説明

ボールジョイント

【課題】 ボールジョイントの組み付け時にハウジングの外径が大きくなることを抑制するとともに、ボールジョイントの球頭部の揺動回転トルクの上昇を抑制することを目的とする。
【解決手段】 球状の球頭部2aと球頭部2aから突出する柄部2b,2cとを有するボールスタッド2と、ボールスタッド2の球頭部2aを揺動回動自在に包持するシート3と、シート3を内包し、ボールスタッド2の柄部2b,2cを突出させるハウジング開口4a,4bを有するハウジング4と、シート3とハウジング4の間でシート3を径方向内向きに押圧するリング5と、を備えるボールジョイントにおいて、リング5の内周面がシート3の外周面を押圧する範囲の径方向で、リング5の外周面とハウジング4の内周面の間に所定の空間Sを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の懸架装置及び操舵装置等に使用されるボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の懸架装置及び操舵装置等に使用されるアームのアーム開口に圧入されるボールジョイントは、球状の球頭部と球頭部から突出する柄部とを有する金属製のボールスタッドと、ボールスタッドの球頭部を揺動回動自在に包持する合成樹脂製のシートと、シートを内包し、ボールスタッドの柄部を突出させるハウジング開口を有する金属製のハウジングと、シートとハウジングの間でシートを径方向内向きに押圧するリングと、を備え、このボールスタッド、シート、ハウジング及びリングが一体に組み付けられている。
【0003】
ここで、シートとボールスタッドの球頭部の間に所望する揺動回転トルクを発生させるため、シートの外径は、リングの内径よりも大きく、シートの厚みは、リングと球頭部との間の距離より大きく設定されている。そのため、金属製のリングを合成樹脂製のシートの外周面に圧入すると、金属製のリングの内表面が合成樹脂製のシートの外表面を径方向内向きに押圧し、シートの内表面がボールスタッドの球頭部に圧接する。この圧接によって、シートとボールスタッドの球頭部の間には所望する揺動回転トルクが発生する。
【特許文献1】特開2005−54882号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、シートの外径は、リングの内径よりも大きく、シートの厚みは、リングと球頭部との間より大きく設定されているため、シートの内表面が球頭部に押圧する一方、金属製のリングにおいても径方向外向きへ変形する。これにより、リングの外表面がハウジングの内表面を径方向外向きに押圧し、ハウジング外径が所定寸法より大きくなってしまうという問題があった。
【0005】
また、組み付け後、アームに圧入されるボールジョイントでは、適切な揺動回転トルクを有するボールジョイントのハウジング部分がアームのアーム開口に圧入されるため、ハウジング外径は径方向内向きに圧縮され、ハウジングに当接するリングも径方向内向きに圧縮される。よって、リングに当接するシートも同様に径方向内向きに圧縮されるため、シートとボールスタッドの球頭部の間の揺動回転トルクが大幅に高くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ハウジング外径が所定寸法のボールジョイントを提供するとともに、ボールジョイントのハウジング部分がアームのアーム開口に圧入された場合であっても、所望する揺動回転トルクを有するボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のボールジョイントは、球状の球頭部と球頭部から突出する柄部とを有するボールスタッドと、ボールスタッドの球頭部を揺動回動自在に包持するシートと、シートを内包し、ボールスタッドの柄部を突出させるハウジング開口を有するハウジングと、シートとハウジングの間でシートを径方向内向きに押圧するリングと、を備えるボールジョイントにおいて、リングの内周面がシートの外周面を押圧する範囲の径方向で、リングの外周面とハウジングの内周面の間に所定の空間を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のボールジョイントによれば、リングの内周面がシートの外周面を押圧する範囲の径方向で、リングの外周面とハウジングの内周面の間に所定の空間を設けたため、シートの厚みによってリングが径方向外向きへ変形した場合であっても、ハウジングの内周面とシートの外周面の間の空間によって、リングの外周面の拡径が吸収され、ハウジングの内周面が押圧されてハウジングの外径が大きくなることを抑制することができ、ハウジング外径を所定寸法に形成することができる。また、組み付け後、所望する揺動回転トルクを有するボールジョイントのハウジング部分がアームのアーム開口に圧入された場合であっても、ハウジングの内周面とシートの外周面の間の空間によって、ハウジングの内径の径方向内向きの収縮が吸収され、ボールジョイントのシートと球頭部間の揺動回転トルクの上昇を小さくすることができ、所望する揺動回転トルクに設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1乃至図4は本発明の実施例を示すもので、図1は、ボールジョイント1がアーム12に圧入された状態を表す断面平面図、図2は、図1の要部拡大図、図3は、ボールジョイントを組み付ける第一段階を表す断面平面図である。図4は、ボールジョイントを組み付ける第二段階を表す断面平面図である。図5は、第二の実施例による要部拡大図、図6は、第三の実施例による要部拡大図である。図7は、第四の実施例による要部拡大図である。
【0010】
まず、本発明の実施例のアーム12のアーム開口12aに圧入されたボールジョイント1について図1及び図2に基づいて説明する。組み付けられるボールジョイント1は、中央に球状の球頭部2aと球頭部2aの軸線方向両端から突出する柄部2b,2cとよりなるボールスタッド2を有する。柄部2b,2cには、各々に後述するブーツ6,8を装着するブーツ嵌合溝2d,2eが形成されている。
【0011】
ボールスタッド2の球頭部2aの周りには、軸線方向両端にボールスタッド2の柄部2b,2cを突出させるシート開口3a,3bと、中央赤道部にシート鍔部3cとを有する合成樹脂製のシート3が配置されている。シート3の外周面で後述する金属製のハウジング4の内周面と当接するハウジング当接部3dは、ハウジング4のハウジング半球部4fによって径方向内向きに押圧される。また、シート3の外周面で後述する金属製のリング5の内周面と当接するリング当接部3eは、リング5のリング半球部5fによって径方向内向きに押圧される。この径方向内向きに押圧によって、シート3の内周面は、ボールスタッド2の球頭部2aを径方向内向きに押圧し、シート3とボールスタッド2の球頭部2の間に所望する揺動回転トルクを発生させる。
【0012】
ハウジング4は、軸線方向両端にハウジング開口4a,4bを有し、一方のハウジング開口4bの外周面には、周状のブーツ装着溝4cが形成され、他方のハウジング開口4aには、後述するリング5のリング鍔部5dをかしめ固定するかしめ部4eが形成されている。ハウジング4の内周面は、一方のハウジング開口4b側から、シート3のハウジング当接部3dを当接させるハウジング半球部4f、シート3のシート鍔部3cを周方向に着座させるシート用段部4g、後述するリング5の外周面を対置させる円筒部4h、リング5のリング鍔部5dを周方向に着座させるリング用段部4dが軸線方向に順に形成されている。
【0013】
リング5は、他方のハウジング開口4a側のシート3とハウジング4の間に固定され、リング5の外周面に形成されたリング鍔部5dが、ハウジング4のリング用段部4dに着座し、ハウジング4のかしめ部4eによって、かしめ固定される。リング5は、軸線方向の一端にボールスタッド2の柄部2bが挿通されるリング開口5aと、軸線方向の他端にボールスタッド2の球頭部2a及びシート3が挿通されるリング開口5bとを有する。一端のリング開口5a側の外周面には、周状のブーツ取付溝5cが形成され、他端のリング開口5b側には、シート3のシート鍔部3cに突き刺し固定する先端鋭角部5eを有している。リング5の内周面はリング半球部5fを有し、リング半球部5fの内径はシート3の外径より小さいため、リング5の内周面によってシート3の外周面は、半球形状で径方向内向きに押圧される。また、図2に示すようにリング5の内周面がシート3の外周面を押圧する全ての範囲の径方向において、リング5の外周面とハウジング4の内周面の間に所定の空間Sが形成されている。尚、リング5のリング鍔部5dの下側の外径は、第一外径部5eと、第一外径部5eより外径の小さい第二外径部5fを有する。第一外径部5eと第二外径部5fに対置するハウジング4の円筒部4hの内径は一定であるため、所定の空間Sは、第一外径部に対応する第一空間S1と、第一空間S1より空間が広い第二外径部に対応する第二空間S2とが形成される。
【0014】
ボールスタッド2のブーツ嵌合溝2dとリング5のブーツ取付溝5cには、弾性部材からなるブーツ6が取り付けられ、リング5のブーツ取付溝5cに装着されるブーツ6の外周には、周状のサークリップ7が装着されている。また、ボールスタッド2のブーツ嵌合溝2eとハウジング4のブーツ装着溝4cには、弾性部材からなるブーツ8が取り付けられ、ハウジング4のブーツ装着溝4cに装着されるブーツ8の外周には、周状のサークリップ9が装着されている。
【0015】
次に上記ボールジョイント1の製造方法を図3及び図4に基づいて説明する。まず、図3に示す如く、シート3を他方のハウジング開口4a側からハウジング4内に圧入し、シート3のハウジング当接部3dをハウジング4のハウジング半球部4fに当接させる。この時、シート3のシート鍔部3cは、ハウジング4のシート用段部4gに当接する。続いてシート開口3a側にボールスタッド2の柄部2cを挿入し、ボールスタッド2の球頭部2aをシート3の内表面に圧入する。その後、図4に示す如く、リング5のリング半球部5fがシート3のリング当接部3eに当接するようにリング開口5b側をハウジング4とシート3の間に圧入する。リング5のリング開口5b側は、先端鋭角部5eを有しており、シート3のシート鍔部3cに突き刺し固定される。リング5のリング半球部5fはボールスタッド2の球頭部2aの曲率と略同一曲率を有しており、シート3は、リング5のリング半球部5fの曲率に従い変形してボールスタッド2の球頭部2aに圧接される。次にハウジング4の他方のハウジング開口4a側のかしめ部4eをリング5のリング鍔部5dを包むようにかしめて、リング5をハウジング4に対し固定する。その後、ブーツ6の一方のブーツ開口6aをボールスタッド2のブーツ嵌合溝2dに、他方のブーツ開口6bをリング5のブーツ取付溝5cに取り付け、リング5のブーツ取付溝5cに取り付けられたブーツ6の外周にサークリップ7を嵌装する。同様に、ブーツ8の一方のブーツ開口8aをボールスタッド2のブーツ嵌合溝2eに、他方のブーツ開口8bをハウジング4のブーツ装着溝4cに取り付け、ハウジング4のブーツ装着溝4cに取り付けられたブーツ8の外周にサークリップ9を嵌装して、ボールジョイントの組み付けが完了する。
【0016】
組み付けが完了したボールジョイント1は、自動車の懸架装置及び操舵装置に使用されるアーム12のアーム開口12aに圧入される。
【0017】
上記の如きボールジョイント1では、リング5の内周面がシート3の外周面を押圧する範囲の径方向で、リング5の外周面とハウジング4の内周面の間に所定の空間Sを設けたため、シート3の厚みによってリング5が径方向外向きへ変形した場合であっても、ハウジング4の内周面とシート3の外周面の間の空間Sによって、リング5の外周面の拡径が吸収され、ハウジング4の内周面が押圧されてハウジング4の外径が大きくなることを抑制することができる。
【0018】
また、組み付けられた適切な揺動回転トルクを有するボールジョイント1のハウジング4がアーム12のアーム開口4aに圧入された場合であっても、ハウジング4の内周面とシート3の外周面の間の空間Sによって、ハウジング4の内径の径方向内向きの収縮が吸収され、ボールジョイント1のシート3と球頭部2aの間の揺動回転トルクの上昇を小さくすることができる。すなわち、リングの外周面とハウジングの内周面の間に空間のない従来のボールジョイント1においては、アームのアーム開口にボールジョイントを圧入した場合、ボールジョイントのシート3と球頭部2aの間の揺動回転トルクが2.6Nm大きくなったが、本発明のボールジョイント1をアーム12のアーム開口12aに圧入した場合の揺動回転トルクの上昇値は、1.7Nmと約半分に軽減される。ここで、揺動回転トルクの上昇値が0とならないのは、シート3のハウジング当接部3dとハウジング4のハウジング半球部4fが当接しているため、ボールジョイント1をアーム12のアーム開口12aに圧入した場合のハウジング4のハウジング半球部4fの縮径がシート3のハウジング当接部3dの縮径につながり、シート3の内周面がボールスタッド2の球頭部2aを更に押圧するためであるが、揺動回転トルクの上昇を小さくすることにより、揺動回転トルクのバラツキが小さくなり、管理が容易となる。
【0019】
尚、リング5の外周面とハウジング4の内周面の間の空間Sは、径方向寸法が0.1〜1.0mmの範囲内にあることが好ましい。
【0020】
第一の実施例では、リング5のリング鍔部5dの下側の外周は、第一外径部5eと、第一外径部5eより外径の小さい第二外径部5fとを有していたが、図5のようにリング5のリング鍔部5dの下側の外径を同一にしてもよい。更に図6のようにリング5のリング鍔部5dの下側の外径を第一外径部5eと、第一外径部5eより外径の小さい第二外径部5fとを設け、第一外径部5eのみハウジング4の内周面に当接させてもよい。また、図7のようにリング5のリング鍔部5dの下側の外径が除々に小さくなるようにテーパ状に形成してもよい。本実施例では、球頭部2aの両端に柄部2b,2cを設け、シート3及びハウジング4に軸線方向両端の開口3a,3b,4a,4bを有するボールジョイントについて説明したが、球頭部2aの一端のみに柄部を有し、シート3及びハウジング4の軸線方向に開口を一端のみに有するボールジョイントについても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例のボールジョイントがアームに圧入された状態を表す断面平面図である。
【図2】本発明の実施例の図1の要部拡大図である。
【図3】本発明のボールジョイントを組み付ける第一段階を表す断面平面図である。
【図4】本発明のボールジョイントを組み付ける第二段階を表す断面平面図である。
【図5】本発明の第二の実施例による要部拡大図である。
【図6】本発明の第三の実施例による要部拡大図である。
【図7】本発明の第四の実施例による要部拡大図である。
【符号の説明】
【0022】
2 ボールスタッド
2a 球頭部
2b,2c 柄部
3 シート
4 ハウジング
4a,4b ハウジング開口
5 リング
S 所定の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の球頭部(2a)と該球頭部(2a)から突出する柄部(2b,2c)とを有するボールスタッド(2)と、
該ボールスタッド(2)の球頭部(2a)を揺動回動自在に包持するシート(3)と、
該シート(3)を内包し、前記ボールスタッド(2)の柄部(2b,2c)を突出させるハウジング開口(4a,4b)を有するハウジング(4)と、
該シート(3)と該ハウジング(4)の間で該シート(3)を径方向内向きに押圧するリング(5)と、を備えるボールジョイントにおいて、
前記リング(5)の内周面が前記シート(3)の外周面を押圧する範囲の径方向で、前記リング(5)の外周面と前記ハウジング(4)の内周面の間に所定の空間(S)を設けたことを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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