説明

ボーリングカッタを用いた切削方法

【課題】ボーリングカッタを用いてコンタリング切削しながらヘリカル送りする切削加工において、切刃チップの配置に工夫をし、切削抵抗を均等化して高精度な真円度の得と共に加工時間の短縮を可能にする。
【解決手段】工具ホルダーの先端外周に配設する切削ヘッド1の刃溝2に切刃チップ3を挿入し、押え金4にて切削ヘッド1に固定し、その切刃チップ3を複数設け、その複数の切刃チップ3の固定位相を軸方向に順次均等にずらしたボーリングカッタを用い、そのボーリングカッタをコンタリング切削を行いながら被削材の内壁面に沿ってヘリカル状に送って加工を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スローアウェイ式のボーリングカッタをコンタリング(円弧)切削しながらヘリカル(螺旋状)に送って穴加工する切削方法、特に、切刃チップの配置が改良されたボーリングカッタを用いて切削仕上げ精度の向上と切削時間の短縮を図った切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加工を行うボーリングカッタとしては、工具ホルダーの先端端面に内側から外側に向けて複数の切刃チップを配設して、その回転軌跡が内外の切刃チップと相互にオーバーラップしつつ、軸方向に少しずつ食い付き位置をずらして所定の穴径を切削するものが周知である。しかしこの形態では、工具ホルダーの最外周に位置する切刃チップのみが常に穴の内周面と接触しているため、工具ホルダーの軸線と直交する方向に反力が作用する。このため、工具ホルダーが振動し、切刃チップの欠けや、穴の精度不良が多発するという問題があった。
【0003】
この問題を解消するため、下記特許文献1によって、図7及び図8に示すように、切刃チップの固定位置を軸方向に積極的にずらした技術が提案されている。図7の構成によれば、外周側に位置する切刃チップ109を、それに隣接する切刃チップ108より軸線後方に配置しているので、穴明け開始時に必要な食い込み推力が軸線先方に配置された切刃チップ108による食い込み時と軸線後方に配置された切刃チップ109による食い込み時とに分散される。また、外周側に位置する切刃チップ111を切刃チップ109とほぼ点対称に配置しているので、工具ホルダー105の軸線と直交する方向に作用する力が相殺されると説明している。切刃チップの配置を正面から見た図8を参照すれば、上述の作用の説明が容易に理解できる。
【特許文献1】特開昭62−102909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のボーリングカッタの切削穴径は、切刃チップの調整代が数ミリ程度であるため、この調整範囲を越える場合は加工内径に応じたボーリングクイルを準備する必要があった
。この問題は、近年、CNC(コンピュータ数値制御)を搭載したマシニングセンターにおけるコンタリング加工が可能になるに従い、単独の工具ホルダーで加工できる寸法範囲は広がった。
【0005】
しかし、ヘリカル送りを行って加工時間を短縮しようとすると、切削ヘッドに固定する切刃チップの配置によっては刃先形状が、工具ホルダーのコンタリング中に公転するヘリカル送りピッチのツールマーク(切削痕)として仕上げ面に転写される。この現象は、カッタ回転速度を上げたり、切刃チップの数を増やして切刃チップ当たりの負荷を軽減しても解決しない。本発明では、切削抵抗を均等化して高精度な真円度の得られるボーリングカッタによる切削方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、工具ホルダーの先端外周に配設する切削ヘッドの刃溝に、切刃チップを押え金又は取付けボルトにて着脱自在に固定し、その切刃チップを複数設け、その複数の切刃チップの固定位相を軸方向に順次均等にずらしたボーリングカッタを用い、
そのボーリングカッタをコンタリング切削を行いながら被削材の内壁面に沿ってヘリカル状に送って加工を行う。また、このときの工具ホルダーの公転1回転内に進むヘリカル送りピッチを前記複数の切刃チップの軸方向のずれ量の総和に相当するものにして加工を行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明の切削方法は、切刃チップの固定位相を軸方向に順次ずらしたボーリングカッタを使用し、そのカッタをコンタリング切削を行いながらヘリカル状に送って加工を行うので、切削抵抗が各切刃チップに分担されると共に、被削材の加工された内壁面は円滑な面粗度となる。固定位相を工具ホルダーの軸方向にずらした切刃チップを、その切刃チップの数で等分される位置に固定したボーリングカッタを用い、ヘリカル送りピッチを前記複数の切刃チップの軸方向のずれ量の総和に相当するものにして加工を行えば、切削抵抗は均等化され、仕上げ面粗度の円滑な高精度な真円度が得られる。また、この方法では、公転1回転内に進むヘリカル送りの送りピッチfzが大きく取れるから加工時間の短縮が可能になると共に、単独のボーリングカッタで広範囲の穴寸法の加工ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明を具体化した好適の実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。図1乃至図3は、本発明の切削方法で用いるボーリングカッタの切削ヘッド1の正面図と工具ホルダー100を側面から見た断面図である。
【0009】
まず、図1において、切削ヘッド1の外周側のA〜Eの5個所の刃溝2に、切刃チップ3がそれぞれ押え金4を介して取付けボルト5にて切削ヘッド1に固定されている。6は
、切刃チップ3の切削径を調節する刃先調整ネジであり、7は、切り屑ポケットである。一方、図2は、各切刃チップ3の固定位相が、工具ホルダー100の軸方向Zに、順次A〜Eの如くずらして固定されていることを示すものである。Aの個所に取付けられた切刃チップ3を起点として切削ヘッド1が公転1回転した終点の切刃チップ3のEまでのZ方向のずれ総幅(ずれ量の総和)は、工具ホルダー100の公転1回転内に進むヘリカル送りピッチfzに相当する。各々の個所A〜Eに取付けられた切刃チップ3の切削径は、同一に調整されている。
【0010】
図3は、他の実施例である切刃チップ3が単に取付けボルト5にて固定されている切削ヘッド1の正面図である。切刃チップ3の固定位相が、工具ホルダー100の軸方向Zに、ヘリカル送り量に相当するfzの間にA〜Dが均等に配置されているところは、図2と同様である。工具ホルダー100は、マシニングセンター等の加工機側の取付け軸に嵌合する固定穴100aにガイドされながら、ボス面100bを突当てゝネジ止めされる。
【0011】
図4は、以上のように構成したボーリングカッタで穴加工した場合、1個(例えばA)
の切刃チップ3が、工具ホルダー100のコンタリング中に公転するヘリカル送りピッチとして如何なる軌跡を、被削材8の内壁面9に転写するかを説明したものである。2点鎖線で示す軌跡10が、ヘリカル送りピッチの軌跡であり、工具ホルダー100の公転1回転内に進むピッチはfzに相当する。
【0012】
図5に、切削ヘッドに1個(例えばA)の切刃チップ3または同一位相にA〜Eの全ての切刃チップ3が固定されていた場合の内壁面9の仕上げ面を拡大して示す。内壁面9は、ヘリカル送りピッチfzの間隔で切削痕を残すことになる。これを避けるためには、ヘリカル送りの量を小さくすればよいが、切削能率は低下する。
【0013】
ところが、本発明のように切刃チップ3の固定位置を、ヘリカル送りピッチfzの寸法に対し切刃チップ3の数で等分した位相にてずらしておけば、切削抵抗は各切刃チップ3に分担されると共に、内壁面9の仕上げ面は図6に拡大して示すように極めて円滑な面粗度となる上、加工時間の短縮が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の切削方法に採用するボーリングカッタの一例の正面図
【図2】図1のボーリングカッタの側面から見た断面図
【図3】本発明の切削方法に採用するボーリングカッタの他の実施例の正面図
【図4】コンタリング切削時の穴内壁のツール軌跡の説明図
【図5】従来法でのコンタリング切削時の穴内壁の切削痕の拡大図
【図6】この発明の方法でのコンタリング切削時の穴内壁の切削痕の拡大図
【図7】従来のボーリングカッタの側面図
【図8】図7のボーリングカッタの正面図
【符号の説明】
【0015】
1 切削ヘッド
2 刃溝
3 切刃チップ
4 押え金
5 取付けボルト
6 刃先調整ネジ
7 切り屑ポケット
8 被削材
9 内壁面
10 軌跡
100 工具ホルダー
100a 固定穴
100b ボス面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具ホルダーの先端外周に配設する切削ヘッドの刃溝に、切刃チップを押え金又は取付けボルトにて着脱自在に固定し、その切刃チップを複数設け、その複数の切刃チップの固定位相を軸方向に順次均等にずらしたボーリングカッタを用い、
そのボーリングカッタをコンタリング切削を行いながら被削材の内壁面に沿ってヘリカル状に送って加工を行うことを特徴とするボーリングカッタを用いた切削方法。
【請求項2】
前記ヘリカル送りのピッチを、前記複数の切刃チップの軸方向のずれ量の総和に相当するものとして加工を行う請求項1に記載のボーリングカッタを用いた切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−167913(P2006−167913A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69247(P2006−69247)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【分割の表示】特願平9−321836の分割
【原出願日】平成9年11月25日(1997.11.25)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】