説明

ポリアミド繊維

【課題】
本発明は、タイヤコ−ドやエアバック用繊維として好適な、球晶の生成を抑制して得られるポリアミド繊維であって、糸切れや毛羽の発生が極めて少ないため、製糸収率および毛羽品位に優れたポリアミド繊維を得ることを課題とする。
【解決手段】
主としてヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドを含む下記(1)、(2)および(3)式を満足するポリアミド組成物からなり、特定の繊維特性を有することを特徴とするポリアミド繊維。
Tc(270)−Tc(300)≧15℃ ・・・(1)
Tc(300)≦188℃、Tc(270)≧200℃ ・・・(2)
Tm≧260℃・・・(3)
ここで、Tc(T)は温度T℃で溶融して測定した冷却結晶化ピーク温度、Tmは融点を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド繊維に関する。詳しくは、タイヤコ−ドおよびエアバッグ用ポリアミド繊維として好適な、球晶が生成し難く、特異な結晶化挙動を示すポリアミド組成物をからなるポリアミド繊維に関する。タイヤコ−ド用として、より高強度、高タフネスおよび高耐疲労性を有し、特に、軽量化および離発着回数を増加できる航空機用タイヤとして、また、エアバッグ用としては、特に毛羽の生成が少なく、整経性および製織性に優れ、品位の優れたエアバッグ用基布に好適なポリアミド繊維の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維、特にポリヘキサメチレンアジパミド(以下ナイロン66と称す)繊維は、その高強度、高タフネス、高耐疲労性および高耐熱性等の特徴を活かし、タイヤコ−ドやエアバッグ用として有用されている。
【0003】
タイヤコ−ドとしては、トラック、バス、建設車両、航空機用等の重車両用タイヤとして有用されている。特に、航空機用タイヤでは、より軽量化および離発着回数を増加させるため、一層の高強度化、高タフネス化、および高耐疲労性化が求められている。
【0004】
エアバッグ用としては、近年、世界的な自動車生産量の拡大、エアバッグ装着率の向上、エアバッグ装着部位の拡大等により、エアバッグ用基布の需要が増加している。エアバッグ用ナイロン66繊維の増産要請と共に、エアバッグ用基布の生産効率を高めるため、高速製織性に優れたナイロン66繊維が求められている。即ち、毛羽の少ないナイロン66繊維の供給が最大の課題となっている。
【0005】
タイヤコ−ド用として求められる高強度、高タフネス、および高耐疲労性、そしてエアバッグ用として求められる毛羽の少ないナイロン66繊維の製造は、それらを阻害している共通の主原因を取り除くことによって達成可能である。即ち、阻害要因の一つは、紡糸冷却時に生成した球晶が延伸時の高配向化を妨げ、高強度、高タフネス繊維の製造を困難にしていること、二つ目は、ポリアミド繊維中に混入する異物によって糸切れや毛羽が発生するため、より高強度、高タフネス繊維が得にくく、かつ毛羽を減少できないためである。
【0006】
前者は、ポリアミドポリマの重合工程および溶融紡糸工程で、ポリアミドポリマが熱分解し、該熱分解によって生成した微小異物が球晶核となること、および耐熱剤等の添加剤が熱分解して微小な異物を生成し、それらが球晶核となることである。特に、重合中および溶融紡糸中に、ポリマの流れが悪く長時間滞留して熱分解、ゲル化して球晶核となる微小異物を生成することが多い。また、球晶生成は、上記球晶核の生成に加え、球晶の成長によって形成されるため、ポリアミドポリマの結晶化速度にも依存する。特に、ナイロン66は結晶化速度が速いために、球晶生成とそれによる製糸障害が顕著である。そこで、球晶生成抑制技術として、熱分解、ゲル化抑制剤の添加や、共重合成分を微量共重合して結晶化速度を低下させる方法等が行われている。また、特定の共重合成分を加えて、熱分解が生じてもゲル化し難い共重合ポリアミドとする方法も提案されている。
【0007】
また、球晶を抑制する別の方法として、紡糸冷却過程で急冷して、結晶化温度域を短時間で通過させるという製糸技術が一般に適用されている。
【0008】
一方、後者のポリアミド繊維中に混入する異物は、耐熱剤等の添加剤が、溶融ポリアミドポリマに十分溶解せず、異物として残ったり、該添加剤が熱分解してポリアミドポリマ不溶性物質、即ち異物を生成したり、熱分解したポリアミドポリマがゲル化して異物となる場合が多い。特に、重合釜や溶融紡糸装置内で、溶融ポリマの流れの悪い部分で長時間滞留し、熱分解ゲル化することが多い。そして、該ゲル化物が積層し、時折、糸中に異物となって混入し、製糸障害を引き起こすのである。
【0009】
そこで、球晶を抑制して製糸性を向上させ、高品質のポリアミド繊維を製造することを目的として、共重合ポリアミドを用い、ポリマの結晶化速度を低下させて球晶を抑制する方法、およびポリアミドポリマの熱分解、ゲル化を抑制して球晶を抑制する方法等に関し、例えば、特許文献1〜4がある。
【0010】
特許文献1は、ナイロン66の球晶(球状集合体)の抑制とゲル化時間の増加により、製糸性を向上させることを目的とし、該課題は、2−メチルペンタメチレンジアミンおよび他のアミド単位を含有する三元ポリアミドおよび多元ポリアミド、ならびにこれから製造した製品とすることによって解決できることが開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、球晶生成の減少、ゲル化時間の増加が可能となり、BCF用原糸の延伸性、光学的透明度、染色速度等、有用な効果が得られることが示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の技術による共重合ポリマは融点降下が比較的大きく、実施例において融点降下の最も小さいものでも2.1℃、多くは5〜10℃も融点降下している。かかる融点降下は、カ−ペット用BCFのように、通常常温で使用される製品では特に性能として不利にはならないこともあるが、本発明が目的とするタイヤコ−ドやエアバッグにおいては、融点降下に伴い、収縮率が高くなり熱寸法安定性が低下し、耐熱性が低下する。また、本発明が目的とする高強度が得られない等、製品性能が低下するため、採用することができないものであった。
【0012】
特許文献2は、BCFカ−ペット用ナイロン66繊維の球晶を抑制し、フィラメントの表面が平滑で、室温で染色可能なナイロン66繊維を提供することを課題とし、該課題は、ナイロン66を主成分とし、ナイロン6を少量共重合することによって達成されることが開示されている。具体的には、ヘキサメチレンアジパミドを94〜96%、カプロラクタムを1〜6%、水溶性無機カルシウム塩を0.001〜2%配合したN66共重合ポリアミドを適用することが開示されている。
【0013】
特許文献2に記載の技術は、カプロラクタムを共重合することによって、ナイロン66の結晶化速度を低下させることにより、カ−ペット用BCFのように、単糸繊度が太く冷却し難い繊維においては、その球晶抑制効果は顕著に認められる。しかしながら、カプロラクタムを共重合する方法は球晶抑制効果は大きいものの、同時に融点降下も大きい。特許文献2には記載されていないが、その融点降下は、本発明のタイヤコ−ドおよびエアバッグ用としては品質が劣り、適用することができないものであった。
【0014】
特許文献3は、ポリヘキサメチレンアジパミドを主たる構成成分とするポリアミドの熱安定性の改善、ゲル発生や球晶抑制、連続バッチ性の改善を図ることを課題とし、該課題は、主としてポリヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドに、特定の直鎖状脂肪族ジアミンとジカルボン酸からなるアミド単位を0.5〜20mol%共重合させ、かつカルボキシル基濃度とアミノ基濃度との比が特定範囲に入るように末端基濃度をコントロールすることによって達成されることが開示されている。
【0015】
また実施例には、ヘキサメチレンジアミン/アジピン酸塩に、特定の直鎖状脂肪族ジアミンとジカルボン酸からなるアミド単位として、1,4ジアミノブタン/アジピン酸を2.9mol%共重合したポリアミドの例が記載され、本発明に類似した技術が開示されている。
【0016】
しかしながら、1,4ジアミノブタン/アジピン酸を2.9mol%共重合したポリアミドの融点は、ヘキサメチレンアジパミドホモポリマの融点より4℃も低いため、熱寸法安定性や耐熱性が低下し、本発明の目的とするタイヤコ−ドやエアバッグ用に適用することは困難である。また、冷却結晶化温度は219℃と比較的高く、ホモポリマ(比較例1)の221℃に対して僅かに2℃差のため、球晶抑制効果が十分とは言えないものであった。
【0017】
特許文献4は、ポリヘキサメチレンアジパミドを主たる構成成分とするポリアミドの熱安定性の改善、ゲル発生や球晶抑制、連続バッチ性の改善を図ることを課題とし、該課題は、80〜99.5mol%のヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドに、0.5〜20mol%のジアミンと芳香族構造を含有するジカルボン酸とからなるアミド単位から構成される共重合ポリアミドであって、カルボキシル基濃度とアミノ基濃度との比が特定範囲に入るように末端基濃度をコントロールすることによって達成されることが開示されている。
【0018】
また実施例には、ヘキサメチレンジアミン/アジピン酸塩に、ジアミンと芳香族構造を含有するジカルボン酸からなるアミド単位として、ヘキサメチレンアジピン酸/テレフタル酸を2.9mol%共重合したポリアミドの例が開示されている。
【0019】
しかしながら、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸を、2.9mol%共重合したポリアミドの冷却結晶化温度は219℃と比較的高く、ホモポリマ(比較例1)の221℃に対して僅かに2℃差のため、球晶抑制効果が十分とは言えないものであった。
【特許文献1】:特表平6−502671号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】:米国特許第4,919,874号公報明細書
【特許文献3】:特開2000−38444号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献4】:特開2000−53762号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、タイヤコ−ドやエアバック用繊維として好適な、球晶の生成を抑制して得られるポリアミド繊維であって、糸切れや毛羽の発生が少なく、製糸収率および毛羽品位に優れたポリアミド繊維を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
1.主としてヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドを含む下記(1)、(2)および(3)式を満足するポリアミド組成物からなり、下記(A)〜(E)の繊維特性を有することを特徴とするポリアミド繊維。
Tc(270)−Tc(300)≧15℃ ・・・(1)
Tc(300)≦188℃、Tc(270)≧200℃ ・・・(2)
Tm≧260℃・・・(3)
ここで、Tc(T)は温度T℃で溶融して測定した冷却結晶化ピーク温度、Tmは融点を示す。
(A)繊度=150〜5000dtex
(B)強度=7〜11.5cN/dtex
(C)伸度=15〜35%
(D)沸騰水収縮率=2.5〜9.5%
(E)複屈折=35〜65×10−3
2.ポリアミド組成物が、ポリヘキサメチレンアジパミドおよび融点270〜300℃の化合物を含有することを特徴とする上記1記載のポリアミド繊維。
3.融点270〜300℃の化合物がポリアミドであることを特徴とする上記2記載のポリアミド繊維。
4.融点270〜300℃のポリアミドが、ポリテトラメチレンアジパミドおよび/またはその共重合体であることを特徴とする上記2または3記載のポリアミド繊維。
5.ポリアミド繊維をタイヤコ−ドおよび/またはエアバッグ用として用いることを特徴とする上記1〜4のいずれか記載のポリアミド繊維。
【発明の効果】
【0022】
本発明によって、球晶の生成が抑制されたポリアミド繊維が得られ、特にタイヤコ−ドの場合には一層の高強度、高タフネス、高耐疲労性化が可能である。また、エアバッグの場合には、糸切れや毛羽の発生が少なく、製糸収率に優れ、品位に優れたポリアミド繊維が得られる。その結果、整経性や製織性に優れ、品位の優れたエアバック用基布が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明について、以下に詳述する。
【0024】
本発明ポリアミド繊維は、主としてヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドを含む下記(1)〜(3)式を満足するポリアミド組成物を製糸することで得られる。
【0025】
本発明のポリアミド繊維に用いられるポリアミド組成物は、球晶抑制効果が著しいにもかかわらず、繊維構造形成過程で結晶化が進みやすく、さらに、従来技術による共重合ポリアミドのような融点降下が極めて少ない。その結果、一層の高強度、高タフネス化および製糸性向上、毛羽減少等の効果が得られ、一方では寸法安定性や耐疲労性が低下しないという利点を有する。かかる効果を有する本発明ポリアミド組成物は、下記(1)〜(3)式を満足することによって特徴づけられる。
Tc(270)−Tc(300)≧15℃ ………(1)
Tc(300)≦188℃、Tc(270)≧200℃ ………(2)
Tm≧260℃………(3)
【0026】
ここで、Tc(T)は温度T℃で溶融して測定した冷却結晶化ピーク温度、Tmは融点であることを示す。融点Tmは、示差走査型熱量計を用い、サンプル量4mg、昇温速度80℃/分で完全に溶融させた後、降温速度80℃/分で冷却し、さらに昇温速度80℃/分で昇温させた時の融解に基づく吸熱ピークのピークトップ温度を融点Tmとする(ただしn数を5とする平均値として求めるものとする)。結晶化温度(Tc)は、同様に示差走査型熱量計を用い、温度T℃まで昇温し、温度T℃で6分間保持し、その後、降温速度80℃/分で降温した際に観測される、結晶化に基づく発熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度Tc(T)とする(ただしn数を5とする平均値として求めるものとする)。上記条件で測定した場合のヘキサメチレンジアミンとアジピン酸のみから重合されたポリヘキサメチレンアジパミド単体(以下ポリヘキサメチレンアジパミド単体と称す)の平均値はTc(300)=193(各測定値のばらつき193.0±0.2)℃、Tm=263(各測定値のばらつき263.3±0.2)℃である。
【0027】
上記(1)式は、ナイロン66の一般的な溶融紡糸温度である300℃まで昇温・溶融した後、冷却結晶化したときの結晶化温度Tc(300)が、ナイロン66の融点以上であるが比較的低温である270℃で溶融した後、冷却結晶化したときの結晶化温度Tc(270)に比較して15℃以上低いことを示すものである。
【0028】
即ち、本発明のポリアミド組成物は、比較的高温で溶融した場合には、冷却結晶化速度が遅く、逆に比較的低温で溶融した場合は結晶化速度が速いことを示し、300℃で溶融した場合は、結晶核となる成分はほぼ完全に溶解し、一方、270℃で溶融した場合は、結晶核となる成分が残存していることを意味している。
【0029】
Tc(300)が低いことは、溶融紡糸過程での結晶化が進み難く、球晶抑制効果が大きいため、球晶に起因する製糸性の悪化や毛羽生成が抑制できる。一方、Tc(270)が高いことは、繊維構造形成過程で結晶化が進み易く、延伸によって配向した繊維構造が熱固定され易いため、高配向で寸法変化の少ない繊維を得ることができる。つまり、Tc(270)とTc(300)との結晶化温度差が大きいことは、溶融紡糸過程での球晶抑制効果と、延伸配向過程での繊維構造熱固定効果との両者を同時に満足することができ、高強度、高タフネス、寸法安定性に優れたポリアミド繊維を得やすいことを意味する。この結晶化温度差は、15℃以上であることが必要であり、16℃以上であることが好ましい。上限としては、50℃以下であることが、上記特性の十分な効果が得られるという点で好ましい。
【0030】
ポリヘキサメチレンアジパミド単体の場合は、Tc(300)とTc(270)の温度差は通常12℃程度である。また、球晶抑制技術として従来から知られている、例えばラクタムなどの共重合ポリアミドは、Tc(300)とTc(270)共に低下するが、Tc(300)よりもTc(270)の低下が大きいため、溶融温度依存性は小さい。さらに、結晶核剤として知られている、タルク、シリカなどの無機微粒子またはポリヘキサメチレンテレフタレート(以下ナイロン6Tと称す)等の300℃の融点を超えるポリアミドを添加した場合は、Tc(270)とTc(300)が共に上昇するが、Tc(270)よりもTc(300)の上昇が大きいため、ラクタム共重合の場合と同様に溶融温度依存性は小さい。
【0031】
上記(2)式は、300℃で溶融して測定した該ポリアミド組成物の冷却結晶化ピ−ク温度Tc(300)が188℃以下であること、かつ、270℃で溶融して測定した該ポリアミド組成物の冷却結晶化ピ−ク温度Tc(270)が200℃以上であることを示す。つまり、本発明のポリアミド組成物のTc(300)が、ポリヘキサメチレンアジパミド単体のTc(300)である193℃よりも5℃以上低く、かつ、該ポリアミド組成物のTc(270)が、該ポリアミド組成物のTc(300)の最大温度である188℃にポリヘキサメチレンアジパミド単体のTc(300)とTc(270)の結晶化温度差である12℃を加えた200℃以上であることを意味する。
【0032】
即ち、このことは、本発明のポリアミド組成物の球晶抑制効果が大きく、かつ、延伸配向過程での繊維構造熱固定効果との両者を同時に満足することができ、高強度、高タフネス、寸法安定性に優れたポリアミド繊維を製造し易いことを意味する。該ポリアミド組成物のTc(300)が188℃を越えると結晶化速度を十分遅くできたとは言えず、球晶抑制効果が明確に得られない。また、該ポリアミド組成物のTc(270)が200℃未満の場合は、従来の共重合ポリアミドポリマと同様に延伸配向過程での繊維構造熱固定が十分出来ず、結果として、本発明の特徴である高強度、高タフネス、寸法安定性に優れたポリアミド繊維を得ることができない。Tc(300)は186℃以下であり180℃以上であることが好ましく、Tc(270)は、201℃以上であり225℃以下であることが好ましい。Tc(300)が180℃未満になると、繊維構造形成時の結晶化が十分進まず、高強度、高タフネス化し難く、かつ寸法安定性や耐熱性が低下するため好ましくない。また、Tc(270)が225℃を越えるポリアミド組成物は見いだされていないが、Tc(270)は200〜225℃の範囲で十分な効果が得られる。
【0033】
更に上記(3)式は、本発明のポリアミド組成物の融点Tmが260℃以上であること、つまり、ポリヘキサメチレンアジパミド単体からの融点降下が3℃以内であることを示している。融点降下は2℃以内、つまり融点が261℃以上であることが好ましい。上限は、一般的な条件で溶融紡糸が可能であれば特に規定するものではない。融点降下が3℃を越える、つまり、融点Tmが260℃以下である場合は、熱寸法安定性が低下し、耐熱性が低下するため、本発明が目的とする高強度繊維が得られない。
【0034】
即ち、上記(1)および(2)式で示す結晶化特性を持ち、かつ、上記(3)式の融点を有するポリアミド組成物は、従来技術ではえられなかったのである。
【0035】
本発明においては、上記特異なポリアミド組成物を製糸することにより、下記(A)〜(E)の繊維特性を有するポリアミド繊維が得られる。
(A)繊度=150〜5000dtex
(B)強度=7〜11.5cN/dtex
(C)伸度=15〜35%
(D)沸騰水収縮率=2.5〜9.5%
(E)複屈折=35〜65×10−3
【0036】
本発明ポリアミド繊維は、繊度が150〜5000dtex、好ましくは150〜2500dtexである。150dtex未満の細繊度糸、あるいは5000dtexを越える太繊度糸にも本発明技術を適用できるが、本発明の目的とするエアバッグおよびタイヤコ−ドは通常この繊度範囲で用いられる。
【0037】
強度は7〜11.5cN/dtex、好ましくは、7.5〜10.5cN/dtexである。7未満ではエアバッグ用としても強度が不足して適用できない。11.5cN/dtexを越える高強度糸は、本発明技術を適用しても生産技術として達成することは困難である。
【0038】
伸度は15〜35%、好ましくは、20〜30%である。15%未満では、糸切れや毛羽の発生頻度が高くなり、安定な生産が困難である。一方、伸度35%を超えると、高強度繊維が得られない。
【0039】
沸騰水収縮率は2.5〜9.5%、好ましくは3.0〜9.0%、より好ましくは4.0〜7.0%である。2.5%未満を得ようとすると本発明の高強度を達成することが困難である。一方、9.5%を越えると熱寸法安定性が劣り、ポリヘキサメチレンアジパミドとしての特徴が失われるため、好ましくない。
【0040】
複屈折は35〜65×10−3、好ましくは35〜63×10−3、より好ましくは40〜63×10−3である。複屈折は分子鎖の配向度を示すパラメ−タであり、本発明の複屈折の範囲を満足しないと高強度繊維を得ることはできない。
【0041】
次に、本発明のポリアミド繊維に用いられるポリアミド組成物は、ポリヘキサメチレンアジパミドおよび融点270〜300℃の化合物を含有することを特徴とするポリアミド組成物であることが好ましい。270℃未満の化合物を用いたポリアミド組成物の場合には、前記300℃で溶融して測定した冷却結晶化ピ−ク温度Tc(300)は十分低下するが、270℃で溶解して測定した冷却結晶化ピ−ク温度Tc(270)も同時に低下する。かかるポリアミド組成物は、従来の共重合ポリマと同様に、繊維構造形成時の結晶化が十分進まず、高強度、高タフネス化し難く、かつ寸法安定性や耐熱性が低下するため好ましくない。一方、300℃を越える化合物を用いたポリアミド組成物は、安定したポリマが得にくく、従って、ポリアミド繊維を製造することが困難である。融点が270℃以上300℃未満である化合物を添加する場合に、270℃で溶融させた場合には添加物が結晶核剤として作用し、Tc(270)が高く維持でき、300℃で溶融させた場合には添加物が結晶化抑制剤として作用し、Tc(300)が低くなる。
【0042】
融点270〜300℃の化合物の添加量は、主としてヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドの原料であるナイロン66モノマ100重量部に対して0.5〜5重量部であることが好ましく、1〜4重量部であることがより好ましい。0.5重量部未満では、ポリアミド組成物の球晶抑制効果が十分でなく、従来以上の高強度、高タフネスや製糸性向上、毛羽減少等、本発明の効果は小さい傾向にある。一方、5重量部を越えると、繊維構造形成時の結晶化が進みにくくなり、高強度、高タフネス、寸法安定性、および耐熱性等が低下し、本発明の目的とするタイヤコ−ドやエアバッグが得られにくくなる。
【0043】
上記化合物は、融点270〜300℃の温度範囲を満足しておれば特に種類は限定されるものではないが、好ましくはポリヘキサメチレンアジパミドと構造が類似であり、ポリヘキサメチレンアジパミド中に微分散が可能なポリアミドである。特に好ましくはポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)および/またはその共重合体である。これらのポリマを、前記本発明ポリアミド組成物の特性を満足するよう、ヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドの原料であるナイロン66モノマ100重量部に対して0.5〜5重量部添加することが好ましい。また、前記融点270〜300℃のポリアミドは、単独で添加しても良いが他の2種以上のポリアミド成分を添加することもできる。
【0044】
上記本発明のポリアミド繊維は、タイヤコ−ドおよびまたはエアバッグ用として好適である。タイヤコ−ド用としては、通常、トラック、バス、建設車両、航空機用タイヤの補強用として用いることができる。特に、その高強度、高タフネス、高耐疲労性等を活かし、軽量で離発着回数を大幅に増やせるタイヤとして好まれて用いられている。また、エアバッグ用としては、市場で要求される最高強度の原糸及び基布を設計しても、本発明のポリアミド繊維は、強度および強伸度ポテンシャルが高いことから、製糸工程では毛羽や糸切れが少なく、整経工程および製織工程の通過性に優れ、品位の良いエアバッグ用基布を得ることができる。
【0045】
以下に本発明のポリアミド繊維の製造法について、略述する。
【0046】
本発明のポリアミド繊維に用いられるポリアミド組成物の製造において、本発明の効果を阻害しない範囲で、モノカルボン酸等の末端封鎖剤、酸化チタン等の艶消し剤、燐化合物等の重合触媒や耐熱剤、銅化合物およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物等の酸化防止剤や耐熱安定剤および主構成単位であるテトラメチレンジアミン単位とアジピン酸単位以外の1種または2種以上のラクタム単位、ジカルボン酸単位、ジアミン単位を有するポリアミドを任意の時点で添加することができる。また、液相重合は、連続重合法でもバッチ重合法によっても製造することができ、その後、固相重合を行い、重合度を上げることも可能である。本発明ポリアミド組成物から得られるポリアミド繊維の製造方法を以下の通り一例として示す。
【0047】
オートクレーブに、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モル量の50〜90重量%水溶液、および本発明の融点270〜300℃の化合物をヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドの原料であるナイロン66モノマ100重量部に対して0.5〜5重量部仕込む。窒素置換し、内圧が1.7〜1.8MPaに到達するまで密閉加熱を行いう。内圧1.7〜1.8MPaを維持しながらオートクレーブ内温が250〜260℃に達するまで行い、その後、加熱を継続しながら約1〜2時間をかけて内圧を徐々に大気圧まで放圧し、この間に内温を280〜290℃まで上昇させる。そして、オートクレーブ内を減圧し、重合を進めた後、加圧し、重合したポリマを直径2〜4mm程度のストランド状に押し出し、3〜5mm程度にカッティングしてポリマチップとする。ポリマチップの相対粘度は2.5〜3.3であることが好ましい。
【0048】
次に、該ポリマチップに酸化防止剤として酢酸銅水溶液をポリマ重量に対し、銅として50〜100ppm、添加吸着させ、沃化カリウム水溶液および臭化カリウム水溶液をポリマ重量100重量部に対して0.01〜0.5重量部添加吸着させる。酸化防止剤をポリマチップ表面に吸着させた後、ポリマチップ中に含浸させるため、3〜10時間放置する。
【0049】
次に、上記ポリマチップをバッチ式固相重合装置または塔式連続固相重合装置によって固相重合し、ポリマチップの相対粘度を3.7〜3.9まで上昇させる。固相重合は、150〜170℃で、10〜30時間かけて行う。固相重合したポリマチップは、水分率0.07〜0.10に調湿した後、製糸ホッパ−に供給する。
【0050】
紡糸機は通常エクストルーダー型が用いられる。ポリマチップは紡糸機中で溶融し、紡糸パック中で濾過した後、口金細孔から紡出する。溶融温度は290〜300℃である。紡出糸条は、口金直下に設けられた280〜320℃の加熱筒雰囲気中を通過させた後、冷風を吹き付け、冷却固化する。次いで油剤を付与した後、引取ロ−ルで引き取る。引取速度は、300〜1000m/分である。引き取った糸条は通常連続して延伸する。延伸は速度の異なるネルソン型ロ−ルに糸条を捲回して行う。好ましい延伸プロセスは、引取糸条を10%未満のストレッチをかけた後、1段目でネッキング延伸を行い、引き続き2段目又は3段目の延伸を行う。1段目の延伸は冷延伸とし、2段目以降の延伸は熱延伸で行うことが好ましい。延伸倍率は、4.0〜6.0倍とし、延伸速度は2500〜4500m/分で行う。熱延伸は、延伸ロ−ル温度を100〜250℃に加熱して行う。9cN/dtex以上のポリアミド繊維を製造する場合には3段以上の多段延伸が有利である。熱延伸した糸条は引き続き弛緩ロ−ルとの間で、2〜12%の弛緩を与え、延伸歪みを取った後、巻取機で巻き取る。
【0051】
かくして、前記特徴を有する本発明のポリアミド繊維が得られる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、明細書本文および実施例に記載
した特性値の定義および測定法は以下の通りである。
【0053】
(1)相対粘度:試料0.25gを98%硫酸25mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。相対粘度はポリマ溶液と硫酸の落下秒数の比から求めた。
【0054】
(2)水分率:平沼産業(株)社製のカールフィッシャー測定装置(気化装置:SE−24型、電解槽:AQ−6型)を用い測定した。試料は3gとし、水分気化に用いる窒素は、220℃、200ml/minとした。
【0055】
(3)融点(Tm):Perkin−Elmer社製Diamond DSCの示差走査型熱量計を用いて測定した。サンプル量4mg、昇温速度80℃/分で測定し、融解吸熱曲線のピ−ク温度を融点とした。
【0056】
(4)結晶化温度(Tc):Perkin−Elmer社製DSC−7型の示差走査型熱量計を用いて測定した。サンプル量4mg、昇温速度80℃/分で温度T℃まで昇温し、温度T℃で6分間保持した後、80℃/分の降温速度で冷却し、結晶化発熱曲線のピ−ク温度をTc(T)とした。
【0057】
(5)繊度:JIS L1017 8.3により初荷重0.045cN/dtex、所定糸長90mで測定した。
【0058】
(6)強力、強度、伸度、中間伸度:JIS L1017 8.5 a)標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分で行った。また試験回数は10回とし、その平均値を求めた。なお、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。中間伸度は4.0cN/dtex応力時の伸度である。
【0059】
(7)沸騰水収縮率:JIS L1017の8.14に従って初荷重0.045cN/dtexで測定した。
【0060】
(8)乾熱収縮率:JIS L1017の8.10(B法)に従って、初荷重0.045cN/dtex、所定温度150℃、所定時間30分で測定した。
【0061】
(9)GY耐疲労性:JIS L1017の付属書2.2.1のチュ−ブ疲労強さ(グッドイヤ法)に従って試験し、チューブが破裂するまでの時間を計測した。
【0062】
(10)加硫コード強力、加硫コード強度、加硫後強力保持率:ディップコードを未加硫ゴムシートに平行に並べ、別の未加硫ゴムシートと合せてモールドにセットし、175℃に設定したヒートプレス機で30分加硫処理した。ヒートプレス機からモールドを取り出した後直ちにモールドを冷却し、ゴム中のコードを急激に自由収縮させた。次いでゴムシートからコードを取り外し、20℃、65%RHの温湿度調整室に24時間以上放置した後の加硫コード強力を測定し、加硫コード強度も求めた。さらに加硫後強力保持率を加硫前のコード強力との比から以下の式で求めた。
加硫後強力保持率=(加硫コード強力/加硫前のコード強力)×100(%)
【0063】
(11)耐熱強力保持率:検尺機で巻き取った延伸糸フィラメントおよび空気中180℃の恒温槽で40hr熱劣化させた前記延伸糸フィラメントの強力をで測定し、熱劣化前の強力と熱劣化後の強力の比を求めた。
【0064】
(12)複屈折:白色光源を用い、ベレックコンペンセ−タ法で測定した。
【0065】
(13)球晶生成度:未延伸糸フィラメントを試料とし、パラフィンで包埋して切片を取り、この切片をスライドグラス上で、キシレンを滴下してパラフィンを溶解除去し、観察用試料とした。偏光顕微鏡で200倍で観察し、画像をプリントアントして、断面に占める球晶の面積(%)を求めた。
【0066】
(14)糸切れ頻度:生産量1t当たりの糸切れ回数を求め、糸切れ頻度を回/tで示した。
【0067】
(15)毛羽発生頻度:整経工程で毛羽センサ−で毛羽をカウントし、原糸1千万m当たりの毛羽個数を求めた。
【0068】
実施例1
6mのオートクレーブに、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との塩であるヘキサメチレンジアンモニウムアジペート(AH塩)の90重量%水溶液3000kgおよびあらかじめミキサーで粉砕し、36メッシュを通過し、100メッシュにとどまる粉末を分取したナイロン46(アルドリッチケミカル社製、融点:293℃)を表1に記載の量仕込んで、液相重合を行った。また、重合前にオートクレーブ内の酸素を追い出すために空間部を窒素置換した。
【0069】
液相重合条件は、密閉系でオートクレーブを300℃で加熱し、内圧が1.7MPaまで上昇した時点(内温210℃)で、圧力を維持するようにオートクレーブ上部のバルブを開け圧力を制御した。内温が250℃に到達した時点から内圧を1時間で0.1MPaまで徐々に放圧した。さらに真空ポンプを用いて系内の圧力を0.05MPaまで減じ30分間維持し重合を終えた。このときの内温は285℃であった。重合時間は4時間であった。次に、重合により得られたポリアミドを直径約3mmのストランド状に冷水中に押し出し、長さ約4mmにカッティングしてポリマチップを得た。得られたポリマチップの相対粘度は3.12であった。
【0070】
次に、該ポリマチップに酸化防止剤として酢酸銅を5重量%水溶液として、ポリマ重量に対し、銅として80ppm添加吸着させ、沃化カリウムを50重量%の水溶液および臭化カリウムを20重量%の水溶液としてポリマチップ100重量部に対して0.1重量部となるよう添加吸着させた。
【0071】
次に、バッチ式固相重合装置を用いて固相重合し、ポリマチップの相対粘度を3.90まで上昇させた。固相重合は160℃で、13Pa以下の減圧下で約20時間かけてポリアミド組成物を得た。
【0072】
次にポリアミド組成物を、水分率0.10に調湿した後、製糸ホッパ−に供給して、110mmφエクストルーダー型紡糸機で溶融紡糸した。紡糸温度300℃。紡糸パック中で20μの金属フィルタ−を用いて濾過した後、直径0.3mmで孔数204の口金を用いて紡糸した。口金直下には20cmの加熱筒を取り付け、口金面から25cmの間を300℃の高温雰囲気とし、紡出糸条は高温雰囲気を通過後18℃の冷風で冷却固化した。次いで、糸条に平滑剤を主成分とし、活性剤および添加剤(制電剤、極圧剤および防腐剤等)を含んだ油剤を付与した後、600m/分で回転する引き取りロ−ル(1FR)に捲回して引き取った。引き取り糸条は、給糸ロ−ル(2FR)との間で5%のストレッチをかけた後、引き続き2FRと第1延伸ロ−ル(1DR)との間で2.9倍の1段目延伸、1DRと第2延伸ロ−ル(2DR)の間で1.2倍の2段目延伸、2DRと第3延伸ロール(3DR)の間で1.4倍の3段目延伸を行い、次いで、延伸糸条は弛緩ロ−ル(RR)との間で8%の弛緩をした後、巻取機で巻き取った。1FRおよび2FRは40℃、1DRは135℃、2DRは209℃、3DRは235℃、RRは140℃とした。各ロ−ルは全て2個1対からなるネルソン型ロ−ルである。かくして、1400dtex−204filamentのポリアミド繊維を得た。なお、球晶度の評価に用いた未延伸糸は、引き取りロ−ルに少量捲きつかせてサンプリングした。
【0073】
次に得られた延伸糸をそれぞれ10cm当り39回の下撚をかけた後、該下撚コード2本を合わせて下撚と反対方向に同数の上撚をかけて生コードを得た。生コードはリッラー社 (米) 製“コンピュートリーダ”ディッピング機を用いて、接着剤を付与し、引き続いて熱処理した。接着剤はRFL液を用い、付着量は生コード100重量部に対して5重量部となるよう液濃度および液切り条件を調整した。
【0074】
熱処理条件は、乾燥ゾーンを160℃で120秒間定長で通過させた後、235℃の熱処理ゾーンを40秒間、熱処理ゾーン出口の応力 (張力をディンプコードの繊度で除した値) が1g/dとなるようストレッチをかけて通過させた。次いで、ノルマライジングゾーンでは230℃で40秒間、1%の弛緩を与えて熱処理した。
【0075】
上記液相重合条件、固相重合条件、製糸条件および高次加工条件によって得られたポリアミド組成物、繊維およびディップコードの特性を表1に示した。
【0076】
実施例2
ナイロン46の添加量を表1に記載のとおりとした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.11および3.88であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表1に示した。
【0077】
実施例3
ナイロン46の添加量を表1に記載のとおりとした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.10および3.89であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表1に示した。
【0078】
実施例4
ナイロン46の代わりに表1に記載のナイロン46/ナイロン66の共重合体(モル比:ナイロン46/66=95/5、融点Tm=288℃、テトラメチレンアジパミド(ナイロン46成分)とヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66成分)の共重合体(以下“/”は共重合を意味する))を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.09および3.88であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表1に示した。
【0079】
実施例5
ナイロン46の代わりに表1に記載のナイロン46/ナイロン66の共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.11および3.91であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表1に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
比較例1
ナイロン46を添加しない以外は、実施例1と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.10および3.88であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表2に示した。
【0082】
比較例2
ナイロン46の添加量を表2に記載のとおりとした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.11および3.89であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表2に示した。
【0083】
比較例3
ナイロン46/ナイロン66の共重合体を8重量部用いた以外は、実施例4と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.11および3.91であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表2に示した。
【0084】
比較例4
ナイロン46の代わりに表1に記載のナイロン6(東レ社製“CM1010”融点Tm=220℃)を用いた以外は、実施例3と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.08および3.88であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表2に示した。
【0085】
比較例5
ナイロン46の代わりに表1に記載のナイロン6T(アーレン社製“AE4200”融点Tm=320℃)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリアミド組成物を得た。なお、液相重合後および固相重合後のポリマチップの相対粘度は、それぞれ3.09および3.90であった。さらに実施例1と同様にして得られたポリアミド組成物の溶融紡糸等を行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維およびディップコードの特性を表2に示した。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例1〜5および比較例1〜5は、タイヤコ−ド用高強度糸の評価となる。表1、2より実施例はいずれも本発明のポリマ特性および繊維特性を満足しており、かつ、タイヤコードとして重要な強度、寸法安定性、耐熱性および耐疲労性を十分満足していることが分かる。一方、比較例は、いずれも本発明ポリアミド組成物のポリマ特性のいずれかを満たしていないため、維繊特性およびタイヤコード特性が劣ることが分かる。
【0088】
実施例6
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を90mmφエクストルーダー型紡糸機で溶融紡糸を行った。紡糸温度は300℃で行った。紡糸パック中で20μの金属フィルタ−を用いて濾過した後、直径0.3mmで孔数36の口金を用いて紡糸した。口金直下には20cmの加熱筒を取り付け、口金面から25cmの間を300℃の高温雰囲気とし、紡出糸条は高温雰囲気を通過後18℃の冷風で冷却固化した。次いで、糸条に平滑剤を主成分とし、活性剤および添加剤(制電剤、極圧剤および防腐剤等)を含んだ油剤を付与した後、600m/分で回転する引き取りロ−ル(1FR)に捲回して引き取った。引き取り糸条は、給糸ロ−ル(2FR)との間で6%のストレッチをかけた後、引き続き2FRと第1延伸ロ−ル(1DR)との間で2.9倍の1段目延伸、1DRと第2延伸ロ−ル(2DR)の間で1.2倍の2段目延伸、2DRと第3延伸ロール(3DR)の間で1.1倍の3段目延伸を行い、次いで、延伸糸条は弛緩ロ−ル(RR)との間で7%の弛緩をした後、巻取機で巻き取った。1FRおよび2FRは40℃、1DRは135℃、2DRは200℃、3DRは224℃、RRは140℃とした。各ロ−ルは全て2個1対からなるネルソン型ロ−ルである。かくして、235dtex−36filamentのポリアミド繊維を得た。得られた延伸糸は、200m/分の速度で整経を行い、整経中の走糸にENKA社製の赤外線毛羽センサーを設置して、毛羽の個数をカウントした。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表3に示した。
【0089】
実施例7
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、実施例2と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表3に示した。
【0090】
実施例8
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、実施例3と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表3に示した。
【0091】
実施例9
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、実施例4と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表3に示した。
【0092】
実施例10
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、実施例5と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表3に示した。
【0093】
【表3】

【0094】
比較例6
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、比較例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表4に示した。
【0095】
比較例7
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、比較例2と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表4に示した。
【0096】
比較例8
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、比較例3と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表4に示した。
【0097】
比較例9
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、比較例4と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表4に示した。
【0098】
比較例10
実施例1と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物の代わりに、比較例5と同様にして得られた固相重合後のポリアミド組成物を用いた以外は、実施例6と同様にして行った。得られたポリアミド組成物、ポリアミド繊維の特性を表4に示した。
【0099】
【表4】

【0100】
実施例6〜10および比較例6〜10はエアバッグ用高強度糸の評価となる。表3、4より実施例は、いずれも本発明のポリマ特性および繊維特性を満足しており、かつ、エアバッグとして重要な強度、耐熱性および整経性を十分満足していることが分かる。一方、比較例は、いずれも本発明ポリアミド組成物のポリマ特性のいずれかを満たしていないため、維繊特性および整経性が劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、球晶の生成が少なく、特異な結晶化挙動を示すポリアミド組成物を用いて製造されるポリアミド繊維であり、特にタイヤコ−ドおよびエアバック用繊維として好適である。タイヤコ−ド用として用いると、高強度、高タフネスおよび高耐疲労性を活かして、軽量で、離発着回数を著しく増やせる航空機用タイヤを得ることができる。また、エアバッグ用として用いると、市場で要求される最高強度の原糸及び基布を設計しても、製糸工程での毛羽や糸切れが少なく、整経および製織工程通過性に優れ、品位の良いエアバッグ用基布を得ることができる。
【0102】
本発明の高強度、高タフネス、高耐疲労性を有するポリアミド繊維は、前記用途だけでなく、重布、テント、幌、紐、コンベアベルト、細幅ベルト、ロ−プ等にも有用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてヘキサメチレンアジパミド単位からなるポリアミドを含む下記(1)、(2)および(3)式を満足するポリアミド組成物からなり、下記(A)〜(E)の繊維特性を有することを特徴とするポリアミド繊維。
Tc(270)−Tc(300)≧15℃ ・・・(1)
Tc(300)≦188℃、Tc(270)≧200℃ ・・・(2)
Tm≧260℃・・・(3)
ここで、Tc(T)は温度T℃で溶融して測定した冷却結晶化ピーク温度、Tmは融点を示す。
(A)繊度=150〜5000dtex
(B)強度=7〜11.5cN/dtex
(C)伸度=15〜35%
(D)沸騰水収縮率=2.5〜9.5%
(E)複屈折=35〜65×10−3
【請求項2】
ポリアミド組成物が、ポリヘキサメチレンアジパミドおよび融点270〜300℃の化合物を含有することを特徴とする請求項1記載のポリアミド繊維。
【請求項3】
融点270〜300℃の化合物がポリアミドであることを特徴とする請求項2記載のポリアミド繊維。
【請求項4】
融点270〜300℃のポリアミドが、ポリテトラメチレンアジパミドおよび/またはその共重合体であることを特徴とする請求項2または3記載のポリアミド繊維。
【請求項5】
ポリアミド繊維をタイヤコ−ドおよび/またはエアバッグ用として用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のポリアミド繊維。

【公開番号】特開2007−254945(P2007−254945A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46827(P2007−46827)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】