説明

ボロン繊維強化金属基複合材料及びその製造方法

【課題】製造過程での強化繊維のダメージを少なくし、品質の優れたボロン繊維強化金属基複合材料を提供する。
【解決手段】本発明によるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法は、所定の厚さの複数の金属箔1の間に、所定の直径を有する複数のボロン繊維2を並べてチタン箔とボロン繊維とを組み合せてプリフォーム体を作成し、前記プリフォーム体を、所定の圧力を加えた状態で、所定の真空雰囲気下で、所定の昇温速度で昇温して343℃ないし1501℃の範囲で恒温保持するように所定の時間の間、所定の電圧及び電流の直流パルス電流(又は直流パルス電流と直流電流の重畳電流)を流して接合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法及びその方法により製造された複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ボロン(B)繊維は低比重(2.57Mg/m)及び高い引張強度を有し、耐熱性にも優れ、更に圧縮強度(6.9GPa)が引張強度の2倍程度を有することから、金属基複合材料の強化繊維として従来から注目されてきた。しかしながら、ボロン繊維を強化繊維とする金属基複合材料については、これまで、成形済みのものが板やロッドの形状で市販されているものの、その成形方法については明らかにされていなかった。また、市販のボロン繊維強化チタン基複合材料に対して、組織観察や機械的性質の評価を行った例は、少ないながらいくつか報告されているが、それらの組織観察の結果によれば、成形方法は従来から行われている拡散接合法によるものと推測されているものの(その理由は、チタン(Ti)とボロン(B)及びチタン同士を隙間なく密着させるためには、それらの金属の原子を相互拡散で接合させる必要があり、それらの金属原子が相互拡散を起こす1273K(1000℃)付近の温度で数時間(2〜3時間)程度の加熱圧縮成形が必要と考えられるからである。)、成形条件は明らかになっていない。また、機械的性質の評価結果によれば、耐力(降伏応力とも言う)の実測値は複合則による計算値の45%程度しか満足していないことが判明した。ここで、複合則による計算値とは、次式
σcy = σfy×V + σmy×V
(但し、σcyは複合材料の耐力、σfyは繊維(この場合ボロン)の耐力、Vは繊維の体積分率(Vol.%)、σmyはマトリックス金属(この場合Ti)の耐力、Vはマトリックス金属の体積分率(Vol.%)である。)
により計算して得られた値である。
【0003】
上記のように計算値の45%程度しか満足していない理由は、従来の拡散接合のプロセッシング技術に起因するものと思われるためである。すなわち、従来の拡散接合法では、チタン箔とボロン繊維の組合せ体(複数のチタン箔の間に複数のボロン繊維を所定の間隔で配列したチタン(以下Ti)箔とボロン繊維の組合せ体で、以下プレフォーム体と呼ぶ)が高温で長時間加熱保持されるため、第1にはボロン繊維とTiマトリックス(ここで、Tiマトリックスとは拡散接合で成形された複合材のTiにより構成される部分を言う)との界面に、脆弱なTiBが形成され、界面での応力伝達効率が低下するためであり、第2には高温にさらされたボロンの結晶化により繊維そのものの強度が低下するためである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そもそも、複合材料の発想は、あまり強くない(耐力が10〜50kg/mm2)が、軽い金属(Al、Mg、Ti等)中に、そのマトリックス金属の強さを遥かに凌ぐとてつもなく強い繊維(耐力が、300〜400kg/mm2)を埋め込んで、軽くて強い材料を作ろうとするのが目的である。しかしながら、強化繊維は、値段の高いものが多いので、繊維体積分率(複合材料中で繊維がしめる体積の割合)は低い値の方が良いということになる。それ以外にも、強化繊維というのは、強いが脆い物が多い。従って、入れすぎると、たとえ、AlやTiのように粘りのある材料をマトリックス金属として選んだ場合でも、複合化したとき脆くなる。出来れば、強さと粘りを両立したい。そのためにも、少ない繊維体積分率で強度を確保したい。 ところが、従来の拡散接合法のように、複合化処理中に繊維が高温に長時間さらされるとダメージを受けて劣化するため、複合材料の強度確保のため、粘りをやや犠牲にしてでも多くの繊維を埋め込まねばならない。そのことが、複合材料のコスト高や脆化を招くことになる。
【0005】
本発明は、かかる従来の拡散接合法により形成されたボロン繊維強化チタン基複合材料の上記のような問題点に鑑み成されたものであって、その目的とするところは、パルス通電加圧焼結法の原理を利用したパルス通電圧接法を利用することによって、製造過程での強化繊維のダメージを少なくし、品質の優れたボロン繊維強化金属基複合材料を製造する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、パルス通電圧接法を利用すると共に接合時の条件、特に、恒温保持温度を制御することにより品質の優れたボロン繊維強化金属基複合材料を製造する方法を提供することである。
本発明の別の目的は、上記方法により製造されたボロン繊維強化金属基複合材料を提供することである。
【0006】
請求項1の発明によれば、ボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法であって、
所定の厚さの複数のチタン箔の間に、所定の直径を有する複数のボロン繊維を並べてチタン箔とボロン繊維とを組み合せてプリフォーム体を作成し、
前記プリフォーム体を、所定の圧力を加えた状態で、所定の真空雰囲気下で、所定の昇温速度で昇温して343℃ないし1501℃の範囲で恒温保持するように所定の時間の間、所定の電圧及び電流の直流パルス電流(又は直流パルス電流と直流電流の重畳電流)を流して接合することを特徴とするボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法が提供される。
この発明によれば、短時間で低い繊維体積分率でも強度の強いボロン繊維強化金属基複合材料を製造できる。
【0007】
上記発明において、前記チタン箔の厚さは、好ましくは、1μmないし2000μmであってもよく、より好ましくは、10μmないし1000μmであってもよい。
また、上記発明において、前記ボロン繊維の直径は、好ましくは、5μmないし1000μmであってもよく、より好ましくは、15μmないし500μmであってもよい。
更に、上記発明において、前記恒温保持する時間は、好ましくは、5秒ないし7200秒(120分)であってもよく、より好ましくは、10秒ないし3600秒(60分)であってもよい。
更にまた、上記発明において、前記所定の真空雰囲気は、好ましくは、100Pa以下であってもよく、より好ましくは、10Paであってもよい。
また、前記昇温速度は、好ましくは、0.1℃/s(0.1K/s)ないし8.3℃/s(8.3K/s)であってもよく、より好ましくは、0.5℃/s(0.5K/s)ないし2.5℃/s(2.5K/s)であってもよい。
上記発明において、前記金属箔がチタン箔である場合、前記所定の圧力が、好ましくは1kPaないし700MPaであり、より好ましくは、2.5kPaないし100MPaであってもよい。
上記発明において、前記金属箔がアルミニュウム箔である場合、前記所定の圧力が、1kPaないし400MPaであり、より好ましくは2.5kPaないし100MPaであってもよい。
また、上記発明において、前記金属箔がチタン箔である場合、前記恒温保持する温度が、好ましくは490℃ないし1501℃であり、より好ましくは、490℃ないし841℃であってもよい。
また、上記発明において、前記金属箔がアルミニュウム箔である場合、前記恒温保持する温度が、好ましくは、343℃ないし660℃であり、より好ましくは、343℃ないし594℃であってもよい。
請求項13に記載の発明によれば、上記方法で製造されたボロン繊維強化金属基複合材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下図面を参照して本発明によるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法について説明する。
まず、所望の大きさ及び厚さの金属箔を複数枚(本実施形態では2枚)と、所望の太さのボロン繊維を複数本用意する。用意された金属箔及びボロン繊維は、図1[A]に示されるように、2枚の金属箔1の間に複数のボロン繊維2が所定の間隔でかつ互いに略平行になるようにして、互いに重ね合わせて金属箔とボロン繊維の組合せ体(以下、プレフォーム体と呼ぶ)3をつくる。ここで、金属箔の大きさは、製造する複合材の大きさに合わせた大きさでよいが、現時点では、パルス通電圧接法で処理可能な5mm×15mmないし50mm×120mmの範囲の大きさが好ましい。しかし、将来的により大きなサイズのものでもパルス通電圧接法が適用可能になった場合にそのようなサイズのものでもよい。また金属箔の厚さは、金属の種類或いは用いるボロン繊維の直径により異なるが、好ましくは1μmないし2000μmであり、より好ましくは、10μmないし1000μmであり、チタン箔及びアルミニュウム箔でも同じである。その理由は、厚さが上記範囲より薄いと、成形中にチタン箔にきれつが生じボロン繊維同士の接触を招くからであり、また厚すぎると、成形中にチタンがボロン繊維の周囲に十分回り込めず、材料中に未接合部分を残存することとなる為である。チタン箔の最も好ましい厚さは20μmないし500μmである。その理由は、この範囲内であれば、薄すぎるときに生ずると考えられる、プリフォーム作成時のTi箔のしわの発生による繊維平行配列の乱れや、等間隔で平行配列した繊維の、成形中での間隔のみだれをふせぐことができるからである。また、厚すぎるときに生ずると考えられる、昇温中に低温域で荷重を負荷した場合に発生し易い繊維そのものの破損も防げるからである。さらに、市場で容易に用意に入手可能だからである。アルミニュウム箔の最も好ましい厚さは20μmないし500μmである。
ボロン繊維の直径は、用いるチタン箔の厚さにより異なるが、好ましくは5μmないし1000μmであり、より好ましくは、15μmないし500μmである。その理由は、繊維直径が上記範囲よりも小さいと、成形中の繊維の破断を招くからであり、また大きすぎると、材料中でのボロン繊維同士の接触や、成形中のチタンの塑性変形による繊維周囲への回り込み不足により、材料中への未接合部分の残存を来すこととなるからである。更に、ボロン繊維の直径の最も好まし範囲は、75μmないし150μmである。その理由は、これより細すぎると、高温域で短時間で劣化し易いからであり、これより太すぎると、室温においてプリフォーム作成時に破損し易いからである。さらに、市場で容易に用意に入手可能なことも理由である。
【0009】
このように形成されたプリフォーム体3を、図2[B]及び[C]に示される円筒状のグラファイト(又は導電性セラミック)製のダイ5内で上下のパンチ6及び7の間に装入する。この場合、ダイが円筒状で内面形状が円形であるのに対してプリフォーム体の平面形状が四角形であるので、公知の分割式のジグ8をダイ5内に装着してダイ内の空間の平面形状をプリフォーム体の形状に合わせてある。このようにしてプリフォーム体3が装入されたダイ5及びパンチ6,7を、図2[A]に示されるように、パルス通電加圧接合装置10の真空チャンバ11内で一対の通電加圧電極12及び13の間に、パンチ6及び7の外端が通電加圧電極12及び13の対応する端部にそれぞれ接触するように、セットする。このパルス通電加圧接合装置10は、放電プラズマ焼結法又はパルス通電加圧焼結法(プラズマ活性化焼結法又は放電焼結法とも呼ばれる)の原理を応用した加圧接合装置であるが、市販の放電プラズマ焼結装置(例えば住友石炭鉱業(株)製、Dr.Sinter)を使用してもよい。セットした後、真空チャンバ11内を所定の真空度の雰囲気に保ち、パルス通電加圧接合装置10の加圧装置15により一対の通電加圧電極12、13を介してプリフォーム体3を所定の範囲の圧力を加えた状態の下で、電源装置16から通電電極に所定の電圧、電流の直流パルス電流(直流電流と直流パルス電流との重畳電流でもよい)を流す。
【0010】
上記所定の真空状態とは、好ましくは、100Pa以下の真空度、より好ましくは、10Pa以下の真空度を言う。その理由は、真空状態が100Paを超えると、マトリックス金属及びボロンの成形中における急速酸化が起こり、マトリックス金属及びボロン共に大きな損傷を受ける虞があるからである。また10Pa以下の真空度を保つことにより、金属箔としてのTi箔の酸素吸収による脆化をほとんど防止でき、また金属箔としてのAl箔表面の酸化によるAl/B接合強度の低下を避ける事が出来るからである。
所定の圧力とは、マトリックスとして用いる金属の種類によっても異なるが、Tiを用いた場合、好ましくは、1kPaないし700MPa、より好ましくは、2.5kPaないし100MPaであり、Alを用いた場合、好ましくは、1kPaないし400MPa、より好ましくは、2.5kPaないし100MPaである。その理由は、いずれも、圧力が上記範囲より低いと成形後の複合材料中に未接合部分が残存することとなるからであり、また高すぎるとカーボン(グラファイト)又は導電性セラミックのダイの破損、もしくは、材料のパンチとダイとの間の隙間への侵入が起こるからである。Alの好ましい上限値がTiの好ましい上限値より小さいのは、Alは加工硬化したときの耐力がTiよりも小さいためである。
更に、直流電圧は、好ましくは0.1Vないし10.0Vであり、直流パルス電流は、マトリックス金属の種類及びプリフォーム体の厚さ並びにプリフォーム体の圧接に必要な昇温速度によって異なるが、Ti或いはAlの場合、好ましくは、1Aないし30000A、より好ましくは50Aないし25000Aである。その理由は、その電流値が上記範囲より低すぎると、放電不十分による材料中の未接合部分の残存が発生することとなるからであり、高すぎると材料製造中の部分的溶融によるポアの材料中への残存を来すこととなるからである。
【0011】
上記のように直流パルス電流を流すと、プリフォーム体は昇温し始める。温度が所定の値になったら、その温度(恒温保持温度)を所定の時間(恒温保持時間)保持するように、通電加圧電極を通して流すパルス電流を調節する。プリフォーム体の温度はプリフォーム体に近接して設けた温度センサによって測定しても、公知の間接的に測定する温度センサでもよい。
昇温速度は、マトリックス金属の種類によって異なるが、Ti或いはAlを用いた場合、好ましくは、0.1K/sないし8.3K/s、より好ましくは、0.5K/sないし2.5K/sである。その理由は、その昇温速度が上記範囲より低すぎると、放電不十分により材料表面が十分活性化されず、接合強度の低下や材料中の未接合部分の残存が発生することとなるからであり、高すぎると材料製造中の部分的溶融によるポアの材料中への残存を来すこととなるからである。
【0012】
また上記恒温保持温度は、マトリックス金属の種類によって異なるが、好ましくは、マトリックス金属の融点の90%の温度よりも低く、80%の冷間加工を受けたマトリックス金属の再結晶温度より高い温度範囲、より好ましくは、ボロン繊維/マトリックス界面反応層形成に必要な最低温度と、W芯線近傍のボロンが結晶化し始める最低温度の両方の温度よりも低く、80%の冷間加工を受けたマトリックス金属の再結晶温度より高い温度範囲である。その理由は、温度がこの範囲より低いと、成形中のマトリックス金属の軟化不足により、材料中の未接合部分の残存が発生することとなるからである。また、温度がこの範囲より高いと、高温で極端に軟化したマトリックス金属の塑性流動によるパンチとダイとの間の隙間への侵入、繊維/マトリックス界面における脆弱な反応層の形成による複合材料の強度低下、ボロンの結晶化による繊維そのものの強度低下、等が起こるからである。
また、マトリックス金属がチタンであり、強化繊維がタングステン(W)芯線を有するボロンである場合には、真空度、圧力、昇温速度は前記の範囲でよいが、恒温保持温度範囲は、好ましくは490℃ないし1501℃であり、より好ましくは、490℃ないし841℃であり、最も好ましくは、490℃ないし814℃である。ここで、最低温度に変化がないのは、荷重を70kg/mm(700MPa)に設定すれば、80%の冷間加工を受けたTi箔の場合でも密着成形は可能だからである。
一方、マトリックス金属がAlであり、強化繊維がW芯線を有するボロンである場合には、真空度、圧力、昇温速度は前記の範囲でよいが、恒温保持温度範囲は、好ましくは343℃ないし660℃であり、より好ましくは、343℃ないし594℃である。
接合が完了した後、通電を停止し、加圧装置による加圧を解除する。
【0013】
マトリックス金属としてTiを用いた上記恒温保持温度の範囲を限定したより詳細な理由は以下の通りである。
タングステンの融点は3410℃、ボロンの融点は2300℃程度であるが、純Tiの融点が1668℃である。但し、融点ギリギリでは使用できないので、ダイとパンチの間に侵入しないギリギリの強度を保つ温度ということで、最高温度は、Tiの融点の90%を採用して1501℃となる。次に最低温度は次のようにして決まる。すなわち、Tiの耐力は、加工されることにより上昇する。加工なしで20kg/mm(200MPa)、冷間加工率20%で40kg/mm(400MPa)の耐力、40%で53kg/mm(530MPa)、60%で65kg/mm(650MPa)、80%で70kg/mm(700MPa)、という風に冷間加工率の上昇で耐力は、大きく向上する。さて、パルス通電圧接法による成形中には、Ti箔の塑性変形をともないながらボロン繊維とTi箔の複合化が進行する。従って、あまり低温で成形すると、Ti箔がボロン繊維及びTi箔と完全に密着しないうちにTi箔が硬化して途中でTi箔の変形が止まってしまう恐れがある。それを避けるには、Tiの再結晶温度以上で成形する必要がある。冷間加工により加工硬化した金属材料はその材料の有する再結晶温度以上に加熱されることにより加工前に近い硬さに戻すことが出来る。Tiの再結晶温度は、冷間加工率25%で600℃(873K)、50%で540℃(813K)、80%で490℃(763K)である。以上から、最低温度は、490℃(763K)となる。
次に好ましい温度範囲であるが、これは、TiとBの界面反応層の厚さ、および、ボロン繊維のW芯線近傍の結晶化によるクラック発生部分の厚さの2点から考察する必要がある。
まず、Ti/B界面反応層であるTiB層の厚さは、900℃(1173K)で成形した場合、2.4μm、1000℃(1273K)で成形した場合、5.2μmである。形成される界面反応層の厚さは、成形温度の上昇と共に直線的に増大すると考えられるので、Ti/B界面反応層であるTiBの層の厚さΔTiBは次式(1)で表すことが出来る。
ΔTiB=0.028T−22.8(μm) ------------(1)
ここで、Tは成形温度(℃)
ΔTiB>0という境界条件の上で、(1)式より、脆弱なTiB層を形成しない臨界温度は814℃と計算できる。
次に、W芯線周りの結晶化部分の厚さであるが、これも写真より、900℃(1173K)で成形した場合、3.7μm、1000℃(1273K)で成形した場合、10μmである。この場合も前述と同様の直線関係が成立するため、結晶化部分の厚さΔCは次式(2)であらわされる。
ΔC=0.063T−53(μm) ----------(2)
ここで、Tは成形温度(℃)
ΔC>0という境界条件の上で、(2)式より、ボロン層の結晶化を引き起こさない臨界温度は、841℃と計算できる。
また、マトリックス金属としてAlを用いた上記恒温保持温度の範囲を限定したより詳細な理由は以下の通りである。
ボロン繊維において、タングステンの融点は3410℃、ボロンの融点は2300℃程度であるが、純Alの融点は660℃である。但し、融点ギリギリでは使えないので、ダイとパンチの間に侵入しないギリギリの強度を保つ温度ということで、最高温度は、Alの融点の90%である594℃である。次に最低温度は、次のようにして決まる。すなわち、Alの耐力もTi同様加工されることにより上昇する。加工なしでは20MPa程度であるが、冷間加工率80%で400MPa程度に上昇する。さて、パルス通電圧接法による成形中には、Al箔の塑性変形をともないながらボロン繊維とAl箔の複合化が進行する。従って、あまり低温で成形すると、AL箔がボロン繊維及びAl箔と完全に密着しないうちにAl箔が硬化して途中でAl箔の変形が止まってしまう恐れがある。それを避けるには、Alの再結晶温度以上で成形する必要がある。冷間加工により加工硬化した金属材料はその材料の有する再結晶温度以上に加熱されることにより加工前に近い硬さに戻すことが出来ます。Alの再結晶温度は、冷間加工率80%で343℃である。以上から、最低温度は、343℃となる。
次に好ましい温度範囲であるが、これは、AlとBの界面反応層形成温度、および、W芯線近傍の結晶化によるクラック発生部分の厚さの2点から考察する必要がある。まず、AlとBの界面反応層形成温度は659℃でほぼAlの融点に等しくなります。また、W芯線近傍の結晶化温度は、Tiマトリックスの場合に述べたとおり、841℃である。したがって、恒温保持温度の範囲は、好ましくは、343℃〜659℃(Alが溶けず、ボロンの結晶化が起こらず、Al/B界面反応層を形成しない。)より好ましくは、343℃〜594℃(Allが溶けず、ボロンの結晶化が起こらず、Al/B界面反応層を形成せず、ダイとパンチの隙間にAlが侵入しない。)
なお、最低温度に変化がないのは、荷重を400MPaに設定すれば、80%の冷間加工を受けたAl箔の場合でも密着成形は可能だからである。
【0014】
上記パルス通電圧接は次のような過程を経て進行し、最終製品であるボロン繊維強化金属基複合材料が得られる。すなわち、図1[B]に示されるように、所定の圧力を加えた状態で直流パルス電流を流すと、ボロンと金属箔(本実施形態の場合Ti箔又はAl箔)及び金属箔同士の隙間で火花放電しながら接合が進行する。火花放電の生じた場所は、局所的な高温状態となるため、ボロン繊維及びマトリックス金属(Ti又はAl)の表面部分で、局所的な、溶融、蒸発、凝縮が繰り返し起こり、接合部分の塑性変形とあいまって、急速に接合が進行する。すなわち、パルス通電圧接法の場合、ボロン繊維内部、及び、Ti箔内部は、さほど加熱されないのに、火花の飛んでいる表面付近だけが極端に加熱されるという、試料内部での温度分布が生じる。そのために、ボロン繊維や金属箔そのものにダメージを与えずに成形することが可能となる。そして、最終的には図1[C]に示されるようなボロン繊維強化金属基複合材料4が得られる。
【実施例1】
【0015】
長さ(又は縦)65mm、幅(又は横)20mm、厚さ40μmのチタン(Ti)(99.5at%)箔11枚と、直径100μmのボロン繊維400本とを用意し、Ti箔とボロン繊維複数本(40本)ずつとを交互に積み重ねた。Ti箔同士の隙間にはボロン繊維複数本(40本)をを図1[A]に示されるように互いに略平行になるように並べ、プリフォーム体を形成した。なお、プリフォーム体とは、この明細書の説明においては、単に積み重ねた或いは重ね合わせただけの状態を言う。このプリフォーム体の寸法は、長さが65mm、幅が20mm、厚さが1.44mmであった。このプリフォーム体を汎用型グラファイトダイ中にセットし、放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業(株)製SPS 1020)を用いて、昇温速度1.7K/s、恒温保持時間600秒(s)、真空度2Paの条件でパルス通電圧接を行った。この場合、恒温保持温度は800℃(1073K)の条件で行った。測温はK型熱電対をグラファイトダイ内に挿入し、試料体側面から5mmの位置のダイ温度を測定することによって行った。加圧力は32MPaとした。また、パルス通電の電圧は2.5Vで、昇温時における直流パルス電流は2000A、恒温保持中の電流は1400Aであった。
【実施例2】
【0016】
長さ(又は縦)65mm、幅、(又は横)20mm、厚さ40μmのチタン(Ti)(99.5at%)箔11枚と直径100μmのボロン繊維800本とを用意し、Ti箔とボロン繊維複数本(80本)ずつを交互に積み重ねた。Ti箔の箔同士の隙間には、ボロン繊維複数本(80本)を図1[A]に示されるように互いに平行になるように並べ、プリフォーム体を形成した。なお、プリフォーム体とは、実施例1と同じ意義である。このプリフォーム体の寸法は、長さが65mm、幅が20mm、厚さが1.44mmであった。このプリフォーム体を汎用型グラファイトダイ中にセットし、放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業(株)製SPS 1020)を用いて、昇温速度1.7K/s、恒温保持時間600秒(s)、真空度2Paの条件でパルス通電圧接を行った。この場合、恒温保持温度は800℃(1073K)の条件で行った。測温はK型熱電対をグラファイトダイ内に挿入し、試料体側面から5mmの位置のダイ温度を測定することによって行った。加圧力は32MPaとした。また、パルス通電の電圧は2.5Vで、昇温時における直流パルス電流は2000A、恒温保持中の電流は1400Aであった。
【実施例3】
【0017】
長さ(又は縦)65mm、幅(又は横)20mm、厚さ40μmの純アルミニュウム(Al)(99.7at%)箔11枚と、直径100μmのボロン繊維400本とを用意し、Ti箔とボロン繊維複数本(40本)ずつとを交互に積み重ねた。Al箔同士の隙間にはボロン繊維複数本(40本)を図1[A]に示されるように互いに略平行になるように並べ、プリフォーム体を形成した。なお、プリフォーム体とは実施例1と同じ意義である。このプリフォーム体の寸法は、長さが65mm、幅が20mm、厚さが1.44mmであった。このプリフォーム体を汎用型グラファイトダイ中にセットし、放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業(株)製SPS 1020)を用いて、昇温速度1.7℃/s(1.7K/s)、恒温保持時間600秒(s)、真空度2Paの条件でパルス通電圧接を行った。この場合、恒温保持温度は500℃(773K)の条件で行った。測温はK型熱電対をグラファイトダイ内に挿入し、試料体側面から5mmの位置のダイ温度を測定することによって行った。加圧力は32MPaとした。また、パルス通電の電圧は2.5Vで、昇温時における直流パルス電流は2000A、恒温保持中の電流は900Aであった。
【0018】
上記Tiを使用した実施例1で製造したボロン繊維強化金属基複合材料の繊維体積分率は17vol%であり、実施例2で製造したボロン繊維強化金属基複合材料の繊維体積分率は32vol%であった。これらの複合材料の室温強度を測定した結果、前者の耐力は700MPaであり、後者の耐力は1090MPaであった。一方、市販のB/Ti複合材料では繊維体積分率が55vol%で耐力が1070PMaである。したがって、実施例2で製造された複合材料の方が市販のものより小さい繊維体積分率で大きな耐力を有し、ボロン繊維強化金属基複合材料としては優れていることがわかる。また、Alを使用した実施例3によれば複合則による計算値の90%以上の耐力を有する複合材得ることができる。
このように、本発明によれば安価で品質の優れたボロン繊維強化金属基複合材料を製造することができる。また、耐摩耗性の優れた複合材料を安価に製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の産業上の利用可能な分野としては、例えば下記のものが挙げられる。
・ エンジンのシリンダーブロック、シリンダーヘッド(特に高温にさらされる部分への適用)
・ オルタネーター(発電機)用ハウジング、ローター
・ ベーン式コンプレッサー用部品(ハウジング、ローター、ベーン:高温にさらされると共に、耐摩耗性が要求される部品)
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の金属基複合材料の圧接過程を説明する図である
【図2】本発明の金属基複合材料の圧接方法を実施するパルス通電加圧接合装置の概略説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 金属箔 2 ボロン繊維
3 プリフォーム体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
所定の厚さの複数のチタン箔の間に、所定の直径を有する複数のボロン繊維を並べて金属箔とボロン繊維とを組み合せてプリフォーム体を作成し、
前記プリフォーム体を、所定の圧力を加えた状態で、所定の真空雰囲気下で、所定の昇温速度で昇温して343℃ないし1501℃の範囲で恒温保持するように所定の時間の間、所定の電圧及び電流の直流パルス電流(又は直流パルス電流と直流電流の重畳電流)を流して接合することを特徴とするボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記金属箔の厚さが、1μmないし2000μmであるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記ボロン繊維の直径が、5μmないし1000μmであるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記恒温保持する時間が、10秒ないし3600秒(60分)であるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記所定の真空雰囲気が、100Pa以下であるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記昇温速度が、0.1℃/s(0.1K/s)ないし8.3℃/s(8.3K/s)であるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記金属箔がチタン箔であり、前記所定の圧力が、1kPaないし700MPaであるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記金属箔がアルミニュウム箔であり、前記所定の圧力が、1kPaないし400MPaであるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記金属箔がチタン箔であり、前記恒温保持する温度が、490℃ないし1501℃であるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記恒温保持する温度が、490℃ないし841℃であるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし6及び8のいずれかに記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記金属箔がアルミニュウム箔であり、前記恒温保持する温度が、343℃ないし660℃であるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法において、
前記恒温保持する温度が、343℃ないし594℃であるボロン繊維強化金属基複合材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の方法で製造されたボロン繊維強化金属基複合材料。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−131933(P2006−131933A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320376(P2004−320376)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(598026895)
【出願人】(598026921)
【出願人】(503448778)
【出願人】(505301941)SPSシンテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】