説明

ポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法

【課題】引張強さ、曲げ強さ、衝撃強さなどの機械的特性に優れ、セルロース繊維パウダーの分散性に優れたポリアセタール樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)ポリアセタール樹脂100重量部に対して、(b)アスペクト比が5〜25、平均繊維長が150〜350μm、αセルロース純度が98〜100%のセルロース繊維パウダー10〜150重量部、(c)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.01〜3重量部、(d)アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びポリアミドから選ばれた少なくとも一種の窒素含有化合物0.01〜3重量部、(e)長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の誘導体、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシアルキレングリコール、オレフィン系ワックス及びシリコーン化合物から選ばれた少なくとも一種の加工助剤0.01〜3重量部を含有してなるポリアセタール樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強さ、曲げ強さ、衝撃強さ、荷重たわみ温度などの機械的特性に優れ、セルロース繊維パウダーの分散性に優れたポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性などにおいて優れた特性を持っており、主に構造材料や機構部品などとして電気機器、自動車部品、精密機械部品などに広く使用されている。ポリアセタール樹脂が利用される分野の拡大に伴い、要求特性は益々高度化、複合化、特殊化する傾向にある。その中で、再生可能資源の使用や特性改善を目的としてセルロース系物質とポリアセタール樹脂とを複合化させた材料が検討されている。
【0003】
特許文献1には、ポリアセタール樹脂にパルプを配合したポリアセタール樹脂組成物が開示されている。ここでは、機械的強度、耐熱性、燃焼性(燃焼時の樹脂のドリッピング)等の改善が示されているが、該材料の調整方法では、一般にパルプを樹脂中に均一に安定して分散させることが難しく、実用的に材料を製造することが難しかった。
【0004】
また、特許文献2には、ポリアセタール樹脂と、特定の嵩密度の繊維状セルロース系物質を配合したポリアセタール樹脂組成物が開示されている。ここでは、繊維状セルロース系物質を使用しているため、繊維状セルロース系物質の凝集は比較的抑えられた結果が得られてはいるが、得られた材料の曲げ弾性率、荷重たわみ温度は低めであり、機械的特性の改善が不十分であった。また、引張強さ、曲げ強さ、衝撃強さなどの物性改善については何ら開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−217447号公報
【特許文献2】特開2010−150313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から知られた技術では、上記のように、機械的特性の改善とセルロース系物質の分散性との両立が難しく、さらなる改善が切望されていた。本発明は、これらの課題を解決し、引張強さ、曲げ強さ、衝撃強さなどの機械的特性に優れ、セルロース繊維パウダーの分散性に優れたポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリアセタール樹脂に対して特定の選択されたセルロース繊維パウダーと共に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と特定の窒素含有化合物、更に特定の加工助剤を配合することにより、上記課題が解決し目的を達成し得るポリアセタール樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、(a)ポリアセタール樹脂100重量部に対して、(b)アスペクト比が5〜25、平均繊維長が150〜350μm、αセルロース純度が98〜100%のセルロース繊維パウダー10〜150重量部、(c)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.01〜3重量部、(d)アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びポリアミドから選ばれた少なくとも一種の窒素含有化合物0.01〜3重量部、(e)長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の誘導体、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシアルキレングリコール、オレフィン系ワックス及びシリコーン化合物から選ばれた少なくとも一種の加工助剤0.01〜3重量部を含有してなるポリアセタール樹脂組成物およびその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、引張強さ、曲げ強さ、衝撃強さ、荷重たわみ温度などの機械的特性に優れるとともに、セルロース繊維パウダーの分散性にも優れ、自動車部品、電気・電子部品、雑貨、文房具類などに関連した成形品に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のポリアセタール樹脂組成物について詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリアセタール樹脂組成物を構成する主要な成分は以下に説明する通りである。
<(a)ポリアセタール樹脂>
(a)成分のポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基(−OCH2−)を主たる構成
単位とする高分子化合物であり、実質的にオキシメチレン単位の繰返しのみからなるポリアセタールホモポリマー、オキシメチレン単位以外に他のコモノマー単位を含有するポリアセタールコポリマーが代表的な樹脂である。更に、ポリアセタール樹脂には、分岐形成成分や架橋形成成分を共重合することにより分岐構造や架橋構造が導入された共重合体や、オキシメチレン基の繰返しからなる重合体単位と他の重合体単位とを有するブロック共重合体やグラフト共重合体なども含まれる。
【0012】
一般に、ポリアセタールホモポリマーは、無水ホルムアルデヒドやトリオキサン(ホルムアルデヒドの環状三量体)の重合により製造され、通常、その末端をエステル化することにより、熱分解に対して安定化されている。
【0013】
これに対して、ポリアセタールコポリマーは、一般的に、ホルムアルデヒドまたは一般式(CH2O)n[式中、nは3以上の整数を示す]で表されるホルムアルデヒドの環状オリゴマー(例えばトリオキサン)と、環状エーテルや環状ホルマールなどのコモノマーとを共重合することによって製造され、通常、加水分解によって末端の不安定部分を除去して熱分解に対して安定化される。
【0014】
本発明においては上記ポリアセタール樹脂のいずれも使用できるが、セルロース繊維パウダーを配合した組成物の安定性の観点からポリアセタールコポリマーを用いるのが好ましく、特に好ましくは、トリオキサンと単官能環状エーテルを共重合して得られるポリアセタール共重合体である。ここで、単官能環状エーテルとしては−C−O−C−単位を含んで環状構造が形成されており、トリオキサンとの共重合によって、ポリアセタール樹脂の分子中にC2〜C6程度のオキシアルキレン単位を導入し得る化合物を指し、この中には環状ホルマールと称される化合物群も包含する。このような単官能環状エーテルとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、シクロヘキセンオキサイド、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、スチレンオキシド、オキセタン、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、テトラヒドロフラン、トリオキセパン、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,5−ペンタンジオールホルマール、1,6−ヘキサンジオールホルマールなどが挙げられる。特に、エチレンオキシド、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマールが好ましい。
【0015】
本発明において用いるポリアセタール樹脂は、トリオキサン99.9〜90重量%と単官能環状エーテル0.1〜10重量%を共重合して得られるものが好ましく、特に、その末端基として、アルコキシ末端基と炭素数が少なくとも2個のヒドロキシアルコキシ末端基との合計が全末端基の70〜99%であるポリアセタール共重合体が好ましい。かかる末端基は、公知の方法、例えば特開平5−98028号公報、特開2001−11143号公報等に記載された方法を利用して測定することができる。
【0016】
また、本発明において用いる(a)ポリアセタール樹脂のメルトインデックスは、10〜100g/10分の範囲が好ましく、特に10〜50g/10分の範囲が好ましい。メルトインデックスが過小および過大の場合には、本発明の効果が十分に得られない場合がある。なお、メルトインデックスは、ASTM−D1238に準拠して、190℃、2.16kgf(21.2N)の条件下で測定した値である。
<(b)セルロース繊維パウダー>
本発明に使用する(b)セルロース繊維パウダーは、精製パルプを原料とし、パウダー形状としたものであり、そのアスペクト比は5〜25である。特に、好ましいアスペクト比は7〜20である。(b)セルロース繊維パウダーのアスペクト比が5を下回る場合には、ポリアセタール樹脂組成物の機械的特性の改善が不十分となり、25を上回る場合には、セルロース繊維パウダーの分散性が悪化するため好ましくない。なお、アスペクト比は、SEM又は光学顕微鏡による観察などにより測定することができる。
【0017】
また、本発明に使用する(b)セルロース繊維パウダーの平均繊維長は150〜350μmであり、特に、180〜320μmが好ましい。(b)セルロース繊維パウダーの平均繊維長が150μmを下回る場合には、ポリアセタール樹脂組成物の機械的特性の改善が不十分となり、350μmを上回る場合には、セルロース繊維パウダーの分散性が悪化し、又、ポリアセタール樹脂組成物の分解が進行する場合があるため好ましくない。なお、平均繊維長は、SEM又は光学顕微鏡による観察などにより測定することができる。
【0018】
また、本発明に使用する(b)セルロース繊維パウダーのαセルロース純度の範囲は98〜100%であり、特に、99〜100%の範囲が好ましい。αセルロース純度が98%を下回る場合には、ポリアセタール樹脂組成物の分解が進行する場合があり、製造が難しくなったり、ポリセタール樹脂組成物の特性を低下させる場合があるため好ましくない。
【0019】
本発明において、(b)セルロース繊維パウダーの配合量は、(a)成分のポリアセタール樹脂100重量部に対して10〜150重量部であり、好ましくは10〜150重量部である。(b)セルロース繊維パウダーの配合量が10重量部を下回る場合には、ポリアセタール樹脂組成物の機械的特性の改善が不十分となり、150重量部上回る場合には、セルロース繊維パウダーの分散性が悪化するため好ましくない。
<(c)ヒンダードフェノール系酸化防止剤>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、(c)ヒンダードフェノール系化合物を用いることで、機械的特性の改善が安定して得られる。(c)ヒンダードフェノール系化合物としては、単環式ヒンダードフェノール化合物(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなど)、炭化水素基又はイオウ原子を含む基で連結された多環式ヒンダードフェノール化合物(例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)など)、エステル基又はアミド基を有するヒンダードフェノール化合物(例えば、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−2−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、ジ−n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ジヒドロシンナムアミド、N,N’−エチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−テトラメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−エチレンビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ヘキサメチレンビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N’−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレートなど)が挙げられる。
【0020】
本発明において、(c)ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。その配合割合は、(a)成分のポリアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部であり、好ましくは0.02〜1重量部である。
<(d)窒素含有化合物>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、(d)アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びポリアミドから選ばれた少なくとも一種の窒素含有化合物を用いることで、機械的特性の改善が安定して得られ、溶融安定性も向上する。
【0021】
アミノトリアジン化合物としては、メラミン又はその誘導体[メラミン、メラミン縮合体(メラム、メレム、メロン)など]、グアナミン又はその誘導体、及びアミノトリアジン樹脂[メラミンの共縮合樹脂(メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−メラミン樹脂、メラミン−フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン−メラミン樹脂、芳香族ポリアミン−メラミン樹脂など)、グアナミンの共縮合樹脂など]などが挙げられる。
【0022】
グアナミン化合物としては、脂肪族グアナミン化合物(モノグアナミン類、アルキレンビスグアナミン類など)、脂環族グアナミン系化合物(モノグアナミン類など)、芳香族グアナミン系化合物[モノグアナミン類(ベンゾグアナミン及びその官能基置換体など)、α−又はβ−ナフトグアナミン及びそれらの官能基置換誘導体、ポリグアナミン類、アラルキル又はアラルキレングアナミン類など]、ヘテロ原子含有グアナミン系化合物[アセタール基含有グアナミン類、テトラオキソスピロ環含有グアナミン類(CTU−グアナミン、CMTU−グアナミンなど)、イソシアヌル環含有グアナミン類、イミダゾール環含有グアナミン類など]などが挙げられる。また、上記のメラミン、メラミン誘導体、グアナミン系化合物のアルコキシメチル基がアミノ基に置換した化合物なども含まれる。
【0023】
ヒドラジド化合物としては、脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物(ステアリン酸ヒドラジド、12−ヒドロキシステアリン酸ヒドラジド 、セバシン酸ジヒドラジド 、ドデカン二酸ジヒドラジド 、エイコサン二酸ジヒドラジドなど)、脂環族カルボン酸ヒドラジ
ド系化合物(1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントインなど)、芳香族カルボン酸ヒドラジド系化合物(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル安息香酸ヒドラジド、1−ナフトエ酸ヒドラジド、2−ナフトエ酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジドなど)、ヘテロ原子含有カルボン酸ヒドラジド系化合物、ポリマー型カルボン酸ヒドラジド系化合物などが挙げられる。
【0024】
ポリアミドとしては、ジアミンとジカルボン酸とから誘導されるポリアミド;アミノカルボン酸、必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸を併用して得られるポリアミド;ラクタム、必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸との併用により誘導されるポリアミドが含まれる。また、2種以上の異なったポリアミド形成成分により形成される共重合ポリアミドも含まれる。
【0025】
具体的なポリアミドの例としては、ポリアミド3、ポリアミド4、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族ポリアミド、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン)とから得られるポリアミド、脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸)と芳香族ジアミン(例えば、メタキシリレンジアミン)とから得られるポリアミド、芳香族及び脂肪族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸とアジピン酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン)とから得られるポリアミド及びこれらの共重合体などが挙げられる。また、ポリアミドハードセグメントとポリエーテル成分などの他のソフトセグメントの結合したポリアミド系ブロックコポリマーの使用も可能である。
【0026】
(d)アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びポリアミドから選ばれる窒素含有化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。その配合割合は、(a)成分のポリアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部であり、好ましくは0.02〜1重量部である。
<(e)加工助剤>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、(e)長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の誘導体、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシアルキレングリコール、オレフィン系ワックス及びシリコーン化合物から選ばれた少なくとも一種の加工助剤を用いることも大きな特徴であり、これにより、前記(b)セルロース繊維パウダーの配合による機械的特性等の改善が安定して得られ、溶融加工性も向上する。
【0027】
長鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。また、その一部の水素原子がヒドロキシル基などの置換基で置換されたものも使用できる。このような長鎖脂肪酸としては、炭素数10以上の1価又は2価の脂肪酸、炭素数10以上の一価の不飽和脂肪酸、炭素数10以上の二価の脂肪酸(二塩基性脂肪酸)が例示される。前記脂肪酸には、1つ又は複数のヒドロキシル基を分子内に有する脂肪酸も含まれる。
【0028】
長鎖脂肪酸の誘導体には、脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドなどが含まれる。
【0029】
脂肪酸エステルとしては、前記長鎖脂肪酸とアルコールとのエステルが挙げられる。その構造は特に制限されず、直鎖状又は分岐状脂肪酸エステルのいずれも使用できる。脂肪酸エステルの具体例としては、エチレングリコールモノ又はジパルミチン酸エステル、エチレングリコールモノ又はジステアリン酸エステル、エチレングリコールモノ又はジベヘン酸エステル、エチレングリコールモノ又はジモンタン酸エステル、グリセリンモノ乃至トリパルミチン酸エステル、グリセリンモノ乃至トリステアリン酸エステル、グリセリンモノ乃至トリベヘン酸エステル、グリセリンモノ乃至トリモンタン酸エステル、ペンタエリスリトールモノ乃至テトラパルミチン酸エステル、ペンタエリスリトールモノ乃至テトラステアリン酸エステル、ペンタエリスリトールモノ乃至テトラベヘン酸エステル、ペンタエリスリトールモノ乃至テトラモンタン酸エステル、ポリグリセリントリステアリン酸エステル、トリメチロールプロパンモノパルミチン酸エステル、ペンタエリスリトールモノウンデシル酸エステル、ソルビタンモノステアリン酸エステル、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)のモノ又はジラウレート、モノ又はジパルミテート、モノ又はジステアレート、モノ又はジベヘネート、モノ又はジモンタネート、モノ又はジオレート、モノ又はジリノレートなどが挙げられる。
【0030】
脂肪酸アミドの例としては、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキン酸アミド、ベヘン酸アミド、モンタン酸アミドなどの飽和脂肪酸の第1級酸アミド、オレイン酸アミドなどの不飽和脂肪酸の第1級酸アミド、ステアリルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミドなどの飽和及び/又は不飽和脂肪酸とモノアミンとの第2級酸アミド、エチレンジアミン−ジパルミチン酸アミド、エチレンジアミン−ジステアリン酸アミド(エチレンビスステアリルアミド)、ヘキサメチレンジアミン−ジステアリン酸アミド、エチレンジアミン−ジベヘン酸アミド、エチレンジアミン−ジモンタン酸アミド、エチレンジアミン−ジオレイン酸アミド、エチレンジアミン−ジエルカ酸アミドなどが挙げられ、更にエチレンジアミン−(ステアリン酸アミド)オレイン酸アミドなどのアルキレンジアミンのアミン部位に
異なるアシル基が結合した構造を有するビスアミドなどが例示できる。
【0031】
長鎖脂肪族アルコールとしては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
【0032】
前記ポリオキシアルキレングリコールとしては、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールなどのアルキレングリコールなど)の単独又は共重合体、それらの誘導体などが挙げられる。
【0033】
ポリオキシアルキレングリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体(ランダム又はブロック共重合体など)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテルなどの共重合体などが挙げられる。これらのうち、オキシエチレン単位を有する重合体、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体及びそれらの誘導体などが好ましい。ポリオキシアルキレングリコールの平均分子量は、3×102〜1×106、好ましくは1×103〜1×105程度である。
【0034】
前記オレフィン系ワックスとしては、低分子量のポリオレフィン(例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、エチレンとα−オレフィンの低分子量共重合体など)、酸化型ポリエチレンワックス等が挙げられる。
【0035】
前記シリコーン系化合物には、(ポリ)オルガノシロキサンなどが含まれる。(ポリ)オルガノシロキサンとしては、ジアルキルシロキサン(ジメチルシロキサンなど)、アルキルアリールシロキサン(フェニルメチルシロキサンなど)、ジアリールシロキサン(ジフェニルシロキサンなど)などのモノオルガノシロキサン、これらの単独重合体(ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサンなど)又は共重合体などが例示できる。なお、ポリオルガノシロキサンは、オリゴマーであってもよい。
【0036】
また、(ポリ)オルガノシロキサンには、分子末端や主鎖に、エポキシ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基又は置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)、エーテル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などの置換基を有する変性(ポリ)オルガノシロキサンなども含まれる。
【0037】
本発明において、(e)長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の誘導体、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシアルキレングリコール、オレフィン系ワックス及びシリコーン化合物から選ばれた少なくとも一種の加工助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。その配合割合は、(a)成分のポリアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部であり、好ましくは0.05〜1重量部である。(e)長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の誘導体、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシアルキレングリコール及びシリコーン化合物から選ばれる加工助剤の配合量が多くても少なくても、前述したような加工助剤の効果が得られない。
<ポリアセタール樹脂組成物の調製方法>
本発明において、上記ポリアセタール樹脂組成物の調製方法の具体的態様は特に限定されるものではなく、一般に合成樹脂組成物又はその成形品の調製法として公知の設備と方法により調製することができる。即ち、必要な成分を混合し、押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。また、押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。特に、本発明において押出機は、機械的特性の改善とセルロース繊維パウダーの分散性の両立の観点から、二軸押出機を用いることが好ましく、中でも、サイドフィード可能な二軸押出機を用い、(b)セルロース繊維パウダーを押出機のサイド側から他の原料とは独立に供給して溶融混練する製造方法が好ましい。
【0038】
本発明のポリアセタール樹脂組成物の調製にあたり、(a)ポリアセタール樹脂と(b)セルロース繊維パウダーとの密着性を改善する物質を使用することができる。ここで、密着性を改善する物質としては、イソシアネート化合物、イソチオシオネート化合物、及びそれらの変性体イソシアネート化合物、熱可塑性ポリウレタン樹脂、α,β−モノオレフィン性不飽和カルボン酸の酸無水物の重合体及び共重合体、ホウ酸化合物などが挙げられる。
【0039】
更に本発明の組成物には目的とする用途に応じてその物性を改善するため、公知の各種の添加物を配合し得る。添加物の例を示せば、各種の着色剤、滑剤、核剤、界面活性剤、異種ポリマー、有機高分子改良剤及び無機、有機、金属などの繊維状、粉粒状、板状の充填剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合使用できる。
<ポリアセタール樹脂組成物の成形方法ならびに用途>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、従来公知の成形方法(例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形などの方法)で、種々の成形品を成形することができる。特に、射出成形に好適である。また、これらの成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建材、生活関係部品・化粧関係部品・医用関係部品など各種用途に利用することができる。
【0040】
具体的には、自動車部品としては、インナーハンドル、フェーエルトランクオープナー、シートベルトバックル、アシストラップ、各種スイッチ、ノブ、レバー、クリップなどの内装部品、メーター、コネクターなどの電気系統部品、オーディオ機器やカーナビゲーション機器などの車載電気・電子部品、ウインドウレギュレーターのキャリアープレートに代表される金属と接触する部品、ドアロックアクチェーター部品、ミラー部品、ワイパーモーターシステム部品、燃料系統の部品などの機構部品などが挙げられる。
【0041】
電気・電子部品としては、ポリアセタール樹脂成形品で構成され、かつ金属接点が多数存在する機器の部品又は部材、例えば、オーディオ機器、ビデオ機器、又は、電話機、コピー機、ファクシミリ、ワードプロセサー、コンピューターなどのOA機器、玩具類の部品又は部材、具体的には、シャーシ、ギヤー、レバー、カム、プーリー、軸受けなどが挙げられる。
【0042】
更に、照明器具、建具、配管、コック、蛇口、トイレ周辺機器部品などの建材・配管部品、ファスナー類、文具、リップクリーム・口紅容器、洗浄器、浄水器、スプレーノズル、スプレー容器、エアゾール容器、一般的な容器、注射針のホルダーなどの広範な生活関係部品・化粧関係部品・医用関係部品に好適に使用される。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
実施例1〜4、比較例1〜5
表1、2に示す割合で、(a)ポリアセタール樹脂、(b)セルロース繊維パウダー、(c)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(d)窒素含有化合物、及び(e)加工助剤を二軸押出機で溶融混錬し、ペレット状のポリアセタール樹脂組成物を調製した。なお、(b)セルロース繊維パウダーは二軸押出機のサイド側から独立にフィーダーから供給して混合した。得られたペレットを用いて、射出成形機により所定の試験片を成形し、試験評価を行った。結果を表1、2に示す。
〔使用成分〕
使用した成分の詳細は、以下のとおりである。
(a)ポリアセタール樹脂
(a−1)トリオキサン96.5重量%と1,3−ジオキソラン3.5重量%を共重合して得られるポリアセタール樹脂、メルトインデックス=27g/10分(ポリプラスチックス(株)製)
(b)セルロース繊維パウダー
(b−1)ARBOCEL BC 200、アスペクト比15、平均繊維長300μm、αセルロース純度99.5%、嵩比重70〜90g/L(レッテンマイヤー社製)
(b−2)ARBOCEL BE 600−10 TG、アスペクト比1.2、平均繊維長18μm、αセルロース純度99.5%、嵩比重230〜300g/L(レッテンマイヤー社製)
(b−3)ARBOCEL B00、アスペクト比4.8、平均繊維長120μm、αセルロース純度99.5%、嵩比重150〜185g/L(レッテンマイヤー社製)
(b−4)ARBOCEL PWC500、アスペクト比14.3、平均繊維長500μm、αセルロース純度90%、嵩比重70〜100g/L(レッテンマイヤー社製)
(c)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
(c−1)ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
(d)窒素含有化合物
(d−1)メラミン
(e)加工助剤
(e−1)エチレンビスステアリルアミド
〔押出条件〕
押出機:TEX−30α(L/D=38.5)、日本製鋼所社製
スクリュー回転数:129rpm
バレル温度:C2=160℃、C3〜C11・D=200℃
〔成形条件〕
成形機:ROBOSHOT S2000i100B、スクリュー径28mm、ファナック社製
シリンダ温度:200℃
金型温度:90℃(水温調)
〔試験方法〕
試験方法の詳細は、以下のとおりである。
(1)引張強さ、引張伸び(破壊ひずみ)
ISO527−1,2に定められている評価基準に従い引張強さ(MPa)、引張伸び(%)を評価した。
(2)曲げ弾性率、曲げ強さ
ISO178に準拠し、曲げ弾性率(MPa)、曲げ強さ(MPa)を測定した。
(3)シャルピー衝撃強さ(ノッチ付)
ISO179/1eAに準拠しシャルピー衝撃強さ(ノッチ付)(kJ/m)を測定した。
(4)荷重たわみ温度
ISO75−1,2に準拠し、荷重たわみ温度(℃)(荷重: 1.8MPa)を測定した。
(5)外観評価
ISO178に準拠した曲げ試験片の外観を目視観察した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表1の結果の比較から、本発明の要件を満たすポリアセタール樹脂組成物(実施例1〜3)は、引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、衝撃強さ、荷重たわみ温度に優れることがわかる。一方、セルロース繊維パウダーのアスペクト比、平均繊維長が本発明の要件を満たさない比較例1、2の場合には、引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、衝撃強さ、荷重たわみ温度の値が低めであることがわかる。さらに、セルロース繊維パウダーの平均繊維長、αセルロース純度が本発明の要件を満たさない比較例3では、樹脂組成物の分解が起こるため製造が難しくなることがわかる。
【0048】
また、セルロース繊維パウダーの配合量を変えた表2の結果からも同様に、本発明の要件を満たすポリアセタール樹脂組成物(実施例4)は、引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、衝撃強さ、荷重たわみ温度に優れることがわかる。
【0049】
比較例6
また、(e)加工助剤を用いない以外は実施例1と同じ構成のポリアセタール樹脂組成物を、実施例1と同様に調製して評価した。得られたポリアセタール樹脂組成物は、実施例1と同等の機械的特性(引張特性、曲げ特性、衝撃特性等)を有するものであったが、溶融加工安定性(例えば、成形機へのペレット状樹脂組成物の供給安定性や成形機での可塑化安定性等)が実施例1より劣るものであった。溶融加工を安定させ、これにより成形品の品質の安定性・均一性を確保するためには(e)加工助剤の配合が有効であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリアセタール樹脂100重量部に対して、
(b)アスペクト比が5〜25、平均繊維長が150〜350μm、αセルロース純度が98〜100%のセルロース繊維パウダー10〜150重量部、
(c)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.01〜3重量部、
(d)アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びポリアミドから選ばれた少なくとも一種の窒素含有化合物0.01〜3重量部、
(e)長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の誘導体、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシアルキレングリコール、オレフィン系ワックス及びシリコーン化合物から選ばれた少なくとも一種の加工助剤0.01〜3重量部
を含有してなるポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
(a)ポリアセタール樹脂が、トリオキサン99.9〜90重量%と単官能環状エーテル0.1〜10重量%を共重合して得られ、アルコキシ末端基と炭素数が少なくとも2個のヒドロキシアルコキシ末端基とを、合計で全末端基の70〜99%の割合で有するポリアセタール共重合体である請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
(a)ポリアセタール樹脂のメルトインデックス(ASTM−D1238に準拠、190℃、2.16kgf)が10〜50g/10分である、請求項1または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物を製造するにあたり、サイドフィード可能な二軸押出機を用い、(b)セルロース繊維パウダーを押出機のサイド側から他の原料とは独立に供給して溶融混錬するポリアセタール樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−87158(P2012−87158A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232248(P2010−232248)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】