説明

ポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法、及びポリイミド前駆体水溶液組成物

【課題】 本発明は、水以外の溶媒を必要とせずに、より環境適応性が高いポリイミド前駆体水溶液組成物の容易な製造方法を提案することである。
【解決手段】 本発明は、水を反応溶媒として、イミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸二無水物と25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるジアミンとを反応させて、ポリイミド前駆体の水溶液組成物を製造することを特徴とするポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体水溶液組成物の容易な製造方法に関する。この製造方法は、水以外の溶媒を必要としないので、より環境適応性が高い有機溶媒を含まない水溶媒からなるポリイミド前駆体水溶液組成物を得ることができる。このポリイミド前駆体水溶液組成物を用いて好適にポリイミドを得ることができる。
【背景技術】
【0002】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるポリイミドは、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れるために、電気電子産業分野などで広く用いられている。しかし、ポリイミドは有機溶媒への溶解性が悪いので、通常は、ポリイミド前駆体のポリアミック酸を有機溶媒に溶解した溶液組成物を、例えば基材表面上に塗布し、次いで高温で加熱して脱水閉環(イミド化)させることでポリイミドを得ている。このように有機溶媒を用いることや高温での加熱処理が必要なことから環境面で必ずしも好適ではなく、場合によっては用途が限定されることもあった。
【0003】
このため、水溶性ポリイミド前駆体が提案されている。特許文献1には、有機溶媒中で得られたポリアミド酸を加水分解した後で水中に投入してポリアミド酸粉末を得、そのポリアミド酸粉末をさらに温水中で粉砕したり洗浄したりした後で、2−メチルアミノジエタノールなどの特定のアミン化合物と混合して水溶性ポリアミド酸塩を得ることが提案されている。しかし、この水溶性ポリアミド酸塩からなるポリイミド前駆体組成物は、高分子量化し難く、また得られるポリイミドの特性も改良の余地があった。
【0004】
特許文献2には、有機溶媒中で得られたポリアミック酸と1,2−ジメチルイミダゾ−ル及び/又は1−メチル−2−エチルイミダゾ−ルとの反応混合物から分離取得した水溶性ポリイミド前駆体が提案されている。ここでは、水溶性ポリイミド前駆体の水溶性組成物は、有機溶媒中で水溶性ポリイミド前駆体を調製後、水溶性ポリイミド前駆体を一旦分離し、分離した水溶性ポリイミド前駆体を水溶媒に溶解する方法によって得られており、極めて複雑な操作が必要であった。しかも、有機溶媒中で調製された水溶性ポリイミド前駆体からは有機溶媒を完全に除去できない(完全に除去しようとして加熱処理するとイミド化が起こり溶解性がなくなる)ために、水溶液組成物中に有機溶媒が同伴するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−59832号公報
【特許文献2】特開2002−226582公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水以外の溶媒を必要とせずに、より環境適応性が高いポリイミド前駆体水溶液組成物の容易な製造方法を提案することである。この製造方法によって、極めて簡便に有機溶媒を含まない水溶媒からなるポリイミド前駆体水溶液組成物を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の事項に関する。
【0008】
1. 水を反応溶媒として、イミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸二無水物と25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるジアミンとを反応させて、ポリイミド前駆体の水溶液組成物を製造することを特徴とするポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【0009】
2. イミダゾール類の使用量が、テトラカルボン酸二無水物に対して1.6倍モル以上であることを特徴とする前記項1に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【0010】
3. イミダゾール類が、置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類であることを特徴とする前記項1または2に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【0011】
4. イミダゾール類が、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、及び1−メチル−4−エチルイミダゾールからなる群から選択されるイミダゾール類であることを特徴とする前記項3に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【0012】
5. 得られるポリイミド前駆体の対数粘度が0.2以上であることを特徴とする前記項1〜4のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【0013】
6. テトラカルボン酸二無水物と25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるジアミンとが反応して得られるポリアミック酸が、イミダゾール類と共に、水溶媒に溶解しており、有機溶媒の含有量が5%未満であることを特徴とするポリイミド前駆体水溶液組成物。
【0014】
7. 有機溶媒を実質的に含まないことを特徴とする前記項6に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、水以外の溶媒を必要とせずに、より環境適応性が高いポリイミド前駆体水溶液組成物の容易な製造方法を提案することである。この製造方法によって、極めて簡便に(直接的に)有機溶媒を含まない水溶媒からなるポリイミド前駆体水溶液組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法は、水を反応溶媒として、イミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸二無水物と25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるジアミンとを反応させることを特徴とする。
【0017】
「水を反応溶媒として」とは、溶媒の主成分として水を用いることを意味する。したがって、水以外の有機溶媒を全溶媒中50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で用いてもよい。なお、ここで言う有機溶媒には、テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸成分、ジアミン成分、ポリアミック酸等のポリイミド前駆体、及びイミダゾール類は含まれない。
【0018】
前記有機溶媒とは、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m−クレゾール、フェノール、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0019】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法においては、環境適応性が高いので、反応溶媒が、有機溶媒の含有量が5%未満である溶媒であることが好ましく、水以外の有機溶媒を含まない水溶媒であることが特に好ましい。
【0020】
本発明で用いるイミダゾール類(化合物)としては、下記化学式(1)の化合物を好適に挙げることができる。
【0021】
【化1】

化学式(1)において、X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、或いは炭素数が1〜5のアルキル基である。
【0022】
本発明で用いるイミダゾール類としては、25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上特に1g/L以上であることが好ましい。
さらに、化学式(1)のイミダゾール類においては、X〜Xが、それぞれ独立に、水素原子、或いは炭素数が1〜5のアルキル基であって、X〜Xのうち少なくとも2個が、炭素数が1〜5のアルキル基であるイミダゾール類、すなわち置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類がより好ましい。
【0023】
置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類は水に対する溶解性が高いので、ポリイミド前駆体水溶液組成物を容易に製造することができる。これらのイミダゾール類としては、1,2−ジメチルイミダゾール(25℃における水に対する溶解度は239g/L、以下同様)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(1000g/L)、4−エチル−2−メチルイミダゾール(1000g/L)、及び1−メチル−4−エチルイミダゾール(54g/L)などが好適である。
なお、25℃おける水に対する溶解度は、当該物質が、25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクトなどのベータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994−2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0024】
本発明で用いるイミダゾール類の使用量は、原料のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によって生成するポリアミック酸のカルボキシル基に対して、好ましくは0.8倍当量以上、より好ましくは1.0倍当量以上、さらに好ましくは1.2倍当量以上である。イミダゾール類の使用量がポリアミック酸のカルボキシル基に対して0.8倍当量未満では、均一に溶解したポリイミド前駆体水溶液組成物を得るのが容易でなくなる場合がある。また、イミダゾール類の使用量の上限は、特に限定されないが、通常は10倍当量未満、好ましくは5倍当量未満、より好ましくは3倍当量未満である。イミダゾール類の使用量が多過ぎると、非経済的になるし、且つポリイミド前駆体水溶液組成物の保存安定性が悪くなることがある。
本発明において、イミダゾール類の量を規定するポリアミック酸のカルボキシル基に対する倍当量とは、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基1個に対して何個(何分子)の割合でイミダゾール類を用いるかを表す。なお、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基の数は、原料のテトラカルボン酸成分1分子当たり2個のカルボキシル基を形成するものとして計算される。
したがって、本発明で用いるイミダゾール類の使用量は、原料のテトラカルボン酸二無水物に対して、好ましくは1.6倍モル以上、より好ましくは2.0倍モル以上、さらに好ましくは2.4倍モル以上である。
【0025】
本発明で用いるイミダゾール類の特徴は、原料のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によって生成するポリアミック酸のカルボキシル基と塩を形成して水に対する溶解性を高めるだけでなく、さらにポリイミド前駆体をイミド化(脱水閉環)してポリイミドにする際に、極めて高い触媒的な作用を有することにある。この結果、本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物を用いると、例えばより低温且つ短時間の加熱処理によっても、容易に極めて高い物性を有するポリイミドを製造することが可能になる。
【0026】
本発明で用いるテトラカルボン酸二無水物は、特に限定するものではないが、得られるポリイミドの特性から芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましい。例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m−ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを好適に挙げることができる。また、のテトラカルボン酸二無水物は一種である必要はなく、複数種の混合物であっても構わない。
【0027】
本発明で用いるジアミンは、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上、好ましくは1g/L以上であるジアミンである。25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上であるジアミンであることは、均一に溶解したポリイミド前駆体水溶液組成物を得るために特に必要な特性であって、水に対する溶解度が0.1g/L未満では、均一に溶解したポリイミド前駆体水溶液組成物を得るのが難しくなるので好ましくない。
【0028】
ジアミンは、25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上であれば特に限定されないが、得られるポリイミドの特性から芳香族ジアミン、脂環式ジアミンが好ましい。
芳香族ジアミンとしては、好ましくは1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンである。芳香族ジアミンが2個を越える芳香族環を持つ場合には、水に対する溶解度が0.1g/L以下になる場合がある。
なお、25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上のジアミンとは、当該ジアミンが25℃の水1L(1000ml)に0.1g以上溶解することを意味する。
【0029】
すなわち、本発明で用いる好ましい芳香族ジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン(25℃における水に対する溶解度は120g/L、以下同様)、m−フェニレンジアミン(77g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.19g/L)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.24g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.54g/L)、2,4−トルエンジアミン(62g/L)、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(1.3g/L)、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン(200g/L)などを例示できるが、水溶性が高く、得られるポリイミドの結晶性が高くて優れた特性を得ることができるので、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの混合物が好ましく、さらにp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの混合物がより好ましい。
また、脂環式ジアミンとしては、1,4−ジアミノシクロへキサン(1000g/L)などを挙げることができる。
なお、25℃おける水に対する溶解度は、当該物質が、25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクトなどのベータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994−2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0030】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法において、反応は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを略等モル用い、イミド化反応を抑制するために100℃以下好ましくは80℃以下の比較的低温で行なわれる。限定するものではないが、通常の反応温度は25℃〜100℃、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは50℃〜80℃であり、反応時間は0.1〜24時間程度、好ましくは2〜12時間程度である。反応温度及び反応時間を前記範囲内とすることによって、生産効率よく高分子量のポリイミド前駆体水溶液組成物を容易に得ることができる。なお、反応は、空気雰囲気間でも構わないが、通常は不活性ガス好ましくは窒素ガス雰囲気下で好適に行われる。
また、テトラカルボン二無水物とジアミンとを略等モルとは、具体的にはモル比[テトラカルボン酸二無水物/ジアミン]で0.90〜1.10程度、好ましくは0.95〜1.05程度である。
【0031】
本発明によって得られるポリイミド前駆体水溶液組成物においては、ポリイミド前駆体(実質的にポリアミック酸)に起因する固形分濃度に基づいて温度30℃、濃度0.5g/100mL(水溶解)で測定した対数粘度が0.2以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上または超の高分子量であることが好適である。対数粘度が前記範囲よりも低くい場合には、ポリイミド前駆体の分子量が低いことから、本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物を用いても、高い特性のポリイミドを得ることが難しくなることがある。
【0032】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物は、ポリイミド前駆体(実質的にポリアミック酸)に起因する固形分濃度が、限定されないが、ポリイミド前駆体と溶媒との合計量に対して、好ましくは5質量%〜45質量%、より好ましくは7質量%〜40質量%、さらに好ましくは10質量%超〜30質量%であることが好適である。固形分濃度が5質量%より低いと使用時の取り扱いが悪くなることがあり、45質量%より高いと溶液の流動性がなくなることがある。また本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物の30℃における溶液粘度は、限定されないが、好ましくは1000Pa・sec以下、より好ましくは0.5〜500Pa・sec、さらに好ましくは1〜300Pa・sec、特に好ましくは3〜200Pa・secであることが取り扱い上好適である。
【0033】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物は、加熱処理によって水溶媒を除去するとともにイミド化(脱水閉環)することによって好適にポリイミドを得ることができる。加熱処理条件は、特に限定されないが、概ね100℃以上、好ましくは120℃〜600℃、より好ましくは150℃〜500℃で、更に好ましくは150℃〜350℃で、好ましくは段階的に温度を上げながら、0.01時間〜30時間、好ましくは0.01〜10時間である。
この加熱処理は、常圧下で好適に行うこともできるが、水溶媒を効率よく除去するために減圧下で行っても構わない。また初期段階で減圧下比較的低温で加熱処理して脱泡処理しても構わない。いきなり加熱処理温度を高くすると、発泡などの不具合が生じることがある。
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物は、比較的低温(例えば150℃〜300℃、好ましくは200℃〜280℃)で加熱処理しただけで、有機溶媒を用いたポリイミド前駆体(ポリアミック酸)溶液組成物を用いた場合に較べて遜色ない優れた特性を容易に得ることができる。したがって、本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物を用いることによって、ポリイミドフィルムのみならずポリイミドシームレスベルトなども好適にあることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0035】
以下の例で用いた特性の測定方法を以下に示す。
<固形分濃度>
試料溶液(その質量をw1とする)を、熱風乾燥機中120℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で30分間加熱処理して、加熱処理後の質量(その質量をw2とする)を測定する。固形分濃度[質量%]は、次式によって算出した。
固形分濃度[質量%]=(w2/w1)×100
【0036】
<対数粘度>
試料溶液を、固形分濃度に基づいて濃度が0.5g/dl(溶媒は水)になるように希釈した。この希釈液を、30℃にて、キャノンフェンスケNo.100を用いて流下時間(T)を測定した。対数粘度は、ブランクの水の流下時間(T)を用いて、次式から算出した。
対数粘度={ln(T/T)}/0.5
【0037】
<溶液粘度(回転粘度)>
トキメック社製E型粘度計を用いて30℃で測定した。
【0038】
<芳香族ポリイミドシームレスベルトの製造>
ポリイミド前駆体水溶液組成物を、内径150mm、長さ300mmの円筒金型の内側表面に、回転数100rpmで回転させながら均一に塗布し、その後回転数が200rpmでこの塗膜を、80℃で30分間、120℃で30分間、200℃で10分間、次いで250℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmの芳香族ポリイミドシームレスベルトを得た。
得られた芳香族シームレスベルトについて目視により状態観察を行った。また、この芳香族ポリイミドシームレスベルトの特性を評価した。
【0039】
<芳香族ポリイミドシームレスベルトの状態観察>
発泡または割れなどの不具合が全くないものを○、発泡または割れなどの不具合がある領域が全体の30%以下のものを△、発泡または割れなどの不具合がある領域が30%を越えているものを×とした。
【0040】
<機械的特性(引張試験)>
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して引張試験を行い、引張弾性率、引張破断伸び、引張破断強度を求めた。
【0041】
<ガラス転移温度測定>
TAインスツルメンツ(株)製 固体粘弾性アナライザー RSAIII(圧縮モード 動的測定、周波数62.8rad/sec(10Hz)、歪量はサンプル高さの3%に設定)を用い、雰囲気窒素気流中、−140℃から450℃まで温度ステップ3℃で、各温度到達後30秒後に測定を行ない次の温度に昇温して測定を繰り返す方法で、損失弾性率(E'')の極大点を求め、その温度をガラス転移点(Tg)として求めた。
【0042】
以下の例で使用した化合物の略号について説明する。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
a−BPDA:2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PPD:p−フェニレンジアミン(25℃における水に対する溶解度:120g/L、以下同様)
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.19g/L)
BAPP:2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(0.000019g/L)
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(0.0018g/L)
1,2−DMZ:1,2−ジメチルイミダゾ−ル
2E4MZ:2−エチル−4−メチルイミダゾール
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0043】
〔実施例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.1質量%、溶液粘度63.0Pa・s、対数粘度1.86のポリイミド前駆体水溶液組成物を得た。
このポリイミド前駆体水溶液組成物を用いて、前記の芳香族ポリイミドシームレスベルトの製造に従って芳香族ポリイミドシームレスベルトを製造した。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドシームレスベルトについて、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0044】
〔実施例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、2E4MZの34.23g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.6質量%、溶液粘度10.3Pa・s、対数粘度0.64のポリイミド前駆体水溶液組成物を得た。
このポリイミド前駆体水溶液組成物を用いて、前記の芳香族ポリイミドシームレスベルトの製造に従って芳香族ポリイミドシームレスベルトを製造した。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドシームレスベルトについて、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0045】
〔実施例3〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの20.25g(0.101モル)と、1,2−DMZの24.31g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの29.75g(0.101モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.7質量%、溶液粘度32.0Pa・s、対数粘度0.42のポリイミド前駆体水溶液組成物を得た。
このポリイミド前駆体水溶液組成物を用いて、前記の芳香族ポリイミドシームレスベルトの製造に従って芳香族ポリイミドシームレスベルトを製造した。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドシームレスベルトについて、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0046】
〔実施例4〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの10.97g(0.055モル)及びPPDの5.92g(0.055モル)と、1,2−DMZの20.43g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの16.12g(0.055モル)及びODPAの16.99g(0.055モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.1質量%、溶液粘度6.5Pa・s、対数粘度0.50のポリイミド前駆体水溶液組成物を得た。
このポリイミド前駆体水溶液組成物を用いて、前記の芳香族ポリイミドシームレスベルトの製造に従って芳香族ポリイミドシームレスベルトを製造した。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドシームレスベルトについて、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0047】
〔実施例5〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの14.86g(0.074モル)及びPPDの3.44g(0.032モル)と、1,2−DMZの20.43g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの21.83g(0.074モル)及びODPAの9.87g(0.032モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.0質量%、溶液粘度5.2Pa・s、対数粘度0.46のポリイミド前駆体水溶液組成物を得た。
このポリイミド前駆体水溶液組成物を用いて、前記の芳香族ポリイミドシームレスベルトの製造に従って芳香族ポリイミドシームレスベルトを製造した。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドシームレスベルトについて、状態観察及び特性の評価結果を表1に示した。
【0048】
〔参考例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの17.92g(カルボキシル基に対して0.75倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶液組成物を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0049】
〔参考例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにBAPPの29.13g(0.071モル)と、1,2−DMZの17.05g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの20.87g(0.071モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶液組成物を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0050】
〔参考例3〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにTPE−Rの24.92g(0.085モル)と、1,2−DMZの20.49g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にa−BPDAの25.08g(0.085モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶液組成物を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0051】
〔参考例4〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにTPE−Rの24.26g(0.083モル)と、2E4MZの22.86g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にODPAの25.74g(0.083モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶液組成物を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0052】
〔参考例5〕
TPE−Rの29.23g(0.1モル)とDMAcの234.60gとを、攪拌機、還流冷却器(水分分離器付き)、温度計、窒素導入管を備えた1000mLのガラス製反応容器に、25℃において添加し、その混合液に窒素ガス流通下攪拌しながら、a−BPDAの29.42g(0.1モル)を添加し、2時間反応させポリイミド前駆体溶液を得た。そして、この溶液をDMAcの293.25gで希釈し30℃において1.3ポイズとした。この溶液にDMZの5.87g(0.06モル)を添加し、この溶液を、ホモジナイザーを備えたアセトン(6.5L)に徐々に加えポリイミド前駆体粉末を析出させた。この懸濁液を濾過し、アセトン洗浄し、40℃で10時間真空乾燥して、60.52gのポリイミド前駆体の粉末を得た。
【0053】
このポリイミド前駆体粉末3gに対して、水の26.10gおよび1,2−DMZの0.9g(0.0094モル)を加え、60℃で攪拌しながら2時間で溶解し均一なポリイミド前駆体水溶液を得た。この水溶液をGC−MSを用いて発生ガスの分析を行ったところ、6.28%のDMAcが検出された。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によって、水以外の溶媒を必要とせずに、より環境適応性が高いポリイミド前駆体水溶液組成物の容易な製造方法を提案することである。この製造方法によって、極めて簡便に(直接的に)有機溶媒を含まない水溶媒からなるポリイミド前駆体水溶液組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を反応溶媒として、イミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸二無水物と25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるジアミンとを反応させて、ポリイミド前駆体の水溶液組成物を製造することを特徴とするポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【請求項2】
イミダゾール類の使用量が、テトラカルボン酸二無水物に対して1.6倍モル以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【請求項3】
イミダゾール類が、置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【請求項4】
イミダゾール類が、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、及び1−メチル−4−エチルイミダゾールからなる群から選択されるイミダゾール類であることを特徴とする請求項3に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【請求項5】
得られるポリイミド前駆体の対数粘度が0.2以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法。
【請求項6】
テトラカルボン酸二無水物と25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるジアミンとが反応して得られるポリアミック酸が、イミダゾール類と共に、水溶媒に溶解しており、有機溶媒の含有量が5%未満であることを特徴とするポリイミド前駆体水溶液組成物。
【請求項7】
有機溶媒を実質的に含まないことを特徴とする請求項6に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。

【公開番号】特開2012−140582(P2012−140582A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154923(P2011−154923)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】