説明

ボールジョイント及びそのベアリングシート

【課題】使用寿命を確保しつつボール部のがたつきを抑制したボールジョイントのボールシートを提供する。
【解決手段】ボールシート4を、ソケット3の内室21で保持する金属製の略筒状のシート本体41と、ボールスタッド2の略球状のボール部15の一部を中心方向に向けて付勢しつつ回動可能に保持する金属製の付勢部42とで構成する。シート本体41と付勢部42とが金属製であることでボールシート4の使用寿命を確保できるとともに、ボール部15のがたつきを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールスタッドの略球状のボール部の少なくとも一部を回動可能に保持するボールジョイントのベアリングシート及びこれを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車のスタビライザリンクなどに用いられるボールジョイントとして、金属製のソケットの内室に合成樹脂製のベアリングシートとしてのボールシートを取り付け、このボールシートにより、金属製のボールスタッドの球状のボール部を回動可能に保持したものがある。
【0003】
このようなボールジョイントでは、ボールシートが合成樹脂製であるため、金属製のボール部との摩耗によりボールシートの内周面が削られ、ボールジョイントの使用寿命を確保することが容易でない。
【0004】
そこで、ボールシートを金属製としたボールジョイントが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−310741号公報(第5−6頁、図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ボールシートを金属製とすると、ボールシート自体に柔軟性が乏しく、ボール部の外周面とボールシートの内周面との間に隙間が生じ、ボール部にがたつきが生じるおそれがあるという問題点を有している。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、使用寿命を確保しつつボール部のがたつきを抑制したボールジョイントのベアリングシート及びこれを備えたボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートは、ソケットの内室に保持される金属製の略筒状のシート本体と、ボールスタッドの略球状のボール部の少なくとも一部を中心方向に向けて付勢しつつ回動可能に保持する金属製の付勢部とを具備したものである。
【0008】
そして、ボール部の少なくとも一部を中心方向に向けて付勢しつつ回動可能に保持する金属製の付勢部を備えることで、使用寿命を確保しつつボール部のがたつきが抑制される。
【0009】
請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、付勢部は、シート本体の軸方向の一端部から、ボール部の外周面に弾性的に押圧されるように自由端状に延設されているものである。
【0010】
そして、付勢部を、シート本体の軸方向の一端部から中心方向へと自由端状に延設し、ボール部の外周面を弾性的に押圧させることで、ボール部のがたつきが、より確実に抑制される。
【0011】
請求項3記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、付勢部は、シート本体の軸方向の一端部から、ボール部の外周面に弾性的に押圧されるように他端部側へと自由端状に折り返されて延設されているものである。
【0012】
そして、付勢部を、シート本体の軸方向の一端部から他端部側へと自由端状に折り返して延設し、ボール部の外周面を弾性的に押圧させることで、ボール部の外周面に接触する付勢部が大きく形成され、ボール部のがたつきが、より確実に抑制される。
【0013】
請求項4記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、付勢部は、シート本体に保持される被保持部と、この被保持部から自由端状に折り返されて延設され、ボール部の外周面に弾性的に押圧される押圧片部とを備えているものである。
【0014】
そして、付勢部を、シート本体に保持される被保持部から押圧片部を自由端状に折り返して延設し、ボール部の外周面を弾性的に押圧させることで、ボール部のがたつきが、より確実に抑制される。
【0015】
請求項5記載のボールジョイントは、内室を備えたソケットと、前記内室に収容された請求項1ないし4いずれか一記載のベアリングシートと、このベアリングシート内に回動可能に保持される略球状のボール部を備えたボールスタッドとを具備したものである。
【0016】
そして、ボール部のがたつきを抑制する請求項1ないし4のいずれか一記載のベアリングシートを備えることで、信頼性及び耐久性が向上される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ボール部のがたつきを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施の形態のボールジョイントの構成を図1を参照して説明する。
【0019】
図1において、1はボールジョイントで、このボールジョイント1は、例えば、自動車のスタビライザリンクなどに用いられるものである。そして、このボールジョイント1は、例えば鋼鉄製などのボールスタッド2、金属製の略筒状のソケット3、ベアリングシートとしての金属製のボールシート4、及び、ゴムあるいは軟質合成樹脂などにて略円筒状に形成されたダストカバー5とを備えている。
【0020】
なお、以下、便宜的に図1に示す上下方向を上下方向として説明する。
【0021】
ボールスタッド2は、ボールシート4に回動可能に保持されたボール部15と、このボール部15に溶接された軸状のスタッド部16とを有している。
【0022】
ボール部15は、ボールシート4に保持された状態でソケット3内に収容されている。また、スタッド部16は、ソケット3から軸状に突出している。さらに、スタッド部16とボール部15との連続部近傍の外周面には、鍔部17が突設されている。そして、この鍔部17よりも上側のスタッド部16の外周には、自動車のスタビライザなどの被接続部に連結される螺子部18が形成されている。
【0023】
ソケット3は、ボール部15とボールシート4とを中子として成形される、亜鉛、あるいはアルミニウムダイキャスト製であり、ボールシート4が嵌着される円筒内周面状の内室21を内部に備え、軸方向の一端部である上端部に内室21に連通する上部開口部22が開口形成され、軸方向の他端部である下端部に内室21に連通する下部開口部23が開口形成されている。また、このソケット3の上端側の外周面には、ダストカバー5が取り付けられる嵌合凹部25が切り欠き形成されている。
【0024】
内室21の下部開口部23寄りの位置には、ソケット3の中心軸方向へと略水平状にシート保持段差面26が突設されている。このシート保持段差面26は、内室21の周方向全体に連続して設けられている。
【0025】
また、上部開口部22は、ボールスタッド2のスタッド部16が挿通されて外部に突出している。
【0026】
下部開口部23には、この下部開口部23を覆う保持部材としてのプラグ28が取り付けられている。
【0027】
このプラグ28は、キャップとも呼ばれ、例えば金属により略円板状に形成され、下部開口部23の周縁部に設けられた段差部31に上側の周縁部が嵌合されているとともに、ソケット3の下部開口部23の外周縁部に設けられたかしめ部32により下側の周縁部が固定され、下部開口部23を閉塞している。そして、このプラグ28の中央部には、ボール部15の下端部に対応する円弧面状に下方向へと突設された突出部34が設けられている。
【0028】
ボールシート4は、金属部材、例えば銅合金、あるいはアルミ合金などをプレスなどの成形をすることにより、ソケット3の内室21に対応した略円筒状に形成され、内室21に保持されるシート本体41と、このシート本体41の下端部から延設された付勢部42とを有している。
【0029】
シート本体41は、ソケット3の上部開口部22側からシート保持段差面26に亘って連続した略円筒状の上側シート本体44と、この上側シート本体44からボールシート4の中心軸方向に延設された延設部45とを備えている。
【0030】
上側シート本体44の上端部には、ソケット3の上部開口部22に連通するシート上側開口47が形成されている。また、上側シート本体44の上側の内周面は、ボール部15の外周面の一部を回動可能に保持する球面状の上側摺動面48となっている。
【0031】
延設部45は、水平状に設けられ、シート保持段差面26に下側が保持されている。
【0032】
付勢部42は、延設部45の先端から、ボール部15の外周面に沿って下方へと傾斜して自由端状に突設されてばね性が付与され、ボール部15の下側の外周面をボール部15の中心方向へと押圧するように形成されている。また、付勢部42の下端部には、ソケット3の下部開口部23に連通するシート下側開口51が形成されている。さらに、付勢部42の内周面は、ボール部15の一部を回動可能に保持する球面状の下側摺動面52を構成している。そして、この下側摺動面52と、上側シート本体44の上側摺動面48とで、ボール部15の外周面を回動可能に保持する摺動面54が構成されている。
【0033】
ダストカバー5は、ブーツとも呼ばれ、ソケット3の内室21内への塵埃などの侵入を防止するものである。そして、このダストカバー5は、弾性変形可能な、たとえばゴム、あるいは軟質の合成樹脂などにて形成された略円筒状のカバー本体61を備え、このカバー本体61の軸方向の一端に、ボールスタッド2の鍔部17の下面に当接する当接部62が設けられ、また、カバー本体61の軸方向の他端に、ソケット3の嵌合凹部25に嵌合するソケット当接部63が設けられている。
【0034】
次に、上記第1の実施の形態の動作を説明する。
【0035】
ボールジョイント1の製造に際しては、ボールシート4の摺動面54にて摺動可能に保持されたボールスタッド2のボール部15を、ボールシート4とともに中子としてソケット3をダイキャスト成形すると、ボール部15を保持したボールシート4が内室21に収容される。
【0036】
この後、下部開口部23からソケット3の段差部31にプラグ28の外周縁部を載置し、図示しないかしめ加工機などによりソケット3のかしめ部32をかしめ加工することで、かしめ部32が中心軸側へと変形し、プラグ28の外周縁部が固定される。
【0037】
このように内室21内に保持されたボールシート4は、その金属製の付勢部42がボール部15の一部を中心方向に向けて付勢しつつ弾性的に保持することにより、ボール部15に対して中心方向の外力が常時加えられた状態となり、ボール部15と摺動面54との間に隙間が形成されにくくなるから、ボール部15のがたつきを確実に抑制できる。
【0038】
具体的に、付勢部42を、シート本体41の下端部から中心方向へと自由端状に延設し、ボール部15の外周面を弾性的に押圧させることで、ボール部15のがたつきを、より確実に抑制できる。
【0039】
また、ボールシート4全体を金属製としたことにより、例えば樹脂製のボールシートを用いる場合などと比較して、ボールシート4は充分な耐久性を得ることができ、使用寿命を確保できる。
【0040】
さらに、このボールシート4を用いることにより、ボールジョイント1の信頼性及び耐久性をより向上できる。
【0041】
次に、第2の実施の形態を図2を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態のボールシート4に代えて、ベアリングシートとしてのボールシート71がソケット3の内室21に保持されているものである。
【0043】
このボールシート71は、金属部材、例えば銅合金、あるいはアルミ合金などをプレスなどの成形をすることにより、ソケット3の内室21に対応した略円筒状に形成され、内室21に保持されるシート本体73と、このシート本体73の下端部から延設された付勢部74とを有している。
【0044】
シート本体73は、ソケット3の上部開口部22側からシート保持段差面26に亘って連続した略円筒状の上側シート本体77と、この上側シート本体77の下端部からボールシート4の中心軸方向に延設されシート保持段差面26に保持されたシート被保持部78とを備えている。このシート被保持部78は、先端部が付勢部74の近傍まで突出している。
【0045】
付勢部74は、上側シート本体77の上端部から折り返され、ボール部15の外周面に沿って球面自由端状に下方へと延設されてボール部15を中心方向に弾性的に押圧するばね性が付与され、下端部がシート被保持部78よりも下方に位置している。このため、付勢部74の上端部の上側シート本体77の折り返し部が、ソケット3の上部開口部22に連通するシート上側開口81となっているとともに、付勢部74の下端部が、ソケット3の下部開口部23に連通するシート下側開口82となっている。さらに、付勢部74の球面状の内周面は、ボール部15の外周面を回転可能に保持する摺動面83となっている。
【0046】
そして、このように金属製の付勢部74がボール部15の一部を中心方向に向けて付勢しつつ弾性的に保持することにより、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することが可能になる。
【0047】
具体的に、付勢部74を、シート本体73の上端部から下端部側へと自由端状に折り返して延設し、この付勢部74にてボール部15の外周面を弾性的に押圧させることで、ボール部15の外周面に接触してこの外周面を保持する摺動面83を大きく形成でき、ボール部15の外周面に効率よく中心方向への外力が加わるので、ボール部15のボールシート71内でのがたつきをより確実に抑制できる。
【0048】
次に、第3の実施の形態を図3を参照して説明する。なお、上記各実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0049】
この第3の実施の形態は、上記各実施の形態のボールシート4,71に代えて、ベアリングシートとしてのボールシート91がソケット3の内室21に保持されているものである。
【0050】
このボールシート91は、シート本体としての金属製の外側シート93と付勢部としての金属製の内側シート94とを備えた、いわゆる2ピースタイプのものである。
【0051】
外側シート93は、内室21内に外周面を保持される略筒状の上側本体部96と、この上側本体部96の下端部から中心軸方向に水平状に延設されプラグ28に下側外周面を保持される下側本体部97とを有している。
【0052】
上側本体部96の上端部には、ソケット3の上部開口部22に連通するシート上側開口101が形成されている。また、上側本体部96の上側の内周面は、ボール部15の外周面の一部を回動可能に保持する球面状の上側摺動面102となっている。
【0053】
下側本体部97は、プラグ28の突出部34に対向する中心部に、ソケット3の下部開口部23に連通しボール部15の下端部が挿通されるシート下側開口103が開口形成されている。
【0054】
また、内側シート94は、外側シート93の下側本体部97の上側に保持される被保持部105と、この被保持部105の端部からボール部15の外周面に沿って自由端状に折り返された押圧片部106とを有している。
【0055】
被保持部105は、水平方向に沿って延設された略円環状の部分であり、内側の縁部が下側本体部97のシート下側開口103に連通する下側開口107となっている。
【0056】
また、押圧片部106は、被保持部105の内縁部からボール部15の外周面に沿って球面自由端状に折り返し形成され、ボール部15を中心方向に弾性的に押圧するばね性が付与されている。さらに、この押圧片部106の内周面は、ボール部15の外周面の一部を回動可能に保持する球面状の下側摺動面108となっており、この下側摺動面108と、上側本体部96の上側摺動面102とで、ボール部15の外周面を回動可能に保持する摺動面109が構成されている。
【0057】
そして、金属製の内側シート94がボール部15の一部を中心方向に向けて付勢しつつ弾性的に保持することにより、上記各実施の形態と同様の作用効果を奏することが可能である。
【0058】
具体的に、内側シート94を、外側シート93に保持される被保持部105から押圧片部106を自由端状に折り返して延設し、ボール部15の外周面を弾性的に押圧させることで、ボール部15のがたつきを、より確実に抑制できる。
【0059】
また、ボールシート91を外側シート93と内側シート94との2ピースタイプとすることで、内側シート94の材質及び形状などを設定するだけでボール部15への付勢力を容易に調整可能になる。
【0060】
なお、上記各実施の形態において、ボールシート4,71,91を除くボールジョイント1の細部は、上記構成に限定されるものではなく、例えばプラグ28を有さないボールジョイントなど、他の様々なボールジョイントにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施の形態のボールジョイントを示す縦断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態のボールジョイントを示す縦断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態のボールジョイントを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 ボールジョイント
2 ボールスタッド
3 ソケット
4,71,91 ベアリングシートとしてのボールシート
15 ボール部
21 内室
41,73 シート本体
42,74 付勢部
93 シート本体としての外側シート
94 付勢部としての内側シート
105 被保持部
106 押圧片部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソケットの内室に保持される金属製の略筒状のシート本体と、
ボールスタッドの略球状のボール部の少なくとも一部を中心方向に向けて付勢しつつ回動可能に保持する金属製の付勢部と
を具備したことを特徴としたボールジョイントのベアリングシート。
【請求項2】
付勢部は、シート本体の軸方向の一端部から、ボール部の外周面に弾性的に押圧されるように自由端状に延設されている
ことを特徴とした請求項1記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項3】
付勢部は、シート本体の軸方向の一端部から、ボール部の外周面に弾性的に押圧されるように他端部側へと自由端状に折り返されて延設されている
ことを特徴とした請求項1記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項4】
付勢部は、
シート本体に保持される被保持部と、
この被保持部から自由端状に折り返されて延設され、ボール部の外周面に弾性的に押圧される押圧片部とを備えている
ことを特徴とした請求項1記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項5】
内室を備えたソケットと、
前記内室に収容された請求項1ないし4いずれか一記載のベアリングシートと、
このベアリングシート内に回動可能に保持される略球状のボール部を備えたボールスタッドと
を具備したことを特徴としたボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−162895(P2007−162895A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362777(P2005−362777)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】