説明

ボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置

【課題】構造解析と機構解析との連成解析を適用して、より高精度な解析結果を得ることができるボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置を提供する。
【解決手段】保持器140を三次元領域要素に分割して有限要素法により行う構造解析と、ボール型等速ジョイント100の構成部品および当該構成部品に連結される部品により構成される解析モデルの多体動力学による機構解析と、の連成解析を適用する。そして、保持器140の窓部143のうち内周面から外周面に至る方向において三次元領域要素の境界線分上における節点数が4点以上に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボール型等速ジョイントの構成部品において、保持器が最も耐久性の低い部品であることが多い。そのため、保持器の耐久性評価は非常に重要である。保持器の耐久性評価に際してより高精度な数値解析を行うことが望まれている。なお、ボール型等速ジョイントではないが、転がり軸受の保持器の応力解析について、特開2008−116040号公報(特許文献1)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−116040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、高精度に数値解析を行う方法として、有限要素法による構造解析と動力学演算による機構解析との連成解析を行うことができるソフトウエアが開発されている。そして、このような連成解析をボール型等速ジョイントの保持器に適用する場合に、高精度な解析結果を得ることができる手法について検討されている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、構造解析と機構解析との連成解析を適用して、より高精度な解析結果を得ることができるボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、内周面に外輪ボール溝が形成された外輪と、外周面に内輪ボール溝が形成された内輪と、前記外輪ボール溝および前記内輪ボール溝を転動可能に配置され前記外輪と前記内輪との間でトルク伝達を行うボールと、前記外輪と前記内輪との間に配置され前記ボールを保持する窓部が形成された保持器と、を備えるボール型等速ジョイントにおける前記保持器の応力解析を行う装置であって、前記保持器を三次元領域要素に分割して有限要素法により行う構造解析と、前記ボール型等速ジョイントの構成部品および当該構成部品に連結される部品により構成される解析モデルの多体動力学による機構解析との連成解析を適用し、前記保持器の前記窓部のうち内周面から外周面に至る方向において前記三次元領域要素の境界線分上における節点数が4点以上に設定されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記内輪にシャフトの一端が連結された状態で、且つ、前記シャフトを弾性体として、前記連成解析を行うことを特徴とする。請求項3に係る発明は、前記シャフトは自重を有するものとして前記連成解析を行うことを特徴とする。請求項4に係る発明は、前記シャフトの他端に軸方向に摺動可能なジョイントにより連結された状態で前記連成解析を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、保持器の窓部のうち内周面から外周面に至る方向において三次元領域要素の境界線分上における節点数を4以上にしている。ここで、ボール型等速ジョイントにおいて、保持器は、外輪および内輪のそれぞれから径方向に圧縮される力が作用する。仮に、上記節点数を3点にすると、変形後の窓部の表面形状のうち中間部分が鋭角形状になる可能性がある。そうすると、実際には変形していない部位が解析上変形していると認識することになる。そのため、上記節点数を3点にすると、高精度な解析結果を得ることができない。また、上記節点数を2点にすると、直線的にしか変形しないため、実際には湾曲するような変形形状を得ることができない。従って、上記節点数を2点にすると、高精度な解析結果を得ることができない。これらに対して、本発明によれば、上記節点数を4点以上にすることで、保持器に径方向の圧縮力が作用した場合に、変形後の窓部の表面形状が湾曲した形状に近似することができるようになり、且つ、当該表面形状が鋭角になることを抑制できる。その結果、高精度な解析結果を得ることができる。
【0009】
さらに、保持器の窓部のうちボールが接触する部位は、径方向の内周面側と外周面側との間を往復移動する。例えば、ボールが保持器の窓部のうち内周面付近に接触している状態において、保持器の窓部の外周面付近では、ボールから押圧される影響をほとんど受けない。また、ボールが保持器の窓部のうち外周面付近に接触している状態において、保持器の窓部の内周面付近では、ボールから押圧される影響をほとんど受けない。このように、保持器の窓部のうち外周面側と内周面側とは、相互に変形の影響をほとんど受けない。
【0010】
この場合に、仮に、保持器の窓部のうち内周面から外周面に至る方向において三次元領域要素の境界線分上における節点数を3点または2点にした場合には、保持器の窓部のうち外周面側と内周面側とが相互に変形の影響を受けてしまう。これに対して、本発明によれば、上記節点数を4点以上にすることで、保持器の窓部のうち外周面側と内周面側とが相互に変形の影響を受けにくくすることができる。押圧力の大きさによっては、保持器の窓部のうち外周面側と内周面側とが相互に変形の影響を全く受けない状態にできる。従って、このことからも、高精度な解析結果を得ることができる。
【0011】
ここで、保持器の窓部のうち内周面から外周面に至る方向において三次元領域要素の境界線分上における節点数を4点以上にするためには、以下のように三次元領域要素に分割するとよい。例えば、四面体二次要素を用いて、保持器の窓部のうち内周面から外周面に至る方向に二段以上の四面体二次要素を有するように分割してもよい。また、六面体一次要素を用いて、保持器の窓部のうち内周面から外周面に至る方向に三段以上の六面体一次要素を有するように分割してもよい。また、六面体二次要素を用いて、保持器の窓部のうち内周面から外周面に至る方向に二段以上の六面体二次要素を有するように分割してもよい。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、シャフトを弾性体として連成解析を行う。ここで、ジョイント角を付与した状態、すなわち、シャフトの中心軸と外輪の中心軸とを交差させた状態において、シャフトまたは外輪を回転させてシャフトと外輪との間でトルク伝達を行うと、等速ジョイントに二次偶力が発生する。この二次偶力の作用によって、シャフトを曲げようとする力が発生する。仮に、シャフトを剛体として連成解析を行うと、二次偶力によりシャフトに発生した曲げ力を、等速ジョイントを構成する部品にて吸収することになる。例えば、保持器が変形した状態となる。そうすると、実際には、シャフトが曲げ変形しているにも関わらず、保持器が変形したとして連成解析がされるため、連成解析において保持器に生じる応力は、実際に保持器に生じる応力とは異なるものとなる。しかし、本発明によれば、シャフトを弾性体として連成解析を行うようにすることで、二次偶力によりシャフトを曲げようとする力が発生した場合に、シャフトが曲げ変形することが許容される。従って、連成解析において保持器に生じる応力は、実際の保持器に生じる応力に非常に近い状態とすることができる。
【0013】
また、請求項3に係る発明によれば、シャフトの自重を考慮した上で、連成解析を行う。ここで、シャフトを弾性体とすることに伴って、シャフトは曲げ変形を許容される。そして、シャフトには、二次偶力の他に、シャフト自身の自重によっても、曲げようとする力が作用する。つまり、本発明によれば、シャフトの自重による曲げ変形を考慮して連成解析を行うことで、より高精度な応力解析結果を得ることができる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、シャフトの他端に摺動可能なジョイントを連結した状態で連成解析を行う。上述したように、シャフトには、二次偶力や自重によって曲げようとする力が作用する。仮に、連成解析における境界条件として、シャフトの他端を固定ピン支持とするとき、シャフトが曲げ変形した場合には、シャフトの一端(等速ジョイント側)の位置が移動しなければ、シャフトの曲げ変形を許容できない。ところで、車両のドライブシャフトやプロペラシャフトにおいては、シャフトの他端は軸方向に摺動可能なジョイントに連結されている。このような構成とすることで、シャフトの一端に連結されるボール型等速ジョイントのジョイント角中心が変動せずに、シャフトに曲げ変形を許容することができる。そこで、実際のドライブシャフトやプロペラシャフトのように、シャフトの他端に軸方向に摺動可能なジョイントを連結した状態で連成解析を行うことで、シャフトの曲げ変形を実際の状態に近い状態にすることができる。その結果、連成解析におけるボール型等速ジョイントの保持器に生じる応力は、実際の保持器に生じる応力に非常に近い状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】連成解析モデルを示す軸方向断面図である。
【図2】六面体一次要素にメッシュ分割した保持器の斜視図である。
【図3】連成解析結果を示す図である。
【図4】保持器の径方向部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(連成解析モデル)
本実施形態の連成解析モデルについて、図1を参照して説明する。図1に示すように、連成解析モデルは、自動車のドライブシャフトを例に挙げる。そして、応力解析の対象は、ボール型等速ジョイント100を構成する保持器140である。また、保持器140について、有限要素法による構造解析とマルチボディダイナミクスによる動力学(多体動力学)演算を用いた機構解析との連成解析を行う。
【0018】
連成解析モデルは、図1に示すように、シャフト10と、シャフト10の一端に連結されるボール型等速ジョイント100と、シャフト10の他端に連結される摺動式トリポード型等速ジョイント200とを備える。ボール型等速ジョイント100は、固定式ボール型等速ジョイント(「ツェッパ型等速ジョイント」とも称する)である。ボール型等速ジョイント100は、外輪110と、内輪120と、複数のボール130と、保持器140とを備えて構成される。
【0019】
外輪110は、図1の左側に開口部を有するカップ状(有底筒状)に形成されている。この外輪110のカップ底部の外方(図1の右側)には、連結軸111が外輪軸方向に延びるように一体成形されている。さらに、外輪110の内周面は、球面凹状に形成されている。具体的には、外輪110の球面凹状内周面の最内周面112は、外輪軸方向に切断した断面で見た場合に円弧凹状に形成されている。さらに、外輪110の球面凹状内周面には、外輪軸直交方向断面がほぼ円弧凹状からなる複数の外輪ボール溝113が、ほぼ外輪軸方向に延びるように形成されている。これら複数の外輪ボール溝113は、径方向に切断した断面で見た場合に、周方向に等間隔に形成されている。ここで、外輪軸方向とは、外輪110の中心軸を通る方向、すなわち、外輪110の回転軸方向を意味する。
【0020】
内輪120は、環状に形成されており、外輪110のカップ内側に配置されている。この内輪120の外周面は、球面凸状に形成されている。具体的には、内輪120の球面凸状外周面の最外周面121は、内輪軸方向に切断した断面で見た場合に円弧凸状に形成されている。さらに、内輪120の球面凸状外周面には、内輪軸直交方向断面がほぼ円弧凹状からなる複数の内輪ボール溝122が、ほぼ内輪軸方向に延びるように形成されている。これら複数の内輪ボール溝122は、径方向に切断した断面で見た場合に、周方向に等間隔に、且つ、外輪110に形成される外輪ボール溝113と同数形成されている。つまり、それぞれの内輪ボール溝122が、外輪110のそれぞれの外輪ボール溝113に対向するように位置する。
【0021】
複数のボール130は、それぞれ、外輪110の外輪ボール溝113と、当該外輪ボール溝113に対向する内輪120の内輪ボール溝122には挟まれるように配置されている。そして、それぞれのボール130は、それぞれの外輪ボール溝113およびそれぞれの内輪ボール溝122に対して、転動自在で周方向に係合している。従って、ボール130は、外輪110と内輪120との間でトルクを伝達する。
【0022】
保持器140は、環状に形成されている。この保持器140の外周面141は、外輪110の最内周面112にほぼ対応する部分球面状、すなわち球面凸状に形成されている。一方、保持器140の内周面142は、内輪120の最外周面121にほぼ対応する部分球面状、すなわち球面凹状に形成されている。この保持器140は、外輪110の最内周面112と内輪120の最外周面121との間に配置されている。さらに、保持器140は、周方向に等間隔に、略矩形の貫通孔である窓部143を複数形成している。この窓部143は、ボール130と同数形成されている。そして、それぞれの窓部143に、ボール130が1つずつ収容され、保持されている。
【0023】
摺動式トリポード型等速ジョイント200は、公知の摺動式トリポード型等速ジョイントであって、外輪210と、トリポード220と、三個のローラ230とを備えて構成される。
【0024】
そして、シャフト10は弾性体とし、他の部品は剛体とする。つまり、シャフト10は、連成解析において、弾性変形、例えば曲げ変形が許容されることになる。ここで、シャフト10は、演算処理の簡易化のため、分割した弾性体梁要素として把握する。さらに、シャフト10は、その質量を有するものとする。つまり、連成解析において、シャフト10の自重が考慮される。
【0025】
また、シャフト10の他端は、摺動式トリポード型等速ジョイント200のトリポード220に連結されている。従って、シャフト10の他端は、摺動式トリポード型等速ジョイント200の外輪210に対して、当該外輪210の軸方向に摺動可能となる。ここで、拘束条件として、ボール型等速ジョイント100の外輪110の回転中心軸、当該外輪110の回転中心軸に対する位置、摺動式トリポード型等速ジョイント200の外輪210の回転中心軸、および、当該外輪210の回転中心軸に対する位置が固定されているものとする。
【0026】
(保持器140の分割メッシュ)
次に、保持器140について有限要素法による構造解析を行うために、保持器140を多数の要素に分割する。この分割メッシュについて、図2を参照して説明する。本連成解析においては、分割する保持器140の要素は、三次元領域要素であって、六面体一次要素とする。つまり、一つの六面体一次要素は、境界面が6面であり、境界線分が12本であり、節点数が8点(各角点)となる。
【0027】
さらに、保持器140の窓部143のうち保持器140の内周面から外周面に至る方向において、三個(三段)の六面体一次要素を有するように分割メッシュを生成している。つまり、保持器140の窓部143のうち、保持器140の内周面から外周面に至る方向における六面体一次要素の境界線分上における節点数が、4点となる。ここで、保持器140の窓部143においては上記のように分割メッシュを生成するが、保持器140の他の部分、例えば、保持器140の柱部の内部についても、同様に分割メッシュを生成するものとする。
【0028】
(解析条件)
解析条件として、上述した構成における連成解析モデルを対象とする場合を第一例とし、上記構成のうち摺動式トリポード型等速ジョイント200を除外し、且つ、シャフト10を剛体とした場合を第二例として、構造解析と機構解析とを連成して行った。そして、保持器140に生じるひずみ(または応力)を回転位相毎に得た。
【0029】
(解析結果)
第一例および第二例の連成解析結果について、図3を参照して説明する。ここで、比較として、実際に上記構成を作成して実験を行い、保持器140に生じるひずみ(または応力)を回転位相毎に測定した結果を図3に合わせて記載する。図3に示すように、第一例および第二例ともに、保持器140に生じるひずみ(または応力)は、実験結果の挙動に近い状態を得ることができた。特に、第一例については、第二例に比べて、実験結果の挙動により近い挙動を得ることができた。
【0030】
(考察)
次に、第一例および第二例ともに、実験結果に近い状態が得られた理由について考察する。本連成解析においては、上述したように、保持器140の窓部143のうち保持器140の内周面から外周面に至る方向において、三個(三段)の六面体一次要素を有するように分割メッシュを生成している。
【0031】
つまり、保持器140の窓部143のうち内周面から外周面に至る方向において六面体一次要素の境界線分上における節点数を4点としている。ここで、ボール型等速ジョイント100において、図4の矢印にて示すように、保持器140は、外輪110および内輪120のそれぞれから径方向に圧縮される力が作用する。当該節点数を4点にすることで、保持器140に対して径方向の圧縮力が作用した場合に、変形後の保持器140の窓部143の表面形状が湾曲した形状に近似することができるようになり、且つ、当該表面形状が鋭角になることを抑制できる。
【0032】
仮に、上記節点数を3点にすると、変形後の保持器140の窓部143の表面形状のうち中間部分が鋭角形状になる可能性がある。そうすると、実際には変形していない部位が解析上変形していると認識することになる。そのため、上記節点数を3点にすると、高精度な解析結果を得ることができない。また、上記節点数を2点にすると、直線的にしか変形しないため、実際には湾曲するような変形形状を得ることができない。従って、上記節点数を2点にすると、高精度な解析結果を得ることができない。このように、上記節点数を4点とすることにより、結果として、高精度な解析結果を得ることができたと考えられる。
【0033】
さらに、保持器140の窓部143のうちボール130が接触する部位は、図4のA1,A2に示すように、「8」字型のような軌跡となる。つまり、窓部143のうちボール130が接触する部位は、窓部143のうち径方向の内周面側と外周面側との間を往復移動する。例えば、ボール130が保持器140の窓部143のうち内周面付近に接触している状態において、保持器140の窓部143の外周面付近では、ボール130から押圧される影響をほとんど受けない。また、ボール130が保持器140の窓部143のうち外周面付近に接触している状態において、保持器140の窓部143の内周面付近では、ボール130から押圧される影響をほとんど受けない。このように、保持器140の窓部143のうち外周面側と内周面側とは、相互に変形の影響をほとんど受けない。
【0034】
この場合に、仮に、保持器140の窓部143のうち内周面から外周面に至る方向において三次元領域要素の境界線分上における節点数を3点または2点にした場合には、保持器140の窓部143のうち外周面側と内周面側とが相互に変形の影響を受けてしまう。これに対して、上記節点数を4点にすることで、保持器140の窓部143のうち外周面側と内周面側とが相互に変形の影響を受けにくくすることができる。押圧力の大きさによっては、保持器140の窓部143のうち外周面側と内周面側とが相互に変形の影響を全く受けない状態にできる。従って、このことからも、高精度な解析結果を得ることができたと考えられる。
【0035】
第一例は、第二例に対して、回転位相270°付近において実験結果に、より近い挙動となっている。第一例では、シャフトを弾性体として連成解析を行っているが、第二例では、シャフトを剛体として連成解析を行った。ここで、ボール型等速ジョイント100にジョイント角を付与した状態、すなわち、シャフト10の中心軸と外輪110の中心軸とを交差させた状態において、シャフト10または外輪110を回転させてシャフト10と外輪110との間でトルク伝達を行うと、ボール型等速ジョイント100に二次偶力が発生する。この二次偶力の作用によって、シャフト10を曲げようとする力が発生する。第二例のように、シャフト10を剛体として連成解析を行うと、二次偶力によりシャフト10に発生した曲げ力を、ボール型等速ジョイント100を構成する部品にて吸収することになる。例えば、保持器140が変形する状態となると考えられる。そうすると、実際には、シャフト10が曲げ変形しているにも関わらず、保持器140が変形したとして連成解析がされるため、連成解析において保持器140に生じる応力は、実際に保持器140に生じる応力とは異なるものとなったと推測する。つまり、シャフト10を弾性体として連成解析を行うようにすることで、二次偶力によりシャフト10を曲げようとする力が発生した場合に、シャフト10が曲げ変形することが許容される。従って、連成解析において保持器140に生じる応力は、実際の保持器140に生じる応力に非常に近い状態とすることができる。
【0036】
また、第二例では、シャフト10の自重を考慮した上で、連成解析を行った。ここで、シャフト10を弾性体とすることに伴って、シャフトは曲げ変形を許容される。そして、シャフト10には、二次偶力の他に、シャフト10自身の自重によっても、曲げようとする力が作用する。つまり、シャフト10の自重による曲げ変形を考慮して連成解析を行うことで、より高精度な応力解析結果を得ることができる。
【0037】
また、シャフト10の他端に軸方向に摺動可能な摺動式トリポード型等速ジョイント200を連結した状態で連成解析を行った。シャフト10には、二次偶力や自重によって曲げようとする力が作用する。仮に、連成解析における境界条件として、シャフト10の他端を固定ピン支持とするとき、シャフト10が曲げ変形した場合には、シャフト10の一端の位置が移動しなければ、シャフト10の曲げ変形を許容できない。
【0038】
そこで、実際のドライブシャフトなどのように、シャフト10の他端に軸方向に摺動可能な摺動式トリポード型等速ジョイント200を連結した状態で連成解析を行うことで、連成解析におけるシャフト10の曲げ変形が実際の状態に近い状態とすることができる。その結果、図4の第一例に示すように、連成解析においてボール型等速ジョイント100の保持器140に生じるひずみ(または応力)は、実際のひずみ(または応力)に非常に近い状態となる。
【0039】
(その他)
上記実施形態においては、径方向に三段の六面体一次要素により分割メッシュを生成するものとしたが、保持器140の窓部143のうち内周面から外周面に至る方向において三次元領域要素の境界線分上における節点数が4点以上に設定されるのであれば、径方向に三段の六面体一次要素に限られるものではない。例えば、径方向に四段以上の六面体一次要素により分割メッシュを生成しても良い。また、六面体二次要素を用いる場合には、保持器140の径方向に二段以上とする。また、四面体二次要素を用いる場合には、保持器の140の径方向に二段以上とする。ここで、一つの六面体二次要素は、境界面が6面であり、境界線分が12本であり、節点数が20点となる。また、一つの四面体二次要素は、境界面が4面であり、境界線分が6本であり、節点数が10点となる。
【0040】
また、シャフト10を分割した弾性体梁要素として連成解析を行った。この他に、シャフト10は、質量を有する弾性体として認識する方法として、モード合成法または直接積分方を適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10:シャフト
100:ボール型等速ジョイント、 110:外輪、 111:連結軸
112:最内周面、 113:外輪ボール溝
120:内輪、 121:最外周面、 122:内輪ボール溝
130:ボール
140:保持器、 141:外周面、 142:内周面、 143:窓部
200:摺動式トリポード型等速ジョイント
210:外輪、 220:トリポード、 230:ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪ボール溝が形成された外輪と、外周面に内輪ボール溝が形成された内輪と、前記外輪ボール溝および前記内輪ボール溝を転動可能に配置され前記外輪と前記内輪との間でトルク伝達を行うボールと、前記外輪と前記内輪との間に配置され前記ボールを保持する窓部が形成された保持器と、を備えるボール型等速ジョイントにおける前記保持器の応力解析を行う装置であって、
前記保持器を三次元領域要素に分割して有限要素法により行う構造解析と、前記ボール型等速ジョイントの構成部品および当該構成部品に連結される部品により構成される解析モデルの多体動力学による機構解析と、の連成解析を適用し、
前記保持器の前記窓部のうち内周面から外周面に至る方向において前記三次元領域要素の境界線分上における節点数が4点以上に設定されていることを特徴とするボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記内輪にシャフトの一端が連結された状態で、且つ、前記シャフトを弾性体として、前記連成解析を行うことを特徴とするボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記シャフトは自重を有するものとして前記連成解析を行うことを特徴とするボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記シャフトの他端に軸方向に摺動可能なジョイントにより連結された状態で前記連成解析を行うことを特徴とするボール型等速ジョイントの保持器の応力解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−248644(P2011−248644A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121371(P2010−121371)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】