説明

ボラジン化合物の製造用溶媒及びそれを用いたボラジン化合物の製造法

【課題】ボラジン化合物の製造を、高い収率でかつ、安定的に再現性よく実施する。
【解決手段】ホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において使用できる、水酸基価が10以下であるボラジン化合物製造用溶媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物の製造法に関する。ボラジン化合物は、例えば半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、ハードマスク層、エッチストッパー層等を形成するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSIにおいては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因になる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられ得る、新たな低誘電材料の開発が所望されている。また層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
このような要望に対して、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。ボラジン環骨格を有するボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率である。その上、形成される被膜は、耐熱性や機械的強度に優れる。
【0005】
また、ボラジン化合物は、水素化ホウ素アルカリとアミン塩から合成できることが知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−340689号公報明細書
【特許文献2】特開2003−119289号公報明細書
【特許文献3】特開2006−213642号公報明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ボラジン化合物の製造法はこれまでも検討されているが、製造プロセスの最適化や生産性は工業的にはまだ十分とは言えない。例えば、ボラジン化合物合成反応は、気液固の関与する3相系の反応であり、反応の安定性や収率の再現性に欠ける。またボラジン化合物の収率にもまだ改善の余地がある。
【0008】
発明者らはボラジン化合物の製造条件について種々検討した結果、溶媒の品質を安定化させることで、反応の安定化や収率の向上を達成した。
【0009】
本発明の目的は、ボラジン化合物を工業的に製造するために必要な、反応の再現性や収率の向上を達成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において使用できる、水酸基価が10以下であるボラジン化合物製造用溶媒である。
【0011】
さらにホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において、溶媒とホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリ及び/または(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩を共存させた後、蒸留により回収した溶媒を含むボラジン化合物製造用溶媒である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、高収率でボラジン化合物を製造することができ、また安定し再現性の良い反応を実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるボラジン化合物の製造法は、以下のような反応によって行われる。ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを原料とする反応であり、下記反応式に示すように、ボラジン化合物が生成すると同時に、AXまたはAXで表される塩と水素が副生する。
【0014】
【化1】

【0015】

ABHで表される水素化ホウ素アルカリにおいて、Aはリチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素カリウムが挙げられる。
【0016】
(RNHnXで表されるアミン塩において、Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基である。アルキル基は直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよい。アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、更に好ましくは1個である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これら以外のアルキル基が用いられてもよい。アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)またはモノメチルアミン硫酸塩((CHNH2SO)等が挙げられる。
【0017】
ボラジン化合物は、下記式で表される化合物である。
【0018】
【化2】

【0019】
式中、Rは、アミン塩について記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。ボラジン化合物の例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。
【0020】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0021】
用いられうる溶媒としては、特に制限されないが、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、テトラリン、デカリン等の脂環式炭化水素類などが挙げられる。中でも、エーテル類が好ましく用いられる。また上記の溶媒を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明においては、使用する溶媒の水酸基価が10以下であることによって、収率の向上や、反応の安定化を達成することができる。溶媒中の水酸基を有する化合物は、溶媒中の不純物として含まれており、溶媒を製造する際の原料や、中間体、副生物等が原因となっている。溶媒の水酸基価は、日本工業規格K0070に従って測定することができる。
【0023】
溶媒中の水酸基を有する化合物は、ボラジン合成反応においては、原料の水素化ホウ素アルカリと反応して、水素化ホウ素アルカリをボラジン化合物の合成反応に無効な成分に変えたり、生成したボラジン化合物と反応して、副生物を形成し、ボラジン化合物の収率を低下させる恐れがある。
【0024】
例えば、水酸基を有する化合物(アルコール類、フェノール類等)が存在すると、原料の水素化ホウ素アルカリと反応して、ホウ酸エステル類を形成し、原料の損失を招く恐れや、また生成したボラジン化合物と反応して、ボラジン化合物のB−H結合が、B−O−R(Rは水酸基を有する化合物の、水酸基を除いた残基)となるような副生物が生成し、ボラジン化合物の収率が低下する恐れがあることを発明者らは本ボラジン化合物の製造の際に見出した。
【0025】
具体的には、溶媒として市販のトリグライムを用いた場合、不純物として水酸基を有するジエチレングリコールモノメチルエーテルや、トリエチレングリコールモノメチルエーテルが含まれることがある。このような溶媒を用いた場合、ボラジン合成反応終了後、トリグライムは使用した量がそのまま残存しているのに対し、ジエチレングリコールモノメチルエーテルや、トリエチレングリコールモノメチルエーテルは消費され、残存していないか、量が大きく減少している場合が多く観察された。
【0026】
そのため、水酸基価が10以下の溶媒を使用することで、収率の向上や反応の安定化を図ることができる。水酸基価は10以下が好ましいが、より好ましくは9以下であり、一層好ましくは8以下である。
【0027】
溶媒の水酸基価が10以上である場合には、溶媒に前処理を施して、水酸基価を10以下にした後に使用することができる。例えば蒸留、抽出や吸着といった公知の方法で、溶媒から水酸基を有する成分を分離してもよい。また水酸基と反応する試薬を添加し、水酸基をつぶしても良い。
【0028】
また、本発明に用いる溶媒は、ボラジン化合物の合成原料である水素化ホウ素アルカリ及び/またはアミン塩を共存させた後、蒸留により回収した後に、反応に使用することで、収率の向上や反応の安定化を図ることができる。溶媒を水素化ホウ素アルカリまたはアミン塩と混合し、その後蒸留しても良いし、溶媒と水素化ホウ素アルカリ及びアミン塩の3成分を混合した後、蒸留により溶媒を回収しても良い。混合した際に加熱しても良い。好ましくは、溶媒中で水素化ホウ素アルカリ及びアミン塩からボラジン化合物を合成した反応液から、蒸留により回収した溶媒を用いることが好ましい。この溶媒を用いることで、ボラジン化合物合成反応における収率の大幅な向上を図ることができる。
【0029】
これは溶媒を一度ボラジン合成反応に用いることで、水酸基含有化合物が反応により消費されるため、そこから回収した溶媒中には、水酸基含有化合物量が低減されていることが理由として挙げられる。
【0030】
蒸留の際には一般的な蒸留方法が用いられる。単蒸留でもよいし、多段の蒸留塔を用いた精留を行ってもよい。好ましくは多段の蒸留塔を用いた精留である。またバッチ蒸留、半回分蒸留、連続蒸留のいずれも好適に用いられる。
【0031】
また、前記前処理及び/または前記精製により得られた溶媒と、未処理または未精製の溶媒とを混合して、あるいは前記前処理及び前記精製により得られた溶媒を混合して用いても良い。
【0032】
ボラジンの合成反応においては、水素化ホウ素アルカリとアミン塩との比は、特に限定されないが、アミン塩に対して、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モル倍であることが好ましい。
【0033】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩の反応条件は特に限定されない。反応温度は好ましくは20℃〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100℃〜220℃である。
【0034】
また水素化ホウ素アルカリとアミン塩を一括で反応器に仕込んで反応しても良く、水素化ホウ素アルカリを仕込んだ反応器に、アミン塩を供給しながら反応しても良く、逆にアミン塩を仕込んだ反応器に、水素化ホウ素アルカリを供給しながら反応しても良い。本反応時には、水素が副生するため、水素発生量を制御するために、一方の原料を予め反応器に仕込んでおき、もう一方の原料を供給しながら反応することが好ましい。特にアミン塩を反応器に仕込んでおき、水素化ホウ素アルカリを供給しながら反応することがより好ましい。原料を供給しながら反応する場合には、連続的に供給しても、間欠的に供給しても良い。供給する速度を制御することで、反応温度や水素の発生速度を制御することができる。
【0035】
反応によって得られたボラジン化合物を含む反応液から、精製工程を経て高純度のボラジン化合物を得ることができる。精製工程は、濾過、蒸発、蒸留、再結晶、晶析等公知の方法で実施できる。
【0036】
得られた反応液から蒸留によりボラジン化合物を精製する蒸留装置は、多段式蒸留塔のような回分式(バッチ式)蒸留装置又は連続式蒸留装置が好適である。多段式蒸留塔である場合における蒸留塔の段数は、特に限定されるものではないが、塔頂(最上段)と塔底(最下段)とを除いた段数が2段以上であることが好ましい。このような蒸留塔としては、例えばラシヒリング、ポールリング、インタロックスサドル、ディクソンパッキング、マクマホンパッキング、スルーザーパッキング等の充填物が充填された充填塔;泡鐘トレイ、シーブトレイ、バルブトレイ、多孔板等のトレイ(棚段)を使用した棚段塔等、一般に用いられている蒸留塔が好適である。また、棚段と充填物層とを併せ持つ複合式の蒸留塔も採用することができる。上記の段数とは、棚段塔においては棚段の数を示し、充填塔においては理論段数を示す。上記段数は、好ましくは3〜100段であり、より好ましくは5〜50段である。
【0037】
蒸留塔の構成としては、リボイラ、コンデンサ等を備えた一般的な構成を採用できる。蒸留塔の本数は限定的でなく、1本又は2本以上の蒸留塔が使用できる。
【0038】
蒸留塔における操作圧力は、混合物の組成、加熱源・冷却源の温度等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、副反応の抑制という観点から減圧下で行うことが好ましい。具体的には60kpa以下が好ましく、30kPa以下がより好ましい。また、同様に塔底温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。蒸留塔の塔頂における還流比は限定的ではないが、好ましくは0.1〜50、より好ましくは0.3〜30とすれば良い。その他の操作条件は、公知の蒸留条件に従えば良い。
【0039】
製造されたボラジン化合物は、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、ハードマスク層、エッチストッパー層などの形成に用いられうる。その際にはボラジン化合物がそのまま用いられてもよいし、ボラジン化合物に改変を加えた化合物が用いられてもよい。ボラジン化合物またはボラジン化合物の誘導体を重合させた重合体を、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、ハードマスク層、またはエッチストッパー層の原料として用いてもよい。以下、「ボラジン化合物」、「ボラジン化合物の誘導体」および「これらに起因する重合体」をまとめて、「ボラジン環含有化合物」と称する。
【0040】
ボラジン環含有化合物を用いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層やハードマスク層を形成する手法としては、例えば、ボラジン環含有化合物を含む溶液状またはスラリー状の組成物を調製し、これを所望の部位に塗布することによって、塗膜を形成する手法や化学気相成長製膜法(CVD法)等が用いられうる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1>
溶媒のトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)の精製を理論段数12段の蒸留塔にて実施した。塔底に200kgのトリグライムを仕込み、塔頂圧力4000Paにて全還流を行った。塔頂温度が安定するまで全還流を行い、その後還流槽に溜まった液を5kg抜き出した。同様の操作を6回繰り返して、軽沸点成分を除去した。その後還流比0.5にて蒸留を行い、精製したトリグライムを得た。得られたトリグライムの水酸基価を、日本工業規格K0070に準拠して測定したところ、8.8であった。
【0042】
冷却管を備えた100Lの反応器を窒素置換した後、アミン塩として乾燥したメチルアミン塩酸塩10.2kg、精製したトリグライム36.4kgを仕込み、150℃まで昇温した。その後、水素化ホウ素アルカリである水素化ホウ素ナトリウム6.4kgと精製したトリグライム26.9kgとの混合物を、7.5時間かけて反応器に供給した。その後、170℃に昇温後に、2時間保持して反応を完結させた。反応中に生成した水素は還流管にて冷却した後、系外へ除去した。
【0043】
反応液を分析したところ、生成したN,N’,N”−トリメチルボラジンのメチルアミン塩酸塩に対する収率は82モル%であった。
【0044】
<比較例1>
実施例1において精製したトリグライムを、精製前のトリグライムに変えた以外は、同様に反応を実施した。精製前のトリグライムの水酸基価を、日本工業規格K0070に準拠して測定したところ、15.6であった。このトリグライム中に、ジエチレングリコールモノメチルエーテルが1.5質量%含まれていた。
【0045】
反応液を分析したところ、生成したN,N’,N”−トリメチルボラジンのメチルアミン塩酸塩に対する収率は75モル%であった。またジエチレングリコールモノメチルエーテルは反応前の5%相当分しか残存していなかった。
【0046】
<実施例2>
冷却管を備えた500mlの反応器を窒素置換した後、アミン塩として乾燥したメチルアミン塩酸塩41.9kg、実施例1において精製したトリグライム150.4gを仕込み、150℃まで昇温した。その後、水素化ホウ素アルカリである水素化ホウ素ナトリウム26.3gと精製したトリグライム108.6gとの混合物を、1.5時間かけて反応器に供給した。その後、170℃に昇温後に、2時間保持して反応を完結させた。反応中に生成した水素は還流管にて冷却した後、系外へ除去した。
【0047】
反応液を分析したところ、生成したN,N’,N”−トリメチルボラジンのメチルアミン塩酸塩に対する収率は80モル%であった。
【0048】
<実施例3>
実施例1の反応液から蒸留によってトリグライムを回収した。20段のオルダーショウを備えた蒸留装置に、実施例1の反応液を仕込み、塔頂圧力4000Pa、還流比1にて蒸留を実施した。塔頂温度123〜124℃の留分を取得し、回収トリグライムとした。回収トリグライムをガスクロマトグラフィーで分析したところ、トリグライムは面積比で99%以上であった。得られた回収トリグライムの水酸基価を、日本工業規格K0070に準拠して測定したところ、7.5であった。
【0049】
実施例2において用いたトリグライムを、回収したトリグライムに変えた以外は、同様に反応を実施した。
【0050】
反応液を分析したところ、生成したN,N’,N”−トリメチルボラジンのメチルアミン塩酸塩に対する収率は87モル%であった。
【0051】
実施例、比較例から、溶媒の水酸基価が10以下の溶媒や、ボラジン化合物合成反応後に回収した溶媒を使用することで、ボラジン化合物の収率が向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の方法によりボラジン化合物の製造において、高い収率で、また安定的な反応を実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において使用できる、水酸基価が10以下であるボラジン化合物製造用溶媒。
【請求項2】
ホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において、溶媒とホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリ及び/または(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩を共存させた後、蒸留により得られた溶媒を含むボラジン化合物製造用溶媒。
【請求項3】
ホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において得られた、反応後の反応液から蒸留にて回収された溶媒の少なくとも一部を含むボラジン化合物製造用溶媒。
【請求項4】
前記溶媒がエーテル類、芳香族化合物類、脂環式炭化水素類から選ばれる一種又は二種以上からなる溶媒であることを特徴とする請求項1〜3記載のボラジン化合物製造用溶媒。
【請求項5】
ホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHnX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子または硫酸基であり、nは1または2である)で表されるアミン塩とを請求項1〜4記載のボラジン化合物製造用溶媒中で反応させることを特徴とするボラジン化合物の製造法。

【公開番号】特開2009−298774(P2009−298774A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113102(P2009−113102)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】