説明

ボールねじ

【課題】軸方向を上下方向に沿わせた配置でボールねじを使用する場合に、軌道内に存在する全てのボールに潤滑剤が供給されて、良好な潤滑状態が得られるようにする。
【解決手段】ナット1の円筒部11には、3つのボール循環チューブ4毎に、軸方向を上下方向に沿わせた配置で上端に配置される貫通孔11bと同じ高さとなる位置に、給脂穴13を形成する。給脂穴13は、ナット1の円筒部11を径方向に貫通する貫通穴であって、円筒部11の外周面側に、拡径された雌ねじ穴13aが形成されている。各雌ねじ穴13aに潤滑剤供給配管の先端の雄ねじを螺合することで、3つのボール循環チューブ4の上端に配置された各給脂穴13から、潤滑剤がナット1の内部に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを前記軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道(負荷路)内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。このようなボールねじは、前記軌道とボール戻し経路とからなるボール循環回路を、一つまたは複数個有している。
従来油圧にて駆動されていた射出成形機や鍛造装置、プレス機、ジャッキの電動化に伴い、ボールねじが縦配置(軸方向を上下方向に沿わせた配置)の状態で、負荷路内のボールに高荷重がかかるケースが増えている。このようなケースでは、ボールねじに定期的に潤滑剤を供給して安定的な潤滑を行う必要がある。
【0003】
また、射出成形機で作製する成形品の薄肉化やプレス機の高サイクル化に伴って、ボールねじが極端に短いストロークで使用されるケースが増えてきている。ストロークが短いと、潤滑剤(例えば、グリース)はナットの中で攪拌されにくく、負荷路から出た潤滑剤が負荷路に戻る量は極端に少なくなる。よって、このようなケースでも、ボールねじに定期的に潤滑剤を供給して安定的な潤滑を行う必要がある。
従来より、ボールねじのナットに潤滑油供給孔を形成して、自動給脂装置から潤滑剤を定期的に供給することが行われているが、負荷路の全体に潤滑剤を行き渡らせるという点で改善の余地がある。
【0004】
特許文献1には、回転するねじ軸によりナットを移動させる形式のボールねじの負荷路に、容易かつ確実に潤滑剤を供給することを目的として、負荷路を形成するナット軌道溝のナット溝底部に開口する潤滑剤供給孔を設けることが記載されている。また、実施例に記載されているボール循環回路を複数有するボールねじでは、各回路で複数の潤滑剤供給孔が形成されている。
特許文献2には、ボールねじのナットの軸方向中央部に、ナットの径方向に延びてナットの内面に至る給油流路を設けることが記載されている。また、この給油流路と、ナットのフランジに形成された潤滑油供給管の接続口を、ナットに形成した別の給油流路で連結することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−51685号公報
【特許文献2】特開2007−303573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2には、軸方向を上下方向に沿わせた配置でボールねじを使用する場合の潤滑剤供給方法に関する記載がない。このような配置では、潤滑剤が重力の影響を受けやすいため、潤滑油供給孔より上側の潤滑が不十分になり易い。また、最近では、自動給脂装置の給脂配管で潤滑剤が流れ易くするために、ちょう度の低いグリースを使用する傾向にある。ちょう度の低いグリースは重力の影響を受けやすいため、特に対策を講じる必要がある。
この発明の課題は、軸方向を上下方向に沿わせた配置でボールねじを使用する場合に、軌道内に存在する全てのボールに潤滑剤が供給されて、良好な潤滑状態が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明のボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを前記軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記ナットには内部に潤滑剤を供給する給脂穴が形成され、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動し、軸方向を上下方向に沿わせた配置で使用されるボールねじであって、前記給脂穴は、前記配置で前記軌道の上端部またはそれより上となる位置に形成されていることを特徴とする。
この発明のボールねじが前記軌道とボール戻し経路とからなるボール循環回路を複数有する場合は、各ボール循環回路用の給脂穴を、前記配置で各軌道の上端部またはそれより上となる位置に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
この発明のボールねじによれば、軸方向を上下方向に沿わせた配置で、軌道内に存在する全てのボールに潤滑剤が供給されるため、良好な潤滑状態が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態のボールねじを示す正面図である。
【図2】実施形態のボールねじを示す断面図である。
【図3】実施形態のボールねじに形成された給脂穴を示す断面図である。
【図4】実施形態のボールねじを構成するナットの螺旋溝に、給脂穴から潤滑剤が供給される様子を示す斜視図である。
【図5】実施形態のボールねじの効果を説明するボールねじの正面図(a)と断面図(b)である。
【図6】比較例のボールねじの潤滑剤の移動を説明するボールねじの正面図(a)と断面図(b)である。
【図7】図1とは異なる実施形態のボールねじのハウジングへの取り付け状態を示す平面図(a)と正面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態について説明する。
この実施形態のボールねじは、図1に示すように、ナット1と、ねじ軸2と、ボール3と、3本のボール循環チューブ(ボール戻し経路)4と、シール5を備えている。
図2〜4に示すように、ナット1の内周面に螺旋溝1aが形成され、この螺旋溝1aの底面に研削逃げ溝1bが形成されている。図2では研削逃げ溝1bが省略されている。ねじ軸2の外周面に螺旋溝2aが形成されている。ナット1の螺旋溝1aとねじ軸2の螺旋溝2aで形成される軌道の間にボール3が配置されている。ナット1は、円筒部11と、円筒部11の軸方向一端に形成されたフランジ12とからなる。
【0011】
図1に示すように、円筒部11の外周面の3カ所に平面部11aが形成されている。円筒部11の各平面部11aを挟んだ両側に、ボール循環チューブ4の脚部を挿入する貫通穴11b(図2参照)が形成されている。各貫通孔11bにボール循環チューブ4の脚部を挿入し、ボール循環チューブ4の胴部をチューブ固定具6で平面部11aに固定することで、ボール循環チューブ4がナット1に固定されている。図2に示すように、この例では、貫通穴11bに挿入されたボール循環チューブ4の先端(掬い上げ部)の近傍に、給脂穴13が配置されている。
【0012】
ナット1の円筒部11には、3つのボール循環チューブ4毎に、軸方向を上下方向に沿わせた配置で上端に配置される貫通孔11bと同じ高さとなる位置に、給脂穴13が形成されている。給脂穴13は、ナット1の円筒部11を径方向に貫通する貫通穴であって、円筒部11の外周面側に、拡径された雌ねじ穴13aが形成されている。雌ねじ穴13aに潤滑剤供給配管の先端雄ねじを螺合することで、給脂穴13から潤滑剤がナット1の内部に供給される。
【0013】
また、給脂穴13は、図3に示すように、先端が螺旋溝1aの底面に設けた研削逃げ溝1bに至るように形成されている。よって、図4に示すように、ナット1の内部に供給された潤滑剤は、螺旋溝1aの底面にある研削逃げ溝1bに入り、螺旋溝1aに沿って流れるため、給脂穴13より下側の螺旋溝1aに確実に供給される。また、研削逃げ溝1bは油溜まりとして機能する。
【0014】
図1のボールねじは、フランジ12を下側に配置して使用する例であるが、図5に示すボールねじのように、フランジ12を上側に配置して使用する場合にも、各ボール循環チューブ4毎に上端部となる位置(図2に示すように、上端に配置される貫通孔11bと同じ高さとなる位置)に給脂穴13を形成する。図5(b)のラインAは、一番上の給脂穴13の位置を示す。これにより、図5(b)に示すように、全ての軌道内に存在するボール(有効ボール)3に潤滑剤が供給される。
【0015】
これに対して、図6に示すように、3個の給脂穴13を各ボール循環チューブ4の長さ方向中間位置に対応する高さ(各軌道内の最も高い位置に存在するボールの上端より下側の位置)に設けると、一番上の給脂穴13の位置(ラインA)より上側に潤滑剤が供給されないため、ラインAより上側に存在するボール3の潤滑が不十分となる。
【0016】
以上のように、この実施形態のボールねじによれば、給脂穴13が、軸方向を上下方向に沿わせた配置で軌道の上端部となる位置に形成されていることにより、軌道内に存在する全てのボール3に潤滑剤が供給されるため、良好な潤滑状態が得られる。なお、給脂穴13は、前記配置で軌道の上端部より上となる位置(軌道内の最も高い位置に存在するボールの上端位置)に形成されていてもよい。また、この発明は、ボール戻し経路がボール循環チューブ以外で形成されているボールねじ(こま式、エンドキャップ式、ガイドプレート式など)にも当然に適用できる。
図7に、ナット1の円筒部11の全体がハウジング7内に配置される例を示す。この例では、円筒部11から潤滑剤の供給ができないため、フランジ12から各ボール循環チューブ4用の給脂穴13まで軸方向に延びる給脂路14を設けている。
【0017】
そして、フランジ12に、給脂路14から分岐して径方向外側に向けて延びる給脂路14aを設け、その先端部に拡径された雌ねじ穴14bを形成している。この雌ねじ穴14bに潤滑剤供給配管の先端雄ねじを螺合して潤滑剤の供給を行う。給脂穴13は円筒部11を外側から穿孔して形成するため、外周面側の開口部が埋め栓15で塞がれている。また、給脂路14のフランジ12側および円筒部11側の端面の開口部も、埋め栓15で塞がれている。
この例では、給脂路14を設けるために、ナット1の円筒部11の直径を少し大きくしているが、円筒部11の直径を、平面部11aに配置されたボール循環チューブ4が円筒部11の外径ラインから飛び出さない大きさとすることで、ハウジング7を単純な円筒形状にしている。
【符号の説明】
【0018】
1 ナット
1a ナットの螺旋溝
1b ナットの研削逃げ
11 円筒部
11a 平面部
11b ボール循環チューブの脚部を挿入する穴
12 フランジ
13 給脂穴
13a 雌ねじ穴
14 給脂路
14a 給脂路
14b 雌ねじ穴
15 埋め栓
2 ねじ軸
2a ねじ軸の螺旋溝
3 ボール
4 ボール循環チューブ(ボール戻し経路)
5 シール
6 チューブ固定具
7 ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを前記軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記ナットには内部に潤滑剤を供給する給脂穴が形成され、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動し、軸方向を上下方向に沿わせた配置で使用されるボールねじであって、
前記給脂穴は、前記配置で前記軌道の上端部またはそれより上となる位置に形成されていることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記軌道とボール戻し経路とからなるボール循環回路を複数有し、各ボール循環回路用の給脂穴が、前記配置で各軌道の上端部またはそれより上となる位置に形成されている請求項1記載のボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2508(P2013−2508A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132623(P2011−132623)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】