説明

ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法

【課題】ポリアミド樹脂が本来有する優れた機械的特性を保持しながら、吸水特性、成形加工時の流動性が大幅に改善されたポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【解決手段】ポリアミド樹脂(a)、ポリアミドイミド樹脂(b)から構成される樹脂組成物であって、絶乾時の動的粘弾性測定から求められるポリアミド樹脂に相当する損失正接(tanδ)の最大ピークトップ温度が下記式[1]を満足することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(樹脂組成物におけるポリアミド樹脂に相当するtanδの最大ピークトップ温度)>(ポリアミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)+{(ポリアミドイミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)−(ポリアミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)}×(ポリアミドイミド樹脂添加率(重量%))/100×0.3 [1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂とポリアミドイミド樹脂からなる樹脂組成物において、ポリアミド樹脂中にポリアミドイミド樹脂が一部分子相溶した樹脂組成物とその製造方法に関するものである。更に詳しくは、ポリアミド樹脂が本来有する優れた機械的特性を保持しながら、吸水特性、成形加工時の流動性が大幅に改善されたポリアミド樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的特性に優れるなどのエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。しかし吸湿して寸法変化および剛性低下を引き起こすという欠点も有している。
【0003】
このポリアミド樹脂の欠点を補い、かつ高温における剛性を付与するため、高いガラス転移温度を有した非晶性樹脂であるポリフェニレンエーテル(以下PPE樹脂と略す)やポリエーテルイミド(以下PEI樹脂と略す)をポリアミド樹脂に複合化した樹脂組成物が数多く提案されている。しかしながら、ポリフェニレンエーテルやポリエーテルイミドは溶融粘度が高いため、ポリアミド樹脂に複合化した際は溶融粘度が上昇し、成形加工性が悪くなるという問題点があった。
【0004】
同様に高いガラス転移温度を有した非晶性樹脂であるポリアミドイミド樹脂(以下PAI樹脂と略す)をポリアミド樹脂に複合化した例も特許文献1〜3に示されている。
【0005】
特許文献1では熱可塑性樹脂に芳香族ポリアミドイミド粒子を複合化した摺動特性に優れる樹脂組成物を提案しているが、3〜300μmの芳香族ポリアミドイミド粒子を溶融させずに複合化させており、芳香族ポリアミドイミドはアロイ化されているというよりは補強材としての役割を果たしている。そのためポリアミド樹脂の弱点である吸水性の抜本的改良はなされていない。
【0006】
特許文献2では熱可塑性非晶性芳香族ポリアミド樹脂と芳香族ポリアミドイミド樹脂からなる耐熱性に優れる樹脂組成物を提案している。しかし溶融混練方法の詳細な記載はなく、また樹脂組成物中におけるモルホロジーや吸水性に関する改良の記載はない。また熱可塑性非晶性芳香族ポリアミド樹脂に限定しており、ナイロン6、ナイロン66などの結晶性ポリアミド樹脂における改良の記載はない。
【0007】
特許文献3ではナイロン46樹脂に熱可塑性ポリアミドイミド樹脂を配合してなる、吸湿前後の耐熱性、衝撃強度に優れた樹脂組成物が提案されているが、特許文献2と同様、溶融混練方法の詳細な記載および樹脂組成物中におけるモルホロジーや成形加工性に関する記載はなく、またナイロン46樹脂以外のポリアミド樹脂における改良の記載はない。
【特許文献1】特開平2−202552号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭60−231758号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特公平7−5834号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はポリアミド樹脂とポリアミドイミド樹脂を一部分子相溶させることにより、ポリアミド樹脂が本来有する優れた機械的特性を保持しながら、吸水特性、成形加工時の流動性が大幅に改善されたポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ポリアミド樹脂(a)、ポリアミドイミド樹脂(b)から構成される樹脂組成物であって、絶乾時の動的粘弾性測定から求められるポリアミド樹脂に相当する損失正接(tanδ)の最大ピークトップ温度が下記式[1]を満足することを特徴とするポリアミド樹脂組成物、
(樹脂組成物におけるポリアミド樹脂に相当するtanδの最大ピークトップ温度)>(ポリアミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)+{(ポリアミドイミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)−(ポリアミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)}×(ポリアミドイミド樹脂添加率(重量%))/100×0.3 [1]
(2)下記式[2]を満足することを特徴とする、前記(1)に記載のポリアミド樹脂組成物、
(樹脂組成物の吸水率)<(ポリアミドイミド樹脂未添加における吸水率)×{1−(ポリアミドイミド樹脂添加率(重量%))/100×1.5} [2]
(3)下記式[3]を満足することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物、
(樹脂組成物の成形下限圧)<(ポリアミドイミド樹脂未添加における成形下限圧) [3]
(4)ポリアミド樹脂(a)50〜99.9重量%、ポリアミドイミド樹脂(b)50〜0.1重量%から構成されることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(5)前記ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、無機充填材(c)1〜300重量部を含有することを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(6)前記ポリアミド樹脂(a)が結晶性ポリアミド樹脂であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(7)前記ポリアミド樹脂(a)がナイロン6及び/またはナイロン66であることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(8)前記ポリアミド樹脂組成物を構成する樹脂の溶融混合物に、樹脂温度を300℃〜350℃に制御しつつ0.3kWh/kg以上の混練エネルギーを付与することにより製造せしめることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(9)ポリアミド樹脂(a)、ポリアミドイミド樹脂(b)からなる樹脂組成物の溶融混合物に、樹脂温度を300℃〜350℃に制御しつつ0.3kWh/kg以上の混練エネルギーを付与するポリアミド樹脂組成物の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリアミド樹脂が本来有する優れた機械的特性を保持しながら、吸水特性、成形加工時の流動性が大幅に改善されたポリアミド樹脂組成物を得ることができる。ここで得られたポリアミド樹脂組成物は、機械的特性、低吸水性が必要とされる機械部品、電気・電子部品、医療、食品、家庭・事務用品、建材関係部品、家具用部品などへの使用に適している。また成形加工時の流動性が良好であることから、薄肉成形が必要な部品にも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明で用いられる「重量」とは「質量」を意味する。また本発明で用いられる融点とは、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピーク温度と定義する。また融点が観察される場合に、結晶性樹脂と定義する。またガラス転移温度とは示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/minの昇温速度で昇温した場合に現れる階段状吸熱ピークの中点の温度と定義する。
【0013】
本発明で用いられるポリアミド樹脂(a)とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0014】
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂(a)は、150℃以上の融点を有する耐熱性、機械的物性に優れた結晶性ポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0015】
中でも好ましいポリアミド樹脂(a)としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、またナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/12、およびナイロン6T/6コポリマーなどのヘキサメチレテレフタルアミド単位を有する共重合体を挙げることができ、特に好ましくはナイロン6、ナイロン66またはナイロン6とナイロン66の混合物を挙げることができる。更にこれらのポリアミド樹脂を耐衝撃性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
【0016】
これらポリアミド樹脂(a)の重合度には特に制限がないが、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5〜7.0の範囲のものが好ましく、特に2.0〜6.0の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。
【0017】
また、本発明のポリアミド樹脂(a)には、長期耐熱性、成形加工性を向上させるために銅化合物が好ましく用いられる。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2ーメルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。なかでも1価の銅化合物とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。銅化合物の添加量は、通常ポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部であることが好ましく、さらに0.015〜1重量部の範囲であることが好ましい。添加量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により製品の価値を減ずることになる。本発明では銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0018】
本発明で用いられるPAI樹脂(b)とは、例えば下記構造単位[1]で表される繰り返し単位を有する重合体を挙げることができる。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、Rは2価の芳香族および/または脂肪族基、R’は水素、メチル基またはフェニル基、Arは少なくとも一つの6員環を含む3価芳香族基を示す。)
より具体的には、上記式[1]で表される繰り返し単位と共に下記式[2]及び/または[3]で表される繰り返し単位を有する重合体を挙げることができる。
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、Rは前記に同じ。Ar’は炭素6員環を1個または2個以上含有する2価の芳香族基または2価の脂環式基を示す。)
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、Rは前記に同じ。Ar''は炭素6員環を1個または2個以上含有する4価のカルボニル基が連結した芳香族基を示す。)
上記において、構造単位[1]および[3]でのイミド結合の一部は、その閉環前駆体としてのアミド酸結合の状態で留まっている構造を有していてもよい。
【0025】
【化4】

【0026】
Arで示される炭素6員環を1個又は2個以上含有する3価の芳香族基としては、例えば、
【0027】
【化5】

【0028】
等を挙げることができる。
【0029】
Ar’で示される炭素6員環を1個又は2個以上含む2価の芳香族基または脂環式基としては、例えば、
【0030】
【化6】

【0031】
等を挙げることができる。
【0032】
Ar''で示される炭素6員環を1個又は2個以上含有する4価の芳香族基としては、例えば、
【0033】
【化7】

【0034】
等を挙げることができる。
【0035】
Rは、2価の芳香族又は脂肪族残基であり、具体例としては、
【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
等を挙げることができる。
【0039】
上記式[1]で表される繰り返し単位からなるPAI樹脂(b)は、例えば、極性有機溶媒中、下記[10]に示す様な組み合わせの原料化合物を反応させることにより製造される。極性有機溶媒としては、例えば、N,Nージメチルアセトアミド、N,Nージメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキサイド、クレゾール等が挙げられる。
【0040】
【化10】

【0041】
PAI樹脂(b)の製造方法としては、例えば(i)芳香族ジアミンと無水トリメリット酸モノクロリドを用いる酸クロリド法、(ii)芳香族ジアミンから誘導された芳香族ジイソシアネートとトリメリット酸無水物を反応させるイソシアネート法、(iii)芳香族ジアミンとトリメリト酸無水物を脱水触媒の存在下に高温に加熱して反応させる直接重合法等が挙げられる。
(i)の方法は、例えば、特公昭42−15637号公報などに、(ii)の方法は、例えば、特公昭44−19274号公報などに、(iii)の方法は、例えば、特公昭49−4077号公報などに、それぞれ詳細に記載されている。
【0042】
一般式(I)で表される繰り返し単位を有するPAI樹脂の製造の際に、原料の
【0043】
【化11】

【0044】
又は、
【0045】
【化12】

【0046】
の一部を
【0047】
【化13】

【0048】
等で置換して反応させることにより、主要成分としての繰り返し単位[1]に繰り返し単位[2]で表されるポリアミド単位及び/又は繰り返し単位[3]で表されるポリイミド単位を導入することができる。この方法は、特公昭49ー13240号公報等に詳細に記載されている。
【0049】
より具体的には、(i)の酸クロリド法により一般式(I)で表される繰り返し単位を有するPAI樹脂を製造する場合、極性有機溶媒中、芳香族及び/又は脂肪族ジアミンあるいはその誘導体と、トリメリット酸無水物のアシルクロライド誘導体とを反応させ、次いで生成するポリアミド酸(V)を閉環させればよい。原料の芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンは、1種単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0050】
【化14】

【0051】
中でも本発明で使用される好ましいPAI樹脂は、
【0052】
【化15】

【0053】
の繰り返し単位(VI)と
【0054】
【化16】

【0055】
の繰り返し単位(VII)とを有する樹脂である。
【0056】
繰り返し単位(VI)と繰り返し単位(VII)との割合は、任意であるが、繰り返し単位(VI)が全体1モル中に0.6〜0.8モル存在しているのがより好ましい。
【0057】
これらPAI樹脂の重合度には特に制限がないが、サンプル濃度0.25g/50mlのN-メチル-2-ピロリドン溶液中、30℃で測定した溶液対数粘度として、0.2〜0.7dl/gの範囲のものが好ましい。
【0058】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、PAI樹脂(b)の添加量(重量%)のうちの30重量%以上がポリアミド樹脂(a)に分子相溶していること、すなわち絶乾時の動的粘弾性測定から求められるポリアミド樹脂(a)に相当する損失正接(tanδ)の最大ピークトップ温度が下記式[1]を満足することが必要である。
(樹脂組成物におけるポリアミド樹脂に相当するtanδの最大ピークトップ温度)>(ポリアミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)+{(ポリアミドイミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)−(ポリアミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)}×(ポリアミドイミド樹脂添加率(重量%))/100×0.3 [1]
ここで言う動的粘弾性は、各原料および樹脂組成物のペレットから溶融プレスにより調整したプレスフィルムを用い、粘弾性測定装置を使用して窒素雰囲気下で測定できる。また絶乾状態とは、プレスフィルム作成後、即座に防湿袋および防湿缶に入れて保存した状態のことを言い、吸水による重量変化率が0.2%以下の状態を言う。非相溶系ポリマーアロイであれば、樹脂組成物中のtanδは図1(A)に示すように、ポリアミド樹脂(B)とPAI樹脂(C)単体のtanδがピークシフトすることなく観察される。一方、完全分子相溶系ポリマーアロイであれば、図2(A)に示すようにポリアミド樹脂(B)とPAI樹脂(C)のtanδが両者接近してシングルピークとなり、そのピーク温度は形成する樹脂組成物の組成比に比例した値となる。本発明のポリアミド樹脂組成物はその中間の位置付けられる一部分子相溶した系であり、図3(A)に示すように樹脂単体のtanδと比較するとピークシフトが見られる。本発明では吸水性、成形加工性の観点から、PAI樹脂(b)の添加量(重量%)のうちの30重量%以上がポリアミド樹脂(a)に分子相溶していることが必要であり、その場合樹脂組成物におけるポリアミド樹脂に相当するtanδの最大ピークトップ温度が式[1]を満足する。式[1]を満足しない場合、すなわちPAI樹脂(b)の添加量(重量%)の30%未満が相溶する場合には、低吸水性、成形加工性が大幅に改良されたポリアミド樹脂組成物を得ることができない。
【0059】
更に本発明のポリアミド樹脂組成物は上記式[1]を満足する他に、吸水率が下記式[2]を満足することが好ましい。
(樹脂組成物の吸水率)<(ポリアミドイミド樹脂未添加における吸水率)×{1−(ポリアミドイミド樹脂添加率(重量%))/100×1.5} [2]
ここで言う吸水率とは、具体的には射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)により調製したASTM1号ダンベルを用い、60℃、相対湿度95%にて168時間吸水処理を行い、処理前後の重量変化率から計算したものである。また(ポリアミドイミド樹脂未添加における吸水率)とは、例えば樹脂組成物がナイロン66とPAI樹脂からなるものであればナイロン66の吸水率を意味し、樹脂組成物がナイロン66とPAI樹脂と無機充填材からなるものであればナイロン66と無機充填材からなる樹脂組成物の吸水率を意味する。従来のPAI樹脂が複合化された樹脂組成物、その他非晶性樹脂が複合化された樹脂組成物では添加量相当の吸水率低下が見られるが、ポリアミド樹脂(a)とPAI樹脂(b)を一部分子相溶させた本発明のポリアミド樹脂組成物では、PAI樹脂添加量相当の吸水率低下を上回る低吸水化の効果がある。本発明のポリアミド樹脂組成物が式[2]を満たす場合、PAI樹脂添加量の1.5倍以上の低吸水化効果を有しているので、成形品として使用する場合に好適である。
【0060】
更に本発明のポリアミド樹脂組成物は上記式[1][2]を満足する他に、成形下限圧が下記式[3]を満足することが好ましい。
(樹脂組成物の成形下限圧)<(ポリアミドイミド樹脂未添加における成形下限圧) [3]
ここで言う成形下限圧とは、具体的には射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)によりATSM1号ダンベルを成形する際に、ATSM1号ダンベルが充填不良を起こすことなく成形することができる最低充填圧力である。従って、成形下限圧が低いほど流動性が優れていることになる。また(ポリアミドイミド樹脂未添加における成形下限圧)とは、例えば樹脂組成物がナイロン66とPAI樹脂からなるものであればナイロン66の成形下限圧を意味し、樹脂組成物がナイロン66とPAI樹脂と無機充填材からなるものであればナイロン66と無機充填材からなる樹脂組成物の成形下限圧を意味する。すなわち、ポリアミド樹脂(a)とPAI樹脂(b)を一部分子相溶させた本発明のポリアミド樹脂組成物が式[3]を満足する場合では、優れた流動性を有しているので、成形加工する際に好適である。
【0061】
本発明のポリアミド樹脂(a)とPAI樹脂(b)の配合割合は、ポリアミド樹脂(a)とPAI樹脂(b)の合計100重量%として、ポリアミド樹脂(a)50〜99.9重量%、PAI樹脂(b)50〜0.1重量%であることが好ましく、ポリアミド樹脂70〜95重量%、PAI樹脂30〜5重量%であることがより好ましい。PAI樹脂(b)が30〜5重量%である場合には、該組成物は機械的特性、低吸水性、成形加工性のバランスに特に優れるため好ましい。
【0062】
本発明に用いられる無機充填材(c)として、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはタルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、セラミックビ−ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスフレーク、ガラス粉、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。好ましくはガラス繊維、炭素繊維、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩であり、特に好ましくはガラス繊維である。また、これらの充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、ウレタン化合物、およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよく、なかでもウレタン化合物、エポキシ化合物、有機シラン化合物で予備処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物に含有される無機充填材(c)の含有量としては、ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、1〜300重量部が好ましく、より好ましくは5〜200重量部であり、特に好ましくは10〜100重量部である。無機充填材(c)の含有量が1重量部未満の場合は物性改良の効果が小さいため好ましくなく、300重量部を越える場合には溶融粘度が著しく増加し成形加工時の流動性が低下するため好ましくない。
【0063】
本発明のポリアミド樹脂組成物には相溶性を向上させる目的で相溶化剤を添加することができる。相溶化剤の具体的な例としては、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランなどの有機シラン化合物および多官能エポキシ化合物などが挙げられ、これらは2種以上同時に使用することもできる。ここで多官能エポキシ化合物は、エポキシ基を分子中に2個以上含むものであり、液体または固体状のものを使用することができる。例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどのα−オレフィンとアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどのα,β−不飽和酸グリシジルエステルとの共重合体、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン等のビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系エポキシ化合物、ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させたノボラック型エポキシ樹脂等が例示される。好ましくはビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、エポキシ基を有する有機シラン化合物またはイソシアネート基を有する有機シラン化合物が用いられる。相溶化剤の配合割合は本発明のポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、更に好ましくは0.1〜5重量部である。0.01重量部以下の添加量においては十分な相溶性向上効果が得られず、10重量部を超える場合はポリアミド樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加し流動性が低下するため好ましくない。
【0064】
更に本発明においては、熱安定性を保持するために、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を含有せしめることができる。かかる酸化防止剤の配合量は、耐熱改良効果の点から本発明のポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系酸化防止剤を併用して使用することは、特に耐熱性、成形加工性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
【0065】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0066】
中でも、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが好ましく用いられる。
【0067】
次にリン系酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。中でも、ポリアミド樹脂のコンパウンド中に酸化防止剤の揮発や分解を少なくするために、酸化防止剤の融点が高いものが好ましく用いられる。
【0068】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリアミド樹脂(a)、PAI樹脂(b)以外の樹脂を添加することが可能である。但し、本発明のポリアミド樹脂組成物全体100重量部に対して30重量部を超えるとポリアミド樹脂本来の特徴が損なわれるため好ましくなく、本発明においては20重量部以下の添加が好ましい。
【0069】
ポリアミド樹脂(a)、PAI樹脂(b)以外の樹脂の具体例としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ABS樹脂、ポリアルキレンオキサイド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0070】
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重宿合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも本発明のポリアミド樹脂組成物全体100重量部に対して20重量部を越えるとポリアミド樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の添加が良い。
【0071】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造に用いる混練機は、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給してポリアミド樹脂の融点以上、ポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度以上の加工温度で混練する方法などを代表例として挙げることができるが、本発明の成形加工性、低吸水性に優れた樹脂組成物を得るためには、押出時の混練エネルギー(吐出量あたりの押出機仕事量(kW/(kg/h)))を大きくすることが必要である。好ましい混練エネルギーは、0.3kW/(kg/h)以上2.0以下であり、特に好ましくは0.5以上である。しかしながら、通常混練エネルギーを大きくするとせん断による発熱で樹脂温度が上昇し、ポリアミド樹脂の熱分解を引き起こし、目的の相分離構造を形成することが困難となる。そのため押出時の樹脂温度は300℃〜350℃にすることが好ましく、310℃〜340℃にすることが特に好ましい。
【0072】
このように混練エネルギー、樹脂温度を制御することにより、ポリアミド樹脂(a)とPAI樹脂(b)が一部相溶したモルホロジーを形成することが可能となる。具体的には、2軸押出機を用いた溶融混練において、シリンダー温度を低温とし、スクリュー回転数を高回転とする方法は高せん断を得ることができ、0.3kW/(kg/h)以上の混練エネルギーを達成することができるため好ましく用いられる。しかしながら、混練部のスクリューエレメントに従来のニーディングディスクを用いた場合には、せん断による発熱量が大きく、押出時の樹脂温度を300℃〜350℃に抑制することが困難である。これに対して、混練部のスクリューエレメントに低発熱混練エレメントを用いるとせん断による発熱を抑えることができ、押出時の樹脂温度300℃〜350℃が達成できるため好ましい。ここで言う低発熱エレメントとは、従来のニーディングディスクでは平行に配列されているフライトチップ部を螺旋角度が0〜90度あるいは90〜180度の範囲内で傾斜したスクリューエレメント等が挙げられ、これらをスクリューの混練部に導入することにより従来のニーディングディスクに不足している樹脂の温度上昇抑制効果を得ることができる。また混練部に超臨界二酸化炭素、超臨界窒素を導入する方法もせん断による発熱を抑えることができるため好ましい。
【0073】
2軸押出機のシリンダー温度は、2軸押出機に投入された樹脂を可塑化する可塑化部と可塑化された溶融樹脂を溶融混練する混練部に分けた場合、可塑化部温度を、ポリアミド樹脂(a)の融点とポリアミドイミド樹脂(b)のガラス転移温度のうち高い方の温度+20℃に設定し、混練部のシリンダー温度を150〜300℃の範囲とすることが好ましい。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練し、ペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
【0074】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、機械的特性、成形加工性および低吸水性にバランスして優れることから射出成形体用途に特に有用である。その特徴を活かして、機械的特性、低吸水性が必要とされる機械部品、電気・電子部品、医療、食品、家庭・事務用品、建材関係部品、家具用部品などへの使用に適している。また成形加工性が良好であることから、薄肉成形が必要な部品にも適している。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。材料特性評価については下記の方法に従って行った。
【0076】
[樹脂温度]2軸押出機において溶融混練する際に押出機ダイより吐出される溶融樹脂を温度計により測定した。
【0077】
[動的粘弾性]各原料および樹脂組成物ペレットから溶融温度300℃、金型温度80℃によりプレスフィルムを作成し、絶乾状態に保ったサンプルを粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ社製DMS6100)により、窒素雰囲気下、2℃/分の昇温速度にて測定し、損失正接(tanδ)の最大ピークトップ温度を求めた。尚、樹脂組成物におけるtanδの最大ピークトップ温度はポリアミド樹脂に相当するものを求めた。樹脂組成物におけるポリアミド樹脂に相当するtanδの最大ピークトップ温度の値は式[1]の左辺に該当し、また式[1]の右辺は原料のtanδの最大ピークトップ温度から計算した。
【0078】
[成形加工性]射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)によりATSM1号ダンベルを成形する際に、ATSM1号ダンベルが充填不良を起こすことなく成形することができる最低充填圧力を成形下限圧とした。樹脂組成物の成形下限圧は式[3]の左辺に該当し、また式[3]の右辺としてPAI樹脂未添加における成形下限圧を求めた。
【0079】
[引張試験]射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)により調製したASTM1号ダンベルを用い、ASTM−D638に従って23℃にて引張試験を行い、強度、破断伸度を測定した。
【0080】
[曲げ試験]射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)により調製したASTM1号ダンベルを用い、ASTM−D790に従って23℃にて曲げ試験を行い、強度、弾性率を測定した。
【0081】
[吸水試験]射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)により調製したASTM1号ダンベルを用い、60℃、相対湿度95%にて168時間吸水処理を行い、処理前後の重量変化率から吸水率を計算した。また168時間吸水処理した試験片に関しては曲げ試験を行い、弾性率を測定した。樹脂組成物の吸水率は式[2]の左辺の該当し、また式[2]の右辺はPAI樹脂未添加における吸水率を求めて計算した。
【0082】
[参考例1](PAI樹脂(B−1)の製造)
N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)65リットルに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)11.00kgおよびメタフェニレンジアミン(MPDA)2.54kgを溶解し、氷浴で冷却しながら、粉末状の無水トリメリット酸モノクロリド(TMAC)15.10kgを内温が30℃を超えないような速度で添加した。TMACを全て添加した後、無水トリメリット酸(TMA)1.443kgを添加し、30℃で2時間撹拌保持した。粘調となった重合液をカッターミキサーに張った100リットルの水中に投入し、高速撹拌することにより、スラリー状にポリマーを析出させた。得られたスラリーを遠心分離機で脱水処理した。脱水後のケークを80℃の水200リットルを用いて洗浄し、再度遠心分離機で脱水処理した。得られたケークを、熱風乾燥機を用いて220℃/5時間の条件で乾燥し、溶液粘度0.5dl/gの粉末状ポリマーを得た。
【0083】
[参考例2](PAI樹脂(B−2)の製造)
N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)65リットルに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)11.78kgおよびメタフェニレンジアミン(MPDA)2.12kgを溶解し、氷浴で冷却しながら、粉末状の無水トリメリット酸モノクロリド(TMAC)15.10kgを内温が30℃を超えないような速度で添加した。TMACを全て添加した後、無水トリメリット酸(TMA)1.443kgを添加し、30℃で2時間撹拌保持した。粘調となった重合液をカッターミキサーに張った100リットルの水中に投入し、高速撹拌することにより、スラリー状にポリマーを析出させた。得られたスラリーを遠心分離機で脱水処理した。脱水後のケークを80℃の水200リットルを用いて洗浄し、再度遠心分離機で脱水処理した。得られたケークを、熱風乾燥機を用いて220℃/5時間の条件で乾燥し、溶液粘度0.5dl/gの粉末状ポリマーを得た。
【0084】
[参考例3](PAI樹脂(B−3)の製造)
N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)65リットルに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)10.21kgおよびメタフェニレンジアミン(MPDA)2.97kgを溶解し、氷浴で冷却しながら、粉末状の無水トリメリット酸モノクロリド(TMAC)15.10kgを内温が30℃を超えないような速度で添加した。TMACを全て添加した後、無水トリメリット酸(TMA)1.443kgを添加し、30℃で2時間撹拌保持した。粘調となった重合液をカッターミキサーに張った100リットルの水中に投入し、高速撹拌することにより、スラリー状にポリマーを析出させた。得られたスラリーを遠心分離機で脱水処理した。脱水後のケークを80℃の水200リットルを用いて洗浄し、再度遠心分離機で脱水処理した。得られたケークを、熱風乾燥機を用いて220℃/5時間の条件で乾燥し、溶液粘度0.5dl/gの粉末状ポリマーを得た。
【0085】
[参考例4](PAI樹脂(B−4)の製造)
N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)65リットルに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)11.00kgおよびメタフェニレンジアミン(MPDA)2.54kgを溶解し、氷浴で冷却しながら、粉末状の無水トリメリット酸モノクロリド(TMAC)14.51kgを内温が30℃を超えないような速度で添加した。TMACを全て添加した後、無水トリメリット酸(TMA)1.978kgを添加し、30℃で2時間撹拌保持した。粘調となった重合液をカッターミキサーに張った100リットルの水中に投入し、高速撹拌することにより、スラリー状にポリマーを析出させた。得られたスラリーを遠心分離機で脱水処理した。脱水後のケークを80℃の水200リットルを用いて洗浄し、再度遠心分離機で脱水処理した。得られたケークを、熱風乾燥機を用いて220℃/5時間の条件で乾燥し、溶液粘度0.36dl/gの粉末状ポリマーを得た。
【0086】
[実施例1〜10]、[比較例1〜7]
参考例および下に示す各成分を表1、表2に記載の各割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機のメインフィーダーに供給し、シリンダー温度、スクリュー回転数を表1に示した条件に設定して、実施例1〜10、比較例6、7はスクリュー混練部に低発熱混練エレメントを導入したスクリューを用い、比較例4、5はスクリュー混練部に従来のニーディングディスクを導入したスクリューを用いて溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。その後80℃で12時間真空乾燥したペレットを用い、射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの動的粘弾性、成形加工性、機械的特性、吸水性を評価した結果を表1に示す。比較例4、5は従来のニーディングディスクを導入したスクリューを用いて、従来シリンダー温度条件にて溶融混練を行ったものであるが、樹脂温度が高温かつ混練エネルギーが低いため、樹脂組成物は式1、2、3を満足できず、実施例と比較して吸水特性、成形加工性に劣るものであった。比較例6、7は、高いガラス転移温度を有する非晶性樹脂であるPPE樹脂、PEI樹脂を複合化したものであるが、実施例と比較して吸水特性、成形加工性に劣るものであった。一方、本実施例では比較例1〜7と比較して、機械的特性、吸水特性、成形加工性にバランスして優れるものであった。
【0087】
[実施例11]、[比較例8、9]
無機充填材を除く各成分を表1、表2に記載の各割合でドライブレンドし日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機のメインフィーダーに供給し、無機充填材はシリンダー途中のサイドフィーダーから供給する方法で、シリンダー温度、スクリュー回転数を表1に示した条件に設定して、実施例11はスクリュー混練部に低発熱混練エレメントを導入したスクリューを用い、比較例8、9はスクリュー混練部に従来のニーディングディスクを導入したスクリューを用いて溶融混練を行い、ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。その後80℃で12時間真空乾燥したペレットを用い、射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの動的粘弾性、成形加工性、機械的特性、吸水性を評価した結果を表1に示す。比較例9は従来のニーディングディスクを導入したスクリューを用いて、従来シリンダー温度条件にて溶融混練を行ったものであるが、樹脂温度が高温かつ混練エネルギーが低いため、樹脂組成物は式1、2、3を満足できず、実施例と比較して吸水特性、成形加工性に劣るものであった。一方、実施例11では比較例8、9と比較して、機械的特性、吸水特性、成形加工性にバランスして優れるものであった。
【0088】
本実施例および比較例に用いたポリアミド樹脂(a)は以下の通りである。
(A−1):融点265℃、98%硫酸1g/dlでの相対粘度3.70のナイロン66樹脂。
(A−2):融点225℃、98%硫酸1g/dlでの相対粘度3.40のナイロン6樹脂。
(A−3):融点290℃、96%硫酸1g/dlでの相対粘度3.00のナイロン46樹脂。
【0089】
同様に、無機充填材(c)は以下の通りである。
(C−1):ガラス繊維(エヌエスジー・ヴェトロテックス(株)製:TP57)
同様に、PPE樹脂は以下の通りである。
(D−1):ガラス転移温度220℃、固有粘度が0.50dl/g(30℃、クロロホルム中)であるポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル樹脂100重量部と無水マレイン酸1重量部とラジカル発生剤(パーヘキシン25B:日本油脂製)0.1重量部をドライブレンドし、シリンダー温度320℃にて溶融混練して得た変性PPE樹脂。
【0090】
同様に、PEI樹脂は以下の通りである。
(E−1):ガラス転移温度214℃のPEI樹脂(GEプラスチックス社製:ウルテム1010)。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】非相溶系である場合の樹脂組成物と原料のtanδのイメージ図
【図2】相溶系である場合の樹脂組成物と原料のtanδのイメージ図
【図3】本発明における樹脂組成物と原料のtanδのイメージ図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(a)、ポリアミドイミド樹脂(b)から構成される樹脂組成物であって、絶乾時の動的粘弾性測定から求められるポリアミド樹脂に相当する損失正接(tanδ)の最大ピークトップ温度が下記式[1]を満足することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(樹脂組成物におけるポリアミド樹脂に相当するtanδの最大ピークトップ温度)>(ポリアミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)+{(ポリアミドイミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)−(ポリアミド樹脂のtanδの最大ピークトップ温度)}×(ポリアミドイミド樹脂添加率(重量%))/100×0.3 [1]
【請求項2】
下記式[2]を満足することを特徴とする、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
(樹脂組成物の吸水率)<(ポリアミドイミド樹脂未添加における吸水率)×{1−(ポリアミドイミド樹脂添加率(重量%))/100×1.5} [2]
【請求項3】
下記式[3]を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
(樹脂組成物の成形下限圧)<(ポリアミドイミド樹脂未添加における成形下限圧) [3]
【請求項4】
ポリアミド樹脂(a)50〜99.9重量%、ポリアミドイミド樹脂(b)50〜0.1重量%から構成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、無機充填材(c)1〜300重量部を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂(a)が結晶性ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂(a)がナイロン6及び/またはナイロン66であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂組成物を構成する樹脂の溶融混合物に、樹脂温度を300℃〜350℃に制御しつつ0.3kWh/kg以上の混練エネルギーを付与することにより製造せしめることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアミド樹脂(a)、ポリアミドイミド樹脂(b)からなる樹脂組成物の溶融混合物に、樹脂温度を300℃〜350℃に制御しつつ0.3kWh/kg以上の混練エネルギーを付与するポリアミド樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−77250(P2007−77250A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266006(P2005−266006)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】