説明

ボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度測定方法および測定装置、シリコンウェーハ、ならびにシリコンウェーハの製造方法

【課題】ボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を、Fe−Bペア乖離現象を利用して高精度に測定するための手段を提供すること。
【解決手段】Fe−Bペア結合中の測定値と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値の違いに基づきボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を測定する方法。測定対象シリコンウェーハに対して光照射を行うことにより該ウェーハに含まれるボロン原子と酸素原子との結合体であるB−O欠陥を形成した後に、前記測定値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度測定方法および測定装置に関するものであり、詳しくは、Fe−Bペア結合中と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値の違いを利用して、ボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を高精度に測定し得る測定方法および測定装置に関するものである。
更に本発明は、前記測定方法による品質保証書付きシリコンウェーハ、および、鉄による汚染が低減されたボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの重金属汚染は、製品のデバイス特性に悪影響を及ぼす。特に、ウェーハ内のFeは、その汚染量は微量であっても再結合中心として働き、デバイスにおいてpn接合の逆方向のリーク量の増加の原因やメモリー素子のリフレッシュ不良等の原因となる。そこで工程管理のためにウェーハ内のFe汚染を正確に把握することが求められている。
【0003】
Feは、ボロンドープp型シリコン中では、ボロンと静電力によって結合しFe−Bペアを形成する。ボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度の定量方法としては、このFe−Bペアの乖離前後の少数キャリア拡散長の測定値の変化を利用する表面光電圧法(Surface Photo-Voltage;SPV法)、Fe−Bペアの乖離前後のライフタイムの測定値の変化を利用する光導電減衰法が広く用いられている(例えば特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−69301号公報
【特許文献2】特開2005−64054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記SPV法および光導電減衰法は、鉄汚染が少ない高品質なボロンドープp型シリコンウェーハを安定供給するための品質保証方法および工程管理方法として、現在広く採用されている。SPV法、光導電減衰法とも、化学分析のような熟練の必要なく、自動測定が可能な優れた方法であるが、より高品質なシリコンウェーハを提供するためには、測定精度を更に向上することが求められる。
【0006】
そこで本発明の目的は、ボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を、Fe−Bペア乖離現象を利用して高精度に測定するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。
ボロンドープp型シリコンウェーハでは、FeとBは結合しFe−Bペアを形成しているが、光照射等により格子間Feと置換型Bに解離する。上記SPV法は、Fe−Bペアと格子間Feとでは、少数キャリア拡散長に与える影響が大きく異なることを利用し、Fe−Bペア結合中とFe−Bペア乖離中の少数キャリア拡散長の測定値の違いに基づきボロンドープp型シリコンウェーハ(以下、単に「シリコンウェーハ」または「ウェーハ」ともいう)の鉄濃度を測定する方法である。一方、上記光導電減衰法は、同様にFe−Bペア乖離現象を利用し、Fe−Bペア結合中とFe−Bペア乖離中の再結合ライフタイムの測定値の違いに基づきシリコンウェーハの鉄濃度を測定する方法である。
いずれの方法も、乖離処理によって生じる現象はFe−Bペアの乖離のみであることを前提としているが、本発明者らの検討の結果、この前提の下で測定を行うと以下の誤差要因により測定精度が低下することが明らかとなった。
SPV法、光導電減衰法とも、Fe−Bペア乖離処理は、主に光照射により行われるが、太陽電池の分野では、シリコン中では製造工程から必然的に混入する酸素原子(格子間酸素)とドープされたボロン原子が光照射により結合しB−O欠陥(B1つに対してOが2つ結合していると言われている)を形成することが報告されている(Schmidt, et. al. "PROGRESS IN UNDERSTANDING AND REDUCING THE LIGHT DEGRADATION OF CZ SILICON SOLAR CELLS", the 16th European Photovoltaic Solar Energy Conference, Glasgow May 1-5, 2000参照)。このB−O欠陥の存在は測定値を変化させるため(例えば少数キャリア拡散長はB−O欠陥の存在により低下する)、光照射によりB−O欠陥が形成されたにもかかわらずB−O欠陥の存在を無視してFe−Bペア乖離前後の測定値の変化から鉄濃度を求めると、形成されたB−O欠陥の分だけ鉄濃度を高めに算出してしまうことになる。
以上の知見に基づき本発明者らは、Fe−Bペア結合中の測定値、Fe−Bペア乖離中(乖離処理後)の測定値の両方をB−O欠陥存在下で取得すれば、光照射によるB−O欠陥の形成による影響を無視することができるため、より高精度に鉄濃度を測定することができることを見出すに至り、本発明を完成した。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]Fe−Bペア結合中の測定値と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値の違いに基づきボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を測定する方法であって、
測定対象シリコンウェーハに対して光照射を行うことにより該ウェーハに含まれるボロン原子と酸素原子との結合体であるB−O欠陥を形成した後に、前記測定値を求めることを特徴とする、前記測定方法。
[2]前記光照射を、100mW/cm2以上の照射強度で行う、[1]に記載の測定方法。
[3]B−O欠陥形成後のシリコンウェーハを、0〜100℃の温度下に放置した後に、前記測定値を求める、[1]または[2]に記載の測定方法。
[4]前記測定値は、少数キャリア拡散長または再結合ライフタイムである、[1]〜[3]のいずれかに記載の測定方法。
[5]前記測定値を、表面光電圧法または光導電減衰法により求める、[1]〜[4]のいずれかに記載の測定方法。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の測定方法に使用される測定装置であって、
前記測定値を求める測定部と、
B−O欠陥形成のための光照射を行う光照射部と、
前記測定部と光照射部との間で測定対象シリコンウェーハを移動させる移動手段と、
を含むことを特徴とする、前記測定装置。
[7][1〜[5]のいずれかに記載の方法により測定された鉄濃度が記載された品質保証書付きシリコンウェーハ。
[8]複数のボロンドープp型シリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度を測定する工程と、
前記測定により鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷する工程と、を含むボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度測定を、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法によって行うことを特徴とする、前記方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボロンドープp型シリコンウェーハ中の鉄濃度を、実質的にB−O欠陥の影響を受けることなく高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の測定装置の一例を示す。
【図2】SPV法により得られた鉄濃度とホウ素濃度[B]と格子間酸素(Oi)濃度[Oi]の自乗との積[B]*[Oi]2との相関関係を示すグラフである。
【図3】6W/cm2の光照射による少数キャリア拡散長の経時変化を示すグラフである。
【図4】30mW/cm2の光照射による少数キャリア拡散長の経時変化を示すグラフである。
【図5】6W/cm2の光照射後、室温放置中の少数キャリア拡散長の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例1、比較例1で得られた鉄濃度を、ホウ素濃度[B]と格子間酸素(Oi)濃度[Oi]の自乗との積[B]*[Oi]2に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、Fe−Bペア結合中の測定値と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値の違いに基づきボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を測定する方法に関する。本発明の測定方法は、測定対象シリコンウェーハに対して光照射を行うことにより該ウェーハに含まれるボロン原子と酸素原子との結合体であるB−O欠陥を形成した後に、前記結合中、乖離中の測定値を求めることを特徴とするものである。これにより、Fe−Bペア結合中の測定値、Fe−Bペア乖離中の測定値の両方をB−O欠陥存在下で取得することができるため、光照射によるB−O欠陥の形成による影響を実質的に無視することができ、より高精度に鉄濃度を測定することが可能となる。
【0012】
本発明の測定方法は、主に、光照射によってB−O欠陥を形成する工程(以下、「第一工程」ともいう)と、その後にFe−Bペア乖離前後の測定値の違いを求めることにより鉄濃度を算出する工程(以下、「第二工程」ともいう)と、からなる。
以下、上記第一工程、第二工程について、順次説明する。
【0013】
第一工程
光照射により形成されるB−O濃度は、光照射時間が長くなるほど増えていくが、ある時点で濃度の増加が頭打ち(飽和)になり、それ以上光照射を続けてもB−O欠陥の増加がほとんど見られなくなる。測定に対するB−O欠陥形成の影響を効果的に低減するためには、この飽和状態になるまで光照射を行うことが好ましい。飽和状態に達するまでに要する時間は、光の照射強度が大きいほど短くなり、小さいほど長くなる。
なお、B−O欠陥には、形成が速い結合体とゆっくりと形成される結合体の2種類が存在する。これら2種類のB−O欠陥の形成速度については、以下の関係式が成立することが知られている(Karsten Bothea and Jan Schmidt, JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 99, 013701 2006参照)。
【数1】

上記式中、tは光照射時間;N(t)は、光照射 t 秒後のB-O欠陥の濃度;N(t→∞)は、十分に長時間の光照射によってB-O欠陥の増加が頭打ちになった時のB-O欠陥濃度;τgenはB-O欠陥発生の時定数;RgenはB-O欠陥の発生割合であり、Rgen = 1/τgenと定義される;EgenはB-O欠陥の生成エネルギー;kBはボルツマン定数;kB=8.62×10-5eV/K;Tは絶対温度、である。ここで、形成が速い結合体のEgen=0.23eV、遅い結合体のEgen=0.475eVである。上記式中、k0はB−O欠陥の種類に依存せず、光照射の強度やB濃度により決定される。例えば10mW/cm2の光照射下で、ホウ素濃度1×1016atms/cm3の場合、k0=4E3s−1、ホウ素濃度=4×1016atms/cm3ではk0=1E3s−1である。
以上の関係式から、ボロン濃度に基づき光照射条件を決定することができる。または、予備実験を行い光照射条件を経験的に決定することも可能である。本発明者らの検討により、例えば、ボロンドープ量が約1E15〜1E17atms/cm3程度のシリコンウェーハについては、照射強度100mW/cm2で十時間程度、照射強度6W/cm2では15分程度の光照射で飽和状態に達することが確認されている。光の照射強度は、B−O欠陥形成に要する時間が過度に長時間に及ぶことを回避するためには、100mW/cm2以上とすることが好ましく、1W/cm2以上とすることがより好ましい。その上限は特に限定されるものではないが、試料の温度上昇を防ぐという観点からは、100W/cm2以下とすることが好ましい。また、照射する光は、白色光等の高エネルギー光が好ましい。光照射方法は特に限定されるものではなく、例えば、SPV測定装置やμ―PCD法による測定装置に組み込まれている光照射機構を利用することができる。
【0014】
通常、上記光照射によりウェーハ中のFe−Bペアの乖離も起こるため、測定精度をよりいっそう高めるためには、第二工程に付す前のウェーハはFe−Bペアがリペアリング(再結合)するまで放置することが好ましい。リペアリングに要する時間は、ウェーハ中のボロン濃度依存性がある。ボロン濃度に依存するFe−Bペアリング速度については、当分野で多数報告されており、リペアリング速度とホウ素濃度との間には、以下の関係式が成立することが知られている(D. H. Macdonald, L. J. Geerligs, and A. Azzizi, Journal of Applied Physics Vol. 95, No.3, 2004参照)。
【数2】

[式中、NAはホウ素濃度;τassocはFe-B欠陥形成の時定数;kBはボルツマン定数;kB=8.62×10-5eV/°K;Tは絶対温度、である。]
上記式から、ホウ素濃度が1×1016atms/cm3近辺のシリコンは室温(20〜25℃程度)であれば3〜4時間、80℃程度であれば30分〜1時間程度で、ほぼ100%Fe−Bペアに戻ることが確認できる。本発明では、ボロン濃度に依存するFe−Bペアリング速度を考慮して格子間Feがボロンとリペアリングするまでの期間、ウェーハを放置することが好ましい。上記の通りボロン濃度にもよるが、通常、上記放置時間は、30分〜24時間程度とすることが好ましい。なお、光照射で形成されたB−O欠陥はFe−Bペアと比べて安定であり、いったん形成されると、ほとんど乖離せずにウェーハ中に存在する。特に、0℃〜100℃における安定性が高いため、光照射後にウェーハを放置する際の雰囲気温度は0℃〜100℃の間とすることが好ましい。操作の簡便性の点からは、室温(20〜25℃程度)においてウェーハを放置することが、温度制御が不要であるため好ましい。
【0015】
第二工程
本工程は、B−O欠陥形成後のシリコンウェーハについて、Fe−Bペア乖離前後の測定値の違いを求めることにより鉄濃度を算出する工程である。第一工程において既にB−O欠陥を形成しているため、本工程における光照射で起こる現象は、実質的にFe−Bペアの乖離のみである。したがって、B−O欠陥の影響なく(または影響が極めて少ない状態で)、鉄濃度を求めることができる。
【0016】
Fe−Bペア結合中と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値の違い(Fe−Bペア乖離前後の測定値の変化)に基づきシリコンウェーハの鉄濃度を求める方法としては、前述の表面光電圧法および光導電減衰法を挙げることができる。光導電減衰法としては、パルス状の励起光を試料に照射し、キャリアを発生させた後、それらの減衰過程をマイクロ波の反射強度を観測することで、導電率の減衰カーブを求め、ライフタイムを算出するμ−PCD(μ−wave Photo Conductivity Decay)法が好適である。SPV法、光導電減衰法とも、Fe−Bペア乖離前後の測定値の変化が鉄濃度に依存することを利用して、シリコン中の鉄濃度を求める。ここで本発明によれば、B−O欠陥による測定値への影響を排除することにより、従来の方法と比べてより高精度に鉄濃度を測定することが可能となる。
【0017】
本工程におけるFe−Bペア乖離処理は、高強度の白色光等の高エネルギーの光を、測定対象ウェーハに照射することにより行うことができる。より詳しくは、測定対象のシリコンウェーハ表面にシリコンの禁制帯エネルギー1.1eV以上のエネルギーを有する単色光を連続的または断続的に照射することにより、Fe−Bペアを乖離することができる。Fe−Bペアを乖離するための光照射条件(光照射の輝度および照射時間)については、例えば、Lagowski, et.al., Appl. Phys. Lett., Vol.63, p.2902 (1993)等を参照できる。乖離後、Fe−Bペアがリペアリングするまでの間に少数キャリア拡散長(SPV法)または再結合ライフタイム(光導電減衰法)を求める。これにより得られた測定値と、Fe−Bペア結合中、すなわち上記乖離処理前または乖離処理後十分な時間が経過しFe−Bペアがほぼ100%リペアリングした後の測定値との違いは鉄濃度に依存するため、この測定値の変化から測定対象シリコンウェーハに含まれる鉄濃度を求めることができる。表面光電圧法によるおよび光導電減衰法による鉄濃度測定は、いずれも公知の方法で実施することができる。具体的には、例えば前述の特開平6−69301号公報、特開2005−64054号公報等を参照することができる。また、SPV法については、JEITA規格「JEITA EM-3511表面光起電力法を利用したp型シリコンウェーハ中のFe濃度測定法」も参照できる。
【0018】
以上説明したように、本発明の測定方法によれば、Fe−Bペア結合中、乖離中の両測定値をB−O欠陥存在下で取得することができるため、両測定値の違いに対するB−O欠陥形成の影響を実質的になくすことができる。これにより、B−O欠陥による影響を含む従来の測定方法と比べて、より高感度な鉄濃度測定が可能となる。ホウ素ドープp型シリコンウェーハとしては、ホウ素(ドーパント)濃度が1019atms/cm3程度であり、抵抗率が1〜10mΩ・cm程度であるシリコンウェーハ(いわゆるp++ウェーハ)、ホウ素濃度が1016〜1019atms/cm3程度であり、抵抗率が10mΩ・cm超〜1000mΩ・cm程度であるシリコンウェーハ(いわゆるp+ウェーハ)、ホウ素濃度が1016atms/cm3以下であり、抵抗率1Ω・cm超程度であるシリコンウェーハ(いわゆるp-ウェーハ)があるが、本発明の測定方法は、上記ウェーハのいずれにも適用可能である。また、本発明は、測定値に対してB−O欠陥形成が影響を及ぼすことを防ぐことができるため、B−O欠陥が多く形成されやすいウェーハ、すなわち格子間酸素を比較的多く含むウェーハに対して適用することが好ましい。この点からは、本発明は、格子間酸素濃度が1×1018atoms/cm3以上(旧ASTM)のシリコンウェーハへの適用に適する。ただし、格子間酸素濃度が少ないウェーハであっても鉄汚染量が少ない高清浄度なウェーハでは、従来の方法では鉄濃度の測定値に対するB−O欠陥形成の影響が大きい分、測定精度が低下することになる。この点からは、B−O欠陥形成の影響を受けやすい、鉄濃度が低い(例えば鉄濃度が9乗台以下の)ウェーハであって、1×1018atoms/cm3未満(旧ASTM)のウェーハに対しても、本発明の適用が有効である。
【0019】
更に本発明は、本発明の測定方法に使用される測定装置であって、Fe−Bペア結合中の測定値と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値を求める測定部と、B−O欠陥形成のための光照射を行う光照射部と、前記測定部と光照射部との間で測定対象シリコンウェーハを移動させる移動手段と、を含む測定装置にも関する。本発明の測定装置を用いることにより、本発明の測定方法の自動化が可能となるため、複数のシリコンウェーハを連続的に測定に付すことができる。また、測定部と光照射部を別構成とすることにより、あるシリコンウェーハについてFe−Bペア乖離前後の測定値を求めている間に、他のシリコンウェーハに対してB−O欠陥形成のための光照射を行うことができるため、複数のウェーハを並行して迅速に処理することが可能となる。
【0020】
本発明の測定装置における測定部、光照射部については、先に説明した通りである。例えば、SPV測定装置を2台設置し、一方を測定部、他方を光照射部として装置組み込みの光照射機構によりB−O欠陥形成のための光照射を行うことができる。測定部と光照射部との間で測定対象シリコンウェーハを移動させる移動手段としては、ベルトコンベア、ロボットアーム等を用いることができる。また、必要に応じて、測定部、光照射部以外に、ウェーハ待機部(例えばチャンバーやボックス)を設け、上記移動手段により測定部または光照射部からウェーハ待機部に、ウェーハを移動させてもよい。このウェーハ待機部は、B−O欠陥形成のための光照射後にウェーハを放置しFe−Bペアをリペアリングさせる空間として利用することもできる。そのような装置の一例を、図1に示す。図1中、SPV測定装置が測定部、光照射用ボックスが光照射部、保管用ボックスがウェーハ待機部に相当する。各部間のウェーハの移動は、中央部に配置したウェーハハンドリングロボットによって行うことができる。
【0021】
更に本発明は、本発明の測定方法により測定された鉄濃度が記載された品質保証書付きシリコンウェーハに関する。本発明の測定方法による測定値(鉄濃度)が記載された品質保証書付きのシリコンウェーハは、B−O欠陥の影響が低減ないし解消された信頼性の高い測定値により品質が保証されたものであるため、高い信頼性をもって、デバイス作製等の各種用途に使用することができる。上記品質保証書は、例えば、シリコンウェーハのパッケージ表面に貼り付ける等の手段により、シリコンウェーハとともにユーザーに提供されるものである。
【0022】
更に本発明は、複数のボロンドープp型シリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度を測定する工程と、前記測定により鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷する工程と、を含むボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法に関する。本発明の製造方法では、前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度測定を、本発明の測定方法によって行う。
【0023】
前述のように、本発明の測定方法によれば、シリコンウェーハ中の鉄濃度を、B−O欠陥の影響を低減ないし解消して高精度に測定することができる。よって、かかる測定方法により、鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハ、即ち鉄汚染量が少ない良品と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することにより、高品質な製品ウェーハを高い信頼性をもって提供することができる。なお、良品と判定する基準(閾値)は、ウェーハの用途等に応じてウェーハに求められる物性を考慮して設定することができる。また1ロットに含まれるウェーハ数および抽出するウェーハ数は適宜設定すればよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、以下に記載のホウ素濃度は4探針法で求めた抵抗率から換算した値であり、格子間酸素濃度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により求めた値(旧ASTM)である。
【0025】
1.B−O欠陥形成の測定値への影響の確認
ホウ素濃度および酸素濃度が異なり、鉄の混入がほぼ同レベルと見なせる条件で製作したCZシリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)に対し、少数キャリア拡散長測定装置として、表面光電圧(SPV)測定装置(SDI社製FAaST330−SPV)を用いて、ウェーハ裏面でのキャリアの再結合を考慮した測定モードでSEMI準拠のスタンダードモードで各シリコンウェーハ中の鉄濃度を測定した。Fe−Bペア乖離処理は、装置組み込みの光照射機構により6W/cm2の照射強度で2分間行った。測定前に、5質量%のHF溶液にシリコンウェーハを5分間浸漬し自然酸化膜を除去し、その後10分間の超純水リンスを行い、乾燥後、クリーンルーム内雰囲気に1週間放置し、測定の前処理とした。
太陽電池の分野では、B−O欠陥の発生量はホウ素濃度に比例し、格子間酸素(Oi)濃度の自乗に比例することが報告されているため、SPV法により得られた鉄濃度を、ホウ素濃度[B]と格子間酸素(Oi)濃度[Oi]の自乗との積[B]*[Oi]2に対してプロットしたグラフを、図2に示す。
【0026】
図2から、測定された鉄濃度(見かけ上の鉄濃度)は[B]*[Oi]2ときわめて強い相関があることが確認できる。このことは、従来のSPV法で鉄濃度測定を行うと、B−O欠陥の発生によって鉄濃度を高めに見積もってしまうことを意味する。このB−O欠陥の影響は、鉄濃度が低いウェーハほど顕在化するため、例えば鉄濃度が9乗台以下の高清浄度ウェーハでは、測定値に対するB−O欠陥形成の影響は無視できないほど大きくなると考えられる。特に、鉄濃度が低くホウ素濃度が高いウェーハ(例えばホウ素濃度が1×1016/cm3近辺またはそれ以上)では、SPV値の測定値はB−O欠陥の発生を見ているに過ぎないという結果になるおそれがある。
【0027】
2.光照射によるB−O欠陥の形成
Feが微量混入した、ホウ素濃度が1.2×1016atms/cm3、格子間酸素濃度が1×1018atms/cm3のp型シリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)表面に対して、上記1.と同様にSPV測定装置組み込みの光照射機構により6W/cm2の照射強度で白色光を連続的に照射した後、上記1.と同様の方法で少数キャリア拡散長を求めた。光照射と少数キャリア拡散長の測定を、時間を置かず交互に繰り返した結果を図3に示す。
上記光照射によりB−O欠陥形成のほかにFe−Bペアの乖離も起こるが、上記照射強度ではFe−Bペアの乖離は1〜2分程度で完了するので、図3中のFe−Bペア乖離完了後の拡散長低下は、もっぱらB−O欠陥形成による影響である。照射を15分程度続けると少数キャリア拡散長の低下は緩やかになっていることから、本照射強度では15分以上光照射すればB−O欠陥形成を飽和状態にできることが確認できる。
上記と同様の操作を、白色光の照射強度を30mW/cm2に変更して得られた結果が、図4である。図4で照射時間10時間程度で少数キャリア拡散長の低下が緩やかになっていることから、本照射強度では、10時間以上光照射すれば、B−O欠陥の形成を飽和状態にできることが確認できる。
【0028】
3.B−O欠陥安定性の確認
Feが微量混入した、ホウ素濃度が1.2×1016/cm3、格子間酸素濃度が1×1018/cm3のp型シリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)表面に対して、上記2.と同様に6W/cm2の白色光を15分間照射した。この光照射によりB−O欠陥が生じて少数キャリア拡散長が低下したシリコンウェーハを、室温(約25℃)で約3日間放置した。
図5は、上記室温放置初期のシリコンウェーハの少数キャリア拡散長を示している。ここでの少数キャリア拡散長の測定は、上記1.と同様の方法で行った。図5中、少数キャリア拡散長の変化はほとんど見られないことから、一度発生したB−O欠陥は、室温で安定であることが確認できる。なお、ここで使用したシリコンウェーハはきわめて清浄度が高くFe汚染はわずかであると考えられる。そのため、Fe−Bペアへの再結合に伴う少数キャリア拡散長の変化は殆ど見受けられない。
【0029】
[実施例1]
ホウ素濃度が1×1015〜1×1016atms/cm3の範囲、格子間酸素濃度が1×1018〜1.5×1018atms/cm3の範囲で異なる複数のp型シリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)の鉄濃度を、以下の方法で求めた。
(1)各シリコンウェーハに対して6W/cm2の照射強度で白色光を15分間照射し、B−O欠陥の形成を飽和させた。
(2)上記(1)後の各シリコンウェーハを室温(25℃)で3時間放置しFe−Bペアをリペアリングした。
(3)その後、前述の1.と同様の方法で乖離処理前後の少数キャリア拡散長を求めた後、以下の式により鉄濃度を算出した。
【数3】

[式中、[Fe]はFe濃度(/cm3)であり、L1は乖離処理前(Fe−Bペア結合中)の少数キャリア拡散長(μm)、L2はFe−Bペア乖離処理後(乖離中)の少数キャリア拡散長(μm)であり、係数Cは、通常採用される1×1016μm2cm-3の値を用いた。]
【0030】
[比較例1]
ホウ素濃度が1×1015〜1×1016atms/cm3の範囲、格子間酸素濃度が1×1018〜1.5×1018atms/cm3の範囲で異なる複数のp型シリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)を、上記(1)、(2)の操作を行わず上記(3)の測定に付すことにより、鉄濃度を求めた。
【0031】
得られた鉄濃度を、ホウ素濃度[B]と格子間酸素(Oi)濃度[Oi]の自乗との積[B]*[Oi]2に対してプロットしたグラフを、図6に示す。
実施例1、比較例1で使用したシリコンウェーハは、ホウ素濃度および格子間酸素濃度は異なるが、ほぼ同様のクリーン度で製造されたものであるため、鉄濃度は同レベルである。図6に示すように、比較例1では、ホウ素濃度・格子間酸素濃度が高いウェーハ([B]*[Oi]2の大きいウェーハ)ほど鉄濃度が高く算出されているのに対し、実施例1では算出された鉄濃度は、ホウ素濃度・格子間酸素濃度にかかわらず、ほぼ同じ値であった。
以上の結果から、比較例1では見かけ上の鉄濃度に対してB−O欠陥の形成が支配的であったのに対し、実施例1ではB−O欠陥形成の影響を排除し、より正確な鉄濃度が求められたことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の測定方法は、シリコンウェーハの品質管理のために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Bペア結合中の測定値と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値の違いに基づきボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を測定する方法であって、
測定対象シリコンウェーハに対して光照射を行うことにより該ウェーハに含まれるボロン原子と酸素原子との結合体であるB−O欠陥を形成した後に、前記測定値を求めることを特徴とする、前記測定方法。
【請求項2】
前記光照射を、100mW/cm2以上の照射強度で行う、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
B−O欠陥形成後のシリコンウェーハを、0〜100℃の温度下に放置した後に、前記測定値を求める、請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記測定値は、少数キャリア拡散長または再結合ライフタイムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
前記測定値を、表面光電圧法または光導電減衰法により求める、請求項1〜4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法に使用される測定装置であって、
前記測定値を求める測定部と、
B−O欠陥形成のための光照射を行う光照射部と、
前記測定部と光照射部との間で測定対象シリコンウェーハを移動させる移動手段と、
を含むことを特徴とする、前記測定装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により測定された鉄濃度が記載された品質保証書付きシリコンウェーハ。
【請求項8】
複数のボロンドープp型シリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度を測定する工程と、
前記測定により鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷する工程と、を含むボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度測定を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって行うことを特徴とする、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−243784(P2011−243784A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115209(P2010−115209)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】