説明

ポリアミド樹脂組成物及びその製造方法並びに冷媒輸送用ホース

【課題】冷媒輸送用ホースのガスバリア層を形成するポリアミド樹脂組成物に特定の金属化合物を配合して冷媒やコンプレッサーオイルによるガスバリア層の劣化を防止するに当たり、該金属化合物の混練方法を工夫して金属化合物の均一分散性を改善し、耐インパルス性を確保する。
【解決手段】(a)ポリアミド樹脂と、(b)ポリオレフィン系エラストマーと、(c)2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物と含むポリアミド樹脂組成物を製造する方法において、(c)金属化合物と(b)ポリオレフィン系エラストマーとを混練し、得られた混練物と(a)ポリアミド樹脂とを混練する。金属化合物の配合量はポリマー成分に対して5〜20重量%とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒輸送用ホースのガスバリア層形成用樹脂組成物として好適なポリアミド樹脂組成物及びその製造方法と、このポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層を有する冷媒輸送用ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用エアコンには冷媒としてHFC−134a(R−134a)などのフロンガスが用いられている。
【0003】
自動車用エアコンの配管には乗り心地改善の観点から、振動吸収性能に優れているゴムホースが用いられており、このゴムホースの構造としては、冷媒の漏洩を防止する為に、最内層にガスバリア性に優れ、かつ耐インパルス性能など振動耐久性にも優れるポリアミド樹脂層を配し、その上に内管ゴム層を設け、その上にPET等の有機繊維よりなる補強糸層を設け、更にその上に耐候性を有するEPDMゴム層を配した構造が用いられている(特開2007−15245号公報)。
【0004】
また、最内層のガスバリア層を構成するポリアミド樹脂に柔軟性付与剤としてポリオレフィン系エラストマーを配合し、耐冷媒透過性と柔軟性を付与した冷媒輸送用ホースも提案されている(特開2000−120944号公報)。
【0005】
しかしながら、ポリアミド樹脂は、冷媒であるフロンやコンプレッサーからのオイルによる劣化の問題があり、この問題は、ポリオレフィン系エラストマーの配合によっても解決されず、このため、従来の冷媒輸送用ホースでは、耐久性の点で課題が残されている。
例えば、エアコンシステム内に微量でも酸性成分が存在する場合、高温/高圧の実使用条件下では、ポリアミド樹脂組成物がこの酸性成分により著しく劣化し、使用に耐えなくなる場合がある。この酸性成分としては冷媒と共に封入されるコンプレッサーオイルに含まれる極圧剤などが考えられる。このため、エアコンに使用されるオイルの種類や環境条件によっては、従来の冷媒輸送用ホースでは実用的な耐久性が得られず、使用不可能となる場合もある。
【0006】
このようなポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層の冷媒やコンプレッサーオイルによる劣化を防止して冷媒輸送用ホースの耐久性を高めるべく、本出願人は先に、ガスバリア層形成用ポリアミド樹脂組成物として、2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物を、所定の割合で配合したものを提案した(特願2009−079487。以下「先願」という。)。
【0007】
先願のポリアミド樹脂組成物であれば、特定の金属化合物を所定の割合で配合することにより、このポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層の冷媒やコンプレッサーオイルによる劣化を効果的に抑制ないし防止(以下、抑制ないし防止することを単に「防止」と称す。)して、その耐久性を高めることができる。
この特定の金属化合物による、ポリアミド樹脂組成物の冷媒やコンプレッサーオイルによる劣化防止効果の作用機構の詳細は明らかではないが、ポリアミド樹脂組成物に配合された金属化合物が受酸剤、受ハロゲン剤等として機能し、冷媒やオイルに含まれる酸成分やハロゲン成分等の劣化要因物質を金属化合物がトラップすることにより、ポリアミド樹脂組成物の劣化防止効果が発現されることによるものと推定される。
【0008】
このようなことから、先願の冷媒輸送用ホースは、使用オイルや使用システム内の環境による影響を受けることなく、優れた耐久性能を示し、長期に亘り安定かつ安全に使用することができる。
【0009】
なお、ハロゲン化有機化合物よりなる難燃剤を配合したポリアミド樹脂組成物の製造方法として、特公昭62−13380号公報には、予め低融点ポリアミドに難燃剤を混合して低融点ポリアミドマスターバッチを製造し、この低融点ポリアミドマスターバッチを高融点ポリアミドと混合する方法が提案されている。この方法は、高融点ポリアミドに難燃剤を直接混合する際の高剪断力により生じる局部過熱による劣化を防止するべく、難燃剤を低融点ポリアミドのマスターバッチとして高融点ポリアミドに混合するものであり、ポリアミド樹脂とポリオレフィン系エラストマーとを含むポリアミド樹脂組成物への前述の特定の金属化合物の混合方法を何ら示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−15245号公報
【特許文献2】特開2000−120944号公報
【特許文献3】特願2009−079487
【特許文献4】特公昭62−13380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
先願のガスバリア層形成用ポリアミド樹脂組成物であれば、特定の金属化合物の配合で、冷媒輸送用ホースのガスバリア層の冷媒やコンプレッサーオイルによる劣化が防止されるが、耐久性向上のために金属化合物を比較的多く配合したポリアミド樹脂組成物では、ポリアミド樹脂に対する金属化合物の分散性が悪いことに起因して、これを用いて冷媒輸送用ホースのガスバリア層を形成すると、金属化合物の分散不良による不均一相部分が破壊の起点となり、繰り返し加圧試験(インパルス試験)のような疲労性試験で樹脂割れが発生し、十分な性能が得られない問題があった。即ち、金属化合物の配合でポリアミド樹脂組成物の冷媒やコンプレッサーオイルによる劣化は防止され、この冷媒やコンプレッサーオイルによる劣化に起因する耐久性の問題は改善されるが、ホースにした際、金属化合物の分散不良のために、ポリアミド樹脂組成物の押し出し成形で形成される薄膜表層部(膜肌)の状態が悪く、耐インパルス性が損なわれる問題があった。
【0012】
本発明はこの問題を解決し、ポリアミド樹脂組成物への金属化合物の均一分散性を高め、耐インパルス性を損なうことなく、冷媒やコンプレッサーオイルによる劣化を有効に防止し得るポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
本発明はまた、このポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層を有する耐久性能に優れた冷媒輸送用ホースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、(a)ポリアミド樹脂と、(b)ポリオレフィン系エラストマーと、(c)2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物と含むポリアミド樹脂組成物を製造する方法において、(c)金属化合物と(b)ポリオレフィン系エラストマーとを混練する第1の混練工程と、該第1の混練工程で得られた混練物と(a)ポリアミド樹脂とを混練する第2の混練工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
請求項2のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、請求項1において、前記ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分に対する(c)金属化合物の割合が5〜20重量%であることを特徴とする。
【0015】
請求項3のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、請求項1又は2において、前記(c)金属化合物がハイドロタルサイト、又はハイドロタルサイトとハイドロタルサイト以外の金属化合物であることを特徴とする。
【0016】
請求項4のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ポリアミド樹脂組成物のポリオレフィン系エラストマーの含有量がポリアミド樹脂組成物の総重量に対して10〜45重量%であることを特徴とする。
【0017】
請求項5のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ポリオレフィン系エラストマーの少なくとも一部が酸変性されていることを特徴とする。
【0018】
本発明(請求項6)のポリアミド樹脂組成物は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0019】
請求項7のポリアミド樹脂組成物は、請求項6において、冷媒輸送用ホースのガスバリア層形成用ポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする。
【0020】
本発明(請求項8)の冷媒輸送用ホースは、ポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層を有する冷媒輸送用ホースにおいて、該ポリアミド樹脂組成物が請求項6又は7に記載のポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする。
【0021】
請求項9の冷媒輸送用ホースは、請求項8において、前記ガスバリア層の外周側に、補強糸よりなる補強層と外被ゴム層とが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法によれば、ポリアミド樹脂とポリオレフィン系エラストマーと特定の金属化合物を含むポリアミド樹脂組成物を製造するに当たり、予めポリオレフィン系エラストマーと金属化合物とを混練し、得られた混練物にポリアミド樹脂を混練することにより、金属化合物の樹脂組成物中への均一分散性を高め、耐久性を向上させるための金属化合物配合量を高めた上で、耐インパルス性を確保することができる。
【0023】
即ち、ポリアミド樹脂組成物の冷媒やコンプレッサーオイルによる劣化は、主に、冷媒やコンプレッサーオイル中の酸性成分によるポリアミド樹脂の劣化によるものであり、この観点からは、金属化合物はポリアミド樹脂に混練してポリアミド樹脂相に選択的に分散させることが有効であると考えられる。
しかしながら、ポリアミド樹脂は金属化合物の均一分散性が悪く、例えば、ポリアミド樹脂に対して多量の金属化合物を混練した場合、前述の如く、金属化合物の不均一分散のために、膜肌の悪い不均一部分が形成され、この部分が破壊の起点となって、耐インパルス性を低減させる原因となる。
【0024】
これに対して、ポリオレフィン系エラストマーは金属化合物の均一分散性に優れ、予めポリオレフィン系エラストマーに金属化合物を混練することにより、得られる樹脂組成物中に金属化合物を均一に分散させて破壊の起点となるような膜肌の悪い欠陥部分の発生を防止することができる。
【0025】
なお、上述の如く、冷媒輸送用ホースによるポリアミド樹脂組成物の劣化は、主に酸性成分によるポリアミド樹脂の劣化によるものであるが、ポリアミド樹脂組成物を劣化させる酸性成分は、ポリアミド樹脂相だけではなくポリオレフィン系エラストマー相にも侵入し、ポリオレフィン系エラストマー相を通過した後ポリアミド樹脂相に到るものもあり、ポリオレフィン系エラストマー相に分散した金属化合物は、このポリオレフィン系エラストマー相を通過する酸性成分を捕捉してポリアミド樹脂の劣化を効果的に防止することができる。
【0026】
従って、本発明で得られるポリアミド樹脂組成物においては、金属化合物は主としてポリオレフィン系エラストマー相に分散したものとなるが、このように、ポリオレフィン系エラストマー相を通過する酸性成分を捕捉してポリアミド樹脂の劣化を防止するため、金属化合物による十分な劣化防止効果を得ることができる。
【0027】
ただし、上記効果を有効に発揮させる観点からは、本発明において、金属化合物は比較的多量に配合することが好ましく、従って、先願においては、ポリアミド樹脂組成物中の金属化合物の含有量はポリマー成分と金属化合物との合計に対して1〜15重量%とされているが、本発明においては、金属化合物の配合量は先願におけるよりも多く、ポリアミド樹脂組成物中の(c)金属化合物の割合は組成物中のポリマー成分に対して5〜20重量%とすることが好ましい(請求項2)。
本発明では、このように多量の金属化合物を配合しても、金属化合物の分散性に優れたポリオレフィン系エラストマーに予め金属化合物を混練するため、金属化合物の分散不良が問題になることはない。
【0028】
また、本発明において、(c)金属化合物としては、ハイドロタルサイト、又はハイドロタルサイトとハイドロタルサイト以外の金属化合物を用いることが好ましい(請求項3)。
【0029】
また、ポリアミド樹脂組成物中のポリオレフィン系エラストマーの含有量は10〜45重量%配合であることが、柔軟性、耐久性の面で好ましい(請求項4)。
【0030】
このポリオレフィン系エラストマーとして少なくとも一部が酸変性されていてもよく、これによりポリアミド樹脂との相溶性が向上する(請求項5)。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、このような本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造されたものであり、優れたガスバリア性及び耐久性から、特に冷媒輸送用ホースのガスバリア層形成用ポリアミド樹脂組成物として好適である(請求項6,7)。
【0032】
本発明の冷媒輸送用ホースは、このような本発明のポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層を有するものであり、冷媒やコンプレッサーオイルによるガスバリア層の劣化が問題となることは殆どなく、耐久性能に優れる(請求項8)。
【0033】
本発明の冷媒輸送用ホースは、特にこのようなガスバリア層の外周側に、補強糸よりなる補強層と外被ゴム層とが設けられていることが好ましい(請求項9)。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の冷媒輸送用ホースの実施の形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0036】
[ポリアミド樹脂組成物及びその製造方法]
まず、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法とこのポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造される本発明のポリアミド樹脂組成物について説明する。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、(a)ポリアミド樹脂と(b)ポリオレフィン系エラストマーと、(c)2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物、及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物とを含むポリアミド樹脂組成物を製造するに当たり、まず、(c)金属化合物と(b)ポリオレフィン系エラストマーとを混練し、その後、得られた混練物に(a)ポリアミド樹脂を混練することを特徴とする。
【0038】
<(a)ポリアミド樹脂>
本発明で用いられるポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミド樹脂である。これらの構成成分の具体例を挙げるとε−カプロラクタム、エナントラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、ε−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などのアミノ酸、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス−p−アミノシクロヘキシルメタン、ビス−p−アミノシクロヘキシルプロパン、イソホロンジアミンなどのジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ゼバシン酸、ドデカン2酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸などのジカルボン酸がある。これらの構成成分は単独あるいは2種以上の混合物の形で重合に供され、得られるポアミド樹脂はホモポリマー、コポリマーのいずれであっても良い。
【0039】
特に本発明で有効に用いられるポリアミド樹脂としては、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体(ナイロン66/6T)、ポリカプラミド/ポリヘキサメチレンアジパミド共重合体(ナイロン6/66)が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
ポリアミドの重合度については特に制限はなく、1重量%濃度の硫酸溶液の25℃における相対粘度(以下、単に「相対粘度」と称す場合がある。)が1.5〜5.0の範囲内にあるものを任意に用いることができる。また、ポリアミド樹脂は、その末端基がモノカルボン酸化合物および/またはジカルボン酸化合物あるいはモノアミン化合物および/またはジアミン化合物の1種以上を任意の段階でポリアミドに添加することにより末端基濃度が調節されていてもよい。
【0041】
<(b)ポリオレフィン系エラストマー>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリオレフィン系エラストマーを含む。ポリオレフィン系エラストマーを含有することにより、このポリアミド樹脂組成物で構成されるガスバリア層の柔軟性、耐久性を付与することができる。
【0042】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α−オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体、エチレン−アクリル酸変性体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びその酸変性物、及びそれらを主成分とする混合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0043】
ポリオレフィン系エラストマーとしては、特に、無水マレイン酸などの酸無水物、グリシジルメタクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル、エポキシ及びその変性体などで変性したものが、ポリアミド樹脂をベースポリマーとする微細なアロイ構造を得ることができ、好ましい。
【0044】
本発明に係るポリアミド樹脂組成物中のポリオレフィン系エラストマー含有量は、少な過ぎるとポリオレフィン系エラストマーを配合したことによる柔軟性、耐久性の改善効果を十分に得ることができず、多過ぎるとガスバリア性が低下するため、ポリアミド樹脂組成物中の含有率で10〜45重量%、特に20〜40重量%であることが好ましい。ポリアミド樹脂組成物中のポリオレフィン系エラストマーの含有量が多過ぎると、後述の海島構造において海相と島相とが逆転し、ガスバリア性が著しく低下するため、好ましくない。
【0045】
なお、ポリオレフィン系エラストマーとして酸変性エラストマー等の変性エラストマーを用いた場合、混練り(分散)時に少ない比エネルギー及び高い混練り技術を必要としないという効果が得られるが、その配合量が多いと樹脂のゲル化を引き起こし、押出し時、肌荒れ等の外観不良(フィッシュアイ)を引き起こすため、ポリオレフィン系エラストマーとして変性エラストマーを用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中の変性エラストマーの含有量は20重量%以下、例えば5〜20重量%とすることが好ましい。
特に、本発明では、ポリアミド樹脂組成物中のポリオレフィン系エラストマーのうちの40〜100重量%を酸変性エラストマーとしたものが好ましい。
【0046】
ポリアミド樹脂組成物とポリオレフィン系エラストマーとを相溶状態、即ち、良好な分散状態とするために、エラストマーの少なくとも一部が無水マレイン酸等により変性されていることが好ましく、良好な分散形態を得るために用いるエラストマーの全体の平均の酸価(酸変性率)は0.8mg−CHONa/g以上であることが好ましい。
【0047】
エラストマーの酸価は高いほど、分散形態は良好となるが、酸価の増大に伴って得られるポリアミド樹脂組成物の粘度が増大し、成形加工性が損なわれる。このため、この酸価の増大による粘度増加を低減するために、エラストマーの酸価は、良好な分散状態が得られる範囲において低い方が好ましく、用いるエラストマーの全体での平均酸価は7.5mg−CHONa/g以下であることが好ましい。
【0048】
また、同じ平均酸価であっても、用いるエラストマー中に含まれる変性エラストマーの酸価が高い場合、このような変性エラストマーを未変性エラストマーと混合することにより、平均酸価を下げても、押し出し時に局部的な過反応によると思われるゲル状の異物が発生してしまう。従って、用いる変性エラストマーの酸価は、15.0mg−CHONa/g以下であることが好ましい。
【0049】
このようにポリアミド樹脂組成物にポリオレフィン系エラストマーを配合することにより、柔軟性、耐久性は改善されるものの、ガスバリア性の低下は避けられない。しかしながら、ポリアミド樹脂とエラストマーとの微細なアロイ構造をとることにより、特に、ポリアミド樹脂の海相内にエラストマーの島相が分散すると共に、このエラストマーの島相内にポリアミド樹脂が散点状に分散した構造であることにより、エラストマーを配合したことによるガスバリア性の低下を抑制することができ、好ましい。
【0050】
特に、ポリアミド樹脂(海相を構成するポリアミド樹脂とエラストマーの島相内に散点状に存在するポリアミド樹脂相との合計)に対するエラストマーの島相内に散点状に存在するポリアミド樹脂相の割合(以下、その割合を「散点状分散率」と称す。)が5〜40重量%程度であることが好ましい。この割合が5重量%未満では、エラストマーの島相内にポリアミド樹脂相を散点状に存在させることによる効果を十分に得ることができず、逆に40重量%を超えると、海相としてのポリアミド樹脂相が少なくなり過ぎてガスバリア性が低下するおそれがある。
【0051】
また、エラストマーの島相の大きさ及びこのエラストマー島相内のポリアミド樹脂相の大きさは、エラストマー島相の大きさがほぼ0.1〜3.0μm、ポリアミド樹脂相の大きさが0.5〜2.0μm程度であることが好ましい。
【0052】
<(c)金属化合物>
本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる金属化合物は、2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物、及び炭酸塩から選ばれるものである。
ここで、2価もしくは3価の金属としては、マグネシウム、鉄、亜鉛、カルシウム、ニッケル、コバルト、銅などの2価金属、アルミニウム、鉄、マンガン等の3価金属が挙げられる。
これらの金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩としては、具体的には、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられ、特に、優れた受酸効果を持つことが考えられることから、ハイドロタルサイトが好適である。
これらの金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。例えば、ハイドロタルサイトとハイドロタルサイト以外の金属化合物とを併用しても良い。その場合、ハイドロタルサイトとハイドロタルサイト以外の金属化合物との使用割合は、重量比でハイドロタルサイト:ハイドロタルサイト以外の金属化合物=80:20〜50:50であることが好ましく、ハイドロタルサイト以外の金属化合物としては、特に酸化マグネシウムが好ましい。
【0053】
ハイドロタルサイト(hydrotalcite)は天然に産出する粘度鉱物の一種であり、下記一般式(I)で表される複水酸化物である。
8−x(OH)16CO・nHO …(I)
【0054】
式(I)中、MはMg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+等、MはAl3+、Fe3+、Mn3+等であり、5≦x≦2程度、n≧0である。
【0055】
ハイドロタルサイトとしては、結晶水を含む形で、例えば、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O、Mg4.5Al2(OH)13CO3、Mg4Al2(OH)12CO3・3.5H2O、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O、Mg5Al2(OH)14CO3・4H2O、Mg3Al2(OH)10CO3・1.7H2O、Mg3ZnAl2(OH)12CO3・wH2O、Mg3ZnAl2(OH)12CO3等が挙げられる。含水ハイドロタルサイトの市販品としては、協和化学工業社製「DHT−4A」、「DHT−6」等が挙げられる。
【0056】
ポリアミド樹脂組成物中の金属化合物の含有量は、少な過ぎると、金属化合物を配合したことによる劣化防止効果を十分に得ることができず、多過ぎても配合量に見合う効果を得ることはできず、ガスバリア性、柔軟性、耐老化性等の特性を損なう結果となり好ましくない。従って、金属化合物のポリアミド樹脂組成物中の含有量は、ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分に対して好ましくは5〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%とする。このように、比較的多量の金属化合物を配合することが、金属化合物による劣化防止効果を十分に得て、耐久性を確保する上で好ましく、また、本発明によれば、このように多量の金属化合物を配合する場合であっても、優れた耐インパルス性能を得ることができる。ただし、この配合量が過度に多いと本発明の混練方法を採用しても、金属化合物の分散不均一により、樹脂組成物の押し出し時に膜肌の悪化がみられる場合があるため、金属化合物の配合量は上記上限以下とすることが好ましい。
【0057】
なお、ここで、ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分とは、(a)ポリアミド樹脂と(b)ポリオレフィン系エラストマー、必要に応じて配合される後述のその他の樹脂等の高分子成分の合計をさす。
【0058】
<その他の成分>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、樹脂成分としてポリアミド樹脂以外の樹脂成分を含んでいても良いが、その場合において、冷媒輸送用ホース中の全ポリマー成分のうちの70重量%以上がポリアミド樹脂であることが、ガスバリア性の確保のために好ましい。
【0059】
この場合の他の樹脂成分としては、エチレン・ビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
【0060】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、他の添加剤、すなわち滑剤、帯電防止剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、結晶核剤、充填剤、補強材、耐熱剤、耐光剤なども添加することができる。
【0061】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
前述の如く、本発明においては、ポリアミド樹脂組成物の製造に当たり、(b)ポリオレフィン系エラストマーと(c)金属化合物とをまず混練し、得られた混練物に、(a)ポリアミド樹脂を混練してポリマーアロイとする2段階混練を行う。
【0062】
ポリオレフィン系エラストマーと金属化合物との混練工程における加熱温度条件としては、エラストマーの熱劣化を防止するためにエラストマーの流動性が得られる程度で低めに設定することが好ましく、用いるポリオレフィン系エラストマーの種類によっても異なるが、例えば、後掲の実施例で用いたタフマーA−1050Sであれば、150〜230℃程度でよい。
本発明では、後述の如く、ポリオレフィン系エラストマーと金属化合物との混練に引き続いてポリアミド樹脂を混練することが好ましいことから、エラストマーの熱劣化の問題がなく、かつ流動性が得られる温度であって、用いるポリアミド樹脂の融点以上の温度、例えばポリアミド樹脂の融点よりも10〜60℃程度高い温度条件で加熱して混練することが好ましい(第1の混練工程)。
この混練は、ポリオレフィン系エラストマー中に金属化合物が十分に均一に分散される程度であれば良く、混練時間等には特に制限はない。
【0063】
次に、ポリオレフィン系エラストマーと金属化合物との混練で得られた混練物に、ポリアミド樹脂を添加して混練する(第2の混練工程)。この混練は、第1の混練工程と同様の条件で行うことができる。
【0064】
本発明において、第1の混練工程で、組成物の製造に用いるポリオレフィン系エラストマーの一部のみを混練し、残部を第2の混練工程で混練することもできるが、前述の如く、金属化合物の均一分散性の観点から、第1の混練工程において、用いるポリオレフィン系エラストマーの70重量%以上、好ましくは全量を金属化合物と混練することが好ましい。また、同様の理由から、第1の混練工程においてはポリアミド樹脂を添加せず、第2の混練工程において組成物の製造に用いるポリアミド樹脂の全量を添加して混練することが好ましい。
【0065】
ポリアミド樹脂組成物に必要に応じて配合される前述のその他の成分を配合する場合、これらの成分は、第1の混練工程で添加混練しても第2の混練工程で添加混練してもどちらでもよい。
【0066】
なお、ポリオレフィン系エラストマーと金属化合物とを予め混練してマスターバッチとし、このマスターバッチにポリアミド樹脂を混練することもできるが、ポリオレフィン系エラストマーと金属化合物との混練に引き続いてポリアミド樹脂を添加して混練するのが効率的である。
【0067】
[冷媒輸送用ホース]
次に、このような本発明の製造方法により製造される本発明のポリアミド樹脂組成物をガスバリア層の構成材料として用いる本発明の冷媒輸送用ホースについて、図面を参照して説明する。
【0068】
第1図は実施の形態に係る冷媒輸送用ホース1の層構成を説明する斜視図である。この冷媒輸送用ホース1の最内層は上述の本発明のポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層2で構成され、その外周に内層ゴム層3が形成され、以下、順次に、第1補強糸層4、中間ゴム層5、第2補強糸層6及び外被ゴム層7が形成されている。ホース1の内径は、通常6〜20mm特に8〜19mm程度である。
【0069】
以下、各層の材料等について説明する。
【0070】
<ガスバリア層>
ガスバリア層2は、本発明のポリアミド樹脂組成物よりなる。
【0071】
このようなポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層1の膜厚は、ガスバリア性の点より、厚い方が好ましいが、膜厚が厚くなるとホースとしての柔軟性が低下する。
従ってガスバリア層2の膜厚は、50〜400μm、特に100〜300μmであることが好ましい。
【0072】
本発明の冷媒輸送用ホースは、図1の冷媒輸送用ホース10において、ガスバリア層2の内層に更に内側ゴム層が最内層として形成されてもよい。
【0073】
本発明の冷媒輸送用ホースのその他の構成については、特に制限はなく、次のように通常の冷媒輸送用ホースの構成を採用することができる。
【0074】
<内層ゴム層3、外被ゴム層7及び中間ゴム層5>
内層ゴム層3及び外被ゴム層7を構成するゴムとしては、一般にブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(C1−IIR)、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、イソブチレン−ブロモパラメチルスチレン共重合体、EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、水素添加NBR、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム(AEM)、これらのゴムの2種以上のブレンド物、或いは、これらのゴムを主成分とするポリマーとのブレンド物、好ましくはブチル系ゴム、EPDM系ゴムが用いられる。これらのゴムには、通常用いられる充填剤、加工助剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等の配合処方を適用できる。
【0075】
なお、内層ゴム層3のゴム種と外被ゴム層7のゴム種は同種のものであっても、異種のものであっても良い。
【0076】
また、中間ゴム層5のゴムは、内層ゴム層2及び外被ゴム層7との接着性が良いものであれば良く、特に制限はない。
【0077】
内層ゴム層3の厚さは、柔軟性の面から0.5〜4mm程度とするのが好ましい。中間ゴム層5の厚さは0.1〜0.6mm程度、外被ゴム層7の厚さは0.5〜2mm程度とするのが好ましい。
【0078】
<補強糸層4,6>
第1補強糸層4は、補強糸をスパイラル状に巻き付けたものであり、第2補強糸層6は、この第1補強糸層4とは逆方向にスパイラル状に補強糸を巻き付けたものである。
【0079】
補強糸の材料についても、通常用いられるものであれば特に制限はない。一般的には、ポリエステル、全芳香族ポリエステル、ナイロン、ビニロン、レーヨン、アラミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらの混撚り糸が用いられる。
【0080】
<冷媒輸送用ホースの製造方法>
このような本発明の冷媒輸送用ホースは、常法に従って、マンドレル上にガスバリア層2と内層ゴム層3の材料を所定の厚さに押し出して積層し、補強糸層4を巻き付け、中間ゴム層5を押し出して積層し、補強糸層6を巻きつけ、次いで外被ゴム層7を押し出して積層し、その後140〜170℃で30〜120分間加硫することにより製造することができる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例、参考例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0082】
[実施例1〜10、参考例1,2、比較例1〜7]
表4,5に示す配合にて各材料を混練してポリアミド樹脂組成物を製造した。
混練に際しては、東洋精機社製二軸混練り機を用い、ポリアミド樹脂の融点(220℃)以上の温度である230℃にて混練りを行った。混練は2段階で行い、1段階目でエラストマーとハイドロタルサイトを混練し、2段階目でハイドロタルサイトを練り込んだエラストマーとポリアミド樹脂を混練した(2段階混練A:実施例1〜10、参考例1,2)。
【0083】
比較のため、ハイドロタルサイト無添加のもの(比較例1)、ポリアミド樹脂とエラストマーとを予め混練してポリマーアロイとした後にハイドロタルサイトを添加混練したもの(後添加:比較例2)、及びポリアミド樹脂とエラストマーの混練順序を入れかえ、ポリアミド樹脂とハイドロタルサイトとを予め混練した後エラストマーを混練したもの(2段階混練B:比較例3〜7)についても同様にポリアミド樹脂組成物を製造した。
【0084】
ポリアミド樹脂組成物の製造に用いた材料は次の通りである。
【0085】
ポリアミド樹脂:宇部興産社製 6ナイロン「1022B」
エラストマー:三井化学社製 α−オレフィンポリマー(エチレン・ブテン共重合体)「タフマーA−1050S」
マレイン酸変性エラストマー:三井化学社製マレイン酸変性α−オレフィンポリマー(エチレン・ブテン共重合体)「タフマーMH7010」
ハイドロタルサイト:協和化学社製「ハイドロタルサイトDHT−4A」
組成式:Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2
酸化マグネシウム:協和化学社製「キョーワマグ30」
組成式:MgO
酸化亜鉛:堺化学工業株式会社(酸化亜鉛1種)
【0086】
得られたポリアミド樹脂組成物よりなる試験片について、下記の方法で特性評価を行い、結果を表4,5に示した。
【0087】
<老化後強力保持率>
東洋精機社製引張り試験機を用い、以下の老化試験前後の各試験片について、引張り速度50mm/minで伸長して破断強力を測定し、老化試験前の値に対する老化試験後の値の百分率で表記した。
【0088】
<老化後破断伸び保持率>
東洋精機社製引張り試験機を用い、以下の老化試験前後の各試験片について、引張り速度50mm/minで伸長して破断伸びを測定し、老化試験前の値に対する老化試験後の値の百分率で表記した。
【0089】
(老化試験)
以下の1〜6の手順で行なった。
1 耐圧容器に水1ccとポリアルキレングリコール100ccを入れる。
2 巾10×長さ50mm×厚み0.1mmサイズの試験片を入れる。
3 耐圧容器を15分冷凍した後、5分間耐圧容器を真空引きする。
4 冷媒としてR−134aを100cc入れる。
5 高温槽に150℃で4週間放置する。
6 容器から試験片を取出し、評価測定に供する。
【0090】
<表面粗さ>
株式会社小坂研究所製「表面粗さ測定器サーフコーダSE−2300」を用いて、JIS B0601に準拠して中心線平均粗さを測定した。
【0091】
また、各ポリアミド樹脂組成物を用いて以下の方法で図1に示す冷媒輸送用ホースを製造した。
直径11mmのマンドレル上に、ポリアミド樹脂組成物を押し出して200μmの膜厚のガスバリア層2を形成した後、内層ゴムを厚み1.60mmに押し出して内層ゴム層3を形成した。この上に、1100dtex/4で拠り回数10回/10cmのポリエステル補強糸を22本引き揃えてスパイラル状に巻き付け、この第1補強糸層4上に中間ゴム層5を厚み0.30mmに押し出し、更に、その上に1100dtex/4で拠り回数10回/10cmのポリエステル補強糸を22本引き揃えて、上記と逆方向にスパイラル状に巻き付け第2補強糸層6を形成した。次いで、この上に外被ゴムを厚み1.2mmに押し出して外被ゴム層7を形成し、150℃で45分間加硫して、内径11mm、外径19mmの冷媒輸送用ホースを得た。
【0092】
なお、用いた内層ゴム層、中間ゴム層及び外被ゴム層のゴム割合は下記表1〜3に示す通りである。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
得られた冷媒輸送用ホースについて、下記の方法で耐インパルス性を調べ、結果を表4,5に示した。
【0097】
<耐インパルス性>
下記繰り返し加圧試験により調べた。
0〜140℃、0〜3.3MPa、20CPMの条件で、ホース内面にPAGオイルにて繰り返し加圧し、ホースの割れ、気密性の確保を確認した。表中の数値は気密性の確保が損なわれるまでの繰り返し数(万回)であり、この値が大きい程耐インパルス性に優れる。
【0098】
また、この冷媒輸送用ホース製造時のポリアミド樹脂組成物の押し出しにより形成されたガスバリア層の外観を目視観察し、下記基準で評価し、結果を表4,5に併記した。
(評価基準)
○:膜肌良好。
△:膜肌若干劣る。
×:膜肌不良
【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
表4,5より、予めポリオレフィン系エラストマーに金属化合物を混練した後ポリアミド樹脂を混練する2段階混練を行ったポリアミド樹脂組成物、特に金属化合物の配合量を所定範囲としたポリアミド樹脂組成物をガスバリア層に用いた本発明の冷媒輸送用ホースは、耐久性、耐インパルス性に優れることが分かる。
【0102】
なお、実施例5はハイドロタルサイトが配合されていない。この実施例5は、ハイドロタルサイトを配合した実施例2と比べて、耐老化性が若干劣るが、混練手段Bを採用した比較例4と比べると、耐インパルス性、表面粗さ、押出外観に優れている。実施例6,7は、金属化合物としてハイドロタルサイトと酸化マグネシウム又は酸化亜鉛とを配合したものである。酸化亜鉛を配合した実施例6よりも酸化マグネシウムを配合した実施例7の方が破断伸び、表面粗さに優れている。実施例9,10は、エラストマー含有量10〜45重量%の範囲でその量を下限値と上限値にしたものである。組成物配合は同じで、混練方法のみ異なる実施例8〜10と比較例5〜7と比べると、混練手段Aは混練手段Bよりも効果があることがわかる。実施例8は酸変性エラストマーが配合されていない。この実施例8に対して、エラストマーと酸変性エラストマーの双方を配合した方が良い結果となることが分かる。
【符号の説明】
【0103】
1 冷媒輸送用ホース
2 ガスバリア層
3 内層ゴム層
4,6 補強糸層
5 中間ゴム層
7 外被ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリアミド樹脂と、(b)ポリオレフィン系エラストマーと、(c)2価もしくは3価の金属の水酸化物、酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物と含むポリアミド樹脂組成物を製造する方法において、
(c)金属化合物と(b)ポリオレフィン系エラストマーとを混練する第1の混練工程と、
該第1の混練工程で得られた混練物と(a)ポリアミド樹脂とを混練する第2の混練工程と
を含むことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリアミド樹脂組成物中のポリマー成分に対する(c)金属化合物の割合が5〜20重量%であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記(c)金属化合物がハイドロタルサイト、又はハイドロタルサイトとハイドロタルサイト以外の金属化合物であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ポリアミド樹脂組成物のポリオレフィン系エラストマーの含有量がポリアミド樹脂組成物の総重量に対して10〜45重量%であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ポリオレフィン系エラストマーの少なくとも一部が酸変性されていることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造されたポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6において、冷媒輸送用ホースのガスバリア層形成用ポリアミド樹脂組成物であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
ポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層を有する冷媒輸送用ホースにおいて、該ポリアミド樹脂組成物が請求項6に記載のポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする冷媒輸送用ホース。
【請求項9】
請求項8において、前記ガスバリア層の外周側に、補強糸よりなる補強層と外被ゴム層とが設けられていることを特徴とする冷媒輸送用ホース。

【図1】
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【公開番号】特開2012−41556(P2012−41556A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251264(P2011−251264)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【分割の表示】特願2010−123093(P2010−123093)の分割
【原出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】