説明

ボールねじ駆動機構および産業機械

【課題】振れ取り機構を備えていてもボールねじの固有振動数の低下を防ぐことができ、スライダを高速駆動させることができるボールねじ駆動機構を提供すること。
【解決手段】ボールねじ2と、ボールねじナット3と、ボールねじ2の軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられたスライダ5と、ボールねじナット3の振れ回りを吸収する振れ取り機構6と、ボールねじナット3をボールねじ2の軸方向に沿って案内するとともに少なくともボールねじナット3の軸方向と異なる1方向へのボールねじナット3の移動を規制するナット案内機構8とを備える。ナット案内機構8により、少なくともボールねじナット3の軸方向と異なる1方向へのボールねじナット3の移動を規制することができるので、ボールねじ2の直径を太くすること無くボールねじ2の固有振動数の低下を防ぐことができ、スライダ5を高速駆動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ駆動機構および産業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元測定機や工作機械等の産業機械では、所定の部材(スライダ)を精密に直線駆動させるための機構としてボールねじ駆動機構を用いることがある。例えば、三次元測定機では、スライダを移動させるための機構にボールねじ駆動機構を用いることがある(例えば、特許文献1)。このようなボールねじ駆動機構では、スライダの直線的幾何運動精度を良好にするために、振れ取り機構を設けることがある(例えば、特許文献2)。
【0003】
図5は、特許文献2に記載のボールねじ駆動機構10Bの要部を示す平面図、図6は、図5のVI−VI線矢視図である。
特許文献2に記載のボールねじ駆動機構10Bは、図示しないモータにより回転駆動するボールねじ2と、ボールねじ2に螺合するボールねじナット3と、ボールねじ2と平行に設けられたガイドレール41と、ボールねじナット3に連結されガイドレール41に沿って直線移動するスライダ5と、ボールねじナット3およびスライダ5を連結する振れ取り機構6とを備えている。
【0004】
振れ取り機構6は、トラニオン機構となっており、スライダ5上に立設された一対のナットホルダ61と、ナットホルダ61に挿通しボールねじナット3を回転可能に支持する一対の支軸62とを備えている。特許文献2に記載のボールねじ駆動機構10Bでは、この振れ取り機構6により、ボールねじ2の曲がりなどに起因して生じるボールねじナット3の振れ回りを吸収することができ、スライダ5の直線的幾何運動精度を良好にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−157504号公報
【特許文献2】特開昭58−187642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のボールねじ駆動機構10Bでは、振れ取り機構6を設けることにより、ボールねじナット3の推進方向以外の自由度が増えるとともにボールねじナット3の質量が増加してしまうので、ボールねじ2の固有振動数、すなわち、共振が生じてしまうボールねじ2の回転数が低下してしまい、スライダ5を高速駆動させることができなくなるという問題がある。そこで、ボールねじ2の固有振動数を高めるため、ボールねじ2の直径を太くすることが考えられるが、この場合、エネルギー損失が増大してしまうという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、振れ取り機構を備えていても、ボールねじの直径を太くすること無くボールねじの固有振動数の低下を防ぐことができ、スライダを高速駆動させることができるボールねじ駆動機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のボールねじ駆動機構は、ボールねじと、前記ボールねじを回転駆動する駆動手段と、前記ボールねじに螺合するボールねじナットと、前記ボールねじの軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられたスライダと、前記スライダと前記ボールねじナットとを連結するとともに、前記ボールねじナットの振れ回りを吸収する振れ取り機構と、前記ボールねじナットを前記ボールねじの軸方向に沿って案内するとともに、少なくとも前記ボールねじナットの軸方向と異なる1方向への前記ボールねじナットの移動を規制するナット案内機構とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ナット案内機構により、少なくともボールねじナットの軸方向と異なる1方向へのボールねじナットの移動を規制することができるので、ボールねじナットの推進方向以外の自由度を減少させることができる。そのため、振れ取り機構を設けることによりボールねじナットの質量が増加しても、ボールねじの直径を太くすること無くボールねじの固有振動数の低下を防ぐことができ、スライダを高速駆動させることができる。
【0010】
本発明のボールねじ駆動機構では、前記ナット案内機構は、前記ボールねじの軸方向に直交する面内方向への前記ボールねじナットの移動を規制することが好ましい。
ここで、ボールねじナットには、ボールねじから軸周りの摩擦トルクが伝達される。この摩擦トルクがスライダに対してボールねじの軸を中心とする偶力として働き、スライダに幾何的な運動誤差を与える。
これに対し、本発明によれば、ナット案内機構は、ボールねじの軸方向に直交する面内方向へのボールねじナットの移動を規制するので、このナット案内機構により前記摩擦トルクを受けることができる。そのため、スライダが受ける摩擦トルクを軽減することができ、スライダの幾何的運動精度を向上させることができる。また、ナット案内機構により、ボールねじの軸方向に直交する面内方向へのボールねじナットの移動を規制することができるので、確実にボールねじの固有振動数の低下を防ぐことができる。
【0011】
本発明のボールねじ駆動機構では、前記ナット案内機構は、前記ボールねじの軸方向と直交する方向を中心とする前記ボールねじナットの回転を規制することが好ましい。
本発明によれば、ナット案内機構により、ボールねじの軸方向と直交する方向を中心とするボールねじナットの回転を規制することができるので、確実にボールねじの固有振動数の低下を防ぐことができる。
【0012】
本発明のボールねじ駆動機構では、前記ボールねじの軸方向に沿って設けられたガイドレールを有し、前記ガイドレールおよび前記スライダ間に流体薄膜層を形成して前記スライダを前記ガイドレールに沿って案内するスライダ案内機構を備えることが好ましい。
本発明によれば、空気軸受式のスライダ案内機構によりスライダを案内するので、スライダの幾何的運動精度を格段に向上させることができる。また、ナット案内機構の減衰比を大きな値に設定することにより、スライダの駆動制御時の振動を抑制しつつ制御系のゲインを大きくすることができる。
【0013】
本発明の産業機械は、前述したボールねじ駆動機構を備えることを特徴とする。
本発明によれば、前述したボールねじ駆動機構を備えるので、スライダを高速駆動させることができるなど、前述と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る産業機械を示す斜視図。
【図2】ボールねじ駆動機構を示す側断面図。
【図3】図2のIII−III線矢視図。
【図4】本発明の第2実施形態に係るボールねじ駆動機構を示す断面図。
【図5】従来のボールねじ駆動機構の要部を示す平面図。
【図6】図5のVI−VI線矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る産業機械としての三次元測定機1を模式的に示す斜視図である。
三次元測定機1は、基台11の両側にY軸方向に沿って立設された一対のコラム12と、コラム12間に跨って設けられるとともにコラム12上を移動自在に設けられた移動レール13と、移動レール13上をX軸方向に沿って移動自在に設けられたスライダ5と、下端に測定子が取り付けられスライダ5にZ軸方向に沿って移動自在に設けられたスピンドル14とを備えている。
移動レール13には、スライダ5を駆動するボールねじ駆動機構10がX軸方向に沿って設けられている。
【0016】
図2は、ボールねじ駆動機構10を模式的に示す断面図、図3は、図2のIII−III線矢視図である。以下、従来のボールねじ駆動機構10Bと同一機能部位には同一符号を付し、それらの説明を省略若しくは簡略化する。
ボールねじ駆動機構10は、ボールねじ2、駆動手段としてのモータ7、ボールねじナット3、スライダ案内機構4、スライダ5、振れ取り機構6、およびナット案内機構8を備えている。
【0017】
ボールねじ2は、移動レール13に設けられた軸受21,22により両端が回転可能に支持されている。具体的に、ボールねじ2は、一端が組み合わせアンギュラ玉軸受21により支持されるとともに、他端が単列深溝玉軸受22により支持された「固定―支持」による支持構造により回転可能に支持されている。ボールねじ2の支持スパンLは1500mm、直径Dは40mmに設定されている。
【0018】
モータ7は、ボールねじ2の一端とカップリング71を介して連結されており、ボールねじ2を回転駆動する。
ボールねじナット3は、ボールねじ2に螺合し、ボールねじ2の軸方向に移動する。
振れ取り機構6は、背景技術で説明したようなトラニオン機構からなり、スライダ5とボールねじナット3とを連結するとともに、ボールねじナット3の振れ回りを吸収し、ボールねじナット3から伝達された推力をスライダ5に伝達する。
【0019】
スライダ5は、後述するスライダ案内機構4により、ボールねじ2と平行にスライド移動可能に設けられている。
スライダ案内機構4は、ボールねじ2と平行に設けられたガイドレール41と、ガイドレール41およびスライダ5間に転動自在に設けられた多数の転動体42とを備えた転がり軸受式に構成され、スライダ5を高精度に直進案内する。
【0020】
ナット案内機構8は、高運動精度が要求されるスライダ案内機構4に比べ、簡易な構成かつ安価なものを用いることができ、本実施形態では、ナット案内機構8として鋼球循環型のLM(Linear Motion)ガイド機構が用いられている。ナット案内機構8は、ボールねじナット3に取り付けられたLMブロック81と、ボールねじ2と平行に設けられたLMガイドレール82とを備えている。このナット案内機構8は、ボールねじナット3をボールねじ2の軸方向に沿って案内し、かつ、ボールねじ2の軸方向に直交する面内方向(図3のYZ面内方向)へのボールねじナット3の移動を規制するとともに、ボールねじ2の軸方向と直交する方向を中心とするボールねじナット3の回転(図2矢印参照)を規制する。
【0021】
以上の本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
ナット案内機構8により、少なくともボールねじナット3の軸方向と異なる1方向へのボールねじナット3の移動を規制することができるので、ボールねじナット3の推進方向以外の自由度を減少させることができる。そのため、振れ取り機構6を設けることによりボールねじナット3の質量が増加しても、ボールねじ2の直径を太くすること無くボールねじ2の固有振動数の低下を防ぐことができ、スライダ5を高速駆動させることができる。
【0022】
ボールねじナット3には、ボールねじ2から軸周りの摩擦トルクが伝達される。この摩擦トルクがスライダ5に対してボールねじ2の軸を中心とする偶力として働き、スライダ5に幾何的な運動誤差を与えるが、本実施形態によれば、ナット案内機構8は、ボールねじ2の軸方向に直交する面内方向へのボールねじナット3の移動を規制するので、このナット案内機構8により前記摩擦トルクを受けることができる。そのため、スライダ5が受ける摩擦トルクを軽減することができ、スライダ5の幾何的運動精度を向上させることができる。また、ナット案内機構8により、ボールねじ2の軸方向に直交する面内方向へのボールねじナット3の移動を規制することができるので、確実にボールねじ2の固有振動数の低下を防ぐことができる。
ナット案内機構8により、ボールねじ2の軸方向と直交する方向を中心とするボールねじナット3の回転を規制することができるので、確実にボールねじ2の固有振動数の低下を防ぐことができる。
【0023】
〔第2実施形態〕
図4は、本実施形態に係るボールねじ駆動機構10Aを示す断面図である。
本実施形態のボールねじ駆動機構10Aでは、スライダ案内機構4Aは、スライダ5に多数設けられた流体を噴き出す図示しない噴出口および前記流体を吸い込む図示しない吸込口と、ボールねじ2と平行に配置されるガイドレール41とを備えた空気軸受式に構成されている。このスライダ案内機構4Aは、スライダ5およびガイドレール41間に形成される流体薄膜層によりスライダ5を支持し、スライダ5をガイドレール41に沿って案内する。また、本実施形態では、ナット案内機構8Aの減衰比が0.2〜0.3程度の比較的大きな値に設定されている。
【0024】
以上の本実施形態によれば、前記実施形態と同様の効果のほか、以下の効果を奏することができる。
空気軸受式のスライダ案内機構4Aによりスライダ5を案内するので、スライダ5の幾何的運動精度を格段に向上させることができる。また、空気軸受式のスライダ案内機構4Aを用いると、スライダ5の運動を制御する際の制御系の減衰比が0.02程度と非常に小さくなって「不足制振」の状態となり、制御系のゲインの大きさによっては制御応答が振動的になりやすいが、本実施形態では、ナット案内機構8Aの減衰比が大きな値に設定されているので、スライダ5の駆動制御時の振動を抑制しつつ制御系のゲインを大きくすることができる。
【0025】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記各実施形態では、ナット案内機構8は、ボールねじ2の軸方向に直交する面内方向へのボールねじナット3の移動、およびボールねじ2の軸方向と直交する方向を中心とするボールねじナット3の回転を規制したが、ナット案内機構は、どちらか一方の移動を規制するものであってもよい。さらにナット案内機構は、少なくともボールねじナット3の軸方向と異なる1方向へのボールねじナット3の移動を規制するものであればよい。
前記各実施形態では、ナット案内機構8は、鋼球循環型であり、転がり軸受式に構成されていたが、ナット案内機構は、空気軸受式や粘性流体軸受式に構成されていてもよい。
【0026】
前記各実施形態では、スライダ案内機構4,4Aは、転がり軸受式および空気軸受式に構成されていたが、スライダ案内機構は粘性流体軸受式に構成されていてもよい。
前記各実施形態では、ボールねじ駆動機構10,10A(ボールねじ2)は、全体として水平方向に沿って設けられていたが、鉛直方向に沿って設けられていてもよく、どのような方向で設けられていてもよい。
【0027】
前記各実施形態では、振れ取り機構6は、背景技術で説明した1軸のトラニオン機構からなっていたが、振れ取り機構は、2軸のトラニオン機構からなっていてもよい。また、振れ取り機構は、ナット3とスライダ5との間に中間部材を設け、この中間部材と各ナット3およびスライダ5とをそれぞれ一対の平行板ばね(各一対の平行板ばねは、互いに直交する面方向に沿って配置される)により接続したものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、三次元測定機などの測定機、工作機械、精密加工機等の産業機械、およびそのような産業機械に用いられるボールねじ駆動機構に利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 三次元測定機(産業機械)
10,10A ボールねじ駆動機構
2 ボールねじ
3 ボールねじナット
4,4A スライダ案内機構
5 スライダ
6 振れ取り機構
7 モータ(駆動手段)
8,8A ナット案内機構
41 ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじと、
前記ボールねじを回転駆動する駆動手段と、
前記ボールねじに螺合するボールねじナットと、
前記ボールねじの軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられたスライダと、
前記スライダと前記ボールねじナットとを連結するとともに、前記ボールねじナットの振れ回りを吸収する振れ取り機構と、
前記ボールねじナットを前記ボールねじの軸方向に沿って案内するとともに、少なくとも前記ボールねじナットの軸方向と異なる1方向への前記ボールねじナットの移動を規制するナット案内機構とを備える
ことを特徴とするボールねじ駆動機構。
【請求項2】
請求項1に記載のボールねじ駆動機構において、
前記ナット案内機構は、前記ボールねじの軸方向に直交する面内方向への前記ボールねじナットの移動を規制する
ことを特徴とするボールねじ駆動機構。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のボールねじ駆動機構において、
前記ナット案内機構は、前記ボールねじの軸方向と直交する方向を中心とする前記ボールねじナットの回転を規制する
ことを特徴とするボールねじ駆動機構。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のボールねじ駆動機構において、
前記ボールねじの軸方向に沿って設けられたガイドレールを有し、前記ガイドレールおよび前記スライダ間に流体薄膜層を形成して前記スライダを前記ガイドレールに沿って案内するスライダ案内機構を備える
ことを特徴とするボールねじ駆動機構。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のボールねじ駆動機構を備えることを特徴とする産業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−12735(P2011−12735A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156614(P2009−156614)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】