説明

ホログラム2次元パターン、および、ラゲールガウシアンビームの生成方法、並びに、光マニピュレーションシステム。

【課題】ラゲールガウシアンビームを効率的に生成できる、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンを提供する。
【解決手段】ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターン200は、一様な流れの中におかれた湧源から周囲に一様に湧き出す2次元完全流体の流線に基づいて作製されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム2次元パターン、および、ラゲールガウシアンビームの生成方法、並びに、光マニピュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
波面が螺旋階段のような形状をなしており、軌道角運動量という特異な運動特性を持つドーナツ状のラゲールガウシアンビームは、光マニピュレーション、光加工および量子情報通信などの光技術分野において様々な応用が期待されている。ラゲールガウシアンビームの作製法の一例として、ホログラフィー技術を利用する方法がある。つまり、ガウシアン分布のビーム(光)を、ラゲールガウシアンビーム生成用のフォーク状の回折格子(ホログラム2次元パターン;詳細は後述)に参照光として照射させることにより、その回折光をラゲールガウシアン分布にモード変換できる。このホログラム2次元パターンは、通常、実在の光を使用することなく、ホログラム原理から直接導かれる特性方程式を使って光干渉のコンピュータ計算により作製されている。但し、このような計算機ホログラム(computer-generated hologram)の作製には、時間がかかりすぎるという問題が指摘されている。
【0003】
一方、直線偏光や円偏光などの周知のビームと異なり、軸対称の偏光ビーム、例えば、ラジアル偏光ビームやアジミュサル偏光ビームの持つ特異な集光特性に、近年、注目が集まっており、上述のラゲールガウシアンビームと同様に、各種の分野において検討がなされている。このようなラジアル偏光やアジミュサル偏光ビームの生成には、例えば円錐構造のブリュースタープリズムを共振器内に挿入してレーザ発振させる方法が提案されているが、ラジアル偏光やアジミュサル偏光のビームをより簡易的に生成できる技術の開発が待たれている。なお、特許文献1には、従来の軸対称の偏光ビームの生成方法の一例が記載されている。
【特許文献1】特表平11−509978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者等は、特異な集光特性を持つ光の研究を通じたナノフォトニクスの技術開発に取り組んでいる。このようなナノフォトニクスの一応用事例として、ナノサイズの被捕捉体としての、非生体物質(例えば金属微粒子)や生体(例えば細胞)を、トラッピング光により捕捉して、これをハンドリングできる光マニピュレーションシステム(光ピンセット)の技術がある。つまり、トラッピング光が物質の界面で反射および屈折する際、その界面に力(光放射圧)が発生するとされており、この力を利用してナノサイズの被捕捉体を非接触で捕捉できる。
【0005】
一方、ホログラムを表示する媒体として液晶表示パネルを使う試み(以下、このようなホログラムを「液晶ホログラム」と略す)が最近活発になっている(例えば特開2004−294756号公報参照)。液晶表示パネルの表示画面上に描かれた所望の液晶ホログラムは、適宜、消去および表示(再生)され、これにより、光学ミラーなどの機械制御に拠らずにビームの移動を調整できる。このため、このような液晶技術を活用することにより、光マニピュレーションシステムの光学系の簡素化および振動に対する耐震性向上を図れる。
【0006】
そこで、本件発明者等は、特異な集光特性を持つ光(例えば、ラゲールガウシアンビーム)の動きを、液晶ホログラムにより制御すれば、光マニピュレーションシステムの高性能化を実現できると考えている。なお、光マニピュレーションのトラッピング光として、上述のラゲールガウシアンビームを使用した際の、様々な効果(有益性)については後述する。
【0007】
そうであるにも拘らず、これまで培われた既存技術の単なる寄せ集めや軽微な設計変更では、ラゲールガウシアンビームをトラッピング光とする光マニピュレーションの開発は早晩行き詰まる可能性が高い。つまり、ラゲールガウシアンビームを簡易に実時間(リアルタイム)で制御できる有効な手立てが未だ見出せてない。例えば、既存技術の計算機ホログラムに基づいて生成されたラゲールガウシアンビームを、光マニピュレーションのトラッピング光に使用する場合には、光マニピュレーションシステムのコンパクト化や操作性が極度に阻害されると考えられる。そこで、ラゲールガウシアンビームの生成原理にまで立ち戻り、これを抜本的に見直す必要があった。
【0008】
よって、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ラゲールガウシアンビームを効率的に生成できる、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンを提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、アキシコンレンズと同じ類の集光特性を効率的に発揮できる、アキシコンレンズ代替用回折格子としてのホログラム2次元パターンを提供することも目的とする。
【0010】
また、本発明は、ラジアル偏光やアジミュサル偏光に偏光選択されたラゲールガウシアンビームを効率的に生成できる、ラゲールガウシアンビームの生成方法を提供することも目的とする。
【0011】
また、本発明は、効率良く生成されたラゲールガウシアンビームをトラッピング光として用いた光マニピュレーションシステムを提供することも目的とする。
【0012】
なお、本明細書では、直線偏光、円偏光、またはラジアル偏光のラゲールガウシアンビームの光マニピュレーションへの応用例を述べるが、これは飽くまで一例に過ぎず、上述のラゲールガウシアンビームは、光マニピュレーションの他、レーザ加工、レーザ冷却、量子情報通信などの様々な分野への応用が期待されている。また、上述の軸対称の偏光ビームも、光マニピュレーションの他、レーザ加工、レーザ核融合、直接粒子加速、表面第二高調波発生による半導体表面の診断と半導体リソグラフィーの表面画像診断、単分子双極子による高解像度顕微鏡などの様々な分野への応用が期待されている。このため、本発明のホログラム2次元パターン、および、本発明のラゲールガウシアンビームの生成方法は、以上に述べた様々な分野にも適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本件発明者等は、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子またはアキシコンレンズ代替用回折格子としてのホログラム2次元パターンの作製において流体力学の手法を適用すれば、従来のビーム生成方法が大幅に改善され、極めて好都合であることに気がついた。
【0014】
本発明は、このような知見を契機にして案出されたものであり、第1の本発明は、一様な流れの中におかれた湧源から周囲に一様に湧き出す2次元完全流体の流線に基づいて作製されている、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンを、提供する。
【0015】
より具体的には、上述の第1の本発明において、前記流線は、前記2次元完全流体を定式化させた複素速度ポテンシャルの虚部に対応する流れ関数から導出されている。
【0016】
これにより、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのフォーク状のホログラム2次元パターンは、一様な流れの中におかれた湧源から周囲に、単位時間当たり所定の割合で一様に湧き出す2次元完全流体の複素速度ポテンシャルに基づいて容易に導くことができる。より詳しくは、上述の流線は、複素速度ポテンシャルの虚部に対応する流れ関数がコンスタント(一定)である場合に相当し、この流れ関数を用いて、フォーク状のホログラム2次元パターンを容易に導け、その結果、ラゲールガウシアンビームを効率的に生成できる。
【0017】
また、第2の本発明は、一様な流れの中におかれた湧源から周囲に一様に湧き出す2次元完全流体の等ポテンシャル線に基づいて作製されている、アキシコンレンズ代替用回折格子としてのホログラム2次元パターンを、提供する。
【0018】
より具体的には、上述の第2の本発明において、前記等ポテンシャル線は、前記2次元完全流体を定式化させた複素速度ポテンシャルの実部に対応する速度ポテンシャルから導出されている。
【0019】
これにより、アキシコンレンズ代替用回折格子としてのホログラム2次元パターンは、一様な流れの中におかれた湧源から周囲に、単位時間当たり所定の割合で一様に湧き出す2次元完全流体の複素速度ポテンシャルに基づいて容易に導くことができる。より詳しくは、上述の等ポテンシャル線は、複素速度ポテンシャルの実部に対応する速度ポテンシャルがコンスタント(一定)である場合に相当し、この速度ポテンシャルを用いて、ホログラム2次元パターンを容易に導け、その結果、アキシコンレンズと同じ類の集光特性を効率的に実現できる。
【0020】
第3の本発明は、上述のラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンを用いて、円偏光のガウシアンビームがラゲールガウシアンビームにモード変換され、
その後、前記モード変換されたラゲールガウシアンビームが、光の透過偏光が光軸の動径方向に存在する偏光子を透ることによりラジアル偏光に偏光選択される、ラゲールガウシアンビームの生成方法を、提供する。
【0021】
また、第4の本発明は、上述のラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンを用いて、円偏光のガウシアンビームがラゲールガウシアンビームにモード変換され、
その後、前記モード変換されたラゲールガウシアンビームが、光の透過偏光が光軸の方位角方向に存在する偏光子を透ることによりアジミュサル偏光に偏光選択される、ラゲールガウシアンビームの生成方法を、提供する。
【0022】
このような第3および第4の本発明によれば、上述のラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンは、一様な流れの中におかれた湧源から周囲に、単位時間当たり所定の割合で一様に湧き出す2次元完全流体の複素速度ポテンシャルに基づいて容易に導くことができることから、ラゲールガウシアンビームを効率的に生成できる。よって、このラゲールガウシアンビームを、上述のラジアル偏光用偏光子やアジミュサル偏光用偏光子を透すことにより、ラジアル偏光やアジミュサル偏光に容易に偏光選択できる。
【0023】
第5の本発明は、一様な流れの中におかれた湧源から周囲に一様に湧き出す2次元完全流体の流線に基づいたラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンのデータを演算する制御装置と、
前記ホログラム2次元パターンを、複数の画素からなる画面上に表示可能な表示パネルと、
前記画面上のホログラム2次元パターンに向けてガウシアンビームを照射することにより、ラゲールガウシアンビームにモード変換させるレーザ光源と、
前記表示パネルの各画素における階調調整により前記画面上のホログラム2次元パターンの表示を切り替えるよう、前記ホログラム2次元パターンのデータに基づいて各画素への画像信号を前記表示パネルに与える信号処理回路と、
を備え、
前記ラゲールガウシアンビームは、トラッピング光として被捕捉体を捕捉するとともに、前記ホログラム2次元パターンの表示切り替えに基づいて、その状態を変化させる光マニピュレーションシステムを、提供する。
【0024】
なお、前記ラゲールガウシアンビームの状態の一例は、前記ラゲールガウシアンビームの位相特異点を含む孔の位置および/または個数および/または大きさである。
【0025】
このような第5の本発明によれば、制御装置により高速演算されたホログラム2次元パターンのデータに基づき液晶配向制御用の画像信号(デジタル信号)が生成され、これにより、表示パネルの表示画面上に、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンが、リアルタイムに消去および再生(つまり、ホログラム2次元パターンの表示切り替え)される。よって、作業者は、トラッピング光としてのラゲールガウシアンビームにトラップされた被捕捉体を、適宜の操作レバーの操作によりスムーズに動かすことができる。
【0026】
また、このようなホログラム2次元パターンを表示パネルにより表示することにより、光学ミラーなどの機械制御に拠らずにビームの移動を調整でき、光マニピュレーションシステムの光学系の簡素化および振動に対する耐震性向上を図れる。
【0027】
また、前記ラゲールガウシアンビームの位相特異点を含む孔が、対をなしていてもよく、この場合、以下の述べる様々な効果(有益性)が発揮される。
【0028】
例えば、前記被捕捉体としての棒状粒子の一端が、前記対をなす孔の一方の近傍で捕捉され、前記棒状粒子の他端が、前記対をなす孔の他方の近傍で捕捉され、前記棒状粒子が、前記ラゲールガウシアンビームの状態変化(つまり、対をなす位相特異点を含む孔のスムーズな回転移動)により回転してもよい。
【0029】
このような構成によれば、従来の光マニピュレーションシステムにおいて、物体の方位を制御するには物体を挟んで方位を変更する最低2つのビームが必要となり、光マニピュレーションシステムの光学系が複雑化するという問題を内包していたが、当該問題が根本的に解消される。
【0030】
また、前記被捕捉体としての金属粒子の対の各々が、前記対をなす孔の各々の近傍で捕捉され、前記対をなす金属粒子同士が、前記ラゲールガウシアンビームの状態変化(つまり、対をなす位相特異点を含む孔同士のスムーズな接近移動)により近づいてもよい。
【0031】
このような構成によれば、従来の光マニピュレーションシステムにおいて、複数の物体を同時に扱うには、その物体の個数以上のビームが必要となり、光マニピュレーションシステムの光学系が複雑化するという問題を内包していたが、当該問題が根本的に解消される。
【0032】
また、対をなす各々の孔近傍で金属粒子をトラップした場合、それらの金属粒子同士をスムーズに近づけることができ、これらの金属粒子間に生じる表面プラズモンのギャップモードの電場増強を効率的に行える場合がある。
【0033】
そして、このような表面プラズモンの電場増強は、光信号の低エネルギー駆動の飛躍的な向上につながると期待される。
【0034】
また、前記ラゲールガウシアンビームは、円偏光またはラジアル偏光になっており、前記被捕捉体としての前記金属粒子の突起部が、前記ラゲールガウシアンビームの位相特異点を含む孔の近傍で捕捉されてもよい。
【0035】
これにより、金属粒子の突起部が、ラゲールガウシアンビームの位相特異点を含む孔の光放射圧の強い部分で捕捉できるとともに、光強度が高く、かつ、Z方向電場振動が最大となるビームが金属粒子の突起部に当たり、この金属粒子において表面プラズモンの電場増強を効率的に行える。そして、このような表面プラズモンの電場増強は、光信号の低エネルギー駆動の飛躍的な向上につながると期待される
ここで、上述の光マニピュレーションシステムに、前記ラゲールガウシアンビームの広がり角を調整する機能を付与してもよい。
【0036】
これにより、ラゲールガウシアンビームの焦点位置を、その深さ方向(Z方向)に移動できるようになり、トラッピング光としてのラゲールガウシアンビームにトラップされた被捕捉体を上下にスムーズに動かすことができる。このため、既存の光マニピュレーションシステムにおける上下方向のステージ動作機構を無くすことができ、光マニピュレーションシステムの機械構成の簡素化が図れて好適である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ラゲールガウシアンビームを効率的に生成できる、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンが得られる。
【0038】
また、アキシコンレンズと同じ類の集光特性を効率的に発揮できる、アキシコンレンズ代替用回折格子としてのホログラム2次元パターンも得られる。
【0039】
また、ラジアル偏光やアジミュサル偏光に偏光選択されたラゲールガウシアンビームを効率的に生成できる、ラゲールガウシアンビームの生成方法も得られる。
【0040】
また、効率良く生成されたラゲールガウシアンビームをトラッピング光として用いた光マニピュレーションシステムも得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を実施するための第1、第2および第3実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
まず、ドーナツ状のラゲールガウシアンビーム(Laguerre-Gaussian Beam)の生成装置の一例について概説する。
【0042】
図1は、本実施形態によるラゲールガウシアンビームの生成装置の一構成例を示した斜視図である。図2は、図1のホログラムに描かれた、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのフォーク状のホログラム2次元パターンの一例を示した図である。
【0043】
ラゲールガウシアンビームの生成装置50は、図1に示すように、ガウシアンビーム12を発するアルゴンイオンレーザやヘリウムネオンレーザなどのレーザ光源11と、ガウシアンビーム12からラゲールガウシアンビーム10へのモード変換用のホログラム13と、を備える。
【0044】
このラゲールガウシアンビーム10は、光強度分布10a(正確には光強度の時間積分分布)のピークがドーナツ状(円環状)になっている。そして、このラゲールガウシアンビーム10は、波面(同位相面)が螺旋階段のような形状になしており、光子が角運動量を持っている状態として知られている。つまり、ラゲールガウシアンビーム10は、光軸14を中心として位相が回転角方向に分布するようなビームであり、それが一周すると位相差が2πになる。そして、光軸14に当たる円環状の輪の中心が位相特異点になっている。
【0045】
ラゲールガウシアンビーム10は、入射用のガウシアンビーム12を、図2に示したラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのフォーク状のホログラム2次元パターン200に通して直接変換されるが、このホログラム2次元パターン200は、従来からホログラム原理から導かれる特性方程式を使って光干渉のコンピュータ計算により作製されていた。なお、本実施形態によるホログラム2次元パターン200の作製法については後述する。
【0046】
ホログラム13は、ここでは、適宜の記録材料面にホログラム2次元パターン200を記録させ、或いは、当該ホログラム2次元パターン200を液晶表示パネルに表示させた、透過型として構成されている。つまり、図2の白い部分は、光がそのまま透過し、黒い部分では光が吸収され、或いは、光の位相が180°ずらされ、これにより、ホログラム13の表面側に、参照光としてのガウシアンビーム12が照射されると、ホログラム13の裏面側に、光干渉効果による回折光としてのドーナツ状のラゲールガウシアンビーム10が再生される。但し、ホログラム13の構成は、これに限定されるものではなく、反射型であってもよい。
【0047】
なお、以上のホログラム2次元パターン200は、液晶表示パネルを用いた場合、光の透過および非透過という2値表示、或いは、光の位相ずれが0°および180°という2値表示により形成されている例であるが、本明細書におけるホログラム2次元パターンは、これに限らない。例えば、位相が0°から360°に亘り、多段の階調で変化できる回折格子も、後述の作製法により得ることができ、液晶表示パネルの多階調表示により、このような回折格子の制御も可能である。
【0048】
次に、流体力学における複素速度ポテンシャルの概念を用いた、本実施形態によるフォーク状のホログラム2次元パターン200の作製法について述べる。
【0049】
図3は、各種の完全流体の2次元のポテンシャル流れについての流線を例示した図である。
【0050】
図3(a)には、2次元一様流れU(2次元平行流れ)の流線の様子が描かれている。
【0051】
図3(b)には、単位時間当たりにQの割合で、湧源15から周囲に一様に湧き出す2次元流れの流線の様子が描かれている。
【0052】
図3(c)には、一様な流れU中において、単位時間当たりにQの割合で湧源15から周囲に一様に湧き出す2次元流れの流線の様子が描かれている。つまり、図3(c)では、2次元一様な流れUと、湧源15から周囲に一様に湧き出す2次元流れとの重ね合わせにより、流れの合成がなされている。
【0053】
図3(c)によれば、図3(a)に示した2次元一様流れUにより、図3(b)に示した湧源15から一様に湧き出す流れの一部が横向きに流され、これにより、湧源15を基点とした放物線を描く流線群が確認できる。このため、図3(c)に示した湧源15を基点とした放物線を描く流線群が、図2に示したホログラム2次元パターン200の中央のフォーク状に描かれた部分に相当すると見做して、両者を対比すると、両者の形態に顕著な類似性がある。
【0054】
このような事実から、本件発明者等は、流体力学における複素速度ポテンシャルの概念を用いることにより、図2に示したホログラム2次元パターン200と同じ類のパターンを定式化できることに気がついた。これにより、従来の計算機ホログラムに代えて、以下の流体力学における複素速度ポテンシャルの概念により、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのフォーク状のホログラム2次元パターン200を容易に得ることができると考えている。
【0055】
つまり、完全流体(理想流体とも言う)とは、流体の粘性と圧縮性を無視した流れであり、このような完全流体を仮定すれば、流体運動の一般式である運動方程式(ナビエ・スト−クス式)と連続の式の組を簡略化できる。とりわけ、2次元完全流体のポテンシャル流れは、複素速度ポテンシャルとして、複素関数を用いて数学的に整った形で流れを記述することができる。
【0056】
複素速度ポテンシャルF(Z)の実部Φ(X、Y)および虚部ψ(X、Y)が、それぞれ、速度ポテンシャルΦ(X、Y)および流れ関数ψ(X、Y)と考えることができ、このような完全流体の2次元のポテンシャル流れは、「速度ポテンシャルΦ(X、Y)=コンスタント(一定)」を等ポテンシャル線として、「流れ関数ψ(X、Y)=コンスタント(一定)」を流線とするような運動である。そして、一様な流れU中において、単位時間当たりQの割合で周囲に一様に湧き出すような2次元完全流体の複素速度ポテンシャルF(Z)は、以下の式(1)で定式化される。
【0057】
F(Z)=Φ+iψ=UZ+(Q/2π)logZ (Q>0)・・・(1)
以上に述べたように、本実施形態のラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのフォーク状のホログラム2次元パターン200は、一様な流れUの中におかれた湧源15から周囲に、単位時間当たりQの割合で一様に湧き出す2次元完全流体の複素速度ポテンシャルF(Z)に基づいて容易に導くことができる。具体的には、図3(c)に示した流線は、この複素速度ポテンシャルF(Z)の虚部に対応する流れ関数ψ(X、Y)がコンスタント(一定)である場合に相当し、この流れ関数ψ(X、Y)を用いて、フォーク状のホログラム2次元パターン200を容易に導け、その結果、ラゲールガウシアンビーム10を効率的に生成できる。
(第1実施形態の変形例)
ここまで、フォーク状のホログラム2次元パターン200を、流体力学における複素速度ポテンシャルの概念を用いることにより、容易に導ける例について述べたが、複素速度ポテンシャルの概念のホログラム2次元パターンへの適用は、これに限らない。
【0058】
図4は、アキシコンレンズと同じ類の集光性能を発揮できるホログラム2次元パターンの一例を示した図である。
【0059】
アキシコンレンズは、円錐レンズとも称され、レーザビームの焦点をあわせることや他のレンズの組合せにより、ドーナツ状のレーザビームを形成することに利用されている。また、レーザ光源から発せられたレーザビームが、上述のアキシコンレンズにより一旦集光され、再び拡散される際に、アキシコンレンズによる集光においては、光軸方向に延びた焦点(光が集まる部分)が形成される。そして、このような特性を利用することにより、アキシコンレンズは、光加工、ナノメータ計測および光軸方向の動きに不感な動き計測などの分野への応用が期待されている。
【0060】
図5は、一様な流れ中において、単位時間当たりに所定割合で湧源から周囲に一様に湧き出す2次元流れの等ポテンシャル線を示した図である。
【0061】
図5に示した等ポテンシャル線によれば、2次元一様流れの中におかれた湧源15近傍には、湧源15を中心とした略同心半円状の等ポテンシャル線群が確認できる。このため、図5に示した湧源15を中心とした略同心半円状の等ポテンシャル線群が、図4に示したホログラム2次元パターン201の中央のくびれ部分に相当すると見做して、両者を対比すると、両者の形態に顕著な類似性がある。
【0062】
以上に述べたように、アキシコンレンズと同じ類の集光性能を発揮できる本変形例のホログラム2次元パターン201は、一様な流れUの中におかれた湧源15から周囲に、単位時間当たりQの割合で一様に湧き出す2次元完全流体の複素速度ポテンシャルF(Z)(上述)に基づいて容易に導くことができる。つまり、図5に示した等ポテンシャル線は、この複素速度ポテンシャルF(Z)の実部に対応する速度ポテンシャルΦ(X、Y)がコンスタント(一定)である場合に相当し、この速度ポテンシャル(X、Y)を用いて、上述のホログラム2次元パターン201を容易に導け、その結果、アキシコンレンズと同じ類の集光特性を効率的に実現できる。
(第2実施形態)
次に、第1実施形態で述べたラゲールガウシアンビームを用いて、ラジアル偏光やアジミュサル偏光などの軸対称に偏光選択されるビームを生成する方法について説明する。
【0063】
図6は、ラジアル偏光およびアジミュサル偏光に選択される、本実施形態のラゲールガウシアンビームの生成方法の一例を説明する斜視図である。
【0064】
なお、図6に示したホログラム素子113は、第1実施形態で述べた複素速度ポテンシャルの概念を用いることにより、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのフォーク状のホログラム2次元パターン200を形成できるものとする。このようなホログラム素子113の例としては、ホログラム2次元パターン200を表示される媒体(例えば液晶表示パネル)を有する空間光変調素子がある。
【0065】
レーザ光源21から発せられた直線偏光のガウシアンビーム22が、λ/4板23を透ると、円偏光のガウシアンビーム24に変わる。また、この円偏光のガウシアンビーム24が、ホログラム素子113を透ると、ラゲールガウシアンビーム25にモード変換される。そして、ホログラム素子113によりモード変換されたラゲールガウシアンビーム25が、後述の特殊なラジアル偏光用偏光子26またはアジミュサル偏光用偏光子27を透ることにより、ラジアル偏光やアジミュサル偏光に偏光選択される。
【0066】
まず、ラゲールガウシアンビーム25の偏光特性について図面を参照しながら詳しく説明する。
【0067】
図7は、円偏光のガウシアン分布のレーザビームをモード変換させたラゲールガウシアンビームの偏光特性の時間変化を示した図である。なお、以下の説明の便宜上、図7中には、「上」、「下」、「左」および「右」を図示している。
【0068】
図7の矢印が、ラゲールガウシアンビーム25の偏光方向(電場の振動方向)を示している。図7のハッチング部分は、ラゲールガウシアンビーム25の光強度の時間積分のパターン分布を示している。また、このラゲールガウシアンビーム25では、図1に示すように、波面(同位相面)が螺旋階段のような形状になしており、円環状のハッチング部分を一周すると、位相が2πずれる。
【0069】
図7(a)では、ある時間における、ラゲールガウシアンビーム25の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0070】
図7(a)に示すように、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルH(ここでは、代表的に、ラゲールガウシアンビーム25の円環状のハッチング部分を8等分した8個の電場ベクトルHを図示。以下、同じ)は、このラゲールガウシアンビーム25の円環状のハッチング部分の動径方向(ラジアル方向)外側を向き、これらの各電場ベクトルHの大きさは同じである。そして、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて、電場ベクトルHの方向(傾き)が変化している。例えば、最上部に描かれている電場ベクトルHUの方向(上向き)と、これと位相がπずれた、最下部に描かれている電場ベクトルHDの方向(下向き)は、互いの電場ベクトルHU、HDが打ち消し合うように逆向きになっている。
【0071】
図7(b)では、図7(a)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態から所定時間経過時における、ラゲールガウシアンビーム25の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0072】
図7(b)に示すように、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルHの方向は、図7(a)に示した各電場ベクトルHの方向から時計回りに約45°回転しており、これらの各電場ベクトルHの大きさは同じである。そして、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて、電場ベクトルHの方向(傾き)が変化している。例えば、最上部に描かれている電場ベクトルHUの方向(上右向き)と、これと位相がπずれた、最下部に描かれている電場ベクトルHDの方向(下左向き)は、互いの電場ベクトルHU、HDが打ち消し合うように逆向きになっている。
【0073】
図7(c)では、図7(b)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態から所定時間経過時における、ラゲールガウシアンビーム25の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0074】
図7(c)に示すように、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルHの方向は、図7(b)に示した各電場ベクトルHの方向から更に時計回りに約45°回転しており、これらの各電場ベクトルHの大きさは同じである。つまり、ラゲールガウシアンビーム25の各電場ベクトルHは、このラゲールガウシアンビーム25の円環状のハッチング部分の方位角方向(アジミュサル方向)に沿って時計回り方向を向いている。そして、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて、電場ベクトルHの方向(傾き)が変化している。例えば、最上部に描かれている電場ベクトルHUの方向(右向き)と、これと位相がπずれた、最下部に描かれている電場ベクトルHDの方向(左向き)は、互いの電場ベクトルHU、HDが打ち消し合うように逆向きになっている。
【0075】
図7(d)では、図7(c)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態から所定時間経過時における、ラゲールガウシアンビーム25の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0076】
図7(d)に示すように、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルHの方向は、図7(c)に示した各電場ベクトルHの方向から更に時計回りに約45°回転しており、これらの各電場ベクトルHの大きさは同じである。そして、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて、電場ベクトルHの方向(傾き)が変化している。例えば、最上部に描かれている電場ベクトルHUの方向(右下向き)と、これと位相がπずれた、最下部に描かれている電場ベクトルHDの方向(左上向き)は、互いの電場ベクトルHU、HDが打ち消し合うように逆向きになっている。
【0077】
図7(e)では、図7(d)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態から所定時間経過時における、ラゲールガウシアンビーム25の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0078】
図7(e)に示すように、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルHの方向は、図7(d)に示した各電場ベクトルHの方向から更に時計回りに約45°回転しており、これらの各電場ベクトルHの大きさは同じである。つまり、ラゲールガウシアンビーム25の各電場ベクトルHは、このラゲールガウシアンビーム25の円環状のハッチング部分の動径方向内側に向いている。そして、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて、電場ベクトルHの方向(傾き)が変化している。例えば、最上部に描かれている電場ベクトルHUの方向(下向き)と、これと位相がπずれた、最下部に描かれている電場ベクトルHDの方向(上向き)は、互いの電場ベクトルHU、HDが打ち消し合うように逆向きになっている。
【0079】
図7(f)では、図7(e)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態から所定時間経過時における、ラゲールガウシアンビーム25の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0080】
図7(f)に示すように、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルHの方向は、図7(e)に示した各電場ベクトルHの方向から更に時計回りに約45°回転しており、これらの各電場ベクトルHの大きさは同じである。そして、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて、電場ベクトルHの方向(傾き)が変化している。例えば、最上部に描かれている電場ベクトルHUの方向(左下向き)と、これと位相がπずれた、最下部に描かれている電場ベクトルHDの方向(右上向き)は、互いの電場ベクトルHU、HDが打ち消し合うように逆向きになっている。
【0081】
図7(g)では、図7(f)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態から所定時間経過時における、ラゲールガウシアンビーム25の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0082】
図7(g)に示すように、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルHの方向は、図7(f)に示した各電場ベクトルHの方向から更に時計回りに約45°回転しており、位相が異なる各電場ベクトルHの大きさは同じである。つまり、ラゲールガウシアンビーム25の各電場ベクトルHは、このラゲールガウシアンビーム25の円環状のハッチング部分の方位角方向に沿って反時計回り方向を向いている。そして、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて、電場ベクトルHの方向(傾き)が変化している。例えば、最上部に描かれている電場ベクトルHUの方向(左向き)と、これと位相がπずれた、最下部に描かれている電場ベクトルHDの方向(右向き)は、互いの電場ベクトルHU、HDが打ち消し合うように逆向きになっている。
【0083】
図7(h)では、図7(g)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態から所定時間経過時における、ラゲールガウシアンビーム25の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0084】
図7(h)に示すように、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルHの方向は、図7(g)に示した各電場ベクトルHの方向から更に時計回りに約45°回転しており、これらの各電場ベクトルHの大きさは同じである。そして、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて、電場ベクトルHの方向(傾き)が変化している。例えば、最上部に描かれている電場ベクトルHUの方向(左上向き)と、これと位相がπずれた、最下部に描かれている電場ベクトルHDの方向(右下向き)は、互いの電場ベクトルHU、HDが打ち消し合うように逆向きになっている。
【0085】
なお、図7(h)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態から所定時間が経過すると、図7(a)に示したラゲールガウシアンビーム25の偏光状態に戻る。
【0086】
このようにして、ラゲールガウシアンビーム25の、位相が異なる各電場ベクトルHは、時間変化により電場ベクトルHの向きを変えるように時計回りに回転している。また、同一時間タイミングにおけるラゲールガウシアンビーム25の電場ベクトルHは、ラゲールガウシアンビーム25の位相特異点25aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになるように、ラゲールガウシアンビーム25の位相に応じて向きを変えている。
【0087】
次に、ラジアル偏光用偏光子26による円偏光ラゲールガウシアンビーム25のラジアル偏光への偏光選択の方法について述べる。
【0088】
図8は、ラジアル偏光用偏光子の一例を平面視した図(図6の光軸方向に見た図)である。
【0089】
ラジアル偏光用偏光子26は、図8に示すように、透明基板26a(例えばガラス基板)と、この透明基板26aに設けられた金属製のワイヤグリッド26bと、を備える。
【0090】
このワイヤグリッド26bは、同心円の方位角方向に延び、微細間隔(等間隔)を隔てて動径方向に並んだ金属ワイヤ群からなり、これにより、ラジアル偏光用偏光子26には、金属ワイヤ群に平行な方向(方位角方向)の偏光成分を持つ円偏光ラゲールガウシアンビーム25を吸収する一方で、金属ワイヤ群に垂直な方向(動径方向)の偏光成分を持つ円偏光ラゲールガウシアンビーム25を透過するという性質がある。つまり、ラジアル偏光用偏光子26の光の透過偏光は、光軸の動径方向に存在する。このため、円偏光ラゲールガウシアンビーム25が、ラジアル偏光用偏光子26を透ると、図7(c)および図7(g)に示した円偏光ラゲールガウシアンビーム25の方位角方向の偏光成分がラジアル偏光用偏光子26によりカットされる。
【0091】
言い換えれば、円偏光ラゲールガウシアンビーム25が、ラジアル偏光用偏光子26を透ると、ラゲールガウシアンビームは、図7(a)および図7(e)に示した円偏光ラゲールガウシアンビーム25の動径方向の偏光成分が強く残り、その結果として、この円偏光ラゲールガウシアンビーム25の円環状のハッチング部分の動径方向に振動するというラジアル偏光に偏光選択される。
【0092】
ラジアル偏光用偏光子26の金属製のワイヤグリッド26bの作製法としては、半導体の微細加工技術の応用により、例えば、透明基板26a上に適宜の真空プロセス(例えば、真空蒸着法やスパッタリング法)を用いて金や銀などの金属薄膜成膜した後、エッチングによりパターンニングすればよい。
【0093】
次に、アジミュサル偏光用偏光子27による円偏光ラゲールガウシアンビーム25のアジミュサル偏光への偏光選択の方法について述べる。
【0094】
図9は、アジミュサル偏光用偏光子の一例を平面視した図(図6の光軸方向に見た図)である。
【0095】
図9(a)には、アジミュサル偏光用偏光子の金属製のワイヤグリッドの一パターン例が示されている。
【0096】
図9(b)には、アジミュサル偏光用偏光子の金属製のワイヤグリッドの他のパターン例が示されている。
【0097】
アジミュサル偏光用偏光子27は、透明基板27a(例えばガラス基板)と、この透明基板27aに設けられた金属製のワイヤグリッド27bと、を備える。
【0098】
このワイヤグリッド27bは、図9(a)、(b)に示しように、放射状に動径方向に延び、微細間隔を隔てて方位角方向に並んだ金属ワイヤ群からなり、これにより、アジミュサル偏光用偏光子27には、金属ワイヤ群に平行な方向(動径方向)の偏光成分を持つ円偏光ラゲールガウシアンビーム25を吸収する一方で、金属ワイヤ群に垂直な方向(方位角方向)の偏光成分を持つ円偏光ラゲールガウシアンビーム25を透過するという性質がある。つまり、アジミュサル偏光用偏光子27の光の透過偏光は、光軸の方位角方向に存在する。このため、円偏光ラゲールガウシアンビーム25が、アジミュサル偏光用偏光子27を透ると、図7(a)および図7(e)に示した円偏光ラゲールガウシアンビーム25の動径方向の偏光成分がアジミュサル偏光用偏光子27によりカットされる。
【0099】
言い換えれば、円偏光ラゲールガウシアンビーム25が、アジミュサル偏光用偏光子27を透ると、ラゲールガウシアンビームは、図7(c)および図7(g)に示した円偏光ラゲールガウシアンビーム25の方位角方向の偏光成分が強く残り、その結果として、この円偏光ラゲールガウシアンビーム25の円環状のハッチング部分の方位角方向に振動するというアジミュサル偏光に偏光選択される。
【0100】
なお、金属ワイヤ群のパターン例としては、図9(b)に示したように、全ての金属ワイヤ群を中心点から周囲に向かって一様に放射状に延ばしてもよいが、図9(a)に示したように、中心点から所定距離隔てて地点から幾つかの金属ワイヤを這わすようにすれば、金属ワイヤ同士の動径方向における間隔差が、図9(b)に示した金属ワイヤ群同士の動径方向における間隔差より小さくでき好適である。
【0101】
アジミュサル偏光用偏光子27の金属製のワイヤグリッド27bの作製法としては、半導体の微細加工技術の応用により、例えば、透明基板27a上に適宜の真空プロセス(例えば、真空蒸着法やスパッタリング法)に金や銀などの金属薄膜を成膜した後、エッチングによりパターニングすればよい。
【0102】
以上に述べたように、本実施形態のラゲールガウシアンビームの生成方法の一例は、第1実施形態で述べたフォーク状のホログラム2次元パターン200を用いて、円偏光のガウシアンビーム24が、円偏光ラゲールガウシアンビーム25にモード変換された後、この円偏光ラゲールガウシアンビーム25が、光の透過偏光が光軸の動径方向に存在するラジアル偏光用偏光子26を透ることにより、ラジアル偏光に偏光選択されるものである。
【0103】
また、本実施形態のラゲールガウシアンビームの生成方法の他の例は、第1実施形態で述べたフォーク状のホログラム2次元パターン200を用いて、円偏光のガウシアンビーム24が、円偏光ラゲールガウシアンビーム25にモード変換された後、このラゲールガウシアンビーム25が、光の透過偏光が光軸の方位角方向に存在するアジミュサル偏光用偏光子27を透ることにより、アジミュサル偏光に偏光選択されるものである。
【0104】
上述のとおり、フォーク状のホログラム2次元パターン200は、一様な流れのU中におかれた湧源15から周囲に、単位時間当たりQの割合で一様に湧き出す2次元完全流体の複素速度ポテンシャルF(Z)に基づいて容易に導くことができることから、円偏光ラゲールガウシアンビーム25を効率的に生成できる。更に、この円偏光ラゲールガウシアンビーム25を、上述のラジアル偏光用偏光子26やアジミュサル偏光用偏光子27を透すことにより、ラジアル偏光やアジミュサル偏光に容易に偏光選択できる。
(第2実施形態の変形例)
ここまで、円偏光のガウシアンビーム24をホログラム素子113に透す例を述べたが、これに限らず、例えば、レーザ光源21から発せられた直線偏光のガウシアンビーム22を直接、ホログラム素子113に透してラゲールガウシアンビームを生成してもよい。
【0105】
図10は、直線偏光のガウシアン分布のレーザビームをモード変換させたラゲールガウシアンビームの偏光特性の時間変化を示した図である。図10(a)〜図10(h)において、所定時間経過毎のラゲールガウシアンビーム55の偏光(電場ベクトルHの方向)の様子が描かれている。
【0106】
この場合の直線偏光ラゲールガウシアンビーム55の偏光特性については、図10に示したように、直線偏光のガウシアンビーム22(図6参照)を通常の手段(例えば、円環状に孔を設けたスリット;図示せず)を透して得られる円筒状のビームの偏光特性とは異なり、その位相特異点55aにおける電場ベクトルHの成分がゼロになっている。
【0107】
なお、このような直線偏光ラゲールガウシアンビーム55も、各種の光分野への応用が期待されているが、ここでは、その詳細な説明は省略する。また、図10に示した直線偏光ラゲールガウシアンビーム55の偏光特性の詳細は、図7およびそれの関連する上述の記載を参酌すれば容易に理解できることから、ここでは、その説明も省略する。
(第3実施形態)
第1および第2実施形態で述べたラゲールガウシアンビームは、様々な用途に適用できると考えられる。以下、ラゲールガウシアンビームの光マニピュレーションシステムのトラッピング光としての適用例を述べる。
【0108】
図11は、本実施形態の光マニピュレーションシステムの一構成例を示したブロック図である。
【0109】
なお、レーザ光源31から発せられた直線偏光や円偏光のガウシアンビーム34が、上述のホログラム2次元パターン200を表示できる液晶表示パネル40を透ると、上述のとおり、直線偏光や円偏光のラゲールガウシアンビーム(以下、これらのビームについて、必要に応じて「直線偏光LGビーム」や「円偏光LGビーム」という)が得られる。
【0110】
また、ラジアル偏光のビームを生成可能な公知の液晶表示素子(図示せず)を併用することにより、ラジアル偏光のラゲールガウシアンビームも得られる。
【0111】
なお、必要に応じて、ラゲールガウシアンビーム生成用の液晶表示パネル50と、図示しないラジアル偏光ビーム生成用液晶表示素子との2枚重ねにより得られる光のことを、ラジアル偏光LGビームと称する。
【0112】
本実施形態では、以上に述べたようなラゲールガウシアンビームを、トラッピング光35としてマイクロスコープに入れるものとする。
【0113】
光マニピュレーションシステム100は、上述のフォーク状のホログラム2次元パターン200(図2参照)を表示(再生)および消去可能な液晶表示パネル40を備える。
【0114】
ここでの液晶表示パネル40は、図11に示すように、液晶層を挟む一対のガラス基板上に、透明な導電膜(ITO;図示せず)を形成した光透過型表示パネルであるが、これに限らず、光反射型表示パネルであってもよい。
【0115】
この導電膜は、液晶表示パネル40の表示画面(図示せず)内においてマトリクス状に区画された多数の画素(図示せず)を構成しており、画像処理/液晶駆動機構39(信号処理回路)に出力される画像信号が液晶表示パネル40の画素毎に与えられることにより、液晶表示パネル40の各画素に対応する液晶層の配向状態が変化して各画素において光透過率或いは光の位相が制御され階調調整される。これにより、液晶表示パネル40の表示画面では、所望のフォーク状のホログラム2次元パターン200のリアルタイムな表示切り替えがなされる。なお、液晶表示パネル40の構成および画像処理/液晶駆動機構39の構成は公知であり、ここでは、その詳細な説明は省略する。
【0116】
光マニピュレーションシステム100のレーザ光源31から発せられた直線偏光や円偏光のガウシアンビーム34は、液晶表示パネル40の表示画面上のホログラム2次元パターン200を用いた回折現象に基づいて直線偏光LGビームや円偏光LGビームにモード変換される。そして、この場合、図示しないラジアル偏光のビーム生成用液晶表示素子を併用して、ラジアル偏光LGビームとすることもできる。そして、直線偏光LGビーム、円偏光LGビームまたはラジアル偏光LGビームが、トラッピング光35として対物レンズを備えるマイクロスコープ41により集光される。このため、ガラスプレート42上の金属微粒子や細胞などの被捕捉体(図示せず)にトラッピング光35の焦点を照射させることにより、この被捕捉体が、当該焦点の光放射圧により捕捉される。
【0117】
被捕捉体のトラッピングの様子は、ガラスプレート42上の被捕捉体を覗くように配置されたCCDカメラ43により撮影され、モニター44の画面に映し出される。このため、光マニピュレーションシステム100は、モニター44の画面を見ながら、ジョイスティック32(操作レバー)を作業者が操作することにより、トラップされた被捕捉体を自在に動かすことができるように構成されている。
【0118】
つまり、光マニピュレーションシステム100の制御装置36は、マイクロプロセッサからなり、ホログラム2次元パターン200のデータを、第1実施形態で述べた流体力学における複素速度ポテンシャルの概念を用いて導ける。より詳しくは、制御装置36により、一様な流れUの中におかれた湧源15から周囲に、単位時間当たりQの割合で一様に湧き出す2次元完全流体の複素速度ポテンシャルF(Z)の虚部に対応する流れ関数ψ(X、Y)がコンスタント(一定)である場合に相当する流線に基づいた、ホログラム2次元パターン200のデータが導かれ、このデータが画像処理/液晶駆動機構39に与えられている。このため、トラッピング光35の状態(例えば、トラッピング光35の位相特異点を含む丸孔の位置および/または個数および/または大きさ)が、作業者によるジョイスティック32の操作に追従してスムーズに変化するよう、制御装置36は、ホログラム2次元パターン200のデータを高速演算できる。
【0119】
以上に述べたように、本実施形態の光マニピュレーションシステム100によれば、制御装置36により高速演算されたホログラム2次元パターン200のデータに基づき液晶配向制御用の画像信号(デジタル信号)が生成され、これにより、液晶表示パネル40の表示画面上に、ホログラム2次元パターン200が、リアルタイムに消去および再生(つまり、ホログラム2次元パターン200の表示切り替え)される。よって、作業者は、トラッピング光35にトラップされた被捕捉体を、ジョイスティック32の操作によりスムーズに動かすことができる。
【0120】
また、このようなホログラム2次元パターン200を液晶表示パネル40により表示することにより、光学ミラーなどの機械制御に拠らずにビームの移動を調整でき、光マニピュレーションシステム100の光学系の簡素化および振動に対する耐震性向上を図れる。
(第3実施形態の各種の応用例)
光マニピュレーションのトラッピング光35として、位相特異点を含む丸孔が複数個(ここでは2個)存在するラジアル偏光や円偏光のラゲールガウシアンビームを使用すると、このようなビームの特異な光特性により様々な効果(有益性)が発揮される。
【0121】
ここでは、まず、位相特異点135aを含む丸孔が2個であるラジアル偏光や円偏光のラゲールガウシアンビーム135(以下、必要に応じて総称的に「ラジアル偏光/円偏光LGビーム135」という)の特異な光特性について述べる。
【0122】
図12は、位相特異点を含む丸孔が2個であるラジアル偏光や円偏光のラゲールガウシアンビームのフォーカシング時のある瞬間の偏光状態を模式的に描いた図である。なお、図12において、便宜上、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の進行方向を「Z方向」とし、これに垂直な方向を「X方向」および「Y方向」としている。
【0123】
つまり、図12では、位相特異点135aを含む丸孔が2個であるラジアル偏光/円偏光LGビーム135を平面視(Z方向に対し垂直なX−Y断面)した場合の、ある瞬間における、このビーム135の電場ベクトルの様子を示した図である。
【0124】
なお、図中の矢印が、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の偏光方向(電場の振動方向)を示している。
【0125】
図12に示すように、X−Y断面においては、位相特異点135aを含む丸孔が2個であるラジアル偏光/円偏光LGビーム135の電場の振動方向については、左側の円環の動径方向外側向きであり、右側の円環の動径方向内側向きである。
【0126】
次に、このようなラジアル偏光/円偏光LGビーム135の偏光特性予測に基づくラジアル偏光/円偏光LGビーム135の焦点面での集光特性について述べる。
【0127】
図13は、位相特異点を含む丸孔が2個であるラジアル偏光や円偏光のラゲールガウシアンビームの焦点面での集光特性を模式的に描いた概念図である。
【0128】
図13(a)は、ラジアル偏光/円偏光LGビームの焦点面での平面視した形態を示した図である。
【0129】
図13(b)は、ラジアル偏光/円偏光LGビームの焦点面での図13(a)のA−A線に沿った断面の光強度分布を示した図である。
【0130】
図13(c)は、ラジアル偏光/円偏光LGビームの焦点面でのZ方向の電場振動分布を示した図である。
【0131】
図13(d)は、図13(b)に示した光強度分布と、図13(c)に示したZ方向の電場振動分布との足し合わせの様子を示した図である。
【0132】
図13(a)および図13(b)から分かるとおり、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の焦点面では、位相特異点135aを含む丸孔の近傍の周囲に沿って光強度が高い環状部分が存在すると考えられる。また、図13(c)から分かるとおり、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の焦点面では、Z方向の電場振動成分が最大を取るようになると考えられる。このため、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の焦点面では、図13(d)に示すように、図13(a)に示した環状の光強度分布と、図13(b)に示したZ方向の電場振動分布とを足し合せた集光特性を発揮すると考えられ、これにより、光の回折限界を超える小さなスポットが焦点面で得られると期待される。
【0133】
次に、位相特異点135aを含む丸孔が2個であるラジアル偏光/円偏光LGビーム135の特質を利用した、光マニピュレーションへの応用例A〜Cを、以下に列挙する。但し、応用例Aについては、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の代わりに、位相特異点を含む丸孔が2個である直線偏光LGビームを用いてもよい。また、応用例Bについても、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の代わりに、位相特異点を含む丸孔が2個である直線偏光LGビームを用いてもよい。
(応用例A)
被捕捉体が棒状(ロッド状)の微粒子(以下、「棒状粒子」と略す)であれば、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の対をなす2個の位相特異点135aを含む丸孔の一方が、棒状粒子の一端に位置し、位相特異点135aを含む丸孔の他方が、棒状粒子の他端に位置するように、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135を集光させてもよい。このようにすれば、この棒状粒子の両端を、対をなす位相特異点135aを含む丸孔近傍の各々(光放射圧の強い部分)で捕捉でき、当該捕捉された粒子が、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135のスムーズな状態変化(つまり、対をなす位相特異点135aを含む丸孔のスムーズな回転移動)により高速回転できる。従来の光マニピュレーションシステムにおいて、物体の方位を制御するには物体を挟んで方位を変更する最低2つのビームが必要となり、光マニピュレーションシステムの光学系が複雑化するという問題を内包していたが、本応用例によれば、このような問題が根本的に解消され好適である。
(応用例B)
被捕捉体が丸い金属微粒子(例えば、金(Au)微粒子)の対であれば、対をなす2個の位相特異点135aを含む丸孔の各々が、金属微粒子の対の各々に位置するように、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135を集光させてもよい。このようにすれば、これらの金属微粒子の各々を、対をなす位相特異点135aを含む丸孔近傍の各々(光放射圧の強い部分)で個別に捕捉できる。従来の光マニピュレーションシステムにおいて、複数の物体を同時に扱うには、その物体の個数以上のビームが必要となり、光マニピュレーションシステムの光学系が複雑化するという問題を内包していたが、本応用例によれば、このような問題が根本的に解消され好適である。
【0134】
また、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135を用いたことにより、光強度が高く、かつ、Z方向電場振動が最大となるビームが金属微粒子の対に当たり、これらの金属微粒子において表面プラズモンの電場増強を効率的に行える。
【0135】
更に、対をなす各々の丸孔近傍で金属微粒子をトラップした場合、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135のスムーズな状態変化(つまり、対をなす位相特異点135aを含む丸孔同士のスムーズな接近移動)により、それらの金属微粒子同士をスムーズに近づけることができ、これらの金属微粒子間に生じる表面プラズモンのギャップモードの電場増強を効率的に行える場合がある。
【0136】
そして、以上の表面プラズモンの電場増強は、光信号の低エネルギー駆動の飛躍的な向上につながると期待される。
(応用例C)
被捕捉体として複数(例えば2個)の突起部を有する多角形状の金属微粒子であれば、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135の対をなす2個の位相特異点135aを含む丸孔の各々が、金属微粒子の突起部の各々に位置するように、ラジアル偏光/円偏光LGビーム135を集光させてもよい。このようにすれば、金属微粒子の突起部が、対をなす位相特異点135aを含む丸孔近傍の各々(光放射圧の強い部分)で捕捉できるとともに、光強度が高く、かつ、Z方向電場振動が最大となるビームが金属微粒子の突起部に当たり、この金属微粒子において表面プラズモンの電場増強を効率的に行える。そして、このような表面プラズモンの電場増強は、光信号の低エネルギー駆動の飛躍的な向上につながると期待される。
(第3実施形態の変形例)
本実施形態では、液晶表示パネル40の表示画面上において、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのフォーク状のホログラム2次元パターン200(図2参照)のリアルタイムな表示切り替えをなす例について述べたが、トラッピング光35の広がり角を調整する機能、つまり、回折格子にフレネルゾーンプレートの要素(i|Z|2)を加えることでトラッピング光35の広がり角を光学的に補正する機能を、この光マニピュレーションシステム100に付与してもよい。
【0137】
これにより、トラッピング光35の焦点位置を、その深さ方向(Z方向)に移動できるようになり、トラッピング光35にトラップされた被捕捉体を上下にスムーズに動かすことができる。このため、従来の光マニピュレーションシステムにおける上下方向のステージ動作機構を無くすことができ、光マニピュレーションシステムの機械構成の簡素化が図れて好適である。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、ラゲールガウシアンビームを効率的に生成できる、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンが得られ、例えば、光マニピュレーションシステムのトラッピング光を生成する回折格子として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】第1実施形態によるラゲールガウシアンビームの生成装置の一構成例を示した斜視図である。
【図2】図1のホログラムに描かれた、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのフォーク状のホログラム2次元パターンの一例を示した図である。
【図3】各種の完全流体の2次元のポテンシャル流れについての流線を例示した図である。
【図4】アキシコンレンズと同じ類の集光性能を発揮できるホログラム2次元パターンの一例を示した図である。
【図5】一様な流れ中において、単位時間当たりに所定割合で湧源から周囲に一様に湧き出す2次元流れの等ポテンシャル線を示した図である。
【図6】ラジアル偏光およびアジミュサル偏光に選択される、第2実施形態のラゲールガウシアンビームの生成方法を説明する斜視図である。
【図7】円偏光のガウシアン分布のレーザビームをモード変換させたラゲールガウシアンビームの偏光特性の時間変化を示した図である。
【図8】ラジアル偏光用偏光子の一例を平面視した図(図6の光軸方向に見た図)である。
【図9】アジミュサル偏光用偏光子の一例を平面視した図(図6の光軸方向に見た図)である。
【図10】直線偏光のガウシアン分布のレーザビームをモード変換させたラゲールガウシアンビームの偏光特性の時間変化を示した図である。
【図11】第3実施形態の光マニピュレーションシステムの一構成例を示したブロック図である。
【図12】位相特異点を含む丸孔が2個であるラジアル偏光や円偏光のビームのフォーカシング時の偏光状態を模式的に描いた図である。
【図13】位相特異点を含む丸孔が2個であるラジアル偏光や円偏光のビームの焦点面での集光特性を模式的に描いた概念図である。
【符号の説明】
【0140】
10 ラゲールガウシアンビーム
25 円偏光ラゲールガウシアンビーム
55 直線偏光ラゲールガウシアンビーム
135 ラジアル偏光/円偏光LGビーム(位相特異点を含む丸孔が2個)
25a 位相特異点(円偏光のガウシアンビームからモード変換)
55a 位相特異点(直線偏光のガウシアンビームからモード変換)
135a 位相特異点(位相特異点を含む丸孔が2個)
10a パターン分布
11、21、31 レーザ光源
12 ガウシアンビーム
13 ホログラム
14 光軸(位相特異点となる部分)
15 湧源
22 直線偏光ガウシアンビーム
23 λ/4板
24 円偏光ガウシアンビーム
34 ガウシアンビーム
26 ラジアル偏光用偏光子
27 アジミュサル偏光用偏光子
26a、27a 透明基板
26b、27b ワイヤグリッド
32 ジョイスティック
35 トラッピング光
36 制御装置
39 画像処理/液晶駆動機構
41 マイクロスコープ
42 ガラスプレート
43 CCDカメラ
44 モニター
50 ラゲールガウシアンビームの生成装置
100 光マニピュレーションシステム
200 ホログラム2次元パターン(ラゲールガウシアンビーム生成用)
201 ホログラム2次元パターン(アキシコンレンズ代替用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一様な流れの中におかれた湧源から周囲に一様に湧き出す2次元完全流体の流線に基づいて作製されている、ラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターン。
【請求項2】
前記流線は、前記2次元完全流体を定式化させた複素速度ポテンシャルの虚部に対応する流れ関数から導出されている、請求項1記載のホログラム2次元パターン。
【請求項3】
一様な流れの中におかれた湧源から周囲に一様に湧き出す2次元完全流体の等ポテンシャル線に基づいて作製されている、アキシコンレンズ代替用回折格子としてのホログラム2次元パターン。
【請求項4】
前記等ポテンシャル線は、前記2次元完全流体を定式化させた複素速度ポテンシャルの実部に対応する速度ポテンシャルから導出されている、請求項3記載のホログラム2次元パターン。
【請求項5】
請求項1または2記載のホログラム2次元パターンを用いて、円偏光のガウシアンビームがラゲールガウシアンビームにモード変換され、
その後、前記モード変換されたラゲールガウシアンビームが、光の透過偏光が光軸の動径方向に存在する偏光子を透ることによりラジアル偏光に偏光選択される、ラゲールガウシアンビームの生成方法。
【請求項6】
請求項1または2記載のホログラム2次元パターンを用いて、円偏光のガウシアンビームがラゲールガウシアンビームにモード変換され、
その後、前記モード変換されたラゲールガウシアンビームが、光の透過偏光が光軸の方位角方向に存在する偏光子を透ることによりアジミュサル偏光に偏光選択される、ラゲールガウシアンビームの生成方法。
【請求項7】
一様な流れの中におかれた湧源から周囲に一様に湧き出す2次元完全流体の流線に基づいたラゲールガウシアンビーム生成用回折格子としてのホログラム2次元パターンのデータを演算する制御装置と、
前記ホログラム2次元パターンを、複数の画素からなる画面上に表示可能な表示パネルと、
前記画面上のホログラム2次元パターンに向けてガウシアンビームを照射することにより、ラゲールガウシアンビームにモード変換させるレーザ光源と、
前記表示パネルの各画素における階調調整により前記画面上のホログラム2次元パターンの表示を切り替えるよう、前記ホログラム2次元パターンのデータに基づいて各画素への画像信号を前記表示パネルに与える信号処理回路と、
を備え、
前記ラゲールガウシアンビームは、トラッピング光として被捕捉体を捕捉するとともに、前記ホログラム2次元パターンの表示切り替えに基づいて、その状態を変化させる光マニピュレーションシステム。
【請求項8】
前記ラゲールガウシアンビームの状態は、前記ラゲールガウシアンビームの位相特異点を含む孔の位置および/または個数および/または大きさである、請求項7記載の光マニピュレーションシステム。
【請求項9】
前記ラゲールガウシアンビームの位相特異点を含む孔が、対をなしている請求項8記載の光マニピュレーションシステム。
【請求項10】
前記被捕捉体としての棒状粒子の一端が、前記対をなす孔の一方の近傍で捕捉され、前記棒状粒子の他端が、前記対をなす孔の他方の近傍で捕捉され、前記棒状粒子が、前記ラゲールガウシアンビームの状態変化により回転する請求項9記載の光マニピュレーションシステム。
【請求項11】
前記被捕捉体としての金属粒子の対の各々が、前記対をなす孔の各々の近傍で捕捉され、前記対をなす金属粒子同士が、前記ラゲールガウシアンビームの状態変化により近づく請求項9記載の光マニピュレーションシステム。
【請求項12】
前記ラゲールガウシアンビームは、円偏光またはラジアル偏光になっており、
前記被捕捉体としての前記金属粒子の突起部が、前記ラゲールガウシアンビームの位相特異点を含む孔の近傍で捕捉される請求項8記載の光マニピュレーションシステム。
【請求項13】
前記ラゲールガウシアンビームの広がり角を調整する機能が付与されている請求項7記載の光マニピュレーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−216641(P2008−216641A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54080(P2007−54080)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】