説明

ボリノスタットの新規な製造方法

本発明は、活性医薬成分であるボリノスタットの改良された製造方法に関する。特に、合成中間化合物の単離が不要である、高純度のボリノスタットの効率的な製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性医薬成分であるボリノスタットの改良された製造方法に関する。特に、合成中間化合物の単離が不要である、高純度のボリノスタットの効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボリノスタットは、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)またはN−ヒドロキシ−N’−フェニル−オクタンジアミドとも称され、構造式(I)で表される。
【0003】
【化1】

【0004】
ボリノスタットは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤であり、現在、皮膚ガンの一種である皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療用途で販売されている。ボリノスタットは腫瘍細胞の最終分化を選択的に誘導し、それによって適した条件下、かかる細胞の増殖を阻害するに有用であると考えられているため、腫瘍細胞の増殖で特徴付けられる腫瘍を有する患者の治療に有用である。
【0005】
ボリノスタットおよびそのI型結晶多型の製造方法は、特許出願US2004/0122101およびWO2006/127319に記載されている。しかし、記載されたスベリン酸からボリノスタットまでの製造を含む方法は、スベリン酸とアニリンのアミド化工程、モノアミド化合物のメタノールとのエステル化工程、および最後に塩酸ヒドロキシルアミンとナトリウムメトキシドと反応させてボリノスタットを得る工程の連続工程を含む、面倒な3工程の方法である。この方法は、高い温度、長い反応時間を含み、全収率が約23%と低いため、非常に便利であるとは言えない。さらに、その中間体と最終物は、非常に純度が高いというわけではなく、徹底的な精製工程が必要である。
【0006】
4つのボリノスタットを得る代替方法が特許US5369108に報告されており、これらの方法がスキームI、II、IIIおよびIVに図示されている。
【0007】
スキームI、IIIおよびIVでは、スベロイルクロライド、アニリンおよび第三の反応体の反応によるアミド生成が報告された。この第三の反応体は、スキームI、IIIおよびIVでそれぞれ塩酸ヒドロキシルアミン、O−ベンジルヒドロキシルアミンおよびO−(トリメチルシリル)ヒドロキシルアミンであった。この3つの方法ではボリノスタットの収率はそれぞれほぼ同等(35%まで)であった。
【0008】
スキームIIでは、スベリン酸モノメチルエステルが、ベンゼン中、オキザリルクロライドおよびジメチルホルムアミドと処理することでスベリン酸モノメチルエステル・モノ酸塩化物に変換された。このように形成されたモノメチルエステル・モノ酸塩化物は、アニリンおよび水酸化カリウムと順次処理することでスベリン酸モノアミドに変換された。このスベリン酸モノアミドは、ピリジン中、O−ベンジルヒドロキシルアミンおよび1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)と処理され、さらに水素分解することで、ボリノスタットが得られた。収率は35%〜65%であった。
【0009】
スキームI、II、IIIおよびIVに図示された製法は、すべてカラムクロマトグラフィーの使用が必要である。スキームI、II、IIIおよびIVで得られる収率は、それぞれ15〜30%、35〜65%、20〜35%および20〜33%である。
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
先行文献に記載された方法の主たる不利な点は以下の通りである。
・すべてのスキームは、ボリノスタットを得るのに長い反応工程を含んでいる。
・反応で使用する試薬が非常に高価である。従って、これら方法は商業的製造に十分なほど費用効率が高くない。
・カラムクロマトグラフィーまたは長い精製工程の後でしか、製品が得られない。このことで、全収率が低下し、またその方法の商業的製造までのスケールアップの実現可能性が厳しく制限される。
・図示された方法のすべては、すべての反応中間体の単離および精製が必要である。
【0015】
ボリノスタットによるガン治療の重要性を考慮すると、代替する、相対的に単純であり、経済的で、商業的に実現可能であり、商業的に受け入れられる収率と高純度を有するボリノスタットの製造方法を開発することは、大いに必要である。
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、ボリノスタットが、入手容易な前駆物質のスベリン酸を出発原料として、単純で効率的な製法によって、非常に高い純度で製造できることを見出した。本発明者らはまた、驚くべきことに、本製法では、特に低い温度で実施する場合、ジアミドの生成が抑えられて、そこで続いて精製を行う必要がなく、非常に高い純度のボリノスタットが得られることも見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の課題は、単純であり、経済的で、商業的に実現可能であり、商業的に受け入れられる収率と高純度を有するボリノスタットの製造方法を提供することである。
【0018】
さらなる発明の課題は、合成中間体を単離しないボリノスタットの合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
明細書および請求の範囲を通して、ここで使用するボリノスタットとの用語は、ボリノスタット、および/または、そのいかなる塩、溶媒和物または結晶多型を意味する。
【0020】
本発明の第一の側面によって、以下の工程を含む、ボリノスタットの製造方法が提供される。
(a)スベリン酸とハロホルメートとの反応;
(b)アニリンと工程(a)の生成物との反応;
(c)ハロホルメートと工程(b)の生成物との反応;
(d)ヒドロキシルアミンと工程(c)の生成物との反応;および
(e)生成物ボリノスタットの単離。
【0021】
好ましくは、工程(a)および工程(c)のハロホルメートは、アルキルハロホルメート、アルケニルハロホルメート、アルキニルハロホルメート、アリールハロホルメートまたはアリールアルキルハロホルメートを含む群から選択される。より好ましくは、ハロホルメートは、メチルハロホルメート、エチルハロホルメート、ベンジルハロホルメートまたはt−ブチルハロホルメートから選択される。好ましくは、ハロホルメートは、クロロホルメートであり、最も好ましくは、メチルクロロホルメートである。
【0022】
好ましくは、工程(a)および工程(c)は、塩基の存在下、実施される。かかる塩基は好ましくは、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン、またはピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)等のヘテロ環アミン等の有機塩基である。好ましくは、有機塩基はトリアルキルアミンであり、最も好ましくはトリエチルアミンである。
【0023】
好ましくは、工程(a)〜(d)は、20℃以下の温度で、好ましくは−5〜15℃の範囲で、より好ましくは−5〜10℃の範囲で、より好ましくは0〜10℃の範囲で、最も好ましくは0〜5℃の範囲で実施される。
【0024】
好ましくは、工程(a)〜(d)は、有機溶媒中で実施される。かかる有機溶媒は好ましくは、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドを含む群から選択される。最も好ましくは、有機溶媒はテトラヒドロフランである。
【0025】
好ましくは、工程(d)のヒドロキシルアミンは、アルコール系溶媒中のヒドロキシルアミン溶液として存在する。かかるアルコール系溶媒は、好ましくはアルキルアルコール、アルケニルアルコールまたはアリールアルキルアルコールを含む群から選択される。より好ましくは、アルコール系溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはブタノールを含む群から選択され、最も好ましくはアルコール系溶媒はメタノールである。
【0026】
好ましくは、ヒドロキシルアミン溶液は、20℃以下の温度で、好ましくは−5〜15℃の範囲で、より好ましくは−5〜10℃の範囲で、より好ましくは0〜10℃の範囲で、最も好ましくは0〜5℃の範囲で用いられる。
【0027】
必要であれば、ヒドロキシルアミンは塩酸塩等の適当な塩の形態で用いることもできる。
【0028】
好ましくは、工程(a)〜(c)の反応生成物は、単離および/または精製をしない。これによって、一連の工程が効率的で便利なボリノスタットの製造方法となる。
【0029】
好ましくは、本発明の第一の側面による方法は、クロマトグラフィーを使用せずに実施される。
【0030】
好ましくは、本方法は、5時間よりも短い時間で、好ましくは4時間より短い時間で、好ましくは3時間より短い時間で、好ましくは2時間より短い時間で実施される。
【0031】
好ましくは、本方法は、工業的スケールで、好ましくはボリノスタットを100g、500g、1kg、5kg、10kg、25kgまたはそれ以上の単位で製造するように、実施される。
【0032】
好ましくは、ボリノスタットはスベリン酸から30%以上、好ましくは40%以上の収率で製造される。
【0033】
好ましくは、製造されたボリノスタットは、99%以上、好ましくは99.5%以上、好ましくは99.7%以上、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上のHPLC純度を有する。
【0034】
本発明の第二の側面によって、実質的に純粋なボリノスタットが提供される。好ましくは、そのボリノスタットは、医薬としての使用、好ましくはガン、好ましくは皮膚ガン、好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療または予防に適している。
【0035】
本発明の第三の側面によって、本発明の第一の側面による方法によって製造される実質的に純粋なボリノスタットが提供される。好ましくは、そのボリノスタットは、医薬としての使用、好ましくはガン、好ましくは皮膚ガン、好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療または予防に適している。
【0036】
本発明の第四の側面によって、本発明の第二または第三の側面によるボリノスタットを含有する医薬組成物が提供される。
【0037】
本発明の第五の側面によって、ガン、好ましくは皮膚ガン、より好ましくは皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の治療または予防のための医薬の製造における、本発明の第二または第三の側面によるボリノスタットの使用、または本発明の第四の側面による医薬組成物の使用が提供される。
【0038】
本発明の第六の側面によって、治療上または予防上効果を有する量の本発明の第二または第三の側面によるボリノスタット、または治療上または予防上効果を有する量の本発明の第四の側面による医薬組成物を、その必要がある患者に投与することを含む、ガンの治療または予防の方法が提供される。好ましくは、本発明の第六の側面による方法は、皮膚ガン、より好ましくは皮膚T細胞リンパ種(CTCL)の治療または予防のためのものである。好ましくは、患者は哺乳類であり、好ましくはヒトである。
【0039】
本発明の目的のために、“アルキル”基は、直鎖もしくは分岐鎖であってもよく、または環状基であるか、環状基を含んでいてもよい、一価の飽和炭化水素基を意味する。アルキル基は置換されていてもよく、またその炭素骨格中に1以上のヘテロ原子であるN、OもしくはSを含んでいてもよい。好ましくは、アルキル基は直鎖または分岐鎖である。好ましくは、アルキル基は置換されていない。好ましくは、アルキル基はその炭素骨格中にヘテロ原子を含んではいない。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルである。好ましくは、アルキル基はC1−12アルキル基、好ましくはC1−6アルキル基である。好ましくは、環状アルキル基はC3−12環状アルキル基、好ましくはC5−7環状アルキル基である。
【0040】
“アルケニル”基は、直鎖もしくは分岐鎖であってもよく、または環状基であるか、環状基を含んでいてもよい、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する一価の炭化水素基を意味する。アルケニル基は置換されていてもよく、またその炭素骨格中に1以上のヘテロ原子であるN、OもしくはSを含んでいてもよい。好ましくは、アルケニル基は直鎖または分岐鎖である。好ましくは、アルケニル基は置換されていない。好ましくは、アルケニル基はその炭素骨格中にヘテロ原子を含んではいない。アルケニル基の例としては、ビニル、アリル、1−ブテニル、2−ブテニル、シクロヘキセニルおよびシクロヘプテニルである。好ましくは、アルケニル基はC2−12アルケニル基、好ましくはC2−6アルケニル基である。好ましくは、環状アルケニル基はC3−12環状アルケニル基、好ましくはC5−7環状アルケニル基である。
【0041】
“アルキニル”基は、直鎖もしくは分岐鎖であってもよく、または環状基であるか、環状基を含んでいてもよい、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する一価の炭化水素基を意味する。アルキニル基は置換されていてもよく、またその炭素骨格中に1以上のヘテロ原子であるN、OもしくはSを含んでいてもよい。好ましくは、アルキニル基は直鎖または分岐鎖である。好ましくは、アルキニル基は置換されていない。好ましくは、アルキニル基はその炭素骨格中にヘテロ原子を含んではいない。アルキニル基の例としては、エチニル、プロパルギル、1−ブチニルおよび2−ブチニルである。好ましくは、アルキニル基はC2−12アルキニル基、好ましくはC2−6アルキニル基である。好ましくは、環状アルキニル基はC3−12環状アルキニル基、好ましくはC5−7環状アルキニル基である。
【0042】
“アリール”基は、一価の芳香族炭化水素基を意味する。アリール基は置換されていてもよく、またその炭素骨格中に1以上のヘテロ原子であるN、OもしくはSを含んでいてもよい。好ましくは、アリール基は置換されていない。好ましくは、アリール基はその炭素骨格中にヘテロ原子を含んではいない。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントラセニル、チエニルおよびフリルである。好ましくは、アリール基は、C4−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基である。
【0043】
本発明の目的のために、置換基の組合せが、1つの基として、例えば、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、アルキルアリール、アルケニルアリールまたはアルキニルアリールとして言及されている場合、当該基は、最後に記載されている基に含まれる原子で、残りの分子に結合している。アリールアルキル基の典型例はベンジルである。
【0044】
“アルコキシ”基は、−O−アルキル、−O−アルケニル、−O−アルキニル、−O−アリール、−O−アリールアルキル、−O−アリールアルケニル、−O−アリールアルキニル、−O−アルキルアリール、−O−アルケニルアリールまたは−O−アルキニルアリールを意味する。好ましくは、“アルコキシ”基は−O−アルキルまたは−O−アリールである。より好ましくは、“アルコキシ”基は−O−アルキルである。
【0045】
“ハロ”基は、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードである。
本発明の目的のために、置換されていてもよい基は、−F、−Cl、−Br、−I、−CF、−CCl、−CBr、−CI、−OH、−SH、−NH、−CN、−NO、−COOH、−R−O−R、−R−S−R、−R−N(R、−R−N(R、−R−P(R、−R−Si(R、−R−CO−R、−R−CO−OR、−RO−CO−R、−R−CO−N(R、−R−NR−CO−R、−RO−CO−OR、−RO−CO−N(R、−R−NR−CO−OR、−R−NR−CO−N(R、−R−CS−RもしくはRの1つまたはそれ以上で置換されてもよい。ここで、−R−は、独立して化学結合、無置換のC−C10アルキレン、C−C10アルケニレンまたはC−C10アルキニレンである。−Rは、独立して水素、無置換のC−CアルキルまたはC−C10アリールである。置換される場合、置換基で置換された親の基の炭素数には、置換基の炭素は考慮されない。好ましくは、置換された基は、1、2または3個の置換基を有し、より好ましくは、1または2個の置換基を有し、さらに好ましくは1個の置換基を有する。
【0046】
本発明の目的のために、化合物が“実質的に純粋”であるのは、化合物がHPLCで不純物を1%以下、好ましくは0.5%以下、好ましくは0.3%以下、好ましくは0.2%以下、好ましくは0.1%以下含む場合である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
発明の詳細な説明
本発明によって、入手容易なスベリン酸を出発物質とした効率的で経済的なボリノスタットの合成が提供され、同製品が非常に高い純度で得られる。
【0048】
本発明者らは、驚くべきことに、スベリン酸とメチルクロロホルメートを出発原料とする極度に好適な方法を用いることで、合成中間体の単離および/または精製をせずに、商業的に受け入れられる収率で、ボリノスタットが製造できることを見出した。
【0049】
本発明者らはまた、驚くべきことに、低い温度で実施した場合は特に、本方法によって実質的に純粋なボリノスタットが得られることも見出した。ボリノスタットが“実質的に純粋”であるとは、ボリノスタットがHPLCで不純物を1%以下、好ましくは0.5%以下、好ましくは0.3%以下、好ましくは0.2%以下、好ましくは0.1%以下含む場合である。
【0050】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の第一の側面による方法には、従来技術の方法と比較して反応時間が大幅に削減され、非常に安易で効率的な精製技術であり、非常に高い純度(HPLCで99%以上)であるとの有利な点が存在することを見出した。
【0051】
本発明の好ましい態様としては、合成中間体は単離および/または精製をしない。しかし、本発明の一部として、望むのであれば、合成中間体を単離および/または精製してもよい。
【0052】
本発明の第一の側面の好ましい態様を、スキームVに図示する。
【0053】
【化6】

【0054】
本発明の好ましい態様として、以下の工程が含まれる。
(a)スベリン酸とメチルクロロホルメートの混合物をトリエチルアミンの存在下、0〜5℃で有機溶媒に溶解させる工程;
(b)工程(a)の生成物に0〜5℃でアニリンを加える工程;
(c)工程(b)の反応混合物にトリエチルアミンの存在下、0〜5℃でメチルクロロホルメートを加える工程;
(d)工程(c)で得られる反応混合物を、調製したばかりの冷却したヒドロキシルアミンのメタノール溶液に加える工程。
【0055】
実質的に純粋なボリノスタットを単離する典型的な手順としては、以下の工程が含まれる。
(e)工程(d)の反応混合物から真空下、好ましくは約40℃で反応溶媒を取り除く工程;
(f)工程(e)の残渣に塩化メチレンを加えて、得られる有機溶液を水で洗浄し、好ましくは無水硫酸ナトリウムで乾燥する工程;
(g)その塩化メチレンを真空下、好ましくは約40℃で取り除き、アセトニトリルを当該残渣に加えて、固体生成物を単離して、濾取する工程;
(h)工程(g)で得られる固体生成物のボリノスタットを真空下、好ましくは約60℃で乾燥する工程。
【0056】
上記の一連の工程は、面倒な精製技術が必要ではなく、非常に短く、効率的な実質的に純粋なボリノスタットの製造方法である。従って、本発明の方法は、実質的に純粋なボリノスタットの商業的な製造に極めて適している。
【0057】
本発明の第四の側面による医薬組成物は、溶液または懸濁液であってもよいが、好ましくは固形経口投薬形態である。本発明に従った好ましい固体経口投薬形態としては、錠剤、カプセル等が含まれ、これらは必要に応じてコーティングを施してもよい。錠剤は、直接圧縮、湿式造粒および乾式造粒等の従来の技術に従って、製造することができる。カプセルは、一般にゼラチン材料から形成され、本発明に従って従来通り製造される顆粒状の賦形剤を含めることができる。
【0058】
本発明の医薬組成物は、典型的には、充填剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤を含む群から選択される1つまたはそれ以上の薬学上許容される従来の賦形剤を含み、任意に着色剤、吸着剤、界面活性剤、膜形成剤および可塑剤から選択されるの少なくとも1つの賦形剤をさらに含む。
【0059】
固形医薬製剤がコーティング錠の形態である場合、コーティングは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロシキプロピルセルロース、メタアクリレートポリマー等のフィルム形成剤の少なくとも1つから調製することができ、ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリエチル等の可塑剤の少なくとも1つ、および色素、充填剤等の膜コーティングにとって慣用的に用いられる、その他の医薬補助物質を任意に含んでもよい。
【0060】
本発明の詳細、その目的および有利な点を、制限をしない実施例によって、以下により詳細に説明する。
【実施例】
【0061】
ボリノスタット
スベリン酸(1.0当量)をテトラヒドロフラン(15 vol)に溶解させて、その透明な溶液を0〜5℃に冷却した。メチルクロロホルメート(1.1当量)とトリエチルアミン(1.1当量)をこの溶液に同温度で加え、その混合物を15分間、攪拌した。生成したトリエチルアミン塩酸塩を濾別し、アニリン(1.0当量)を反応混合物に0〜5℃で加え、さらに15分間、攪拌を継続した。メチルクロロホルメート(1.1当量)とトリエチルアミン(1.1当量)をこの透明な溶液に加え、さらに15分間、0〜5℃で攪拌を継続した。この冷却した反応混合物を、0〜5℃に冷却した調製したばかりのヒドロキシルアミンのメタノール溶液(下記参照)に加えて、0〜5℃で15分間、攪拌した。真空下、40℃で溶媒を取り除き、得られた残渣を塩化メチレンに加え、有機溶液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。塩化メチレンを真空下、40℃で取り除き、その残渣にアセトニトリルを加えた。この混合物を15分間、攪拌し、固体を真空下、濾取して、真空下、60℃で乾燥することで、白色固体として当該生成物を得た(全収率=35〜41%;HPLC純度=99.90%)。
H−NMR(DMSO-d6): 1.27 (m, 4H, 2x-CH2-), 1.53 (m, 4H, 2x-CH2-), 1.94 (t, J = 7.3Hz, 2H, -CH2-), 2.29 (t, J = 7.4Hz, 2H, -CH2-), 7.03 (t, J = 7.35Hz, IH, 芳香族のパラ位), 7.27 (t, J = 7.90Hz, 2H, 芳香族のメタ位), 7.58 (t, J = 7.65Hz, 2H, 芳香族のオルト位), 8.66 (s, 1H, -OH, 重水素交換される), 9.85 (s, 1H, アミド-NH-,重水素交換される), 10.33 (s, 1H, -NH-OH, 重水素交換される).
13C−NMR(DMSO-d6): 25.04 (2C, 2x-CH2-), 28.43 (2C, 2x-CH2-), 32.24 (1C, -CH2-), 36.34 (1C, -CH2-), 119.01 (2C, Ar-C), 122.96 (1C, Ar-C), 128.68 (2C, Ar-C), 139.24 (1C, Ar-C, =CNH-), 169.23 (1C, -CO-), 171.50 (1C, -CO-).
ヒドロキシルアミン溶液の調製:
水酸化カリウム(1.1当量)をメタノール(8 vol)に加え、この溶液を0〜5℃に冷却した。同様に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(1.1当量)をメタノール(8 vol)に加え、この溶液を0〜5℃に冷却した。この冷却したアミン溶液を、冷却したアルカリ溶液に加え、0〜5℃で15分間、攪拌した。白色の塩化カリウム塩を濾別し、濾液をヒドロキシルアミン溶液として用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ボリノスタットの製造方法:
(a)スベリン酸とハロホルメートとの反応;
(b)アニリンと工程(a)の生成物との反応;
(c)ハロホルメートと工程(b)の生成物との反応;
(d)ヒドロキシルアミンと工程(c)の生成物との反応;および
(e)生成物ボリノスタットの単離。
【請求項2】
工程(a)および工程(c)におけるハロホルメートが、アルキルハロホルメート、アルケニルハロホルメート、アルキニルハロホルメート、アリールハロホルメートまたはアリールアルキルハロホルメートからなる群から独立して選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ハロホルメートが、メチルハロホルメート、エチルハロホルメート、ベンジルハロホルメートまたはt−ブチルハロホルメートから独立して選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(a)および工程(c)におけるハロホルメートがクロロホルメートである、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項5】
クロロホルメートがメチルクロロホルメートである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程(a)および工程(c)が塩基存在下で実施される、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項7】
塩基が有機塩基である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
有機塩基がトリアルキルアミンである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
有機塩基がトリエチルアミンである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
工程(a)〜(d)が20℃より低い温度で実施される、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項11】
温度が−5〜15℃の間である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
温度が−5〜10℃の間である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
温度が0〜10℃の間である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
温度が0〜5℃の間である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
工程(a)〜(d)が有機溶媒中で実施される、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項16】
有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドを含む群から選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
有機溶媒がテトラヒドロフランである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
工程(d)のヒドロキシルアミンが、ヒドロキシルアミンのアルコール系溶媒の溶液として存在する、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項19】
アルコール系溶媒がアルキルアルコール、アルケニルアルコールまたはアリールアルキルアルコールを含む群から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
アルコール系溶媒がメタノール、エタノール、イソプロパノールまたはブタノールを含む群から選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
アルコール系溶媒がメタノールである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ヒドロキシルアミン溶液が、20℃より低い温度で用いられる、請求項18〜21のいずれか記載の方法。
【請求項23】
温度が−5〜15℃の間である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
温度が−5〜10℃の間である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
温度が0〜10℃の間である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
温度が0〜5℃の間である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
工程(a)〜(c)の反応生成物を単離および/または精製しない、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項28】
方法が、クロマトグラフィーを使用せずに実施される、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項29】
方法が、5時間より短い時間で実施される、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項30】
方法が、工業的スケールで実施される、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項31】
ボリノスタットが、スベリン酸から30%以上の収率で得られる、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項32】
得られるボリノスタットが、99%以上のHPLC純度である、先行する請求項のいずれか記載の方法。
【請求項33】
実質的に純粋なボリノスタット。
【請求項34】
請求項1〜32のいずれか記載の方法で製造される、実質的に純粋なボリノスタット。
【請求項35】
医薬として使用される、請求項33または34記載のボリノスタット。
【請求項36】
ガンを治療または予防するための、請求項35記載のボリノスタット。
【請求項37】
皮膚ガンを治療または予防するための、請求項36記載のボリノスタット。
【請求項38】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)を治療または予防するための、請求項37記載のボリノスタット。
【請求項39】
請求項33〜38のいずれか記載のボリノスタットを含有する医薬組成物。
【請求項40】
ガンを治療または予防するための医薬を製造における、請求項33〜38のいずれか記載のボリノスタットの使用、または請求項39記載の医薬組成物の使用。
【請求項41】
皮膚ガンを治療または予防するための、請求項40記載の使用。
【請求項42】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)を治療または予防するための、請求項41記載の使用。
【請求項43】
治療上または予防上効果を有する量の請求項33〜38のいずれか記載のボリノスタット、または治療上または予防上効果を有する量の請求項39記載の医薬組成物を、その必要がある患者に投与することを含む、ガンを治療または予防する方法。
【請求項44】
皮膚ガンを治療または予防するための、請求項43記載の方法。
【請求項45】
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)を治療または予防するための、請求項44記載の方法。
【請求項46】
患者が哺乳類である、請求項43〜45のいずれか記載の方法。
【請求項47】
患者がヒトである、請求項46記載の方法。

【公表番号】特表2011−511053(P2011−511053A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545562(P2010−545562)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050117
【国際公開番号】WO2009/098515
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(508116469)ジェネリクス・(ユーケー)・リミテッド (34)
【Fターム(参考)】