説明

ポリアミドイミド樹脂及びその製造方法

【課題】エポキシ樹脂と共に用いた場合に、エポキシ樹脂を含有する従来のポリアミドイミド樹脂組成物よりも低温で硬化可能であり、かつ十分な耐熱性及び機械強度を有する硬化物を得ることができるポリアミドイミド樹脂を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構造を含むポリアミドイミド樹脂。


[式(1)中、Arは、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい芳香環を示し、nは1以上の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の急速な小型化、高性能化、高機能化に伴い、プリント配線板分野ではさまざまな材料が使用されるようになっている。プリント配線板分野で用いられる電気絶縁性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂等のような熱硬化性樹脂が汎用される。なお、電気絶縁性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などのような熱可塑性樹脂が用いられることもある。また、ポリアミドイミド樹脂は耐熱性に優れ、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂の配合により接着性に優れた材料となることから、様々な開発が進められている。
【0003】
具体的には、例えば、耐熱衝撃性、耐リフロー性、耐クラック性に優れ微細配線形成性を向上するために、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂とポリアミドイミド樹脂とを必須成分とする樹脂組成物を繊維基材に含浸したプリプレグが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
なお、一般的に、ポリアミドイミド樹脂は、無水トリメリット酸と芳香族ジイソシアネートとの反応によるイソシアネート法で合成されるか、芳香族ジアミンとトリメリット酸クロライドとの反応による酸クロライド法で合成されている。ここで、イソシアネート法では、種類の豊富なジアミンを使用して種々の構造を有するポリアミドイミド樹脂を合成し、これに熱硬化性樹脂を配合して耐熱性熱硬化性樹脂とすることができる。
【0005】
具体的には、例えば、芳香族ジアミンとシロキサンジアミンをトリメリット酸無水物と反応させてジイミドジカルボン酸とした後にイソシアネート法で製造することで種々のイミド構造を有し、副生成物が少なくフィルム形成に充分な分子量のポリアミドイミド樹脂を合成する手法が提案されている(例えば、特許文献2、3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−55486号公報
【特許文献2】特開平11−130831号公報
【特許文献3】特開2006−124670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載のポリアミドイミド樹脂は、エポキシ樹脂と共に用いて硬化させることにより、種々の被着体に対する接着強度が高く耐熱性に優れる硬化物を得ることができる反面、ポリアミドイミド樹脂のアミド基とエポキシ樹脂のグリシジル基との反応を利用するために、200℃以上、実際には230℃以上の加熱処理を必要とし、十分な特性を得るにはさらに長時間の後加熱処理が必要であった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、エポキシ樹脂と共に用いた場合に、エポキシ樹脂を含有する従来のポリアミドイミド樹脂組成物よりも低温で硬化可能であり、かつ十分な耐熱性及び機械強度を有する硬化物を得ることができるポリアミドイミド樹脂及び当該ポリアミドイミド樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、下記式(1)で表される構造を含むポリアミドイミド樹脂を提供する。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、Arは、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい芳香環を示し、nは1以上の整数を示す。
【0012】
本発明のポリアミドイミド樹脂によれば、上記構成を有することにより、エポキシ樹脂と共に用いてポリアミドイミド樹脂組成物とした場合において、従来のポリアミドイミド樹脂組成物よりも低温の条件である180℃の加熱条件で硬化させることができ、かつ、その場合であっても十分な耐熱性、機械強度を有する硬化物を得ることができる。また、本発明のポリアミドイミド樹脂によれば、当該ポリアミドイミド樹脂とエポキシ樹脂とを含有する樹脂組成物を繊維基材に含浸させてプリプレグに加工した場合やBステージ状態のフィルム等に加工した場合にも加熱成形が可能である。さらに、本発明のポリアミドイミド樹脂によれば、低温硬化が可能でありながらも金属箔や繊維基材との接着性や、耐熱性に優れる硬化物を形成可能であることから、金属箔張り積層板などのプリント配線板材料として有用である。
【0013】
また、本発明のポリアミドイミド樹脂の硬化物は十分な折り曲げ性を有することができるため、任意に折り曲げ可能で電子機器の筐体内に高密度に収納可能なプリント配線板の形成に有用である。更に、本発明のポリアミドイミド樹脂は、フィルム形成性に優れ極薄化できることから、プリント配線板の材料として用いられる薄膜の接着フィルムの形成に有用である。
【0014】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、下記式(2)で表される構造を含むことが好ましい。
【0015】
【化2】

【0016】
このようなポリアミドイミド樹脂によれば、得られる硬化物の機械強度を更に向上させることができる。また、フィルムを形成したときにはフィルムの機械強度を更に向上させることができる。
【0017】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、オルガノポリシロキサン構造を含むことが好ましい。
【0018】
上記ポリアミドイミド樹脂がこのような構造を含むと、可撓性が向上する。また、上記ポリアミドイミド樹脂をフィルムとしたときに、フィルムの乾燥性が高くなり、フィルムの低揮発分化が容易となることに加え、フィルムを低弾性率化させ、かつ伸びを向上させることができる。また、上記ポリアミドイミド樹脂がこのような構造を含むと、当該ポリアミドイミド樹脂をフィルム形成可能な分子量とし溶媒に可溶とすることが容易となる。
【0019】
本発明はまた、ジカルボン酸化合物と、下記式(3)で表される分子内で脱水閉環しない芳香族多塩基酸と、ジイソシアネート化合物と、を、上記ジカルボン酸化合物の総モル数に対して上記芳香族多塩基酸を0.01〜1.0倍モル及び上記ジイソシアネート化合物を上記ジカルボン酸化合物と上記芳香族多塩基酸の合計モル数に対して1.01〜1.45倍モルの割合で反応させる、ポリアミドイミド樹脂の製造方法を提供する。
【0020】
【化3】

【0021】
式(3)中、Arは、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい芳香環を示し、mは3以上の整数を示す。
【0022】
このような製造方法によれば、ポリアミドイミド樹脂の主鎖に上記式(1)で表される構造を十分組み入れることができる。また、ポリアミドイミド樹脂の分子量の調整が可能であり、フィルム等に加工した際のフィルムの機械特性を容易に制御することができる。なお、芳香族多塩基酸の割合がジカルボン酸化合物の総モル数に対して0.01倍モル未満であると、ポリアミドイミド樹脂への側鎖カルボキシル基の導入による効果が小さくなる傾向にあり、1.0倍モルを超えると、ゲル化して不溶解性成分が生成する傾向にある。
【0023】
上記ポリアミドイミド樹脂の製造方法においては、耐熱性の観点から、上記ジカルボン酸化合物がイミド構造を有することが好ましい。
【0024】
上記ポリアミドイミド樹脂の製造方法においては、上記ジカルボン酸化合物が、ジアミンと、無水トリメリット酸と、を、ジアミンの総モル数に対して無水トリメリット酸を2.0〜2.3倍モルの割合で反応させて得られるイミドジカルボン酸化合物であることが好ましい。
【0025】
このような製造方法によれば、ポリアミドイミド樹脂の設計可能な分子量の範囲が広く、特に高分子量の樹脂を得ることができる。また、このような製造方法によれば、種々のイミド構造をポリアミドイミド樹脂に導入することもできる。
【0026】
上記ポリアミドイミド樹脂の製造方法においては、上記ジカルボン酸化合物がオルガノポリシロキサンイミド構造を有することが更に好ましい。
【0027】
上記のジカルボン酸化合物を反応させることによって、樹脂の分子量を制御することができ、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノンなどの溶媒に可溶なポリアミドイミド樹脂を得ることができる。そして、このような製造方法によれば、フィルム状にしたときの乾燥性がより高く、フィルム形成性が更に向上されたポリアミドイミド樹脂を得ることができる。また、このような製造方法によれば、フィルムとしたときの弾性率がより低いポリアミドイミド樹脂を得ることができる。
【0028】
上記ポリアミドイミド樹脂の製造方法においては、上記芳香族多塩基酸が1,3,5−トリカルボキシベンゼンであることが好ましい。
【0029】
このような製造方法によれば、ポリアミドイミド樹脂中に、芳香族アミド基と、多官能グリシジル化合物との反応点になるカルボキシル基とをバランスよく組み入れることができる。
【0030】
本発明はまた、上述のポリアミドイミド樹脂の製造方法によって得られるポリアミドイミド樹脂を提供する。
【0031】
上述の製造方法によって得られたポリアミドイミド樹脂によれば、エポキシ樹脂と共に用いた場合において、低温硬化によって機械強度に優れた硬化物をより確実に得ることができる。また、このようなポリアミドイミド樹脂によれば、フィルムを形成したときのフィルムの機械強度を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、エポキシ樹脂と共に用いた場合に、180℃の加熱条件においても、硬化可能であり、かつ十分な耐熱性及び機械強度を有する硬化物を得ることができるポリアミドイミド樹脂及び当該ポリアミドイミド樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0034】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、下記式(1)で表される構造を含むものである。このようなポリアミドイミド樹脂によれば、エポキシ樹脂と共に用いてポリアミドイミド樹脂組成物とした場合において、従来のポリアミドイミド樹脂組成物よりも低温の条件である180℃の加熱条件で硬化させることができ、かつ、その場合であっても十分な耐熱性、機械強度を有する硬化物を得ることができる。また、当該ポリアミドイミド樹脂によれば、当該ポリアミドイミド樹脂とエポキシ樹脂とを含有する樹脂組成物を繊維基材に含浸させてプリプレグに加工した場合やBステージ状態のフィルム等に加工した場合に加熱成形が可能である。当該ポリアミドイミド樹脂によれば、低温硬化が可能でありながらも金属箔や繊維基材との接着性や、耐熱性に優れる硬化物を形成可能であることから、金属箔張り積層板などのプリント配線板材料として有用である。また、当該ポリアミドイミド樹脂の硬化物は十分な折り曲げ性を有することができるため、任意に折り曲げ可能で電子機器の筐体内に高密度に収納可能なプリント配線板の形成に有用である。更に、当該ポリアミドイミド樹脂は、フィルム形成性に優れ極薄化できることから、プリント配線板の材料として用いられる薄膜の接着フィルムの形成に有用である。
【0035】
【化4】

【0036】
式(1)中、Arは、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい芳香環を示し、nは1以上の整数を示す。ここで、カルボキシル基以外の置換基としては、例えば、OH基、アルキル基が挙げられる。
【0037】
上記式(1)で表される構造としては、例えば、下記式(2)及び下記式(4)で表される構造が挙げられる。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
式(4)中、sは、1又は2を示す。
【0041】
中でも、上記ポリアミドイミド樹脂が、上記式(2)で表される構造を含むと、得られる硬化物の機械強度を更に向上させることができる。また、このようなポリアミドイミド樹脂によれば、フィルムとして形成したときのフィルムの機械強度を更に向上させることができる。
【0042】
上記ポリアミドイミド樹脂は、オルガノポリシロキサン構造を含むことが好ましい。この場合、ポリアミドイミド樹脂の可撓性が向上し、硬化物の低弾性率化が可能になる。これにより、得られる硬化物の伸び性を向上させることができる。また、樹脂組成物をフィルム状にしたときに、フィルムの乾燥性が高くなり、フィルムの低揮発分化が容易となることに加え、フィルムを低弾性率化させることができる。また、上記ポリアミドイミド樹脂がこのような構造を含むと、当該ポリアミドイミド樹脂をフィルム形成可能な分子量とし溶媒に可溶とすることが容易となる。
【0043】
オルガノポリシロキサン構造としては、下記式(S−1)で表される構造が挙げられる。
【0044】
【化7】

【0045】
式(S−1)中、R及びRは、それぞれ独立に2価の有機基を示し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に1価の有機基を示し、uは1以上の整数を示す。また、uが2以上のとき、複数のR及びRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
上記2価の有機基としては、アルキレン基、フェニレン基又は置換フェニレン基が好ましい。また、上記2価の有機基の炭素数は1〜6であることが好ましい。上記2価の有機基としては、炭素数1〜3のアルキレン基が更に好ましい。
【0047】
上記1価の有機基としては、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基が好ましい。また、上記1価の有機基の炭素数は、1〜6であることが好ましい。上記1価の有機基としては、炭素数1〜3のアルキル基が更に好ましい。
【0048】
また、uは1〜50の整数であることが好ましい。
【0049】
本実施形態においては、原料の入手容易性の観点から、R及びRがいずれもプロピレン基であり、R、R、R及びRがいずれもメチル基であることが特に好ましい。
【0050】
上記ポリアミドイミド樹脂の主鎖は、上述したオルガノポリシロキサン構造の他に、アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を含んでいてもよい。すなわち、上記ポリアミドイミド樹脂の主鎖は下記(I)、(II)及び(III)のうちのいずれかを含んでいてもよい。
(I)オルガノポリシロキサン構造及びアルキレン基。
(II)オルガノポリシロキサン構造及びオキシアルキレン基。
(III)オルガノポリシロキサン構造、アルキレン基及びオキシアルキレン基。
【0051】
ここで、(I)及び(III)のアルキレン基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、当該アルキレン基の炭素数は1〜12であることが好ましい。また、(II)及び(III)のオキシアルキレン基の炭素数は1〜6であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。なお、当該オキシアルキレン基は2以上が繰り返してポリオキシアルキレン構造を形成していてもよい。
【0052】
ポリアミドイミド樹脂の主鎖は上記(III)を含むことが特に好ましい。また、かかる場合のアルキレン基及びオキシアルキレン基は、下記式(A−1)、(A−2)、(A−3)及び(A−4)で表される構造のうちの1種以上を有することが特に好ましい。
【0053】
【化8】

【0054】
式(A−1)中、aは2〜70の整数を示す。
【0055】
【化9】

【0056】
式(A−2)中、b、c及びdは1以上の整数を示す。なお、b+c+dは5〜40であることが好ましい。
【0057】
【化10】

【0058】
【化11】

【0059】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、例えば、ジカルボン酸化合物と、下記式(3)で表される分子内で脱水閉環しない芳香族多塩基酸と、ジイソシアネート化合物との反応により製造することができる。ここで、分子内で脱水閉環しない芳香族多塩基酸とは、隣り合うカルボキシル基同士が、100℃以上の加熱や脱水剤の存在下で、脱水閉環しないものをいう。
【0060】
【化12】

【0061】
式(3)中、Arは、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい芳香環を示し、mは3以上の整数を示す。ここで、カルボキシル基以外の置換基としては、例えば、OH基、アルキル基が挙げられる。
【0062】
上記ジカルボン酸化合物としては、ジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸であることが好ましい。なお、ここで、上記ジカルボン酸化合物は、ジアミンと、無水トリメリット酸と、を、ジアミンの総モル数に対して無水トリメリット酸を2.0〜2.3倍モルの割合で反応させて得られるイミドジカルボン酸化合物であることが好ましい。このような製造方法によれば、種々のイミド構造をポリアミドイミド樹脂に導入することができ、分子量の調整幅も大きくできる。また、反応に用いるジアミンの構造を選択することでポリアミドイミド樹脂の可撓性や耐熱性、強度などを制御することが可能となる。
【0063】
上記ジアミンとしては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。
【0064】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、オクタデカメチレンジアミン等の直鎖型脂肪族ジアミンや末端アミノ化ポリプロピレングリコールが挙げられる。脂肪族ジアミンは、低弾性率及び高Tgの両立の観点から、エーテル基を含むことが好ましく末端アミノ化ポリプロピレングリコールが好ましい。末端アミノ化ポリプロピレングリコールとしては分子量の異なるジェファーミンD−230、D−400、D−2000、D−4000(以上、ハンツマン社製、製品名)が入手できる。
【0065】
芳香族ジアミンとしては、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4’−ジアミン、2,6,2’,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミン、5,5’−ジメチル−2,2’−スルフォニル−ビフェニル−4,4’−ジアミン、3,3’−ジヒドロキシビフェニル−4,4’−ジアミン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルスルホン、(4,4’−ジアミノ)ベンゾフェノン、(3,3’―ジアミノ)ベンゾフェノン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルメタン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(3,3’―ジアミノ)ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0066】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂が上記式(S−1)で表されるオルガノポリシロキサン構造を含むものである場合、上記ジアミンとして、オルガノポリシロキサン構造を有するジアミンを用いることで、オルガノポリシロキサン構造を有するジカルボン酸化合物が得られ、ポリアミドイミド樹脂にオルガノポリシロキサン構造を含有させることができる。
【0067】
上記式(S−1)で表されるオルガノポリシロキサン構造を有するジアミンとしては、例えば、下記式(S−2)又は(S−3)で表されるシロキサンジアミンが挙げられる。
【0068】
【化13】

【0069】
【化14】

【0070】
式(S−2)中のuは、1以上の整数を示す。式(S−3)中、vは、1以上の整数を示し、wは、0以上の整数を示し、v+wは、1〜50であることが好ましい。
【0071】
上記式(S−2)で表されるシロキサンジアミンとしては、例えば、KF8010(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1,500)(以上、信越化学工業株式会社製、製品名)、BY16−853(アミン当量650)、BY16−853B(アミン当量2,200)、(以上、東レダウコーニングシリコーン株式会社製、製品名)等が挙げられる。上記式(S−3)で表されるシロキサンジアミンとしては、例えば、X−22−9409(アミン当量700)、X−22−1660B−3(アミン当量2,200)(以上、信越化学工業株式会社製、製品名)等が挙げられる。
【0072】
オルガノポリシロキサン構造を有するジアミンを用いる場合、オルガノポリシロキサン構造を有するジアミンの使用量が、ジアミンの総モル数を基準として10〜80モル%であることが好ましく、20〜60モル%であることがより好ましく、30〜50モル%であることが更に好ましい。
【0073】
上記(I)、(II)及び(III)のいずれかを含むポリアミドイミド樹脂は、例えば、上記ジアミンとして、アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を有するジアミンと、上記のオルガノポリシロキサン構造を有するジアミンとを用いることで作製できる。
【0074】
アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を含むジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ジアミノジエチルエーテル等の低分子ジアミン、両末端アミノ化ポリエチレン、両末端アミノ化ポリプロピレン等の両末端アミノ化オリゴマー、両末端アミノ化ポリマーなどが例示できる。アルキレン基を含むジアミンとしてはアルキレン基の炭素数は4以上が好ましく、6〜18がより好ましい。本実施形態においては、アルキレン基及びオキシアルキレン基を有するジアミンを用いることが特に好ましい。かかるジアミンとしては、下記式(B−1)、(B−2)、(B−3)、(B−4)などのジアミンが挙げられる。
【0075】
【化15】

【0076】
式(B−1)中、aは2〜70の整数を示す。
【0077】
【化16】

【0078】
式(B−2)中、b、c及びdは1以上の整数を示す。なお、b+c+dは5〜40であることが好ましい。
【0079】
【化17】

【0080】
【化18】

【0081】
(B−1)、(B−2)、(B−3)及び(B−4)のジアミンとしては、それぞれ、ジェファーミンD2000、ジェファーミンD230、ジェファーミンD400、ジェファーミンD4000等のジェファーミンDシリーズ、ジェファーミンED600、ジェファーミンED900、ジェファーミンED2003等のジェファーミンEDシリーズ、ジェファーミンXTJ−511、ジェファーミンXTJ−512(以上、ハンツマン社製、製品名)などが挙げられる。
【0082】
上記アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を有するジアミンの分子量は30〜20,000であることが好ましく、50〜5,000であることがより好ましく、100〜3,000であることが更に好ましい。アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を有するジアミンの分子量がこのような範囲であることにより、樹脂組成物を繊維基材に含浸する際に、乾燥させた後のしわや反りの発生を効果的に減少させることが可能になる。中でも、ジェファーミンは適度な分子量を持ち、得られるポリアミドイミド樹脂の弾性率及び誘電率に優れるため、特に好ましい。
【0083】
アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を含むジアミンを用いる場合、アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を含むジアミンの使用量が、ジアミンの総モル数を基準として5〜40モル%であることが好ましく、10〜30モル%であることがより好ましく、15〜25モル%であることが更に好ましい。
【0084】
オルガノポリシロキサン構造を有するジアミン、並びに、アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を含むジアミンを併用する場合、アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を含むジアミンの使用量が、オルガノポリシロキサン構造を有するジアミン100質量部に対して、10〜100質量部であることが好ましく、20〜80質量部であることがより好ましく、30〜40質量部であることが更に好ましい。
【0085】
本実施形態においては、芳香族ジアミンと、オルガノポリシロキサン構造を有するジアミン、並びに、アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を含むジアミンから選択される一種以上とを用いることが好ましい。この場合、芳香族ジアミンの使用量が、ジアミンの総モル数を基準として40〜95モル%であることが好ましく、50〜90モル%であることがより好ましく、60〜80モル%であることが更に好ましい。また、オルガノポリシロキサン構造を有するジアミン、並びに、アルキレン基及び/又はオキシアルキレン基を含むジアミンの使用量の合計が、ジアミンの総モル数を基準として5〜60モル%であることが好ましく、10〜50モル%であることがより好ましく、20〜40モル%であることが更に好ましい。
【0086】
ジアミンと無水トリメリット酸からジイミドジカルボン酸を生成する工程では、溶媒として非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノン等が挙げられる。中でも、ジイミドジカルボン酸を生成する工程は高い反応温度を必要とするため、沸点が高く、且つ原料及び得られるポリマーの溶解性が良好であるN−メチル−2−ピロリドンを用いることが特に好ましい。
【0087】
溶媒の使用量については、ジアミンと無水トリメリット酸とを合わせた質量が溶媒の質量に対して10〜70質量%となる量であることが好ましい。この割合が10質量%未満であると、溶媒を大量に消費するため効率が悪く、70質量%を超えると、ジアミン及び無水トリメリット酸を溶解しきれなくなり、十分な反応を行うことが困難になる傾向がある。
【0088】
ジアミン及び無水トリメリット酸の使用量は、無水トリメリット酸の添加量がジアミンの合計モル数に対して2.0〜2.3倍のモル量となることが好ましい。ジアミン全量に対して2.0〜2.3倍モル量の無水トリメリット酸を用いることにより、両末端がより確実にカルボキシル基となった反応物(ジイミドジカルボン酸)を高収率で得ることができる。その結果、ジイソシアネートとの反応活性点を増加させ得るため、高分子量のポリアミドイミド樹脂を得ることが容易になり、得られるポリアミドイミド樹脂の機械的強度を更に向上させることが可能になる。
【0089】
ジアミンと無水トリメリット酸との反応における反応温度は、50〜150℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。50℃より低い温度では、反応が遅く、工業的に不利となる傾向があり、また150℃より高い温度では、環化しないカルボキシル基との反応が進行し、イミドを生成する反応が阻害される傾向がある。
【0090】
なお、ジイミドジカルボン酸生成工程においては、ジアミンと無水トリメリット酸との反応により、無水トリメリット酸の無水部分は一旦開環した後に脱水閉環してイミド結合が形成されると考えられる。かかる脱水閉環反応は、ジイミドジカルボン酸生成工程の最後に、得られた反応混合物に水と共沸可能な芳香族炭化水素を加え温度を上げることにより、実施することが好ましい。反応混合物に水と共沸可能な芳香族炭化水素を加えることによって、脱水閉環反応によって生じた水を効率よく除去することができる。
【0091】
上記脱水閉環反応は水の生成がなくなるまで行うことが好ましい。脱水閉環反応の完了は、例えば、水分定量受器等により、理論量の水が留去されていることを確認することによって行うことができる。
【0092】
水と共沸可能な芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン、トルエン等が挙げられる。沸点が低いため留去しやすいこと、有害性が比較的低いことから、トルエンが好ましい。
【0093】
水と共沸可能な芳香族炭化水素は非プロトン性極性溶媒の質量に対して10〜50質量%に相当する量を加えることが好ましい。水と共沸可能な芳香族炭化水素の量が、非プロトン性極性溶媒の量に対して10質量%未満では、水の除去効果が低下する傾向があり、50質量%以上では、生成物であるジイミドジカルボン酸が析出する傾向がある。
【0094】
また、脱水閉環反応は反応温度120〜180℃で行うことが好ましい。120℃より低い温度では水が十分に除去できない場合があり、また180℃より高い温度では芳香族炭化水素の散逸を防げない場合がある。
【0095】
さらに、水と共沸可能な芳香族炭化水素は、ジイミドジカルボン酸をジイソシアネートと反応させる前に除去しておくことが好ましい。芳香族炭化水素を含んだ状態では、反応中に生成物である、分子鎖末端がイソシアネート基であるポリアミドイミド樹脂が析出する場合がある。芳香族炭化水素を除去する方法に、特に制限は無いが、例えば、脱水閉環反応の後、更に温度を上げることによって芳香族炭化水素を留去する方法が挙げられる。
【0096】
上記式(3)で表される芳香族多塩基酸としては、例えば、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸、1,3,5−トリカルボキシベンゼン)、1,3,5−ナフタレントリカルボン酸、1,3,7−ナフタレントリカルボン酸、1,5,7−ナフタレントリカルボン酸等の芳香族トリカルボン酸が挙げられる。これらのうち、入手容易性と、ポリアミドイミド樹脂の成形性の観点から1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸、1,3,5−トリカルボキシベンゼン)が特に好ましい。
【0097】
ところで、1個の水酸基と2個以上のカルボキシル基を有する芳香族多塩基酸を用いた場合もポリアミドイミド樹脂へ側鎖カルボキシル基を導入することができる。このような芳香族多塩基酸としては、例えば、ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシ−3,6−カルボキシナフタレン等のフェノール性水酸基含有芳香族多塩基酸が挙げられる。フェノール性水酸基含有芳香族多塩基酸に含まれる水酸基はカルボキシル基に比べてイソシアネートと反応しやすいことから、上記化合物を使用した場合は主鎖にウレタン結合を含むポリアミドイミド樹脂が得られる。しかし、ウレタン結合を有するポリアミドイミド樹脂は加水分解し易いため、十分な耐熱性が得られにくい。優れた耐熱性を得る観点からは、上記式(3)で表される芳香族多塩基酸として、上記に例示されたような水酸基を有しておらずカルボキシル基を3以上有する化合物を用いることが好ましい。
【0098】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIという。)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンダイマー等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。ポリアミドイミド樹脂の耐熱性を向上させる観点からは、芳香族ジイソシアネートが好ましい。
【0099】
上記ジカルボン酸化合物と、上記式(3)で表される分子内で脱水閉環しない芳香族多塩基酸と、上記ジイソシアネート化合物との反応における各成分の添加量は、以下の割合が好適な範囲として挙げられる。
【0100】
式(3)で表される芳香族多塩基酸の添加量は、ジカルボン酸化合物の総モル数に対して、0.01〜1.0倍のモル数とすることが好ましく、0.05〜1.0倍のモル数とすることがより好ましく、0.1〜0.6倍のモル数とすることがさらに好ましい。芳香族多塩基酸の添加量が、0.01倍のモル数未満であると、ポリアミドイミド樹脂の側鎖としてカルボキシル基を十分導入することが困難となる傾向にあることに加え、樹脂組成物をワニスとしたときにワニス中にミクロゲルが生成する場合がある。一方、添加量が、1.0倍のモル数を超えると、芳香族多塩基酸とジイソシアネート化合物との反応中にゲル化を抑制することが困難となって不溶解性成分が生成したり、未反応の芳香族多塩基酸がワニス中に析出しやすくなる。この場合、ポリアミドイミド樹脂組成物のフィルム性が低下する場合がある。
【0101】
また、上記ジイソシアネート化合物の添加量は、上記ジカルボン酸化合物及び上記芳香族多塩基酸の合計モル数に対して、1.01〜1.45倍のモル量で用いることが好ましく、1.05〜1.45倍のモル量で用いることがより好ましい。上記範囲内のジイソシアネートを用いることによって、得られるポリアミドイミド樹脂の分子量をフィルム形成可能なものとすることができ、また合成溶媒に可溶な樹脂にすることができる。
【0102】
本実施形態においては、上記ジカルボン酸化合物の総モル数に対して、上記芳香族多塩基酸を0.01〜1.0倍モル、及び上記ジイソシアネート化合物を上記ジカルボン酸化合物と上記芳香族多塩基酸の合計モル数に対して、1.01〜1.45倍モルの割合で反応させることが好ましい。
【0103】
上記各成分を上記の割合で反応させることにより、ポリアミドイミド樹脂の主鎖に上記式(1)で表される構造を適度な割合で組み入れることができる。すなわち、2個のカルボキシル基がジイソシアネート化合物と反応してポリアミドの主鎖を形成し、残る1個以上のカルボキシル基はイソシアネート化合物との反応に関与せずにポリアミドイミド樹脂の側鎖にカルボキシル基として残すことができる。また、上記各成分を上記の割合で反応させることにより、重縮合中のゲル化を抑制することができる。さらに、ポリアミドイミド樹脂の分子量の調整が可能であり、フィルム等に加工した際のフィルムの機械特性を容易に制御することもできる。
【0104】
また、上記の各成分を上記割合で反応させることにより、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノンなどの溶媒に溶解可能なポリアミドイミド樹脂を得ることができ、多官能グリシジル化合物と低温で十分に反応させることが可能となる。本実施形態において、芳香族多塩基酸の割合がジカルボン酸化合物の総モル数に対して0.01倍モル未満であると、ポリアミドイミド樹脂への側鎖カルボキシル基の導入による効果が小さくなる傾向にあり、1.0倍モルを超えると、イソシアネートとの反応によりゲル化して不溶解性成分が生成する傾向にある。
【0105】
なお、本発明においては、ポリアミドイミド樹脂を生成する過程で上記ジカルボン酸化合物を取り出すことはしないので、配合したジアミン化合物が全てジカルボン酸化合物になっているものと仮定し、上記ジカルボン酸化合物のモル数を上記ジアミン化合物のモル数で置き換えて、上記芳香族多塩基酸の添加量及び上記ジイソシアネート化合物の添加量が算出される。
【0106】
ジカルボン酸化合物と、上記芳香族多塩基酸と、イソシアネート化合物との反応温度は、140〜200℃であることが好ましく、150〜180℃であることが更に好ましい。
【0107】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂の好適な一実施形態の作製スキームを以下に示す。
【0108】
【化19】

【0109】
上記作製スキーム中、Xを有するジアミンは、オルガノポリシロキサン構造を含むジアミンを含有することが好ましい。また、Yを有するジイソシアネート化合物は、上述したジイソシアネートから任意に選択できる。また、e、fは1以上の整数である。なお、eは20〜200であることが好ましく、40〜120であることがより好ましく、60〜100であることが更に好ましい。fは2〜40であることが好ましく、4〜25であることがより好ましく、6〜20であることが更に好ましい。このような作製スキームによれば、溶媒に可溶である、上記式(1)で表される構造を含むポリアミドイミド樹脂(β)を作製することができる。なお、2種以上のジアミンを用いた場合、ポリアミドイミド樹脂にはイミド骨格を含む繰り返し単位が2種類以上含有されることになる。
【0110】
また、上記作製スキームにおいては、ポリアミドイミド樹脂(β)として、ジカルボン酸化合物(α)に由来する構造単位と、トリメシン酸に由来する構造単位とがブロック的に結合したものを例示しているが、ジカルボン酸化合物(α)に由来する構造単位と、トリメシン酸に由来する構造単位と、は、ランダム又は交互に結合していてもよい。この場合、ジカルボン酸化合物(α)に由来する構造単位の総数が上記eの範囲であることが好ましく、トリメシン酸に由来する構造単位の総数が上記fの範囲であることが好ましい。
【0111】
このような方法によれば、ジアミンと無水トリメリット酸の反応から、本実施形態に係るポリアミドイミド樹脂の生成に至るまでの全工程において、反応生成物を取り出すことなく合成反応を効率的に進められて好ましい。
【0112】
ここで、本発明に係るポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量は、20,000〜150,000であることが好ましく、40,000〜100,000であることがより好ましく、50,000〜80,000であることが更に好ましい。この重量平均分子量が150,000を超えると、ワニスとした場合に、当該ワニスがワックス状になり取扱いが難しくなるとともに、フィルムへの加工が困難になる。20,000未満であるとフィルム化が困難になるとともに熱硬化後のフィルムの強度が不十分となる傾向がある。
【0113】
なお、本発明におけるポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定(25℃)されたポリアミドイミド樹脂の分子量分布のクロマトグラムを標準ポリスチレンを用いて換算することによって求められる。
【0114】
また、本発明に係るポリアミドイミド樹脂においては、ポリアミドイミド樹脂のライフの観点から、酸価が、2.3〜12.0が好ましく、3.5〜9.0がより好ましく、5.5〜8.0が更に好ましい。
【0115】
酸価は、樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のmg数と定義され、中和滴定により求められる。本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、ジカルボン酸化合物と、上記式(3)で表される分子内で脱水閉環しない芳香族多塩基酸と、ジイソシアネート化合物との反応により得ることができる。反応系に上記芳香族多塩基酸が含まれない場合、イソシアネート化合物が過剰に用いられると樹脂の理論酸価は0となり、実測酸価も通常3以下となる。これに対して、上記芳香族多塩基酸を併用した場合、例えば芳香族トリカルボン酸を用いた場合を例にするとその酸価は、(i)芳香族トリカルボン酸の3個のカルボキシル基がすべて反応した場合<(ii)芳香族トリカルボン酸の2個のカルボキシル基が反応した場合<(iii)芳香族トリカルボン酸の1個のカルボキシル基が反応した場合<(iv)芳香族トリカルボン酸の3個のカルボキシル基が反応してない場合の順に大きくなる。(i)は実質ゲル化が起きた場合であり、本実施形態に係るポリアミドイミド樹脂の製造方法においては、ジカルボン酸化合物と芳香族トリカルボン酸とのモル比の最適化、並びに、反応温度及び反応濃度を適宜設定することによって(i)の反応を抑制することができる。(ii)は側鎖に芳香族カルボキシル基を有する本発明に係るポリアミドイミド樹脂が生成する反応である。(iii)は高分子量体が得られない反応である。(iv)は芳香族トリカルボン酸が反応せずに残る場合であり、反応系の冷却に伴って未反応の芳香族トリカルボン酸が析出する。理論酸価は、ジカルボン酸化合物、上記式(3)で表される芳香族多塩基酸、ジイソシアネート化合物の配合比によって求められるが、酸価を実測することにより、本発明に係るポリアミドイミド樹脂の生成を確認することが好ましい。
【0116】
本実施形態のポリアミドイミド樹脂は、例えば、多官能グリシジル化合物と熱硬化反応させることができる。この場合の多官能グリシジル化合物は、1分子内に官能基を2つ以上有するグリシジル化合物であれば特に制限はないが、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂によれば、180℃以下の温度で硬化が可能であり、かつ、上記ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基と反応して熱的、機械的、電気的特性をより向上させることができる。
【0117】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ノボラック型フェノール樹脂、オルトクレゾールノボラック型フェノール樹脂等の多価フェノール又は1,4−ブタンジオール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル、アミン、アミド又は複素環式窒素塩基を有する化合物のN−グリシジル誘導体、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0118】
なお、エポキシ樹脂が有するグリシジル基は多いほどよく、3個以上であることがより好ましい。
【0119】
ここで、上記多官能グリシジル化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0120】
多官能グリシジル化合物が、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂である場合、当該エポキシ樹脂の硬化剤を更に組み合わせて用いることが好ましい。この場合、硬化剤の好適な含有量は、グリシジル基の数により異なる。具体的には、グリシジル基が多いほどこの含有量は少なくてよい。
【0121】
上記硬化剤は、エポキシ樹脂と反応するもの、または、硬化を促進させるものであれば制限はないが、例えば、アミン類、イミダゾール類、多官能フェノール類、酸無水物類などが挙げられる。
【0122】
上記アミン類としては、例えば、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、グアニル尿素などが挙げられる。
【0123】
上記イミダゾール類としては、例えば、アルキル基置換イミダゾール、ベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0124】
上記多官能フェノール類としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA及びこれらのハロゲン化合物、ホルムアルデヒドとの縮合物であるノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などが挙げられる。
【0125】
上記酸無水物類としては、例えば、無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、メチルハイミック酸などが挙げられる。
【0126】
これらの硬化剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0127】
これらの硬化剤の含有量は、硬化剤がアミン類の場合、アミンの活性水素の当量と、エポキシ樹脂のエポキシ当量がほぼ等しくなる量であることが好ましい。硬化剤としてイミダゾールを採用する場合、単純に活性水素との当量比とならず、経験的にエポキシ樹脂100質量部に対して0.001〜10質量部の範囲で用いることが好ましい。多官能フェノール類や酸無水物類を採用する場合、エポキシ樹脂1当量に対して、フェノール性水酸基やカルボキシル基0.6〜1.2当量の割合で用いることが好ましい。硬化剤の含有量は、少なければ未硬化のエポキシ樹脂が残り、Tg(ガラス転移温度)が低くなる傾向にある。この含有量が多すぎると、未反応の硬化剤が残り、絶縁性が低下する傾向にある。ここで、エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ当量、並びに、ポリアミドイミド樹脂のアミド基との反応及びポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基との反応を考慮して適宜設定することが好ましい。
【0128】
また、上記硬化剤の一部を硬化促進剤として含有させることもできる。硬化促進剤として用いるときの好適な含有量は、上記硬化剤の含有量と同様に設定することができる。
【0129】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂と多官能グリシジル化合物とを熱硬化反応させる場合における多官能グリシジル化合物の含有量は、当該ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、3〜100質量部であることがより好ましく、5〜40質量部であることが更に好ましい。この含有量が1質量部未満であると、耐溶媒性が低下する傾向にあり、この含有量が200質量部を超えると、未反応のグリシジル化合物によりTgが低下して、耐熱性が不十分となったり可撓性が低下したりする傾向にある。
【0130】
上記ポリアミドイミド樹脂、多官能グリシジル化合物及び必要に応じてその他の硬化剤等を含む樹脂組成物は、金属箔や繊維基材との接着性及び耐熱性に優れるものとなり得る。また、当該樹脂組成物は、従来のポリアミドイミド樹脂とエポキシ樹脂からなる樹脂組成物が200℃〜250℃の加熱処理を必要とするのに対して、より低温の180℃での加熱処理で硬化させることができ、この場合でも機械強度が十分高く耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。このような効果が得られる理由を本発明者は以下のとおり考えている。
【0131】
従来のポリアミドイミド樹脂と多官能グリシジル化合物とを含有するポリアミドイミド樹脂組成物においては、ポリアミドイミド樹脂中のアミド基が架橋点となる。そのため、加熱による硬化反応はグリシジル基とアミド基の付加反応とグリシジル基のアミド基への挿入反応であり200℃以上の温度を必要とする傾向にあった。これに対して、本実施形態に係るポリアミドイミド樹脂組成物の場合、グリシジル基がアミド基よりもカルボキシル基と優先的に反応することができ、180℃程度の加熱でも十分に熱硬化が可能になる。これにより、本発明のポリアミドイミド樹脂によれば、より低温での硬化条件でも機械強度が高く、十分な接着性及び耐熱性を有する硬化物が得られたと考えられる。また、アミド基及びカルボキシル基が存在することにより、アミド基のみの場合に比べて架橋密度を高くすることができることも、低温でも硬化物の機械強度が高く、接着性及び耐熱性も両立することができたことの要因の一つであると本発明者は推察する。なお、このような推察は、ポリアミドイミド樹脂の合成の際に脱水閉環しない3官能以上の芳香族多塩基酸の2個のカルボキシル基がジイソシアネートと反応してポリアミドイミド樹脂を形成した後は3個目以降のカルボキシル基がイソシアネートとは反応せずに芳香族カルボキシル基として側鎖に反応せずに残るという本発明者の知見に基づくものである。
【0132】
以上、本実施形態におけるポリアミドイミド樹脂について説明したが、当該ポリアミドイミド樹脂は、例えば、プリプレグ、樹脂付き金属箔、接着フィルム及び金属箔張り積層板に用いることができる。例えば、本実施形態におけるポリアミドイミド樹脂と多官能グリシジル化合物とを含有する樹脂組成物により形成されたプリプレグ、樹脂付き金属箔、接着フィルム及び金属箔張り積層板は、180℃の加熱処理で硬化でき熱硬化後に十分な機械強度を有することができる。また、これらは、任意に折り曲げ可能で電子機器の筐体内に高密度に収納可能なプリント配線板を形成でき、かつ、金属箔や繊維基材との接着性や、耐熱性に優れるプリント配線板材料として有用である。
【実施例】
【0133】
以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0134】
(実施例1)
環流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、撹拌器を備えた1リットルのセパラブルフラスコに反応性シリコーンオイルKF8010(信越化学工業株式会社製、製品名、アミン当量415)41.5g(0.05mol)、芳香族ジアミンとしてBAPP(四国化成株式会社製、製品名)20.5g(0.05mol)、TMA(無水トリメリット酸)40.3g(0.21mol)、非プロトン性極性溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)314gを仕込み、80℃で、30分間撹拌した。
【0135】
次に、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン120mLを投入してから温度を上げ約160℃で2時間環流させた。水分定量受器に水が約3.8mL以上たまっていること、水の留出が見られなくなっていることを確認し、水分定量受器にたまっている留出液を除去しながら、約190℃まで温度を上げて、トルエンを除去した。その後、50℃まで冷却し、3官能芳香族多塩基酸としてトリメシン酸2.1g(0.01mol),芳香族ジイソシアネートとしてMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)33.0g(0.132mol)を投入し、160℃で2時間反応させた。反応終了後、ポリアミドイミド樹脂のNMP溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量104,000、ワニスの固形分は28質量%であった。また、ワニスの実測酸価は5.1mgKOHであった。主な成分及びその配合量、ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量、ワニスの固形分並びにワニスの理論酸価及び実測酸価を表1に示す。なお、本実施例におけるポリアミドイミド樹脂の実測酸価の測定方法については後述する。
【0136】
(実施例2)
環流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、撹拌器を備えた1リットルのセパラブルフラスコに反応性シリコーンオイルKF8010(信越化学工業株式会社製、製品名、アミン当量415)24.9g(0.03mol)、芳香族ジアミンとしてBAPP(四国化成株式会社製、製品名)28.7g(0.07mol)、TMA(無水トリメリット酸)40.3g(0.21mol)、非プロトン性極性溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)341gを仕込み、80℃で、30分間撹拌した。
【0137】
次に、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン120mLを投入してから温度を上げ約160℃で2時間環流させた。水分定量受器に水が約3.8mL以上たまっていること、水の留出が見られなくなっていることを確認し、水分定量受器にたまっている留出液を除去しながら、約190℃まで温度を上げて、トルエンを除去した。その後、50℃まで冷却し、3官能芳香族多塩基酸としてトリメシン酸2.1g(0.01mol),芳香族ジイソシアネートとしてMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)33.0g(0.132mol)を投入し、160℃で2時間反応させた。反応終了後、ポリアミドイミド樹脂のNMP溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量88,600、ワニスの固形分は25質量%であった。また、ワニスの実測酸価は5.4mgKOHであった。
【0138】
(実施例3)
環流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、撹拌器を備えた1リットルのセパラブルフラスコに反応性シリコーンオイルKF8010(信越化学工業株式会社製、製品名、アミン当量415)24.9g(0.03mol)、芳香族ジアミンとしてBAPP(四国化成株式会社製、製品名)20.5g(0.05mol)、ワンダミンWHM(新日本理化株式会社製,製品名)4.2g(0.02mol)、TMA(無水トリメリット酸)40.3g(0.21mol)、非プロトン性極性溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)312gを仕込み、80℃で、30分間撹拌した。
【0139】
次に、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン120mLを投入してから温度を上げ約160℃で2時間環流させた。水分定量受器に水が約3.8mL以上たまっていること、水の留出が見られなくなっていることを確認し、水分定量受器にたまっている留出液を除去しながら、約190℃まで温度を上げて、トルエンを除去した。その後、50℃まで冷却し、3官能芳香族多塩基酸としてトリメシン酸2.1g(0.01mol),芳香族ジイソシアネートとしてMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)33.0g(0.132mol)を投入し、160℃で2時間反応させた。反応終了後、ポリアミドイミド樹脂のNMP溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量86,000、ワニスの固形分は26質量%であった。また、ワニスの実測酸価は5.9mgKOHであった。
【0140】
(実施例4)
環流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、撹拌器を備えた1リットルのセパラブルフラスコに反応性シリコーンオイルKF8010(信越化学工業株式会社製、製品名、アミン当量415)24.9g(0.03mol)、芳香族ジアミンとしてBAPP(四国化成株式会社製、製品名)28.7g(0.05mol)、D2000(ハンツマン社製、製品名,アミン当量1,000)40.0g(0.02mol)、TMA(無水トリメリット酸)40.3g(0.21mol)、非プロトン性極性溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)437gを仕込み、80℃で、30分間撹拌した。
【0141】
次に、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン120mLを投入してから温度を上げ約160℃で2時間環流させた。水分定量受器に水が約3.8mL以上たまっていること、水の留出が見られなくなっていることを確認し、水分定量受器にたまっている留出液を除去しながら、約190℃まで温度を上げて、トルエンを除去した。その後、50℃まで冷却し、3官能芳香族多塩基酸としてトリメシン酸2.1g(0.01mol),芳香族ジイソシアネートとしてMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)33.0g(0.132mol)を投入し、160℃で2時間反応させた。反応終了後、ポリアミドイミド樹脂のNMP溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量78,100、ワニスの固形分は25質量%であった。また、ワニスの実測酸価は4.7mgKOHであった。
【0142】
(実施例5、6)
トリメシン酸(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)、ジイソシアネート及びNMPを表1に示した量で用いたこと以外は実施例1と同様に合成を行った。得られたポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量、ワニスの固形分並びにワニスの理論酸価及び実測酸価をそれぞれ表1に示す。
【0143】
(比較例1)
環流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、撹拌器を備えた1リットルのセパラブルフラスコに反応性シリコーンオイルKF8010(信越化学工業株式会社製、製品名、アミン当量415)50.5g(0.06mol)、芳香族ジアミンとしてBAPP(2.2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン))57.5g(0.14mol)、TMA(無水トリメリット酸)80.7g(0.42mol)、非プロトン性極性溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)580gを仕込み、80℃で30分間撹拌した。
【0144】
次に、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン100mLを投入してから温度を上げ約160℃で2時間環流させた。水分定量受器に水が約7.2mL以上たまっていること、水の留出が見られなくなっていることを確認し、水分定量受器にたまっている留出液を除去しながら、約190℃まで温度を上げて、トルエンを除去した。その後、50℃まで冷却し、芳香族ジイソシアネートとしてMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)60.1g(0.24mol)を投入し、190℃で2時間反応させた。反応終了後、ポリアミドイミド樹脂のNMP溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量、ワニスの固形分並びにワニスの理論酸価及び実測酸価をそれぞれ表1に示した。
【0145】
比較例1のポリアミドイミド樹脂は、芳香族多塩基酸が配合されていないので、理論酸価は0となり、実測酸価も2.0mgKOHと小さかった。一方、実施例1〜6における理論酸価と実測酸価との差は何れも比較例1における理論酸価と実測酸価との差に比べて小さく、実施例1〜6におけるポリアミドイミド樹脂はいずれもほぼ設計通りのものが得られた。
【0146】
上記実施例及び比較例においてポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定(25℃)されたポリアミドイミド樹脂の分子量分布のクロマトグラムを標準ポリスチレンを用いて換算することによって求めた。GPCの溶離液としては、テトラヒドロフラン/ジメチルホルムアミド=50/50(体積比)混合液にリン酸0.06mol/L、臭化リチウム一水和物0.03mol/Lを溶解した液を使用し、カラムとしては、GL−S300MDT−5(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、製品名)を2本直結したものを使用した。
【0147】
【表1】

【0148】
ここで、表1中、D2000は、合成されたポリアミドイミド樹脂のポリオキシプロピレンイミド構造を構成するジアミンである。KF8010は反応性シリコーンオイルである。TMSAは、トリメシン酸を示す。また、Mwはポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量であり、NVはワニスの固形分を示す。なお、表1中のフィルムの評価については後述する。
【0149】
(実施例7)
実施例1のポリアミドイミド樹脂のNMP溶液321.4g(樹脂固形分28質量%)と、エポキシ樹脂としてHP4032D(DIC株式会社製、製品名)20.0g(樹脂固形分50質量%のメチルエチルケトン溶液)と、1−シアノ−エチル−2−フェニルイミダゾール(2PZ−CN)0.1gとを配合し、樹脂が均一になるまで約1時間撹拌した後、脱泡のため24時間、室温で静置して樹脂組成物ワニスを得た。
【0150】
(実施例8)
実施例2のポリアミドイミド樹脂のNMP溶液360.0g(樹脂固形分25質量%)と、エポキシ樹脂としてHP4032D(DIC株式会社製、製品名),20.0g(樹脂固形分50質量%のメチルエチルケトン溶液)とをそれぞれ配合し、更に1−シアノ−エチル−2−フェニルイミダゾール(2PZ−CN)0.1gを加えて、樹脂が均一になるまで約1時間撹拌した後、脱泡のため24時間、室温で静置して樹脂組成物ワニスとした。
【0151】
(比較例2)
比較例1のポリアミドイミド樹脂のNMP溶液200g(樹脂固形分30質量%)と、エポキシ樹脂としてYDCN−500(新日鐵化学株式会社製、製品名)120.0g(樹脂固形分50重量%のジメチルアセトアミド溶液)と、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)0.1gとを配合し、樹脂が均一になるまで約1時間撹拌した後、脱泡のため24時間、室温で静置して樹脂組成物ワニスとした。
【0152】
(実測酸価の測定)
ポリカップにポリアミドイミド樹脂ワニスの約1gを精秤し、N−メチル−2−ピロリドン25mlに溶解した。指示薬としてフェノールフタレイン1滴を入れ、0.1N−水酸化カリウムのメタノール溶液を撹拌しても桃黄色が30秒以上消失しなくなるまで加えた。使用された0.1N−水酸化カリウムのメタノール溶液の量から樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウム量を、次式を用いて算出し実測酸価とした。
【0153】
実測酸価(mg/g)={(t−t)(mL)×5.611(mg/mL)}/(x(g)×NV(%)/100)
【0154】
ここで、tは滴定量(mL)、tはブランク(溶媒のみ)での滴定量(mL)、xはワニス採取量(g)、NVはワニスの固形分濃度(%)を表す。5.611は0.1N−KOH1mLの水酸化カリウム相当量である。
【0155】
(フィルムの作製)
実施例1〜6、比較例1のポリアミドイミド樹脂ワニス及び実施例7、8、比較例2の樹脂組成物ワニスを厚み50μmの離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム「ピューレックスA63」(帝人テトロンフィルム株式会社製、製品名)に乾燥後のBステージ状態での厚みが50μmになるようにバーコータで塗布し、140℃で15分加熱、乾燥してフィルムを得た。
【0156】
(弾性率、Tg及び機械特性評価用試料の作製)
実施例1〜6及び比較例1のワニスから形成した上記フィルム1枚をステンレスの枠で挟み、温度180℃、時間60分の条件において恒温槽中で処理し、弾性率、Tg及び機械特性評価用試料(フィルム)を作製した。なお、当該機械特性評価用試料(フィルム)は、エポキシ樹脂を含むものではなく、ポリアミドイミド樹脂自体の特性を評価するための試料である。
【0157】
実施例7、8及び比較例2のワニスから形成した上記フィルムを2枚重ね、両側に厚さ12μmの電解銅箔F2−WS−12(古河サーキットフォイル株式会社製、製品名)を粗化面(表面粗さ;Rz=2.1μm)がフィルムと合わさるようにして重ね、成形圧力2.0MPa、成形温度180℃、成形時間60分の条件,または成形圧力2.0MPa、成形温度230℃、成形時間60分の条件でプレス積層したのち銅箔をエッチングして弾性率、Tg及び機械特性評価用試料(Cステージのフィルム)を作製した。ここで、当該機械特性評価用試料(Cステージのフィルム)は、エポキシ樹脂を含むポリアミドイミド樹脂組成物を硬化させたものである。
【0158】
[評価結果]
(弾性率及びTgの評価)
上述の機械特性評価用試料を用いて、弾性率及びTgを評価した。具体的には、動的粘弾性測定装置REO−GEL E−4000(株式会社ユービーエム製、製品名)を用いて昇温速度5℃/分で30℃から350℃までの動的粘弾性を測定した。tanδが極大を示す温度をTgとした。実施例1〜6及び比較例1のワニスから作製した機械特性評価用試料の評価結果を表1に、実施例7、8及び比較例2のワニスから作製した機械特性評価用試料の評価結果を表2に示す。
【0159】
(5%熱重量減少温度の評価)
上述の機械特性評価用試料を用いて、5%熱重量減少温度を評価した。具体的には、TG−DTA(ブルカー株式会社製)を用いて5%熱重量減少温度を測定した。測定条件は昇温速度10℃/分、空気下で行った。実施例1〜6及び比較例1のワニスから作製した機械特性評価用試料の評価結果を表1に、実施例7、8及び比較例2のワニスから作製した機械特性評価用試料の評価結果を表2に示す。
【0160】
(機械特性(破断強度、破断伸び)の評価)
上述の機械特性評価用試料並びに実施例7、8及び比較例2のBステージフィルムを用いて、機械特性としての破断強度及び破断伸びを測定した。破断強度及び伸びは、評価用フィルムを幅10mm、長さ80mmに加工した試験片をレオメータ(島津製作所株式会社製EZ−Test)を用いて、チャック間距離60mm、引っ張り速度5mm/分の条件で測定した。実施例1〜6及び比較例1のワニスから作製した機械特性評価用試料の評価結果を表1に、実施例7、8及び比較例2のワニスから作製した機械特性評価用試料の評価結果を表2に示す。
【0161】
【表2】

【0162】
以上のとおり、実施例のポリアミドイミドは、比較例のポリアミドイミドと比較し、機械強度、熱分解温度が同等以上であり、エポキシ樹脂を配合した場合、180℃で硬化しても硬化フィルムの機械強度が高いことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を含むポリアミドイミド樹脂。
【化1】


[式(1)中、Arは、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい芳香環を示し、nは1以上の整数を示す。]
【請求項2】
下記式(2)で表される構造を含む、請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂。
【化2】

【請求項3】
オルガノポリシロキサン構造を含む請求項1又は2に記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項4】
ジカルボン酸化合物と、下記式(3)で表される分子内で脱水閉環しない芳香族多塩基酸と、ジイソシアネート化合物と、を、前記ジカルボン酸化合物の総モル数に対して前記芳香族多塩基酸を0.01〜1.0倍モル及び前記ジイソシアネート化合物を前記ジカルボン酸化合物と前記芳香族多塩基酸の合計モル数に対して、1.01〜1.45倍モルの割合で反応させる、ポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【化3】


[式(3)中、Arは、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい芳香環を示し、mは3以上の整数を示す。]
【請求項5】
前記ジカルボン酸化合物がイミド構造を有する請求項4に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ジカルボン酸化合物が、ジアミンと、無水トリメリット酸と、を、前記ジアミンの総モル数に対して前記無水トリメリット酸を2.0〜2.3倍モルの割合で反応させて得られるイミドジカルボン酸化合物である、請求項4又は5に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記ジカルボン酸化合物がオルガノポリシロキサンイミド構造を有する、請求項4〜6のいずれか一項に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記芳香族多塩基酸が1,3,5−トリカルボキシベンゼンである、請求項4〜7のいずれか一項に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項4〜8のいずれか一項に記載のポリアミドイミド樹脂の製造方法によって得られるポリアミドイミド樹脂。

【公開番号】特開2012−77249(P2012−77249A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225975(P2010−225975)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】