説明

ボールねじ装置

【課題】作業者が含油部材を固定部材内に容易に固定することができ、低コスト化を実現し、組立時の作業効率を向上させるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ねじ軸10と、ねじ軸10を貫通すると共に、転動体Bを介してねじ軸10に螺合してねじ軸10の軸方向に移動可能に設置されたナット20と、固定部材40とを有する。固定部材40は、ねじ軸10の表面に潤滑剤を供給する含油部材50、及びナット20内への異物の侵入を防ぐ防塵部材60を収容してナット20の端部に取り付けられる。固定部材40には、含油部材50の回転を制限する含油部材回転防止部材45が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボールねじ装置は、螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸をナットに挿通し、そのねじ溝を転動循環する複数のボールによってナットとねじ軸相互の相対移動をスムーズにするものである。
このようなボールねじ装置においては、運転中のボールねじ装置内に粉塵や切削粉などの異物が侵入すると、そのねじ溝面の摩耗を促進したり、あるいは圧痕を生じたりして異常な振動や騒音を発生し、ボールねじ本来の精度や性能を劣化させるだけでなく、ときには破損に至る事例も見受けられる。
【0003】
そのため、このようなボールねじ装置に対して外部からの異物の侵入を防ぐためには、従来からそのナット端部にフェルトワイパーシールやラビリンスシールを設けたり、ねじ軸全体を蛇腹などの種々のカバーで覆ってしまう方法、あるいはそれらの併用する方法などが一般的に用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
以下、図6〜図8を参照して、この種のボールねじ装置について説明する。図6は、従来のボールねじ装置の構成を示す軸方向に沿う断面図である。また、図7は、従来のボールねじ装置の固定部材の構成を示す図であり、(a)は背面図、(b)は(a)の7b−7b線に沿う断面図である。また、図8は、従来のボールねじ装置の組立順序を示す断面図である。
【0004】
図6に示すように、従来のボールねじ装置100は、軸方向に延びるロッド状のねじ軸110と、ねじ軸110が貫通する筒形状のナット120と、ナット120の端部120aに設けられた循環部材130と、循環部材130に取り付けられた固定部材140とを有する。固定部材140には、ねじ軸110の外周面に潤滑油を供給する含油部材150と、固定部材140内(転動路内)への塵埃の侵入を防ぐ防塵部材160とが取り付けられている。具体的には、固定ねじ171によって循環部材130の端面に固定部材140がそれぞれ装着されている。また、含油部材回転止め用ねじ172によって含油部材150が固定部材140の内部に装着されている。また、防塵部材回転止め用ねじ173によって防塵部材160が固定部材140の内部に装着されている。
【0005】
ここで、含油部材150を固定部材140に装着する際の作業手順としては、まず、図8(a)に示すように、ねじ軸110を貫通させながら、循環部材130の端部130aに形成されたねじ孔132に、ねじ孔144を介して固定ねじ171を螺合させて、固定部材140を循環部材130に取り付ける。
次に、図8(b)に示すように、ねじ軸110を貫通させながら、含油部材150を固定部材140内に挿入し、含油部材150の外周面を固定部材140の内周面に沿って押し込む。次に、固定部材140の周壁部141を貫通するねじ孔142を介して、固定部材140の内周面から突出した含油部材回転止め用ねじ172を含油部材150の外周面に形成された凹部151に螺合させて含油部材150が固定される。
その後、図8(c)に示すように、固定部材140の周壁部141を貫通するねじ孔143を介して、固定部材140の内周面から突出した防塵部材回転止め用ねじ173を防塵部材160の外周面に形成された凹部161に螺合させて防塵部材160が固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−43244号公報
【特許文献2】特開2008−045632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このように構成された従来のボールねじ装置100は、固定部材140の軸方向の長さによっては、作業者が含油部材150を固定部材140内に固定することが難しいことがある。具体的には、固定部材140の軸方向の長さが短ければ、ねじ孔142と固定部材140内の含油部材150との位置関係が把握しやすいが、固定部材140の軸方向の長さが長い場合等では、ねじ孔142と固定部材140内の含油部材150との位置関係が把握しにくい。このように、固定部材140の軸方向の長さによっては、作業者にとって非常に困難な作業となる場合があり、結果として、作業効率の低下、及び組立てに要する時間の短縮化について改善の余地があった。
【0008】
また、固定部材140の周壁部141には、タップ加工によってねじ孔142,143を形成する必要があり、加工数が多くなると共に、製造コストの増大を招くことがあるので、加工数の減少及び製造コストの低減についても改善の余地があった。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、作業者が含油部材を固定部材内に容易に固定することができ、低コスト化を実現し、組立時の作業効率を向上させるボールねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の請求項1に係るボールねじ装置は、ねじ軸と、該ねじ軸を貫通すると共に、転動体を介して前記ねじ軸に螺合して前記ねじ軸の軸方向に移動可能に設置されたナットと、
前記ねじ軸の表面に潤滑剤を供給する含油部材、及び前記ナット内への異物の侵入を防ぐ防塵部材を収容して前記ナットの端部に取り付けられた固定部材とを有するボールねじ装置であって、
前記固定部材には、前記含油部材の回転を制限する含油部材回転防止部材が形成されたことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の請求項2に係るボールねじ装置は、請求項1に記載のボールねじ装置において、前記含油部材回転防止部材が、前記固定部材に一体に成形されたことを特徴としている。
また、本発明の請求項3に係るボールねじ装置は、請求項1又は2に記載のボールねじ装置において、前記含油部材回転防止部材が、前記ねじ軸の径方向に対して対称的に複数設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業者が含油部材を固定部材内に容易に固定することができ、低コスト化を実現し、組立時の作業効率を向上させるボールねじ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るボールねじ装置の一実施形態における構成を示す軸方向に沿う断面図である。
【図2】本発明に係るボールねじ装置の一実施形態における固定部材の構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は背面図、(c)は(b)の2c−2c線に沿う断面図である。
【図3】本発明に係るボールねじ装置の一実施形態における含油部材の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図4】本発明に係るボールねじ装置の一実施形態における組立順序を示す断面図である。
【図5】本発明に係るボールねじ装置の他の実施形態における固定部材の構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は背面図、(c)は(b)の5c−5c線に沿う断面図である
【図6】従来のボールねじ装置の構成を示す軸方向に沿う断面図である。
【図7】従来のボールねじ装置の固定部材の構成を示す図であり、(a)は背面図、(b)は(a)の7b−7b線に沿う断面図である。
【図8】従来のボールねじ装置の組立順序を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るボールねじ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のボールねじ装置における構成を示す軸方向に沿う断面図である。また、図2は、本実施形態のボールねじ装置における固定部材の構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は背面図、(c)は(b)の2c−2c線に沿う断面図である。また、図3は、本実施形態のボールねじ装置における含油部材の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。また、図4は、本実施形態のボールねじ装置における組立順序を示す断面図である。
【0014】
(ボールねじ装置の構成)
図1に示すように、本実施形態のボールねじ装置1は、軸方向に延びるロッド状のねじ軸10と、ねじ軸10が貫通する筒形状のナット20と、ナット20の端部20aに設けられた循環部材30と、循環部材30に取り付けられた固定部材40とを有する。固定部材40には、ねじ軸10の外周面10aに潤滑油を供給する含油部材50と、転動路内への塵埃の侵入を防ぐ防塵部材60とが内蔵され、かつ固定されている。ここで、循環部材30は、ナット20の両端部20a,20aに設けられることが好ましい。
【0015】
ねじ軸10は、その外周面10aに複数のボールBが転動する螺旋状のねじ溝11が形成されている。
一方、ナット20は、ねじ軸10の外径より大きい内径で筒状に形成されている。ナット20の内周面には、ねじ軸10の外周面に形成された転動溝11に対向するように転動溝21が形成されている。これら、ねじ軸10の転動溝11と、ナット20の転動溝21とによって転動路が形成される。
【0016】
また、ナット20には、軸方向に貫通する貫通孔22が形成されている。この貫通孔22は、この貫通孔22及び転動路に連通するように循環部材30に形成された循環溝31と共に循環路を形成する。このようにして、ボールねじ装置1は、ボールBが転動路及び循環路を循環することによって、ボールBを介して螺合するねじ軸10とナット20とが軸方向に相対移動することとなる。
なお、循環部材30は、ナット20の端部20aに必ず設けられなくともよい。ナット20の外周面に別体の循環部材(図示せず)が設けられる等によってナット20の端部20aに循環部材30を設ける必要がない場合には、ナット20の端部20aに固定部材40が取り付けられる。
【0017】
<固定部材>
固定部材40は、図2に示すように、軸方向の両方の開口部40a,40bのそれぞれの開口面積を異ならせた筒形状をなす。具体的には、図1及び図2に示すように、固定部材40は、ねじ軸10よりも十分に径大な筒状の本体部41と、この本体部41の端部から径方向内方(ねじ軸10方向)に直角に連続する円環状のフランジ部42とから構成されている。すなわち、固定部材40の一方の開口部40aは、筒状の本体部41の開口部分であり、他方の開口部40bは、円環状をなすフランジ部42の開口部分である。なお、固定部材40は、本体部41とフランジ部42とがプレス成形により一体成形されていることが好ましい。
【0018】
また、フランジ部42には、含油部材50を固定する含油部材回転防止部材45が形成されている。
ここで、一方の開口部40aの開口径は、含油部材50及び防塵部材60の固定部材40内への設置を妨げない程度に開口されていればよく、他方の開口部40bの開口径は、循環部材30側(又はナット20側)への含油部材50の移動を制限できる程度に開口されていればよい。
【0019】
また、本体部41には、防塵部材60を固定するための防塵部材回転止め用ねじ72を螺合するねじ孔43が1つ以上形成されている。また、フランジ部42には、固定部材40を循環部材30(又はナット20)に固定するための固定ねじ71を螺合するねじ孔44が1つ以上形成されている。
固定部材40は、図1に示すように、一方の開口部40aがボールねじ装置1の外側に位置するように、他方の開口部40b(フランジ部42)を循環部材30(又はナット20)の端部30a(20a)に対向させて固定ねじ71で固定される。
【0020】
<含油部材>
含油部材50は、例えば、潤滑油を吸収保持するリング状に形成された材料から構成されており、ねじ軸10表面に潤滑剤を供給して適度な潤滑性を発揮する。なお、含油部材50は、図3に示すように、間隙部51を有して2つ以上に分割された複数の分割体52(図3においては2つ)によって構成されてもよい。
<防塵部材>
防塵部材60は、ねじ軸10の外周面10a(転動溝11を含む)に接するか又は所定の間隔を有して固定部材40の内部に固定される。具体的には、ネジ孔43に螺合された防塵部材回転止め用ねじ72によって固定部材40の内部に固定される。このように、防塵部材60の形状は、固定部材40の内周面の形状に合わせて形成されることが好ましく、円環形状が好ましい。
【0021】
[含油部材回転防止部材]
固定部材40には、含油部材50を固定する含油部材回転防止部材45が形成されている。含油部材回転防止部材45は、図2に示すように、フランジ部42に対して、本体部41の軸方向に沿うように突出して設けられる。含油部材回転防止部材45がフランジ部42に対して突出する向きは、固定部材40内に設置される含油部材50に対向する向きである。
このように、フランジ部42に対して突出して形成された含油部材回転防止部材45は、固定部材40内に設置される含油部材50に穿刺、又は間隙部51(図3参照)に係合することで、含油部材50がねじ軸10と共に軸方向に共回りすることを規制できる。なお、含油部材回転防止部材45が含油部材50に穿刺される態様では、含油部材回転防止部材45が穿刺可能なフエルト等の材料が含油部材50の材料として採用される。
【0022】
ここで、含油部材回転防止部材45は、図2に示すように、固定部材40に一体成形され、フランジ部42に形成された切り欠き部42aによって画成されてもよい。このように形成された含油部材回転防止部材45は、フランジ部42に対して直角に折り曲げることで本体部41の軸方向に沿うように突出させることができる。
【0023】
(含油部材及び防塵部材の装着手順)
次に、含油部材50及び防塵部材60を固定部材40に装着する際の作業手順について説明する。
まず、図4(a)に示すように、開口部40bにねじ軸10を貫通させながら、循環部材30の端部30aに形成されたねじ孔32に、ねじ孔44を介して固定ねじ71を螺合させて、固定部材40を循環部材30に取り付ける。
次に、図4(b)に示すように、ねじ軸10を貫通させながら、含油部材50を開口部40a側から固定部材40内に挿入し、含油部材50の外周面を固定部材40の内周面に沿って押し込む。この際、図4(c)に示すように、固定部材40に対して含油部材50が押し込まれる向きと反対の向きに突出して固定部材40に設けられた含油部材回転防止部材45が含油部材50に穿刺されるか、又は間隙部51に係合されて含油部材50が固定される。このようにして、含油部材50の回転が含油部材回転防止部材45によって規制され、結果として、ねじ軸10と共に軸方向に共回りすることが規制される。
【0024】
その後、図4(c)に示すように、固定部材40のねじ孔43を介して、固定部材40の内周面から突出した防塵部材回転止め用ねじ72を防塵部材60の外周面に形成された凹部61に螺合させて防塵部材60が固定される。
このとき、含油部材50は、防塵部材60によって軸方向の動きが制限されると共に、含油部材回転防止部材45によって回転も制限されている。従って、従来より用いられてきた「含油部材回転止め用のねじ」によって含油部材50を強固に固定することなく、含油部材50を確実に固定することができる。
【0025】
このように、含油部材回転防止部材45が固定部材40に設けられることによって、従来より必要であった、含油部材回転止め用のねじが不要となる。それに伴って、固定部材の本体部に含油部材回転止め用のねじを螺合させるねじ穴を形成するためのタップ加工も不要となる。
さらに、固定部材40内に含油部材50を固定する際、固定部材40に設けられた含油部材回転防止部材45を作業者が手探りで確認できるので、含油部材50を作業者の手の感覚のみで固定することできる。また、低コスト化を実現し、組立時の作業効率を向上させることができる。
【0026】
(他の実施形態)
本発明に係るボールねじ装置の他の実施形態として、図5に示すように、含油部材回転防止部材45を複数(例えば2つ)設けてもよい。また、固定部材40に複数設けられる含油部材回転防止部材45は、ねじ軸10の径方向に対して対称的に設けられることが好ましい。
以上説明したように、本発明によれば、作業者が含油部材を固定部材内に容易に固定することができ、低コスト化を実現し、組立時の作業効率を向上させるボールねじ装置を提供することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0027】
1 ボールねじ
10 ねじ軸
20 ナット
20a 端部
21 転動溝
22 貫通孔
30 循環部材
40 固定部材
40a 一方の開口部
40b 他方の開口部
41 本体部
42 フランジ部
43 ねじ孔
44 ねじ孔
45 含油部材回転防止部材
50 含油部材
60 防塵部材
71 固定ねじ
72 防塵部材回転止め用ねじ
B ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と、該ねじ軸を貫通すると共に、転動体を介して前記ねじ軸に螺合して前記ねじ軸の軸方向に移動可能に設置されたナットと、
前記ねじ軸の表面に潤滑剤を供給する含油部材、及び前記ナット内への異物の侵入を防ぐ防塵部材を収容して前記ナットの端部に取り付けられた固定部材とを有するボールねじ装置であって、
前記固定部材には、前記含油部材の回転を制限する含油部材回転防止部材が形成されたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記含油部材回転防止部材が、前記固定部材に一体に成形されたことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記含油部材回転防止部材が、前記ねじ軸の径方向に対して対称的に複数設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載のボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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