説明

ポテト風味強化剤の製造方法

【課題】香ばしいポテト様の風味を付与することができるポテト風味強化剤を提供することである。
【解決手段】ポテトたん白加水分解物および還元糖を含有する混合液を100〜180℃で加熱することを特徴とするポテト風味強化剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香ばしいポテト様の風味を付与することができるポテト風味強化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポテトスナックは、ポテトをスライス、またはポテトを成形した後に加熱して作製されているが、ポテトに含まれるアミノ酸と還元糖とが加熱によりメイラード反応を起こし、食欲をそそる香ばしいポテト風味が作り出されている。しかし、メイラード反応によってポテトスナックが褐色化して商品価値を落とす為、ポテトの品種や保存方法などの工夫により、ポテト中の還元糖の量を低く抑えることが行われている。このようなポテトを用いてポテトスナックを作製した場合、メイラード反応が抑えられ香ばしいポテト風味が少なく抑えられてしまう。その為、ポテトスナックの色合いを邪魔せずに、香ばしいポテト様の風味を付与することが可能なポテト風味強化剤が求められていた。
【0003】
ポテト様の風味を付与する従来技術としては、硫黄供給物が存在し、還元糖および1種以上のアミノ酸を含有する混合物を加熱することにより調整した風味混合物を調整する方法(先行文献1参照)、ジャガイモ原料を褐色になるまで加熱し、溶剤を用いて風味成分を抽出する方法(先行文献2参照)、糖成分、ポテト中で天然に存在する酸成分および金属質風味成分、および加熱された乾燥粒状ポテト固形物によって生成される苦味成分からなるポテト風味増強組成物(特許文献3参照)などが開示されている。しかし、上記の技術では自然な風合いのポテト様の風味が得られない場合があり、また、製造工程中で溶剤を用いるという問題があり、さらに好ましいポテト様の風味を付与する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−206968号公報
【特許文献2】特開昭51−95164号公報
【特許文献3】特開昭64−5471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、香ばしいポテト様の風味を付与することができるポテト風味強化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、ポテトたん白加水分解物と還元糖とを含有する溶液を加熱することにより、上記課題を解決すること見出した。本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)ポテトたん白加水分解物および還元糖を含有する混合液を100〜180℃で加熱することを特徴とするポテト風味強化剤の製造方法、
(2)さらに、賦形剤を配合して乾燥することを特徴とする上記(1)に記載のポテト風味強化剤の製造方法、
(3)上記(1)または(2)に記載の方法で得られたポテト風味強化剤を添加して得られることを特徴とするスナック菓子、
からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法により、香ばしいポテト様の風味を有するポテト風味強化剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられるポテトたん白加水分解物とは、馬鈴薯由来のたん白質(ポテトプロテイン)を加水分解して得られるものであり、例えば、酸を用いてアミノ酸に分解して得た、たん白加水分解物、酵素を用いてペプチドおよびアミノ酸に分解して得た、たん白加水分解物(ポテトペプチド)などが挙げられる。また、本発明では、ポテトたん白加水分解物を含有する製剤を用いることもできる。
【0009】
酸を用いてアミノ酸に分解して得たたん白加水分解物としては、例えば、ポテミック(商品名;コスモ食品社製)、ポテミックP−70(商品名;コスモ食品社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。酵素を用いてペプチドおよびアミノ酸に分解して得たたん白加水分解物(ポテトペプチド)としては、例えば、ポテ味(商品名;コスモ食品社製)、ポテ味H(商品名;コスモ食品社製)、ポテ味C(商品名;コスモ食品社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0010】
本発明で用いられる還元糖としては、例えば、グルコース、フルクトース、ラクトース、アラビノース、マルトースなどが挙げられる。中でもグルコース、フルクトースが好ましく用いられる。これらは、1種類または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
本発明で用いられる賦形剤としては、例えば、でん粉、加工でん粉、デキストリンなどのでん粉類;乳糖、トレハロースなどの糖類;マルチトール、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコールなどが挙げられる。中でもでん粉、加工でん粉、デキストリンなどのでん粉類が好ましく用いられる。これらは、1種類または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
本発明の製造方法で得られるポテト風味強化剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、一般の食品製造に用いられるその他の物質を含有してもよく、例えば、食塩、食用油脂、香辛料、調味料(グルタミン酸ナトリウム、リボヌクレオチドナトリウムなど)、エキス類(酵母エキス、ミートエキス、野菜エキスなど)、着色料、酸化防止剤などが挙げられる。
【0013】
本発明のポテト風味強化剤の製造方法は、以下の工程を有している。
工程1:水、ポテトたん白加水分解物、還元糖を含有する混合液を作製する工程。
工程2:工程1で得た混合液を加熱する工程。
また、下記工程3を行ったものも本発明の形態の1つである。
工程3:工程2で得た加熱した混合液に賦形剤を加え乾燥して乾燥物を得る工程。
【0014】
工程1では、水、ポテトたん白加水分解物、還元糖を撹拌混合して混合液を作製すればよい。混合液には、本発明の効果を阻害しない範囲で一般の食品製造に用いられるその他の物質を配合してもよい。撹拌混合は公知の手段を適宜用いて撹拌すればよく、例えば、プロペラ撹拌機、ニーダーなどを用いるのが好ましい。
【0015】
工程1で用いるポテトたん白加水分解物が、液体またはペースト状の場合はそのまま用いればよく、ポテトたん白加水分解物が固形物の場合は細かく粉砕するか、液状またはペースト状にして用いるのが好ましい。
【0016】
ポテトたん白加水分解物の配合量(固形分として)は、乾燥状態のポテト風味強化剤100質量部中に約1〜90質量部、好ましくは約3〜50質量部である。還元糖の配合量(固形分として)は、乾燥状態のポテト風味強化剤100質量部中に約1〜50質量部、好ましくは約5〜30質量部である。
【0017】
工程2では、工程1で得た混合液を公知の加熱機で加熱すればよく、例えば、撹拌機付の加圧ニーダー、撹拌機付の加圧反応釜などの装置を用いることができる。
【0018】
加熱条件としては、工程1で得た混合液を約100〜180℃、好ましくは約105〜180℃、さらに好ましくは約120〜170℃に加熱すれば良い。加熱時間は約5分〜3時間、好ましくは約30分〜2時間である。
【0019】
工程3では、工程2で得た加熱した混合液に賦形剤を加えた後に公知の撹拌方法で賦形剤が均一になるまで撹拌することが好ましい。ここで賦形剤の配合量(固形分として)は、乾燥状態のポテト風味強化剤100質量部中に約0〜80質量部、好ましくは約20〜60質量部である。
【0020】
工程3の乾燥手段としては、例えば、常圧ドラム乾燥法、真空ドラム乾燥法、スプレー乾燥法、棚式乾燥法などが挙げられるが、乾燥時に高温加熱することによりさらに香ばしい風味を生成するために常圧ドラム乾燥法が好ましい。
【0021】
乾燥手段として好ましく用いられる常圧ドラム乾燥法について以下に説明する。常圧ドラム乾燥法は、常圧下で、例えばスチームなどの熱媒体により加熱され回転するドラム表面に、乾燥対象物(工程2で得た加熱した混合液と賦形剤の混合物)を付着させ、ドラムが1回転する間に乾燥対象物を迅速に蒸発乾燥させる方法である。ドラム表面で乾燥した乾燥物は、スクレーパーナイフなどによりドラム表面から簡単にかき取られ得る。具体的には、ドラムドライヤー(回転熱ドラム式蒸発乾涸装置)が用いられる。ドラムドライヤーのドラム表面温度は特に限定されないが、約80〜200℃程度、好ましくは約100〜180℃程度、より好ましくは約120〜165℃程度である。乾燥時間は、特に限定されないが、数秒〜数分間という短時間乾燥が好ましい。その時間としては、長くとも約1分以下が好ましく、より好ましくは約45秒以下、さらに好ましくは約6〜30秒間程度である。ドラムの回転数は、特に限定されないが、通常約1〜10rpm程度、好ましくは約2〜10rpmである。
【0022】
工程3で得られた乾燥物は、公知の手段により粉末状にすることができ、例えば、粉砕機を用いて乾燥物を砕き、粉末状のポテト風味強化剤とすることができる。得られた粉末状のポテト風味強化剤は、例えば篩目開が約1.4mmの篩を用いて篩分されるのが好ましく、約0.85mmの篩を用いて篩分されるのがより好ましい。粉末状とすることにより、風味を付与する対象物表面に付着しやすく、または対象物と混合しやすくなる。
【0023】
本発明の製造方法で得られたポテト風味強化剤は、スナック菓子に添加して用いることができる。上記スナック菓子としては、例えば、ポテトをカットしたポテトチップ、成形ポテトチップ、成形ポテトスナック、各種穀粉類を用いた生地をエクストルーダーなどでパフ化したスナック、および米を主原料として製造される米菓などが挙げられ、好ましくは、ポテトを原料としたポテトチップス、成形ポテトチップなどが挙げられる。
【0024】
ポテト風味強化剤をスナック菓子へ添加する方法としては、例えば、ポテト風味強化剤をスナック菓子の生地に添加して練り込む方法、ポテト風味強化剤を振り掛けてスナック菓子の表面に付着させる方法、ポテト風味強化剤を含んだ溶液にスナック菓子を浸漬させる方法などが挙げられる。
【0025】
ポテト風味強化剤のスナック菓子への添加量としては、ポテト風味強化剤の濃度によっても異なるが、例えば、ポテト風味強化剤をスナック生地に練り込んで用いる場合、スナック生地100質量部に対して約0.1〜120質量部、好ましくは約1〜60質量部である。また、粉末状のポテト風味強化剤をスナック菓子に振掛けて用いる場合、スナック菓子100質量部に対して約0.01〜25質量部、好ましくは約0.1〜15質量部である。
【0026】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するものであって、本発明を限定するものではない
【実施例】
【0027】
<ポテト風味強化剤の作製>
(1)原材料
ポテトペプチド(商品名:ポテ味;コスモ食品社製)
ポテトたん白加水分解物(商品名:ポテミック;コスモ食品社製)
マッシュポテトパウダー(商品名:ハイポテトパウダー;カルビーポテト社製)
フルクトース(商品名:純果糖;加藤化学社製、還元糖)
スクロース(商品名:HBSビートグラニュ−糖;ホクレン農業共同組合連合会社製、非還元糖)
食塩(商品名:並塩;日本海水社製)
【0028】
(2)配合組成
上記原材料を用いて作製したポテト風味強化剤の配合組成を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
(3)ポテト風味強化剤の作製
[実施例1〜4]
上記表1の6.5倍量の原材料を2Lステンレス製ジョッキに加え、スパチュラで混合して混合液とした後に70℃まで加熱し、さらにオートクレーブ(型式:BS−325;トミー精工社製)を用いて125℃、90分間加熱処理を行った。液温を常温まで冷却してポテト風味強化剤(実施例品1〜4)を各約950g得た。
【0031】
[実施例5]
実施例1〜4の作製において、オートクレーブの加熱条件を125℃、90分間から105℃、90分間に替えた以外は同様の操作を行い、ポテト風味強化剤(実施例品5)を約950g得た。
【0032】
[比較例1〜4]
実施例1〜4の作製と同様の操作を行い、ポテト風味強化剤(比較例品1〜4)を各約950g得た。
【0033】
[比較例5]
実施例1〜4の作製において、オートクレーブの加熱条件を125℃、90分間から95℃、90分間に替えた以外は同様の操作を行い、ポテト風味強化剤(比較例品5)を約950g得た。
【0034】
[比較例6]
実施例1〜4の作製において、オートクレーブでの加熱(125℃、90分間)を行わない以外は同様の操作を行い、液体状ポテト風味強化剤(比較例品6)を約950g得た。
【0035】
<ポテト風味強化剤の評価>
(1)成形ポテトチップの作製
乾燥ポテト粉末(商品名:乾燥マッシュポッテ;雪和食品社製)100gと熱湯100gを加えて混練したポテトスナック生地に、ポテト風味強化剤各15gを混合して混練りし、得られた生地2gを麺棒で圧延し、厚さ約1.5〜2.0mmのシート状に成形した。得られた成形物を180℃の油で3分間フライして、成形ポテトチップ(試作品1〜11)を得た。
【0036】
(2)成形ポテトチップの評価
得られた成形ポテトチップ(試作品1〜11)の風味について官能評価を行った。官能評価は、下記表2に示す評価基準に従い10名のパネラーでおこなった。結果はそれぞれ10名の評点の平均値として求め、下記基準にて記号化した。結果およびオートクレーブの加熱温度を表3に示す。

記号化
◎: 平均値3.5以上
○: 平均値2.5以上〜3.5未満
△: 平均値1.5以上〜2.5未満
×: 平均値1.5未満
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

結果より、実施例品を練り込むことによって、成形ポテトチップに香ばしいポテト様の風味を付与することができた。一方、比較例品を練り込んでも、成形ポテトチップに香ばしいポテト様の風味を付与することができなかった。
【0039】
<ポテト風味強化剤の作製(粉末状)>
(1)ポテト風味強化剤の作製(粉末状)
[実施例6〜10]
実施例品1〜5各950gに、賦形剤(商品名:サンデック#70;三和澱粉工業社製)357.5gを加え、スパチュラで混合しながら70℃まで加熱し、次いでドラム乾燥機(型式:VD−0303;カツラギ工業社製)を用いてドラム表面温度150℃、ドラム回転速度2rpmの条件で乾燥した。乾燥物を粉砕機(型式:ZM100;Retsch社製)を用いて粉砕した後、目開き0.85mmの篩を通して、粉末状ポテト風味強化剤(実施例品6〜10)を各約500g得た。
【0040】
<ポテト風味強化剤の評価>
(1)ポテトチップ調味品の作製
ポテトチップス(商品名:素のままポテトチップス ウェーブカット;良品計画社製)に、粉末状ポテト風味強化剤(実施例品6〜10)をポテトチップに対して2.9質量%を振り掛け、ポテトチップス調味品(試作品12〜16)を作製した。
【0041】
(2)ポテトチップ調味品の評価
得られたポテトチップ調味品(試作品12〜16)の風味について官能評価を行った。官能評価は、上記(表2)に示す評価基準に従い10名のパネラーでおこなった。結果はそれぞれ10名の評点の平均値として求め、「成形ポテトチップの評価」に記載の基準にて記号化した。結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

結果より、実施例品を振り掛けることにより、ポテトチップス調味品に香ばしいポテト様の風味を付与することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポテトたん白加水分解物および還元糖を含有する混合液を100〜180℃で加熱することを特徴とするポテト風味強化剤の製造方法。
【請求項2】
さらに、賦形剤を配合して乾燥することを特徴とする請求項1に記載のポテト風味強化剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で得られたポテト風味強化剤を添加して得られることを特徴とするスナック菓子。