説明

ポリアミド酸溶液の製造方法及び半導電性ポリイミドベルトの製造方法

【課題】本発明は、カーボンブラックの凝集が抑制され、カーボンブラックの分散性に優れ、保存安定性が良好なポリアミド酸溶液の製造方法、及び前記製造方法により得られるポリアミド酸溶液を用いた電気特性に優れた半導電性ポリイミドベルトの製造方法、画像転写性に優れた画像形成装置等を提供する。
【解決手段】カーボンブラックを溶媒に分散させた分散液に、テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体とジアミン成分を溶解して重合させる工程を含むカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の製造方法において、前記カーボンブラックの含有率が異なる複数のポリアミド酸溶液を調製し、それらポリアミド酸溶液を混合することを特徴とするカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の製造方法及び半導電性ポリイミドベルトの製造方法等、に関する。かかるポリアミド酸溶液を用いた半導電性ポリイミドベルトは、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタやファクシミリ等の電子写真画像形成装置の中間転写ベルト等に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式により像を形成記録する電子写真記録装置として、複写機、レーザープリンタ、ビデオプリンタ、ファクシミリ及びそれらの複合機が知られている。これらは、装置寿命の向上などを目的に、感光ドラム等の像担持体にトナー等の記録剤を介し形成された像を印刷シート上に直接定着させる方式を回避して、像担持体上の像を中間転写ベルトに一旦転写(一次転写)し、それを印刷シート上に転写(二次転写)してから定着させる中間転写方式が検討されている。また、装置の小型化等を目的に、転写搬送ベルトを使用して転写ベルトに印刷シートの搬送も兼ねさせる方式も検討されている。
【0003】
このような中間転写ベルト等に用いる半導電性ベルトの一例として、ポリイミド樹脂に導電性フィラーであるファーネスブラックやアセチレンブラック等のカーボンブラックを分散してなる中間転写ベルトが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、カーボンブラックを分散してなるポリアミド酸溶液の電気抵抗の調整方法や、カーボンブラックの凝集を抑制する方法として、異なる2種以上のカーボンブラックを用いてポリアミド酸溶液を調製する方法が開示されている(特許文献2〜4)。
【0005】
しかしながら、汎用のカーボンブラックをポリイミド樹脂に分散させた場合、温度や湿度等の環境の変化に対して電気抵抗値の変動は小さいが、カーボンブラックを均一に分散させることは、非常に困難である。
【0006】
また、一般にカーボンブラックは二次凝集を生じやすく、半導電性ベルトの成形過程で、ポリアミド酸溶液を調製した後にこれを常温、常圧下で保存すると、時間の経過とともにカーボンブラックの平均粒子径が変化する。この凝集により導通経路が生じ、ベルト内での電気抵抗値のバラツキにつながる場合がある。そのようなベルトを電子写真記録装置の中間転写ベルトとして用いた場合、印刷シートに転写したトナー像に転写ムラが生じるなどの問題がある。
【0007】
上記のように電気抵抗値のバラツキが中間転写に影響する理由としては、半導電性ベルトの帯電抑制能の不均一化や、導電抑制能の不均一化により、局所的な剥離放電や導電が生じやすくなるためと考えられる。
【0008】
従って、目的とする電気抵抗を付与した半導電性ベルトを得るためには、ベルトの成形毎にポリアミド酸溶液を調製し、直ちにベルトに成形しなければならず、量産体制での生産には不向きである。
【0009】
また、電子写真記録装置の中間転写ベルトや転写ベルトの限らず、半導電性ポリイミドベルトに要求される帯電抑制能や導電抑制能は、用途により程度に差はあるが、均一なほど好ましい。
【0010】
【特許文献1】特開昭63−311263号公報
【特許文献2】特開2002−148957号公報
【特許文献3】特開2003−277502号公報
【特許文献4】特開2005−081667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、上記実情に鑑み、本発明は、カーボンブラックの凝集が抑制され、カーボンブラックの分散性に優れ、保存安定性が良好なポリアミド酸溶液の製造方法、及び前記製造方法により得られるポリアミド酸溶液を用いた電気特性に優れた半導電性ポリイミドベルトの製造方法、画像転写性に優れた画像形成装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、以下に示すポリアミド酸溶液の製造方法及び半導電性ポリイミドベルトの製造方法等により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、カーボンブラックを溶媒に分散させた分散液に、テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体とジアミン成分を溶解して重合させる工程を含むカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の製造方法において、前記カーボンブラックの含有率が異なる複数のポリアミド酸溶液を調製し、それらポリアミド酸溶液を混合することを特徴とする。
【0014】
カーボンブラックの含有率の異なるカーボンブラック分散液から、複数のカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を個々に調製した後、これらを混合することにより、カーボンブラックの凝集が抑制され、分散性に優れ、保存安定性に優れたポリアミド酸溶液を製造することができる。
【0015】
本発明は、前記カーボンブラックが同一種であり、前記複数のポリアミド酸溶液として、得られるポリイミド固形分100重量部としたときに、カーボンブラックの含有量が、15重量部以上23重量部未満に調製された第1溶液と、23重量部以上30重量部未満に調製された第2溶液とを調製することを特徴とする。複数の分散液を調製するにあたり、同一種のカーボンブラックを使用することができるため作業性に優れ、前記所定範囲の分散液を調製することにより、単独の分散液の場合に比べて、カーボンブラックの二次凝集が抑制され、カーボンブラックの分散性に優れ、保存安定性の良好なポリアミド酸溶液を製造することができる。なお、ポリイミド固形分とは、テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体(テトラカルボン酸成分)とジアミン成分との合計重量から、重合反応において発生する水の重量を差し引いた値をいう。
【0016】
本発明の半導電性ポリイミドベルトの製造方法は、複数のポリアミド酸溶液に触媒を混合し、反応させる工程を含むことを特徴とする。複数のポリアミド酸溶液を調製した後に、触媒を添加・混合し、反応させることにより、カーボンブラック分散液を調製する際に触媒を添加した場合より、カーボンブラックの二次凝集が抑えられ、電気抵抗のバラツキの小さい半導電性ポリイミドベルトを得ることができる。
【0017】
本発明は、半導電性ポリイミドベルトに関する。本発明の半導電性ポリイミドベルトは、カーボンブラックの二次凝集が抑えられ、電気抵抗のバラツキが小さく、優れた電気特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態にについて詳細に説明する。
【0019】
一般にカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の製造方法は、まず、カーボンブラックを分散させた分散液を調製する。次いで、調製した分散液にテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体(テトラカルボン酸成分)とジアミン成分を溶解、重合させてカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を調製することが必要である。特に、本発明では、カーボンブラックの含有率の異なる分散液を調製し、これら分散液とテトラカルボン酸成分、ジアミン成分を溶解、重合させ、複数の異なるカーボンブラック含有率のポリアミド酸溶液を調製し、これらを混合したものをカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液とする。
【0020】
また、本発明の半導電性ポリイミドベルトの製造方法としては、複数のカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を調製し、これらを混合した後に、触媒を添加し、反応させることにより、半導電性ポリイミドベルトを調製する。
【0021】
<カーボンブラック分散液の調製>
以下にカーボンブラックを分散させた分散液の調製について、説明する。
【0022】
本発明に用いるカーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0023】
これらのカーボンブラックの種類は、目的とする導電性により適宜選択することができ、中間転写ベルトや転写搬送ベルト等の中抵抗から高抵抗域(表面抵抗率10〜1014[Ω/□]、体積抵抗率10〜1014 [Ω・cm])に制電する必要がある場合、特にチャンネルブラックやファーネスブラックが好適に用いられ、その用途によっては酸化処理、グラフト処理等の酸化劣化を防止したものや溶媒への分散性を向上させたものを用いると好ましい。
【0024】
前記ファーネスブラックとしては、デグサ社製のSpecial Black 550、Special Black 350、Special Black 250、Special Black 100、Printex 35、Printex 25、三菱化学社製のMA 7、MA 77、MA 8、MA 11、MA 100、MA100R、MA220、MA230、キャボット社製、MONARCH1300、MONARCH 1100、MONARCH 1000、MONARCH 900、MONARCH 880、MONARCH 800、MONARCH 700、MOGUL L、REGAL 400R、ULCAN XC−72R等が挙げられる。また、チャンネルブラックとして、デグサ社製のColor Black FW200、Color B1ack FW2、Color Black FW2V、Color Black FW1、Color Black FW18、Special Black 6、Color Black S170、Color Black S160、Special Black5、Special Black 4、Special Black 4A、Printex 150T、Printex U、Printex V、Printex 140U、Printex 140V等が挙げられる。
【0025】
また、カーボンブラックはその用途によって、酸化処理、グラフト処理等の酸化劣化を防止したものや、溶剤への分散性を向上させたものを用いることが好ましく、特に、酸化処理されたカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0026】
前記酸化処理カーボンブラックは、カーボンブラックを酸化処理することで、表面に酸素含有官能基(例えば、カルボキシル基、キノン基、ラクトン基、水酸基等)を付与して得ることができるものである。
【0027】
前記酸化処理は、高温雰囲気下で、空気と接触・反応させる空気酸化法、常温で窒素酸化物やオゾン等と反応させる方法、及び高温での空気酸化後、低温でオゾン酸化する方法等により行うことができる。上記方法により得られる酸化処理カーボンブラックは、一部に過剰な電流が流れ、繰り返しの電圧印加による酸化の影響を受けにくい。また、その表面に付着する酸素含有官能基の効果で、ポリイミド中への分散性が高く、抵抗のバラツキを小さくすることができ、電界依存性も小さくなり、転写電圧による電界集中が起き難くなる。その結果、転写電圧による電気抵抗の低下を防止し、電気抵抗の均一性を改善し、電界依存性や環境による抵抗の変化が少なく、用紙走行部が白く抜ける等の画質欠陥の発生を抑制することができるため、高画質を得ることができる。
【0028】
本発明において使用するカーボンブラックの含有量は、その目的に応じ、添加するカーボンブラックの種類により適宜決定されるが、画像形成装置などに用いられる中間転写ベルトや転写搬送ベルト等としては、その機械的強度等から、ポリイミド固形分に対し3〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは3〜30重量%である。カーボンブラックの含有量が3重量%未満であると、抵抗値のコントロールが困難となり、また、ベルト内のバラツキが大きくなりやすい。一方、40重量%を越えると、ベルトの機械的強度が低下しやすくなる。
【0029】
また、複数のポリアミド酸溶液として、得られるポリイミド固形分100重量部としたときに、カーボンブラックの含有量が、15重量部以上23重量部未満に調製された第1溶液と、23重量部以上30重量部未満に調製された第2溶液とを調製することが好ましく、第1溶液が18重量部以上23重量部未満と、第2溶液が23重量部以上28重量部未満になるように調製されることがより好ましい。前記所定範囲の含有量を超えると、分散が困難となり、カーボンブラックの凝集・沈殿が発生しやすく保存安定性が著しく低下する。一方、前記所定範囲の含有量を下回る場合は、半導電特性の効果を発揮することができない。
【0030】
本発明に用いる溶媒としては、特に制限されないが、溶解性等の点より極性溶媒が好適に挙げられる。特に、カーボンブラックの分散用と重合反応の溶媒用とを兼用できるものが好ましい。極性溶媒としては、N,N−ジアルキルアミド類が好ましく、具体的には、例えば、これの低分子量のものであるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単数または複数併用することができる。
【0031】
更に、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどを単独又は複数併用することができる。
【0032】
カーボンブラックの分散方法には、公知の分散方法を適用することができる。例えば、溶媒にカーボンブラックを添加した後、ナノマイザー、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、三本ロールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル、ホモジナイザー、超音波などの方法を適宜選択して、分散作業を行うことができる。
【0033】
カーボンブラックの分散性や親和性の向上を狙って、カーボンブラックを分散剤の存在下で前記ポリアミド酸溶液に分散することができる。分散剤としては、本発明の目的にかなうものであれば、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤、界面活性剤、無機塩等の分散安定化剤を用いることができる。
【0034】
前記高分子分散剤としては、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(N,N’−ジエチルアクリルアジド)、ポリ(N−ビニルホルムアミド)、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリ(N−ビニルフタルアミド)、ポリ(N−ビニルコハク酸アミド)、ポリ(N−ビニル尿素)、ポリ(N−ビニルピペリドン)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(N−ビニルオキサゾリン)等が挙げられ、単独または複数の高分子分散剤を添加することができる。
【0035】
カーボンブラックの分散状態を調べる方法は、特に制限されないが、例えば、顕微鏡にて目視観察する方法等が挙げられる。
【0036】
<カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の調製>
以下、カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液について、説明する。
【0037】
前記テトラカルボン酸成分としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用することができる。
【0038】
前記ジアミン成分としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン(PDA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5 −メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用することができる。
【0039】
前記分散液にテトラカルボン酸成分とジアミン成分を溶解、重合させる。ここで、前記ポリアミド酸(ポリイミドベルト前駆体)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との略等モルを有機溶媒中で反応させて得ることができる。重合反応の際のモノマー濃度(溶媒中におけるテトラカルボン酸成分とジアミン成分の濃度)は、種々の条件に応じて設定される。通常は、5〜30重量%程度が好ましい。また反応温度は80℃以下が好ましく、特に好ましくは5〜50℃である。反応時間は0.5〜10時間が好ましい。反応時間が0.5時間未満であると反応が不十分となり、10時間を超えてもそれ以上の効果が得られない。
【0040】
上記の反応により得られたカーボンブラック分散アミド酸溶液の粘度は上昇するが、そのまま加熱を行うと、ポリアミド酸溶液の粘度が低下する。この現象を利用して、前記カーボンブラック分散アミド酸溶液を所定の粘度に調整することができる。このときの加熱温度は50〜90℃が好ましい。
【0041】
<半導電性ポリイミドベルトの調製>
本発明の半導電性ポリイミドベルトは、以下に示す方法により調製される。
【0042】
まず、上述したカーボンブラックの含有率を変えた複数のカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を混合する。ここに、触媒を添加・混合したものを円筒金型内に供給し、回転遠心成形法により金型内周面に遠心力により均一に展開する。このとき前記溶液の粘度は、B型粘度計で1〜1000Pa・s(25℃)が好ましい。これ以外の場合は、遠心成形の際、均一に展開することが困難であり、ポリイミドベルトの厚みバラツキの原因となる。製膜後、80〜150℃にて加熱を行い、溶媒を除去する。
【0043】
次いで、300〜450℃の高温で加熱することにより、閉環イミド化反応(イミド転化)を進行させた後、金型から取り出す。この溶媒除去及びイミド化反応時の加熱は均等に行う必要がある。不均等であると、溶剤蒸発時において、カーボンブラックの凝集バラツキが発生し、ポリイミドベルトの抵抗値にバラツキが生じる。均等に加熱する方法としては、金型を回転させながら加熱する、熱風の循環を改善する等の方法や、低温で投入し、昇温速度を小さくする等の方法がある。
【0044】
なお、イミド化反応は上記高温加熱する方法もしくは、ポリアミド酸溶液に触媒単独あるいは触媒と脱水剤を併用して添加し、低温加熱する方法いずれを用いてもよく、本発明の目的にかなうものであれば特に限定されない。
【0045】
前記触媒としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等を挙げることができる。特に、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、キノリン、ジエチルピリジン、β−ピコリン等の複素環式化合物が好ましい。
【0046】
触媒の添加量としては、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.05〜2.0モル当量添加することが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0モル当量である。触媒の添加量が0.05モル当量未満であると、触媒効果が十分でなく、また、2.0モル当量を超えても触媒効果は変わらない。また、これら触媒は脱水剤を使用しない加熱イミド化においても、低温でのイミド化促進剤として有効である。
【0047】
前記脱水剤については、有機カルボン酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド類、低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、及びチオニルハロゲン化物等が挙げられ、これらの中でも特に有機カルボン酸無水物が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0049】
<評価方法>
(ポリアミド酸溶液の粘度)
カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の粘度を評価するにあたり、回転粘度計TV−10H(東機産業(株)製)を用い、25℃にて評価を行った。
【0050】
(表面抵抗率)
ハイレスタ−UP MCP−HT450(三菱化学社製、プローブ:UR)を用い、印加電圧500Vの10秒後の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定条件は、25℃×60%RHで行った。測定は、ベルト表面の48箇所における表面抵抗率を測定し、平均値を常用対数値により示した。
【0051】
(保存安定性)
カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の保存安定性を評価するため、前記ポリアミド酸溶液を作製した後、120日間、25℃にて保管した。120日後、前記ポリアミド酸溶液の粘度、及び前記ポリアミド酸溶液を使用して得られた半導電性ポリイミドベルトの表面抵抗率を評価した。
【0052】
(走査型顕微鏡(SEM)による断面観察)
得られた半導電性ポリイミドベルトをミクロトームで切断し、この断面を、SEMを用いて観察した。観察した結果、0.5μm以上のカーボンブラックの凝集粒子径が認められないものを○と評価した。また、含むものを×と評価した。
【0053】
(画像・ベルト駆動性)
得られた半導電性ポリイミドベルトをタンデム式中間転写ベルトとして、実際の複写機に組み込み、普通紙による5000枚の画像形成テストを行った。画像及びベルトの駆動性が良好なものを○、若干の画像欠損又は駆動性の不具合のあるものは△、画像欠損が目視で認識できるもの又は駆動不具合のあるものを×と評価した。
【0054】
以上の評価結果を表1に示した。
【0055】
(実施例1)
以下に示す製造例1及び2により、カーボンブラックの含有率が異なるポリアミド酸溶液を調製し、これらを用いて半導電性ポリイミドベルトを得た。
【0056】
製造例1
<カーボンブラック分散液の調製>
2916gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、乾燥した171.1gのカーボンブラック(デグサ(株)製Special Black4)を添加した。次に、この溶液をボールミルで室温にて6時間撹拌・混合を行い、5.54重量%のカーボンブラック分散液1を得た。
【0057】
<カーボンブラック分散ポリアミド溶液の調製>
上記分散液1にNMPに、106.8gのp−フェニレンジアミン(PDA)、197.7gの4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、581.3gの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を窒素雰囲気中で室温にて投入し、6時間撹拌して溶解した。続いて、撹拌しながら加温し、75℃で10時間加熱を続け、重合反応により増粘後、120Pa・sのカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液(ポリイミド固形分100重量部とした際に、カーボンブラックが21重量部)を得た。
【0058】
製造例2
<カーボンブラック分散液の調製>
製造例1のカーボンブラックの添加量を207.5gとした以外は同様の方法で行い、6.64重量%のカーボンブラック分散液2を得た。
【0059】
<カーボンブラック分散ポリアミド溶液の調製>
製造例1と同様の方法で、上記分散液2に、108.8gのPDA,201.4gのDDE、592.3gのBPDAを、製造例1と同様の方法で、110Pa・sのカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液(ポリイミド固形分100重量部とした際に、カーボンブラックが25重量部)を得た。
【0060】
<半導電性ポリイミドベルトの調製>
上記製造例1及び2のカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液をそれぞれ2000gずつ混合し、更に触媒である2−フェニルイミダゾール44.8g(ポリアミド酸溶液1モル当量あたり、0.2モル当量)を1時間、撹拌・混合して、触媒添加カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を調製した。
【0061】
次いで、前記触媒添加カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を内径300mm、長さ900mmのドラム金型内周面に、ディスペンサにて最終の厚さが170μmとなるよう塗布し、1500rpmで10分間回転させて、均一な展開層を得た。その後、20rpmでドラム金型を回転させながら、金型の外側より100℃の熱風を30分間当てて、溶剤を除去した。更に、2℃/分の速度で340℃まで昇温させ、そのまま15分加熱を続け、イミド化を進行させた。室温まで冷却した後、金型内面より剥離し、75μmの半導電性ポリイミドベルトを得た。
【0062】
(実施例2)
実施例1の製造例1及び2の各カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液中のポリイミド固形分100重量部とした際のカーボンブラック含有量が、20重量部及び26重量部に調製した以外は、実施例1と同様の方法を用いた。その結果、75μmの半導電性ポリイミドベルトを得た。
【0063】
(比較例1)
【0064】
<カーボンブラック分散液の調製>
2889gのNMP中に、乾燥した197.7gのカーボンブラック(デグサ(株)製Special Black4)を添加した。次に、この溶液をボールミルで室温にて6時間撹拌・混合を行い、6.34重量%のカーボンブラック分散液3を得た。
【0065】
<カーボンブラック分散ポリアミド溶液の調製>
上記分散液3に、106.8gのPDA、197.7gのDDE、581.3gのBPDA、及び、2−フェニルイミダゾール56.9g(ポリアミド酸溶液1モル当量あたり、0.2モル当量)を窒素雰囲気中で室温にて投入し、6時間撹拌して溶解した。続いて、撹拌しながら加温し、75℃で10時間加熱を続け、重合反応により増粘後、120Pa・sのカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液(ポリイミド固形分100重量部に対して、カーボンブラックが23重量部)を得た。
【0066】
<半導電性ポリイミドベルトの調製>
半導電性ポリイミドベルトの製造方法は、実施例1と同様である。その結果、76μmの半導電性ポリイミドベルトを得た。
【0067】
(比較例2)
触媒添加を実施例1と同様に半導電性ポリイミドベルトの製造時に行う以外は、比較例1と同様である。その結果、74μmの半導電性ポリイミドベルトを得た。
【0068】
<表1>評価結果


【0069】
表1より、実施例においては、カーボンブラック含有率の異なる2つのカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の混合物の粘度において、0日後と120日後で大きな変化は認められず、また、これらを用いた半導電性ポリイミドベルトの表面抵抗率にも大きな変化がなく、保存安定性に優れていることが確認できた。また、前記ポリアミド酸溶液を用いて製造した半導電性ポリイミドベルトについてSEM断面観察を行ったところ、カーボンブラックの二次凝集がほとんどとなく、均一に分散していることが確認できた。また、前記半導電性ポリイミドベルトを使用した複写機による画像転写性テストでは、不具合や画像欠損などがなく、優れた画像転写性であることが確認できた。
【0070】
一方、比較例1では、カーボンブラック含有率が単独のポリアミド酸溶液の粘度において、0日後と120日後では大きな変化が認められ、また、これらを用いた半導電性ポリイミドベルトの表面抵抗率にも大きな変化が認められ、保存安定性に劣ることが確認された。また、前記ポリアミド酸溶液を用いて製造した半導電性ポリイミドベルトについてSEM断面観察を行ったところ、カーボンブラックの二次凝集が認められ、均一に分散していないことが確認された。また、前記半導電性ポリイミドベルトを使用した複写機による画像転写性テストでは、転写ムラが認められ、均一分散不良であることが確認された。また、比較例2も同様に、転写ムラが認められ、均一分散不良のため、良好な画像が形成されていないことが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを溶媒に分散させた分散液に、テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体とジアミン成分を溶解して重合させる工程を含むカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の製造方法において、
前記カーボンブラックの含有率が異なる複数のポリアミド酸溶液を調製し、
それらポリアミド酸溶液を混合することを特徴とするカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の製造方法。
【請求項2】
前記カーボンブラックが同一種であり、
前記複数のポリアミド酸溶液として、得られるポリイミド固形分100重量部としたときに、カーボンブラックの含有量が、15重量部以上23重量部未満に調製された第1溶液と、23重量部以上30重量部未満に調製された第2溶液とを調製すること、を特徴とする請求項1記載のカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得られるポリアミド酸溶液と触媒を混合し、反応させる工程を含む半導電性ポリイミドベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法により得られる半導電性ポリイミドベルト。


【公開番号】特開2008−280479(P2008−280479A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128032(P2007−128032)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】