説明

ボールねじのトルク測定方法および装置

【課題】 ねじ軸とボールねじナットとの間にすき間があるボールねじに作用するトルクを適正に測定することができるボールねじのトルク測定方法および装置を提供する。
【解決手段】 ボールねじのトルク測定装置11は、ねじ軸2を軸方向に移動しないようにして回転させるねじ軸駆動装置12と、ボールねじナット3に作用するトルクを検出するためのセンサとしてのロードセル13と、ボールねじナット3の移動に伴ってセンサ13を移動させるセンサ送り装置14と、ボールねじナット3とセンサ13とを伸びないが曲げ可能な部材によって結合するトルク伝達手段15と、ボールねじナット3に軸方向の力を付与するおもり16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールねじのトルク測定方法および装置に関し、特に、ボールねじナットが1つで予圧が付与されていないボールねじに適したトルク測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、すべりねじと異なり、摩擦が非常に小さく、高い伝達効率が得られることから、回転運動と直線運動の変換機構として広く利用されている。ボールねじ開発においては、この動力伝達性能を把握したり、種々要因の影響度を調査したりする上で、ボールねじのトルク(ボールねじ自身の摺動抵抗)を精密に測定する必要がある。
【0003】
ボールねじのトルク測定方法としては、JISB1192に記載されたものがあり、また、特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−46141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
JISB1192のボールねじのトルク測定方法は、無負荷条件で測定することから、ボールねじが予圧式である場合には、ボールがボールねじ軌道を転動するため、トルクの測定が可能であるものの、すき間を持つボールねじでは、ボール転走面に負荷が入らないので、ボールねじ軌道の異常を確認することができないという問題がある。
【0006】
また、特許文献1のものは、ボールねじナットを2個組み合わせたダブルナットタイプのボールねじの測定を行うもので、この場合、相手のナットの影響が出るので、本来測定したいボールねじ(ボールねじナットが1個の場合)の性能が分からないという問題がある。また、ボールねじ正転時(負荷軸力に逆らう方向に回転する場合)と逆転時(負荷軸力に倣う方向に回転する場合)で性能を分けて測定することができないという問題もある。
【0007】
結局、実際に使用される形態がねじ軸とボールねじナットとの間にすき間があるボールねじに作用するトルク(回転トルク損失、回転トルクムラなど)を実際に使用される形態に近い状態で検出可能な装置は、従来存在していなかった。
【0008】
この発明の目的は、ねじ軸とボールねじナットとの間にすき間があるボールねじに作用するトルクを適正に測定することができるボールねじのトルク測定方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によるボールねじのトルク測定方法は、ねじ軸およびねじ軸にボールを介してねじ合わされたボールねじナットを備えているボールねじにおけるねじ軸とボールねじナットとの間に作用するトルクを測定する方法であって、おもりにより一定軸力をボールねじナットに負荷した状態で、ねじ軸を軸方向に移動しないように回転させ、ボールねじナットとともに軸方向に移動するセンサによってボールねじナットに作用するトルクを測定することを特徴とするものである。
【0010】
この発明によるボールねじのトルク測定装置は、ねじ軸およびねじ軸にボールを介してねじ合わされたボールねじナットを備えているボールねじにおけるねじ軸とボールねじナットとの間に作用するトルクを測定する装置であって、ねじ軸を軸方向に移動しないようにして回転させるねじ軸駆動装置と、ボールねじナットに作用するトルクを検出するためのセンサと、ボールねじナットの移動に伴ってセンサを移動させるセンサ送り装置と、ボールねじナットとセンサとを伸びないが曲げ可能な部材によって結合するトルク伝達手段と、ボールねじナットに軸方向の力を付与するおもりとを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
この発明によるボールねじのトルク測定方法および装置では、ねじ軸とボールねじナットとの間にすき間(ボールを介しての微小なすき間)があるボールねじに作用するトルクを適正に測定するため、シングルナット+予圧式またはダブルナットタイプとされていた従来のものに代えて、シングルナット+予圧無しとする。これにより、実際に使用される状態に近い条件での測定が可能となる。
【0012】
そして、ボールねじ単体で軸力を負荷する場合、負荷軸力によるトルクが発生するため、微小な転がり抵抗を測定するためには、負荷軸力の変動をなくさなければならないという課題があり、また、螺旋状に動くものに機械的に変動のない負荷を与えることが困難という問題があるので、ボールねじナットの軸方向の移動を許容して、ねじ軸を軸方向に移動しないように回転させ、ボールねじナットに作用する荷重(トルク)を検出する。
【0013】
ここで、ボールねじが回転すると、ボールねじナットが軸方向に移動し、これに伴ってセンサを移動させる必要があり、これらの軸方向移動に伴う抵抗も測定してしまう恐れがある。これに対応するために、ボールねじナットの移動に合わせて、センサも移動できるようにする。
【0014】
センサは、ねじ軸を軸方向に移動しないようにして回転させるねじ軸駆動装置とは別の駆動装置であるセンサ送り装置によって移動させられ、この際、ボールねじナットの移動とセンサの移動とが同期させられる。センサとボールねじナットは、曲げ方向の力を受けても力が発生しない適宜なトルク伝達手段で結合される。具体的には、例えば、ボールねじナットに一体化させたハウジングから接線方向に曲げを発生しないもので引っ張ってセンサとしてのロードセルで荷重を検出し、これに基づいてトルクが計算される。トルク伝達手段としては、軸力を伝えないように追随して動くものであればよく、糸、ピアノ線のようなフレキシブルな線材でもよいが、線材の場合には、引張り方向の荷重は測定できるが、圧縮方向の荷重は測定できないので、好ましくは、ボールねじナットとセンサとをボールジョイント、ユニバーサルジョイントなどと称されている相対回転を許容する継手を介して結合する構成とされる。このようなトルク伝達手段は、例えば、両端にボール部が設けられた連結軸と、ボールねじナットに固定されて連結軸の一方のボール部を受けるナット側ボール受けと、センサに固定されて連結軸の他方のボール部を受けるセンサ側ボール受け部とを有しているものとされる。
【0015】
こうして、おもりにより一定軸力をボールねじナットに負荷した状態とすることで、予圧式またはダブルナットタイプとすることなく、ボールねじナットが1個ですき間を持つボールねじの回転トルクを測定することができ、また、回転トルクムラも測定することができる。
【0016】
ねじ軸駆動装置は、例えば、ねじ軸の下端部を保持する下コレットチャックと、ねじ軸の上端部を保持する上下移動可能な上コレットチャックと、下コレットチャックを介してねじ軸を回転させるモータとを有しているものとされる。モータは、ボールねじ正転(負荷軸力に逆らう方向にねじ軸を回転させる)および逆転(負荷軸力に倣う方向にねじ軸を回転させる)の両方向回転が可能なものとされる。
【0017】
センサ送り装置は、ボールねじナットとセンサとの平行を維持して、センサを移動させるものであれば、種々の装置を使用することができ、例えば、センサ送り装置をボールねじを使用したものとして、そのモータとねじ軸駆動装置のモータとを同期させて駆動するようにすればよい。このようなセンサ送り装置は、例えば、ボールねじのねじ軸と平行なねじ軸およびこれに嵌め合わされたボールねじナットからなるセンサ移動用ボールねじと、センサ移動用ボールねじのねじ軸を回転させるモータと、センサ移動用ボールねじのねじ軸と平行な軸線を有しセンサを軸方向移動可能に支持するためのリニアガイドと、リニアガイドに案内されて上下移動するスライダと、スライダとセンサ移動用ボールねじのボールねじナットとが一体で上下移動可能なようにこれらを結合する結合部材と、ねじ軸駆動装置のモータとセンサ送り装置のモータとを同期させる制御手段とを有しているものとされる。
【0018】
おもりは、例えば、ボールねじナットに一体化されたおもり支持台(ハウジング)上に載置され、ボールねじナットに常時軸方向下向きの力を付与するものとされる。したがって、ねじ軸は、鉛直方向に支持されることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明のボールねじのトルク測定方法によると、おもりにより一定軸力をボールねじナットに負荷した状態とすることで、ボールねじナットが1個ですき間を持つボールねじに作用するトルクを測定することができ、また、ねじ軸を軸方向に移動しないように回転させ、ボールねじナットとともに軸方向に移動するセンサによってボールねじナットに作用するトルクを測定することで、負荷軸力によるトルクの発生が抑えられて、微小な転がり抵抗分も測定することができる。したがって、ねじ軸とボールねじナットとの間にすき間があるボールねじに作用するトルクを適正に測定することができる。
【0020】
この発明のボールねじのトルク測定装置によると、ねじ軸を軸方向に移動しないようにして回転させるねじ軸駆動装置と、ボールねじナットに作用するトルクを検出するためのセンサと、ボールねじナットの移動に伴ってセンサを移動させるセンサ送り装置と、ボールねじナットとセンサとを伸びないが曲げ可能な部材によって結合するトルク伝達手段と、ボールねじナットに軸方向の力を付与するおもりとを備えているので、おもりにより一定軸力をボールねじナットに負荷した状態とすることで、ボールねじナットが1個ですき間を持つボールねじに作用するトルクを測定することができ、また、ねじ軸を軸方向に移動しないように回転させ、ボールねじナットとセンサとを伸びないが曲げ可能な部材によって結合するトルク伝達手段を介して、ボールねじナットに作用するトルクをセンサに伝達し、ボールねじナットとともに軸方向に移動するセンサによってボールねじナットに作用するトルクを測定することで、負荷軸力によるトルクの発生が抑えられて、微小な転がり抵抗分も測定することができる。したがって、ねじ軸とボールねじナットとの間にすき間があるボールねじに作用するトルクを適正に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、この発明のボールねじのトルク測定装置の1実施形態を示す正面図である。
【図2】図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】図3は、この発明のボールねじのトルク測定装置におけるトルク伝達手段の1例を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図の上下をいうものとする。
【0023】
図1から図3までは、この発明によるボールねじのトルク測定装置の1実施形態を示している。
【0024】
ボールねじのトルク測定装置(11)は、ねじ軸(2)およびねじ軸(2)にボール(4)を介してねじ合わされたボールねじナット(3)を備えているボールねじ(1)におけるねじ軸(2)とボールねじナット(3)との間に作用するトルクを測定する装置であって、図1に示すように、ねじ軸(2)を軸方向に移動しないようにして回転させるねじ軸駆動装置(12)と、ボールねじナット(3)に作用するトルクを検出するためのセンサ(13)と、ボールねじナット(3)の移動に伴ってセンサ(13)を移動させるセンサ送り装置(14)と、ボールねじナット(3)とセンサ(13)との間に設けられたトルク伝達手段(15)と、ボールねじナット(3)に軸方向の力を付与するおもり(16)とを備えている。
【0025】
ねじ軸駆動装置(12)は、ねじ軸(2)の下端部を保持する下コレットチャック(21)と、ねじ軸(2)の上端部を保持する上下移動可能な上コレットチャック(22)と、下コレットチャック(21)を介してねじ軸(2)を正逆いずれの方向にも回転させることができるモータ(23)とを有している。
【0026】
センサ送り装置(14)は、ボールねじ(1)のねじ軸(2)と平行なねじ軸(32)およびこれに嵌め合わされたボールねじナット(33)からなるセンサ移動用ボールねじ(31)と、センサ移動用ボールねじ(31)のねじ軸(32)を回転させるモータ(34)と、センサ移動用ボールねじ(31)のねじ軸(32)と平行な軸線を有しセンサ(13)を軸方向移動可能に支持するためのリニアガイド(35)と、リニアガイド(35)に案内されて上下移動するスライダ(36)と、スライダ(36)とセンサ移動用ボールねじ(31)のボールねじナット(33)とが一体で上下移動可能なようにこれらを結合する結合部材(37)と、ねじ軸駆動装置(12)のモータ(23)とセンサ送り装置(14)のモータ(34)とを同期させる制御手段(38)とを有している。
【0027】
センサ(13)は、ロードセルとされており、センサ送り装置(14)の結合部材(37)に固定されたL字状のセンサ支持台(39)に、その本体部(13a)が検知部(13b)を上方に突出させるようにして固定されている。
【0028】
おもり(16)は、ボールねじナット(3)の上面に一体化されたおもり支持台(ハウジング)(40)上に載置され、その自重によって、ボールねじナット(3)に常時軸方向下向きの力を付与している。
【0029】
トルク伝達手段(15)は、ボールねじナット(3)とセンサ(13)とを伸びないが曲げ可能な部材によって結合するもので、図3に拡大して示すように、両端にボール部(41a)(41b)が設けられた連結軸(41)と、連結軸(41)の一方のボール部(41a)を受ける球面状凹部(42a)を有しおもり支持台(40)に固定されたナット側ボール受け(42)と、連結軸(41)の他方のボール部(41b)を受ける球面状凹部(43a)を有しセンサ(13)の検知部(13b)にボルト(44)によって固定されたセンサ側ボール受け部(43)とを有している。各ボール部(41a)(41b)は各球面状凹部(42a)(43a)内において、連結軸(41)の軸線方向の移動は不可能であるが回転は可能とされており、これにより、連結軸(41)の軸線方向以外の力に対しては、連結軸(41)が回動することでこの力を吸収し、したがって、ねじ軸(2)の軸方向に作用する負荷軸力は、センサ(13)には伝えられない。
【0030】
上記のボールねじのトルク測定装置(11)を使用したトルク測定によると、おもり(16)により一定軸力をボールねじナット(3)に負荷した状態とすることで、ボールねじナット(3)が1個ですき間を持つボールねじ(1)に作用するトルクを測定することができる。この際、ねじ軸(2)を軸方向に移動しないように回転させ、ボールねじナット(3)とセンサ(13)とを伸びないが曲げ可能な部材によって結合するトルク伝達手段(15)を介して、ボールねじナット(3)に作用するトルクをセンサ(13)に伝達し、ボールねじナット(3)とともに軸方向に移動するセンサ(13)によってボールねじナット(3)に作用するトルクを測定することで、負荷軸力によるトルクの発生が抑えられて、微小な転がり抵抗分も測定することができる。したがって、ねじ軸(2)とボールねじナット(3)との間にすき間があるボールねじ(1)に作用するトルクを適正に測定することができる。
【符号の説明】
【0031】
(1) ボールねじ
(2) ねじ軸
(3) ボールねじナット
(4) ボール
(11) ボールねじのトルク測定装置
(12) ねじ軸駆動装置
(13) センサ
(14) センサ送り装置
(15) トルク伝達手段
(16) おもり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸およびねじ軸にボールを介してねじ合わされたボールねじナットを備えているボールねじにおけるねじ軸とボールねじナットとの間に作用するトルクを測定する方法であって、
おもりにより一定軸力をボールねじナットに負荷した状態で、ねじ軸を軸方向に移動しないように回転させ、ボールねじナットとともに軸方向に移動するセンサによってボールねじナットに作用するトルクを測定することを特徴とするボールねじのトルク測定方法。
【請求項2】
ねじ軸およびねじ軸にボールを介してねじ合わされたボールねじナットを備えているボールねじにおけるねじ軸とボールねじナットとの間に作用するトルクを測定する装置であって、
ねじ軸を軸方向に移動しないようにして回転させるねじ軸駆動装置と、ボールねじナットに作用するトルクを検出するためのセンサと、ボールねじナットの移動に伴ってセンサを移動させるセンサ送り装置と、ボールねじナットとセンサとを伸びないが曲げ可能な部材によって結合するトルク伝達手段と、ボールねじナットに軸方向の力を付与するおもりとを備えていることを特徴とするボールねじのトルク測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate