と別途照射される参照光との干渉縞をホログラム記録媒体に記録するホログラム記録方法であって、
前記空間変調後の信号光のDC成分をフィルタでカットし、且つ、前記空間変調器に表示される2次元変調コードのパターンは基準となる変調パターンよりも周期の短いパターンとすることを特徴とするホログラム記録方法。
【請求項9】
前記2次元変調コードは、符号間距離が近い位置には無相関のパターンを有することを特徴とする請求項8記載のホログラム記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−96799(P2008−96799A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280025(P2006−280025)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】