ボールねじ機構を構成するナットの検査装置および検査方法
【課題】 ねじ軸,ベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットを、それ単体で検査する。
【解決手段】 ねじ溝90が形成されてナット12に嵌め合わされるとともに循環路に開口する供給路96を有する軸状治具54を用い、検査用球体92を、その供給路を通って循環路内に供給し、その球体が連通路36を通る際の振動を検出する。上記治具を用いて検査が行われるため、ナットを、ねじ軸およびベアリングボールと組み合わせることなく、単体で検査することが可能となる。
【解決手段】 ねじ溝90が形成されてナット12に嵌め合わされるとともに循環路に開口する供給路96を有する軸状治具54を用い、検査用球体92を、その供給路を通って循環路内に供給し、その球体が連通路36を通る際の振動を検出する。上記治具を用いて検査が行われるため、ナットを、ねじ軸およびベアリングボールと組み合わせることなく、単体で検査することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸,ベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットの検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ機構は、円滑な運動変換を実現可能なものとして、各種装置,機器に用いられている。ボールねじ機構は、一般的には、ねじ軸およびナットに形成されたねじ溝に複数のベアリングボールが係合し、かつ、それらのベアリングボールがねじ軸とナットとの相対回転に応じて循環路に沿って移動する構造とされている。その循環路を形成するために、ナットのねじ溝とねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を連通する連通路を形成する必要があり、ナットには、連通路路形成部が設けられている。下記特許文献には、一例として、連通路形成部として機能するデフレクタがナット本体に装着されてなるナットによって構成されたボールねじ機構が記載されている。
【特許文献1】特開2004−138179号公報
【特許文献2】特開平11−270648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献に記載されているボールねじ機構では、円滑な動作を阻害する一因として、デフレクタおよびナット本体の加工精度等に起因してそれらの境に生じる段差について説明されている。つまり、ボールねじ機構を構成するナットにおいては、上記螺旋路から連通路への、あるいは、連通路から螺旋路への移行箇所において、ベアリングボールの円滑な移動が充分には担保されない事態が発生する可能性が高いのである。このような事態が生じた場合、ボールねじ機構自体が振動するといった現象、ボールねじ機構から異音が発生するといった現象等が出現することになる。
【0004】
従来、ボールねじ機構の動作の円滑性等に関する検査は、ねじ軸,ナット,ベアリングボールが既に組み合わされた完成体に対して、その完成体の振動,その完成体が発する音等を検出することによって行われていた。上述のように円滑性を阻害する要因等がナットに存在する場合、従来の方法に従って検査を行って完成体が充分な品質とはなっていないことが認識されたときには、完成体を一旦解体し、ナットを交換して再度組み合わせ、さらに、そのナット交換した完成体に対して再度検査を行う必要があった。この完成体の解体,再度の組み合わせは、ボールねじ機構の製造プロセスにおける負担となっていた。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、完成体としてのボールねじ機構ではなく、ボールねじ機構を構成するナットを単体で検査するための装置および方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のナット検査装置は、ねじ溝が形成されてナットに嵌め合わされるとともに循環路に開口する供給路を有する軸状治具と、その供給路を通って循環路内に供給される球体と、その球体が連通路を通る際の振動,音を検出する波動検出器を備えたことを特徴とし、また、本発明のナット検査方法は、上記軸状治具を循環経路が形成されるようにしてナットに嵌め合わせ、上記球体を供給路を通して循環路内に供給し、その球体が連通路を通る際の振動,音を検出するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、循環路に球体を供給可能な供給路を有するところのねじ軸に相当する治具が採用されて、ナットが原因する振動,音についての検査が行われる。したがって、本発明によれば、ナットを、ねじ軸およびベアリングボールと組み合わせることなく、単体で検査することが可能となる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、下記の各項において、(1)項が、請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項と(4)項とを合わせたものが請求項3に、(8)項と(9)項とを合わせたものが請求項4に、それぞれ相当する。また、(21)項が請求項5に相当し、(22)項が請求項6に、(23)項が請求項7に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)ねじ軸およびベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットであって、前記ベアリングボールの循環路を形成すべく自身のねじ溝と前記ねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を互いに連通させる連通路を形成するための連通路形成部が設けられたナットを検査するための検査装置であって、
前記ねじ軸のねじ溝に相当するねじ溝が設けられ、前記循環路が形成されるようにして前記ナットに嵌め合わされるとともに、自身の内部に設けられてその循環路に開口する供給路を有する軸状治具と、
その供給路から前記循環路内に供給されるところの前記ベアリングボールに相当する1以上の球体と、
前記循環路に供給された前記1以上の球体が前記連通路を通ることによって発生する音と振動との少なくとも一方である発生波動を検出する波動検出器と
を備えたナット検査装置。
【0010】
本項に記載された態様のナット検査装置は、簡単にいえば、ナットに嵌め合わされるねじ軸に相当する治具であって、ナットとによって形成される循環路にベアリングボールに相当する球体を供給可能な供給路が設けられた治具を採用し、その治具にナットを嵌め合わせた状態において供給路から上記球体を循環路に供給し、その供給された球体が循環路の一部である連通路を通過する際の振動,音を検出することによるナットの検査を可能とする装置である。したがって、本項の態様の装置によれば、ナットを、ねじ軸およびベアリングボールとともに組み合わせた完成体とせずに、単体の状態において検査することが可能となる。
【0011】
本項の態様が適用される「ナット」は、デフレクタ式のナット、例えば、隣接するねじ溝にベアリングボールが帰還するようにして連通路を形成するためのデフレクタ(「駒」と呼ばれることもある)を1以上備えたナットであってもよく、また、外側循環式(リターンパイプ式)のナット、例えば、複数ピッチのねじ溝を迂回してベアリングボールが帰還するように連通路が形成されているようなナットであってもよい。
【0012】
本項の態様における「軸状」治具は、検査対象となるナットと組み合わされるねじ軸と同じねじ溝が形成されていることが望ましい。「供給路」は、例えば、一端が軸状治具に形成されたねじ溝に開口し、他端が軸状治具の一端部に開口するような通路とすることが可能である。その場合、供給路は直線的なものとならず、概して屈曲,湾曲するような通路とされる。そのような供給路である場合、ねじ溝への開口から循環路への球体の移動が円滑なものとなるように、軸状治具の径方向において、軸状治具に設けられたねじ溝に漸近する通路とされることが望ましい。また、供給路は、例えば、軸状治具が中実の構造である場合において、その軸状治具を貫通して設けられた通路穴として構成されるものであってもよく、軸状治具がねじ溝が形成された円筒状の治具本体を有するものである場合において、その治具本体内部に配設された管状の通路形成部材を含んで構成されるものであってもよい。
【0013】
本項の態様における「球体」は、検査対象となるナットと組み合わされるベアリングボールそのものであってもよく、また、そのベアリングボールと同じ径の、あるいは、若干異なる径の球であって、そのベアリングボールと材質の同じ材質の、あるいは、異なる材質の球であってもよい。なお、球体が複数用いられる場合には、それらは単体として存在するものであってもよく、また、後に説明するように、それらが互いに繋ぎ合わされたものであってもよい。また、本項の態様において、球体の供給手段は、特に限定されるものではない。人力によって供給したり、重力を利用して供給することも可能であり、球体に何らかの機構,装置等によって推進力,駆動力を付与して供給することも可能である。
【0014】
本項の態様における「波動検出器」は、その具体的な構成が特に限定されるものではなく、検出される波動が、振動であるか音であるかによって適切なものを選択して採用することが可能である。例えば、振動を検出する場合には、圧電型加速度計等を、音を検出する場合には、各種マイクロフォン等を採用することが可能である。本項の態様の検査装置を利用した検査では、それらの検出器によって検出された波動のレベル(例えば、強度,振幅等)が設定閾値を超えている場合に、検査対象とされたナットが不良であると認定するような検査を実行することが可能である。なお、本項にいう「球体が連通路を通ることによって発生する音と振動」とは、連通路内を通過している時点で発生する音,振動のみを意味するものではなく、球体の螺旋路から連通路への、あるいは、連通路から螺旋路への移動の際、つまり、球体が連通路と螺旋路との境を通過する時点で発生する音,振動をも含む概念である。
【0015】
(2)前記軸状治具が、
自身の内部に設けられ、前記連通路を挟んで前記供給路とは反対側において前記循環路に開口し、前記循環路内に供給された前記1以上の球体を排出するための排出路を備えた(1)項に記載のナット検査装置。
【0016】
本項の態様によれば、例えば、上記球体のワンウェイの通路を形成することが可能である。そのことによって、例えば、球体を射出等することによって連通路を通過させて行う検査等等が容易に実行可能となり、また、球体の回収が容易なものとなる。本項の態様における「排出路」は、上記供給路と同様、例えば、一端が軸状治具に形成されたねじ溝に開口し、他端が軸状治具の一端部に開口するような通路とすることが可能である。その場合、供給路の場合と同様、循環路からねじ溝への球体が移動が円滑なものとなるように、軸状治具の径方向において、軸状治具に設けられたねじ溝から漸遠する通路とされることが望ましい。また、供給路と同様に、例えば、軸状治具が中実の構造である場合において、その軸状治具を貫通して設けられた通路穴として構成されるものであってもよく、軸状治具がねじ溝が形成された円筒状の治具本体を有するものである場合において、その治具本体内部に配設された管状の通路形成部材を含んで構成されるものであってもよい。
【0017】
(3)当該ナット検査装置が、
前記1以上の球体を、前記供給路を介して前記循環路内に送給する球体送給装置を備えた(1)項または(2)項に記載のナット検査装置。
【0018】
本項の態様は、球体を、それに推進力,駆動力等を付与して供給可能な装置を備えた態様である。本項の態様における「球体送給装置」は、その構造が特に限定されるものではない。例えば、ピストン,周回ベルト,回転ドラム等、球体と係合する何らかの部材を備え、その部材を動作させ、その動作する力もって、球体に推進力,駆動力を付与するような構造とすることが可能である。また、気体,液体等の流体の圧力,磁力等によって、球体に推進力,駆動力を付与する構造とすることもできる。なお、球体送給装置は、球体を射出して循環路に供給するような構造のものであってもよく、複数の球体が用いられる場合に、それら複数の球体を順次供給路に押し入れることによって、それら複数の球体が数珠つなぎになって循環路に供給されるような構造のものであってもよい。
【0019】
(4)前記球体送給装置が、圧縮気体を利用して前記1以上の球体を送給するものである(3)項に記載のナット検査装置。
【0020】
本項に記載の態様は、球体送給装置の構造が限定された態様である。気体圧を利用すれば、球体送給装置の構造を単純化することが可能である。また、圧縮気体の圧力をコントロールすることにより、球体の送給速度の変更が容易に行えるというメリットがある。本項の態様における球体送給装置を採用すれば、球体を射出することも可能であり、複数の球体を数珠つなぎの状態で供給することも可能である。
【0021】
(5)前記1以上の球体が、それぞれが前記ベアリングボールに相当する複数の球体を含み、それら複数の球体が数珠状に連繋された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載のナット検査装置。
【0022】
本項に記載の態様は、複数の球体を採用する場合の一態様であり、実際に数珠つなぎとされた複数の球体を採用する態様である。複数の球体を用いる場合において、本項の態様のように、それら複数の球体を数珠状に連繋すれば、球体の取扱い、例えば、循環路への供給,循環路からの排出等が簡便に行い得ることになる。
【0023】
(6)当該ナット検査装置が、ねじ溝が設けられたナット本体とそのナット本体に装着されて前記連通路形成部として機能するデフレクタとを有する前記ナットを検査するための検査装置である(1)項ないし(5)項のいずれかに記載のナット検出装置。
【0024】
デフレクタ式のナットを採用する場合、連通路、すなわち、循環路のうちのデフレクタによってベアリングボールの経路が変更される部分において、ベアリングボールの移動が円滑性を欠くことが多い。本項の態様によれば、そのような実情に合致したデフレクタ式のナットの検査が可能となる。
【0025】
(7)当該ナット検査装置が、前記デフレクタと前記ナット本体との境に存在する段差に起因して生じる前記発生波動を対象とする検査を行うための検査装置である(1)項ないし(6)項のいずれかに記載のナット検査装置。
【0026】
デフレクタ式のナットでは、加工精度等に起因して、上記ナット本体と上記デフレクタとの境に段差が生じ、その段差がボールねじ機構の円滑な動作を阻害する一因となる。本項の態様は、そのような実情に配慮したデフレクタ式のナットの検査を実行することが可能となる。
【0027】
(8)当該ナット検査装置が、
前記連通路形成部が複数設けられることで複数の前記循環路が形成される前記ナットを検査するための装置であり、それぞれが前記複数の循環路のそれぞれに対応する複数の前記供給路を備えた(1)項ないし(7)項のいずれかに記載のナット検査装置
【0028】
例えば、デフレクタ式のナットの多くは、複数のデフレクタが設けられている。本項の態様は、そのような複数の連通路形成部が設けられたナットを検査対象とする検査装置の一態様である。本項の態様によれば、複数の連通路形成部における発生波動を一時期に検出可能であることから、複数の連通路形成部が設けられたナットを迅速に検査することが可能となる。なお、本項の態様において、上述した排出路を、それぞれの循環路に対応して、つまり、それぞれの供給路に対応して複数設けることも可能である。
【0029】
(9)当該ナット検査装置が、
それぞれが前記複数の循環路のそれぞれに対応する複数の前記波動検出器を備えた(8)項に記載のナット検査装置。
【0030】
本項の態様は、例えば、複数の循環路の各々を構成する連通路形成部に対応して、複数の波動検出器の各々を、それら連通路形成部の各々の近傍に配置するような態様とすることができる。そのような態様とすれば、複数の連通路形成部の各々における発生波動を、別個に検出することが可能となり、ボールねじ機構の動作の円滑性を阻害する箇所、言い換えれば、どの連通路形成部においてベアリングボールの円滑な移動が阻害されるかを特定することが可能となる。
【0031】
(21)ねじ軸およびベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットであって、前記ベアリングボールの循環路を形成すべく自身のねじ溝と前記ねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を互いに連通させる連通路を形成するための連通路形成部が設けられたナットを検査する検査方法であって、
前記ねじ軸のねじ溝に相当するねじ溝が設けられるとともにそのねじ溝に開口する供給路が設けられた軸状治具を、前記循環路が形成されるようにかつ前記供給路がその循環路に開口するようにして、前記ナットに嵌め合わすセット工程と、
前記ベアリングボールに相当する1以上の球体を、前記供給路を通して前記循環路内に供給する球体供給工程と、
前記循環路に供給された前記1以上の球体が前記連通路を通ることによって発生する音と振動との少なくとも一方である発生波動を検出する波動検出工程と
を含んで構成されるナット検査方法。
【0032】
本項に記載の態様は、カテゴリを検査方法とする態様であり、本項の態様の検査方法によれば、ボールねじを構成するナットを、ねじ軸およびベアリングボールとともに組み合わせた完成体とせずに、単体の状態において検査することが可能となる。例えば、本項の態様は、上記態様の検査装置を用いることによって、容易に実現することができる。本項の態様の説明は、上記検査装置に関する説明と重複するため、ここでの説明は省略する。なお、本項を始めとする本項以下の検査方法に対して、上記検査装置に関する各種態様において採用されている技術的特徴を、任意に付加することも可能である。
【0033】
(22)前記波動検出工程が、
前記1以上の球体を前記循環路内に存在させた状態において、前記ナットと前記軸状治具とを相対回転させ、その相対回転による前記循環路内の前記1以上の球体の移動に伴って発生する前記発生波動を検出する工程を含む(21)項に記載のナット検査方法。
【0034】
本項の態様は、検査方法の具体的な手法を限定した一態様である。簡単にいえば、例えば、複数の球体を循環路内に供給し、それらを循環路内に留め置いた状態で、ナットと軸状治具とを相対回転させて行う検査方法である。本項の態様の検査方法によれば、実際にボールねじ機構が用いられる状態に近い状態において、ナットの検査を実行することができる。なお、本項の態様の検査方法を実行するための検査装置として、上記検査装置を、ナットと軸状治具とを相対回転させる相対回転装置を備えるように構成することが可能である。
【0035】
(23)前記球体供給工程が、前記1以上の球体の各々を、順次、循環通路内に供給しつつ前記連通路を通過させる工程を含み、
前記波動検出工程が、前記1以上の球体が前記連通路を通過する毎の前記発生波動を検出する工程を含む(21)項に記載のナット検査方法。
【0036】
本項の態様は、検査方法の具体的な手法を限定した一態様である。本項の態様は、上記態様と異なり、球体を循環路内に留め置かず、例えば、上記球体送給装置の作用によって、球体を連通路を通過させ、その通過時における発生波動の検出を実行するような態様である。本項の態様によれば、ナットと軸状治具とを相対回転させることを要しないため、簡便な検査が実現する。
【実施例】
【0037】
以下、請求可能発明の実施例およびそれの変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0038】
<ナットおよびそれによって構成されるボールねじ機構>
本実施例のナット検査装置およびその装置を利用したナット検査方法において検査対象となるナットによって構成されるボールねじ機構を、図1に示す。このボールねじ機構は、ねじ軸10と、ナット12と、それらを螺合させるためのベアリングボール14とを含み、それらが協働することによって構成される。ねじ軸10に形成されたねじ溝16およびナット12に形成されたねじ溝18とによって、ベアリングボール14が通過可能な螺旋状に延びる通路、つまり、螺旋路が形成されることになる。
【0039】
ところが、ナット12は、ねじ溝18が形成されたナット本体20に4つのデフレクタ22が付設されたデフレクタ式のナットとされていることから、本ボールねじ機構では、それら4つのデフレクタ22によって4つの循環路24が形成され、ベアリングボール14は、それら4つの循環路24の各々を循環する。なお、図1では、ナット12の図における上下位置に位置する2つのデフレクタ22のみが示されており、他の2つのデフレクタ22は、ねじ軸10の紙面に直行する方向における手前側と奥側との各々に位置している。手前側に位置するものは、図における左右方向(以下、「軸線方向」という場合がある)において、図示されている2つのデフレクタ22の中間に位置しており、また、奥側に位置するものは、下方に位置するものの右側に位置している。同様に、ベアリングボール14は、4つの循環路24のうち、上下に位置する2つのデフレクタ22に対応する2つの循環路24に存在するのみが示されている。ちなみに、以下の説明において、4つのデフレクタ22,4つの循環路24およびそれらに対応する構成要素の各々を呼び分ける場合には、軸線方向における左側のものから右側のものにかけて、順に、デフレクタ22a〜22d,循環路24a〜24dといった具合に、添え字a〜dを付して呼ぶことととする。
【0040】
図2は、ナット12単体の断面図であり、図1に示すボールねじ機構から、ねじ軸10,ベアリングボール14を取り除いた状態を示す図と考えることができる。また、図3は、デフレクタ22を示す4面図および1つの断面図(図におけるA−A断面を示す)である。それらの図から解るように、デフレクタ22は、その外形が、概して、高さの低い鍔付楕円柱形状をなし、ベアリングボール14が三次元曲線軌道に沿って通過可能な通過孔30が、鍔部32が設けられている背面とは反対側に形成されている。ナット本体20には、4つのデフレクタ穴34が、ナット本体20の周壁を貫通して形成されており、デフレクタ22は、それら4つのデフレクタ穴34の各々に嵌め込まれている。このようなデフレクタ22が嵌め込まれることによって、上記螺旋路の軸線方向において互いに隣り合う2箇所を繋ぐ連通路36が形成され、その結果として、上述した循環路24が形成される(図1参照)。つまり、デフレクタ22は、ナット12において、上記連通路36を形成する連通路形成部として機能するものとされている。なお、本デフレクタ22は、単一の部品とされているが、2つの部品が組み合わされることによって構成されるものであってもよい。
【0041】
ナット12は、デフレクタ22がデフレクタ穴34に嵌め込まれる構造をなしている。そのため、デフレクタ22の寸法精度、デフレクタ穴34の形成精度等によっては、デフレクタ34とナット本体20の境において段差が発生する場合がある。この段差が、循環路24における連通路36以外の部分(以下、「非連通路部」という場合がある)からの連通路36への、あるいは、連通路36から非連通路部への移行箇所G(図2参照)に存在する場合、その箇所をベアリングボール14が通過する際、その段差が干渉することで、ベアリングボール14の移動の円滑性が損なわれたり、また、ボールねじ機構の振動,ボールねじ機構からの異音が発生することになる。そのような実情に鑑み、本ボールねじ機構の検査は、ベアリングボール14が連通路36を通ることによって発生する上記のような現象の有無,程度を検出することによって行われる。
【0042】
<ナット検査装置>
本実施例のナット検査装置は、主に、ベアリングボール14が連通路36を通る際の振動を検出することで、ナット12に起因するボールねじ機構の動作円滑性を検査するための装置である。ナット検査装置は、図4に全体構成を示すように、概して、基台50と、基台50上に設けられたナットキャリア52,軸状治具54,4つの球体送給装置56,球体収容バケット58,球体回収ボックス60等を含んで構成されている。
【0043】
ナットキャリア52は、検査の対象となるナット12を保持し、そのナット12を回転および軸線方向(図の左右方向)に移動させる装置である。ナットキャリア52は、ナット12を保持するナットホルダ70を有している。このナットホルダ70は、3つのチャック爪72を有するチャック装置とされており、それらチャック爪72によってナット12の一端部を把持する。ナットホルダ70は、ホルダ支持台74によって回転可能に支持されており、ホルダ支持台74には、ナット回転モータ76が固定されて配設され、それのモータ軸に設けられたギヤ78がナットホルダ70の外周に設けられギヤ80と噛合させられている。モータ76を回転させることで、ナットホルダ70、つまり、ホルダ70に保持されたナット12が軸線まわりに回転させられる。また、基台50上には2条のレール82が敷設され、それらのレール80によって、ホルダ支持台74は、軸線方向に移動可能とされている。基台50には、さらに、ねじロッド84が軸方向に延びる姿勢で固定的に配置されている。このねじロッド84は、ボールねじ機構を構成するものであり、ホルダ支持台74に回転可能に設けられたナット(図示されていない)と螺合している。ホルダ支持台74は、自身に設けられたナット移動モータ86がそのナットを回転させることで、軸線方向に進退し、それによって、ナットホルダ70に保持されたナット12が軸線方向に移動する構造とされている。
【0044】
図に示すナット12の軸線方向位置は、軸状治具54に対してナット12がセットされる基準となる位置(以下、「進出基準位置」という場合がある)であり、ナットキャリア52によって、ナット12は、進出基準位置からある程度の範囲で前進可能とされ、また、軸状治具54がナット12から抜き出された状態となる位置(以下、「退避位置」と言う場合がある)まで後退可能とされている。なお、ホルダ支持台74には、レール82と係合するブレーキ88が設けられており、そのブレーキ88が解除されかつナット移動モータ86に電力が供給されていない状態においては、軸状治具54とナット12とが螺合したままでナット12が回転させられるのに伴い、ホルダ支持台74の前進・後退が許容される。ちなみに、ナットホルダ70には、アウタレースが保持される状態でベアリング89が嵌め込まれており、進出基準位置においては、軸状治具54の先端部が、インナレースに緩やかに挿入される状態となり、ナット12と軸状治具54の軸線のズレが防止される。また、図に示すナット12の回転位置は、軸状治具54に対してナット12がセットされる場合の回転位置(以下、「基準回転位置」という場合がある)である。
【0045】
図5に軸状治具54の正面図を、図6に、図5におけるB−B断面を示す。それらの図から解るように、概して円柱形状をなし、前述のねじ軸10が有するねじ溝16と同じねじ溝90が、部分的に形成されている。図に二点鎖線で示すナット12の位置は、上記進出基準位置であり、その位置において、ナット12と軸状治具54とによって、上述した4つの循環路24が形成される。本ナット検査装置によるナット12の検査では、4つの循環路24に、詳しくは、4つの循環路24の一部であって連通路36を含む部分に、上記ベアリングボール14と同じ外形および材質のボールを検査用球体92(以下、単に「球体92」という場合がある)が供給されて振動の検出が実行される。そのため、軸状治具54は、4つの循環路24の各々に対して、その各々に開口する球体92の供給路96および排出路98が設けられている。この軸状治具54では、それら供給路96および排出路98は、それぞれ、各循環路24,各連通路36,各デフレクタ22に対応して、4つずつ設けられている。なお、図5では、循環路24aに対応する供給路96aおよび排出路98aのみが、鎖線にて全体が表されており、他のものの一部は、手前側から視認可能な開口のみが図示されている。また、図6においても、循環路24aに対応する供給路96aおよび排出路98aのみ、破線によってそれらの全体が表示されている。
【0046】
図5および図6から解るように、軸状治具54は、中実であり、供給路96,排出路98の各々は、穿設して設けられており、軸線方向に直線的に延びる部分と、その部分から曲げられてねじ溝90に達する部分とに区分することができる。直線的に延びる部分は、軸直断面において比較的中心に近い位置に位置し、ねじ溝90に達する部分は、その位置から周方向に向かうとともに、ねじ溝90に漸近するように曲げられてねじ溝90に達し、供給開口100,排出開口102が形成される。このような形状の通路とされていることから、球体92は、供給路96から循環路24に、また、循環路24から排出路98に円滑に移動可能とされている。なお、1つの循環路24に対応する供給路96の供給開口100および排出路98の排出開口102は、それらによって連通路36つまりデフレクタ22を挟む位置においてねじ溝90に形成される。なお、軸状治具54の基端部には、4つの供給管104および4つの排出管106が付設されたキャップ部材108が取り付けられ、供給路96,排出路98の各々は、それら供給管104,排出管106の各々に繋げられている。また、軸状治具54は、イケール形状の治具支持部材110によって、基台50に固定されている(図4参照)。
【0047】
球体送給装置56は、球体92を、圧縮エアの圧力によって、供給管104,供給路96を介して、循環路24に供給する装置であり、4つの循環路24の各々に対応して、4つ設けられている。それら4つの球体送給装置56は、互いに同じ構造のものとさており、それぞれは、図7に示すような構造となっている。各球体送給装置56は、概して直方体をなすベースブロック120を基体とし、それに穿設された2つの通路である主通路122および球体導入路124と、主通路122を開閉すべく設けられた上流側弁126および下流側弁128と、球体導入路124を開閉すべく設けられた球体導入アクチュエータ130とを含んで構成されている。なお、それらの弁126,128、アクチュエータ130は、いずれも電磁式のものである。
【0048】
主通路122には、それの下流側において、供給管104が接続されている。また、上流側には、図示されていない高圧エア源からのホースが接続されるホースジョイント132が付設されており、そのジョイント132から、圧縮エアが導入される。上流側弁126,下流側弁128は、いずれも、非励磁状態において主通路122を連通し、励磁状態において主通路122を遮断する。球体導入路124は、下方に位置する一端部が、上流側弁126と下流側弁128との間において主通路122と接続され、上方に位置する他端部が、球体収容バケット58まで繋がる球体導入管134と接続されている。球体導入アクチュエータ130は、断面が概してJ字状をなすストッパ136がソレノイドによって進退される構造をなしている。図に示す非励磁状態において、ストッパ136は後退させられており、それの下方の係止片部が、上方から列状をなして導入される複数の球体92の落下を阻止する。一方、励磁状態において、ストッパ136は前進させられ、下方の係止片部に設けられた通孔137から最下方に位置する球体92を主通路122に落下させるとともに、上方の係止片部によって他の複数の球体92の落下を阻止する。したがって、球体導入アクチュエータは、それの1進退動作によって1個の球体92が主通路122内に導入するように機能する。1つの球体92が主通路122内に導入された後、上流側弁126,下流側弁128がともに、所定時間開弁させられ、その球体92が、供給管104に向かって圧送される。
【0049】
複数の球体92を送給する場合には、上記動作、つまり、1サイクルの動作を繰り返して行う。それによって、順次球体92が、数珠つなぎの状態で、供給管104,供給路96を通って、ナット12と軸状治具54とによって形成された循環路24,詳しくは、連通路36に供給することが可能とされる。なお、主通路122には、球体92の通過を検知する通過センサ138が設けられており、このセンサ138によって、送られた球体92の数を把握することが可能とされている。ちなみに、各球体送給装置56は、支持部材140によって、基台50上に支持されている(図4参照)
【0050】
球体送給装置56によって供給される球体92は、図1に示されている球体収容バケット58に収容されている。球体収容バケット58は、4つの球体送給装置56に共通して1つ設けられており、4つの落下口を有して、それぞれの落下口が4つの球体導入管134の各々を介して、4つの球体供給装置56に接続されている。なお、治具支持部材110の上端部にはサドル142が付設され、また、基台50には、2つのコラム144が立設されている。それらサドル142および2つのコラム144によって、支持板146が上架されており、球体収容バケット58は、その支持板146によって支持されている。
【0051】
一方、軸状治具54の排出路98には、排出管106が接続されている。この排出管106は、概して下方に曲げられており、その曲げられた部分が上述した供給管104の間を通って、先端が球体回収ボックス60に至るように配設されている。排出管106には、図8に示すように、球体係止アクチュエータ150が設けられている。このアクチュエータ150は、電磁式のものであり、ストッパピン152が、励磁状態において排出管106の内部に突出する構造とされている。排出管106は、循環路24に供給された球体92を球体回収ボックス60に導くものであるが、球体係止アクチュエータ150を作動させることによって、その球体92の排出を禁止し、数珠つなぎとなった複数の球体92のいくつかのものを、循環路24内に留め置くことが可能である。
【0052】
本ナット検査装置には、他に、図4に示すように、ナット12の軸方向端面までの距離を検出することによって軸方向位置を認識するための軸方向位置センサ160と、ナット12に刻設された基準点を検知することによってナット12の基準回転位置を検出するための回転位置センサ162が設けられている。軸方向位置センサ160は、軸状治具54を支持する治具支持部材110に付設されており、また、回転位置センサ162は、治具支持部材110の上部から延び出すブラケット164に付設されている。
【0053】
本ナット検査装置は、さらに、制御盤170を備えている。制御盤170は、コンピュータおよび各モータ,電磁弁等の駆動回路を主体として構成されたものであり、前面パネルには、出力デバイスとしてのディスプレイ172,入力デバイスとしての各種の操作スイッチ174が設けられている。この制御盤170は、ナット検査装置の動作を司るとともに、検出されたナット12の振動を解析してそのナット12の品質の良否を判定する機能をも有している。上述のチャック爪72のアクチュエータ、ナット回転モータ76、ナット移動モータ86、ブレーキ88、球体供給装置56が有する上流側弁126,下流側弁128および球体導入アクチュエータ130、球体係止アクチュエータ150等は、制御盤170の出力ポートに接続され、また、上述の通過センサ138、軸方向位置センサ160、回転位置センサ162等は、制御盤170の入力ポートに接続されている。
【0054】
なお、振動の検出は、図4に示すように、圧電型加速度センサである加速度ピック180を、波動検出器として、ナット12の外周に、詳しくは、デフレクタ22の背面に接触させるように取り付けて行う。ナット12は4つのデフレクタ22を有しており、加速度ピック180は4つ取り付けられ、それら4つの加速度ピック180による検出信号は、上記制御盤170に送信される。ちなみに、加速度ピック180の検出信号は、制御盤170内に設けられたアンプによって増幅され、その増幅された信号に対して、当該ナット12の良否判定のための解析処理が実行される。
【0055】
<ナットの検査のフロー>
上記ナット検査装置を使用したナット12の検査では、まず、ナット12の軸状治具54に対するセットが行われる。具体的言えば、最初に、ナットキャリア52のホルダ支持台74が後退させられた位置(ナット12がナットホルダ70に保持された場合においてその上記退避位置に位置するホルダ支持台74の位置)に位置させられた状態において、検査が実施されるナット12を、ナットホルダ70に押し付け、チャッククランプスイッチを操作する。これにより、チャック爪72が閉じ、ナット12がナットホルダ70に保持される。次いで、ナット12の上記所定の位置に、4つの加速度ピック180を取り付け、それらの取付後、検査開始スイッチを操作する。この操作によって、その後は、自動的にナット検査装置が所定の動作を実行する。
【0056】
まず、軸線方向位置センサ160の検出値に基づいて、ホルダ支持台74が進出させられることで、ナット12が上述の進出基準位置に位置させられ、その位置において、ブレーキ88が作動させられる。その後、進出基準位置において、ナット12は回転させられ、回転位置センサ162の検出結果に基づいて、上述の基準回転位置においてナット12が停止させられる。この一連の動作によって、ナット12の軸状治具54に対する適正位置へのセットが完了する。
【0057】
次に、4つの排出管106の各々に設けられた球体係止アクチュエータ150が作動させられ、球体92が排出管106を通って球体回収ボックス60へ向かうことが禁止される。この状態において、4つの球体送給装置56が作動を開始する。具体的には、先に説明したように、球体導入アクチュエータ130,上流側弁126,下流側弁128の各々の1サイクルの動作が、通過センサ138の検出信号から得られるカウント値に基づいて、所定の数の球体92が、連通路36を含む循環路24内に留置されるように、所定回数のサイクル動作が行われる。つまり、予定した数の球体92が、各循環路24内に留め置かれるように、設定回数のサイクル動作が行われるのである。このような球体供給装置56の作動により、所定数の球体92が循環路24内に供給される。
【0058】
球体92が供給された後、検査作動が実行される。この検査作動では、まず、ナットキャリア52のブレーキ88が解除され、その状態において、ナット12が、往復反転させられる。具体的には、例えば、基準回転位置から±180゜の範囲で、数回の反転動作が行われる。この反転動作の最中において、各加速度ピック180の振動検出信号に対しての解析処理が行われる。4つの加速度ピック180a〜180dの振動検出信号が、例えば、図9のグラフに示されるようなものであったとする。ちなみに、図9における横軸は、時間tの経過を表し、縦軸は、振動の強度I(振幅に相当する)を表し、(a)〜(d)の各々の検出信号(以下、「検出信号(a)等」という場合がある)は、デフレクタ22a〜22dの各々に対して、つまり、連通路36a〜36dの各々の箇所に設けられた加速度ピック180a〜180dの検出信号である。なお、この図は、検査作動全体の時間のうちのある一部の時間における検出信号である。
【0059】
このグラフから解るように、ナット12に対する振動検出信号は、検出信号(a)〜(d)のいずれも、ある時間ピッチで、比較的高い強度の高い信号が検出されている。具体的には、時刻t1,t1’,t1”において現れたもの(以下、「第1振動ピーク」という場合がある)、および、時刻t2,t2’,t2”において現れたもの(以下、「第2振動ピーク」という場合がある)である。第1振動ピークを比較すれば、検出信号(b)のものが最も強度が高く、第2振動ピークを比較すれば、検出信号(c)のものが最も強度が高いことが解る。振動伝播における減衰効果を考慮すれば、第1振動ピークは、球体92が連通路36bを通る場合の振動であり、第2振動ピークは、球体92が連通路36cを通る場合の振動であると考えられる。このことに基づき、本ナット検査装置では、同時期に発生した振動に対して、最も高い強度で検出された値をもって、振動発生箇所を特定するようにされている。そして、その振動の強度値が、設定された閾強度I0を超えている場合に、そのナット12が不良品であると判定する。グラフに示された検出信号では、第1ピークの最高強度が閾強度I0を超えており、このナット12は不良であると認定され、不良箇所として、連通路36bが特定される。このような良否の判定結果および特定された不良箇所は、制御盤170のディスプレイ172に表示される。
【0060】
上述の検査作動が終了した後、各球体係止アクチュエータ150による球体92の係止が解除され、その解除された状態において、各球体送給装置56の上流側弁126および下流側弁128が設定時間開弁されて、各供給路96,循環路24,排出路98等に存在しているすべての球体92が、球体回収ボックス60に回収される。このような回収動作の後、ナット12は、退避位置まで移動させられて、本ナット検査装置による自動作動が終了する。加速度ピック180を外し、チャックアンクランプスイッチを操作して、ナット12をナットホルダ70から取り外して、1つのナット12に対する検査作業が完了する。
【0061】
<変形例>
上記実施例では、循環路24内に複数の球体92を留め置いた状態においてナット12と軸状治具54とを相対回転させ、その相対回転に伴う球体92の連通路36の通過に起因する振動を検出するようにされていた。このような検査の手法に代え、ナット12と軸状治具54との相対回転を実施せずに、振動の検出を行ってもよい。つまり、ナット12を進出基準位置,回転基準位置に定置させた状態において、球体送給装置56によって、球体92を連通路36を通過させるように送給し、その通過の際の振動を検出することも可能である。その際、例えば、複数の球体92を、数珠つなぎの状態で、順次、連通路36を通過させるようにしてもよく、また、1個あるいは数個の球体92を、あたかも、射出するように、順次、連通路36を通過させるようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施例では、ベアリングボール14と同じ形状の球体92を、単体の状態で複数用いて検査を行うようにされていたが、図10に示すような実際に数珠状に繋がれた複数の球体を用いて、検査を行うことも可能である。図10(a)は、隣り合う球体200を、連結ピン202で連結した構造をなすものである。球体200には、背向する2箇所に凹所204が設けられ、連結ピン202の両端部の各々には、概して球形状の被係止部206が設けられており、凹所204に被係止部206を収容した状態でカシメることにより、球体200とピン202とが連結されている。凹所204は被係止部206に対して遊間を有しており、球体200と連結ピン202とは、ある程度の自由な相対動作が許容されている。また、図10(b)は、球体210をワイヤ212によって結んだ構造をなすものである。球体210には貫通孔214が設けられ、ワイヤ212は、この貫通孔214を通るようにされている。このように繋がれた球体200,210を使用する場合には、例えば、図11に示すように、その繋いだものをリール230に巻回してセットし、そのリール230から引き出された部分を、互いに対向する回転ドラム232で挟み、それらドラム232を回転させることで、球体200,210を循環路24に供給することが可能である。また、球体200,210を循環路24から排出する場合には、リール230にて巻き取るようにして行うことができる。このような態様では、検査用球体を簡便に取り扱えることになる。
【0063】
さらに、上記実施例では、中実の軸状治具54を用いて検査を行っていた。上記のような軸状治具54に代えて、図12に示すような中空の軸状治具240を用いることも可能である。この場合、治具本体242には、循環路24への開口244を設け、所定の形状に曲げられたパイプ246を、それの一端部が開口244に繋がるように付設することによって、球体の供給路および排出路を形成することが可能である。つまり、管状の通路形成部材を用いて軸状治具を構成することもできるのである。
【0064】
さらにまた、上記実施例では、球体92が連通路36を通る際の振動を検出することによってナット12の検査を行っている。これに代えて、音を検出することによって、ナット12の検査を実行することも可能である。この場合、例えば、加速度ピック180に代えて、波動検出器としてのマイクロフォンをナット12に付設し、そのマイクロフォンによって検出された音圧レベルに基づいて、ナットの良否判定、不良箇所の特定等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例のナット検査装置およびその装置を利用したナット検査方法において検査対象となるナットによって構成されるボールねじ機構を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のナットを拡大して模式的に示す断面図を示す。
【図3】図1のナットを構成するデフレタを模式的に示す4面図および断面図である。
【図4】実施例のナット検査装置の全体構成を示す図である。
【図5】図4のナット検査装置に設けられた軸状治具を模式的に示す正面図である。
【図6】図5の軸状治具の軸直断面図である。
【図7】図4のナット検査装置が有する球体送給装置を示す断面図である。
【図8】図4のナット検査装置が有する球体の排出管を示す図である。
【図9】ナットの検査作業によって得られた振動検出信号を示すグラフである。
【図10】ナットの検査に用いる検査用球体の変形例を示す図である。
【図11】図10に示す検査用球体の供給、排出を実行するための装置を概念的に示す図である。
【図12】図5に示す軸状治具の変形例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10:ねじ軸 12:ナット 14ベアリングボール 16:ねじ溝 18:ねじ溝 20:ナット本体 22:デフレクタ(連通路形成部) 24:連通路 36:連通路 52:ナットキャリア 54:軸状治具 56:球体送給装置 92:検査用球体 96:供給路 98:排出路 100:供給開口 102:排出開口 180:加速度ピック(波動検出器) 200:検査用球体 210:検査用球体 240:軸状治具
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸,ベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットの検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ機構は、円滑な運動変換を実現可能なものとして、各種装置,機器に用いられている。ボールねじ機構は、一般的には、ねじ軸およびナットに形成されたねじ溝に複数のベアリングボールが係合し、かつ、それらのベアリングボールがねじ軸とナットとの相対回転に応じて循環路に沿って移動する構造とされている。その循環路を形成するために、ナットのねじ溝とねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を連通する連通路を形成する必要があり、ナットには、連通路路形成部が設けられている。下記特許文献には、一例として、連通路形成部として機能するデフレクタがナット本体に装着されてなるナットによって構成されたボールねじ機構が記載されている。
【特許文献1】特開2004−138179号公報
【特許文献2】特開平11−270648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献に記載されているボールねじ機構では、円滑な動作を阻害する一因として、デフレクタおよびナット本体の加工精度等に起因してそれらの境に生じる段差について説明されている。つまり、ボールねじ機構を構成するナットにおいては、上記螺旋路から連通路への、あるいは、連通路から螺旋路への移行箇所において、ベアリングボールの円滑な移動が充分には担保されない事態が発生する可能性が高いのである。このような事態が生じた場合、ボールねじ機構自体が振動するといった現象、ボールねじ機構から異音が発生するといった現象等が出現することになる。
【0004】
従来、ボールねじ機構の動作の円滑性等に関する検査は、ねじ軸,ナット,ベアリングボールが既に組み合わされた完成体に対して、その完成体の振動,その完成体が発する音等を検出することによって行われていた。上述のように円滑性を阻害する要因等がナットに存在する場合、従来の方法に従って検査を行って完成体が充分な品質とはなっていないことが認識されたときには、完成体を一旦解体し、ナットを交換して再度組み合わせ、さらに、そのナット交換した完成体に対して再度検査を行う必要があった。この完成体の解体,再度の組み合わせは、ボールねじ機構の製造プロセスにおける負担となっていた。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、完成体としてのボールねじ機構ではなく、ボールねじ機構を構成するナットを単体で検査するための装置および方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のナット検査装置は、ねじ溝が形成されてナットに嵌め合わされるとともに循環路に開口する供給路を有する軸状治具と、その供給路を通って循環路内に供給される球体と、その球体が連通路を通る際の振動,音を検出する波動検出器を備えたことを特徴とし、また、本発明のナット検査方法は、上記軸状治具を循環経路が形成されるようにしてナットに嵌め合わせ、上記球体を供給路を通して循環路内に供給し、その球体が連通路を通る際の振動,音を検出するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、循環路に球体を供給可能な供給路を有するところのねじ軸に相当する治具が採用されて、ナットが原因する振動,音についての検査が行われる。したがって、本発明によれば、ナットを、ねじ軸およびベアリングボールと組み合わせることなく、単体で検査することが可能となる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、下記の各項において、(1)項が、請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項と(4)項とを合わせたものが請求項3に、(8)項と(9)項とを合わせたものが請求項4に、それぞれ相当する。また、(21)項が請求項5に相当し、(22)項が請求項6に、(23)項が請求項7に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)ねじ軸およびベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットであって、前記ベアリングボールの循環路を形成すべく自身のねじ溝と前記ねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を互いに連通させる連通路を形成するための連通路形成部が設けられたナットを検査するための検査装置であって、
前記ねじ軸のねじ溝に相当するねじ溝が設けられ、前記循環路が形成されるようにして前記ナットに嵌め合わされるとともに、自身の内部に設けられてその循環路に開口する供給路を有する軸状治具と、
その供給路から前記循環路内に供給されるところの前記ベアリングボールに相当する1以上の球体と、
前記循環路に供給された前記1以上の球体が前記連通路を通ることによって発生する音と振動との少なくとも一方である発生波動を検出する波動検出器と
を備えたナット検査装置。
【0010】
本項に記載された態様のナット検査装置は、簡単にいえば、ナットに嵌め合わされるねじ軸に相当する治具であって、ナットとによって形成される循環路にベアリングボールに相当する球体を供給可能な供給路が設けられた治具を採用し、その治具にナットを嵌め合わせた状態において供給路から上記球体を循環路に供給し、その供給された球体が循環路の一部である連通路を通過する際の振動,音を検出することによるナットの検査を可能とする装置である。したがって、本項の態様の装置によれば、ナットを、ねじ軸およびベアリングボールとともに組み合わせた完成体とせずに、単体の状態において検査することが可能となる。
【0011】
本項の態様が適用される「ナット」は、デフレクタ式のナット、例えば、隣接するねじ溝にベアリングボールが帰還するようにして連通路を形成するためのデフレクタ(「駒」と呼ばれることもある)を1以上備えたナットであってもよく、また、外側循環式(リターンパイプ式)のナット、例えば、複数ピッチのねじ溝を迂回してベアリングボールが帰還するように連通路が形成されているようなナットであってもよい。
【0012】
本項の態様における「軸状」治具は、検査対象となるナットと組み合わされるねじ軸と同じねじ溝が形成されていることが望ましい。「供給路」は、例えば、一端が軸状治具に形成されたねじ溝に開口し、他端が軸状治具の一端部に開口するような通路とすることが可能である。その場合、供給路は直線的なものとならず、概して屈曲,湾曲するような通路とされる。そのような供給路である場合、ねじ溝への開口から循環路への球体の移動が円滑なものとなるように、軸状治具の径方向において、軸状治具に設けられたねじ溝に漸近する通路とされることが望ましい。また、供給路は、例えば、軸状治具が中実の構造である場合において、その軸状治具を貫通して設けられた通路穴として構成されるものであってもよく、軸状治具がねじ溝が形成された円筒状の治具本体を有するものである場合において、その治具本体内部に配設された管状の通路形成部材を含んで構成されるものであってもよい。
【0013】
本項の態様における「球体」は、検査対象となるナットと組み合わされるベアリングボールそのものであってもよく、また、そのベアリングボールと同じ径の、あるいは、若干異なる径の球であって、そのベアリングボールと材質の同じ材質の、あるいは、異なる材質の球であってもよい。なお、球体が複数用いられる場合には、それらは単体として存在するものであってもよく、また、後に説明するように、それらが互いに繋ぎ合わされたものであってもよい。また、本項の態様において、球体の供給手段は、特に限定されるものではない。人力によって供給したり、重力を利用して供給することも可能であり、球体に何らかの機構,装置等によって推進力,駆動力を付与して供給することも可能である。
【0014】
本項の態様における「波動検出器」は、その具体的な構成が特に限定されるものではなく、検出される波動が、振動であるか音であるかによって適切なものを選択して採用することが可能である。例えば、振動を検出する場合には、圧電型加速度計等を、音を検出する場合には、各種マイクロフォン等を採用することが可能である。本項の態様の検査装置を利用した検査では、それらの検出器によって検出された波動のレベル(例えば、強度,振幅等)が設定閾値を超えている場合に、検査対象とされたナットが不良であると認定するような検査を実行することが可能である。なお、本項にいう「球体が連通路を通ることによって発生する音と振動」とは、連通路内を通過している時点で発生する音,振動のみを意味するものではなく、球体の螺旋路から連通路への、あるいは、連通路から螺旋路への移動の際、つまり、球体が連通路と螺旋路との境を通過する時点で発生する音,振動をも含む概念である。
【0015】
(2)前記軸状治具が、
自身の内部に設けられ、前記連通路を挟んで前記供給路とは反対側において前記循環路に開口し、前記循環路内に供給された前記1以上の球体を排出するための排出路を備えた(1)項に記載のナット検査装置。
【0016】
本項の態様によれば、例えば、上記球体のワンウェイの通路を形成することが可能である。そのことによって、例えば、球体を射出等することによって連通路を通過させて行う検査等等が容易に実行可能となり、また、球体の回収が容易なものとなる。本項の態様における「排出路」は、上記供給路と同様、例えば、一端が軸状治具に形成されたねじ溝に開口し、他端が軸状治具の一端部に開口するような通路とすることが可能である。その場合、供給路の場合と同様、循環路からねじ溝への球体が移動が円滑なものとなるように、軸状治具の径方向において、軸状治具に設けられたねじ溝から漸遠する通路とされることが望ましい。また、供給路と同様に、例えば、軸状治具が中実の構造である場合において、その軸状治具を貫通して設けられた通路穴として構成されるものであってもよく、軸状治具がねじ溝が形成された円筒状の治具本体を有するものである場合において、その治具本体内部に配設された管状の通路形成部材を含んで構成されるものであってもよい。
【0017】
(3)当該ナット検査装置が、
前記1以上の球体を、前記供給路を介して前記循環路内に送給する球体送給装置を備えた(1)項または(2)項に記載のナット検査装置。
【0018】
本項の態様は、球体を、それに推進力,駆動力等を付与して供給可能な装置を備えた態様である。本項の態様における「球体送給装置」は、その構造が特に限定されるものではない。例えば、ピストン,周回ベルト,回転ドラム等、球体と係合する何らかの部材を備え、その部材を動作させ、その動作する力もって、球体に推進力,駆動力を付与するような構造とすることが可能である。また、気体,液体等の流体の圧力,磁力等によって、球体に推進力,駆動力を付与する構造とすることもできる。なお、球体送給装置は、球体を射出して循環路に供給するような構造のものであってもよく、複数の球体が用いられる場合に、それら複数の球体を順次供給路に押し入れることによって、それら複数の球体が数珠つなぎになって循環路に供給されるような構造のものであってもよい。
【0019】
(4)前記球体送給装置が、圧縮気体を利用して前記1以上の球体を送給するものである(3)項に記載のナット検査装置。
【0020】
本項に記載の態様は、球体送給装置の構造が限定された態様である。気体圧を利用すれば、球体送給装置の構造を単純化することが可能である。また、圧縮気体の圧力をコントロールすることにより、球体の送給速度の変更が容易に行えるというメリットがある。本項の態様における球体送給装置を採用すれば、球体を射出することも可能であり、複数の球体を数珠つなぎの状態で供給することも可能である。
【0021】
(5)前記1以上の球体が、それぞれが前記ベアリングボールに相当する複数の球体を含み、それら複数の球体が数珠状に連繋された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載のナット検査装置。
【0022】
本項に記載の態様は、複数の球体を採用する場合の一態様であり、実際に数珠つなぎとされた複数の球体を採用する態様である。複数の球体を用いる場合において、本項の態様のように、それら複数の球体を数珠状に連繋すれば、球体の取扱い、例えば、循環路への供給,循環路からの排出等が簡便に行い得ることになる。
【0023】
(6)当該ナット検査装置が、ねじ溝が設けられたナット本体とそのナット本体に装着されて前記連通路形成部として機能するデフレクタとを有する前記ナットを検査するための検査装置である(1)項ないし(5)項のいずれかに記載のナット検出装置。
【0024】
デフレクタ式のナットを採用する場合、連通路、すなわち、循環路のうちのデフレクタによってベアリングボールの経路が変更される部分において、ベアリングボールの移動が円滑性を欠くことが多い。本項の態様によれば、そのような実情に合致したデフレクタ式のナットの検査が可能となる。
【0025】
(7)当該ナット検査装置が、前記デフレクタと前記ナット本体との境に存在する段差に起因して生じる前記発生波動を対象とする検査を行うための検査装置である(1)項ないし(6)項のいずれかに記載のナット検査装置。
【0026】
デフレクタ式のナットでは、加工精度等に起因して、上記ナット本体と上記デフレクタとの境に段差が生じ、その段差がボールねじ機構の円滑な動作を阻害する一因となる。本項の態様は、そのような実情に配慮したデフレクタ式のナットの検査を実行することが可能となる。
【0027】
(8)当該ナット検査装置が、
前記連通路形成部が複数設けられることで複数の前記循環路が形成される前記ナットを検査するための装置であり、それぞれが前記複数の循環路のそれぞれに対応する複数の前記供給路を備えた(1)項ないし(7)項のいずれかに記載のナット検査装置
【0028】
例えば、デフレクタ式のナットの多くは、複数のデフレクタが設けられている。本項の態様は、そのような複数の連通路形成部が設けられたナットを検査対象とする検査装置の一態様である。本項の態様によれば、複数の連通路形成部における発生波動を一時期に検出可能であることから、複数の連通路形成部が設けられたナットを迅速に検査することが可能となる。なお、本項の態様において、上述した排出路を、それぞれの循環路に対応して、つまり、それぞれの供給路に対応して複数設けることも可能である。
【0029】
(9)当該ナット検査装置が、
それぞれが前記複数の循環路のそれぞれに対応する複数の前記波動検出器を備えた(8)項に記載のナット検査装置。
【0030】
本項の態様は、例えば、複数の循環路の各々を構成する連通路形成部に対応して、複数の波動検出器の各々を、それら連通路形成部の各々の近傍に配置するような態様とすることができる。そのような態様とすれば、複数の連通路形成部の各々における発生波動を、別個に検出することが可能となり、ボールねじ機構の動作の円滑性を阻害する箇所、言い換えれば、どの連通路形成部においてベアリングボールの円滑な移動が阻害されるかを特定することが可能となる。
【0031】
(21)ねじ軸およびベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットであって、前記ベアリングボールの循環路を形成すべく自身のねじ溝と前記ねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を互いに連通させる連通路を形成するための連通路形成部が設けられたナットを検査する検査方法であって、
前記ねじ軸のねじ溝に相当するねじ溝が設けられるとともにそのねじ溝に開口する供給路が設けられた軸状治具を、前記循環路が形成されるようにかつ前記供給路がその循環路に開口するようにして、前記ナットに嵌め合わすセット工程と、
前記ベアリングボールに相当する1以上の球体を、前記供給路を通して前記循環路内に供給する球体供給工程と、
前記循環路に供給された前記1以上の球体が前記連通路を通ることによって発生する音と振動との少なくとも一方である発生波動を検出する波動検出工程と
を含んで構成されるナット検査方法。
【0032】
本項に記載の態様は、カテゴリを検査方法とする態様であり、本項の態様の検査方法によれば、ボールねじを構成するナットを、ねじ軸およびベアリングボールとともに組み合わせた完成体とせずに、単体の状態において検査することが可能となる。例えば、本項の態様は、上記態様の検査装置を用いることによって、容易に実現することができる。本項の態様の説明は、上記検査装置に関する説明と重複するため、ここでの説明は省略する。なお、本項を始めとする本項以下の検査方法に対して、上記検査装置に関する各種態様において採用されている技術的特徴を、任意に付加することも可能である。
【0033】
(22)前記波動検出工程が、
前記1以上の球体を前記循環路内に存在させた状態において、前記ナットと前記軸状治具とを相対回転させ、その相対回転による前記循環路内の前記1以上の球体の移動に伴って発生する前記発生波動を検出する工程を含む(21)項に記載のナット検査方法。
【0034】
本項の態様は、検査方法の具体的な手法を限定した一態様である。簡単にいえば、例えば、複数の球体を循環路内に供給し、それらを循環路内に留め置いた状態で、ナットと軸状治具とを相対回転させて行う検査方法である。本項の態様の検査方法によれば、実際にボールねじ機構が用いられる状態に近い状態において、ナットの検査を実行することができる。なお、本項の態様の検査方法を実行するための検査装置として、上記検査装置を、ナットと軸状治具とを相対回転させる相対回転装置を備えるように構成することが可能である。
【0035】
(23)前記球体供給工程が、前記1以上の球体の各々を、順次、循環通路内に供給しつつ前記連通路を通過させる工程を含み、
前記波動検出工程が、前記1以上の球体が前記連通路を通過する毎の前記発生波動を検出する工程を含む(21)項に記載のナット検査方法。
【0036】
本項の態様は、検査方法の具体的な手法を限定した一態様である。本項の態様は、上記態様と異なり、球体を循環路内に留め置かず、例えば、上記球体送給装置の作用によって、球体を連通路を通過させ、その通過時における発生波動の検出を実行するような態様である。本項の態様によれば、ナットと軸状治具とを相対回転させることを要しないため、簡便な検査が実現する。
【実施例】
【0037】
以下、請求可能発明の実施例およびそれの変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0038】
<ナットおよびそれによって構成されるボールねじ機構>
本実施例のナット検査装置およびその装置を利用したナット検査方法において検査対象となるナットによって構成されるボールねじ機構を、図1に示す。このボールねじ機構は、ねじ軸10と、ナット12と、それらを螺合させるためのベアリングボール14とを含み、それらが協働することによって構成される。ねじ軸10に形成されたねじ溝16およびナット12に形成されたねじ溝18とによって、ベアリングボール14が通過可能な螺旋状に延びる通路、つまり、螺旋路が形成されることになる。
【0039】
ところが、ナット12は、ねじ溝18が形成されたナット本体20に4つのデフレクタ22が付設されたデフレクタ式のナットとされていることから、本ボールねじ機構では、それら4つのデフレクタ22によって4つの循環路24が形成され、ベアリングボール14は、それら4つの循環路24の各々を循環する。なお、図1では、ナット12の図における上下位置に位置する2つのデフレクタ22のみが示されており、他の2つのデフレクタ22は、ねじ軸10の紙面に直行する方向における手前側と奥側との各々に位置している。手前側に位置するものは、図における左右方向(以下、「軸線方向」という場合がある)において、図示されている2つのデフレクタ22の中間に位置しており、また、奥側に位置するものは、下方に位置するものの右側に位置している。同様に、ベアリングボール14は、4つの循環路24のうち、上下に位置する2つのデフレクタ22に対応する2つの循環路24に存在するのみが示されている。ちなみに、以下の説明において、4つのデフレクタ22,4つの循環路24およびそれらに対応する構成要素の各々を呼び分ける場合には、軸線方向における左側のものから右側のものにかけて、順に、デフレクタ22a〜22d,循環路24a〜24dといった具合に、添え字a〜dを付して呼ぶことととする。
【0040】
図2は、ナット12単体の断面図であり、図1に示すボールねじ機構から、ねじ軸10,ベアリングボール14を取り除いた状態を示す図と考えることができる。また、図3は、デフレクタ22を示す4面図および1つの断面図(図におけるA−A断面を示す)である。それらの図から解るように、デフレクタ22は、その外形が、概して、高さの低い鍔付楕円柱形状をなし、ベアリングボール14が三次元曲線軌道に沿って通過可能な通過孔30が、鍔部32が設けられている背面とは反対側に形成されている。ナット本体20には、4つのデフレクタ穴34が、ナット本体20の周壁を貫通して形成されており、デフレクタ22は、それら4つのデフレクタ穴34の各々に嵌め込まれている。このようなデフレクタ22が嵌め込まれることによって、上記螺旋路の軸線方向において互いに隣り合う2箇所を繋ぐ連通路36が形成され、その結果として、上述した循環路24が形成される(図1参照)。つまり、デフレクタ22は、ナット12において、上記連通路36を形成する連通路形成部として機能するものとされている。なお、本デフレクタ22は、単一の部品とされているが、2つの部品が組み合わされることによって構成されるものであってもよい。
【0041】
ナット12は、デフレクタ22がデフレクタ穴34に嵌め込まれる構造をなしている。そのため、デフレクタ22の寸法精度、デフレクタ穴34の形成精度等によっては、デフレクタ34とナット本体20の境において段差が発生する場合がある。この段差が、循環路24における連通路36以外の部分(以下、「非連通路部」という場合がある)からの連通路36への、あるいは、連通路36から非連通路部への移行箇所G(図2参照)に存在する場合、その箇所をベアリングボール14が通過する際、その段差が干渉することで、ベアリングボール14の移動の円滑性が損なわれたり、また、ボールねじ機構の振動,ボールねじ機構からの異音が発生することになる。そのような実情に鑑み、本ボールねじ機構の検査は、ベアリングボール14が連通路36を通ることによって発生する上記のような現象の有無,程度を検出することによって行われる。
【0042】
<ナット検査装置>
本実施例のナット検査装置は、主に、ベアリングボール14が連通路36を通る際の振動を検出することで、ナット12に起因するボールねじ機構の動作円滑性を検査するための装置である。ナット検査装置は、図4に全体構成を示すように、概して、基台50と、基台50上に設けられたナットキャリア52,軸状治具54,4つの球体送給装置56,球体収容バケット58,球体回収ボックス60等を含んで構成されている。
【0043】
ナットキャリア52は、検査の対象となるナット12を保持し、そのナット12を回転および軸線方向(図の左右方向)に移動させる装置である。ナットキャリア52は、ナット12を保持するナットホルダ70を有している。このナットホルダ70は、3つのチャック爪72を有するチャック装置とされており、それらチャック爪72によってナット12の一端部を把持する。ナットホルダ70は、ホルダ支持台74によって回転可能に支持されており、ホルダ支持台74には、ナット回転モータ76が固定されて配設され、それのモータ軸に設けられたギヤ78がナットホルダ70の外周に設けられギヤ80と噛合させられている。モータ76を回転させることで、ナットホルダ70、つまり、ホルダ70に保持されたナット12が軸線まわりに回転させられる。また、基台50上には2条のレール82が敷設され、それらのレール80によって、ホルダ支持台74は、軸線方向に移動可能とされている。基台50には、さらに、ねじロッド84が軸方向に延びる姿勢で固定的に配置されている。このねじロッド84は、ボールねじ機構を構成するものであり、ホルダ支持台74に回転可能に設けられたナット(図示されていない)と螺合している。ホルダ支持台74は、自身に設けられたナット移動モータ86がそのナットを回転させることで、軸線方向に進退し、それによって、ナットホルダ70に保持されたナット12が軸線方向に移動する構造とされている。
【0044】
図に示すナット12の軸線方向位置は、軸状治具54に対してナット12がセットされる基準となる位置(以下、「進出基準位置」という場合がある)であり、ナットキャリア52によって、ナット12は、進出基準位置からある程度の範囲で前進可能とされ、また、軸状治具54がナット12から抜き出された状態となる位置(以下、「退避位置」と言う場合がある)まで後退可能とされている。なお、ホルダ支持台74には、レール82と係合するブレーキ88が設けられており、そのブレーキ88が解除されかつナット移動モータ86に電力が供給されていない状態においては、軸状治具54とナット12とが螺合したままでナット12が回転させられるのに伴い、ホルダ支持台74の前進・後退が許容される。ちなみに、ナットホルダ70には、アウタレースが保持される状態でベアリング89が嵌め込まれており、進出基準位置においては、軸状治具54の先端部が、インナレースに緩やかに挿入される状態となり、ナット12と軸状治具54の軸線のズレが防止される。また、図に示すナット12の回転位置は、軸状治具54に対してナット12がセットされる場合の回転位置(以下、「基準回転位置」という場合がある)である。
【0045】
図5に軸状治具54の正面図を、図6に、図5におけるB−B断面を示す。それらの図から解るように、概して円柱形状をなし、前述のねじ軸10が有するねじ溝16と同じねじ溝90が、部分的に形成されている。図に二点鎖線で示すナット12の位置は、上記進出基準位置であり、その位置において、ナット12と軸状治具54とによって、上述した4つの循環路24が形成される。本ナット検査装置によるナット12の検査では、4つの循環路24に、詳しくは、4つの循環路24の一部であって連通路36を含む部分に、上記ベアリングボール14と同じ外形および材質のボールを検査用球体92(以下、単に「球体92」という場合がある)が供給されて振動の検出が実行される。そのため、軸状治具54は、4つの循環路24の各々に対して、その各々に開口する球体92の供給路96および排出路98が設けられている。この軸状治具54では、それら供給路96および排出路98は、それぞれ、各循環路24,各連通路36,各デフレクタ22に対応して、4つずつ設けられている。なお、図5では、循環路24aに対応する供給路96aおよび排出路98aのみが、鎖線にて全体が表されており、他のものの一部は、手前側から視認可能な開口のみが図示されている。また、図6においても、循環路24aに対応する供給路96aおよび排出路98aのみ、破線によってそれらの全体が表示されている。
【0046】
図5および図6から解るように、軸状治具54は、中実であり、供給路96,排出路98の各々は、穿設して設けられており、軸線方向に直線的に延びる部分と、その部分から曲げられてねじ溝90に達する部分とに区分することができる。直線的に延びる部分は、軸直断面において比較的中心に近い位置に位置し、ねじ溝90に達する部分は、その位置から周方向に向かうとともに、ねじ溝90に漸近するように曲げられてねじ溝90に達し、供給開口100,排出開口102が形成される。このような形状の通路とされていることから、球体92は、供給路96から循環路24に、また、循環路24から排出路98に円滑に移動可能とされている。なお、1つの循環路24に対応する供給路96の供給開口100および排出路98の排出開口102は、それらによって連通路36つまりデフレクタ22を挟む位置においてねじ溝90に形成される。なお、軸状治具54の基端部には、4つの供給管104および4つの排出管106が付設されたキャップ部材108が取り付けられ、供給路96,排出路98の各々は、それら供給管104,排出管106の各々に繋げられている。また、軸状治具54は、イケール形状の治具支持部材110によって、基台50に固定されている(図4参照)。
【0047】
球体送給装置56は、球体92を、圧縮エアの圧力によって、供給管104,供給路96を介して、循環路24に供給する装置であり、4つの循環路24の各々に対応して、4つ設けられている。それら4つの球体送給装置56は、互いに同じ構造のものとさており、それぞれは、図7に示すような構造となっている。各球体送給装置56は、概して直方体をなすベースブロック120を基体とし、それに穿設された2つの通路である主通路122および球体導入路124と、主通路122を開閉すべく設けられた上流側弁126および下流側弁128と、球体導入路124を開閉すべく設けられた球体導入アクチュエータ130とを含んで構成されている。なお、それらの弁126,128、アクチュエータ130は、いずれも電磁式のものである。
【0048】
主通路122には、それの下流側において、供給管104が接続されている。また、上流側には、図示されていない高圧エア源からのホースが接続されるホースジョイント132が付設されており、そのジョイント132から、圧縮エアが導入される。上流側弁126,下流側弁128は、いずれも、非励磁状態において主通路122を連通し、励磁状態において主通路122を遮断する。球体導入路124は、下方に位置する一端部が、上流側弁126と下流側弁128との間において主通路122と接続され、上方に位置する他端部が、球体収容バケット58まで繋がる球体導入管134と接続されている。球体導入アクチュエータ130は、断面が概してJ字状をなすストッパ136がソレノイドによって進退される構造をなしている。図に示す非励磁状態において、ストッパ136は後退させられており、それの下方の係止片部が、上方から列状をなして導入される複数の球体92の落下を阻止する。一方、励磁状態において、ストッパ136は前進させられ、下方の係止片部に設けられた通孔137から最下方に位置する球体92を主通路122に落下させるとともに、上方の係止片部によって他の複数の球体92の落下を阻止する。したがって、球体導入アクチュエータは、それの1進退動作によって1個の球体92が主通路122内に導入するように機能する。1つの球体92が主通路122内に導入された後、上流側弁126,下流側弁128がともに、所定時間開弁させられ、その球体92が、供給管104に向かって圧送される。
【0049】
複数の球体92を送給する場合には、上記動作、つまり、1サイクルの動作を繰り返して行う。それによって、順次球体92が、数珠つなぎの状態で、供給管104,供給路96を通って、ナット12と軸状治具54とによって形成された循環路24,詳しくは、連通路36に供給することが可能とされる。なお、主通路122には、球体92の通過を検知する通過センサ138が設けられており、このセンサ138によって、送られた球体92の数を把握することが可能とされている。ちなみに、各球体送給装置56は、支持部材140によって、基台50上に支持されている(図4参照)
【0050】
球体送給装置56によって供給される球体92は、図1に示されている球体収容バケット58に収容されている。球体収容バケット58は、4つの球体送給装置56に共通して1つ設けられており、4つの落下口を有して、それぞれの落下口が4つの球体導入管134の各々を介して、4つの球体供給装置56に接続されている。なお、治具支持部材110の上端部にはサドル142が付設され、また、基台50には、2つのコラム144が立設されている。それらサドル142および2つのコラム144によって、支持板146が上架されており、球体収容バケット58は、その支持板146によって支持されている。
【0051】
一方、軸状治具54の排出路98には、排出管106が接続されている。この排出管106は、概して下方に曲げられており、その曲げられた部分が上述した供給管104の間を通って、先端が球体回収ボックス60に至るように配設されている。排出管106には、図8に示すように、球体係止アクチュエータ150が設けられている。このアクチュエータ150は、電磁式のものであり、ストッパピン152が、励磁状態において排出管106の内部に突出する構造とされている。排出管106は、循環路24に供給された球体92を球体回収ボックス60に導くものであるが、球体係止アクチュエータ150を作動させることによって、その球体92の排出を禁止し、数珠つなぎとなった複数の球体92のいくつかのものを、循環路24内に留め置くことが可能である。
【0052】
本ナット検査装置には、他に、図4に示すように、ナット12の軸方向端面までの距離を検出することによって軸方向位置を認識するための軸方向位置センサ160と、ナット12に刻設された基準点を検知することによってナット12の基準回転位置を検出するための回転位置センサ162が設けられている。軸方向位置センサ160は、軸状治具54を支持する治具支持部材110に付設されており、また、回転位置センサ162は、治具支持部材110の上部から延び出すブラケット164に付設されている。
【0053】
本ナット検査装置は、さらに、制御盤170を備えている。制御盤170は、コンピュータおよび各モータ,電磁弁等の駆動回路を主体として構成されたものであり、前面パネルには、出力デバイスとしてのディスプレイ172,入力デバイスとしての各種の操作スイッチ174が設けられている。この制御盤170は、ナット検査装置の動作を司るとともに、検出されたナット12の振動を解析してそのナット12の品質の良否を判定する機能をも有している。上述のチャック爪72のアクチュエータ、ナット回転モータ76、ナット移動モータ86、ブレーキ88、球体供給装置56が有する上流側弁126,下流側弁128および球体導入アクチュエータ130、球体係止アクチュエータ150等は、制御盤170の出力ポートに接続され、また、上述の通過センサ138、軸方向位置センサ160、回転位置センサ162等は、制御盤170の入力ポートに接続されている。
【0054】
なお、振動の検出は、図4に示すように、圧電型加速度センサである加速度ピック180を、波動検出器として、ナット12の外周に、詳しくは、デフレクタ22の背面に接触させるように取り付けて行う。ナット12は4つのデフレクタ22を有しており、加速度ピック180は4つ取り付けられ、それら4つの加速度ピック180による検出信号は、上記制御盤170に送信される。ちなみに、加速度ピック180の検出信号は、制御盤170内に設けられたアンプによって増幅され、その増幅された信号に対して、当該ナット12の良否判定のための解析処理が実行される。
【0055】
<ナットの検査のフロー>
上記ナット検査装置を使用したナット12の検査では、まず、ナット12の軸状治具54に対するセットが行われる。具体的言えば、最初に、ナットキャリア52のホルダ支持台74が後退させられた位置(ナット12がナットホルダ70に保持された場合においてその上記退避位置に位置するホルダ支持台74の位置)に位置させられた状態において、検査が実施されるナット12を、ナットホルダ70に押し付け、チャッククランプスイッチを操作する。これにより、チャック爪72が閉じ、ナット12がナットホルダ70に保持される。次いで、ナット12の上記所定の位置に、4つの加速度ピック180を取り付け、それらの取付後、検査開始スイッチを操作する。この操作によって、その後は、自動的にナット検査装置が所定の動作を実行する。
【0056】
まず、軸線方向位置センサ160の検出値に基づいて、ホルダ支持台74が進出させられることで、ナット12が上述の進出基準位置に位置させられ、その位置において、ブレーキ88が作動させられる。その後、進出基準位置において、ナット12は回転させられ、回転位置センサ162の検出結果に基づいて、上述の基準回転位置においてナット12が停止させられる。この一連の動作によって、ナット12の軸状治具54に対する適正位置へのセットが完了する。
【0057】
次に、4つの排出管106の各々に設けられた球体係止アクチュエータ150が作動させられ、球体92が排出管106を通って球体回収ボックス60へ向かうことが禁止される。この状態において、4つの球体送給装置56が作動を開始する。具体的には、先に説明したように、球体導入アクチュエータ130,上流側弁126,下流側弁128の各々の1サイクルの動作が、通過センサ138の検出信号から得られるカウント値に基づいて、所定の数の球体92が、連通路36を含む循環路24内に留置されるように、所定回数のサイクル動作が行われる。つまり、予定した数の球体92が、各循環路24内に留め置かれるように、設定回数のサイクル動作が行われるのである。このような球体供給装置56の作動により、所定数の球体92が循環路24内に供給される。
【0058】
球体92が供給された後、検査作動が実行される。この検査作動では、まず、ナットキャリア52のブレーキ88が解除され、その状態において、ナット12が、往復反転させられる。具体的には、例えば、基準回転位置から±180゜の範囲で、数回の反転動作が行われる。この反転動作の最中において、各加速度ピック180の振動検出信号に対しての解析処理が行われる。4つの加速度ピック180a〜180dの振動検出信号が、例えば、図9のグラフに示されるようなものであったとする。ちなみに、図9における横軸は、時間tの経過を表し、縦軸は、振動の強度I(振幅に相当する)を表し、(a)〜(d)の各々の検出信号(以下、「検出信号(a)等」という場合がある)は、デフレクタ22a〜22dの各々に対して、つまり、連通路36a〜36dの各々の箇所に設けられた加速度ピック180a〜180dの検出信号である。なお、この図は、検査作動全体の時間のうちのある一部の時間における検出信号である。
【0059】
このグラフから解るように、ナット12に対する振動検出信号は、検出信号(a)〜(d)のいずれも、ある時間ピッチで、比較的高い強度の高い信号が検出されている。具体的には、時刻t1,t1’,t1”において現れたもの(以下、「第1振動ピーク」という場合がある)、および、時刻t2,t2’,t2”において現れたもの(以下、「第2振動ピーク」という場合がある)である。第1振動ピークを比較すれば、検出信号(b)のものが最も強度が高く、第2振動ピークを比較すれば、検出信号(c)のものが最も強度が高いことが解る。振動伝播における減衰効果を考慮すれば、第1振動ピークは、球体92が連通路36bを通る場合の振動であり、第2振動ピークは、球体92が連通路36cを通る場合の振動であると考えられる。このことに基づき、本ナット検査装置では、同時期に発生した振動に対して、最も高い強度で検出された値をもって、振動発生箇所を特定するようにされている。そして、その振動の強度値が、設定された閾強度I0を超えている場合に、そのナット12が不良品であると判定する。グラフに示された検出信号では、第1ピークの最高強度が閾強度I0を超えており、このナット12は不良であると認定され、不良箇所として、連通路36bが特定される。このような良否の判定結果および特定された不良箇所は、制御盤170のディスプレイ172に表示される。
【0060】
上述の検査作動が終了した後、各球体係止アクチュエータ150による球体92の係止が解除され、その解除された状態において、各球体送給装置56の上流側弁126および下流側弁128が設定時間開弁されて、各供給路96,循環路24,排出路98等に存在しているすべての球体92が、球体回収ボックス60に回収される。このような回収動作の後、ナット12は、退避位置まで移動させられて、本ナット検査装置による自動作動が終了する。加速度ピック180を外し、チャックアンクランプスイッチを操作して、ナット12をナットホルダ70から取り外して、1つのナット12に対する検査作業が完了する。
【0061】
<変形例>
上記実施例では、循環路24内に複数の球体92を留め置いた状態においてナット12と軸状治具54とを相対回転させ、その相対回転に伴う球体92の連通路36の通過に起因する振動を検出するようにされていた。このような検査の手法に代え、ナット12と軸状治具54との相対回転を実施せずに、振動の検出を行ってもよい。つまり、ナット12を進出基準位置,回転基準位置に定置させた状態において、球体送給装置56によって、球体92を連通路36を通過させるように送給し、その通過の際の振動を検出することも可能である。その際、例えば、複数の球体92を、数珠つなぎの状態で、順次、連通路36を通過させるようにしてもよく、また、1個あるいは数個の球体92を、あたかも、射出するように、順次、連通路36を通過させるようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施例では、ベアリングボール14と同じ形状の球体92を、単体の状態で複数用いて検査を行うようにされていたが、図10に示すような実際に数珠状に繋がれた複数の球体を用いて、検査を行うことも可能である。図10(a)は、隣り合う球体200を、連結ピン202で連結した構造をなすものである。球体200には、背向する2箇所に凹所204が設けられ、連結ピン202の両端部の各々には、概して球形状の被係止部206が設けられており、凹所204に被係止部206を収容した状態でカシメることにより、球体200とピン202とが連結されている。凹所204は被係止部206に対して遊間を有しており、球体200と連結ピン202とは、ある程度の自由な相対動作が許容されている。また、図10(b)は、球体210をワイヤ212によって結んだ構造をなすものである。球体210には貫通孔214が設けられ、ワイヤ212は、この貫通孔214を通るようにされている。このように繋がれた球体200,210を使用する場合には、例えば、図11に示すように、その繋いだものをリール230に巻回してセットし、そのリール230から引き出された部分を、互いに対向する回転ドラム232で挟み、それらドラム232を回転させることで、球体200,210を循環路24に供給することが可能である。また、球体200,210を循環路24から排出する場合には、リール230にて巻き取るようにして行うことができる。このような態様では、検査用球体を簡便に取り扱えることになる。
【0063】
さらに、上記実施例では、中実の軸状治具54を用いて検査を行っていた。上記のような軸状治具54に代えて、図12に示すような中空の軸状治具240を用いることも可能である。この場合、治具本体242には、循環路24への開口244を設け、所定の形状に曲げられたパイプ246を、それの一端部が開口244に繋がるように付設することによって、球体の供給路および排出路を形成することが可能である。つまり、管状の通路形成部材を用いて軸状治具を構成することもできるのである。
【0064】
さらにまた、上記実施例では、球体92が連通路36を通る際の振動を検出することによってナット12の検査を行っている。これに代えて、音を検出することによって、ナット12の検査を実行することも可能である。この場合、例えば、加速度ピック180に代えて、波動検出器としてのマイクロフォンをナット12に付設し、そのマイクロフォンによって検出された音圧レベルに基づいて、ナットの良否判定、不良箇所の特定等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例のナット検査装置およびその装置を利用したナット検査方法において検査対象となるナットによって構成されるボールねじ機構を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のナットを拡大して模式的に示す断面図を示す。
【図3】図1のナットを構成するデフレタを模式的に示す4面図および断面図である。
【図4】実施例のナット検査装置の全体構成を示す図である。
【図5】図4のナット検査装置に設けられた軸状治具を模式的に示す正面図である。
【図6】図5の軸状治具の軸直断面図である。
【図7】図4のナット検査装置が有する球体送給装置を示す断面図である。
【図8】図4のナット検査装置が有する球体の排出管を示す図である。
【図9】ナットの検査作業によって得られた振動検出信号を示すグラフである。
【図10】ナットの検査に用いる検査用球体の変形例を示す図である。
【図11】図10に示す検査用球体の供給、排出を実行するための装置を概念的に示す図である。
【図12】図5に示す軸状治具の変形例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10:ねじ軸 12:ナット 14ベアリングボール 16:ねじ溝 18:ねじ溝 20:ナット本体 22:デフレクタ(連通路形成部) 24:連通路 36:連通路 52:ナットキャリア 54:軸状治具 56:球体送給装置 92:検査用球体 96:供給路 98:排出路 100:供給開口 102:排出開口 180:加速度ピック(波動検出器) 200:検査用球体 210:検査用球体 240:軸状治具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸およびベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットであって、前記ベアリングボールの循環路を形成すべく自身のねじ溝と前記ねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を互いに連通させる連通路を形成するための連通路形成部が設けられたナットを検査するための検査装置であって、
前記ねじ軸のねじ溝に相当するねじ溝が設けられ、前記循環路が形成されるようにして前記ナットに嵌め合わされるとともに、自身の内部に設けられてその循環路に開口する供給路を有する軸状治具と、
その供給路から前記循環路内に供給されるところの前記ベアリングボールに相当する1以上の球体と、
前記循環路に供給された前記1以上の球体が前記連通路を通ることによって発生する音と振動との少なくとも一方である発生波動を検出する波動検出器と
を備えたナット検査装置。
【請求項2】
前記軸状治具が、
自身の内部に設けられ、前記連通路を挟んで前記供給路とは反対側において前記循環路に開口し、前記循環路内に供給された前記1以上の球体を排出するための排出路を備えた請求項1に記載のナット検査装置。
【請求項3】
当該ナット検査装置が、
圧縮気体を利用して、前記1以上の球体を、前記供給路を介して前記循環路内に送給する球体送給装置を備えた請求項1または請求項2に記載のナット検査装置。
【請求項4】
当該ナット検査装置が、
前記連通路形成部が複数設けられることで複数の前記循環路が形成される前記ナットを検査するための装置であり、それぞれが前記複数の循環路のそれぞれに対応する複数の前記供給路と、それぞれが前記複数の循環路のそれぞれに対応する複数の前記波動検出器とを備えた請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のナット検査装置
【請求項5】
ねじ軸およびベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットであって、前記ベアリングボールの循環路を形成すべく自身のねじ溝と前記ねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を互いに連通させる連通路を形成するための連通路形成部が設けられたナットを検査する検査方法であって、
前記ねじ軸のねじ溝に相当するねじ溝が設けられるとともにそのねじ溝に開口する供給路が設けられた軸状治具を、前記循環路が形成されるようにかつ前記供給路がその循環路に開口するようにして、前記ナットに嵌め合わすセット工程と、
前記ベアリングボールに相当する1以上の球体を、前記供給路を通して前記循環路内に供給する球体供給工程と、
前記循環路に供給された前記1以上の球体が前記連通路を通ることによって発生する音と振動との少なくとも一方である発生波動を検出する波動検出工程と
を含んで構成されるナット検査方法。
【請求項6】
前記波動検出工程が、
前記1以上の球体を前記循環路内に存在させた状態において、前記ナットと前記軸状治具とを相対回転させ、その相対回転による前記循環路内の前記1以上の球体の移動に伴って発生する前記発生波動を検出する工程を含む請求項5に記載のナット検査方法。
【請求項7】
前記球体供給工程が、前記1以上の球体の各々を、順次、循環通路内に供給しつつ前記連通路を通過させる工程を含み、
前記波動検出工程が、前記1以上の球体が前記連通路を通過する毎の前記発生波動を検出する工程を含む請求項5に記載のナット検査方法。
【請求項1】
ねじ軸およびベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットであって、前記ベアリングボールの循環路を形成すべく自身のねじ溝と前記ねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を互いに連通させる連通路を形成するための連通路形成部が設けられたナットを検査するための検査装置であって、
前記ねじ軸のねじ溝に相当するねじ溝が設けられ、前記循環路が形成されるようにして前記ナットに嵌め合わされるとともに、自身の内部に設けられてその循環路に開口する供給路を有する軸状治具と、
その供給路から前記循環路内に供給されるところの前記ベアリングボールに相当する1以上の球体と、
前記循環路に供給された前記1以上の球体が前記連通路を通ることによって発生する音と振動との少なくとも一方である発生波動を検出する波動検出器と
を備えたナット検査装置。
【請求項2】
前記軸状治具が、
自身の内部に設けられ、前記連通路を挟んで前記供給路とは反対側において前記循環路に開口し、前記循環路内に供給された前記1以上の球体を排出するための排出路を備えた請求項1に記載のナット検査装置。
【請求項3】
当該ナット検査装置が、
圧縮気体を利用して、前記1以上の球体を、前記供給路を介して前記循環路内に送給する球体送給装置を備えた請求項1または請求項2に記載のナット検査装置。
【請求項4】
当該ナット検査装置が、
前記連通路形成部が複数設けられることで複数の前記循環路が形成される前記ナットを検査するための装置であり、それぞれが前記複数の循環路のそれぞれに対応する複数の前記供給路と、それぞれが前記複数の循環路のそれぞれに対応する複数の前記波動検出器とを備えた請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のナット検査装置
【請求項5】
ねじ軸およびベアリングボールと協働してボールねじ機構を構成するナットであって、前記ベアリングボールの循環路を形成すべく自身のねじ溝と前記ねじ軸のねじ溝とによって形成される螺旋路の2箇所を互いに連通させる連通路を形成するための連通路形成部が設けられたナットを検査する検査方法であって、
前記ねじ軸のねじ溝に相当するねじ溝が設けられるとともにそのねじ溝に開口する供給路が設けられた軸状治具を、前記循環路が形成されるようにかつ前記供給路がその循環路に開口するようにして、前記ナットに嵌め合わすセット工程と、
前記ベアリングボールに相当する1以上の球体を、前記供給路を通して前記循環路内に供給する球体供給工程と、
前記循環路に供給された前記1以上の球体が前記連通路を通ることによって発生する音と振動との少なくとも一方である発生波動を検出する波動検出工程と
を含んで構成されるナット検査方法。
【請求項6】
前記波動検出工程が、
前記1以上の球体を前記循環路内に存在させた状態において、前記ナットと前記軸状治具とを相対回転させ、その相対回転による前記循環路内の前記1以上の球体の移動に伴って発生する前記発生波動を検出する工程を含む請求項5に記載のナット検査方法。
【請求項7】
前記球体供給工程が、前記1以上の球体の各々を、順次、循環通路内に供給しつつ前記連通路を通過させる工程を含み、
前記波動検出工程が、前記1以上の球体が前記連通路を通過する毎の前記発生波動を検出する工程を含む請求項5に記載のナット検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−64863(P2007−64863A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253046(P2005−253046)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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