説明

ポリアミド樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 長時間あるいは繰り返しの熱履歴を経過しても、黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物及びその製造方法を提供。
【解決手段】 一般式AX Y 2 (Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4及び0<Y<2である。)で示される金属化合物、及び塩基成分からなる金属化合物水溶液を、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合するポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、該金属化合物水溶液の金属化合物濃度が0.01〜10重量%でありかつ塩基成分の含有量が金属化合物100重量部に対して10〜10000重量部であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な機械工業部品、電気電子部品などの産業用材料として好適な、熱安定性に優れたポリアミド樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、種々の熱履歴を受けた場合、熱劣化及び酸化劣化が起こり、黄色度が増加したり、分子量が変化したり、靭性や耐久性などの機械物性が低下する。種々の熱履歴とは、重合、溶融混練、成形加工(射出、押出、ブロー、紡糸、フィルムなど)あるいは高温環境での使用などである。該熱履歴での劣化の程度を減少させるために、一般式でAX Y 2 で表される金属化合物、例えばアルミン酸金属塩を配合したポリアミド樹脂が開示されている例もある(例えば特許文献1〜5参照。)。該技術に従い、本発明者らが検討した結果、アルミン酸金属塩などの一般式でAX Y 2 で表される金属化合物のうち可溶性の組成やその水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド重合工程で配合すると、金属化合物が析出したりあるいは凝集したりし、熱安定性の改良効果が低いばかりか、靭性などの機械物性が不十分なポリアミド樹脂しか得られないという問題点があることがわかった。
【0003】
【特許文献1】特開昭47−009156号公報
【特許文献2】特開昭49−116151号公報
【特許文献3】特開平01−104652号公報
【特許文献4】特開2004−043812号公報
【特許文献5】特開2004−091778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、様々な機械工業部品、電気電子部品などの産業用材料として好適な、熱安定性に優れたポリアミド樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。より詳細には、従来のポリアミド樹脂に比べ、熱履歴による黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記本発明課題を解決すべく鋭意検討した結果、塩基成分を加えた水溶液に一般式AX Y 2 で示される特定金属化合物を溶解させた金属化合物水溶液を、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合しポリアミド樹脂組成物を製造する方法により、上記問題を解決できることを見出した。特に、金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出した金属化合物の重量平均粒子径が10μm以下、かつ最大粒子径が100μm以下である場合に、その改良効果がより顕著であることを見出し本発明に到った。
【0006】
すなわち本発明は、
1.一般式AX Y 2 (Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4及び0<Y<2である。)で示される金属化合物、及び塩基成分からなる金属化合物水溶液を、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合するポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、該金属化合物水溶液の金属化合物濃度が0.01〜10重量%でありかつ塩基成分の含有量が金属化合物100重量部に対して10〜10000重量部であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法、
2.金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の重量平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする上記1記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
3.金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の最大粒子径が100μm以下であることを特徴とする上記1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
4.ポリアミド100重量部に対して、金属化合物の含有量が0.001〜100重量部であり、かつ分散している金属化合物の最大粒子径が100μm以下でありかつ重量平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする上記1から3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
5.金属化合物がAX AlY 2 で(Aは周期律表第1族金属元素である。また0.8≦<X/Y≦2.85)あることを特徴とする上記1から4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
6.上記1から5のいずれかに記載の製造法から得られるポリアミド樹脂組成物、である。
【発明の効果】
【0007】
長時間あるいは繰り返しの熱履歴を経過しても、黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物及びその製造方法を提供するものであり、多くの成形用途(自動車部品、工業用途部品、電気電子部品、ギアなど)や押出用途(チューブ、棒、フィラメント、フィルム、ブローなど)において好適に利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアミドは、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であれば特に限定されない。本発明の課題を達成するための好ましいポリアミドは、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であれば特に限定されないが、例えばポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカラクタム(ナイロン11)、ポリドデカラクタム(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(6T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、及びこれらのうち少なくとも2種類の異なるポリアミド成分を含むポリアミド共重合体あるいはこれらの混合物などである。アミド結合の有無は、赤外吸収スペクトル(IR)で確認することができる。
【0009】
本発明のポリアミドの分子量は、本発明の課題を達成するという観点から、JIS−K6810に従って測定した98%硫酸中濃度1%、25℃の相対粘度が、好ましくは1.5〜6.5、より好ましくは1.7〜5.5、更に好ましくは2.0〜4.5である。該範囲を外れると、成形品を作成する場合、成形できないなどの不具合を生じやすい。
本発明のポリアミドに分散する金属化合物は、下記一般式(1)で示される。
X Y 2 (1)
但し、Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4及び0<Y<2である。
これら化合物は、例えば、「第4版、化学実験講座16、無機化合物、社団法人日本化学会著(平成5年、丸善株式会社発行)」の323〜336頁に記載されている金属化合物である。中でも本発明の改良効果が高い傾向にあるという観点から、好ましい金属化合物は、上記一般式(1)中のAが周期律表第1族金属元素であり、Bがアルミニウム(Al)である下記一般式(2)で表されるアルミン酸金属塩である。
X AlY 2 (2)
但し、Aは周期律表第1族金属元素である。また、好ましくは0.8≦X/Y≦2.85、より好ましくは1≦X/Y≦2.5、最も好ましくは1.1≦X/Y≦2.0である。この範囲にすると、本発明の目的である熱履歴による黄色度の増加の抑制や、靭性などがより高く達成できる傾向にある。
【0010】
本発明のポリアミドに分散する金属化合物の含有量は、ポリアミド100重量部に対して、金属化合物が好ましくは0.001〜100重量部、より好ましくは0.0015〜50重量部であり、更に好ましくは0.0015〜25重量部であり、最も好ましくは0.0015〜10重量部である。上記範囲にすることにより、本発明の目的である熱履歴による黄色度の増加の抑制や、靭性などがより高く達成できる傾向にある。
本発明のポリアミドに分散する金属化合物の重量平均粒子径は好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下である。また、析出し分散している金属化合物の最大粒子径は好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下である。ポリアミド中に析出した金属化合物の重量平均粒子径や最大粒子径の測定は、少なくとも50個の粒子に関して走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し半径を求め、その半径から重量換算して求めることができる。ポリアミド中に析出した金属化合物の重量平均粒子径や最大粒子径を上記範囲にすることにより、本発明の目的である熱履歴による黄色度の増加や、靭性などがより高く達成できる傾向にある。
【0011】
本発明の製造方法は金属化合物と塩基成分と含有する金属化合物水溶液を作成し、該水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合する方法である。好ましくは、金属化合物と塩基成分とからなる金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の重量平均粒子径が10μm以下となる製造方法である。より好ましく、金属酸化物と塩基成分とからなる金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の最大粒子径が100μm以下となる製造方法である。ここで、ポリアミド溶融物への配合は、ポリアミド重合工程内のポリアミド溶融物であってもかまわないし、溶融混練法などで溶融させたポリアミドであってもかまわない。
【0012】
本発明者らの検討によれば、上記引用文献3、4及び5の従来技術すなわちアルミン酸金属ナトリウムなどの金属化合物をポリアミドに配合する技術の場合、たとえ金属化合物の組成が水に溶解する組成であったとしても、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれかの一つに配合した場合、金属化合物が微細かつ均一にポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物に分散せず、100μmを超える大きな粒子形態になることがわかった。しかしながら、その機能の詳細は不明であるが、塩基成分を含有する水溶液にアルミン酸ナトリウムなどの金属化合物を加え均一な水溶液とした後、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物に配合した場合、金属化合物は析出せず均一に分散する、あるいは析出したとしても特定の粒子径以下に微分散しており、従来技術に比べ、飛躍的に熱履歴による黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物が得られることがわかった。
本発明の製造方法のポリアミド原料は、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体を製造するために用いられている周知の原料であれば特に限定されないが、重合可能なアミノ酸、重合可能なラクタム、あるいは重合可能なジアミンとジカルボン酸との塩あるいは混合物、及び重合可能なオリゴマーを挙げることができる。これら原料は、原料そのもので用いてもかまわないし、水溶液として用いてもかまわない。
【0013】
本発明の課題を達成するための好ましいポリアミド原料は、例えばポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカラクタム(ナイロン11)、ポリドデカラクタム(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(6T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))及びこれらのうち少なくとも2種類の異なるポリアミドを含むポリアミド共重合体あるいはこれらの混合物を形成しうるポリアミド原料である。
【0014】
本発明の製造方法において、塩基成分とともに水溶液の形でポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合される金属化合物は、下記一般式(1)で示される。
X Y 2 (1)
但し、Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4及び0<Y<2である。
これら化合物は、例えば、「第4版、化学実験講座16、無機化合物、社団法人日本化学会著(平成5年、丸善株式会社発行)」の323〜336頁に記載されている金属化合物である。中でも本発明の改良効果が高い傾向にあるという観点から、好ましい金属化合物は、上記一般式(1)中のAが周期律表第1族金属元素であり、Bがアルミニウム(Al)である下記一般式(2)で表されるアルミン酸金属塩である。
AX AlY 2 (2)
但し、Aは周期律表第1族金属元素である。また、好ましくは0.8≦X/Y≦2.85、より好ましくは1≦X/Y≦2.5、最も好ましくは1.1≦X/Y≦2.0である。
該X/Yが上記範囲を外れた場合、金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれかの一つに配合した場合、金属化合物が溶解した形態で微細かつ均一にポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物に分散せず、本発明の目的を達成しにくくなるので注意を要する。
【0015】
本発明の金属化合物水溶液中の金属化合物の濃度は0.01〜10重量%であり、好ましくは0.05〜5重量%であり、より好ましくは0.1〜1重量%である。金属化合物の濃度が0.01重量%未満の場合には、本発明の黄色度の改良効果が低くなる傾向にあり、また10重量%を超えた場合には、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれか一つに配合した場合、金属化合物が大きな粒子径で析出しやすい傾向にあるため注意を要する。
本発明の塩基成分とは、金属化合物と水溶液にした場合、塩基成分及び金属化合物のいずれも可溶し水溶液になれば特に限定されない。塩基成分は無機塩基でも有機塩基でもかまわない。その中でも、ポリアミド原料として慣用的に用いられるジアミンなどの塩基成分、あるいはポリアミドの末端停止剤として慣用的に用いられる塩基成分が好ましく用いられる。
【0016】
前記ジアミンは、例えばテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナンメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミンメチル)シクロヘキサン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5,−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどを挙げることができる。
末端封止剤として使用できるモノアミンは、例えば例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミンなどの脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどの脂環式モノアミン、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミンなどの芳香族モノアミンなどを挙げることができる。本発明では、これら塩基成分は1種で用いても良いし、2種類以上組み合わせて用いても良い。
【0017】
本発明の金属化合物水溶液中の塩基成分の濃度は、金属化合物100重量部に対して、塩基成分は好ましくは10〜10000重量部、より好ましくは50〜5000重量部、最も好ましくは100〜1000重量部である。金属化合物100重量部に対して、塩基成分が10重量部未満の場合には、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれか一つに配合した場合、金属化合物が大きな粒子径で析出しやすい傾向にあるため注意を要する。また、10000重量部を超えた場合には、ポリアミド重合速度の低下やポリアミド溶融物の分子量の低下が懸念される。
本発明においては、金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれか一つに配合した場合、その際に析出する金属化合物の重量平均粒子径が好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下である。また、析出する金属化合物の最大粒子径は好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下である。析出した金属化合物の重量平均分子量及び最大粒子径は、純水あるいはアルコール中に分散させ、レーザ回折式粒度分布装置で測定することができる。金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれか一つに配合した場合、析出した金属化合物の重量平均粒子径や最大粒子径を上記範囲にすることにより、本発明の目的である熱履歴による黄色度の増加や、靭性などがより高く達成できる傾向にある。
【0018】
本発明においては、金属化合物水溶液を配合したポリアミド原料を重合する方法は、周知の方法を用いることができる。例えば、ε−カプロラクタムなどのラクタム類をポリアミド原料とする開環重縮合法、ヘキサメチレンアジパミドなどのジアミン・ジカルボン酸塩あるいはその混合物を原料とする熱溶融法などを用いることができる。また、ポリアミド原料の固体塩あるいはポリアミドの融点以下の温度で行う固相重合法、ジカルボン酸ハライド成分とジアミン成分を用いた溶液法なども用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもかまわない。中でも熱溶融法、熱溶融法と固相重合を組み合わせた方法が最も効率的である。
【0019】
また、重合形態としては、バッチ式でも連続式でもかまわない。また、重合装置も特に制限されるものではなく、公知の装置、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダーなどの押出機型反応器などを用いることができる。
これら重合方法、重合形態あるいは重合装置を用いて重合しているいずれかの工程のポリアミド溶融物に金属化合物水溶液を配合してもかまわない。
また、本発明においては、金属化合物水溶液を溶融混練法を用いて配合する場合は、溶融混練を行う装置は一般に実用されている混練機が適用できる。例えば一軸または多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサーなどを用いれば良い。中でも、減圧装置、及びサイドフィーダー設備を装備した2軸押出機が最も好ましい。溶融混練の方法は、全成分を同時に混練する方法、あらかじめ予備混練して金属化合物を配合した組成物を作成し更に他のポリアミドと混練する方法、更に押出機の途中から逐次、各成分をフィードし混練する方法などいずれを用いてもかまわない。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない程度で、ポリアミドに慣用的に用いられる添加剤例えば顔料及び染料、難燃剤、潤滑剤、蛍光漂白剤、可塑化剤、有機酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、核剤、ゴム、並びに強化剤を含有することもできる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高温での成形、繰り返しの溶融工程、長時間の熱滞留において、黄色度の増加の抑制、熱分解が抑制されかつ靭性などの機械物性に優れるため、周知の成形方法、例えばプレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多層成形、溶融紡糸などを用いて各種成形品を得ることができる。また、得られた成形品は、多くの成形用途(自動車部品、工業用途部品、電子部品、ギアなど)や押出用途(チューブ、棒、フィラメント、フィルム、ブローなど)において有用である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において記載した物性評価は、以下のように行った。
1.ポリアミド樹脂の特性
(1)相対粘度
JIS−K6810に準じて実施した。具体的には、98%硫酸を用いて、1%の濃度の溶解液((ポリアミド樹脂1g)/(98%硫酸100ml)の割合)を作成し、25℃の温度条件下で測定した。
(2)析出する金属化合物の重量平均粒子径、最大粒子径
ポリアミド原料水溶液に無攪拌の状態で金属化合物水溶液を一気に加える。得られた混合溶液を、レーザ回折式粒度分布測定装置、具体的には島津製作所(株)製SALD−7000を用いて、析出した金属化合物の重量平均粒子径、最大粒子径を測定した。
【0022】
(3)黄色度
測色器として日本電色社製色差計ND−300Aを用い、反射測定でb値を測定し、黄色度を評価した。b値が大きいほど黄色度が大きいことを示す。
(4)薄肉成形品での引張物性
射出成形機(日精樹脂(株)製PS−40E)を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度80℃に設定し、射出8秒、冷却13秒の射出成形条件で2mm厚みの評価用試験片を得たのち、ASTMD638に準じて引張伸度の測定を行った。
【0023】
〔実施例1〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )及びヘキサメチレンジアミンがいずれも4重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50重量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100重量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1重量部になるようにした。
〔実施例2〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.16Al0.952 )及びヘキサメチレンジアミンがいずれも4重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50重量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100重量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1重量部になるようにした。
【0024】
〔実施例3〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )及びヘキサメチレンジアミンがいずれも2重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。以後の操作は実施例1と同様に実施した。
〔実施例4〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )及びヘキサメチレンジアミンがいずれも1重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。以後の操作は実施例1と同様に実施した。
〔実施例5〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )及びヘキサメチレンジアミンがいずれも0.5重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。以後の操作は実施例1と同様に実施した。
【0025】
〔実施例6〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )0.5重量%及びヘキサメチレンジアミン1.5重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。以後の操作は実施例1と同様に実施した。
〔実施例7〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )0.5重量%及びヘキサメチレンジアミン5重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。以後の操作は実施例1と同様に実施した。
〔実施例8〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )0.5重量%及びヘキサメチレンジアミン2.5重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50重量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100重量部に対して、アルミン酸ナトリウムが5重量部になるようにした。
【0026】
〔実施例9〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )0.5重量%及びヘキサメチレンジアミン2.5重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50重量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100重量部に対して、アルミン酸ナトリウムが10重量部になるようにした。
以上の実施例1〜9で得られた混合水溶液について、析出する金属化合物の重量平均粒子径、最大粒子径を測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
〔比較例1〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )38重量%が含有される金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50重量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100重量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1重量部になるようにした。
〔比較例2〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )10重量%及びヘキサメチレンジアミン0.1重量%含有される金属化合物水溶液を作成した。以後の操作は実施例1と同様に実施した。
〔比較例3〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )及びヘキサメチレンジアミンがいずれも20重量%含有される金属化合物溶液を作成した。以後の操作は実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
以上の比較例1〜3で得られた混合水溶液について、析出する金属化合物の重量平均粒子径、最大粒子径を測定した。その結果を表2に示す。
【0028】
〔実施例10〕
ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)1600Kgを用いた。該原料を含有する50重量%水溶液とした。金属化合物水溶液は実施例6に準じて作成した。すなわちアルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )0.5重量%及びヘキサメチレンジアミン1.5重量%を含有する金属化合物水溶液27.6Kg、次亜リン酸ナトリウム・一水和物(NaH2PO2)の10重量%水溶液690g、シリコーン系消泡剤55gを配合し濃縮槽に仕込み、約50℃の温度条件で混合し窒素で置換した。尚、この際に析出するアルミン酸ナトリウムの重量平均粒子径、最大粒子径は、各々2.2μm、18μmであった。
【0029】
次に温度を約50から約150℃まで昇温した。この際濃縮槽内の圧力をゲージ圧にして約0.05〜0.15MPaに保つため水を系外に除去しながら加熱を続け約80%まで濃縮した。該濃縮溶液をオートクレーブに移送し温度を150℃から約220℃まで昇温して圧力をゲージ圧にして約1.77MPaまで上昇させた。その後、温度を約220℃から約260℃まで昇温するが、圧力は約1.77MPaで保つように水を系外に除去しながら加熱を行った。最後に温度を約280℃まで昇温しながら圧力を大気圧までゆっくり降圧した。窒素で加圧し下部ノズルからストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出した。得られたペレットを窒素気流中150℃の条件下で60分間乾燥しポリアミド樹脂組成物を得た。該ポリアミド樹脂組成物の相対粘度は2.80であった。また、そのカールフィッシャー法で測定した水分率は0.10重量%であり、含有するアルミン酸ナトリウムの重量平均粒子径、最大粒子径は各々2.0μm、12μmであり、その黄色度は−3.5、引張伸度は250%であった。
【0030】
〔比較例4〕
ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)1600Kgを用いた。該原料を含有する50重量%水溶液とした。金属化合物水溶液は比較例1に準じて作成した。すなわちアルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.862 )38重量%を含有する金属化合物水溶液363g、次亜リン酸ナトリウム・一水和物(NaH2PO2)の10重量%水溶液690g、シリコーン系消泡剤55gを配合し濃縮槽に仕込み、約50℃の温度条件で混合し窒素で置換した。
尚、この際に析出するアルミン酸ナトリウムの重量平均粒子径、最大粒子径は、各々13μm、150μmであった。
以後の操作は実施例8と同様にして実施した。得られたポリアミド樹脂組成物の相対粘度は2.80であった。また、そのカールフィッシャー法で測定した水分率は0.10重量%であり、含有するアルミン酸ナトリウムの重量平均粒子径、最大粒子径は各々12μm、125μmであり、その黄色度は−2.5、引張伸度は170%であった。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0033】
長時間あるいは繰り返しの熱履歴を経過しても、黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物及びその製造方法を提供するものであり、多くの成形用途(自動車部品、工業用途部品、電気電子部品、ギアなど)や押出用途(チューブ、棒、フィラメント、フィルム、ブローなど)において好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式AX Y 2 (Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4及び0<Y<2である。)で示される金属化合物、及び塩基成分からなる金属化合物水溶液を、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合するポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、該金属化合物水溶液の金属化合物濃度が0.01〜10重量%でありかつ塩基成分の含有量が金属化合物100重量部に対して10〜10000重量部であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の重量平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の最大粒子径が100μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
ポリアミド100重量部に対して、金属化合物の含有量が0.001〜100重量部であり、かつ分散している金属化合物の最大粒子径が100μm以下でありかつ重量平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
金属化合物がAX AlY 2 で(Aは周期律表第1族金属元素である。また0.8≦<X/Y≦2.85)あることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製造法から得られるポリアミド樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−225592(P2006−225592A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44171(P2005−44171)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】