説明

ポップアウト防止用膨張材組成物およびそれを用いてなるセメント硬化体

【課題】 ポップアウトの生じない、耐久性があり、美観のあるセメント硬化体となるポップアウト防止材を含有してなるポップアウト防止用膨張材組成物を提供すること。
【解決手段】 膨張材とポップアウト防止材を含有してなり、膨張材とポップアウト防止材の合計100部中、膨張材が99.9〜98.0部であり、ポップアウト防止材が0.1〜2.0部であるポップアウト防止用膨張材組成物、ポップアウト防止材が、リグニンスルホン酸カルシウム及び/又は高吸水性樹脂を含有してなる該ポップアウト防止用膨張材組成物、セメントと該ポップアウト防止用膨張材組成物とを含有してなるセメント組成物、該ポップアウト防止用膨張材組成物が、セメントとポップアウト防止用膨張材組成物からなるセメント組成物100部中、3〜20部である該セメント組成物、並びに、該セメント組成物を用いたセメント硬化体を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポップアウト防止材を含有してなるポップアウト防止用膨張材組成物およびそれを用いたセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨材性状の悪化やポンプ圧送の確保等から、コンクリート硬化体は、その製造時、コンクリートの所定のワーカビリティーを確保するために、必要以上の水量とセメントが使用され、乾燥収縮量が大きくなっている。
そのため、ひび割れを生じ、構造物の美観や耐久性を損なう場合があった。
この課題を解決するために、膨張材を使用する方法が提案されている。
【0003】
膨張材を使用した膨張コンクリ−トは、レデイ−ミクストコンクリ−トとして供給されることが多く、膨張材を生コンプラントで練り混ぜて調製されている。そして、よく分散された膨張コンクリ−トを得るために、混ぜ時間を延ばしたり、最適な膨張材の投入方法を選択したりしている。
しかしながら、膨張材の塊が少量でもコンクリ−ト中に存在すると、数日〜数年を経てコンクリ−トの表面付近でポップアウト現象を生じ、美観のみならず耐久性を損なうという課題があった。
これら、課題解決のために、種々膨張材の改良が試みられているが、条件によりポップアウト現象を生じる場合があるのが現状である(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照)。
【0004】
一方、リグニンスルホン酸カルシウムは、サルファイトパルプ廃液の塩置換、その他の化学処理、スラッジ分離、及び噴霧乾燥して得られる粉体であり、モルタルやコンクリートの減水剤、セメント、粘土、顔料、染料、石膏、及び掘削泥水等の分散剤、練炭やレンガなどの粘結剤又は粘結助剤、並びに、ボイラのスケ−ル除去剤等に使用されているリグニンスルホン酸塩の一種である。
本発明者は、流動性の改善や単位水量を低減するために、膨張材とリグニンスルホン酸カルシウムなどの減水剤を併用して、フローダウンやスランプロスの少ない、ワーカビリチーの良好な膨張材含有セメント組成物を提案したが、特定割合で、膨張材とリグニンスルホン酸カルシウムを併用することによって、ポップアウトを防止することを目的とするものではない(特許文献4参照)。
【0005】
また、高吸水性樹脂は、自重の数百倍の水を吸水できる高分子で、水に膨潤してヒドロゲルを形成する。水を、形あるものとして保持し、吸水や保水に関する用途開発が進められている。具体的には、紙オムツ、化粧品、湿布剤、土壌改良剤、及びコンクリ−ト養生マットなどに使用されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−226243号公報
【特許文献2】特開2002−068808号公報
【特許文献3】特開平11−302047号公報
【特許文献4】特開平10−226549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
数日〜数年を経てから、コンクリ−トの表面付近でポップアウト現象が生じる課題に対して、本発明者は、ポップアウト防止材を含有してなる特定のポップアウト防止用膨張材組成物を使用することによって、前記課題が解消できるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、膨張材とポップアウト防止材を含有してなり、膨張材とポップアウト防止材の合計100部中、膨張材が99.9〜98.0部であり、ポップアウト防止材が0.1〜2.0部であるポップアウト防止用膨張材組成物であり、ポップアウト防止材が、リグニンスルホン酸カルシウム及び/又は高吸水性樹脂を含有してなる該ポップアウト防止用膨張材組成物であり、セメントと該ポップアウト防止用膨張材組成物とを含有してなるセメント組成物であり、該ポップアウト防止用膨張材組成物が、セメントとポップアウト防止用膨張材組成物からなるセメント組成物100部中、3〜20部である該セメント組成物であり、セメント、膨張材、及びポップアウト防止材を含有してなり、膨張材とポップアウト防止材の合計100部中、膨張材が99.9〜98.0部、ポップアウト防止材が0.1〜2.0部であるセメント組成物であり、該セメント組成物を用いたセメント硬化体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポップアウト防止用膨張材組成物を使用したセメント硬化体は、ポップアウトの生じないものとなり、耐久性があり、美観のあるものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のコンクリートはセメントモルタルも含む場合がある。
【0011】
本発明のポップアウト防止用膨張材組成物(以下、単に膨張材組成物という)は、膨張材とポップアウト防止材とを含有するものである。
【0012】
本発明で使用する膨張材としては、カルシウムサルホアルミネート系膨張材や石灰系膨張材等がある。
膨張材の粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)2,000〜7,000cm2/gが好ましい。2,000cm2/g未満では未反応物が長期間残存して耐久性が低下するおそれがあり、7,000cm2/gを超えると水和反応が早く、所定の膨張が得られないおそれがある。
【0013】
本発明で使用するポップアウト防止材は、リグニンスルホン酸カルシウム及び/又は高級水性樹脂を含有するものである。
【0014】
一般に、リグニンスルホン酸塩は、ナトリウム塩とカルシウム塩があるが、本発明では、カルシウム塩でないと所用の性能が得られないので、リグニンスルホン酸カルシウムを使用する。
【0015】
本発明で使用するリグニンスルホン酸カルシウム(以下、リグニンCaという)は、水分含有量が7%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
リグニンCaの使用量は、膨張材とリグニンCaの合計100部中、0.1〜2.0部が好ましい。0.1部未満ではポップアウト防止効果が得られないおそれがあり、2.0部を超えると強度の低下が大きくなるおそれがある。
【0016】
本発明で使用する高吸水性樹脂は、自重の数百倍の水を吸水できる高分子で、水に膨潤してヒドロゲルを形成する。水を、形あるものとして保持し、吸水や保水に関する用途開発が進められている。
高吸水性樹脂は、製造方法により、デンプン・アクリロニトリル系高吸水性樹脂、デンプン・アクリル酸系高吸水性樹脂、カルボキシルメチルセルロ−ス系高吸水性樹脂、ポリアクリル酸系高吸水性樹脂、及びビニルアルコ−ル・アクリル酸系高吸水性樹脂があり、これらのいずれの高吸水性樹脂も使用可能であり、カルシウム飽和水溶液中での吸水量が大きいものが好ましい。
高吸水性樹脂の粒度は、平均粒径20〜300μmが好ましい。
高級水性樹脂の使用量は、膨張材と高級水性樹脂の合計100部中、0.1〜2.0部が好ましい。0.1部未満ではポップアウト防止効果が得られないおそれがあり、2.0部を超えるとポップアウト防止効果が変わらず経済的に無駄になるおそれがある。
【0017】
本発明の膨張材組成物は、膨張材と、リグニンCa及び/又は高吸水性樹脂を含有するポップアウト防止材とを含有する。
ポップアウト防止材は、水分含有ができるだけ少ないことが、膨張材の性能を保持させることから好ましい。
ポップアウト防止材は、膨張材によく分散していることが、ポップアウト防止上必要である。
ポップアウト防止材の使用量は、膨張材とポップアウト防止材からなる膨張材組成物100部中、0.1〜2.0部が好ましい。0.1部未満ではポップアウト防止効果が得られないおそれがあり、2.0部を超えると、強度の低下や流動性の低下が大きくなるおそれがあり、ポップアウト防止効果が変わらず経済的に無駄になるおそれがある。
【0018】
膨張材組成物の使用量は、セメントと膨張材組成物からなる結合材100部中、3〜20部が好ましく、5〜15部がより好ましい。3部未満では収縮低減効果が少なくなるおそれがあり、20部を超えると膨張量が大きすぎて強度が低下するおそれがある。
【0019】
ここで、セメントとしては、低熱、普通、早強、及び超早強等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグやフライアッシュなどを混合した各種混合セメントなどが使用可能である。
セメントの使用量は、モルタル又はコンクリートの配合等により異なるが、単位量で270〜1,000kg/m3が好ましい。270kg/m3未満では構造上の耐久性や強度が得られなくなるおそれがあり、1,000kg/m3を超えると作業性が得られなくなるおそれや、水和発熱や乾燥収縮によるひび割れを生じるおそれがある。
【0020】
水の使用量は、モルタル又はコンクリートの配合等によってかわり、特に限定されるものではないが、120〜600kg/m3が好ましい。120kg/m3未満では骨材の表面水管理を厳しくしなければならない場合や、特殊な減水剤を併用しなければならない場合などがあり、施工性が悪化するおそれがある。また、600kg/m3を超えると長期の耐久性が得にくくなるおそれや所定の構造物としての強度が得にくくなるおそれがある。
【0021】
本発明のセメント組成物、特に、膨張材組成物の混合方法は、膨張材とポップアウト防止材とがよく分散できれば、特に限定されるものではなく、通常のミキサ、ブレンダーが使用可能である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実験例に基づいてさらに説明する。
【0023】
実験例1
ポップアウト現象は、膨張材の塊が、モルタルやコンクリート中で吸水し、固まり、分散せずに、長時間の膨張により生じる。そのため、プレスした成形体が、水中で崩壊しやすいものは、分散して塊が生じず、ポップアウトが生じないことから、本発明のポップアウト防止材の効果を迅速に確認する方法として下記の試験方法を行った。
表1に示す膨張材と、膨張材とポップアウト防止材からなる膨張材組成物100部中、表1に示すポップアウト防止材を混合した粉体を、φ19mmの円柱型に入れ、2分間、プレス圧15.9N/mm2でプレスして成形体を作製した。
作製した成形体の崩壊までの時間と金網中に残り、吸水した成形体の量を測定した。結果を表1に併記する。
比較として、リグニンスルホン酸ナトリウム(以下、リグニンNaという)やポリカルボン酸カルシウムをポップアウト防止材として使用して同様に実験を行った。結果を表1に併記する。
【0024】
<使用材料>
膨張材α :カルシウムサルホアルミネート系膨脹材、市販品
膨張材β :石灰系膨張材、市販品
ポップアウト防止材a:リグニンCa、粉体、市販品、平均分子量51,000
ポップアウト防止材b:リグニンCa、粉体、市販品、平均分子量11,000
ポップアウト防止材c:リグニンCa、粉体、市販品、平均分子量 5,100
ポップアウト防止材d:リグニンNa、粉体、市販品、平均分子量11,000
ポップアウト防止材e:リグニンNa、粉体、市販品、平均分子量 5,100
ポップアウト防止材f:ポリカルボン酸カルシウム、粉体、市販品
【0025】
<測定方法>
崩壊までの時間:2リットルのポリ容器に水1.2リットルを入れ、水を撹拌しながら、作製した成形体を入れた金網を、2分間浸漬し、接水から、成形体が崩れ、金網内に残らなくなる時間
残存量 :金網中に残った成形体の質量/金網中に入れた成形体全体の質量
【0026】
【表1】

【0027】
実験例2
膨張材βを使用し、膨張材とポップアウト防止材の合計100部中、表2に示すポップアウト防止材を用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0028】
<使用材料>
ポップアウト防止材g:デンプン・アクリロニトリル系高吸水性樹脂、市販品、粒度20〜50μm
ポップアウト防止材h:デンプン・アクリル酸系高吸水性樹脂、市販品、粒度50〜150μm
ポップアウト防止材i:ポリアクリル酸系高吸水性樹脂、市販品、粒度150〜300μm
【0029】
【表2】

【0030】
実験例3
膨張材βと、膨張材組成物100部中、表3に示すポップアウト防止材とからなる膨張材組成物を使用して、実験例1と同様に成形品を作製した。
セメント93.4部、水54部、減水剤0.25部、細骨材260部、及び粗骨材337部のコンクリ−ト配合でコンクリートを練り混ぜた中に、作製した成形品を、セメントと膨張材組成物からなる結合材100部中、膨張材組成物として6.6部となるように、壊れないようにバラバラに分散して押し込み、2分後に、30秒練り混ぜた。
練り混ぜたコンクリ−トを用いて、40×40×10cmの型枠に打設した。
翌日脱枠し、20℃水中養生を行い、ポップアウトの発生状況を観察した、結果を表4に併記する。
【0031】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント
細骨材 :川砂、密度2.57g/cm3、粗粒率2.80
粗骨材 :川砂利、5〜25mm、密度2.67g/cm3、粗粒率6.82
減水剤 :AE減水剤、リグニンスルホン酸カルシウム塩系、市販品
【0032】
<測定方法>
ポップアウト発生時期:平滑なコンクリート表面が盛り上がり、ポップアウトが生じるまでの時間
【0033】
【表3】

【0034】
実験例4
膨張材と、膨張材組成物100部中、表4に示すポップアウト防止材とからなる膨張材組成物を調製したこと以外は実験例3と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0035】
【表4】

【0036】
実験例5
膨張材β99.5部とポップアウト防止材a0.5部とからなる膨張材組成物を使用して、実験例1と同様に成形品を作製した。
セメントと、結合材100部中、表5に示す膨張材組成物量となるように、作製した成形品を配合したこと以外は実験例3と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0037】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張材とポップアウト防止材を含有してなり、膨張材とポップアウト防止材の合計100部中、膨張材が99.9〜98.0部であり、ポップアウト防止材が0.1〜2.0部であるポップアウト防止用膨張材組成物
【請求項2】
ポップアウト防止材が、リグニンスルホン酸カルシウムを含有してなる請求項1に記載のポップアウト防止用膨張材組成物。
【請求項3】
ポップアウト防止材が、高吸水性樹脂を含有してなる請求項1又は請求項2に記載のポップアウト防止用膨張材組成物。
【請求項4】
セメントと、請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載のポップアウト防止用膨張材組成物とを含有してなるセメント組成物。
【請求項5】
ポップアウト防止用膨張材組成物が、セメントとポップアウト防止用膨張材組成物からなるセメント組成物100部中、3〜20部である請求項4に記載のセメント組成物。
【請求項6】
セメント、膨張材、及びポップアウト防止材を含有してなり、膨張材とポップアウト防止材の合計100部中、膨張材が99.9〜98.0部、ポップアウト防止材が0.1〜2.0部であるセメント組成物。
【請求項7】
請求項4〜請求項6のうちのいずれか1項に記載のセメント組成物を用いてなるセメント硬化体。

【公開番号】特開2008−169063(P2008−169063A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2371(P2007−2371)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】