説明

ボロンドープp型シリコンの電気的特性の評価方法、およびシリコンウェーハの製造方法

【課題】高抵抗シリコンの電気的特性を、高い信頼性をもって評価するための手段を提供する。
【解決手段】ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型シリコンの電気的特性の評価方法。評価対象のシリコン表面を酸洗浄すること、洗浄後のシリコンに対して、該シリコンの表面温度が150〜300℃の範囲となるように熱処理を施すこと、前記熱処理後のシリコンの前記酸処理を施した表面に形成された酸化膜を除去するための機械加工を施すこと、および、前記機械加工後のシリコン表面において、導電型および抵抗率からなる群から選ばれる電気的特性の評価を行うこと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロンドープp型シリコンの電気的特性の評価方法に関するものであり、詳しくは、高抵抗ボロンドープp型シリコンの電気的特性(導電型、抵抗率)の評価方法に関するものである。
更に本発明は、所望の電気的特性を有する高抵抗ボロンドープp型シリコンを提供可能なシリコンウェーハの製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板として使用されるシリコンウェーハの電気的特性はデバイス特性に大きく影響するため、正確に評価することが求められる。デバイス特性に影響を及ぼす電気的特性は主に導電型および抵抗率であり、従来、これらを正確に判定または測定する方法を提供するために様々な検討がなされてきた(例えば特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−165832号公報
【特許文献2】特開2000−68343号公報
【特許文献3】特開2004−233109号公報
【特許文献4】特開2004−319839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、シリコンウェーハの中でも高抵抗型デバイス用のシリコンウェーハが注目を集めている。これは、高抵抗シリコンウェーハを使用することにより、無線通信用デバイスを製造する際にノイズを低減できるからである。しかし上記特許文献1に記載されているように、高抵抗シリコンウェーハでは導電特性を決定するキャリア(p型であればボロン、n型であればリン)濃度が非常に少ないため、電気的特性を高い信頼性を持って評価することは困難である。
【0005】
そこで本発明は、高抵抗シリコンの電気的特性を、高い信頼性をもって評価するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。
導電型の判定や抵抗率の測定においては、評価対象のシリコン表面に電極を接触させる必要があるが、シリコン表面が厚い酸化膜に覆われているとシリコン表面と電極との間で電気的な接触が得られず測定不可となる。そのため、通常は評価前にシリコン表面の酸化膜を除去するための酸洗浄が行われる。この点に関して本発明者は、ボロンドープp型シリコンでは、上記酸洗浄に使用する酸溶液に含まれるプロトン(H+)が酸洗浄後にシリコン表面でB−Hペアを形成するため表面近傍で電気的に活性なボロンが減少し、これが測定精度を低下させる原因になると推察するに至った。電気的に活性なボロンが減少すると電気的に検出されるボロン濃度が低下する結果、p型が誤ってn型と判定される、抵抗率が実際の値よりも高く測定される、といった現象が発生し判定または測定の精度低下を招く。ボロン濃度が比較的高濃度である低抵抗シリコンであれば、B−Hペアによる影響は顕在化しないが、ボロン濃度が1.50x1013atoms/cm3以下の高抵抗シリコンウェーハでは、B−Hペアによる精度低下は、評価の信頼性を大きく損なうおそれがある。
以上の知見に基づき本発明者は、評価を行う前にB−Hペアを乖離させる処理を行うことで高抵抗のボロンドープp型シリコンの電気的特性評価の信頼性を高めることができると考え更に検討を重ねた結果、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型シリコンの電気的特性の評価方法であって、
評価対象のシリコン表面を酸洗浄すること、
洗浄後のシリコンに対して、該シリコンの表面温度が150〜300℃の範囲となるように熱処理を施すこと、
前記熱処理後のシリコンの前記酸処理を施した表面に形成された酸化膜を除去するための機械加工を施すこと、および、
前記機械加工後のシリコン表面において、導電型および抵抗率からなる群から選ばれる電気的特性の評価を行うこと、
を含むことを特徴とする、前記評価方法。
[2]前記電気的特性の評価として少なくとも熱起電力判別法による測定により導電型の判定を行い、かつ該熱起電力判別法による測定時にシリコン表面を熱源と接触させることにより加熱する、[1]に記載の評価方法。
[3]前記熱源の表面温度を60℃以上として前記シリコン表面の加熱を行う、[2]に記載の評価方法。
[4]前記電気的特性の評価として少なくとも四探針法またはSR(Spreading Resistance)法による抵抗率の測定を行うことを含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の評価方法。
[5]前記熱処理を行う期間は、3分間以上65分間以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の評価方法。
[6]ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型シリコンウェーハからなる複数のシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハの導電型および抵抗率からなる群から選ばれる電気的特性の評価を行う工程と、
前記評価の結果、所望の電気的特性を有すると判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷する工程と、を含むボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの電気的特性を、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法により評価することを特徴とする、前記方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、評価前にB−Hペア乖離熱処理を施すことにより、高抵抗(低ボロン濃度)ボロンドープp型シリコンの電気的特性を、高い信頼性をもって評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】SR法による抵抗率測定(深さ方向プロファイル評価)に対する熱処理の影響を示す。
【図2】SR法による抵抗率測定(深さ方向プロファイル評価)に対する熱処理の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型シリコンの電気的特性の評価方法に関する。本発明の評価方法における評価対象は、ボロン濃度が1.50x1013atoms/cm3以下であり高い抵抗率を示すボロンドープp型シリコンである。このようなボロン濃度の低い高抵抗シリコンについては高い信頼性をもって電気的特性を評価する手段が求められていたところ、本発明は、以下の工程:
評価対象のシリコン表面を酸洗浄すること(以下、「工程(1)」という)、
洗浄後のシリコンに対して、該シリコンの表面温度が150〜300℃の範囲となるように熱処理を施すこと(以下、「工程(2)」という)、
前記熱処理後のシリコンの前記酸処理を施した表面に形成された酸化膜を除去するための機械加工を施すこと(以下、「工程(3)」という)、および、
前記機械加工後のシリコン表面において、導電型および抵抗率からなる群から選ばれる電気的特性の評価を行うこと(以下、「工程(3)」という)、
により、上記ボロン濃度が1.50x1013atoms/cm3以下と低い、高抵抗のボロンドープp型シリコンの電気的特性を高精度に測定することを可能とするものである。これは、上記熱処理により酸処理後に形成されたB−Hペアを乖離できることと、熱処理により形成された酸化膜を、再びB−Hペアが形成される可能性のある酸処理によらず機械加工により除去することで、B−Hペアによって電気的に活性なボロンが減少することを防ぐことができるためであると、本発明者は推察している。
以下、本発明の評価方法について、更に詳細に説明する。
【0011】
前述のように、本発明における評価対象はボロンドープp型シリコンであって、そのボロン濃度は1.50x1013atoms/cm3以下である。上記シリコンは、一般に半導体基板として使用されるシリコンウェーハのようにウェーハ形状であることができるが、これに限定されるものではない。例えばCZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットから、製品ウェーハとともに切り出された評価用試料片であってもよい。そのボロン濃度は1.50x1013atoms/cm3以下であって、下限値は特に限定されるものではないが、例えば1.00x1012atoms/cm3以上である。CZ法により育成するシリコン単結晶の製造装置には通常ボロンが含まれており、製造装置からシリコン単結晶へ溶け込むボロン濃度は1.00x1012atoms/cm3以上であることが判明しているためである。
【0012】
次に、上記工程(1)〜(4)の詳細を、順次説明する。
【0013】
工程(1)
本工程は、評価対象のシリコン表面に形成された酸化膜を除去するために酸洗浄を行う工程である。熱処理が施されたシリコンには表面に熱酸化膜が形成されており、また熱処理を経ていないシリコンであっても空気中の酸素により自然酸化膜が形成されている。前述のように、この酸化膜は導電型判定および抵抗率測定において、電極とシリコン表面との電気的接触の妨げとなるため、本工程により除去する。使用する酸溶液は、フッ酸(HF水溶液)が好ましい。フッ酸(HF水溶液)による洗浄であれば、シリコン表面をほとんどエッチングすることなく、酸化膜のみを選択的に除去することができるからである。フッ酸濃度は、シリコン表面に形成されている酸化膜の膜厚を考慮し適切な濃度とすればよく、通常は好ましくは3〜5質量%程度である。酸洗浄は、試料を酸溶液中に浸漬する等して酸化膜表面と酸溶液を所定時間接触させることによって行うことができる。この接触時間も、シリコン表面に形成されている酸化膜の膜厚を考慮し適切な時間とすればよく、通常は好ましくは2〜5分程度である。酸洗浄を施したシリコンは、任意に水洗および乾燥が行われた後、工程(2)に付される。
【0014】
工程(2)
本工程は、酸洗浄後のシリコンに対して熱処理を施す工程であり、表面温度が150〜300℃となるように熱処理を施す。後述の実施例に示すように、ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下の高抵抗のボロンドープp型シリコンに対して酸洗浄後に上記温度範囲で熱処理を行うことで、導電型判定および抵抗率測定の精度を向上することができる。これは、上記温度範囲ではシリコン表面で形成されたB−Hペアが乖離するためであると、本発明者は推察している。他方、シリコン表面の温度が150℃未満では精度向上は困難であり、これはB−Hペアの乖離が不十分なためと考えられる。また、シリコン表面の温度が300℃を超えると、酸素ドナーが発生して抵抗が変化し、正確な抵抗を評価できなくなるためである。
上記温度範囲での熱処理は、B−Hペアを効果的に乖離する観点から、3分間以上行うことが好ましく、5分間以上行うことがより好ましい。また、B−Hペアが十分に乖離する時間を大きく超えて熱処理を継続することも可能であるが、作業性の点からは好ましくない。この点からは、上記温度範囲での熱処理時間は65分間以下とすることが好ましく、35分間以下とすることがより好ましい。以上の観点から、上記温度範囲での熱処理は、3〜65分間程度行うことが好ましく、5〜35分間程度行うことがより好ましく、5〜25分間程度行うことがより一層好ましく、10〜25分間程度行うことが更に好ましく、10〜20分間程度行うことが特に好ましい。熱処理は、上記シリコンをホットプレート上または熱処理炉内に配置して行うことができる。熱処理時に雰囲気ガスにより汚染を受けて電気的特性の評価に影響を及ぼすことを防ぐ観点から、熱処理はクリーンルーム内で行うことが好ましい。
【0015】
工程(3)
上記した工程(2)では熱処理が行われるため、シリコン表面には酸化膜が形成される。この酸化膜の存在は、導電型判定および抵抗率測定において電極とシリコン表面が電気的に接触することの妨げとなる。そこで本発明では、本工程においてシリコン表面の酸化膜を除去するための機械加工を行う。ここで機械加工による酸化膜除去を行う理由は、工程(1)と同様に酸洗浄による方法では、再びB−Hペアが形成されることとなるからである。機械加工は、研削、研磨等の公知の方法により行うことができる。機械加工後のシリコンは、工程(4)を行うまで長時間を要する場合には、自然酸化膜が形成されないように非酸化性雰囲気中に保管することが好ましい。また、工程(3)の機械加工終了後に評価対象シリコンを大気中等の酸素含有雰囲気中に保管する場合には、より一層信頼性の高い評価結果を得るためには、工程(3)の機械加工終了から工程(4)の評価実施までの期間は2時間以内とすることが好ましい。
【0016】
工程(4)
以上の工程を経たシリコン表面に電極を接触させて導電型判定または抵抗率測定を行うことで、電気的特性(導電型、抵抗率)を高精度に評価することができる。これは、シリコン表面におけるB−Hペアおよび酸化膜の影響が低減ないし排除されていることによるものであると、本発明者は推察している。本発明において評価される電気的特性は、導電型および抵抗率のいずれか一方でもよく両方でもよい。
【0017】
導電型判定は、熱起電力判別方法、光起電力判別方法、ホール効果判別方法、整流判別方法等の公知の方法で行うことができる。上記の中でも熱起電力判別方法は広く用いられている方法であり、本発明でも好適な方法である。熱起電力判別法による測定は、加熱プローブを用いて行われる(加熱プローブ式)。具体的には、2本のプローブ(電極)のうち一方を室温に保っておき、もう一方は取り付けられたヒータコイル(可変電源により通電発熱する)により表面温度40〜60℃に昇温した状態でシリコン表面に接触させる。これにより接点間の温度差によって熱起電力が発生し、この熱起電力の向きを零指示計(ガルバノメータ)等にて検出することにより、シリコンの導電型(p型またはn型)を判定することができる。
【0018】
上記熱起電力判別法は、昇温したプローブを被評価体(シリコン)に接触させ熱を与えた際に周辺との温度差が生じ、その影響で発生した熱起電力を検出する方法である。しかし、ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下の高抵抗ボロンドープp型シリコンでは、含まれるキャリア(ボロン)が非常に少ないために、表面温度40〜60℃に昇温されたプローブとの接触によって与えられる熱のみでは発生する熱起電力量が十分ではなく、p型、n型の判定にばらつきが見られる場合がある。そのような場合には、ヒーターコイルによって昇温するプローブの表面温度を60℃以上にすることで、十分な起電力を発生させることができ、導電型判定のばらつきを低減することができる。
キャリア(ボロン)濃度が低い高抵抗ボロンドープp型シリコンにおける導電型判定のばらつき発生をより効果的に低減する観点からは、上記2本のプローブは、近い位置でシリコン表面と接触させることが好ましく、具体的には、室温に保持されたプローブとの接点とヒーターコイルによって昇温されたプローブとの接点の距離は1cm以内とすることが好ましい。
また、装置の仕様上、ヒーターコイルによってプローブの表面温度を60℃以上に昇温することが困難な場合がある。そのような場合には、ヒーターコイルによって昇温されたプローブと接触させる被評価体(シリコン)の表面に、好ましくは表面温度が60℃以上となるように温度調整した熱源(追加熱源)を接触させることで、接点部分の温度を高めることが好ましい。ヒーターコイルによって昇温されるプローブ温度または追加熱源の表面温度は90〜100℃程度が好適である。
【0019】
本発明において評価される電気的特性は抵抗率であることもできる。抵抗率の測定方法としては、四探針法、SR(Spreading Resistance)法が広く用いられており本発明においても好適に使用される。四探針法は、試料の被測定面上に一直線に探針となる4本の電極を立て、測定電流通電電極を介して定電流電源により一定電流を流し、その状態で測定用電極間の電位差を測定することにより、その電位差と測定用電極間距離とにより抵抗率を算出するものである。一方、SR法は広がり抵抗法とも呼ばれる。SR法によれば、プローブの近傍の微小な領域での抵抗率の測定が可能であり、しかもシリコン表面から深さ方向への抵抗率分布を得ることもできる。SR法としては定電流法、定電圧法が知られているが、本発明ではいずれの方法を用いてもよい。
【0020】
以上説明した本発明の評価方法によれば、ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型高抵抗シリコンの電気的特性を高い信頼性をもって評価することができる。
【0021】
更に本発明は、1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型シリコンウェーハからなる複数のシリコンウェーハのロットを準備する工程と、前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、前記抽出されたシリコンウェーハの導電型および抵抗率からなる群から選ばれる電気的特性の評価を行う工程と、前記評価の結果、所望の電気的特性を有すると判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷する工程と、を含むボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法に関する。本発明の製造方法では、前記抽出されたシリコンウェーハの電気的特性を、本発明の評価方法によって評価する。
【0022】
前述のように、本発明の評価方法によれば、1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型高抵抗シリコンの電気的特性(導電型、抵抗率)を高い信頼性をもって評価することができる。よって、かかる評価方法により所望の電気的特性を有すると判定されたシリコンウェーハと同一ロット内のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することにより、所望の電気的特性を有する製品ウェーハを高い信頼性をもって提供することができる。なお、求められる電気的特性は用途に応じて適宜設定されるものである。また1ロットに含まれるウェーハ数および抽出するウェーハ数は適宜設定すればよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0024】
1.抵抗率測定の実施例、比較例
鏡面研磨処理を施したボロンドープp型シリコンウェーハ(ボロン濃度1.33x1013atoms/cm3)を短冊状にへき開し4つの試料片を得た。得られた試料片を5質量%フッ酸に2分間浸漬することで酸洗浄し、次いで純粋で5分間リンス(水洗)した。エアーブラシ処理後に自然乾燥した後、1つの試料片は以下の熱処理なしに直ちにSR法および四探針法による抵抗率測定(深さ方向プロファイル評価)に付した。残り3つの試料片は、自然乾燥後にクリーンルーム内のホットプレート上に、表面温度150℃にて所定時間放置し熱処理した。その後、研磨処理により表面酸化膜を除去した後、大気中で2時間以内にSR法および四探針法による抵抗率測定(深さ方向プロファイル評価)に付した。図1にSR法による測定結果、表1に四探針法による評価結果を示す。表1に示すボロン濃度は、測定された抵抗率から算出した値である。
【0025】
図1より、表面温度150℃での熱処理を行うことにより、ウェーハ表層部での高抵抗シフトが改善されたことが確認できる。これは、上記熱処理によりウェーハ表層部に存在するB−Hペアが乖離し、ボロンが電気的に活性になりキャリアとして機能したためと考えられる。中でも表面温度150℃での5分間熱処理後および10分間熱処理後の評価結果では、ウェーハ表面から深さ12μmまでの領域(枠線で示した部分)の抵抗率は、深さ12μm以上の領域の抵抗率と同等であったことから、5分間以上熱処理を行うことにより、ほぼ完全にB−Hペアを乖離できたことが確認できる。
また、表1に示すように、四深針法による評価においても、表面温度150℃で3分間以上熱処理を施した後にウェーハ最表面で測定された抵抗率は熱処理なしの場合と比べて大きく低下し、内部(ウェーハ表面から深さ50μm)で測定された抵抗率に近くなった。更に、表1に示す四探針法による評価結果でも、図1に示すSR法による評価結果と同様、5分間以上熱処理を行うことにより、表面と内部との測定値の差の顕著な低減が確認された。
表1に示す「熱処理なし」の評価において、ウェーハ最表面における抵抗率から算出されるボロン濃度が実測値(ボロン濃度1.33x1013atoms/cm3)から大きく外れていることは、酸処理後にB−Hペアが形成されたことでウェーハ表層部で電気的に活性なキャリアとして機能するボロン量が低下していることを示す結果である。また、表1に示すように上記熱処理を行うことでウェーハ最表面と内部とで抵抗率から算出されるボロン濃度の差(変化量)が低減されたことから、上記熱処理によりウェーハ表層部に存在するB−Hペアが乖離し、ボロンが電気的に活性になりキャリアとして機能したことが確認できる。
【表1】

【0026】
2.抵抗率測定の比較例
ボロン濃度6.5x1012atoms/cm3のボロンドープp型高抵抗シリコンウェーハから試料片を得た試料を用いて、各試料片に対してシリコン表面温度125℃で所定時間熱処理を施した点を除き、上記1.と同様の方法で抵抗率の深さ方向プロファイル評価を行った。結果を図2および表2に示す。
【0027】
図2に示すように、シリコン表面温度125℃での加熱処理では、65分間の長時間の加熱処理を行ってもシリコン表面の抵抗率が高抵抗側にシフトする現象は解消されなかった。即ち、ボロン濃度が回復しなかった。
更に表2より、シリコン表面温度125℃での加熱処理では、65分間加熱処理を行ったとしてもウェーハ最表面で測定される抵抗率と内部(ウェーハ表面から深さ15μm)で測定される抵抗率との著しい違いは解消されなかった。
以上の結果から、125℃の加熱処理では不十分であり、150℃以上の加熱処理を行うことで低ボロン濃度のボロンドープp型高抵抗シリコンの抵抗率を高精度に評価可能となることが確認できる。
【0028】
【表2】

【0029】
3.導電型判定の実施例、比較例
ボロン濃度の異なる複数のp型シリコンウェーハを、ボロン濃度ごとに2枚ずつ準備し、同一ボロン濃度の2枚のウェーハの一方には、上記1.と同様の処理(酸処理→熱処理→研磨処理)を行った。熱処理は、クリーンルーム内のホットプレート上に配置したシリコンウェーハの表面温度を150℃として10分間放置することで行った。
その後、上記処理を施したシリコンウェーハ表面にヒーターコイルで表面温度98℃に昇温したプローブ(熱源)を接触させ、熱源から1cm離れた箇所に常温プローブを接触させて熱起電力判定法による導電型判定を行った。他方は熱処理を施さずに酸処理後に直ちに導電型判定を行った。
得られた結果を、表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示す結果から、ボロン濃度の高い低抵抗シリコンウェーハでは熱処理を行うことなく導電型の判定が可能であるのに対し、ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下の高抵抗シリコンウェーハでは酸処理後にウェーハ表面温度150℃での熱処理を行わなければ導電型の正確な判定は困難であることが確認できる。先に説明したように、上記熱処理なしでは表面近傍でB−Hペアが形成され電気的に活性なボロン濃度が低下することが、表1に示す四探針法により測定された抵抗率から算出したボロン濃度から確認されたことから、表面近傍のB−Hペア形成が導電型判定の精度を低下させる原因と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、半導体基板の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型シリコンの電気的特性の評価方法であって、
評価対象のシリコン表面を酸洗浄すること、
洗浄後のシリコンに対して、該シリコンの表面温度が150〜300℃の範囲となるように熱処理を施すこと、
前記熱処理後のシリコンの前記酸処理を施した表面に形成された酸化膜を除去するための機械加工を施すこと、および、
前記機械加工後のシリコン表面において、導電型および抵抗率からなる群から選ばれる電気的特性の評価を行うこと、
を含むことを特徴とする、前記評価方法。
【請求項2】
前記電気的特性の評価として少なくとも熱起電力判別法による測定により導電型の判定を行い、かつ該熱起電力判別法による測定時にシリコン表面を熱源と接触させることにより加熱する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記熱源の表面温度を60℃以上として前記シリコン表面の加熱を行う、請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記電気的特性の評価として少なくとも四探針法またはSR(Spreading Resistance)法による抵抗率の測定を行うことを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記熱処理を行う期間は、3分間以上65分間以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
ボロン濃度1.50x1013atoms/cm3以下のボロンドープp型シリコンウェーハからなる複数のシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハの導電型および抵抗率からなる群から選ばれる電気的特性の評価を行う工程と、
前記評価の結果、所望の電気的特性を有すると判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷する工程と、を含むボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの電気的特性を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により評価することを特徴とする、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−253216(P2012−253216A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125094(P2011−125094)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】