説明

ボールねじ

【課題】差動特性を維持しつつコンパクト化を可能としたボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじ1をねじ軸11と差動ナット12とナット13とで構成する。ねじ軸11の外周面に第一ねじ部21を設け、差動ナット12の内周面に第一ねじ部21に対向した第二ねじ部31を設ける。第一ねじ部21と第二ねじ部31間に内側リテーナ41を配設し、内側リテーナ41のボール保持穴42に内側ボール51を回転自在に位置決めする。差動ナット12の外周面に第三ねじ部61を設け、ナット13の内周面に第三ねじ部61に対向する第四ねじ部62を設ける。第三ねじ部61と第四ねじ部62間に外側リテーナ71を配設し、外側リテーナ71のボール保持穴に外側ボール81を回転自在に位置決めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動構造を備えたボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微少なストローク量を得る際には、図3に示すように、差動構造を備えたボールねじ801が用いられている。
【0003】
このボールねじ801は、シャフト811を備えており、該シャフト811の一方側には、第一ボールねじ部812が設けられている。また、前記シャフト811の他方側には、第二ボールねじ部813が設けられており、前記第一ボールねじ部812を構成する第一ナット814のリードと、前記第二ボールねじ部813を構成する第二ナット815のリードとは、異なる値に設定されている。
【0004】
これにより、前記第一ナット814のリードと第二ナット815のリードとの差をストローク量として得られるように構成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなボールねじ801にあっては、差動ストロークに対して全長が長いという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、差動特性を維持しつつコンパクト化を可能としたボールねじを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明の請求項1のボールねじにあっては、差動構造を備えたボールねじにおいて、外周面に第一ねじ部が設けられたねじ軸と、該ねじ軸の前記第一ねじ部に沿って転動する内側ボールと、前記ねじ軸の外周部に配置された状態で前記第一ねじ部に対向する第二ねじ部が内周面に設けられ該第二ねじ部及び前記第一ねじ部間に前記内側ボールを転動自在に保持する差動ナットと、該差動ナットの外周面に設けられた第三ねじ部に沿って転動する外側ボールと、前記差動ナットの外周部に配置された状態で前記第三ねじ部に対向する第四ねじ部が内周面に設けられ前記第三及び第四ねじ部間に前記外側ボールを転動自在に保持するナットと、を備えるとともに、前記第一及び第二ねじ部のピッチで定まる内側リードと、前記第三及び第四ねじ部のピッチで定まる外側リードとを異なる値に設定した。
【0008】
すなわち、このボールねじにおいては、ねじ軸の外側に内側ボールを介して設けられた差動ナットと、該差動ナットの外側に外側ボールを介して設けられたナットとからなる二重構造によって差動構造が構成される。
【0009】
また、請求項2のボールねじにおいては、前記ねじ軸の前記第一ねじ部及び前記差動ナットの前記第二ねじ部間に配設され前記内側ボールを回転自在に位置決めする内側リテーナと、前記差動ナットの前記第三ねじ部及び前記ナットの前記第四ねじ部間に配設され前記外側ボールを回転自在に位置決めする外側リテーナと、をさらに備えている。
【0010】
すなわち、前記ねじ軸の第一ねじ部と前記差動ナットの第二ねじ部間に配置された前記内側ボールは、内側リテーナによって回転自在に位置決めされる。
【0011】
また、前記差動ナットの第三ねじ部と前記ナットの第四ねじ部間に配置された前記外側ボールは、外側リテーナによって回転自在に位置決めされる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明の請求項1のボールねじにあっては、ねじ軸と同軸上に設けられた差動ナット及び該差動ナットの外側に設けられたナットからなる二重構造によって差動構造を構成することができる。
【0013】
このため、シャフトの一方側に第一ボールねじ部を設けるとともに、他方側に第二ボールねじ部を設ける必要があった従来と比較して、差動ストロークに対する全長を短くすることができる。
【0014】
したがって、差動特性を維持しつつコンパクト化を図ることができる。また、このコンパクト化に伴って、軽量化を図ることができる。
【0015】
また、請求項2のボールねじにおいては、前記ねじ軸の第一ねじ部と前記差動ナットの第二ねじ部間に配置された前記内側ボールを内側リテーナによって回転自在に位置決めするとともに、前記差動ナットの第三ねじ部と前記ナットの第四ねじ部間に配置された前記外側ボールを外側リテーナによって回転自在に位置決めすることができる。
【0016】
このとき、前記内側ボールが、前記ねじ軸の第一ねじ部と前記差動ナットの第二ねじ部とに沿って転動するとともに、前記外側ボールが、前記差動ナットの第三ねじ部と前記ナットの第四ねじ部とに沿って転動することにより、その差動ストロークを得ることができる。このため、前記各ボールを循環させる為の循環経路を対応する箇所に設けて差動構造を構成する場合と比較して、低コスト化を図ることができる。
【0017】
また、前記各ボールを循環させる為の循環経路を備えたボールねじと比較して、ボールが循環経路を出入りする際に生じ得る振動を無くすことができる。これにより、スムーズな移動が可能となるとともに、位置決め精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態を図面に従って説明する。図1は、本実施の形態にかかるボールねじ1を示す図であり、該ボールねじ1は、差動構造を備えている。
【0019】
すなわち、このボールねじ1は、ねじ軸11と、該ねじ軸11の外周部に設けられた差動ナット12と、該差動ナット12の外周部に設けられたナット13とで構成されており、前記ねじ軸11と前記差動ナット12と前記ナット13とは、同軸上に配置されている。
【0020】
前記ねじ軸11は、円柱状に形成されており、当該ねじ軸11の外周面には、第一ねじ部21が基端側に設けられている。
【0021】
前記差動ナット12は、円筒状に形成されており、この差動ナット12の内周面には、当該差動ナット12を前記ねじ軸11に外嵌した状態で、前記ねじ軸11の前記第一ねじ部21に対向する第二ねじ部31が先端側に設けられている。
【0022】
前記ねじ軸11の外周面に設けられた前記第一ねじ部21と、前記差動ナット12の内周面に設けられた第二ねじ部31との間には、図2にも示すように、円筒状の内側リテーナ41が配設されており、該内側リテーナ41には、複数のボール保持穴42,・・・が螺旋状に配列されている。
【0023】
各ボール保持穴42,・・・には、図1の(a)及び(b)に示したように、球状の内側ボール51,・・・が回転自在に位置決めされており、この内側リテーナ41を、前記ねじ軸11の前記第一ねじ部21と前記差動ナット12の前記第二ねじ部31との間に配置した状態で、前記各内側ボール51,・・・は、前記第一ねじ部21のねじ溝に沿って転動自在に配置されるとともに、前記第二ねじ部31のねじ溝に転動自在に配置されるように構成されている。これにより、前記各内側ボール51は、隣接した内側ボール51,51との間隔が前記内側リテーナ41によって維持された状態で、前記ねじ軸11と前記差動ナット12との間に転動自在に保持されている。
【0024】
前記差動ナット12の外周面には、第三ねじ部61が先端側に設けられており、前記ナット13の内周面には、当該ナット13を前記差動ナット12の先端部に外嵌した状態で、該差動ナット12の前記第三ねじ部61に対向する部位に第四ねじ部62が設けられている。
【0025】
前記差動ナット12の外周面に設けられた前記第三ねじ部61と、前記ナット13の内周面に設けられた前記第四ねじ部62との間には、図2に示した前記内側リテーナ41と同形状の円筒状の外側リテーナ71が配設されており、該外側リテーナ71にも、複数のボール保持穴が螺旋状に配列されている。
【0026】
前記外側リテーナ71の前記各ボール保持穴にも、図1の(a)及び(b)に示したように、球状の外側ボール81,・・・が回転自在に位置決めされており、この外側リテーナ71を、前記差動ナット12の前記第三ねじ部61と前記ナット13の前記第四ねじ部62との間に配置した状態で、前記各外側ボール81,・・・は、前記第三ねじ部61のねじ溝に沿って転動自在に配置されるとともに、前記第四ねじ部62のねじ溝に沿って転動自在に配置されるように構成されている。これにより、前記各外側ボール81,・・・は、隣接した外側ボール81,81との間隔が前記外側リテーナ71によって維持された状態で、前記差動ナット12と前記ナット13との間に転動自在に保持されている。
【0027】
前記ねじ軸11に設けられた前記第一ねじ部21におけるねじ溝のピッチと、前記差動ナット12に設けられた前記第二ねじ部31におけるねじ溝のピッチとは、同寸法に設定されており、この寸法によって、前記ねじ軸11に対して前記差動ナット12を一回転させた際の前記ねじ軸11と前記差動ナット12との軸方向への相対的な移動距離を示す内側リード91が設定されている。
【0028】
また、前記差動ナット12に設けられた前記第三ねじ部61におけるねじ溝のピッチと、前記ナット13に設けられた前記第四ねじ部62におけるねじ溝のピッチとは、同寸法に設定されており、この寸法によって、前記ナット13に対して前記差動ナット12を一回転させた際の該差動ナット12と前記ナット13との軸方向への相対的な移動距離を示す外側リード101が設定されている。
【0029】
前記内側リード91の値を「P」とすると、前記外側リード101の値は、前記内側リード91より僅かに短い「P−Δ」に設定されている。
【0030】
これにより、例えば軸方向へ移動可能なモータを前記差動ナット12に接続するとともに、前記ナット13のフランジ102を対象箇所に固定した際には、前記モータで前記差動ナット12を一回転する毎に、固定された前記ナット13に対して前記差動ナット12が軸方向へ前記外側リード101の値「P−Δ」分移動するとともに、この差動ナット12に対して前記ねじ軸11が前記内側リード91の値「P」分前記差動ナット12と逆方向へ移動するように構成されており、前記ねじ軸11は、固定された前記ナット13に対して前記内側リード91の値「P」から前記外側リード101の値「P」を減算した微少な差動距離「Δ」分、軸方向へ移動するように構成されている。
【0031】
なお、ここでは前記差動ナット12にモータを接続し、前記ナット13を固定して、前記ねじ軸11を固定された前記ナット13に対して前記差動距離「Δ」軸方向へ移動する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、他の利用形態も可能である。
【0032】
以上の構成にかかる本実施の形態のボールねじ1にあっては、前記ねじ軸11の外側に内側ボール51,・・・を介して設けられた差動ナット12と、該差動ナット12の外側に外側ボール81,・・・を介して設けられたナット13とを、前記ねじ軸11と同軸上に配置した二重構造によって差動構造を構成することができる。
【0033】
このため、シャフトの一方側に第一ボールねじ部を設けるとともに、他方側に第二ボールねじ部を設ける必要があった従来のボールねじと比較して、差動ストロークに対する全長を短くすることができる。
【0034】
したがって、差動特性を維持しつつコンパクト化を図ることができる。また、このコンパクト化に伴って、軽量化を図ることができる。
【0035】
また、前記ねじ軸11の第一ねじ部21と、前記差動ナット12の第二ねじ部31間に配置された内側リテーナ41によって前記内側ボール51,・・・を回転自在に位置決めするとともに、前記差動ナット12の第三ねじ部61と前記ナット13の第四ねじ部62間に配置された外側リテーナ71によって前記外側ボール81,・・・を回転自在に位置決めすることができる。
【0036】
このとき、前記内側ボール51,・・・が、前記ねじ軸11の第一ねじ部21と前記差動ナット12の第二ねじ部31とのねじ溝に沿って転動するとともに、前記外側ボール81,・・・が、前記差動ナット12の第三ねじ部61と前記ナット13の第四ねじ部62とのねじ溝に沿って転動することにより、その差動ストロークを得ることができる。このため、前記各ボール51,・・・、81,・・・を循環させる為の循環経路を対応箇所に設けて差動構造を構成する場合と比較して、低コスト化を図ることができる。
【0037】
また、前記各ボール51,・・・、81,・・・を循環させる為の循環経路を備えたボールねじと比較して、ボールが循環経路を出入りする際に生じ得る振動を無くすことができる。これにより、スムーズな移動が可能となるとともに、位置決め精度を高めることができる。
【0038】
このように、本実施の形態では、前記各ボール51,・・・、81,・・・を循環させる循環部品を持たず前記各リテーナ41,71を備えた差動式のボールねじ1とすることでスムーズな移動を可能としたが、前記各リテーナ41,71を備えない通常の循環方式を使用することでも差動式のボールねじの機能を得ることができる。
【0039】
この場合、前記外側ボール81,・・・の循環方式として、チューブ方式、こま方式、リターンガイド方式を採用することができるが、これに限るものではない。
【0040】
また、前記内側ボール51,・・・の循環方式としては、こま方式、エンドキャップ方式を採用することができるが、これに限るものではない。
【0041】
上記の場合の循環する各ボール51,・・・、81,・・・は、同一寸法のボールを挿入する必要はなく、負荷ボールと若干小さいボールを交互又はある割合で挿入することも可能である。
【0042】
また、本実施の形態では、前記内側リード91を「P」とした場合の外側リード101を「P−Δ」とした場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、以下の使用形態がある。
(1)内側リード「P」の場合、外側リード「P+Δ」
(2)外側リード「P」の場合、内側リード「P−Δ」
(3)外側リード「P」の場合、内側リード「P+Δ」
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図で、(a)は断面図であり、(b)は要部の縦断面の状態を示す説明図である。
【図2】同実施の形態の内側リテーナを示す側面図である。
【図3】従来のボールねじを示す側面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 ボールねじ
11 ねじ軸
12 差動ナット
13 ナット
21 第一ねじ部
31 第二ねじ部
41 内側リテーナ
51 内側ボール
61 第三ねじ部
62 第四ねじ部
71 外側リテーナ
81 外側ボール
91 内側リード
101 外側リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動構造を備えたボールねじにおいて、
外周面に第一ねじ部が設けられたねじ軸と、
該ねじ軸の前記第一ねじ部に沿って転動する内側ボールと、
前記ねじ軸の外周部に配置された状態で前記第一ねじ部に対向する第二ねじ部が内周面に設けられ該第二ねじ部及び前記第一ねじ部間に前記内側ボールを転動自在に保持する差動ナットと、
該差動ナットの外周面に設けられた第三ねじ部に沿って転動する外側ボールと、
前記差動ナットの外周部に配置された状態で前記第三ねじ部に対向する第四ねじ部が内周面に設けられ前記第三及び第四ねじ部間に前記外側ボールを転動自在に保持するナットと、を備えるとともに、
前記第一及び第二ねじ部のピッチで定まる内側リードと、前記第三及び第四ねじ部のピッチで定まる外側リードとを異なる値に設定したことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記ねじ軸の前記第一ねじ部及び前記差動ナットの前記第二ねじ部間に配設され前記内側ボールを回転自在に位置決めする内側リテーナと、
前記差動ナットの前記第三ねじ部及び前記ナットの前記第四ねじ部間に配設され前記外側ボールを回転自在に位置決めする外側リテーナと、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載のボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−14127(P2009−14127A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177904(P2007−177904)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000220505)日本電産トーソク株式会社 (189)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】