説明

ボールジョイントおよびボールジョイントの組立方法

【課題】 ボールジョイントのハウジングの内部にベアリングを固定する際に、カシメ加工を不要にして加工コストを削減する。
【解決手段】 ボールジョイントJは、ハウジング11の内部に収納したベアリング13にボールスタッド12の頭部12aを揺動可能かつ回転可能に支持されており、ボールスタッド12の柄部12bがハウジング11の開口部11cから外部に延出する。ハウジング11の内周に形成された環状溝11dにサークリップ15を嵌合し、このサークリップ15を前記開口部11c側でベアリング13に当接させるので、ハウジング11をカシメ加工することなく、ベアリング13がハウジング11から脱落するのを防止することができ、加工コストが削減される。またサークリップ15は周方向に弾性変形可能な環状部材であって環状溝11dに弾発的に嵌合するので、その装着が容易でありながら不用意に脱落することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状の頭部から柄部が突出するボールスタッドと、前記ボールスタッドの頭部を揺動自在かつ回転自在に支持するベアリングと、前記ベアリングを収納するとともに前記ボールスタッドの柄部が外部に延出する開口部が形成されたハウジングとを備えるボールジョイントと、そのボールジョイントの組立方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
かかるボールジョイントは、例えば下記特許文献1により公知である。
【0003】
このボールジョイントは、ボールスタッドの頭部を予め組付けたベアリングをハウジングの開口部から該ハウジングの内部に挿入した後、ハウジングの開口部に閉止板を装着して該開口部の周囲をカシメ加工することで、閉止板をハウジングに固定してベアリングの脱落を防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−151935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来のものは、ハウジングの内部に装着したベアリングの脱落を防止する閉止板を、ハウジングのカシメ加工により固定するようになっているため、面倒なカシメ加工の分だけ加工コストが増加する問題があった。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ボールジョイントのハウジングの内部にベアリングを固定する際に、カシメ加工を不要にして加工コストを削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、球状の頭部から柄部が突出するボールスタッドと、前記ボールスタッドの頭部を揺動自在かつ回転自在に支持するベアリングと、前記ベアリングを収納するとともに前記ボールスタッドの柄部が外部に延出する開口部が形成されたハウジングとを備えるボールジョイントにおいて、前記ハウジングの内周に形成された環状溝に装着され、前記ベアリングに前記開口部側で当接することで該ベアリングが該開口部から脱落するのを防止する抜け止め部材を備え、前記抜け止め部材は周方向に弾性変形可能な環状部材であって前記環状溝に弾発的に嵌合することを特徴とするボールジョイントが提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記抜け止め部材は大径部および小径部を有する裁頭円錐状に形成されて自己の軸線方向に弾性変形可能であり、前記小径部が前記ベアリング側を向くように前記大径部が前記環状溝に嵌合することを特徴とするボールジョイントが提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2に記載のボールジョイントの組立方法であって、前記ボールスタッドの頭部に前記ベアリングを組み付ける工程と、前記ベアリングを前記開口部から前記ハウジング内に組み付ける工程と、前記抜け止め部材を前記開口部から前記ハウジング内に挿入して前記環状溝に組み付ける工程と、前記ハウジングの開口部の外周と前記柄部の外周との間にブーツを組み付ける工程とを含むことを特徴とするボールジョイントの組立方法が提案される。
【0010】
尚、実施例のサークリップ15は本発明の抜け止め部材に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、ボールジョイントは、ハウジングの内部に収納したベアリングにボールスタッドの頭部が揺動可能かつ回転可能に支持されており、ボールスタッドの柄部がハウジングの開口部から外部に延出する。ハウジングの内周に形成した環状溝に、周方向に弾性変形可能な環状部材よりなる抜け止め部材を弾発的に嵌合し、この抜け止め部材を前記開口部側でベアリングに当接させるので、ハウジングをカシメ加工することなく、ハウジングからベアリングが脱落するのを防止することができ、ボールジョイントの加工コストが削減される。また抜け止め部材は周方向に弾性変形可能な環状部材であって環状溝に弾発的に嵌合するので、その装着が容易でありながら不用意に脱落することがなく、しかも抜け止め部材を着脱することでハウジングおよびベアリングを分解および再組立することができる。
【0012】
また請求項2の構成によれば、抜け止め部材は大径部および小径部を有する裁頭円錐状に形成されて自己の軸線方向に弾性変形可能であり、小径部がベアリング側を向くように大径部が環状溝に嵌合するので、抜け止め部材の弾発力でベアリングをハウジングの内面に押し付けてガタつかないように確実に固定することができる。
【0013】
また請求項3の構成によれば、ボールスタッドの頭部にベアリングを組み付け、続いてベアリングを開口部からハウジング内に組み付け、続いて抜け止め部材を開口部からハウジング内に挿入して環状溝に組み付け、続いてハウジングの開口部の外周と柄部の外周との間にブーツを組み付けるので、ハウジングの姿勢を反転することなく、ベアリングの組付工程、抜け止め部材の組付工程およびブーツの組付工程を同じ方向から行うことが可能になって組付性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ボールジョイントの縦断面図。(第1の実施の形態)
【図2】図1の2−2線断面図。(第1の実施の形態)
【図3】ボールジョイントの組立工程の説明図。(第1の実施の形態)
【図4】ボールジョイントの縦断面図。(第2の実施の形態)
【図5】ボールジョイントの縦断面図。(第3の実施の形態)
【図6】サークリップの平面図。(第4の実施の形態)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図3に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0016】
図1および図2に示すように、ボールジョイントJは、ハウジング11と、ボールスタッド12と、ベアリング13と、ブーツ14と、サークリップ15とを備え、実質的に軸線Lまわりに回転対称に構成される。
【0017】
ハウジング11は有底円筒状の金属部材であって、円筒状の側壁部11aと、側壁部11aの軸線L方向一端を閉塞する円板状の底壁部11bとで構成され、底壁部11bの反対側の開口部11cの内面に環状溝11dが形成される。金属製のボールスタッド12は球状の頭部12aと、頭部12aから突出する柄部12bとを備え、柄部12bの先端にはナット16が螺合可能な雄ねじ12cが加工される。
【0018】
ベアリング13は摩擦抵抗が小さい合成樹脂部材であって、ハウジング11の内部に隙間無く嵌合する外径形状を有するとともに、その内部にボールスタッド12の頭部12aを保持する摺動面13aが形成され、かつ摺動面13aの開口部13bとは反対側でハウジング11の底壁部11bに臨む部分に、グリスを保持するグリスポケット13cが形成される。
【0019】
ブーツ14は弾性変形可能なゴムで円筒状に形成された部材であって、一端部の外周および他端部の外周にそれぞれ金属リング17,18が装着される。
【0020】
サークリップ15は周方向の一部に割り口15aが形成された環状の弾性金属部材であって、前記割り口15aを縮めることで周方向に弾性変形して直径が縮小可能である。
【0021】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0022】
ボールジョイントJは、ハウジング11の外周面が第1の部材19に圧入等で固定され、ボールスタッド12はその柄部12bのテーパーした部分が第2の部材20のテーパー孔20aに嵌合して雄ねじ部12cおよびナット16を用いて固定される。この状態でボールスタッド12の球状の頭部12aとベアリング13の球状の摺動面13aとが摺動し、ハウジング11に対してボールスタッド12が揺動および回転することで、第1、第2の部材19,20が相対移動可能に連結される。このとき、ベアリング13のグリスポケット13cに保持したグリスが頭部12aおよび摺動面13aに供給されて潤滑が行われる。
【0023】
次に、ボールジョイントJの組立工程を説明する。
【0024】
先ず、図3(A)に示すように、ベアリング13の摺動面13aにボールスタッド12の頭部12aを予め嵌合することで、ベアリング13とボールスタッド12とを結合する。このとき、ボールスタッド12の頭部12aは、ベアリング13の開口部13bを弾性変形させて押し広げながら摺動面13aに嵌合可能である。
【0025】
続いて、図3(B)に示すように、底壁部11bが下側で開口部11cが上側になるように、ハウジング11を図示せぬ治具を用いて固定する。この状態でハウジング11の開口部11c側から、予めボールスタッド12を組み付けたベアリング13を底壁部11bに当接する位置まで挿入する。次に、図3(C)に示すように、サークリップ15の割り口15aを押し縮めて直径を縮小した状態で、ハウジング11の開口部11cの内面の環状溝11dに位置決めして解放すると、サークリップ15は自己の弾性で拡開して環状溝11dに嵌合し、軸線L方向の荷重が作用しても脱落しないように環状溝11dに保持される。
【0026】
サークリップ15を環状溝11dに嵌合した状態で、サークリップ15がベアリング13に隙間無く当接することで、ベアリング13はハウジング11の底壁部11bおよびサークリップ15間に挟まれて固定され、ガタつきが防止されるとともにハウジング11からの脱落が防止される。
【0027】
続いて、図3(D)に示すように、ボールスタッド12の柄部12b側からブーツ14を挿入し、金属リング17が装着された一端部をボールスタッド12の柄部12bの外周に圧入して固定するとともに、金属リング18が装着された他端部をハウジング11の開口部11cの外周に圧入して固定する。このブーツ14により、ハウジング11に対するボールスタッド12の相対移動を可能にしながら、ボールスタッド12の頭部12aとベアリング13の摺動面13aとの間に塵埃等が侵入するのを防止することができる。
【0028】
以上のように、本実施の形態によれば、ハウジング11の内部にベアリング13を保持する際にサークリップ15を使用することで、ハウジング11の開口部11cをカシメ加工してベアリング13の脱落を防止する必要がなくなり、加工コストを削減することができる。しかもサークリップ15を着脱することで、ハウジング11およびベアリング13を分解および再組立することができる。
【0029】
またハウジング11に対するベアリング13の組付け、ハウジング11に対するサークリップ15の組付け、ハウジング11およびボールスタッド12に対するブーツ14の組付けを、ハウジング11の姿勢を開口部11cが上向きになる同一姿勢に保ったまま行うことができるので、各工程毎にクランプ治具でハウジング11の姿勢を変更する必要がなくなって組付性が向上する。
【0030】
次に、図4に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。第2の実施の形態はサークリップ15の形状に特徴があるもので、その他の構成は第1の実施の形態と同じである。
【0031】
第1の実施の形態のサークリップ15は平坦な形状であるが、第2の実施の形態のサークリップ15は大径部15bおよび小径部15cを有する裁頭円錐状に形成される。このサークリップ15は、小径部15cがベアリング13側を向く姿勢で大径部15bがハウジング11の環状溝11dに嵌合する。
【0032】
サークリップ15を環状溝11dに装着すると、大径部15bは平坦な形状に弾性変形し、かつ小径部15cはベアリング13の端面に当接して平坦な形状に弾性変形する。このようにして弾性変形したサークリップ15は自己の弾性で元の形状に復帰しようとするため、その小径部15cによってベアリング13がハウジング11の底壁部11bに押し付けられ、ベアリング13のガタつきを防止することができる。
【0033】
次に、図5に基づいて本発明の第3の実施の形態を説明する。第3の実施の形態は第2の実施の形態の変形であって、ハウジング11の構造に特徴があり、その他の構成は第2の実施の形態と同じである。
【0034】
第2の実施の形態の環状溝11dはハウジング11の軸線Lに対して直交しているが、第3の実施の形態の環状溝11dは裁頭円錐状のサークリップ15と同じ角度で傾斜しており、かつハウジング11が側壁部11aおよび底壁部11bに分割されてねじ結合21されている。よってサークリップ15を環状溝11dに装着すると、その小径部15cがベアリング13の端面に当接して平坦な形状に弾性変形することで、ベアリング13がハウジング11の底壁部11bに押し付けられてガタつきが防止される。またハウジング11が一部材で構成されていると、傾斜した環状溝11dに裁頭円錐状のサークリップ15を組付ける作業が難しくなるが、底壁部11bを側壁部11aから分離した状態でサークリップ15を組付け、その後に底壁部11bを側壁部11aに螺合することで組付けを容易に行うことができる。第3の実施の形態のその他の作用効果は、第2の実施の形態の作用効果と同様である。
【0035】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0036】
例えば、図6に示すように、サークリップ15の割り口15aの両側に2個の切欠き15d,15dを形成すれば、治具の爪を切欠き15d,15dを係合して割り口15aを押し縮めるようにサークリップ15を変形させることができるので、環状溝11dに対するサークリップ15の組付作業性が向上する。切欠き15d,15dに代えて係止孔を設けても、同様の作用効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0037】
11 ハウジング
11c 開口部
11d 環状溝
12 ボールスタッド
12a 頭部
12b 柄部
13 ベアリング
14 ブーツ
15 サークリップ(抜け止め部材)
15d 大径部
15c 小径部
L 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の頭部(12a)から柄部(12b)が突出するボールスタッド(12)と、前記ボールスタッド(12)の頭部(12a)を揺動自在かつ回転自在に支持するベアリング(13)と、前記ベアリング(13)を収納するとともに前記ボールスタッド(12)の柄部(12b)が外部に延出する開口部(11c)が形成されたハウジング(11)とを備えるボールジョイントにおいて、
前記ハウジング(11)の内周に形成された環状溝(11d)に装着され、前記ベアリング(13)に前記開口部(11c)側で当接することで該ベアリング(13)が該開口部(11c)から脱落するのを防止する抜け止め部材(15)を備え、
前記抜け止め部材(15)は、周方向に弾性変形可能な環状部材であって前記環状溝(11d)に弾発的に嵌合することを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
前記抜け止め部材(15)は大径部(15b)および小径部(15c)を有する裁頭円錐状に形成されて自己の軸線(L)方向に弾性変形可能であり、前記小径部(15c)が前記ベアリング(13)側を向くように前記大径部(15b)が前記環状溝(11d)に嵌合することを特徴とする、請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のボールジョイントの組立方法であって、
前記ボールスタッド(12)の頭部(12a)に前記ベアリング(13)を組み付ける工程と、
前記ベアリング(13)を前記開口部(11c)から前記ハウジング(11)内に組み付ける工程と、
前記抜け止め部材(15)を前記開口部(11c)から前記ハウジング(11)内に挿入して前記環状溝(11d)に組み付ける工程と、
前記ハウジング(11)の開口部(11c)の外周と前記柄部(12b)の外周との間にブーツ(14)を組み付ける工程とを含むことを特徴とするボールジョイントの組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−17751(P2012−17751A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145169(P2010−145169)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】