説明

ポリイミド多孔体及び微粒子の製造方法

【課題】ポリイミドの微粒子及び多孔体を湿潤ゲルから効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程を含む製法により得られる湿潤ゲルを用いてポリイミドの微粒子及び多孔体を製造する方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド多孔体及び微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の多孔体、微粒子等は、種々の方法によって製造されている。その一つの方法として高分子ゲルを出発原料として製造する方法がある。
【0003】
高分子ゲルは、食品、日用品、産業資材、医薬品等に利用できるほか、ソフトマテリアルを代表する材料の一つとして注目されている。一般に、高分子ゲルは「三次元ネットワークの溶媒膨潤体」と定義することができる。ゲルは分子がところどころに架橋して三次元ネットワークを形成している。そして、この高分子ゲルにおける架橋は、化学架橋と物理架橋に大別できる。
【0004】
従来より、種々の高分子ゲルが開発されている。例えば、1)可溶性のオリゴイミド(ポリイミドの分子量が低いもの)を3官能のアミンによって化学架橋することにより得られるゲル、2)ポリアミド酸とポリイミドの共重合体又はその混合物のゲル、3)ポリアミド酸ワニスに脱水剤と触媒を加えることにより得られるゲル等が知られている。
【0005】
しかしながら、前記1)では、合成に長時間を要するたけでなく、得られるゲルの加工性が低い。前記2)では、ポリアミド酸が加水分解しやすく、ゲルとして不安定である。前記3)では、イソイミド、無水酢酸等を添加するため、ゲル中に所望の高分子以外の成分が混入されることになる。
【特許文献1】特開2003−128786
【特許文献2】特開平9−227697
【非特許文献1】丹紀子、古川英光、堀江一之、岡部哲士、柴山充弘、高分子学会53回年次大会2Pd010 東京農工大 「末端架橋ポリイミドゲル[VII]中性子散乱による網目構造の研究」(平成16年5月)
【非特許文献2】川岸健、丹紀子、古川英光、堀江一之、斎藤 拓、高分子学会53回年次大会 3Pa123 東京農工大 「ポリイミドゲルを用いた低誘電率モレキュラーフォームの研究」(平成16年5月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように、従来技術では、特にポリイミド系ゲルを作製するにあたり、その製造工程の問題又はゲルの物性の問題が存在しており、これら点において改善すべき余地がある。
【0007】
従って、本発明の主な目的は、特にポリイミドゲルを効率良く製造し、それにより多孔体又は微粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の方法により得られる湿潤ゲルを出発原料として用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記のポリイミド多孔体及び微粒子の製造方法に係る。
【0010】
1. 無水テトラカルボン酸とジアミン化合物から得られるポリイミド湿潤ゲルを用いて多孔体を製造する方法であって、
(1)a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程及びc)前記ポリイミド湿潤ゲルから前記溶媒を除去することにより多孔体を得る第3工程を含み、
(2)前記溶媒は、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性である、
ことを特徴とするポリイミド多孔体の製造方法。
【0011】
2. 前記混合液は、ジアミン化合物A及びジアミン化合物Bが前記溶媒に溶解した溶液に無水テトラカルボン酸を添加して得られるものである、請求項1に記載の製造方法。
【0012】
3. 前記イミド化が、前記ワニスを加熱することにより実施される、請求項1に記載の製造方法。
【0013】
4. 加熱温度が130℃以上である、請求項3に記載の製造方法。
【0014】
5. 前記ジアミン化合物Aと前記ジアミン化合物Bとの割合が、モル比で4:6〜9:1である、請求項1に記載の製造方法。
【0015】
6. 第3工程において前記湿潤ゲルを相分離させる、請求項1に記載の製造方法。
【0016】
7. 無水テトラカルボン酸とジアミン化合物から得られるポリイミド湿潤ゲルを用いて微粒子を製造する方法であって、
(1)a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程及びc)前記ポリイミド湿潤ゲルを粉砕した後、前記溶媒を除去することにより微粒子を得る第3工程を含み、
(2)前記溶媒は、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性である、
ことを特徴とするポリイミド微粒子の製造方法。
【0017】
8. 前記混合液は、ジアミン化合物A及びジアミン化合物Bが前記溶媒に溶解した溶液に無水テトラカルボン酸を添加して得られるものである、前記項7に記載の製造方法。
【0018】
9. 前記イミド化が、前記ワニスを加熱することにより実施される、前記項7に記載の製造方法。
【0019】
10. 加熱温度が130℃以上である、前記項7に記載の製造方法。
【0020】
11. 前記ジアミン化合物Aと前記ジアミン化合物Bとの割合が、モル比で4:6〜9:1である、前記項7に記載の製造方法。
【0021】
12. 第3工程において湿潤ゲルを相分離させる、前記項7に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ポリイミドの湿潤ゲルを効率良くかつ確実に製造することができる。これにより、多孔体又は微粒子(粉体)の形態にそれぞれ加工することにより、ポリイミドの多孔体又は微粒子を効率的に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の製造方法は、ポリイミド多孔体の製造方法(第1発明)及びポリイミド微粒子の製造方法(第2発明)がある。
【0024】
第1発明は、無水テトラカルボン酸とジアミン化合物から得られるポリイミド湿潤ゲルを用いて多孔体を製造する方法であって、
(1)a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程及びc)前記ポリイミド湿潤ゲルから溶媒を除去することにより多孔体を得る第3工程を含み、
(2)前記溶媒は、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性である、
ことを特徴とする。
【0025】
第2発明は、無水テトラカルボン酸とジアミン化合物から得られるポリイミド湿潤ゲルを用いて微粒子を製造する方法であって、
(1)a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程及びc)前記ポリイミド湿潤ゲルを粉砕した後、前記溶媒を除去することにより微粒子を得る第3工程を含み、
(2)前記溶媒は、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性である、
ことを特徴とする。
【0026】
両発明は、第3工程以外は共通しているので、以下に共通部分をまとめて説明し、第3工程だけを分けて説明する。
【0027】
第1工程
第1工程では、無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する。
【0028】
無水テトラカルボン酸は、特に制限されず、従来のポリイミド合成で用いられているものと同様のものも使用できる。例えば、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,3−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、2,3,3',4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、アントラセン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,8,9,10−テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸無水物;ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸無水物;シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物等の脂環族テトラカルボン酸無水物;チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸無水物、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物等の複素環族テトラカルボン酸無水物等を使用することができる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
ジアミン化合物A及びジアミン化合物Bは、特に制限されず、例えば従来のポリイミド合成で用いられているジアミン化合物と同様のものも使用できる。例えば、ビス-{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルフォン(BAPS-M)、9, 9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、α,ω−ビス(4−アミノフタルイミド)アルカン(アルカンの炭素数2〜20)、4,4'−ジアミノジフェニルメタン(DDM)、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(DPE)、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、1,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3'−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルフォン、3,4−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、2,6'−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、1,2−ジアミノアントラキノン、1,4−ジアミノアントラキノン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、3,4−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノビベンジル、R(+)−2,2'−ジアミノ−1,1'−ビナフタレン、S(+)−2,2'−ジアミノ−1,1'−ビナフタレン等の芳香族ジアミン;1,2−ジアミノメタン、1,4−ジアミノブタン、テトラメチレンジアミン、1,10−ジアミノドデカン、イソホロンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、4,4'−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂環族ジアミンのほか、3,4−ジアミノピリジン、1,4−ジアミノ−2−ブタノン等を使用することができる。
【0030】
この場合、ジアミン化合物Aとジアミン化合物Bとの使用割合は、目的とする湿潤ゲルの組成、性状等に応じて適宜設定することができるが、一般的にはジアミン化合物Aとジアミン化合物Bとの割合をモル比で4:6〜9:1、特に5:5〜7:3とすることが望ましい。
【0031】
溶媒は、本発明では、有機溶媒の中から後記の条件を満たすものを選択する。有機溶媒としては、ポリアミド酸を溶解する溶媒であれば良い。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の非プロトン極性溶媒)のほか、クレゾール類を使用することができる。これらは、1種又は2種以上で使用することができる。
【0032】
特に、本発明では、これらの有機溶媒のうち、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性であるものを用いる。ここに、前記b)及びc)の共重合体とは、ジアミン化合物A又はBと無水テトラカルボン酸とのモル1:1の共重合体をいう。
【0033】
従って、有機溶媒は、特に用いるジアミン化合物の種類に応じて選択する。例えば、1)1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)とビス-{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルフォン(BAPS-M)を用いる場合、2)4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(DPE)とビス-{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルフォン(BAPS-M)を用いる場合、3)1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)と9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(FDA)を用いる場合等は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いることができる。
【0034】
無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液において、各成分の濃度は適宜設定することができる。無水テトラカルボン酸は、混合液中1〜20重量%、特に3〜15重量%とすることが好ましい。ジアミン化合物Aは、混合液中1〜20重量%、特に3〜15重量%とすることが好ましい。ジアミン化合物Bは、混合液中0.3〜10重量%、特に1〜5重量%とすることが好ましい。
【0035】
上記混合液の調製方法は特に制限されない。例えば、ジアミン化合物A及びジアミン化合物Bを上記溶媒に溶解させて溶液を調製した後、この溶液に無水テトラカルボン酸を添加することによって好適に製造することができる。
【0036】
混合液からワニスを製造する方法も限定的でない。例えば、上記混合液を一定時間(好ましくは1時間〜24時間程度)攪拌することによって、ポリアミド酸を含むワニスを調製することができる。この場合の温度条件も限定的でなく、通常−20℃〜80℃程度とすれば良い。
【0037】
第2工程
第2工程では、前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する。
【0038】
イミド化の方法は特に制限されず、公知のポリイミドの製法に従って実施することができる。本発明では、特に有機溶媒中で加熱してイミド化する方法(熱閉環)を好適に採用することが望ましい。例えば、前記ワニスを加熱することによりイミド化することができる。加熱温度は、通常130℃以上、好ましくは130〜250℃程度の温度とすれば良い。
【0039】
前記ワニスを加熱するに際しては、水と共沸混合物を構成し得る溶媒(以下「共沸溶媒」ともいう)がワニス中に含まれることが好ましい。共沸溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、オクタン、シクロヘキサン、ジフェニルエーテル、ノナン、ピリジン、ドデカン等を用いることができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、共沸溶媒は上記有機溶媒中10容積%以上含むことが好ましい。共沸溶媒を使用することによって、特に副生する水(主に縮合水)を共沸させ、これを還流等により反応系外へ効率的に除去できることから、未反応のアミド結合の加水分解を抑制することができる。
【0040】
第2工程では、上記のように、イミド化に伴って水が生成するため、その生成水を留去することが好ましい。留去は、例えば凝縮器等の公知の装置を用いて実施することができる。
【0041】
このようにして得られるポリイミド湿潤ゲルは、一般的には、1)無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合からなる可溶性部及び2)無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合からなる不溶性部から構成される。すなわち、溶媒と相溶性を有する可溶性部と、非相溶性である不溶性部とが互いに物理架橋することにより湿潤ゲルを形成している。
【0042】
可溶性部と不溶性部との割合は、前記に示したようにジアミン化合物Aとジアミン化合物Bとの割合を変えることにより調整することができる。従って、可溶性部と不溶性部との割合は、ジアミン化合物Aとジアミン化合物Bとの割合に対応する割合となる。すなわち、モル比で6:4〜9:1、特に5:5〜7:3とすることができる。
【0043】
ポリイミド湿潤ゲルにおけるポリイミドの含有率は限定的ではないが、通常は2〜50重量%、特に10〜35重量%とすることが望ましい。
【0044】
ポリイミド湿潤ゲルの圧縮強度は、特に0.03〜1.00MPaであることが好ましい。また、ポリイミド湿潤ゲルのヤング率は、特に1〜30MPaであることが好ましい。このような物性を備える場合には、高い溶媒含有率にもかかわらず、良好な自己支持性(形状保持性)を発揮することができる。これら強度及びヤング率は、可溶性部と不溶性部との割合を変えることにより制御することができる。一般に、不溶性部の割合を高めることにより強度及びヤング率を高めることが可能である。
【0045】
第3工程(第1発明)
第1発明の第3工程では、前記ポリイミド湿潤ゲルから溶媒を除去することにより多孔体を得る。溶媒を除去する方法は、特に溶媒置換用が効果的であるが、自然乾燥又は強制乾燥、凍結乾燥、等の公知の方法により実施することができる。
【0046】
第3工程では、湿潤ゲルを相分離させることが好ましい。相分離させることにより、多孔性をより高めることができる。相分離させる方法は限定的でないが、特に溶媒置換法が効果的である。溶媒置換法は、例えば湿潤ゲルに含まれる溶媒に対して相溶性を有し、かつ、ポリイミドに対する貧溶媒となる第二溶媒を前記溶媒と置換した後、第二溶媒を除去することによって実施することができる。第二溶媒にポリイミドが接触した場合、第二溶媒と接触した部分が相分離を起こし、多孔質化する。ゲル中の溶媒と第二溶媒とは親和性が良いために処理溶媒中に拡散する一方、貧溶媒はゲル中に浸透し、最終的に湿潤ゲルはポリイミドの多孔体となる。
【0047】
本発明の製造方法で得られる多孔体は、上記の製造条件を変えることにより種々のものが得られる。一般的には、密度0.2〜0.9g/cm3(特に0.4〜0.7g/cm3)である。また、比表面積(BET法)は、一般的には50〜300m2/g(特に150〜200m2/g)である。
【0048】
第3工程(第2発明)
第2発明の第3工程では、前記ポリイミド湿潤ゲルを粉砕した後、前記溶媒を除去することにより微粒子を得る。粉砕方法は限定的でなく、例えばミキサー、ホモジナイザー、ボールミル、等の公知の方法を用いて実施すれば良い。
【0049】
第3工程では、湿潤ゲル(粉砕物)を相分離させることが好ましい。これにより、いっそう微細な微粒子(ナノ粒子)を得ることができる。相分離させる方法は、第1発明の第3工程と同様にすれば良い。
【0050】
本発明の製造方法で得られる微粒子は、上記の製造条件を変えることにより種々のものが得られる。一般的には、平均粒径20〜100μm(特に30〜40μm)である。また、比表面積(BET法)は、一般的には100〜200m2/g(特に150〜200m2/g)である。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0052】
製造例1(湿潤ゲルの調製)
冷却器、温度計、攪拌機を備えた3つ口フラスコに試薬特級のN−メチルピロリドン(NMP)500mlを入れ、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)を0.03molとビス-{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルフォン(BAPS-M)を0.07molを加えて室温で溶解させた。添加したジアミンが完全に溶解した後、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)の0.1molを少量ずつ添加し、均一になってから約30分撹拌してポアリアミド酸のワニスを得た(重量平均分子量53,700)。次に、試薬特級のトルエン100mlを加え、Dean−Stark凝縮器を装着し、150℃まで加熱して、イミド化に伴って発生する水をトルエンと共に共沸留去した。4時間加熱、還流、撹拌を続けたところ水の発生は認められなくなった。反応終了後、反応溶液をステンレス製バットにあけ、5℃まで冷却して濃茶褐色(コーヒーゼリー様)の自己支持性ポリイミドゲルを得た。得られたゲルの樹脂含有率は約15%であり、ヤング率が20.085MPa、強度が0.687MPaであった。
【0053】
実施例1(微粒子の製造)
製造例1で得られたポリイミドゲル(溶媒:NMP85%、樹脂:ポリイミド15%)約5gにNMP5mlを加え、ホモジナイザーを用いて磨り潰してスラリー化したものを、貧溶媒である水に添加して相分離させてポリイミド微粒子を調製した。得られたポリイミド微粒子は遠心分離器を用いて分離し、繰り返し水で洗浄して精製した。次に、精製したポリイミド微粒子を水に分散させて凍結乾燥した。この乾燥したポリイミド微粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、画像から平均粒子径を測定したところ、約30nmであった。また、BET法によって測定した比表面積は169.98m2/gであった。熱分解温度(Td)は463℃でガラス転移温度(Tg)は260℃であった。
【0054】
実施例2(微粒子の製造)
製造例1で得られたポリイミドゲル(溶媒:NMP85%、樹脂:ポリイミド15%)約5gにNMP5mlを加え、ホモジナイザーを用いて磨り潰してスラリー化したものを、貧溶媒であるメタノールに添加して相分離させてポリイミド微粒子を調製した。得られたポリイミド微粒子は遠心分離器を用いて分離し、繰り返しメタノールで洗浄して精製した。次に、精製したポリイミド微粒子を水に分散させて凍結乾燥した。この乾燥したポリイミド微粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、画像から平均粒子径を測定したところ、約35nmであった。また、BET法によって測定した比表面積は150.75m2/gであった。熱分解温度(Td)は460℃でガラス転移温度(Tg)は260℃であった。
【0055】
実施例3(微粒子の製造)
製造例1で得られたポリイミドゲル(溶媒:NMP85%、樹脂:ポリイミド15%)約5gにNMP5mlを加え、ホモジナイザーを用いて磨り潰してスラリー化したものを、貧溶媒であるn-ヘキサンに添加して相分離させてポリイミド微粒子を調製した。得られたポリイミド微粒子は遠心分離器を用いて分離し、繰り返しn-ヘキサンで洗浄して精製した。次に、精製したポリイミド微粒子を水に分散させて凍結乾燥した。この乾燥したポリイミド微粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、画像から平均粒子径を測定したところ、約28nmであった。また、BET法によって測定した比表面積は180.67m2/gであった。熱分解温度(Td)は463℃でガラス転移温度(Tg)は260℃であった。
【0056】
実施例4(微粒子の製造)
製造例1で得られたポリイミドゲル(溶媒:NMP85%、樹脂:ポリイミド15%)約5gにNMP5mlを加え、ホモジナイザーを用いて磨り潰してスラリー化したものを、貧溶媒であるアセトンに添加して相分離させてポリイミド微粒子を調製した。得られたポリイミド微粒子は遠心分離器を用いて分離し、繰り返しアセトンで洗浄して精製した。次に、精製したポリイミド微粒子を水に分散させて凍結乾燥した。この乾燥したポリイミド微粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、画像から平均粒子径を測定したところ約32nmであった。また、BET法によって測定した比表面積は155.85m2/gであった。熱分解温度(Td)は462℃でガラス転移温度(Tg)は263℃であった。
【0057】
実施例5(微粒子の製造)
製造例1で得られたポリイミドゲル(溶媒:NMP85%、樹脂:ポリイミド15%)約5gをホモジナイザーで用いて磨り潰してスラリー化したものを、貧溶媒である水に添加して相分離させてポリイミド微粒子を調製した。得られたポリイミド微粒子は遠心分離器を用いて分離し、繰り返し水で洗浄して精製した。次に精製したポリイミド微粒子を水に分散させて凍結乾燥した。この乾燥したポリイミド微粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、画像から平均粒子径を測定したところ約30nmであった。また、BET法によって測定した比表面積は170.95m2/gであった。熱分解温度(Td)は460℃でガラス転移温度(Tg)は260℃であった。
【0058】
実施例6(多孔体の製造)
製造例1で得られたゲル(20mm×20mm×3mm)を水に48時間浸漬し、ゲル中の溶媒(NMP)を水に置換した後、凍結乾燥することによって多孔質体を得た。多孔質体の密度:0.4015g/cm3、比表面積:160.88m2/gであった。
【0059】
実施例7(多孔体の製造)
製造例1で得られたゲル(20mm×20mm×3mm)をジエチルエーテルに48時間浸漬し、ゲル中の溶媒(NMP)をジエチルエーテルに置換した後、減圧下で加熱することによって多孔質体を得た。多孔質体の密度:0.6025g/cm3、比表面積:196.31m2/gであった。
【0060】
実施例8(多孔体の製造)
製造例1で得られたゲル(20mm×20mm×3mm)を酢酸エチルに48時間浸漬し、ゲル中の溶媒(NMP)をメタノールに置換した後、減圧下で加熱乾燥することによって多孔質体を得た。多孔質体の密度:0.7115g/cm3、比表面積:190.11m2/gであった。
【0061】
実施例9(多孔体の製造)
製造例1で得られたゲル(20mm×20mm×3mm)をアセトンに48時間浸漬し、ゲル中の溶媒(NMP)をアセトンに置換した後、減圧下で加熱乾燥することによって多孔質体を得た。多孔質体の密度:0.6516g/cm3、比表面積:170.21m2/gであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水テトラカルボン酸とジアミン化合物から得られるポリイミド湿潤ゲルを用いて多孔体を製造する方法であって、
(1)a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程及びc)前記ポリイミド湿潤ゲルから前記溶媒を除去することにより多孔体を得る第3工程を含み、
(2)前記溶媒は、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性である、
ことを特徴とするポリイミド多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記混合液は、ジアミン化合物A及びジアミン化合物Bが前記溶媒に溶解した溶液に無水テトラカルボン酸を添加して得られるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記イミド化が、前記ワニスを加熱することにより実施される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
加熱温度が130℃以上である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ジアミン化合物Aと前記ジアミン化合物Bとの割合が、モル比で4:6〜9:1である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
第3工程において前記湿潤ゲルを相分離させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
無水テトラカルボン酸とジアミン化合物から得られるポリイミド湿潤ゲルを用いて微粒子を製造する方法であって、
(1)a)無水テトラカルボン酸、ジアミン化合物A、ジアミン化合物B及び溶媒を含む混合液からポリアミド酸を含むワニスを調製する第1工程、b)前記ポリアミド酸をイミド化することにより前記ワニスからポリイミド湿潤ゲルを調製する第2工程及びc)前記ポリイミド湿潤ゲルを粉砕した後、前記溶媒を除去することにより微粒子を得る第3工程を含み、
(2)前記溶媒は、a)前記ジアミン化合物A及びBに対して可溶性であり、b)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Aとの共重合体に対して可溶性であり、かつ、c)前記無水テトラカルボン酸とジアミン化合物Bとの共重合体に対して不溶性である、
ことを特徴とするポリイミド微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記混合液は、ジアミン化合物A及びジアミン化合物Bが前記溶媒に溶解した溶液に無水テトラカルボン酸を添加して得られるものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記イミド化が、前記ワニスを加熱することにより実施される、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
加熱温度が130℃以上である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ジアミン化合物Aと前記ジアミン化合物Bとの割合が、モル比で4:6〜9:1である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項12】
第3工程において湿潤ゲルを相分離させる、請求項7に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−182853(P2006−182853A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375934(P2004−375934)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】