説明

ホログラム記録材料、ホログラム記録媒体およびホログラム記録方法

【課題】本発明は、光応答性分子と液晶分子とを組み合わせて用いた場合でも、光散乱に起因する記録特性の劣化が初期的のみならず経時的にも少ないホログラム記録材料を提供すること。
【解決手段】少なくとも光を照射して情報を記録するために用いられ、光応答性分子と、液晶分子と、平均粒径が前記情報の記録に用いられる光の波長の1/10以下の粒子とを含むことを特徴とするホログラム記録材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録を利用した大容量の情報記録に適したホログラム記録材料、これを用いたホログラム記録媒体および該ホログラム記録媒体を用いたホログラム記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィックデータストレージにおいては、ホログラムの記録に用いる材料として、分子中に光の照射によりトランス−シスに配向が変化するアゾベンゼン骨格を有する高分子材料(以下、「アゾポリマー」と称す場合がある)などのフォトクロミック材料を選択することにより、偏光を記録することができる。
この偏光記録はデーターにセキュリティ用の鍵をかけたり、演算を行わせたりすることのできる、まさにホログラム記録ならではの特徴的有用な記録方法である。しかし、現在この偏光を記録できるホログラム記録媒体用の記録材料として研究されているアゾポリマー等は、その光異性化反応が可逆的であるために、偏光記録を永久的には保持できず、リライタブル材料として研究されている。
【0003】
一方、ホログラフィックデータストレージでは大容量を記録できるため、書き換え可能なリライタブルタイプのホログラム記録媒体よりも、一旦記録された情報が失われることのないライトワンスタイプのホログラム記録媒体に対するニーズの方が大きい。
このようなニーズを満たすものとしては、光が照射された際の重合反応という不可逆的な反応を利用して記録を行うことができる光重合性の高分子記録材料(いわゆるフォトポリマー)を用いたホログラム記録媒体が知られている。しかしながら、このタイプの媒体では、偏光記録を行うことができず、上述したようなメリットを享受することができない。また、多重記録を行った場合には、記録を重ねる程感度の低下が顕著になるという欠点もある。
【0004】
これに対して、アゾポリマーのような光の照射によって光異性化反応が起こるフォトクロミック材料を用いた光記録媒体も種々知られており、例えば、アゾポリマーの他に液晶物質も用いた光記録媒体などが挙げられる(特許文献1等参照)。この媒体では、紫外線露光等によるアゾポリマーや液晶物質の配向を利用して薄膜パターンを形成することにより記録を行うものであり、飛躍的に高い感度が実現できる。
【特許文献1】特許第3451319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のことから、本発明者らは、フォトポリマーのように光が照射された際に重合する記録材料ではなく、アゾポリマーのように光の照射によってトランス−シスに変化するような光異性化反応によって分子(あるいは分子の一部分)の配向が変化する材料(以下、「光応答性分子」と称す)と、この光応答性分子の配向方向に倣って分子自体が容易に配向する液晶分子とを組み合わせた記録材料を用いれば偏光を利用した多重記録が可能である上に、記録時の感度の飛躍的な向上も期待できるものと考えた。
しかし、このような記録材料を用いた記録媒体に対してホログラム記録を実施した場合、作製直後の記録媒体では、上述したような効果が得られたものの、作製からかなり時間が経ってから再び同一条件でホログラム記録を実施した場合、光散乱により記録特性が著しく劣化してしまうことがわかった。
本発明は、上記問題点を解決することを課題とする。すなわち、本発明は、光応答性分子と液晶分子とを組み合わせて用いた場合でも、光散乱に起因する記録特性の劣化が初期的のみならず経時的にも少ないホログラム記録材料、これを用いたホログラム記録媒体および該ホログラム記録媒体を用いたホログラム記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、
<1>
少なくとも光を照射して情報を記録するために用いられ、
光応答性分子と、液晶分子と、平均粒径が前記情報の記録に用いられる光の波長の1/10以下の粒子とを含むことを特徴とするホログラム記録材料である。
【0007】
<2>
前記液晶分子が5重量%以上含まれることを特徴とする<1>に記載のホログラム記録材料である。
【0008】
<3>
前記光応答性分子が光応答性高分子であることを特徴とする<1>に記載のホログラム記録材料である。
【0009】
<4>
前記液晶分子に対する前記粒子の配合割合が0.01重量%以上であることを特徴とする<1>に記載のホログラム記録材料である。
【0010】
<5>
少なくとも光を照射して情報を記録するために用いられ、
光応答性分子と、液晶分子と、平均粒径が前記情報の記録に用いられる光の波長の1/10以下の粒子とを含むホログラム記録材料からなる記録層を有することを特徴とするホログラム記録媒体である。
【0011】
<6>
光応答性分子と液晶分子と粒子とを含む記録層を有するホログラム記録媒体に、信号光と参照光とを同時に照射することにより情報を記録する際に、光の強度変調および偏光変調の少なくともいずれかを利用して前記情報を多重記録し、且つ、前記粒子の平均粒径が、前記信号光の波長の1/10以下であることを特徴とするホログラム記録方法。
【発明の効果】
【0012】
以上に説明したように本発明によれば、本発明は、光応答性分子と液晶分子とを組み合わせて用いた場合でも、光散乱に起因する記録特性の劣化が初期的のみならず経時的にも少ないホログラム記録材料、これを用いたホログラム記録媒体および該ホログラム記録媒体を用いたホログラム記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<ホログラム記録材料およびホログラム記録媒体>
本発明のホログラム記録材料(以下、「記録材料」と略す場合がある)は、少なくとも光を照射して情報を記録するために用いられ、光応答性分子と、液晶分子と、平均粒径が前記情報の記録に用いられる光の波長の1/10以下の粒子とを含むことを特徴とする。また、本発明のホログラム記録媒体(以下、「記録媒体」と略す場合がある)は、本発明の記録材料からなる記録層を有することを特徴とする。
従って、本発明の記録材料/記録媒体は、光応答性分子と液晶分子とを組み合わせて用いた場合でも、光散乱に起因する記録特性の劣化が初期的のみならず経時的にも少なくすることができる。また、本発明の記録材料/記録媒体は、光応答性分子と液晶分子とを組み合わせて用いているため、偏光を利用した感度の高い多重記録を行うことも可能である。
【0014】
光応答性分子と液晶分子とを単純に組み合わせた記録材料では、元来配向しやすい液晶分子が、記録材料を調製した直後においてはランダムに配向していても時間と共に自発的に配向してしまう。このため、記録媒体を作製して十分な時間が経過してから情報を記録しようとして光を照射した場合、記録層中で自発的に配向した液晶分子がこの光を散乱してしまう。それゆえ、記録媒体を作製した直後と同様に情報を記録しようとした場合には、照射する光の強度を強くしなければならない。加えて、記録層中の本来情報が記録されるべきでない領域にまで光が散乱してしまう。
しかし、本発明においては、記録材料中に含まれる粒子が、液晶分子の自発的な配向の進行を物理的に阻害するため、上述したような経時的な記録特性の劣化を抑制することができる。
【0015】
一方、記録材料中に粒子が含まれる場合、この粒子自体が情報を記録する際に照射される光を散乱して、初期から記録特性の劣化を招く原因にもなりかねない。このため、ホログラム記録に限らず、光を利用して情報を記録する光記録においては、記録材料中に粒子を添加することはデメリットのみをもたらすため、通常、このような粒子の利用はありえない。
しかしながら、使用する粒子の平均粒径が情報の記録に用いられる光の波長の1/10以下であれば、光の波長に対して粒子が十分に小さいため、粒子に起因する光散乱の発生を防止できる。例えば、波長が1000nm程度の赤外レーザを利用する場合には、粒子の平均粒径は100nm以下であればよく、波長が400nm程度の青色レーザを使用する場合は粒子の平均粒径は40nm以下であればよい。なお、粒子の粒径の下限値は特に限定されないが、製造や入手の容易さ等の実用上の観点からは1nm以上であることが好ましい。また、使用する粒子の粒径分布は小さいほど好ましく、単分散であることが最も好ましい。
【0016】
なお、本発明において粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した10個の粒子について、各々の粒子の最大径を測長し、その平均値から求めた。なお、粒径は、記録材料や記録媒体の記録層の断面をTEM観察して測定してもよく、記録材料の作製に用いる粒子そのものを測定してもよい。
【0017】
一方、粒子の材質としては特に限定されないが、記録材料中に含まれる他の材料と化学的に反応したり、触媒作用をもたらしたりしない材料を選択することが好ましく、例えば、シリカや酸化チタン等の金属酸化物、樹脂などが利用できる。
【0018】
記録材料中に含まれる液晶分子の含有量としては特に限定されないが、5重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。5重量%未満では記録時に十分な回折効率が得られなくなる。なお、記録材料中に含まれる液晶分子の増加は、液晶分子の自発的な配向の進行を促進してしまい、特に含有量が5重量%以上で顕著になってくるが、本発明においては記録材料中に上述した粒子も含まれるため、記録材料中に含まれる液晶分子の割合が5重量%以上でも、経時的な記録特性の劣化を効果的に抑制することが容易である。
なお、記録材料中に含まれる液晶分子の含有量の上限は特に限定されるものではないが、他の成分とのバランスから、実用上は80重量%以下であることが好ましい。
【0019】
一方、記録材料中に含まれる液晶分子に対する粒子の配合割合は0.01重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましい。配合割合が0.01重量%未満では、液晶分子の自発的な配向の進行を阻害できなくなるため、経時的な記録特性が劣化してしまう場合がある。なお、配合割合の上限は特に限定されないが、他の成分とのバランスから、実用上は5重量%以下であることが好ましい。
【0020】
また、詳細については後述するが、本発明に用いられる液晶分子としては、公知の液晶分子であればいずれも利用でき、光や熱等の外部刺激の付与によって液晶分子同士が、重合及び/又は架橋する液晶分子(以下、「反応性液晶分子」と称する。また、このような反応性を有さない液晶分子のみを指す場合には「非反応性液晶分子」と称する)も利用することができる。但し、本発明に用いられる反応性液晶分子は、光の照射により重合及び/又は架橋する液晶分子であることが好ましく、光応答性分子が感応する波長の光の照射により重合及び/又は架橋する液晶分子であることが更に好ましい。
【0021】
なお、液晶分子として反応性液晶分子を利用した場合、非反応性液晶分子を利用した場合と比べて一旦記録された情報の定着性を大幅に向上させることができる。このため、長期に渡って、一旦記録された情報を安定して保持できるライトワンスタイプの記録材料/記録媒体を提供することができる。それゆえ、本発明では、液晶分子として反応性液晶分子を用いることが特に好ましい。
【0022】
なお、本発明の記録材料を用いた情報の記録は、信号光と参照光とを同時に照射することにより行うことができるが、この情報の記録に際しては光の偏光方向の変調を利用した情報の多重記録に特に好適である。
しかしながら、勿論、偏光方向の変調以外にも、振幅や位相の変調を利用して情報を記録することも可能である。また、偏光方向の変調を利用して情報を記録する場合、信号光の偏光方向と参照光の偏光方向とが互いに平行な場合(強度変調)、および、信号光の偏光方向と参照光の偏光方向とが互いに直交する場合(偏光変調)に各々対応した情報の記録が可能である。なお、このようなホログラム記録を実施する場合、粒子の平均粒径は信号光の波長の1/10以下であることが必要である。
【0023】
また、液晶分子として反応性液晶分子を用いた場合、本発明の記録材料を用いた情報の記録および定着は、以下のようなプロセスで進行する。まず、光応答性分子の光異性化反応を引き起こす光(偏光)を照射することにより、記録層中に含まれる光応答性分子が光異性化反応によって所定の方向に配向する。この際、光応答性分子の周囲に存在する反応性液晶分子が、光応答性分子の配向状態に倣って配向する(なお、液晶分子が非反応性液晶分子であれば、基本的にはこの段階で、1回の情報記録プロセスは終了する)。
続いて、光応答性分子の配向状態に倣って配向した状態の反応性液晶分子に外部刺激を付与することによって、重合及び/又は架橋反応させる。これにより光応答性分子の配向状態に倣って配向した状態の反応性液晶分子は、その配向状態が固定されるため、一旦記録された情報が定着されることになる。
なお、外部刺激として光応答性分子が感応する波長の光を用いた場合、重合や架橋反応よりも分子の配向が優先して起こるように光応答性分子と反応性液晶分子の組み合わせや量、また、必要に応じて用いられる反応開始剤の量などを決定していくことになるが、基本的には、上述したようなプロセスを経て情報を記録定着できる。
【0024】
ここで、多重記録を行う場合には、新たな情報を記録する毎に別の偏光が照射され、情報が定着されることになるため、記録層中に含まれる未重合状態の反応性液晶分子の量は、記録毎に減少することになる。このため、情報の記録を繰り返す度に、光応答性分子の配向に倣って配向できる未反応の反応性液晶分子が減少しため、特許文献1に示したような記録媒体のように、液晶分子により感度を増幅する機能は低下してしまう。
しかしながら、本発明の記録媒体は、記録層中に含まれる次の記録に寄与できる光応答性分子の量は、情報を多重記録しても常に一定に保たれるため、記録層中に存在する光応答性分子の量に対応した一定レベル以上の感度が常に維持できる。
このため、本発明の記録媒体は情報の定着が可能である上に、従来のフォトポリマーを用いた記録媒体と比べると、情報を多重記録する場合でも高い感度を維持することが容易である。
【0025】
以上に説明したように、液晶分子として反応性液晶を用いる場合には、多重記録時に、反応性液晶分子が、主に一旦記録された情報を定着する機能を担うと共に、光応答性分子が、反応性液晶分子の配向を誘起する機能に加えて感度を確保する機能をも担う。このため、偏光を利用した感度の高い多重記録が可能であると共に、一旦記録された情報を定着することも可能である。
なお、このような光応答性分子と反応性液晶分子との機能の違いを考慮すれば、記録層に含まれる光応答性分子と反応性液晶分子との含有量比率は、重量比で1:9〜9:1の範囲内であることが好ましい。
光応答性分子と反応性液晶分子との含有量比率が上記範囲外の場合、すなわち、反応性液晶分子に対して光応答性分子の割合が少なすぎると、情報記録時に反応性液晶分子を十分に配向させることができないため、定着させる情報の記録が困難になる場合がある。一方、光応答性分子に対して反応性液晶分子の割合が少なすぎると、多重記録が困難になる場合がある。
【0026】
なお、本発明においては、上述したように反応性液晶分子が、記録層に情報を記録する際に照射される光によって重合又は架橋するものであることが好ましい。この場合、情報の記録と定着とを略同時に行うことができると共に、このホログラム記録媒体を用いて情報の記録再生を行うホログラム記録装置の構成を簡素化できる。
但し、必要に応じて反応性液晶分子は記録層に情報を記録する際に照射される光以外の外部刺激によって重合及び/又は架橋するものを用いることも勿論可能である。この場合は、記録した情報の重要性等に応じて一旦記録した情報を定着するか否かを自由に選択できるため、本発明の記録媒体をリライタブル用の記録媒体として利用することも可能となり、リライタブル用およびライトワンス用の双方のニーズに応えることができる。
また、記録層に用いられる反応性液晶分子が、光の照射により重合及び/又は架橋するものである場合、重合及び/又は架橋を促進するために、記録層中に光重合開始剤が含まれていてもよい。
【0027】
液晶分子として反応性液晶を用いる場合には、光重合開始剤を併用することが好ましい。ここで、記録層中(すなわち記録材料中)に含まれる光重合開始剤の含有量は特に限定されるものではないが、記録層が、記録層に情報を記録する際に照射される光によって反応性液晶分子の重合及び/又は架橋を促進する光重合開始剤を含む場合には、反応性液晶分子に対する前記光重合開始剤の含有量比率は、0.001〜10重量%の範囲内であることが好ましく、0.01〜5重量%の範囲内であることが更に好ましい。
光重合開始剤の含有量が多すぎると、光を照射した際に、光応答性分子の配向に倣って反応性液晶分子が十分に配向し終える前に、反応性液晶分子の重合及び/又は架橋が進行してしまうため、高い記録性能が得られなくなる場合がある。また、光重合開始剤の含有量が少なすぎると、光を照射した際に、光応答性分子の配向に倣って配向した反応性液晶分子の重合の進行が十分に早く起こらないために、経時的には一旦配向した反応性液晶分子の配向緩和が起こり、情報の定着性が劣化してしまう場合がある。
【0028】
−ホログラム記録媒体の構成−
次に、本発明の記録媒体の構成や、用いる材料についてより詳細に説明する。
本発明の記録媒体は、上述したような光応答性分子と液晶分子と粒子とを含む記録材料からなる記録層を少なくとも有するものであるが、この記録層は、基板(あるいは基体)上に設けられていることが好ましい。また、記録層と基板との間に反射層を設けることもできる。また、記録層を保護する保護層を、記録層の基板が設けられた側の面と反対側の面上に設けることができる。なお、保護層が、基板であってもよい(すなわち、1対の基板間に記録層が挟持された構成)。加えて、基板と、反射層や記録層、あるいは、反射層、記録層、保護層の各々の層の間の接着性等を確保する等の目的で必要に応じて中間層を設けることもできる。更に保護層の表面など必要なところに反射防止コートをすることもできる。
【0029】
ホログラム記録媒体の形状としては特に限定されず、記録層が一定の厚みで2次元的に形成されているものであればディスク状、シート状、テープ状、ドラム状等、任意の形態を選択することができる。
しかしながら、既存の光記録媒体の製造技術や、記録再生システムを容易に利用できる点から、従来の光記録媒体に利用されているようなセンター部に穴を設けた円盤状であることが好ましい。
【0030】
(記録層)
記録層は、光応答性分子と液晶分子と粒子とを必ず含み、必要に応じてその他の成分が含まれていてもよく、また、液晶分子として反応性液晶分子を用いる場合には必要に応じて光重合開始剤等が含まれる本発明のホログラム記録材料からなる。なお、その他の成分としては、バインダー等、情報の記録/再生に直接関係のない材料が用いられてもよい。
記録層の膜厚は、実用上は3μm〜2mmの範囲内であることが好ましいが、本発明の記録媒体が平面ホログラムの場合には、膜厚は3μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、5μm〜20μmの範囲内であることがより好ましい。 一方、本発明の記録媒体が、体積ホログラムの場合には、膜厚は100μm〜2mmの範囲内であることが好ましく、250μm〜1mmの範囲内であることがより好ましい。
以下、記録層に含まれる各成分についてより詳細に説明する。
【0031】
−光応答性分子−
光応答性分子としては、光を照射することにより、異性化反応を示す部分構造(例えば、シス−トランス異性や、シン−アンチ異性等)を含み、この部分構造の異性化により分子の配向が変化する材料を用いることができる。
【0032】
本発明においては、光応答性分子が、光照射によりシス−トランス異性化が起こるアゾベンゼン骨格(アゾ基の両端にベンゼン環を設けた構造)を含むことが好ましい。このようなアゾベンゼン骨格のシス−トランス異性化反応を以下の異性化反応例1に示す。
【0033】
【化1】

【0034】
また、光応答性分子が高分子材料(光応答性高分子)である場合には、アゾベンゼン骨格等を含む光異性化基(当該光異性化基とは、光を照射することにより、異性化反応を示す基を意味する)が側鎖部分に含まれていることが好ましい。このような高分子材料は、主鎖の構造と側鎖の構造とに分けて、多様な分子設計が可能であるため、吸収係数のみならず、感応波長域や、応答速度、記録保持性等のホログラム記録に必要な種々の物性を高いレベルで所望の値に調整することが容易であるというメリットがある。
例えば、側鎖に、光異性化基に加えて、ビフェニル誘導体等の液晶性の線状メソゲン基を導入した場合には、光異性化基の光照射による配向変化を増強・固定化することができるため、吸収ロスを抑制することができる。
なお、アゾベンゼン骨格等を含む高分子材料として好適な例としては、特願2004−150801号公報、特願2004−113463号公報、特願2004−163889号公報、特願2004−83716号公報、特願2004−81670号公報、特願2004−135949号公報、特願2004−135950号公報、特願2004−81610号公報に記載の高分子材料が挙げられる。
以下に、本発明に用いられる光応答性高分子の一例として、アゾベンゼン骨格等を含む光異性化基が側鎖部分に含まれる光応答性高分子(以下、アゾポリマー(1)と称す場合がある)の構造式の一例を以下に示す。なお、以下の構造式においてnは1以上の整数を意味する。
【0035】
【化2】

【0036】
また、アゾベンゼン骨格を含むもの以外にも光応答性分子としては、ジアリールエテン類を含む材料が利用できる。ジアリールエテン類はフォトクロミズムを示す。これはフルギドなどと同じく変換が光のみで起こる6π電子環状反応である。ジアリールエテン類はスチルベン類の一種であると言える。ジアリールエテン類のフォトクロミズムはトランス−シス異性化であり、その特徴は熱安定性および繰返し耐久性が高いことである。以下に代表的なジアリールエテン類の化学構造式の一例とその異性化反応例(異性化反応例2)とを示す。
【0037】
【化3】

【0038】
例えば、ポリビニルアルコール(PVA)やポリメチルメタクリレート(PMMA)などにジアリールエテンを分散させた材料を記録層として形成したホログラム記録媒体では、波長が500nm付近の光を照射すると無色になり、波長が360nm付近の光を照射すると発色する。この吸収の変化を利用してホログラム記録を行うことができる。
【0039】
また、スピロピランを含む材料も光応答性分子として利用できる。研究報告が最も多いフォトクロミック化合物はスピロピラン類である。スピロピラン類は一部実用化されているものもあり、最も期待されている化合物の一つである。以下に代表的なスピロピラン類の化学構造式の一例とその異性化反応例(異性化反応例3)とを示す。
【0040】
【化4】

【0041】
スピロピラン類は、光により青色を呈しコントラストが良好である。スピロピラン類を含む高分子材料は、一般に、紫外光で無色から発色をする、発色速度が速い、暗所に放置した時の消色は遅いといった特徴があり、このような特徴を有するスピロピラン類は本発明のホログラム記録媒体に用いる光応答性分子として利用することができる。
【0042】
また、その他にもウラニン、エリトロシンB、エオシンYなどに代表されるキサンテン系色素を挙げることができる。以下に代表的なキサテン系色素の一例であるウラニンの化学構造式とその異性化反応例(異性化反応例4)とを示す。キサテン系色素を用いた場合には比較的強度の弱い光を用いてもホログラム記録媒体に対して情報を記録することができる。また、キサンテン系色素を用いてホログラム記録媒体を作製する場合には、例えば、PVAやPMMAなどにキサンテン系色素を分散させた材料を利用することができる。
【0043】
【化5】

【0044】
さらに、フルギドを含む材料も光応答性分子として利用できる。以下に代表的なキフルキドの化学構造式の一例とその異性化反応例(異性化反応例5)とを示す。なお、フルキドは波長365nmの紫外線により発色し、波長515nmや532nmなどのグリーンの光により異性化するため、この特性を利用してホログラム記録媒体に適用することができる。
【0045】
【化6】

【0046】
なお、本発明に用いられる光応答性分子が、アゾベンゼン骨格を有する材料以外のフォトクロミック化合物を含む高分子材料である場合、好適な例としては、特願2004−81666号公報に記載の材料が上げられる。さらに、他の光応答性分子としては、特願2003−298936号公報、特願2003−300059号公報、特願2003−300057号公報、特願2004−88790号公報、特願2004−91983号公報に記載の材料を好ましく挙げることができる。
【0047】
−液晶分子−
本発明に用いられる反応性液晶分子としては、光や熱等の外部刺激の付与によって重合及び/又は架橋する液晶分子であれば特に限定されないが、光の照射によって重合及び/又は架橋するものであることが特に好ましい。
この反応性液晶分子は、ネマチック性、コレステリック性またはスメクチック性の液晶配向を示す各種骨格を有し、かつ末端に、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等の不飽和二重結合やエポキシ基等の重合性官能基を少なくとも1つ有する液晶性化合物である。好ましくは2つ以上の重合性官能基をもって架橋できる反応性液晶分子を用いることが好ましい。この場合は配向を更に強固に固定することができる。
液晶配向を示すメソゲン基となる環状単位としては、たとえば、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、フェニルシクロヘキサン系、フェニルピリミジン系、ジフェニルアセチレン系、ジフェニルベンゾエート系、ビシクロへキサン系、シクロヘキシルベンゼン系、ターフェニル系等があげられる。なお、これら環状単位の末端は、たとえば、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。
【0048】
また、本発明に用いられる非反応性液晶分子としては、公知の液晶材料を用いることができ、例えば、上述した反応性液晶分子から重合及び/又は架橋に関与する反応性基を除いた液晶分子が利用できる。
なお、記録材料に用いられる液晶分子は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、反応性液晶分子は通例、配向処理した後、熱や光等による適宜な方式で架橋および/または重合処理されてポリマーとされる。
【0049】
−光重合開始剤−
液晶分子として反応性液晶分子を用いる場合には、記録材料からなる記録層中に含まれる反応性液晶分子の重合及び/又は架橋を促進するために、光重合開始剤を用いることが好ましい。
光重合開始剤としては、2、2−ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チタノセン系、チオキサンソン系、ジアゾニウム系、スルホニウム塩系、ヨードニウム塩系、セレニウム塩系等の通常の光重合開始剤が使用できる。光重合開始剤は、光散乱の影響を抑えるため、反応性液晶分子や光応答性分子に溶解あるいは相溶するものが好ましい。また透明の光重合開始剤も好ましい。たとえば、チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア(Irgacure)784,同754,同184、同651、同369などを例示できる。
なお、記録材料中には、光重合開始剤のほかに増感剤を、本発明の目的が損なわれない範囲で添加することも可能である。このような光重合開始の添加量としては、一般的には0.001〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲で本発明の記録材料中に添加することができる。
【0050】
−その他の成分(バインダー等)−
また、記録層を構成する記録材料には、必要に応じて、その他の成分、例えばバインダー樹脂が含まれていてもよい。
このようなバインダー樹脂としては、例えば、光学特性に優れたポリメタクリレート(PMMA)やポリビニルアルコール(PVA)などが利用可能である。また、下記の構造式(1)に示すような側鎖にシアノビフェニルを持つポリエステル材料もバインダー樹脂として好適である。
【0051】
【化7】

【0052】
なお、構造式(1)中、nは1以上の整数を表す。このポリエステル材料は、ホログラム記録媒体に情報を記録/再生する際に利用する一般的な光の波長域において透過性を有する。また、光異性化基を有する光応答性高分子と併用する場合には、光異性化基の異性化に追随して複屈折が誘起できるため、光応答性高分子の高感度化に有効である。なお、当該併用とは、光異性化基を有する光応答性高分子と、構造式(1)で示されるポリエステルの物理的な混合のみならず、化学的な混合、すなわち、構造式(1)で示される繰り返し単位が、光異性化基を有する(高分子系の)光応答性高分子に含まれる(共重合体を形成している)場合も含まれる。
【0053】
−記録層の形成−
記録層の形成は、記録層材料として用いられる本発明の記録材料に応じて適宜公知の方法を利用でき、例えば、本発明の記録材料を溶解、分散させた塗布液を用いるスプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、スクリーン印刷法等の液相成膜や、蒸着法等を利用することができる。更に射出成形やホットプレスを利用して板状の記録層(厚膜)を形成させることもできる。
【0054】
(基板/基体)
基板や基体としては、表面が平滑なものであれば各種の材料を任意に選択して使用することができる。例えば、金属、セラミックス、樹脂、紙等を用いることができる。また、その形状も特に限定されない。なお、既存の光記録媒体の製造技術や、記録再生システムを容易に利用できる点から、従来の光記録媒体に利用されているようなセンター部に穴を設けた円盤状の平坦な基板を用いることが好ましい。
【0055】
このような基板材料としては、具体的には、ガラス;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;アモルファスポリオレフィン;ポリエステル;アルミニウム等の金属;等を挙げることができ、所望によりこれらを併用してもよい。
上記材料の中では、耐湿性、寸法安定性および低価格等の点から、アモルファスポリオレフィン、ポリカーボネートが好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。
また、基板表面には、トラッキング用の案内溝またはアドレス信号等の情報を表す凹凸(プリグルーブ)が形成されていてもよい。
【0056】
また、記録や再生に際し、基板を介して記録層に光を照射する場合には、使用する光(記録光および再生光)の波長域を透過する材料を用いる。この場合、使用する光の波長域(レーザ光の場合は、強度が極大となる波長域近傍)の透過率が90%以上であることが好ましい。
【0057】
なお、基板表面に反射層を設ける場合には、基板表面には平面性の改善、接着力の向上の目的で、下塗層を形成することが好ましい。
該下塗層の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸・メタクリル酸共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、N−メチロールアクリルアミド、スチレン・ビニルトルエン共重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の高分子物質;シランカップリング剤等の表面改質剤;を挙げることができる。
下塗層は、上記材料を適当な溶剤に溶解または分散して塗布液を調製した後、この塗布液をスピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート等の塗布法により基板表面に塗布することにより形成することができる。下塗層の層厚は、一般に0.005μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、0.01μm〜10μmの範囲内であることがより好ましい。
【0058】
(反射層)
反射層としては、レーザ光の反射率が70%以上である光反射性物質から構成されていることが好ましく、このような光反射性物質としては、例えば、Mg、Se、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi等の金属および半金属あるいはステンレス鋼を挙げることができる。
これらの光反射性物質は単独で用いてもよいし、あるいは二種以上の組合せで、または合金として用いてもよい。これらのうちで好ましいものは、Cr、Ni、Pt、Cu、Ag、Au、Alおよびステンレス鋼である。特に好ましくは、Au、Ag、Alあるいはこれらの合金であり、最も好ましくは、Au、Agあるいはこれらの合金である。
【0059】
反射層は、例えば、上記光反射性物質を蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティングすることにより基板上に形成することができる。反射層の層厚は、一般的には10nm〜300nmの範囲内であることが好ましく、50nm〜200nmの範囲内であることが好ましい。
【0060】
(保護層)
保護層としては、記録層を通常の使用環境下において、機械的、物理的、化学的に保護できる材料および厚みからなるものであれば、公知の材料を用いることができる。例えば、一般的には、透明な樹脂や、SiO等の透明な無機材料を挙げることができる。
なお、記録や再生に際し、保護層を介して記録層に光を照射する場合には、使用する光の波長域を透過する材料を用いる。この場合、使用する光の波長域(レーザ光の場合は、強度が極大となる波長域近傍)の透過率が90%以上であることが好ましい。なお、これは、接着性向上等の目的で、記録層の光が入射する側の面に設けられる中間層についても同様である。
【0061】
保護層は、樹脂からなる場合には、予めシート状に形成されたポリカーボネートや三酢酸セルロース等からなる樹脂フィルムを用いることができ、この樹脂フィルムを記録層上に貼り合わせることにより保護層を形成する。貼り合わせに際しては、接着強度を確保するために熱硬化型やUV硬化型の接着剤を介して貼り合わせ、熱処理やUV照射により接着剤を硬化させることが好ましい。なお、保護層として用いられる樹脂フィルムの厚みは、記録層を保護できるのであれば特に限定されないが、実用上は30μm〜200μmの範囲が好ましく、50μm〜150μmの範囲がより好ましい。
あるいは、このような樹脂フィルムの代わりに、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を塗布形成することにより保護層を形成することもできる。また必要に応じて保護層に反射防止コートを施しても良い。
【0062】
また、保護層が、SiO、MgF、SnO、Si等の透明なセラミックスやガラス材料からなる場合には、スパッタリング法やゾルゲル法等を利用して保護層を形成することができる。なお、保護層として形成される透明無機材料の厚みは記録層を保護できるのであれば特に限定されないが、実用上は0.1μm〜100μmの範囲が好ましく、1μm〜20μmの範囲がより好ましい。
【0063】
(記録媒体の製造方法)
次に、上述したような構成を有する本発明のホログラム記録媒体の製造方法について説明する。
本発明のホログラム記録媒体が平面ホログラムである場合には、上述したように各層に用いる材料に応じて基板上に記録層等を順次積層することにより作製することができる。 例えば、基板上に記録層と保護層とを設けた構成からなるホログラム記録媒体の作製過程の主要な流れを例に挙げて簡潔に説明する。まず、ポリカーボネート基板に、高分子材料からなる光応答性分子と、液晶分子と、粒子と、必要に応じて用いられるその他の成分とを溶媒に溶かした塗布溶液を用いてスピンコーティング法により所望の膜厚が得られるように記録層を形成し、十分に乾燥させる。次に、両面接着剤テープで記録層と保護層形成用の三酢酸セルロース樹脂フィルムとを貼り合わせることにより、保護層/記録層/基板の構成からなるホログラム記録媒体を得ることができる。
【0064】
また、本発明のホログラム記録媒体が体積ホログラムである場合には、記録層を射出成形や、ホットプレスにより形成することができ、具体的には以下のようにして作製することができる。
【0065】
まず、射出成形を利用する場合には、例えば、以下のようにしてホログラム記録媒体を作製することができる。まず、射出成形により記録層となるディスク状の成形物を作製する。次に、このディスク状の成形物を1対のディスク状の透明基板で挟持してホットプレスにより貼り合わせ、ホットメルト接着する。
なお、射出成形工程では、原料である樹脂(少なくとも光応答性分子と液晶分子と粒子とを含む樹脂組成物)を加熱溶融し、溶融樹脂を成形金型内に射出して、ディスク状に成形する。射出成形機としては、原料の可塑化機能と射出機能とが一体化されたインライン方式の射出成形機、可塑化機能と射出機能を分離させたプリプランジャー方式の射出成形機の何れも用いることができる。射出成形の条件等は、出射圧力1000〜3000kg/cm、出射速度5〜30mm/secとすることが好ましい。
また、ホットプレス工程では、射出成形工程で得られた厚さ板状の成形物を、1対のディスク状の透明基板で挟持して、真空下でホットプレスする。
【0066】
このようにして作製されるホログラム記録媒体は、基板上に記録層を成膜するのではなく、射出成形で別個独立に形成するので、記録層の厚膜化が容易で且つ大量生産にも適している。また、ホットプレスにより記録層を透明基板と貼り合わせるので、射出成形による成形物の残留歪みが均一化され、記録層を厚膜化しても、光吸収や散乱の影響で記録特性が損なわれることがない。
【0067】
一方、ホットプレスを利用する場合には、例えば、以下のようにしてホログラム記録媒体を作製することができる。まず、テフロン(登録商標)シート等の離型性の高い基板(押圧部材)で粉末状の樹脂(少なくとも光応答性分子と液晶分子と粒子とを含む樹脂組成物)を挟み込み、この状態で真空下でホットプレスして、記録層を直接成形する。
【0068】
なお、ホットプレス工程においては、真空ホットプレスを行うことが好ましい。この場合、1対の押圧部材間に粉末状の樹脂を試料として装填する。次に、気泡の発生を防止するために0.1MPa程度の減圧下とした状態で、所定の温度まで徐々に昇温し、押圧部材を介して試料を加圧する。この際の過熱温度は樹脂材料のガラス転移温度(Tg)以上の温度とし、プレス圧力は0.01〜0.1t/cmとするのが好ましい。所定時間、熱間加圧を行った後、加熱及び加圧を停止し、試料を室温まで冷却した後に取り出す。
【0069】
このような、ホットプレスを実施することにより、一対の押圧部材に挟まれた樹脂材料が加熱溶融され、これが冷却されて板状の記録層が得られる。最後に押圧部材を取り除くことで、光記録媒体が得られる。例えば、記録層をアゾポリマーで構成する場合、アゾポリマーはTgが約50℃と低いので、約70℃に加熱してホットプレスを行うことで、容易に記録層を所望の厚さに成形することができる。また、ホットプレスでは残留歪みは発生しない。
なお、必要に応じて、この記録層からなるホログラム記録媒体の耐傷性、耐湿性を高める等の目的で、保護層等を設けてもよい
【0070】
このようにして作製されるホログラム記録媒体は、基板上に記録層を成膜するのではなく、ホットプレスで別個独立に形成するので、記録層の厚膜化が容易である。また、ホットプレスにより記録層を成形するので、成形物の残留歪み等が発生せず、記録層を厚膜化しても、光吸収や散乱の影響で記録特性が損なわれることがない。
【0071】
<ホログラム記録方法>
次に、本発明のホログラム記録媒体を用いたホログラム記録方法について説明する、本発明のホログラム記録方法は、本発明の記録媒体に光を照射することにより記録媒体の記録層に情報を記録したり、一旦記録した情報を再生することができる。なお、本発明においては、特に、情報の記録が偏光を利用した多重記録であることが好ましい。この場合、感度の高い多重記録が可能である。さらに、液晶分子として反応性液晶分子を用いれば、一旦記録された情報の定着も可能である。これに加えて、偏光を利用しているため記録されたデーターにセキュリティ用の鍵をかけたり、演算を行わせたりすることもできる。
【0072】
次に、上記に説明した本発明のホログラム記録媒体を用いて情報の記録及び/又は再生を行う光記録再生装置について説明する。本発明に用いられる光記録再生装置は、記録再生に用いるホログラム記録媒体の仕様に応じて、公知の記録/再生方法、例えばホログラム記録、光吸収率変調記録等を適用した構成とすることができる。これらの中でも、本発明に用いられる光記録再生装置は、偏光を利用したホログラム記録を適用した構成とすることが好ましい。
【0073】
この場合、本発明に用いられる光記録再生装置は、ホログラム記録媒体への情報の記録に際して、情報に応じた信号光をホログラム記録媒体に照射する信号光源と、ホログラム記録媒体に記録された情報を再生(読み出し)する際にホログラム記録媒体に参照光を照射する参照光源と、を少なくとも備えたものであることが好ましい。また、ホログラム記録媒体への参照光の照射により再生された情報(再生光又は回折光)を読み取る光電変換素子等を利用した読取センサー(例えば、CCD等)を備えたものであってもよい。
さらに、必要に応じて、信号光源、又は、参照光源および読取センサーを省いて、記録専用、あるいは、再生専用としてもよい。
【0074】
なお、通常は、ミラーや、ビームスプリッタ、レンズ等を利用して、信号光をホログラム記録媒体に照射する結像光学系等を形成したり、同一の光源から、ビームスプリッタ等を利用して信号光と参照光とを取り出したりするなど、通常の光学的記録再生装置に利用されているような様々な光学系を必要に応じて適用することが好ましい。
【0075】
また、信号光および/または参照光の光源としては、特に限定されないが、通常はHe−NeレーザやArレーザ等の公知のレーザ光源を用いることが好ましい。なお、レーザほど完全な単色光でなくとも、超高圧水銀灯のようなスペクトルの半値幅が2〜3nm程度と小さい輝線スペクトルを有する光源も利用でき、また、太陽や電灯などの白色光源を用いてもよい。
【0076】
さらに、使用するホログラム記録媒体が、市販されているDVDや、CD−ROM等のような所謂ディスク状の媒体である場合には、DVDや、CD−ROM等に利用されているディスク媒体に対応した種々の機構;ディスクを保持して回転させるモーター等の機構や、信号光や参照光をディスクの平面方向の所定位置に照射する機構(光源が固定式の場合は、ガルバノミラー等を利用したり、光源をディスクの平面方向に走査可能な所謂ヘッドとする等)等を備えていることが好ましい。
【0077】
なお、ホログラム記録の方式としては、例えば、記録面に対する法線と入射物体光とのなす角度を変えることにより単一の場所に複数のホログラムを記録可能なホログラム記録、及び記録面に対する入射光の位置を変えることにより重なった領域に複数のホログラムを記録可能なホログラム記録や、記録面に対する入射光の位置を変えることにより重なった領域に複数のホログラムを記録するホログラム記録などが挙げられる。
【0078】
以下に、本発明に用いられる光記録再生装置の一例について、図面を用いて説明する。
図1に示すように、記録再生には、レーザダイオード励起の固体レーザ20の532nm発振線を用いた。固体レーザから出射された直線偏光は、1/2波長板21によって偏光が回転された後、偏光ビームスプリッタ22によって信号光および参照光の二光波に分けられる。このとき、偏光の回転角を制御することによって、二光波の強度バランスを調整することができる。これら二光波は、記録媒体24中において交差し、二光波の干渉による強度分布、もしくは偏光分布に応じて、記録媒体24中に光学異方性を誘起する構成となっている。信号光光路中の1/2波長板33は、信号光の偏光を制御し、これによって、信号光と参照光との偏光方向が平行な強度変調ホログラム、もしくは両者の偏光方向が垂直な偏光変調ホログラムが記録可能となる。
【0079】
再生時は、参照光のみを光記録媒体に照射することによって、記録された情報による回折光が得られ、パワーメータ25によってその光出力を測定することができる。そして、参照光の光強度に対する回折光強度の比率を求めることによって、光記録媒体の回折効率を算出することができる。
【0080】
なお、本発明に用いられる光記録再生装置では、記録媒体24として本発明の記録媒体を配し、情報の記録再生を行なわせることができる。ここで光応答性分子としてアゾポリマーなど利用した記録媒体を用いた場合は、1/2波長板33や偏光ビームスプリッタ22を調整することにより、信号光と参照光の偏光方向が平行な強度分布ホログラムのみならず、その偏光方向が垂直な偏光変調ホログラムが記録できる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0082】
<記録媒体の作製>
(実施例1)
・反応性液晶モノマー(大日本インキ化学工業社製、UCL008):55質量部
・アゾポリマー(1)(重量平均分子量:23000):35質量部
・コロイド粒子(TiO、平均粒径15nm):10質量部
・光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社、IRGACURE 784):0.03質量部
以上の成分をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた溶液を、スピンコートにより洗浄済のディスク状ガラス基板(直径50mm、厚み1mm)の片面に塗布した後、乾燥させて膜厚2μmの記録層を形成し、記録媒体A1を得た。
【0083】
(実施例2)
・反応性液晶モノマー(大日本インキ化学工業社製、UCL008):40質量部
・アゾポリマー(1)(重量平均分子量:23000):55質量部
・コロイド粒子(SiO、平均粒径15nm):5質量部
・光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社、IRGACURE 784):0.03質量部
以上の成分をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた溶液を、スピンコートにより洗浄済のディスク状ガラス基板(実施例1と同様の基板)の片面に塗布した後、乾燥させて膜厚2μmの記録層を形成し、記録媒体A2を得た。
【0084】
(実施例3)
・反応性液晶モノマー(大日本インキ化学工業社製、UCL008):40質量部
・アゾポリマー(1)(重量平均分子量:23000):59.5質量部
・コロイド粒子(TiO、平均粒径15nm):0.5質量部
・光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社、IRGACURE 784):0.03質量部
以上の成分をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた溶液を、スピンコートにより洗浄済のディスク状ガラス基板(実施例1と同様の基板)の片面に塗布した後、乾燥させて膜厚2μmの記録層を形成し、記録媒体A3を得た。
【0085】
(実施例4)
・反応性液晶モノマー(大日本インキ化学工業社製、UCL008):6質量部
・アゾポリマー(1)(重量平均分子量:23000):93質量部
・コロイド粒子(TiO、平均粒径15nm):1質量部
・光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社、IRGACURE 784):0.03質量部
以上の成分をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた溶液を、スピンコートにより洗浄済のディスク状ガラス基板(実施例1と同様の基板)の片面に塗布した後、乾燥させて膜厚2μmの記録層を形成し、記録媒体A4を得た。
【0086】
(比較例1)
・反応性液晶モノマー(大日本インキ化学工業社製、UCL008):40質量部
・アゾポリマー(1)(重量平均分子量:23000):59.5質量部
・コロイド粒子(TiO、平均粒径100nm):0.5質量部
・光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社、IRGACURE 784):0.03質量部
以上の成分をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた溶液を、スピンコートにより洗浄済のディスク状ガラス基板(実施例1と同様の基板)の片面に塗布した後、乾燥させて膜厚2μmの記録層を形成し、記録媒体B1を得た。
【0087】
(比較例2)
・反応性液晶モノマー(大日本インキ化学工業社製、UCL008):40質量部
・アゾポリマー(1)(重量平均分子量:23000):60質量部
・光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社、IRGACURE 784):0.03質量部
以上の成分をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた溶液を、スピンコートにより洗浄済のディスク状ガラス基板(実施例1と同様の基板)の片面に塗布した後、乾燥させて膜厚2μmの記録層を形成し、記録媒体B2を得た。
【0088】
(比較例3)
・反応性液晶モノマー(大日本インキ化学工業社製、UCL008):6質量部
・アゾポリマー(1)(重量平均分子量:23000):94質量部
・光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社、IRGACURE 784):0.03質量部
以上の成分をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた溶液を、スピンコートにより洗浄済のディスク状ガラス基板(実施例1と同様の基板)の片面に塗布した後、乾燥させて膜厚2μmの記録層を形成し、記録媒体B3を得た。
【0089】
<透過率の評価>
光散乱に起因する記録特性の初期的および経時的な劣化を記録媒体を作製直後および1月後における透過率を評価することにより実施した。なお、情報の記録に用いる光源をArレーザと仮定して、Arレーザを用いて透過率評価を実施した。
評価は、まず、記録媒体の記録層が形成された面側から、記録媒体平面に対して直交する方向からアルゴンレーザ(波長:515nm、強度:0.5W/cm)を照射し、この時の記録媒体に入射する前のレーザ光の強度と、記録媒体を通過した後のレーザ光の強度との比から透過率を求めた。ここで、レーザ光の強度はパワーメータ( アドバンテスト社製)により測定した。また、透過率は、記録媒体面内の任意の3点について測定した値の平均値として求めた。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
なお、表1中に示す作製直後透過率および透過率の低下の判定基準は以下の通りである。
−作製直後透過率−
◎:直後透過率が80%以上
○:直後透過率が60%以上80%未満
△:直後透過率が40%以上60%未満
×:直後透過率が40%未満
【0092】
−透過率の低下−
◎:透過率の低下が5%以下
○:透過率の低下が5%を超え20%以下
△:透過率の低下が20%を超え40%以下
×:透過率の低下が40%を超える
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に用いられる光記録再生装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0094】
20 レーザダイオード励起固体レーザ
21 1/2λ板
22 偏光ビームスプリッタ
24 光記録媒体
25 パワーメータ
33 1/2λ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも光を照射して情報を記録するために用いられ、
光応答性分子と、液晶分子と、平均粒径が前記情報の記録に用いられる光の波長の1/10以下の粒子とを含むことを特徴とするホログラム記録材料。
【請求項2】
前記液晶分子が5重量%以上含まれることを特徴とする請求項1に記載のホログラム記録材料。
【請求項3】
前記光応答性分子が光応答性高分子であることを特徴とする請求項1に記載のホログラム記録材料。
【請求項4】
前記液晶分子に対する前記粒子の配合割合が0.01重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のホログラム記録材料。
【請求項5】
少なくとも光を照射して情報を記録するために用いられ、
光応答性分子と、液晶分子と、平均粒径が前記情報の記録に用いられる光の波長の1/10以下の粒子とを含むホログラム記録材料からなる記録層を有することを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項6】
光応答性分子と液晶分子と粒子とを含む記録層を有するホログラム記録媒体に、信号光と参照光とを同時に照射することにより情報を記録する際に、光の強度変調および偏光変調の少なくともいずれかを利用して前記情報を多重記録し、且つ、前記粒子の平均粒径が、前記信号光の波長の1/10以下であることを特徴とするホログラム記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−20538(P2008−20538A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190530(P2006−190530)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】