説明

ポリアリーレンスルフィドの製造方法

【課題】
本発明では、不純物成分の低減されたポリアリーレンスルフィドを、経済的且つ簡易な方法で短時間に効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】
少なくとも
(a)ポリアリーレンスルフィド、
(b)スルフィド化剤および
(c)ジハロゲン化芳香族化合物
を有機極性溶媒中で反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法であって、反応させる際の有機極性溶媒を、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以下として行うことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。より詳しくは、不純物成分の低減された高品質なポリアリーレンスルフィドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略する場合もある)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略す場合もある)は優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂である。また、射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であり、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
【0003】
このPASの具体的な製造方法として、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法が提案されており(例えば特許文献1参照。)、この方法はPASの工業的製造方法として幅広く利用されている。しかしながらこの製造方法では、分子量が低く、溶融粘度の低いPASしか製造することができず、さらに、得られるPASは加熱溶融時のガス発生量が多いという問題があった。高分子量体を得る一般的な方法としては反応濃度を増加させる手法が考えられるが、該製造法の場合、反応濃度の増加に伴って反応が進行しにくくなり、むしろ得られるPASの分子量が低下する傾向があり、高分子量体を得ることが困難であった。従って当該方法では、一定の反応器あたりに得られるPASの量に制限があり、得られるPASの分子量を低下させることなく製造を最大化する方法が望まれていた。
【0004】
PASの製造における上記課題を解決する方法、すなわち得られるPASの分子量を低下させることなしに反応濃度を増加させて一定の反応器あたりに得られるPASの量を最大化する方法としては、反応濃度が増加するにつれ増える副生物である水を反応に先立って除去し、アルカリ金属硫化物1モルに対して有機極性溶媒を0.28リットル用いた濃度で反応を行う方法(例えば特許文献2参照。)が開示される。この方法では、反応に先立って本質的にすべての遊離水を除去する必要があり、脱水工程に長時間と熱エネルギーを要するため、経済的に不利な方法であった。
【0005】
また、加熱溶融時のガス発生量が少ない高純度のPASを得る代表的な方法としては、熱分解し易くガス発生の主因となる低分子量物に着目して、生成PASを溶媒で洗浄してオリゴマーを除去する方法(例えば特許文献3参照。)や、生成PASを酸化雰囲気下で加熱処理する(キュアリング)方法(例えば特許文献4参照。)が開示されている。これらの方法は、生成PASの後処理によって加熱溶融時のガス発生を低減する方法であり、洗浄に用いた溶媒を回収する工程や加熱処理工程が付加的に必要となるため、煩雑なプロセスと多大な熱エネルギーが必要となる方法であった。
【0006】
【特許文献1】特公昭45−3368号公報
【特許文献2】特開平5−239210号公報
【特許文献3】特開昭59−6221号公報
【特許文献4】特開昭62−197422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を解決し、不純物成分の低減された高品質なポリアリーレンスルフィドを経済的且つ簡易な方法で短時間に効率よく製造する方法を提供することを課題とする。より具体的には、加熱溶融時のガス発生量が低減されたPASを、一定の反応器あたりに得られるPASの量を最大化した方法で製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に対し本発明は、
1.少なくとも
(a)ポリアリーレンスルフィド、
(b)スルフィド化剤および
(c)ジハロゲン化芳香族化合物
を有機極性溶媒中で反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法であって、反応させる際の有機極性溶媒を、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以下として行うことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
2.少なくとも(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤および(c)ジハロゲン化芳香族化合物を有機極性溶媒中で反応させる際の有機極性溶媒を、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して0.3リットル以下として行うことを特徴とする第1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
3.スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とをスルフィド化剤のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて、加熱して反応させて得られたポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドを含む混合物から、オリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたポリアリーレンスルフィドをポリアリーレンスルフィド(a)として用いることを特徴とする第1項または第2項のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
4.少なくともポリアリーレンスルフィド、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒からなる反応混合物を、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて加熱して反応させて得られたポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドを含む混合物から、オリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたポリアリーレンスルフィドをポリアリーレンスルフィド(a)として用いることを特徴とする第1項から第3項のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
5.有機極性溶媒が有機アミド溶媒であることを特徴とする第1項から第4項のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
6.ジハロゲン化芳香族化合物(c)がジクロロベンゼンであることを特徴とする第1項から第5項のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドの製造方法が提供でき、より詳しくは不純物成分の低減された高品質なポリアリーレンスルフィドを経済的且つ簡易な方法で短時間に効率よく製造する方法を提供できる。より具体的には、加熱溶融時のガス発生量が低減されたPASを、一定の反応器あたりに得られるPASの量を最大化して製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の形態を説明する。
【0011】
(1)スルフィド化剤
本発明で用いられるスルフィド化剤とはジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであれば良く、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0012】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことをさす。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、このような形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
【0013】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
【0014】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。これらのアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のし易さ、コストの観点から好ましい。
【0015】
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。硫化水素は気体状、液体状、水溶液状のいずれの形態で用いても差し障り無い。
【0016】
本発明においてスルフィド化剤の量は、脱水操作などによりジハロゲン化芳香族化合物との反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0017】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0018】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.50モル、好ましくは1.00から1.25モル、更に好ましくは1.005から1.200モルの範囲が例示できる。スルフィド化剤として硫化水素を用いる場合にはアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましく、この場合のアルカリ金属水酸化物の使用量は硫化水素1モルに対し2.0〜3.0モル、好ましくは2.01〜2.50モル、更に好ましくは2.04〜2.40モルの範囲が例示できる。
【0019】
(2)ジハロゲン化芳香族化合物
本発明で用いるジハロゲン化芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、1−ブロモ−4−クロロベンゼン、1−ブロモ−3−クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、及び1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1−メチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,3−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、3,5−ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基をも含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロゲン化ベンゼンを主成分にするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p−ジクロロベンゼンを80〜100モル%含むものであり、さらに好ましくは90〜100モル%含むものである。また、共重合体を製造するために異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0020】
ジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.9〜2.0モルの範囲であることが好ましく、0.95〜1モルの範囲がより好ましく、0.98〜1.5モルの範囲が更に好ましい。
【0021】
(3)有機極性溶媒
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造においては有機極性溶媒を反応溶媒として用いるが、なかでも有機アミド溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、及びこれらの混合物などが、反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN−メチル−2−ピロリドンおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。
【0022】
本発明において反応溶媒として用いる有機極性溶媒の使用量は、ポリアリーレンスルフィドとスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物との反応により生成するPASの特性を所望のものとするために変化させうる。一般に分子量の高いPASを所望する場合には有機極性溶媒の使用量を少なくする事が有利であり、分子量の低いPASを所望する場合は有機極性溶媒の使用量を多くすることが好適である。なお、有機極性溶媒使用量として、より効率よく高分子量体のポリアリーレンスルフィドを製造するとの観点から、反応混合物が含むイオウ成分1モルに対し1.25リットル以下であり、0.5リットル以下とすることがより好ましく、0.3リットル以下とすることが更に好ましい。ここで、反応混合物が含むイオウ成分とは、反応混合物中に存在するスルフィド化剤のイオウと、PASとして分子鎖中に存在するイオウの総和のことを指す。有機極性溶媒の使用量を多くすると、得られるポリアリーレンスルフィドの分子量が低下し、反応混合物の一定重量あたりに得られるポリアリーレンスルフィドの生成量が低下し、更に反応に要する時間が長時間化する傾向にあるため、より経済的に高分子量ポリマーを製造するためには前記した有機極性溶媒の使用量範囲とすることが好ましい。
【0023】
(4)原料ポリアリーレンスルフィド
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド(a)とは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモポリマーまたは線状のコポリマーである。Arとしては下記の式(ア)〜式(シ)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(ア)が特に好ましい。
【0024】
【化1】

【0025】
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
【0026】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(ス)〜式(タ)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0027】
【化2】

【0028】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0029】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0030】
【化3】

【0031】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)の他、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
【0032】
本発明における各種PASの溶融粘度に特に制限は無いが、一般的なPASの溶融粘度としては0.1〜1000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が例示できる。また、PASの分子量にも特に制限は無く、一般的なPASを用いることが可能でありこの様なPASの重量平均分子量としては2,000〜1,000,000が好ましく例示でき、2,500〜500,000がより好ましく、5,000〜100,000が更に好ましく例示できる。
【0033】
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド(a)の製造方法は特に限定はされず、いかなる製法によるものでも使用することが可能であるが、例えば前述した特許文献1に代表される、アルカリ金属硫化物とポリハロ芳香族化合物を有機アミド溶媒中で反応せしめる方法によって得ることができる。また、製造されたPASを用いた成形品や成形屑、廃プラスチックやオフスペック品なども幅広く使用することが可能である。
【0034】
また、ポリアリーレンスルフィド(a)として、スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とをスルフィド化剤のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて、加熱して反応させて得られたポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドを含む反応混合物から、オリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたポリアリーレンスルフィドを用いる方法は、より不純物成分の低減されたPASを製造するために特に好ましい。さらに、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物を反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒中で接触させて反応させて得られた少なくともポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド、アルカリ金属ハロゲン化物を含む反応混合物から、オリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたポリアリーレンスルフィドを用いることも好ましい方法である。このように反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて反応させて得られた反応混合物からオリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたPASは、オリゴアリーレンスルフィドを分離する工程によって不純物成分の取り除かれた高純度のPASである。さらに、この上記方法のごとく、イオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて反応を行った場合、加熱溶融時における有機アミド溶媒由来のガス発生量が低減されたPASが得られる傾向が強い。ここで、有機アミド溶媒由来のガス成分の代表的な物としてはラクトン型化合物が例示でき、NMPを溶媒に用いた場合、γ−ブチロラクトンが例示できる。このような加熱溶融時におけるガス発生量の少ないPASをポリアリーレンスルフィド(a)として用いることは、加熱溶融時のガス発生量が少ない高純度のPASを製造するために好ましい。また、この上記方法で得られるPASの重量平均分子量としては、2,000〜100,000が例示でき、好ましくは、2,500〜5,0000、より好ましくは2,500〜1,5000が例示できる。このようなPASをポリアリーレンスルフィド(a)として用いた場合、ポリアリーレンスルフィド(a)よりも高分子量のPASを製造することも可能である。
【0035】
PASの使用量は、反応開始時点、すなわち反応系に仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の転化率が0の段階での反応混合物にPASが含まれていれば良いが、PASの主要構成単位である式−(Ar−S)−の繰り返し単位を基準として、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1〜20繰り返し単位モルの範囲であることが好ましく、0.25〜15繰り返し単位モルの範囲がより好ましく、1〜10繰り返し単位モルの範囲が更に好ましい。PASの使用量が好ましい範囲では、短時間で反応を進行させ得る傾向にある。
【0036】
なお、PASの形態に特に制限はなく、乾燥状態の粉末状、粉粒状、粒状、ペレット状でも良いし、反応溶媒である有機極性溶媒を含む状態で用いることも可能であり、また、本質的に反応を阻害しない第三成分を含む状態で用いることも可能である。この様な第三成分としては例えば無機フィラーなどが例示でき、無機フィラーを含む樹脂組成物の形態のPASを用いることも可能である。
【0037】
(5)オリゴアリーレンスルフィド
本発明におけるオリゴアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては前記式(ア)〜式(シ)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(ア)が特に好ましい。
【0038】
また、本発明におけるオリゴアリーレンスルフィドは前記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、オリゴフェニレンスルフィド、オリゴフェニレンスルフィドスルホン、オリゴフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいオリゴアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するオリゴフェニレンスルフィドの他、オリゴポリフェニレンスルフィドスルホン、オリゴフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
【0039】
本発明における各種オリゴアリーレンスルフィドの平均分子量は前述のPASよりも低いものと定義でき、一般的なオリゴアリーレンスルフィドの重量平均分子量としては200〜5,000が例示でき、200〜2,500が好ましく、200〜2,000がより好ましい。
【0040】
また、本発明のオリゴアリーレンスルフィドの構造に特に制限はなく、線状構造、分岐構造、グラフト構造、環状構造など各種構造、およびこれらの混合物が許容できる。この中でも線状および/または環状のオリゴアリーレンスルフィドが好ましく、これら構造体を得るためには厳密な反応制御や分岐構造を導入するための第三成分を必要としないという利点がある。
【0041】
(6)ポリアリーレンスルフィドの製造方法
本発明では、少なくとも(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤、および(c)ジハロゲン化芳香族化合物を、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以下の有機極性溶媒中で接触させて反応させることでポリアリーレンスルフィドを含む反応混合物を製造する。さらに、本発明では、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して0.5リットル以下、好ましくは0.3リットル以下にまで反応に使用する有機極性溶媒量を低減させ、極めて高い反応濃度でポリアリーレンスルフィドを含む反応混合物を製造することも可能である。このように反応に用いる有機極性溶媒量を低減させることで、一定の反応器あたりに得られるPASの量を増加させて効率的にPASを製造でき、さらに有機極性溶媒量の低下に伴って、すなわち反応濃度の増加に伴って高分子量のPASを製造することが可能である。
【0042】
本発明のPASの製造に際しては、上記諸成分からなる反応混合物を、反応混合物の常圧下における還流温度を越えて加熱することが好ましい。ここで常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことである。なお、還流温度とは反応混合物の液体成分が沸騰と凝縮を繰り返している状態の温度である。反応混合物を常圧下の還流温度を超える加熱状態にする方法としては、例えば反応混合物を常圧を越える圧力下で反応させる方法や、反応混合物を密閉容器内で加熱する方法が例示できる。
【0043】
本発明のPASの製造におけるより好ましい反応温度は、原料として用いるポリアリーレンスルフィド(a)が反応混合物中で溶融解する温度である。原料のポリアリーレンスルフィド(a)は、室温近傍では固体状態であることが一般的であり、PASが溶解する温度で反応を行うことで反応系が均一化し飛躍的に反応速度が向上し、反応に要する時間を短縮できる傾向にある。この温度は反応混合物中の成分の種類、量、原料に用いるポリアリーレンスルフィド(a)の構造、分子量などによって多様に変化するため一意的に決めることはできないが、通常120〜350℃、好ましくは200〜320℃、より好ましくは230〜300℃、さらに好ましくは240〜280℃の範囲を例示できる。この好ましい温度範囲ではより高い反応速度が得られ、反応が均一で進行しやすい傾向にあるのみならず、生成したPAS成分の分解なども起こりにくい傾向にあるため、効率よくPAS成分が得られる傾向にある。また、反応は一定温度で行う1段反応、段階的に温度を上げていく多段階反応、あるいは連続的に温度を変化させていく形式の反応のいずれでもかまわない。
【0044】
また、反応時間は使用する原料のポリアリーレンスルフィド(a)の構造、分子量などや、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒の種類、およびこれら原料の量あるいは反応温度に依存するので一概に規定できないが、本発明の方法は極めて高い反応速度が得られやすい特徴を有するため、10時間以内でも十分に反応が進行し、好ましくは6時間以内、より好ましくは3時間以内も採用できる。反応時間の下限に特に制限はないが、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましく、この好ましい時間以上とすることで、未反応の原料成分を十分に減少できる傾向にある。
【0045】
本発明のPASの製造において、反応混合物を加熱する際の圧力に特に制限はないが、反応混合物の常圧下における還流温度を越えることが可能となる圧力が好ましい。反応混合物を加熱する際の圧力は反応混合物を構成する原料およびその組成、反応温度等により変化するため一意的に規定することはできないが、好ましい圧力の上限としては10MPa以下、より好ましくは5MPa以下が例示できる。また好ましい圧力の下限としてゲージ圧で0.05MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.4MPa以上が例示できる。この様な好ましい圧力範囲では、PASの製造に要する時間を短くできる傾向にある。また、PASの製造における有機極性溶媒の使用量を多くする場合、すなわち反応混合物における原料であるポリアリーレンスルフィド(a)、スルフィド化剤(b)およびジハロゲン化芳香族化合物(c)の濃度が低い条件において、前記好ましい圧力範囲で反応を行うことの効果が特に大きい傾向にあり、原料消費率をより向上できる傾向がある。この理由については現時点定かでないが、PASの製造に際し、反応における加熱条件下で揮発性を有するジハロゲン化芳香族化合物など原料はその一部が反応系内で気相に存在し、液相部の反応基質との反応が進行しにくくなる可能性があり、前記好ましい圧力範囲とすることでこのような原料の反応系内での揮発を抑制できるため、より効率よく反応が進行するようになると推測している。また、反応混合物を加熱する際の圧力を前記好ましい圧力範囲とするために、反応を開始する前や反応中など随意の段階で、好ましくは反応を開始する前に、後述する不活性ガスにより反応系内を加圧することも好ましい方法である。なおここでゲージ圧とは大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力値と同意である。
【0046】
本発明のPASの製造方法においては、反応器に(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤、(c)ジハロゲン化芳香族化合物、および有機極性溶媒を仕込み、これらを必須成分として反応を行う。これら必須成分を反応器に仕込む順序に特に制限は無いが、まず使用する有機極性溶媒の全量もしくは一部を仕込み、次いでその他の成分を仕込む方法が反応混合物の均一化のために好ましい。反応混合物には前記必須成分以外に反応を著しく阻害しない第三成分や、反応を加速する効果を有する第三成分を加えることも可能である。反応を行う方法に特に制限は無いが、攪拌条件下で行うことが反応系の均一化のために好ましい。なお、ここで前記原料を仕込む際の温度に特に制限は無く、例えば室温近傍で原料を仕込んだ後に反応を行っても良いし、あらかじめ前述した反応に好ましい温度に温調した反応器に原料を仕込んで反応を行なうことも可能である。また反応を行っている反応系内に逐次的に原料を仕込んで連続的に反応を行うことも可能である。
【0047】
また、PASを製造する際に、有機極性溶媒として水を含むものを用いることも可能である。一般にスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を用いる反応は反応混合物中の水分量が増大すると、反応速度が低下する傾向にあるため厳密な水分量の低減が必要であるが、本発明の方法では極めて早く反応が進行するため、反応混合物中の水分量を厳密に制御することなく十分な反応を行うことが可能である。よって本発明の反応混合物中の水分量に特に制限は無いが、反応開始時点、すなわち反応系に仕込んだジハロゲン化芳香族化合物(以下DHAと略することもある)の転化率が0の段階における水分量は、反応混合物中のイオウ成分1モル当たり0.2モル以上20モル以下が好ましい範囲として例示でき、0.5モル以上10モル以下であることが好ましく、0.6モル以上8モル以下がより好ましい。反応混合物を形成するスルフィド化剤、有機極性溶媒、ジハロゲン化芳香族化合物、PAS及びその他成分が水を含む場合で、反応混合物中の水分量が前記範囲を超える場合には、反応を開始する前や反応の途中において、反応系内の水分量を減じる操作を行い、水分量を前記範囲内にする事も可能であり、これにより短時間に効率よくPASを得られる傾向にある。また、反応混合物の水分量が前記好ましい範囲未満の場合は、上記水分量になるように水を添加することも好ましい方法である。なお、DHAの転化率は、以下の式で算出した値である。DHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ジハロゲン化芳香族化合物をスルフィド化剤に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率(%)=[〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕]×100%
(b)上記(a)以外の場合
転化率(%)=[〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕]×100%
【0048】
さらに、PASの製造において、所望の時間反応を継続し仕込んだ原料が減少した随意の段階で、PAS、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物及び有機極性溶媒のいずれか、もしくは複数を追加して更に反応を継続することも可能である。
【0049】
PAS、スルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物を追加添加するのは、仕込んだ原料が減少した随意の段階が許容されることは前記した通りであるが、DHAの転化率が50%以上の段階が好ましく、70%以上の段階がより好ましく、このような段階で追加する事でより効率よくPAS成分を得ることが可能となる。
【0050】
なお、原料の追加により、反応混合物中の水分量が変化する場合、前記した好ましい水分量となるように付加的な操作を行うことも可能であり、追加する前、追加している途中、追加後に反応混合物から水を随意量除去する事も望ましい方法である。なお、この水の除去に際し、水以外の成分が反応混合物から除去される場合、必要に応じてスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物及び有機極性溶媒を更に追加する事も可能であり、除去された成分を再度反応混合物に戻す操作を行ってもかまわない。
【0051】
なお、本発明のPASの製造には、バッチ方式、及び連続方式など公知の各種重合方式、反応方式を採用することができる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。反応圧力については、使用した原料及び溶媒の種類や量、あるいは反応温度等に依存し一概に規定できないので、特に制限はない。
【0052】
(7)ポリアリーレンスルフィドの回収方法
本発明のPASの製造においては前記した反応により得られた反応混合物からポリアリーレンスルフィドを分離回収することも可能である。反応により得られた反応混合物にはPASおよび有機極性溶媒が含まれ、その他成分として未反応のスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物や水、副生塩などが含まれる場合もある。
【0053】
本発明のPASの製造において得られる反応混合物は、反応混合物100g当たり5g以上、好ましくは10g以上、さらに好ましくは20g以上のPAS成分を含んでいる。ここで、PAS成分とは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする成分のことを指し、より詳しくはPASとオリゴアリーレンスルフィドを含む混合物を指す。
【0054】
反応混合物からPAS成分を回収する方法に特に制限は無く、例えば必要に応じて有機極性溶媒の一部もしくは大部分を蒸留等の操作により除去した後に、PAS成分に対する溶解性が低く且つ有機極性溶媒と混和し、好ましくは副生塩に対して溶解性を有する溶剤と必要に応じて加熱下で接触させて、PAS成分の混合固体として回収する方法が例示できる。この様な特性を有する溶剤は一般に比較的極性の高い溶剤であり、用いた有機極性溶媒や副生塩の種類により好ましい溶剤は異なるので限定はできないが、例えば水や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールに代表されるアルコール類、アセトンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどに代表される酢酸エステル類が例示でき、入手性、経済性の観点から水、メタノール及びアセトンが好ましく、水が特に好ましい。
【0055】
このような溶剤による処理を行うことで、PAS成分の混合固体に含有される有機極性溶媒や副生塩の量を低減することが可能である。この処理によりPAS成分は固形成分として析出するので、公知の固液分離法を用いてPAS成分を回収することが可能である。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。なお、これら一連の処理は必要に応じて数回繰り返すことも可能であり、これによりPAS成分の混合固体に含有される有機極性溶媒や副生塩の量がさらに低減される傾向にある。
【0056】
また、上記の溶剤による処理の方法としては、溶剤と反応混合物を混合する方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。溶剤による処理を行う際の温度に特に制限は無いが、20℃〜220℃が好ましく、50℃〜200℃が更に好ましい。この様な範囲では例えば副生塩の除去が容易となり、また比較的低圧の状態で処理を行うことが可能であるため好ましい。ここで、溶剤として水を用いる場合、水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましいが、必要に応じてギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、アクリル酸、クロトン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸性化合物及びそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物およびアンモニウムイオンなどを含む水溶液を用いることも可能である。この処理後に得られたPAS成分の混合固体が処理に用いた溶剤を含有する場合には必要に応じて乾燥などを行い、溶剤を除去することも可能である。ここで溶剤の除去は、少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、よりいっそう好ましくは95重量%以上の溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
【0057】
本発明で得られるPAS成分はそのままでも十分に高純度なPASとして使用可能ではあるが、このPAS成分からオリゴアリーレンスルフィドを除去してより高純度なPASを得ることも可能である。PAS成分からオリゴアリーレンスルフィドを除去する方法としては、PASとオリゴアリーレンスルフィドの溶解性の差を利用した分離方法、より具体的にはオリゴアリーレンスルフィドに対する溶解性が高く、一方でオリゴアリーレンスルフィドの溶解を行う条件下ではPASに対する溶解性に乏しい溶剤を必要に応じて加熱下でPAS成分と接触させて、溶剤可溶成分としてオリゴアリーレンスルフィドを除去する方法が例示できる。ここで、本発明のPASの製造方法では、得られるPASの分子量を低下させることなく反応濃度を増加させることが可能であるため、PAS成分に含まれるPASが高分子量体として得られやすく、オリゴアリーレンスルフィドとPASの溶剤への溶解性の違いが大きいため、上記の溶解性を利用した分離方法により効率良くオリゴアリーレンスルフィドを除去することが可能である。PASの分子量は後述するオリゴアリーレンスルフィドを溶解可能な溶剤に溶解しにくい、好ましくは溶解しない特性を有する分子量であることが好ましく、重量平均分子量で5,000以上が例示でき、10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましく例示できる。
【0058】
オリゴアリーレンスルフィドの除去に用いる溶剤としてはオリゴアリーレンスルフィドを溶解可能な溶剤であれば特に制限はないが、溶解を行う環境においてオリゴアリーレンスルフィドは溶解するがPASは溶解しにくい溶剤が好ましく、PASは溶解しない溶剤がより好ましい。PAS成分を前記溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する反応器の部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。用いる溶剤としてはPAS成分の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、PAS成分を溶剤と接触させる操作をたとえば常圧環流条件下で行う場合に好ましい溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、メチルエチルケトンなどの極性溶媒を例示できるが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、メチルエチルケトンが好ましく、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンがより好ましく例示できる。
【0059】
PAS成分を溶剤と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってPAS成分や溶剤が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
【0060】
PAS成分を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほどオリゴアリーレンスルフィドの溶剤への溶解は促進される傾向にあるが、PASの分子量が低い場合、PASの溶解も促進される傾向にある。PASの分子量が前述した好ましい分子量である場合は、オリゴアリーレンスルフィドとの溶解性の差が大きくなるため、高い温度でPAS成分の溶剤との接触を行ってもオリゴアリーレンスルフィドのみを好適に除去できる傾向にある。また、前記したように、PAS成分の溶剤との接触は大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい溶剤を用いる場合はたとえば20〜150℃、好ましくは30〜100℃を具体的な温度範囲として例示できる。
【0061】
PAS成分を溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、この様な範囲ではオリゴアリーレンスルフィドの溶剤への溶解が十分になる傾向にある。
【0062】
PAS成分を溶剤と接触させる方法は、公知の一般的な手法を用いれば良く特に限定はないが、たとえばPAS成分と溶剤を混合し、必要に応じて攪拌した後に溶液部分を回収する方法、各種フィルター上のPAS成分に溶剤をシャワーすると同時にオリゴアリーレンスルフィドを溶剤に溶解させる方法、ソックスレー抽出法原理による方法などいかなる方法も用いることができる。PAS成分と溶剤を接触させる際の溶剤の使用量に特に制限はないが、たとえばPAS成分重量に対する浴比で0.5〜100の範囲が例示できる。浴比がこの様な範囲の場合、PAS成分と溶剤を均一に混合し易く、また、オリゴアリーレンスルフィドが溶剤へ十分に溶解し易くなる傾向にある。一般に、浴比が大きい方がオリゴアリーレンスルフィドの溶剤への溶解には有利であるが、大きすぎてもそれ以上の効果は望めず、逆に溶剤使用量増大による経済的不利益が生じることがある。なお、PAS成分と溶剤の接触を繰り返し行う場合は、小さい浴比でも十分な効果を得られる場合が多い。またソックスレー抽出法は、その原理上、PAS成分と溶剤の接触を繰り返し行う場合と類似の効果が得られるので、この場合も小さな浴比で十分な効果を得られる場合が多い。
【0063】
PAS成分を溶剤と接触させた後に、オリゴアリーレンスルフィドを溶解した溶液が固形状のPASを含む固液スラリー状で得られた場合、公知の固液分離法を用いて溶液部を除去することが好ましい。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。この処理後に得られたPASの固体成分が処理に用いた溶剤を含有する場合には必要に応じて乾燥などを行い、溶剤を除去することも可能である。
【0064】
(8)本発明で得られるPASの特性
本発明で得られるPASの顕著な効果として、PASの加熱溶融時における有機アミド溶媒由来のガス発生量が公知の方法により得られるPASと比べて著しく低減されることが挙げられる。有機アミド溶媒由来のガス成分の代表的なものとしてはラクトン型化合物が例示でき、NMPを溶媒に用いた場合、γ−ブチロラクトンが例示できる。加熱溶融時にこのようなガス成分が発生した場合、成形加工時の樹脂の発砲や金型汚れの要因となり成形加工性を悪化させるのみならず、周辺環境の汚染の要因となるため、このようなガスの発生量をできるだけ低減させることが好ましい。PASを加熱溶融した際のγ−ブチロラクトンの発生量を評価する方法としては、非酸化雰囲気下320℃で60分処理した際の発生ガスをガスクロマトグラフィーを用いて成分分割して定量する方法が例示できる。本発明により得られるPASから発生するガス量としては、加熱を行う前のPAS重量基準でγ−ブチロラクトンが2,000ppm以下、好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、更に好ましくは300ppm以下、いっそう好ましくは100ppm以下が望ましい。本発明の製造方法では、溶融加熱時に発生するガス量が上記範囲の様な高純度のPASを、従来技術のような(例えば特許文献3参照。)溶媒洗浄を行うことなく製造することができる。また、得られるPASの重量平均分子量としては、5,000〜1,000,000が例示でき、10,000〜500,000が好ましく、15,000〜100,000がより好ましく例示できる。
【0065】
また、本発明により得られるPASは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形用途のみならず、押出成形により、シート、フィルム、繊維及びパイプなどの押出成形品に成形することができる。この際、PASを単独で用いてもよいし、所望に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤などを添加することもでき、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、酸無水物基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミドなどの樹脂を配合することもできる。
【0066】
またその用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、燃料タンク、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー等の自動車・車両関連部品、その他各種用途が例示できる。
【0067】
本発明により得られたPASを用いたPASフィルムの製造方法としては、公知の溶融製膜方法を採用することができ、例えば、単軸または2軸の押出機中でPASを溶融後、フィルムダイより押出し冷却ドラム上で冷却してフィルムを作成する方法、あるいは、このようにして作成したフィルムをローラー式の縦延伸装置とテンターと呼ばれる横延伸装置にて縦横に延伸する二軸延伸法などにより製造することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0068】
このようにして得られたPASフィルムは、優れた機械特性、電気特性、耐熱性を有しており、フィルムコンデンサーやチップコンデンサーの誘電体フィルム用途、回路基板、絶縁基板用途、モーター絶縁フィルム用途、トランス絶縁フィルム用途、離型用フィルム用途など各種用途に好適に使用することができる。
【0069】
本発明により得られるPASを用いたPAS繊維の製造方法としては、公知の溶融紡糸方法を適用することができ、例えば、原料であるPASチップを単軸または2軸の押出機に供給しながら混練し、ついで押出機の先端部に設置したポリマー流線入替器、濾過層などを経て紡糸口金より押出し、冷却、延伸、熱セットを行う方法などを採用することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0070】
このようにして得られたPASのモノフィランメントあるいは短繊維は、抄紙ドライヤーキャンバス、ネットコンベヤー、バグフィルター、絶縁ペーパーなどの各種用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0072】
<分子量測定>
ポリアリーレンスルフィドの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
【0073】
<PAS加熱溶融時の発生ガス測定>
PASを加熱した際に発生するガス成分の定量は以下の方法により行った。
【0074】
(a)加熱時発生ガスの捕集
約10mgのPASを窒素気流下(50ml/分)、320℃で60分加熱し、発生したガス成分を大気捕集用加熱脱離チューブcarbotrap400に捕集した。
【0075】
(b)ガス成分の分析
上記チューブに捕集したガス成分を熱脱着装置TDU(Supelco社製)を用いて室温から280℃まで5分間で昇温することで熱脱着させた。熱脱着して成分をガスクロマトグラフィーを用いて成分分割して、ガス中のγ−ブチロラクトンの定量を行った。
【0076】
[参考例1]
ここではスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とをスルフィド化剤のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて、加熱して反応させて得られるPASとオリゴアリーレンスルフィドを含むPAS混合物からオリゴアリーレンスルフィドを分離する方法により、PASを製造した例を示す。
【0077】
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を28.0g(0.240モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液24.0g(0.288モル)、NMP615.0g(6.20モル)、及びp−DCB35.9g(0.244モル)を仕込んだ。反応混合物中のイオウ成分1モルあたりの溶媒量は約2.5Lであった。
【0078】
反応容器内を十分に窒素置換した後、反応系内を窒素にて0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約35分かけて昇温した。この段階での反応系内の圧力はゲージ圧で1.7MPaであった。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
【0079】
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16マイクロメートルのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
【0080】
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を除去した。
【0081】
抽出操作後に円筒濾紙内に残留した固形成分を70℃で一晩減圧乾燥しオフホワイト色の固体を約13.4g得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルよりこれは線状のポリフェニレンスルフィドであり、重量平均分子量は12,000であった。また、このようにして得られたPASを加熱した際に発生するγ−ブチロラクトンは70ppmと、ガス発生量のすくないPASであった。ここで得られたポリフェニレンスルフィドを以下、PPS−1と称する。
【0082】
[実施例1]
撹拌機を具備したステンレス製オートクレーブに参考例1で得られたPPS−1を20.7g(イオウ成分量0.192mol)、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を5.61g(水硫化ナトリウム2.69g(0.0480mol),水2.92g(0.162mol))、純度96%の水酸化ナトリウム2.16g(0.0540mol)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)61.5g(0.620mol)、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)7.41g(0.0504mol)を仕込んだ。PPS−1および水硫化ナトリウムに由来するイオウ成分の合計は0.240molであり、反応混合物中のイオウ成分1モルに対する溶媒量は約0.25Lであった。
【0083】
反応容器内を十分に窒素置換した後、反応系内を窒素にて0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。500rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から260℃まで約35分かけて昇温した。この段階での反応系内の圧力はゲージ圧で0.85MPaであった。260℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
【0084】
得られた内容物の内90gを約300gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16マイクロメートルのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約250gの0.5重量%酢酸水溶液に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計2回行った。得られたフィルターオン成分を約250gのイオン交換水に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計2回行い、白色固体を得た。これを80℃で約5時間真空乾燥し、乾燥固体約23.1g(仕込みのイオウ成分に対する収率96%)を得た。
【0085】
この様にして得られた固形分を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体であり、GPC測定より重量平均分子量25,000のポリマーであり、原料に用いたPPS−1よりも極めて高分子量のPASが得られた。また、反応混合物100gあたりに得られたPASは25gであり、このようにして得られたPASを加熱した際に発生するγ−ブチロラクトンは180ppmであった。
【0086】
本発明の好ましい容態によれば、単位重量あたりに得られるPASが多く、さらにガス発生量の少ない高純度かつ高分子量のPASが得られることがわかった。
【0087】
[実施例2]
撹拌機を具備したステンレス製オートクレーブに参考例1で得られたPPS−1を10.4g(イオウ成分量0.0960mol)、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を2.80g(水硫化ナトリウム1.35g(0.0240mol),水1.46g(0.0811mol))、純度96%の水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液2.50g(水酸化ナトリウム1.20g(0.0300mol),水1.30g(0.0722mol))、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)61.5g(0.620mol)、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)3.88g(0.0264mol)を仕込んだ。PPS−1および水硫化ナトリウムに由来するイオウ成分の合計は0.120molであり、反応混合物中のイオウ成分1モルに対する溶媒量は約0.5Lであった。
【0088】
反応容器内を十分に窒素置換した後、反応系内を窒素にて0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。500rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から260℃まで約35分かけて昇温した。この段階での反応系内の圧力はゲージ圧で0.98MPaであった。260℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
【0089】
得られた内容物の内70gを約210gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16マイクロメートルのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約120gのイオン交換水に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で約5時間真空乾燥し、乾燥固体約11.0g(仕込みのイオウ成分に対する収率98%)を得た。
【0090】
この様にして得られた固形分を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体であり、GPC測定より重量平均分子量19,000のポリマーであり、実施例1と比較してやや低分子量ではあるものの、原料に用いたPPS−1よりも十分に高分子量のPASが得られた。また、反応混合物100gあたりに得られたPASは16gであり、このようにして得られたPASを加熱した際に発生するγ−ブチロラクトンは60ppmと、ガス発生量の極めて少ない高純度なPASであることが分かった。
【0091】
[実施例3]
撹拌機を具備したステンレス製オートクレーブに参考例1で得られたPPS−1を5.18g(イオウ成分量0.0480mol)、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を1.40g(水硫化ナトリウム0.673g(0.0120mol),水0.729g(0.0405mol))、純度96%の水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液1.50g(水酸化ナトリウム0.720g(0.0180mol),水0.780g(0.0433mol))、水1.25g(0.0694mol)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)61.5g(0.620mol)、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)2.12g(0.0144mmol)を仕込んだ。PPS−1および水硫化ナトリウムに由来するイオウ成分の合計は0.0600molであり、反応混合物中のイオウ成分1モルに対する溶媒量は約1.0Lであった。
【0092】
反応容器内を十分に窒素置換した後、反応系内を窒素にて0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。500rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から260℃まで約35分かけて昇温した。この段階での反応系内の圧力はゲージ圧で0.88MPaであった。260℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
【0093】
得られた内容物65gを約200gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16マイクロメートルのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約70gのイオン交換水に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で約5時間真空乾燥し、乾燥固体約5.6g(仕込みのイオウ成分に対する収率96%)を得た。
【0094】
この様にして得られた固形分を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体であり、GPC測定より重量平均分子量14,000のポリマーであり、実施例1および実施例2と比較してやや低分子量であるものの、原料に用いたPPS−1よりも高分子量のPASが得られた。また、反応混合物100gあたりに得られたPASは8.8gであり、このようにして得られたPASを加熱した際に発生するγ−ブチロラクトンは50ppmと、ガス発生量の少ない高純度なPASであることが分かった。
【0095】
[比較例1]
ここでは、従来技術によるPASの製造、すなわち原料としてポリアリーレンスルフィドを用いずに、スルフィド化剤、ハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒のみを用いて反応を行った結果を示す。
【0096】
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を140g(水硫化ナトリウム67.3g(1.20mol)、水72.7g(4.04mol))、96%水酸化ナトリウム49.5g(1.24モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)235g(2.37モル)、及びイオン交換水180gを仕込んだ。オートクレーブに精留塔を取り付けた後、240rpmで攪拌を開始し、常圧で窒素を通じながら内温205℃まで約3時間かけて徐々に加熱した。この間に精留塔から258gが系外に留出した。また、硫化水素の飛散量は0.012モルであった。なお、留出液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、水248gおよびNMP7.4gの混合液であり、反応系内の水及びNMPの量はそれぞれ2.6g、228gであることがわかった。
【0097】
留出終了後、反応容器を約160℃に冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)177g(1.20モル)およびNMP118g(1.19モル)を追添加し、反応容器を窒素ガス下に密封した。反応混合物中のイオウ成分1に対する溶媒量は約0.28Lであった。400rpmで撹拌しながら、約30分かけて200℃まで昇温した後、200℃から260℃まで0.6℃/分の速度で昇温して、260℃で反応を60分間継続した。その後、室温近傍まで急冷した。
【0098】
得られた内容物630gを約1200gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16マイクロメートルのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約1200gの0.5重量%酢酸水溶液に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計2回行った。得られたフィルターオン成分を約1200gのイオン交換水に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計2回行い、白色固体を得た。これを80℃で約5時間真空乾燥し、乾燥固体約116g(仕込みのイオウ成分に対する収率97%)を得た。
【0099】
この様にして得られた固形分を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体であり、GPC測定より重量平均分子量18,000のポリマーであることが分かった。また、反応混合物100gあたりに得られたPASは19gであり、このようにして得られたPASを加熱した際に発生するγ−ブチロラクトンは2,200ppmであった。ポリアリーレンスルフィドを原料として用いずに反応を行った場合、得られたPASのガス発生量が多いことが分かった。
【0100】
また、本発明の好ましい容態である実施例1と比較して、得られるPASの分子量は低く、反応混合物の単位重量あたりに得られるPASの量も少ないことが分かった。
【0101】
[比較例2]
ここでは、従来技術によるPASの製造、すなわち原料としてポリアリーレンスルフィドを用いずに、スルフィド化剤、ハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒のみを用いて行う反応において、さらに用いる有機極性溶媒量を低減させ、スルフィド化剤のイオウ成分1モルに対し約0.25Lの溶媒を用いて反応を行った結果を示す。
【0102】
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を140g(水硫化ナトリウム67.3g(1.20mol)、水72.7g(4.04mol))、96%水酸化ナトリウム49.5g(1.24モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)235g(2.37モル)、及びイオン交換水180gを仕込んだ。オートクレーブに精留塔を取り付けた後、240rpmで攪拌を開始し、常圧で窒素を通じながら内温205℃まで約3時間かけて徐々に加熱した。この間に精留塔から257gが系外に留出した。また、硫化水素の飛散量は0.012モルであった。なお、留出液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、水248gおよびNMP6.4gの混合液であり、反応系内の水及びNMPの量はそれぞれ2.6g、227gであることがわかった。
【0103】
留出終了後、反応容器を約160℃に冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)177g(1.20モル)およびNMP73g(0.736モル)を追添加し、反応容器を窒素ガス下に密封した。反応混合物中のイオウ成分1モルあたりの溶媒量は約0.25Lであった。400rpmで撹拌しながら、約30分かけて200℃まで昇温した後、200℃から260℃まで0.6℃/分の速度で昇温して、260℃で反応を60分間継続した。その後、室温近傍まで急冷した。
【0104】
得られた内容物の内550gを約1200gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16マイクロメートルのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約1200gの0.5重量%酢酸水溶液に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計2回行った。得られたフィルターオン成分を約1200gのイオン交換水に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計2回行い、白色固体を得た。これを80℃で約5時間真空乾燥し、乾燥固体約98g(仕込みのイオウ成分に対する収率83%)を得た。
【0105】
この様にして得られた固形分を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体であり、GPC測定より重量平均分子量7,000のポリマーであることが分かった。また、反応混合物100gあたりに得られたPASは18gであり、このようにして得られたPASを加熱した際に発生するγ−ブチロラクトンは3,000ppmであった。ポリアリーレンスルフィドを原料として用いずに有機極性溶媒量をスルフィド化剤のイオウ成分1モルに対し約0.25リットルにまで低減させると、得られたPASのガス発生量が多く、さらに分子量が大幅に低下することが分かった。
【0106】
また、実施例1と比較して、用いる有機極性溶媒量は反応混合物中に含まれるイオウ成分1モルに対して約0.25リットルと変わらないのに対し、反応混合物の単位重量あたりに得られるPASの量は低減することが分かった。
【0107】
[比較例3]
ここでは、ポリアリーレンスルフィド、スルフィド化剤、およびジハロゲン化芳香族化合物を、反応混合物中のイオウ1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて反応濃度を低下させた条件で反応を行った結果を示す。
【0108】
撹拌機を具備したステンレス製オートクレーブに参考例1で得られたPPS−1を2.07g(イオウ成分量0.0192mol)、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を0.560g(水硫化ナトリウム0.240g(0.00600mol),水0.291g(0.0162mol))、純度96%の水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液0.900g(水酸化ナトリウム0.432g(0.0108mol),水0.260g(0.0144mol))、水2.20g(0.122mol)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)61.5g(0.620mol)、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)0.882g(0.00600mol)を仕込んだ。PPS−1および水硫化ナトリウムに由来するイオウ成分の合計は0.0240molであり、反応混合物中のイオウ成分1モルに対する溶媒量は約2.5Lであった。
【0109】
反応容器内を十分に窒素置換した後、反応系内を窒素にて0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から260℃まで約35分かけて昇温した。この段階での反応系内の圧力はゲージ圧で0.69MPaであった。260℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
【0110】
得られた内容物の内60gを約180gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16マイクロメートルのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約50gのイオン交換水に分散させ、70℃で15分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で約5時間真空乾燥し、乾燥固体約2.2g(仕込みのイオウ成分に対する収率94%)を得た。
【0111】
この様にして得られた固形分を分析した結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより、フェニレンスルフィド単位からなる重合体であり、GPC測定より重量平均分子量12,000のポリマーであることが分かった。また、反応混合物100gあたりに得られたPASは3.6gであり、このようにして得られたPASを加熱した際に発生するγ−ブチロラクトンは40ppmであった。反応混合物中のイオウ1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて反応を行った場合、反応混合物の単位重量あたりに得られるPASの量が減少し、得られるPASの分子量も低下することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも
(a)ポリアリーレンスルフィド、
(b)スルフィド化剤および
(c)ジハロゲン化芳香族化合物
を有機極性溶媒中で反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法であって、反応させる際の有機極性溶媒を、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以下として行うことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項2】
少なくとも(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)スルフィド化剤および(c)ジハロゲン化芳香族化合物を有機極性溶媒中で反応させる際の有機極性溶媒を、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して0.3リットル以下として行うことを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とをスルフィド化剤のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて、加熱して反応させて得られたポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドを含む混合物から、オリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたポリアリーレンスルフィドをポリアリーレンスルフィド(a)として用いることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項4】
少なくともポリアリーレンスルフィド、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒からなる反応混合物を、反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用いて加熱して反応させて得られたポリアリーレンスルフィドとオリゴアリーレンスルフィドを含む混合物から、オリゴアリーレンスルフィドを分離することによって得られたポリアリーレンスルフィドをポリアリーレンスルフィド(a)として用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項5】
有機極性溶媒が有機アミド溶媒であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項6】
ジハロゲン化芳香族化合物(c)がジクロロベンゼンであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。

【公開番号】特開2010−70702(P2010−70702A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242034(P2008−242034)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】