説明

ボイラー灰の脱水方法

【課題】本発明の課題は、焼却灰を水系に分散させた場合の脱水に関して、焼却灰の固化などを防止しつつ、薬品により焼却灰の脱水を促進することである。
【解決手段】リグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる脱水助剤を添加して焼却灰の水分散物からの脱水を促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰の脱水、特に、ボイラーから発生する焼却灰の脱水に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラーの燃料として、化石燃料である石炭、石油が主に利用されてきた。また、紙パルプ工場では、クラフトパルプ工程の蒸解廃液、製紙スラッジなども燃料として利用されている。
【0003】
近年、環境面への配慮から、木屑、RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)、廃タイヤのような従来は廃棄物とされたものが燃料として広く利用されてきている。特に木屑のようなバイオマス系燃料は、燃焼により発生する二酸化炭素の排出量と植物の成長過程において光合成により消費される二酸化炭素の吸収量が相殺されるため、地球上の二酸化炭素の量を一定に保つ「カーボン・ニュートラル」の考えからも使用することが望ましい。
【0004】
ところが、建築廃材などから得られる木屑を燃料とした場合、その焼却灰を洗浄する必要が生じることがある。というのも、建築材料は塩化ビニルや塗装材料のようなものを種々含んでいるため、建築廃材から得られる木屑などが燃焼して生じる焼却灰中には、塩素、クロム、鉛のような有害物質が含まれる場合が多く、これらの有害物質を除去する必要があるためである。焼却灰は、セメントの粘土代替原料などに有効利用されるが、有害物質を含む焼却灰は有効利用できない場合がある。
【0005】
実際には、焼却灰から有害物質を除去するため、焼却灰の水による洗浄が行われており、必要に応じて薬品による有害物質の不溶化処理が行われる。焼却灰を洗浄することを目的として焼却灰の洗浄機が設置されることが多く、この洗浄機で、焼却灰と水や薬品を攪拌、混合、脱水し、有害物質を除去、固定化して、焼却灰を洗浄する。
【0006】
焼却灰の洗浄における焼却灰の脱水には、一般に、フィルタープレスやベルトプレスのような加圧ろ過装置が使用されるが、焼却灰が保水性に富むため、洗浄後の焼却灰は水分を40%以上含む場合もある。洗浄後の焼却灰は水分を多く含むため、見掛けの焼却灰発生量は実際の焼却灰発生量よりもかなり多くなってしまい、洗浄後の焼却灰の処理に多くの費用が必要になる。
【0007】
特許文献1(特開2004−160330号公報)には、汚泥を対象として、分散剤、アニオン性高分子凝集剤、無機凝集剤を添加することにより脱水処理物を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−160330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術は、汚泥を対象とする技術であり、焼却灰のような主に無機物から構成される材料を脱水するために、そのまま適用できるものではない。一般に、焼却灰はカルシウム、アルミニウム、ケイ素などの無機分を多く含むため、セメントが固化するような水和反応が起こりやすく、焼却灰の固化が発生することがある。特に、焼却灰の洗浄において薬品を添加して焼却灰の脱水性を向上させる場合、薬品の種類によっては焼却灰の固化が著しく、洗浄機の運転停止などの大きなトラブルにつながる。また、焼却灰は種々雑多な無機物を含むため、薬品によっては予想外の反応が発生する可能性もある。
【0010】
そこで、本発明は、焼却灰を水系に分散させた場合の脱水に関して、焼却灰の固化などを防止しつつ、薬品により焼却灰の脱水を促進することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討を行った結果、焼却灰を洗浄する際に、リグニンスルホン酸および/またはその塩を含む薬品を脱水助剤として添加することにより、焼却灰の固化反応を抑制しつつ、焼却灰の脱水を促進できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の焼却灰の脱水方法は、ボイラー焼却灰の洗浄、脱水を行う際に、脱水を補助する薬品を添加することで、その脱水効率を高めるものである。
【0012】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の発明を包含する。
(1) リグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる脱水助剤を添加して焼却灰スラリーを脱水する方法。
(2) リグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる脱水助剤を添加して焼却灰スラリーを脱水する工程を含む、脱水された焼却灰を製造する方法。
(3) 前記脱水助剤が、糖変性物、還元性糖をさらに含んでなる、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記脱水助剤の添加量が、焼却灰100重量部に対して0.20〜1.0重量部である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 焼却灰を含んでなるスラリーを脱水するための、リグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる脱水助剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、焼却灰の固化反応を抑制しつつ、焼却灰の脱水を促進することができる。また、本発明によれば、脱水助剤を添加しない場合と比べて、脱水処理後に水分含量の低い焼却灰を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために種々検討を行った結果、リグニンスルホン酸および/またはその塩を含む薬品を脱水助剤として添加することにより、焼却灰の固化反応を抑制しつつ、焼却灰の脱水を促進できることを見出し、本発明を完成させるに至った。したがって、本発明によれば、焼却灰の脱水処理物の水分を低下させることができる。
【0015】
本発明は、焼却灰を含んでなる水分散液を脱水助剤を用いて脱水する方法であり、また、別の観点からは、本発明は、焼却灰を含んでなる水分散液から脱水処理物を得る方法である。
【0016】
本発明で使用する焼却灰は、特に制限されないが、Al、SiO、CaOなどの無機物を主な成分とする。焼却灰の由来は、特に制限されないものの、木屑、RDF(廃棄物固形燃料:Refuse Derived Fuel)、RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)、スラッジ、廃タイヤ、石炭の少なくとも一種類を燃焼させて得られる焼却灰など、有害物質を含有する焼却灰が、本発明の処理対象として好ましい。焼却灰の原料となる木屑は、建築廃材などから発生するものを挙げることができる。また、RDFは、プラスチックゴミなどの一般廃棄物を原料とした固形燃料であり、使い道の少ない資源を熱としてリサイクル(サーマルリサイクル)するために製造される。RPFは、廃プラスチック、古紙などの産業廃棄物を原料とした固形燃料であり、廃棄物の内容が明確であるためRDFより容易に発熱量がコントロールでき、原油高の影響もあってサーマルリサイクルのため急速に増加している。スラッジは、好ましくは紙パルプ工場の排水処理設備で発生する脱水製紙スラッジであり、抄紙工程排水、塗工紙製造工程排水、古紙パルプ製造工程、クラフトパルプ製造工程などの製紙工程の少なくとも一種類から得られる。
【0017】
本発明で使用する焼却灰は、どのような装置から得られたものでもよいが、系全体の熱効率という観点から、ボイラーから得られた焼却灰、特に、流動床式あるいは微粉炭ボイラーから得られた焼却灰であることが好ましい。
【0018】
木屑、RPFなどの燃料から得られる焼却灰は、有害物質を含有することが多く、そのままではセメント原料などに利用することはできない。そこで、ボイラーなどから発生した焼却灰を洗浄し、有害物質を除去する必要がある。一般に、有害物質を含有する焼却灰の洗浄は、混合槽の中で焼却灰と水を混合し、攪拌しながら灰をスラリー化し、混合したスラリーを灰供給槽に貯蔵し、さらに脱水機で脱水することにより行われる。場合によって、灰供給槽などにおいて有害物質固定用薬品を添加して、焼却灰中に有害物質を固定化して除去する。このような焼却灰の洗浄・脱水は、灰混合槽、灰供給槽、脱水機を含んで構成される洗浄装置によって行われる。
【0019】
本発明の方法は、好ましい態様において、焼却灰の洗浄後に使用する脱水機において行われる。脱水機は種々のものを使用できるが、本発明の脱水助剤の効果が十分に発揮されるため、フィルタープレスやベルトプレスのような加圧ろ過式のものが好ましい。
【0020】
本発明は、脱水助剤を利用して焼却灰スラリーを脱水する方法に関し、脱水助剤として、リグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる薬品を使用する。リグニンスルホン酸は、木材その他のリグニンを含む原料を亜硫酸などで処理して得られるリグニン誘導体であり、コンクリートの減水剤やコンクリートの硬化遅延剤などとして一般に使用される。また、本発明の好ましい態様において、リグニンスルホン酸塩を使用することができ、リグニンスルホン酸のカルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、またはこれらの混合塩がより好ましく、リグニンスルホン酸のマグネシウム塩が特に好ましい。
【0021】
本発明にしたがってリグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる薬品を脱水助剤として添加すると、焼却灰の固化が抑制され、焼却灰の水分散液からの脱水が促進されるメカニズムの詳細は明らかでないが、リグニンスルホン酸および/またはその塩の分散効果により、種々の無機物から構成される焼却灰の硬化を遅らせることができ、急激な粘度の上昇を防ぐことが脱水性向上のメカニズムであると考えられる。
【0022】
本発明の脱水助剤は、リグニンスルホン酸および/またはその塩の他に、糖変性物や還元性糖を含んでいてもよい。これらの成分を含む脱水助剤は、その効果がより高く、好適である。本発明の脱水助剤の組成比は、より脱水効果を向上させるという観点から、重量基準で、リグニンスルホン酸および/またはその塩40〜80%、糖変性物10〜40%、還元性糖10〜40%が好ましく、リグニンスルホン酸塩50〜70%、糖変性物15〜30%、還元性糖15〜30%がより好ましい。また、本発明の脱水助剤は、粉末品を用いても、液体品を用いてもよい。
【0023】
本発明で使用する還元性糖としては、ペントース、ヘキソース等が挙げられ、糖変性物としては、ペントース、ヘキソースの酸化物等が挙げられる。
【0024】
本発明において、焼却灰に添加する脱水助剤の量は、特に制限されず、用途や焼却灰の性状に合わせて調整することができるが、焼却灰100重量部に対して0.20重量部以上添加することが好ましく、0.5重量部以上添加することがより好ましい。脱水助剤の添加量が0.20重量部未満では、焼却灰の固化を抑制し、脱水を促進する効果が低い。添加量の上限も用途や焼却灰の性状に合わせて調整することができるが、灰固形分重量に対して1.0%以下が好ましく、0.6%以下でも十分に効果を発揮することができる。1.0重量部を超えると、薬品の効果が頭打ちとなるばかりでなく、採算性も低くなる。
【0025】
本発明の脱水助剤は、具体的事例に応じて好適な方法により添加することができる。好ましい態様において、本発明の脱水助剤は、有害物質を含有する焼却灰と水とを混合する際に添加される。本発明の脱水助剤を添加する際の焼却灰スラリーの水分率は特に制限されないが、水分率は60〜90%が好ましい。水分率が低すぎると攪拌が不足し、均一なスラリーとならない。また、本発明の脱水助剤と有害物質固定用薬品の添加の先後は、本発明の効果が発揮されるかぎり、特に問わない。例えば、実際の洗浄装置において本発明の脱水助剤は、水と焼却灰とを混合する灰混合槽、または、有害物質固定用薬品を添加する灰供給槽などにおいて添加することができる。
【0026】
本発明の脱水方法において、焼却灰の水分散スラリーに脱水助剤を添加してから脱水するまでの時間は、10〜90分が好ましく、30〜60分がより好ましい。脱水助剤の添加直後では脱水助剤の効果が十分に発揮されない場合があり、また、90分を超えると焼却灰スラリーの粘度が増大し、脱水が困難になる場合があるためである。
【0027】
本発明によって脱水された焼却灰は、セメント原料など種々の用途に用いることができ、それ自体商品的価値を有する。したがって、本発明によって製造される含水率の低い洗浄灰は、それ自体は資源として活用することができる。
【0028】
また、本発明においては、本発明の特徴を損なわない限りにおいて、追加の工程を加えることが可能である。例えば、本発明の方法に、焼却灰から異物を除去するスクリーン処理などの異物除去工程や、脱水後の焼却灰を輸送する輸送工程を加えてもよい。
【0029】
本発明の内容をより詳細に説明するため以下に実施例を示すが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、特に断らない限り、本明細書において、部および%はそれぞれ重量部および重量%を示すものとして記載される。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
燃料として、木屑、RPF、スラッジ、石炭を使用し、流動床ボイラーで燃焼させて、焼却灰を得た。この焼却灰を、以下の焼却灰の洗浄および脱水に使用した。表1に焼却灰に含まれる成分を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
上記焼却灰50gに、リグニンスルホン酸塩(リグニンスルホン酸マグネシウム)、糖変性物、還元性糖を含んでなる薬品(商品名:サンエキスP321(粉末品)、日本製紙ケミカル製)を灰重量に対して0.10%および水50gを添加し、B型粘度と脱水量の常温における経時変化を測定した。
【0033】
B型粘度は、B型粘度計(東京計器製)を用いて、回転数60rpmにて測定した。
【0034】
脱水量(加圧下でろ紙1mを通過する水の量:g/m)は、ウォーターリテンションメーターAA−GWR(KALTEC SCIENTIFIC製)を使用して測定した。0.5MPaの圧力を40秒間加圧し、その間に孔径0.5μmのポリカーボネイト製のフィルターを通り抜ける水の量を脱水量として測定するものであり、測定値が大きいほど脱水量が多く、脱水性が高いことを示す。
【0035】
[実施例2]
薬品の添加量を灰重量に対して0.25%に変更した以外は実施例1と同様にして、焼却灰の脱水実験を行った。
【0036】
[実施例3]
薬品の添加量を灰重量に対して0.50%に変更した以外は実施例1と同様にして、焼却灰の脱水実験を行った。
【0037】
[実施例4]
薬品の添加量を灰重量に対して1.00%に変更した以外は実施例1と同様にして、焼却灰の脱水実験を行った。
【0038】
[比較例1]
薬品を添加せず、水のみに分散させた焼却灰を用いた以外は実施例1と同様にして、焼却灰の脱水実験を行った。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に実験結果を示す。表2から明らかなように、実施例1〜4では、本発明の脱水助剤を添加しなかった比較例1の場合と比較して、B型粘度が低下し、脱水量も高くなった。このように、焼却灰に本発明の脱水助剤を添加することにより、焼却灰の固化を抑制しつつ、焼却灰の脱水性が向上できた。また、本発明によって、本発明の脱水助剤を添加しない場合と比較して水分含量の低い焼却灰を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明の実施例及び比較例におけるB型粘度の経時変化を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施例及び比較例における脱水量の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる脱水助剤を添加して焼却灰スラリーを脱水する方法。
【請求項2】
リグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる脱水助剤を添加して焼却灰スラリーを脱水する工程を含む、脱水された焼却灰を製造する方法。
【請求項3】
前記脱水助剤が、糖変性物、還元性糖をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記脱水助剤の添加量が、焼却灰100重量部に対して0.20〜1.0重量部である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
焼却灰を含んでなるスラリーを脱水するための、リグニンスルホン酸および/またはその塩を含んでなる脱水助剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−179230(P2010−179230A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24430(P2009−24430)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】