説明

ポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ及び2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造方法

【課題】高温条件下でも十分な酵素活性を有し、かつ大量生産可能な新規なラッカーゼ、およびそれを用いる、工業的規模で適用可能なフェノール類2量体の製造方法を提供する。
【解決手段】ラッカーゼと、質量平均分子量が500〜30000であるポリアルキレングリコールとが、連結基を介して共有結合していることを特徴とするポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ、及びかかるポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼを用いることを特徴とする2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコール修飾したラッカーゼと、それを用いる2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族系化合物や複素環系化合物等に対し、分子状酸素を用いて酸化する酵素として、ラッカーゼやポリフェノールオキシダーゼ(以下、酸化酵素と略記する)が知られている。酸化酵素は、糸状菌および担子菌をはじめとする細菌等の微生物に広く分布していることが知られている。
【0003】
また、酸化酵素の中でも特にラッカーゼにより酸化される基質のうち、比較的安定な反応中間体ラジカルとなり得る低分子性化学物質は、ラッカーゼメディエーターまたはレドックスメディエーターと呼ばれ、ラッカーゼの酸化を受けることにより、他の基質に対するラッカーゼの酸化反応の増強、又はラッカーゼの非基質性化学物質の酸化といった現象を引き起こす。例えば、ラッカーゼ単独では分解され難い又は分解され得ない難生分解性有機汚染化学物質群を、レドックスメディエーター存在下でラッカーゼが間接的に酸化できることが明らかにされている(非特許文献1及び2参照)。
【0004】
このようにラッカーゼが、基質の酸化により生成される反応中間体のラジカル種に起因する多様な化学反応の触媒能力を有することが判明している。それ故、この触媒能力を応用した用途開発が世界中の研究者により活発に続けられている。その用途を例示すれば、染色および抜染、洗濯時の色移り防止、パルプおよび繊維の漂白、着色廃液の脱色、難生分解性化合物の分解、有毒性化学物質の解毒、食品の苦渋味の除去、ワインコルク付着カビ臭の消臭、ジュースの混濁防止、家畜飼料の体内消化促進、無接着剤木質ボードの製造、フェノール樹脂の製造、人工漆塗料の製造、接着剤の製造、化石燃料の脱硫、発光や発色反応を利用した臨床分析、バイオセンサーの開発、有機化合物の合成等、多岐にわたる。
【0005】
一方、各種フェノール類2量体やナフトール類の重合物は、樹脂材料などとして広く用いられており、2,6−ジメトキシフェノール2量体など有用なものが多い。これら2量体や重合物の製造方法として、これまでに酸化酵素を用いる方法が種々提案されている。例えば、各種フェノール類2量体の製造方法としては、水を含む溶媒中において、ペルオキシダーゼ酵素、過酸化物及びラジカル伝達薬剤の存在下で、水酸基等の置換基を有する置換芳香族化合物を反応させる2量体化方法が開示されている(特許文献1参照)。また、便利で安価なフェノール類2量体の製造方法として、過酸化水素等の過酸化物が存在する水を含む溶媒中で、炭素原子数1〜6のアルキル基を有する2,4−または2,6−ジアルキルフェノールを、大豆ペルオキシダーゼ等のペルオキシダーゼを用いて反応させ、2,4−または2,6−ジアルキルフェノールの酸化的カップリング反応によりテトラアルキルビフェノールを生成する方法、あるいはテトラアルキルキノンを生成し、このテトラアルキルキノンを還元して、ジアルキルフェノール2量体に相当するテトラアルキルビフェノールを生成する方法が開示されている(特許文献2参照)。また、水を含む溶媒中において、オキシダーゼを用いてジ置換フェノール2量体を製造する方法が開示されている(特許文献3参照)。このような酸化酵素を用いるフェノール類2量体やナフトール類の重合物の製造に、ラッカーゼを応用することが期待されている。
【0006】
上記のような用途でラッカーゼを利用する場合、ラッカーゼが構造的に安定で十分な耐熱性を有し、かつ大量生産可能であることが強く望まれる。しかし、従来公知のラッカーゼの多くは不安定なものが多い。例えば、特許文献4に示されるラッカーゼは、至適温度が50℃であり、60℃で30分間の加熱処理には耐えるが、それ以上の厳しい条件下では失活してしまう。また、特許文献5に示される耐熱性ラッカーゼも、pH7.0で10分間保持した場合、70℃までは安定であるが、至適温度は50℃にすぎない。そして、従来知られている最も安定性の高いラッカーゼは、バチルスズブチルス由来のものであり、80℃における活性の半減期が112分間程度である(非特許文献3参照)。
【特許文献1】特公昭61−42558号公報
【特許文献2】特許第3209338号公報
【特許文献3】特公平7−96558号公報
【特許文献4】特開2004−208503号公報
【特許文献5】特開2002−171968号公報
【非特許文献1】Biotechnol.Lett.22,119−125(2000)
【非特許文献2】J.Biotechnol.81,179−188(2000)
【非特許文献3】J.Biol.Chem.277,18849−18859(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、バチルスズブチルス由来のラッカーゼは至適温度が75℃程度であり、また遺伝子組み換え技術によって生産した場合、大部分が不溶化されてしまうので、活性型酵素として大量生産することが困難であるという問題点があった。そこで、より高温条件下でも十分な酵素活性を有し、かつ大量生産可能な新規なラッカーゼの探索および開発が望まれている。
また、特許文献3〜5で提案されているフェノール類2量体の製造方法では、いずれも使用できる反応基質量が少なく、工業的規模で適用するのに充分ではないという問題点があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高温条件下でも十分な酵素活性を有し、かつ大量生産可能な新規なラッカーゼ、およびそれを用いる、工業的規模で適用可能なフェノール類2量体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、多くの耐熱性酵素の供給源として知られる高度好熱菌であるサーマス(Thermus)属に属する菌を培養し、その菌体内にラッカーゼ活性を見出し、得られたラッカーゼが高温条件下において安定で、効率的に酸化反応を触媒することを確認した。そして、このラッカーゼをポリエチレングリコールで修飾することによって、水を含む溶媒中においてさらに高い安定性を示し、2,6−ジメトキシフェノール2量体の合成反応を効率良く触媒することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ラッカーゼと、質量平均分子量が500〜30000であるポリアルキレングリコールとが、連結基を介して共有結合していることを特徴とするポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼを提供する。
また、本発明は、上記本発明のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼを用いることを特徴とする2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来にない高い耐熱性を有し、かつ大量生産可能なラッカーゼが得られ、該ラッカーゼを用いることで、2,6−ジメトキシフェノール2量体を工業的規模で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、以下において単位「M」は「mol/L」を、「mM」は「mmol/L」を、「μM」は「μmol/L」をそれぞれ示す。
【0013】
<ポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ>
本発明のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼは、ラッカーゼと、質量平均分子量が500〜30000であるポリアルキレングリコールとが、連結基を介して共有結合しているものである。
(ラッカーゼ)
本発明で用いるラッカーゼとしては特に限定されず、公知のものをいずれも用いることができる。
ラッカーゼは、植物、動物及び微生物に広く存在することが知られており、種々の起源のものを用いることができるが、植物由来又は微生物由来のラッカーゼが好ましく、微生物由来のラッカーゼがより好ましく、なかでも至適温度が80℃以上の耐熱性ラッカーゼが特に好ましい。本発明においては、ラッカーゼがポリアルキレングリコール修飾されることで、ラッカーゼの耐熱性が向上するが、耐熱性ラッカーゼをポリアルキレングリコール修飾することで、一層の耐熱性向上が達成される。
【0014】
植物由来のラッカーゼとしては、漆の木由来のラッカーゼが好ましい。
また、微生物由来のラッカーゼとしては、真菌(糸状菌及び酵母を含む)又は細菌に由来するものが好ましいものとして挙げられる。
真菌に由来するラッカーゼとしては、白色腐朽菌等の担子菌類や子のう菌類に由来するラッカーゼが好ましいものとして挙げられる。
【0015】
このような好ましいラッカーゼとしては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属;ニューロスポラ(Neurospora)属;ピリキュラリア・オリザエ(P.oryzae)等のピリキュラリア(Pyricularia)属;トラメテス・ビローサ(T.villosa)、トラメテス・バーシカラー(T.versicolor)等のホウロクタケ(Trametes)属;リゾクトニア・ソラニ(R.solani)等のリゾクトニア(Rhizoctonia)属;コプリヌス・シネレウス(C.cinereus)等のコプリヌス(Coprinus)属;コリオルス・ヒルスツス(C.hirsutus)、コリオルス・バーシカラー(C.versicolor)等のコリオルス(Coriolus)属に由来するものが挙げられる。
【0016】
細菌に由来するラッカーゼとしては、耐熱性に優れることから、サーマス属に属する菌に由来するラッカーゼや、ストレプトマイセス・ラヴェンディラエ(Streptomyces lavendylae)に由来するラッカーゼが好ましいものとして例示できる。
なかでも、サーマス属に属する菌に由来するラッカーゼが好ましく、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)HB27株(DSM703、ATCCBAA−163)に由来するラッカーゼが特に好ましい。サーマス・サーモフィルスHB27株は、ATCC(American Type Culture Collection)から入手できる。
【0017】
微生物由来のラッカーゼは、例えば、当該微生物を培養した後、菌体抽出物を調製し、必要に応じて公知の方法で精製することにより得られる。
例えば、サーマス属に属する菌、好ましくはサーマス・サーモフィルスHB27株を適切な培養条件下(例えば、CastenholzTYEmediumなどの硫酸銅を含む培地で72℃の通気撹拌培養)で培養した後、菌体抽出物を調製し、イオン交換カラムクロマトグラフィー、疎水性カラムクロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて、精製することができる。
例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー用の担体としては、ハイトラップS P(アマシャムバイオサイエンス社製)、疎水性カラムクロマトグラフィー用の担体としては、ブチルトヨパール(トーソー社製)、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー用の担体としてはトヨパールHA(トーソー社製)を用いることができる。
なお、サーマス・サーモフィルスHB27株については、例えば、Koyama Y,etal.,J.Bacteriol.166:338−340,1986.に記載されている。
【0018】
本発明で用いるラッカーゼは、ラッカーゼを産生する微生物を用いて、公知の遺伝子工学的手法を利用して得られたものでも良い。このようなラッカーゼは、例えば、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを作製して、これを用いて宿主細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培養することによって得られる。
また、本発明で用いるラッカーゼは、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸を用いて、公知の無細胞タンパク質合成系を利用して得られたものでも良い。
遺伝子工学的手法や、無細胞タンパク質合成系を利用してラッカーゼを得る手法としては、例えば、特開2006−158252号公報に記載の方法を用いると良い。
【0019】
ここで、ラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸としては、好ましいものとして、下記(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸、あるいは下記(c)又は(d)の核酸が挙げられる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むラッカーゼタンパク質。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつラッカーゼ活性を有するタンパク質。
(c)配列番号2で表されるポリヌクレオチド配列を含む核酸。
(d)配列番号2で表されるポリヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができ、かつラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸。
【0020】
前記(a)のタンパク質は、例えば、サーマス・サーモフィルスHB27株を用いてその培養物より、あるいは公知の遺伝子工学的手法により好適に得られる。そして、前記(c)の核酸は、前記(a)のタンパク質をコードするものである(特開2006−158252号公報参照)。
【0021】
ここで、「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加」とは、特に限定はされないが、好ましくは1〜9個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていることをいう。配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列として、BLAST等を用いて計算したときに(例えば、BLASTのデフォルトすなわち初期条件のパラメーターを用いた場合)、配列番号1で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%、98%若しくは99%以上の相同性を有しているものが挙げられる。このような配列番号1で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同一である。アミノ酸の付加、欠失又は置換は周知技術である。例えば、Nucleic AcidsRes.10,6487−6500(1982)に記載の部位特異的突然変異や、Technique,1,11−15(1989)に記載のランダム変異により実施することができる。
【0022】
また、ストリンジェントな条件とは、周知のストリンジェント条件を用いることができるが、例えば低イオン強度、高温で洗浄する条件、例えば0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、0.1%ラウリル硫酸ナトリウムにより50℃で洗浄する条件などがあげられる。
【0023】
ラッカーゼを構成するタンパク質は、前記(a)又は(b)であることが好ましい。
また、ラッカーゼを構成するタンパク質において、アミノ酸配列の1番目のグルタミンがピログルタミル化されていても良い。
【0024】
また、本発明で用いるラッカーゼは、以下の理化学的性質を有するものが好ましい。
(1)銅イオンの存在によって活性化される。
(2)フェノール系化合物、複素環系化合物に作用し、pH5.0、70℃、1分間の条件における基質の酸化反応の活性が、2,6−ジメトキシフェノール>2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)>シリンガルダジン>グアイアコールである。
(3)2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)を基質とした場合の酸化反応の至適温度が88〜96℃である。
(4)2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)を基質とした場合の酸化反応の至適pHが4.0〜5.7である。
(5)未加熱の場合と比較した酵素活性が、90℃で10分間の加熱後で82%以上、100℃で10分間の加熱後で62%以上である耐熱性を有する。
(6)85℃、pH6.0にて保持したとき、酵素活性の失活の半減期が14時間以上である。
(7)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定された分子量が約53kDaである。
なお、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)は、以下、ABTSと略記する。
また、上記理化学的性質を有するラッカーゼの分子量は、MALDI−TOFMSにて測定した場合、約49kDaである。
【0025】
上記理化学的性質を有するラッカーゼの触媒活性は、銅イオンの存在によって活性化される。好ましい銅イオンの濃度は、基質の種類等によって異なり、適宜設定し得るが、例えば、基質としてABTSを用いる場合には、銅イオンの濃度は10μM以上、好ましくは50μM以上、さらに好ましくは100μM以上であることが必要である。
【0026】
上記理化学的性質を有するラッカーゼは、例えば、サーマス・サーモフィルスHB27株を用いてその培養物より、あるいは公知の遺伝子工学的手法により好適に得られる。
【0027】
(ポリアルキレングリコール)
本発明で用いるポリアルキレングリコールは、質量平均分子量が500〜30000であれば特に限定されない。そして、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでも良いが、直鎖状であることが好ましい。
なかでも、優れた効果を奏し、容易に入手できることから、ポリエチレングリコール(以下、PEGと略記する)が特に好ましい。
【0028】
PEGは特に限定されるものではなく、製剤分野、医薬品製造分野等で通常使用されるもので良く、市販品でも良い。
そして、PEGの質量平均分子量は、2000〜20000であることが好ましく、3000〜7000であることがより好ましく、5000程度であることが最も好ましい。
【0029】
(連結基)
本発明において連結基は、ポリアルキレングリコール及びラッカーゼと共有結合している。該連結基を介することで、ポリアルキレングリコールとラッカーゼとを容易に結合できる。
連結基は、ポリアルキレングリコール及びラッカーゼ中の官能基と、エステル化反応やアミド化反応、その他の求核置換反応など、共有結合を形成する公知の反応により、反応又は置換し得る対象官能基を有する連結基前駆体を用い、上記反応を行うことで形成される。なお、前記対象官能基には原子も含まれる。
【0030】
連結基前駆体としては、具体的には、ポリアルキレングリコール中の水酸基、及びラッカーゼ中のリジン残基のアミノ基と共有結合するものが例示できる。
このような連結基前駆体として好ましいものとしては、複素環の二個以上の水素原子が塩素原子などのハロゲン原子で置換された化合物が例示でき、なかでも塩化シアヌルが特に好ましい。このような連結基前駆体を用いた場合、ハロゲン原子がポリアルキレングリコール中の水酸基やラッカーゼ中のリジン残基のアミノ基など、求核性を有する置換基によって置換されることで、ポリアルキレングリコール及びラッカーゼが連結基を介して結合する。
【0031】
また連結基前駆体としては、その他、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの脂式ジカルボン酸;フタル酸などの芳香族ジカルボン酸;リンゴ酸などのヒドロキシジカルボン酸;クエン酸などのヒドロキシトリカルボン酸など、カルボキシル基を二個以上有するもの、あるいはこれらのカルボキシル基が活性エステル化されたもの又はカルボン酸ハライド化されたもの、さらには無水マレイン酸、無水フタル酸などの酸無水物などが例示できる。このような連結基前駆体を用いた場合、カルボキシル基、カルボン酸エステル、カルボン酸ハライドなど対象官能基が、ポリアルキレングリコール中の水酸基やラッカーゼ中のリジン残基のアミノ基など、求核性を有する置換基と反応することで、ポリアルキレングリコール及びラッカーゼが連結基を介して結合する。
【0032】
連結基と結合させるラッカーゼ中のアミノ基は、リジン残基中のものでなくても良いが、例えば、連結基前駆体として塩化シアヌルを用いる場合には、通常リジン残基中のアミノ基が選択的に結合する。
【0033】
連結基前駆体としては、反応性に優れ、容易に入手可能であり、安価であることから、塩化シアヌルが特に好ましい。すなわち本発明においては、連結基として1,3,5−トリアジン骨格を有するものが特に好ましい。
【0034】
(ポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼの調製方法)
連結基前駆体をポリアルキレングリコール及びラッカーゼと反応させる方法としては、周知の方法を適用すれば良い。例えば、連結基前駆体が、上記のようなカルボン酸の活性エステルやカルボン酸ハライド、酸無水物、あるいは塩化シアヌルなど、反応性の高いものである場合は、そのままラッカーゼと反応させることができる。しかし、例えば、カルボン酸が活性化されていないものなど、反応性の低いものである場合は、周知の方法で活性化してラッカーゼと反応させることが好ましい。例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、カルボニルジイミダゾールなどを用いて活性エステル法により結合させることができる。
結合させる順序は、ポリアルキレングリコール及びラッカーゼのいずれが先でも良い。ただし、この時の反応条件は、ラッカーゼの酵素活性が低下しないように設定することが好ましい。
【0035】
具体的には、反応溶媒は緩衝液であることが好ましく、pH6.0〜10.0の緩衝液であることがより好ましく、このような好ましいものとしてホウ酸緩衝液が例示できる。
【0036】
反応温度は30℃以下であることが好ましく、4〜25℃であることがより好ましく、15〜25℃であることが特に好ましい。
【0037】
反応時間は、連結基前駆体、ポリアルキレングリコール及びラッカーゼの種類により適宜選択すれば良く、通常は数分〜数時間で良いが、1〜8時間であることが好ましく、2〜6時間であることがより好ましい。
【0038】
反応に用いるポリアルキレングリコール及びラッカーゼの量は、これらの種類および結合数と、連結基前駆体の種類などを考慮して適宜選択すれば良い。例えば、PEGが一つまたは二つ結合済みの連結基前駆体に、さらにラッカーゼを結合させる場合には、前記PEG結合済み連結基前駆体をラッカーゼ中のリジン残基のアミノ基に対して、1〜100倍モル量用いることが好ましく、50〜100倍モル量用いることがより好ましく、70〜80倍モル量用いることが特に好ましい。
【0039】
また、一つの連結基前駆体に結合させるポリアルキレングリコール又はラッカーゼの数が複数の場合には、ポリアルキレングリコール又はラッカーゼは一種類を単独で用いても良く、複数種類を併用しても良い。ただし、ポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼの調製が容易であることから、いずれも単独で用いることが好ましい。
【0040】
連結基前駆体をポリアルキレングリコール及びラッカーゼと結合させる反応は、連結基前駆体中の未反応の対象官能基と反応する試薬を添加することで、停止させることができる。このような試薬としては、添加後に未反応で残ったものが、得られたポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼと容易に分離できるものが好ましい。この時の分離方法は特に限定されず、膜を用いたろ過など周知の方法で良い。例えば、連結基前駆体が塩化シアヌルである場合には、前記試薬としてリジンを用いることが好ましく、この場合、限外ろ過により未反応の試薬を容易に除去できる。
【0041】
反応終了後は、必要に応じて適宜、抽出、濃縮、結晶化、ろ過等の後処理を行い、ポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼを取り出しても良いし、取り出した後さらに、公知の手法で精製しても良い。
また、上記のようにポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼを取り出してこれを次工程で使用しても良いが、取り出さずに溶液のまま次工程で使用しても良い。ここで「次工程」とは、後記する2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造工程のことである。
【0042】
なお、連結基前駆体として塩化シアヌルを、ポリアルキレングリコールとしてPEGをそれぞれ用いる場合には、塩化シアヌルの塩素原子の一部がPEGで置換された化合物が市販されているので、これを用いてラッカーゼを結合させるだけでも良い。
【0043】
連結基前駆体中に共有結合可能な対象官能基が三つ以上ある場合、連結基前駆体へ結合させるポリアルキレングリコール及びラッカーゼの数は特に限定されず、目的に応じて適宜選択すれば良い。例えば、連結基前駆体として塩化シアヌルを用いる場合には、ポリアルキレングリコールを二つ及びラッカーゼを一つ結合させても良いし、ポリアルキレングリコールを一つ及びラッカーゼを二つ結合させても良い。
【0044】
本発明のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼは、ポリアルキレングリコールが結合していることで、耐熱性が向上したものである。また、公知の方法により簡便に調製できるので、大量生産が容易である。そして、水溶性が向上しているので、水を含む溶媒中における反応の触媒に好適である。
【0045】
<2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造方法>
本発明の2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造方法は、上記本発明のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼを用いるものである。具体的には、溶媒中で2,6−ジメトキシフェノールとポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼとを反応させれば良い。反応時には、必要に応じて反応を促進するための添加剤を使用しても良い。例えば、ラッカーゼが上記のような銅イオン存在下で活性化されるものである場合には、銅イオン共存下で反応させると良い。
また、2,6−ジメトキシフェノールとポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼは、溶媒中に溶解または分散させれば良いが、反応効率が高くなることから、いずれも溶媒中に溶解させることが好ましい。
【0046】
その他の反応条件は、連結基、ポリアルキレングリコールおよびラッカーゼの種類を考慮して適宜選択できるが、通常は以下のようにすると良い。
溶媒は、ラッカーゼの活性を低下させないことを考慮すると、水を含む溶媒が好ましい。ここで「水を含む溶媒」とは、水若しくは水溶液、又は水若しくは水溶液と有機溶媒との混合溶媒のことを指す。
水溶液としては、好ましいものとして緩衝液が挙げられる。
緩衝液としては、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液及びコハク酸緩衝液等が挙げられる。
有機溶媒としては、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ケトン、エステル、アルコール、エーテル、その他周知のものをいずれも用いることができる。代表的なものとしては、例えば、ヘキサン、トリクロロメタン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。
水若しくは水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の有機溶媒の割合は、10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましい。有機溶媒は、2,6−ジメトキシフェノールを溶解させるのに有効であるが、その割合が高くなるとラッカーゼの活性が低下することがある。
【0047】
反応温度は、25〜90℃であることが好ましく、40〜80℃であることがより好ましい。
反応時間は、1〜48時間であることが好ましく、20〜30時間であることがより好ましい。
溶媒のpHは、4〜7であることが好ましく、5〜6.5であることがより好ましい。
反応開始時の2,6−ジメトキシフェノールの濃度は、1〜30mMであることが好ましく、1〜20mMであることがより好ましい。
ポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼの使用量は、ラッカーゼの濃度が好ましくは0.05μM以上、より好ましくは0.2μM以上となるようにすることが好ましい。
そして、ポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼは、一種を単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。
【0048】
ラッカーゼが、銅イオンの存在によって活性化されるものである場合には、銅イオンの濃度は、0.01μM〜100μMであることが好ましく、0.1μM〜10μMであることがより好ましく、0.5〜3μMであることが特に好ましい。
銅イオンを用いる場合には、硫酸銅などの銅塩を反応時に添加すれば良い。
【0049】
反応時の撹拌方法は特に限定されず、振盪、回転子又は攪拌翼を用いた攪拌のいずれでもよい。
原料である2,6−ジメトキシフェノールは、全量を一括して反応時に添加しても良いし、複数回に分けて間欠的に添加しても良い。
そして、2,6−ジメトキシフェノールおよびポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼは、粉体として添加しても良いし、溶液として添加しても良い。
【0050】
反応時の2,6−ジメトキシフェノール2量体の生成量は、公知の光学的手法により確認できる。例えば、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する)測定を行い、検出された吸収ピーク強度から、検量線を用いて算出できる。この時、2,6−ジメトキシフェノール2量体自体の吸収ピークから、その生成量を算出しても良いし、原料である2,6−ジメトキシフェノールの吸収ピークから、その残存量を算出し、2量体の生成量に換算しても良い。
【0051】
反応終了後は、必要に応じて適宜、抽出、濃縮、結晶化、ろ過等の後処理を行い、2,6−ジメトキシフェノール2量体を取り出せば良い。
【0052】
上記本発明の製造方法により得られる2,6−ジメトキシフェノール2量体は、種々の分野で有用であり、例えば、エポキシ樹脂、難燃剤、酸化防止剤等の用途に幅広く使用できる。
また、前記2量体以外にも、例えば、各種フェノール類、ナフトール類又は複素環化合物の2量体、あるいは3量体以上の重合物にも有用なものが多い。このようなものの製造にも本発明のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼは好適である。
例えば、原料として2,6−ジメトキシフェノール、グアイアコール(2−メトキシフェノール)、シリンガルダジン(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシベンザルダジン)などのアルコキシフェノール;クレゾールや2,6−ジメチルフェノールなどの各種アルキルフェノール;1−ナフトール;2−ナフトール;ABTSなどの各種複素環化合物;これらの水酸基以外の官能基又は原子が置換された各種誘導体などを原料として用いることができる。
この場合の2量体や3量体以上の重合物の製造方法は、上記2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造方法に準じれば良い。
【実施例】
【0053】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
[試験例1]サーマス・サーモフィルスHB27株の培養とラッカーゼの検出
蒸留水1Lに8gのトリプトン、4gの酵母エキス、2gの塩化ナトリウムを加え、pHを水酸化ナトリウムにより7.0に合わせた培地(以下、TYM培地と略記)をオートクレーブにより加熱滅菌し、サーマス・サーモフィルスHB27株を植菌し、毎分100回転の撹拌をしながら72℃で20時間撹拌培養した。本培養液を、TYM培地に硫酸銅を終濃度1mMとなるように加えた新しい培地に加え、72℃で20時間撹拌培養した。遠心分離(5,000g、10分)により集菌し、沈殿にノバジェン社製バグバスター液およびノバジェン社製のベンゾナーゼを添加し、懸濁した。菌体懸濁液を室温で20分間撹拌し、遠心分離(20,000g、20分)により沈殿を除去した。本菌体抽出液を、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)、0.1mM硫酸銅、1mM ABTSからなる活性測定溶液に加え70℃で保温したところ、硫酸銅を加えた培地より調製した菌体抽出液を用いた反応系では緑色の発色が見られ、ラッカーゼ活性が確認された。
【0055】
[試験例2]ラッカーゼの精製
1mMの硫酸銅を含むTYM培地250mLを用い、試験例1記載の方法に従いサーマス・サーモフィルスを培養し、粗酵素抽出液を調製した。本抽出液を陽イオン交換カラムクロマトグラフィ(ハイトラップSP、アマシャムバイオサイエンス社製)により精製した。カラムを20mMトリスー塩酸緩衝液(pH7.0)で平衡化し、粗酵素抽出液を添加した。非吸着画分を20mMトリスー塩酸緩衝液(pH7.0)で洗浄したところ、ABTS酸化活性は検出されなかった。次に、吸着タンパク質を0−0.2Mの塩化ナトリウムの直線濃度勾配により溶出し、ABTS酸化活性画分を回収した。
次に、疎水性カラムクロマトグラフィ(ブチルトヨパール、トーソー社製)により分離した。陽イオン交換カラムより溶出した活性画分に終濃度1.0Mとなるように硫酸アンモニウムを加え、1.0M硫酸アンモニウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したカラムに吸着させた。非吸着画分を1.0M硫酸アンモニウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)で洗浄したところ、ABTS酸化活性は検出されなかった。次に、吸着タンパク質を1.0−0Mの硫酸アンモニウムの直線濃度勾配により溶出し、ABTS酸化活性画分を回収した。
【0056】
[試験例3]ラッカーゼの電気泳動分析
試験例2において得られた標品約0.5μgを定法に従いSDS−ポリアクリルアミドゲル(10%)電気泳動に供した。泳動後のゲルを軽く水ですすいだ後、定法に従いクーマシーブリリアントブルーで染色したところ、分子量約53kDaを主成分とするバンドが検出された。本バンドは、精製度が向上するに従い濃くなったことから、本バンドがラッカーゼであると推定した。
【0057】
[試験例4]組換えラッカーゼの理化学的性質
(1)活性の銅イオン濃度依存性
特開2006−158252号公報に記載の遺伝子工学的手法により、組換えラッカーゼを調製した。本酵素の活性は銅イオンが存在しない場合、発現されなかった。そこで20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)、1mM ABTSを含む活性測定液中に、0.05μM−1.0mMの銅イオン濃度を加えた反応溶液中で活性を測定した。その結果、図1に示すように、本酵素の活性は銅イオン濃度に依存し、シグモイド曲線近似から見かけの結合定数は30.4μMと算出された。以下の実験では、活性に必要な銅イオン濃度がほぼ飽和に達する0.1mM硫酸銅を活性測定溶液に添加した。
【0058】
(2)基質特異性活性
ラッカーゼ基質として知られるABTS、シリンガルダジン、グアイアコール、2,6−ジメトキシフェノールを用い、本酵素の活性を測定した。20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)、0.1mM硫酸銅、1mMの基質を混合した活性測定溶液に0.8μgの酵素を添加し70℃ で1分間活性を測定した。その結果、いずれの基質に対しても酸化に伴う発色が観察された。発色反応は、ABTSは418nm、シリンガルダジンは525nm、グアイアコール及び2,6−ジメトキシフェノールは468nmで測定し、各基質に対する活性は、表1のようであった。ただし、分子吸光係数として、ABTSは36000M−1cm−1、シリンガルダジンは65000M−1cm−1、グアイアコールは6400M−1cm−1、2,6−ジメトキシフェノールは49600M−1cm−1を用いた。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
(3)活性の温度依存性
本酵素の活性の温度依存性を65℃から99℃の温度範囲で測定した。20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)、0.1mM硫酸銅、1mM ABTSを含む活性測定液中に酵素液を添加し、各温度で10分間保温後、氷水中で冷却し、418nmにおける吸光度を測定した。その結果、図2に示すように、本酵素は92℃付近、具体的には88〜96℃に至適温度を持つことが判明した。以上のことから、本酵素は高温で効率的に反応することが判明した。従来公知のラッカーゼのうち、耐熱性の高い酵素としてバチルスズブチリス由来の酵素が知られているが、バチルスズブチリス由来の酵素の至適温度は75℃である(J.Biol.Chem.277,18849−18859(2002)参照) 。そのため、本発明のラッカーゼはバチルスズブチリス由来の酵素よりもより高温での反応性に優れている。
【0061】
(4)活性のpH依存性
本酵素の活性のpH依存性をpH2.5〜9.0の範囲で測定した。50mMBritton&Robinson緩衝液(50mMホウ酸、50mM酢酸、50mMリン酸の混合緩衝液で、水酸化ナトリウムによりpH調整した)、0.1mM硫酸銅、1mM ABTSを含む活性測定液中に酵素液を添加し、70℃で10分間保温後、氷水中で冷却し、418nmにおける吸光度を測定した。その結果、図3に示すように、本酵素はpH4.5付近、具体的にはpH4.0〜5.7に至適pHを持つことが判明した。
【0062】
(5)耐熱性
20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に溶解した酵素液を各温度で10分間加熱し氷水に静置した。酵素活性を20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)、0.1mM硫酸銅、1mM ABTSを含む活性測定液中で測定した。その結果、図4に示すように、本酵素は85℃以下で加熱処理していない場合と同程度の活性を維持し、未加熱の場合と比較した活性は、90℃で82%以上、100℃で62%以上であった。特開2004−208503号公報に示される耐熱性ラッカーゼは、70℃までしか安定でなく、本好熱菌酵素ははるかに高い耐熱性を有する。
【0063】
(6)高温での活性の半減期
20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に溶解した酵素液を80℃で保温し、一定時間ごとに一部を分取し氷水に静置した。酵素活性を20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)、0.1mM硫酸銅、1mM ABTSを含む活性測定液中で測定した。その結果、図5に示すような活性の経時変化が得られた。本グラフから、本酵素の80℃における半減期は868分(14時間以上)と算出された。従来公知のラッカーゼのうち、耐熱性の高い酵素としてバチルスズブチリス由来の酵素が知られている。バチルスズブチリス由来の酵素は80℃で112分の半減期を示す(J.Biol.Chem.277,18849−18859(2002))ことが知られているが、本発明のラッカーゼはバチルスズブチリス由来の酵素よりも格段に高い耐熱性を有していた。
【0064】
[実施例1]ポリエチレングリコール修飾ラッカーゼの調製
試験例4において得られたラッカーゼ約20μMを、40mMホウ酸緩衝液(pH10.0)に溶解し、1.5mM活性化PEG試薬(SigmaM3277)を添加し、室温でゆっくり撹拌しながら4時間反応させた。10mMリジンにより反応を停止し、残存している過剰分のリジンを限外濾過にて除去した。質量分析計による分析により、分子量分布として60kDから100kD,質量平均分子量80kDのポリエチレングリコール修飾ラッカーゼを得た。
【0065】
2,6−ジメトキシフェノール2量体の生成量は、2,6−ジメトキシフェノールの反応量として評価した。下記条件によるHPLC測定において検出された吸収ピークの強度より、反応液中の2,6−ジメトキシフェノールの残存量を測定し、反応量を算出した。なお、「HPLC測定条件」中の「%」は「体積%」を表す。
(反応量)[mM]=(反応に使用した2,6−ジメトキシフェノール量)−(反応を終了したときの2,6−ジメトキシフェノールの残存量)
(HPLC測定条件)
検出装置:HPLC(島津製作所製)
カラム:InertsilODS−3(GLサイエンス社製)
溶出条件:アセトニトリル/蒸留水
0−5分:20%(アセトニトリル%)
5−21分:20−100%グラジエント
21−31分:100%
送液速度:1.0mL/min
検出波長:270nm
【0066】
[実施例2]2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造
15mL試験管中に、20mM酢酸緩衝液(pH5.8)を5mL、硫酸銅水溶液を終濃度2.5μMとなるように、ポリエチレングリコール修飾ラッカーゼを酵素濃度0.29μMとなるようにそれぞれ入れた。これに、アセトン50μLに溶解した2,6−ジメトキシフェノールを終濃度10mMとなるように添加して反応液を調製した。この反応液を60℃の条件で振とうし、6時間後に反応液から沈殿生成物を除去した。再度、アセトン50μLに溶解した2,6−ジメトキシフェノールを終濃度10mMとなるように添加して、同様に6時間反応を行った。これを4回繰り返し、上記方法で反応量を算出した。反応4回の合計の2,6−ジメトキシフェノール反応量は、36.4mMであった。
【0067】
[比較例1]
15mL試験管中に、20mM酢酸緩衝液(pH5.8)を5mL、硫酸銅水溶液を終濃度2.5μMとなるように、未修飾ラッカーゼを酵素濃度0.29μMとなるようにそれぞれ入れた。これに、アセトン50μLに溶解した2,6−ジメトキシフェノールを終濃度10mMとなるように添加して反応液を調製した。この反応液を60℃の条件で振とうし、6時間後に反応液から沈殿生成物を除去した。再度、アセトン50μLに溶解した2,6−ジメトキシフェノールを終濃度10mMとなるように添加して、同様に6時間反応を行った。これを4回繰り返し、上記方法で反応量を算出した。反応4回の合計の2,6−ジメトキシフェノール反応量は、9.7mMだった。
【0068】
以上のように、ポリエチレングリコール修飾ラッカーゼを用いて、効率良く2,6−ジメトキシフェノール2量体が得られた。これは、未修飾ラッカーゼを用いた比較例1に対し3.8倍の反応量であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、2,6−ジメトキシフェノール2量体をはじめ、各種フェノール類、ナフトール類又は複素環化合物の2量体、あるいは3量体以上の重合物の製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】サーマス・サーモフィルス由来ラッカーゼ活性の銅イオン濃度依存性を示すグラフである。
【図2】サーマス・サーモフィルス由来ラッカーゼ活性の温度依存性を示すグラフである。
【図3】サーマス・サーモフィルス由来ラッカーゼ活性のpH依存性を示すグラフである。
【図4】サーマス・サーモフィルス由来ラッカーゼ活性の耐熱性を示すグラフである。
【図5】サーマス・サーモフィルス由来ラッカーゼの80℃で保温した際の活性の半減期を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラッカーゼと、質量平均分子量が500〜30000であるポリアルキレングリコールとが、連結基を介して共有結合していることを特徴とするポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである請求項1に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの質量平均分子量が2000〜20000である請求項2に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
【請求項4】
前記連結基が1,3,5−トリアジン骨格を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
【請求項5】
前記ラッカーゼが以下の理化学的性質を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
(1)銅イオンの存在によって活性化される。
(2)フェノール系化合物、複素環系化合物に作用し、pH5.0、70℃、1分間の条件における基質の酸化反応の活性が、2,6−ジメトキシフェノール>2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)>シリンガルダジン>グアイアコールである。
(3)2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)を基質とした場合の酸化反応の至適温度が88〜96℃である。
(4)2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)を基質とした場合の酸化反応の至適pHが4.0〜5.7である。
(5)未加熱の場合と比較した酵素活性が、90℃で10分間の加熱後で82%以上、100℃で10分間の加熱後で62%以上である耐熱性を有する。
(6)85℃、pH6.0にて保持したとき、酵素活性の失活の半減期が14時間以上である。
(7)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定された分子量が約53kDaである。
【請求項6】
前記ラッカーゼを構成するタンパク質が、下記(a)又は(b)である請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むラッカーゼタンパク質。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつラッカーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項7】
前記ラッカーゼを構成するタンパク質において、アミノ酸配列の1番目のグルタミンがピログルタミル化された請求項6に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
【請求項8】
前記ラッカーゼが、サーマス(Thermus)属に属する菌を培養することによって得られるものである請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
【請求項9】
前記サーマス(Thermus)属に属する菌が、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)HB27株である請求項8に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
【請求項10】
前記ラッカーゼが、下記(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸、あるいは下記(c)又は(d)の核酸を含む発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培養することによって得られるものである請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼ。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むラッカーゼタンパク質。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつラッカーゼ活性を有するタンパク質。
(c)配列番号2で表されるポリヌクレオチド配列を含む核酸。
(d)配列番号2で表されるポリヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができ、かつラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリアルキレングリコール修飾ラッカーゼを用いることを特徴とする2,6−ジメトキシフェノール2量体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−17796(P2009−17796A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181136(P2007−181136)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】