説明

ポリイミドフィルムの製造方法

【課題】生産計画の自由度が高くとれる、ポリイミドフィルム前駆体であるポリアミド酸のグリーンフィルムの特定保存方法によるポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】酸素透過率が100ml/m2・day・MPa以下、水蒸気透過率が10g/m2・day以下の基材からなる包装容器、好ましくはガスバリア性に優れたフィルムからなる包装袋に、ポリイミドの前駆体フィルムを不活性ガスと共に密閉して変質を防止して保存することにより、該前駆体のフィルムの製造工程とイミド化処理工程を分離して、自由度の高い生産計画を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムの製造方法に関し、特にポリイミドフィルム前駆体(グリーンフィルム)をイミド化に先立って一時的に保存し、その後イミド化する方法に特徴を有するポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、高分子フィルム素材中、耐熱性に優れ、電気特性、機械特性にすぐれるため、フレキシブルプリント配線板、TABテープ基材、COF基材、電気絶縁材料、磁気記録媒体用基材などとして広く用いられている。
一般にポリイミドフィルムは、ジアミン類とテトラカルボン酸無水物類を溶液中で重合して、前駆体であるポリアミド酸となし、ついで、かかる前駆体溶液を支持体上に塗布・乾燥して自己支持性の前駆体フィルムとし、さらに前記前駆体フィルム(グリーンフィルム)を熱処理してアミド酸を脱水閉環しイミド化させることにより得られる。(特許文献1〜3参照)
【特許文献1】特開昭60−63226号公報
【特許文献2】特開平4−198229号公報
【特許文献3】特表平11−508059号公報
【0003】
ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸は、ポリイミドに比較すると不安定な高分子であり、長時間の保管により変質しやすい。前駆体フィルムが変質すると、加熱処理してポリイミド化しても、十分な機械特性(引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸度など)や電気特性を得ることが出来ない。従って、通常、前駆体であるポリアミド酸フィルムの製造は、次工程であるポリイミド化のための熱処理工程と連続して行われる。
しかしながら、前駆体フィルムの製造に要する時間と、ポリイミド化のために要する時間とは、かならずしも一致せず、また、そのバランスも、ポリマーの種類、フィルム厚み等により異なってくる。したがって、かかる連続した製造方法では、生産の自由度が著しく低く、銘柄切り替えなどでの無駄が割けられないのが現状であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリイミドの前駆体フィルムを安定に保管する方法を提供するもので、それによって前駆体フィルム製造工程とポリイミドフィルムへのイミド化工程を分離することができる生産計画の自由度が高いポリイミドフィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、前駆体フィルムの安定な保管方法を見出し、結果として銘柄切り替えなどが容易で、前駆体であるポリアミド酸フィルムの製造と次工程であるポリイミド化のための熱処理工程とを必ずしも連続させる必要のない生産自由度が高いポリイミドフィルムの製造方法を見出すに至った。すなわち本発明は、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の溶液を支持体上に塗布・乾燥して得られる自己支持性のフィルムをイミド化に先立って保存するに際し、酸素透過率が100ml/m2・day・MPa以下、水蒸気透過率が10g/m2・day以下の素材からなる包装容器に不活性ガスと共に密閉保存し、その後イミド化することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、前駆体フィルムの安定なる保管が可能であるため、前駆体フィルムとポリイミドフィルムの加工工程を分離することができる。そのため、生産計画の自由度が増し、設備の補修においても全体を停止させることなく実施が可能である。また、極端に厚みが異なる前駆体フィルムを作製する必要がある場合に、各々のフィルム厚に適する方式のコーティング機を選択できるなど、生産品位の上でもメリットが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のポリイミドフィルムは、芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを主成分として用いそれらを反応させて得られる。
上述の「反応」は、まず、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸無水物類とを開環重付加反応に供してポリアミド酸溶液を得て、次いで、このポリアミド酸溶液を支持体上に塗布・乾燥させ前駆体フィルムを成形した後に、特定素材からなる包装容器に不活性ガスと共に密閉保存し、その後イミド化のための加熱により脱水縮合(イミド化)することによりなされる。
【0008】
<芳香族ジアミン類>
本発明において用いることの出来るジアミン類としては以下の物を例示できる。例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、
【0009】
ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン。
【0010】
1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0011】
本発明では以下に述べるベンゾオキサゾール構造を有するジアミン類を全ジアミンの50モル%以上用いることが好ましい。かかるジアミン類は一種または二種以上、併用しても構わない。本発明で用いるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、具体的には以下のものが挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
【化10】

【0022】
【化11】

【0023】
【化12】

【0024】
【化13】

【0025】
本発明において好ましく用いられるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類は、非対称構造の芳香族ジアミン類であり、さらに好ましくは5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールである。
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0026】
<芳香族テトラカルボン酸無水物類>
本発明で用いられるテトラカルボン酸無水物は芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0027】
【化14】

【0028】
【化15】

【0029】
【化16】

【0030】
【化17】

【0031】
【化18】

【0032】
【化19】

【0033】
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の50モル%未満であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上、併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0034】
ジアミン類と、テトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの重量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0035】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させても構わない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の重量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
【0036】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の有機溶媒溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
【0037】
また重合前、ないしは重合中に、滑剤となる微粒子を添加することも、好ましい態様である。微粒子としては粒子径0.03〜3.0μmの有機、または無機の耐熱性微粒子を用いることが可能であり、好ましくはシリカ、アルミナ、酸化チタンなどの金属酸化物、ないし、リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム等の不溶性の無機塩類などを用いることが出来る。
【0038】
次に、かかるポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥することにより前駆体フィルム(グリーンフィルム)を得る。ポリアミド酸溶液を塗布する支持体は、ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形するに足る程度の平滑性、剛性を有していればよく、表面が金属、プラスチック、ガラス、磁器などであるドラムまたはベルト状回転体などが挙げられる。中でも、支持体の表面は好ましくは金属であり、より好ましくは錆びなくて耐腐食に優れるステンレスである。支持体の表面にはCr、Ni、Snなどの金属メッキを施してもよい。支持体表面は必要に応じて鏡面にしたり、あるいは梨地状に加工することができる。支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0039】
支持体上に塗布したポリアミド酸を乾燥して前駆体フィルム(グリーンフィルム)を得る条件は特に限定はなく、温度としては70〜150℃が例示され、好ましくは80〜120℃であり、乾燥時間としては、5〜180分間が例示され、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜90分間である。そのような条件を達する乾燥装置も従来公知のものを適用でき、熱風、熱窒素、遠赤外線、高周波誘導加熱などを挙げることができる。
【0040】
本発明は、このようにして得られた前駆体フィルム(グリーンフィルム)を巻き取り、一時的に保存する際に、酸素透過率が100ml/m2・day・MPa以下、水蒸気透過率が10g/m2・day以下の素材からなる包装容器に不活性ガスと共に密閉保存することを特徴とするものである。
酸素透過率が100ml/m2・day・MPa以下、水蒸気透過率が10g/m2・day以下の素材からなる包装容器としては、密閉可能な金属容器、ガラス容器等を例示できるが、好ましくは、ガスバリア性の包装用フィルムからなる包装袋を用いることができる。
従来、ガスバリア性に優れたフィルムとしては、プラスチックフィルム上に金属アルミニウムを蒸着したものや、塩化ビニリデンやエチレンビニールアルコール共重合体をコーティングしたものを用いることができる。酸化珪素、酸化アルミニウムなどの無機酸化物薄膜を真空蒸着法やCVD(化学的気相成長)法などにより積層したものも用いることができる。
【0041】
ガスバリア性に優れた包装用フィルムとしては、より具体的には、アルミニウムなどの金属薄膜を形成した高分子フィルム、金属箔とラミネートされた高分子フィルム、硫化亜鉛などの硫化物薄膜、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、等の金属酸化物、およびまたは、その混合物からなるセラミック薄膜、ガラス薄膜が形成された高分子フィルムを例示できる。ここでいう金属酸化物とは、酸化が完全でなく酸素を若干欠損したもの、例えばSiOx(x=1.0〜1.9)といった表現をする無機酸化物も含む。ガスバリア性の観点から酸化ケイ素または酸化アルミニウムが好ましく、さらに耐屈曲性の観点から酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物が特に好ましい。また高いガスバリア性という観点からは金属箔をラミネートした高分子フィルムが好ましい。
【0042】
ガスバリア性に優れたフィルムの基材フィルムとしては、有機高分子を溶融押出し、必要に応じ長手方向および、または幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルム、あるいは溶液流延法により製膜したフィルムを用いることができる。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニールアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリアリレートなどがあげられる。また、これらの(有機重合体)有機高分子は他の有機重合体と共重合をしたりブレンドしたりしてもよい。蒸着基材フィルムとして蒸着適性、ならびにガスバリアフィルムからなる包装袋としての適性とのバランスから、特に二軸延伸ポリアミドフィルムまたは二軸延伸ポリエステルフィルムが好ましく用いられる。
本発明の包装袋はかかるガスバリア性に優れた高分子フィルム基材に、更に熱可塑性のシーラント層をラミネートし、包装用袋として用いられる。
【0043】
包装された前駆体フィルム(グリーンフィルム)は、室温以下、好ましくは5℃以下の冷所に保管される。保管期間は最小で数時間、最大で好ましくは3ヶ月以内、さら好ましくは1ヶ月以内、なお好ましくは14日以内である。保管期間が当該期間以上になると、前駆体フィルムの変質度合いが顕著になり所定のポリイミドフィルムを得ることが難しくなる。
本発明に於ける不活性ガスとは窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等を云う。かかる不活性ガスは乾燥気体として使用することが好ましく、その露点は0℃以下、さらには零下15℃以下、なおさらには零下30℃以下に制御されることが好ましい。
【0044】
このようにして保管された前駆体フィルム(グリーンフィルム)は、解梱後にイミド化反応によりポリイミドフィルムに転化される。本発明において好ましく用いられるイミド化方法は熱閉環法である。熱閉環法とは、ポリアミド酸を加熱することでイミド化する方法である。本発明ではポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を促進しても構わない。この方法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。
【0045】
閉環触媒をポリアミド酸溶液に加えるタイミングは特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどといった脂肪族第3級アミンや、イソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどといった複素環式第3級アミンなどが挙げられ、中でも、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンが好ましい。ポリアミド酸1モルに対する閉環触媒の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.5〜8モルである。
【0046】
脱水剤をポリアミド酸溶液に加えるタイミングも特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などといった脂肪族カルボン酸無水物や、無水安息香酸などといった芳香族カルボン酸無水物などが挙げられ、中でも、無水酢酸、無水安息香酸あるいはそれらの混合物が好ましい。また、ポリアミド酸1モルに対する脱水剤の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.1〜4モルである。脱水剤を用いる場合には、アセチルアセトンなどといったゲル化遅延剤を併用してもよい。
【0047】
本発明においては、支持体に形成されたポリイミドフィルムの前駆体(グリーンフィルム)を完全にイミド化する前に支持体から剥離してもよいし、イミド化後に剥離してもよい。
本発明におけるポリイミドフィルムの厚さは特に限定されないが、電子基板の基材に用いることを考慮すると、通常1〜150μm、好ましくは3〜50μmである。この厚さはポリアミド酸溶液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。
本発明におけるポリイミドフィルムは、通常は無延伸フィルムであるが、1軸または2軸に延伸しても構わない。ここで、無延伸フィルムとは、テンター延伸、ロール延伸、インフレーション延伸などによってフィルムの面拡張方向に機械的な外力を意図的に加えずに得られるフィルムをいう。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
【0049】
2.フィルムの厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン(R)1245D)を用いて測定した。
3.フィルムの引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸度
測定対象のポリイミドフィルムを、流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R)、機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。
【0050】
4.フィルムの線膨張係数(CTE)
測定対象のポリイミドフィルムについて、下記条件にてMD方向およびTD方向の伸縮率を測定し、30℃〜45℃、45℃〜60℃、…と15℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を300℃まで行い、全測定値の平均値をCTEとして算出した。MD方向、TD方向の意味は上記「3.」の測定と同様である。
装置名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 20mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0051】
5.フィルムの融点、ガラス転移温度
測定対象のポリイミドフィルムについて、下記条件で示差走査熱量測定(DSC)を行い、融点(融解ピーク温度Tpm)とガラス転移点(Tmg)をJIS K 7121に準拠して求めた。
装置名 ; MACサイエンス社製DSC3100S
パン ; アルミパン(非気密型)
試料重量 ; 4mg
昇温開始温度 ; 30℃
昇温終了温度 ; 600℃
昇温速度 ; 20℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0052】
6.フィルムの熱分解温度
測定対象のポリイミドフィルムを充分に乾燥したものを試料として、下記条件で熱天秤測定(TGA)を行い、試料の重量が5%減る温度を熱分解温度とみなした。
装置名 ; MACサイエンス社製TG−DTA2000S
パン ; アルミパン(非気密型)
試料重量 ; 10mg
昇温開始温度 ; 30℃
昇温速度 ; 20℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0053】
7.包装用基材フィルムの酸素透過率
23℃で酸素透過率測定装置(モダンコントロールズ社製、OX−TRAN100)を用いて測定した。
【0054】
8.包装用基材フィルムの水蒸気透過率
40℃、100%RHの条件で水蒸気透過率測定装置(米国、モコン(MOCON)社製、PARMATRAN−W)を用いて測定した。
【0055】
(実施例1)
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、500質量部の5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールを入れた。次いで、5000質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、485質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて15時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.5であった。
【0056】
(ポリアミド酸のグリーンフィルムの製造)
このポリアミド酸溶液を厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製、E5001)にコーティングし(スキージ/ベルト間のギャップは、650μm)、90℃にて60分間乾燥した。乾燥後のポリアミド酸フィルム(グリーンフィルム)は、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離すると自己支持性を有していた。かかる前駆体フィルムを支持体であるポリエチレンテレフタレートフィルムごと、長さ100m分を、6インチのプラスチック管に巻き取った。
得られた前駆体フィルムロールを、アルミ箔(厚さ9μm)とナイロンフィルム(厚さ15μm)からなるラミネートフィルムを基材としたヒートシール性フィルムからなる包装袋に、窒素ガス置換して密封保存した。包装袋のフィルムの酸素透過率と水蒸気透過率を表1に示す。密封包装された前駆体フィルムは、25℃、60%RHに調整された室内に14日間放置された。
【0057】
(ポリイミドフィルムの製造)
14日放置された前駆体フィルムを開梱し、連続式の熱処理炉に通し、200℃にて5分間450℃にて5分間熱処理しイミド化反応を進行させた。その後、5分間で室温にまで冷却することで、褐色を呈するポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの特性値を表1に記載する。
【0058】
(実施例2)
実施例1で得られた前駆体フィルムロールを、ナイロンフィルムに酸化ケイ素/酸化アルミニウム二元蒸着した透明ガスバリアフィルム(東洋紡績(株)製、エコシアール(R))を基材としたヒートシール性フィルムからなる包装袋に、窒素置換して密封保存した。以下、実施例1と同様に保管、および熱処理を行いポリイミドフィルムを得た。ガスバリアフィルムの酸素透過率、水蒸気透過率、および得られたポリイミドフィルムの特性値を表1に示した。表1のとおり、得られたポリイミドフィルムの十分高い機械的特性を有するものであった。
【0059】
(比較例1)
実施例1で得られた前駆体フィルムロールを、梱包せずに25℃60%RHの室内に14日間放置し、その後に同様に熱処理を行いポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの特性値を表1に示した。表1のとおり、得られたポリイミドフィルムの機械的特性は実施例に比べ劣るものであった。
【0060】
(比較例2)
実施例1で得られた前駆体フィルムロールを、ナイロンフィルム(厚さ15μm)を基材としたヒートシール性フィルムからなる包装袋に、窒素置換して密封した。以下、実施例1と同様に保管、および熱処理を行いポリイミドフィルムを得た。ナイロンフィルムの酸素透過率、水蒸気透過率、および得られたポリイミドフィルムの特性値を表1に示した。表1のとおり、得られたポリイミドフィルムの機械的特性は実施例に比べ劣るものであった。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明においては、前駆体フィルムの安定なる保管が可能であるため、前駆体フィルムとポリイミドフィルムの加工工程を分離することができる。そのため、生産計画の自由度が増し、設備の補修においても全体を停止させることなく実施が可能である。したがって、本発明は、ポリイミドフィルム製造において極めて有用であり、製造されたポリイミドフィルムは、特にその優れた耐熱性、機械的強度、品位が優れるので、フレキシブルプリント配線板、TABテープ基材、COF基材、電気絶縁材料、磁気記録媒体用基材などに用いる支持体として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の溶液を支持体上に塗布・乾燥して得られる自己支持性のフィルムをイミド化に先立って保存するに際し、酸素透過率が100ml/m2・day・MPa以下、水蒸気透過率が10g/m2・day以下の素材からなる包装容器に不活性ガスと共に密閉保存し、その後イミド化することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−2070(P2006−2070A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180909(P2004−180909)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】