説明

ポリイミド樹脂の製造方法、及びポリイミド樹脂

【課題】所望の特性を得ることができるポリイミド樹脂の製造方法、及びポリイミド樹脂を提供する。
【解決手段】末端活性基を残しつつ、異種ポリマー(末端活性ポリマーA、末端活性ポリマーB)を形成させ、両ポリマーを重合させるブロック操作を行う。これにより、異種ポリマー鎖間が化学的に結合されるため、溶液の分離(液分離)を防ぐことができる。また、異種ポリマーのそれぞれが高分子量となっているため、フィルム化した場合、適度な相分離構造が発達して両者の特徴が平均化されず、優れた特性が発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックポリイミド樹脂共重合体からなるポリイミド樹脂の製造方法、及びポリイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂(PI)は、高い弾性率、比較的低い熱膨張係数、高い耐熱性、絶縁性、耐化学薬品(溶剤耐性)を有するため各種電子デバイスに適用され、また、フレキシブルプリント基板(FPC:Flexible Printed Circuits)用銅張積層板のベースフィルム材、導電回路の保護を目的としたカバーレイ(保護膜)として多用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
FPCは、携帯電話のLCD(Liquid Crystal Display)周りのような薄くてコンパクトな部分へ使用され、組み立ての際、折り曲げられる。FPCが高反発であると、筺体に組み入れる際にFPCが元に戻ろうとして組み入れ難いため、ポリイミド樹脂の主鎖に柔軟性を付与できる材料(例えば、シロキサン骨格など)を相当量組み入れ、低弾性率化させ、反発力を低減させている。
【0004】
また、カバーレイは、カバー材料の状態によりフィルムタイプとインクタイプとに分けられる。フィルムタイプは、FPCの製造方法において、ラミネートやプレス工法により用いられ、インクタイプは、スクリーン印刷、グラビア印刷などのウェット法により用いられる。インクタイプのポリイミド樹脂としては、ポリイミド樹脂の主鎖へ柔軟性を付与できる材料を組み入れて、印刷の際に使用する溶剤(γ−ブチロラクトンなど)中でイミド化を完結させる溶剤可溶性ポリイミド樹脂が知られている。
【0005】
このようにポリイミド樹脂のようなポリマー材料は、用途に適した特性が要求されるために、ポリマー自身が持つ特性を制御する必要がある。ところで、一般にポリマーが持つ特性を制御する方法としては、一般的に次のような手段が知られている。
・ポリマーの化学組成を変化させる。・・・例えばランダム共重合、交互共重合などのポリマーの一次構造を制御する方法。
・ポリマーからなる膜の鎖状配向を制御する。・・・例えば延伸などの手段によりポリマーの二次構造を制御し、あるいは結晶化などの高次構造を制御する方法。
・2種以上のポリマーをブレンドする。・・・いわゆるポリマーブレンド。
・ポリマーに対して(ポリマー以外の)添加剤をブレンドする。・・・いわゆるコンポジットやハイブリッド化技術(例えばガラエポ)。
【0006】
ここで、上記のポリマーブレンドは、ポリマーの化学組成を変化(共重合)させて得られる特性よりも、優れた特性が得られることがある。例えば、高硬度であるが脆弱なホモポリマーと柔軟性に富むが硬度が低いホモポリマーとの両ポリマーをブレンドしたフィルムは、互いの欠点を補って長所を生かすことができることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−155343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリマーブレンドにおいてポリマー同士の相溶性が悪い場合は、所望の特性が得られない。例えば、シロキサンポリイミド樹脂と一般的な芳香族ポリイミド樹脂とのブレンドのように極めて異質なポリマーをブレンドしようとしても、完全非相溶系であるため、激しい相分離によって成膜が困難となるからである。
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、所望の特性を得ることができるポリイミド樹脂の製造方法、及びポリイミド樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件発明者らは、鋭意検討を行った結果、性質の異なる、すなわち異種のポリイミド樹脂を使って所望の特性を得る場合には、異種のポリイミド樹脂セグメント(ポリイミド樹脂鎖)を末端活性基が形成されるように合成し、これら末端活性基を化学的に結合させると、その結果得られたポリイミド樹脂は、各セグメントの特性が発現可能に制御できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係るポリイミド樹脂の製造方法は、一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(4)で示される芳香族ジアミンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第1活性末端基を有する少なくとも1種のハードセグメントを合成し、一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(5)で示されるジアミノシロキサンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第2活性末端基を有する少なくとも1種のソフトセグメントを合成し、前記第1活性末端基を有する少なくとも1種のハードセグメントと、前記第2活性末端基を有する少なくとも1種のソフトセグメントとをイミド化させることを特徴とする。
【0012】
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、存在しないか、又は水素、メチル基、トリフルオロメチル基を示し、Xは、C=O、SO、S、O、C、又は直接結合を示す。また、各ベンゼン環は、ハロゲン、アルキル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。)
【0013】
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、存在しないか、又は水素、メチル基、トリフルオロメチル基を示し、Y、Y及びZは、それぞれ独立に、C=O、SO、S、O、C、又は直接結合を示す。また、各ベンゼン環は、ハロゲン、アルキル基、ヒドロキシル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。また、mは、0又は1である。)
【0014】
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、存在しないか、又は炭素数1〜4のアルキレン基、若しくはフェニレン基を示し、それらは置換基を有していてもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1以上の炭化水素、脂肪族、又は芳香族から選ばれる1価の有機基を示す。また、nは1以上の整数である。)
【0015】
また、本発明に係るポリイミド樹脂は、上述した製造方法で得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリイミド樹脂の特性が制御可能なため、優れた特性を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】異種ポリマーのブレンドを説明するための図である。
【図2】ランダム共重合を説明するための図である。
【図3】本実施の形態における重合方法を説明するための図である。
【図4】実施例1〜3及び比較例2のポリイミド樹脂のGPCチャートである。
【図5】実施例3のDMAカーブ(a)及び比較例3のDMAカーブ(b)を示すグラフである。
【図6】実施例1のフィルムの金属顕微鏡写真である。
【図7】実施例1のフィルムのSEM写真である。
【図8】実施例1のフィルムの相分離構造の模式図である。
【図9】実施例2のフィルムの金属顕微鏡写真である。
【図10】実施例2のフィルムのSEM写真である。
【図11】実施例2のフィルムの金属顕微鏡写真である。
【図12】スクリーン印刷のテストパターンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.本発明の概要
2.具体例
3.実施例
【0019】
<1.本発明の概要>
本実施の形態におけるポリイミド樹脂(PI)の製造方法の重要な因子の一つとして、異種の高分子同士の相溶性がある。一般に、高分子の相溶性を決める因子としては、次のものが挙げられる。
・化学構造(溶解度パラメータが類似するもの同士は良く相溶する。)
・分子量(分子量が小さいもの同士は良く相溶する。)
・分子鎖の運動性(例えば、粘度、温度、攪拌条件など。分子鎖運動に影響を与えるので、相溶性を制御することができる。)
・相溶化剤(例えば、界面活性剤など。)
【0020】
異種の高分子をブレンドするいわゆるポリマーブレンドでは、化学構造が異なる場合、激しい相分離によって成膜することが困難である。例えば、図1に示すように極めて性質が異なるシロキサンポリイミド樹脂(ポリマーA)と一般の芳香族ポリイミド樹脂(ポリマーB)とのブレンド物では、機械的に強制攪拌しても不均一な溶液となり、加工(成膜)が困難となる。このような場合、図2に示すように、モノマーA、Bをランダム共重合させれば、均一な溶液となるが、それぞれの特性が平均化されてしまう。
【0021】
また、類似の化学構造をブレンド相手側へ組み込むことで相溶性を高め、成膜性を改善可能なことがある。しかし、ランダム共重合体のようにポリマーの性質が単純に平均化され、ブレンド物の膜特性も類似してしまうため、当初期待されていた効果が発現しない虞がある。
【0022】
また、分子量を小さくした場合、相溶性を容易に制御することができるが、ポリマー鎖の絡み合いが低下して膜特性を低下させる虞がある。また、物理的な激しい攪拌によって混合し、分離させないように高分子鎖の運動を凍結させるような手段(例えば、低温下での増粘、混合後の瞬時の溶剤揮発など)は、加工時の設備的制約や安定した品質確保の困難性などにより難しい。また、相溶化剤は、その物質自身の耐熱性が低いため、ポリマー自身の耐熱性が低下することや、ブリードアウト等の問題が生じることがある。
【0023】
そこで、本実施の形態では、ブロック共重合法、特にA成分と、B成分の重合度を予め高めておき、それぞれの末端活性を残して、最終的にA−Bを化学的に結合させる。具体的には、図3に示すように、末端活性基を残しつつ、異種ポリマー(末端活性ポリマーA、末端活性ポリマーB)を形成させ、両ポリマーを重合させるブロック操作を行う。これにより、異種ポリマー鎖間が化学的に結合されるため、溶液の分離(液分離)を防ぐことができる。また、異種ポリマーのそれぞれが高分子量となっているため、フィルム化した場合、適度な相分離構造が発達して両者の特徴が平均化されず、優れた特性が発現する。
【0024】
<3.具体例>
本実施の形態におけるポリイミド樹脂の製造方法は、上述したようにシロキサンポリイミド樹脂と一般的な芳香族ポリイミド樹脂とのブレンド物に代表されるような完全非相溶系に適用することができる。
【0025】
シロキサンポリイミド樹脂は、そのシロキサン骨格により高い可撓性、高い伸び率、低い弾性率を有するから、このようなシロキサンポリイミド樹脂は、ソフトセグメントを有していると言える。一方、芳香族ポリイミド樹脂は、その芳香環に由来して高い弾性率、優れた難燃性を有するから、このような芳香族ポリイミド樹脂はハードセグメントを有していると言える。もっとも、これらの特性は、トレードオフの関係で単一のポリイミド樹脂においてはその両立が難しいが、本実施の形態におけるポリイミド樹脂の製造方法によれば、これらの特性を制御することができる。
【0026】
すなわち、本実施の形態におけるポリイミド樹脂の製造方法は、一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(4)で示される芳香族ジアミンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第1活性末端基を有する少なくとも1種のハードセグメントを合成し、一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(5)で示されるジアミノシロキサンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第2活性末端基を有する少なくとも1種のソフトセグメントを合成し、前記第1活性末端基を有する少なくとも1種のハードセグメントと、第2活性末端基を有する少なくとも1種のソフトセグメントとをイミド化させる。
【0027】
【化4】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、存在しないか、又は水素、メチル基、トリフルオロメチル基を示し、Xは、C=O、SO、S、O、C、又は直接結合を示す。また、各ベンゼン環は、ハロゲン、アルキル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。)
【0028】
【化5】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、存在しないか、又は水素、メチル基、トリフルオロメチル基を示し、Y、Y及びZは、それぞれ独立に、C=O、SO、S、O、C、又は直接結合を示す。また、各ベンゼン環は、ハロゲン、アルキル基、ヒドロキシル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。また、mは、0又は1である。)
【0029】
【化6】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、存在しないか、又は炭素数1〜4のアルキレン基、若しくはフェニレン基を示し、それらは置換基を有していてもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1以上の炭化水素、脂肪族、又は芳香族から選ばれる1価の有機基を示す。また、nは1以上の整数である。)
【0030】
これにより、各セグメント長が制御されたシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂共重合体を得ることができる。なお、第1活性末端基と第2活性末端基とは互いに異なる無水物基又はアミノ基である。
【0031】
一般式(1)〜(3)で示される酸二無水物としては、3,4’−オキシジフタル酸無水物、3,3’―オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2‐ビス(3,4‐ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などを例示することができる。これらの中でも、オキシジフタル酸無水物の非対称構造異性体である3,4’−オキシジフタル酸無水物(略名:a−ODPA)を用いれば、対称性を崩し、溶剤溶解性を飛躍的に高めることができる。
【0032】
また、一般式(4)で示される芳香族ジアミンとしては、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、4,4’-オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−オキシジアニリン、2,2’‐ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどを例示することができる。これらの中でも、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(略名:BAPP)を用いれば、屈曲性を高めることができる。
【0033】
また、一般式(5)で示されるジアミノシロキサンとしては、R及びRが共にプロピレン基であり、R2〜R7が共にメチル基であるジアミノポリシロキサン化合物などを例示することができる。
【0034】
上述したハードセグメントの重合、ソフトセグメントの重合、及びシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂の重合においては、共沸剤であるトルエンを加え、150〜200℃まで昇温した後、トルエンをトラップから除去しながら、加熱縮合させることでイミド化させることができる。有機溶媒としては、溶解可能なラクトン系、アミド系、グライム系、エステル系、エーテル系などの溶媒を用いることができるが、吸水性が低いγ−ブチルラクトン(略名:GBL)を用いることが好ましい。
【0035】
本実施の形態におけるポリイミド樹脂の製造方法では、上述したハードセグメントの重合、及びソフトセグメントの重合において、それぞれ任意のポリマー鎖長を有する末端活性芳香族ハードセグメント、及び末端活性シロキサン含有ソフトセグメントを得ることができる。すなわち、本実施の形態におけるポリイミド樹脂の製造方法によれば、その特性が制御されたシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂を得ることができる。
【0036】
その際、末端活性シロキサン含有ソフトセグメントの数平均分子量を4000以上とすると、得られるシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂に柔軟性を与えるとともに、ポリイミド樹脂をフィルム化した際に、そのフィルム表面にタック性を付与させることができる。
【0037】
また、末端活性芳香族ハードセグメントの数平均分子量を2000以上とすると、得られるシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂の成膜が容易になる。
【0038】
このようにして得られたシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂は、同組成に相当するランダム共重合体では見られない相分離構造(海島構造)を有する。この構造を制御することにより、表面タックを変化させることができ、また、同組成に相当するランダム共重合体のフィルムよりも低弾性率化させることがきる。
【0039】
また、このシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂は、高い濃度でγ−ブチロラクトンに溶解させることができるため、スクリーン印刷などの塗布方法に好適である。さらに、厚膜の形成やタック性のコントロールが可能となるので、フレキシブルプリント基板用のカバーレイや、電子材料で使用される耐熱性の粘着剤として用いることができる。
【0040】
また、このようにして得られたシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂は、γ−ブチロラクトンなどの有機溶媒に溶解した状態となっている。したがって、この溶液に必要に応じて消泡剤、レベリング剤、無機フィラー、有機フィラー、顔料、染料、金属不活性化剤、架橋剤等の添加剤を配合したものは、シロキサン変性ブロックポリイミド樹脂ワニスとして使用することができる。
【0041】
レベルリング助剤又は消泡剤の添加量は、約100ppm〜10000ppmであることが好ましく、これにより、発泡を抑えるとともに、塗膜を平らにすることができる。レベルリング助剤又は消泡剤の好適な例としては、信越化学工業(株)製フロロシリコーン系FA−600、BYK社製シリコーン系BYK−065、BYK−066N、BYK−077、ポリマー系BYK−052、BYK−051、BYK−055、レべリング剤BYK−337、BYK−344などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
また、塗布性、とくに印刷性を良好にする為に、無機フィラー、有機フィラーなどを使用することができる。好適な例としては、平均粒子径が0.001〜15μm、特に0.005〜10μmのものが好ましい。使用量としては、印刷性を改善できる量であればよく、シロキサン変性ブロックポリイミド樹脂に対して0.5〜50重量部、好ましくは、1〜20重量部である。この範囲外のものを使用すると得られる塗膜が屈曲したときに亀裂が発生したり、折り曲げ部が白化したりする虞がある。フィラーとしては、例えばアエロジル、タルク、マイカ、硫酸バリウムなどの微細無機フィラーや架橋NBR(Nitrile Butadiene Rubber)微粒子などの微細有機フィラーなどが挙げられる。
【0043】
また、本実施の形態においては、有機着色顔料、無機着色顔料などを所定量、例えばシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂100重量部に対して、0〜10重量部程度使用してもよい。
【0044】
また、シロキサン変性ブロックポリイミド樹脂には、金属不活性剤が含有されていてもよい。この金属不活性剤としては、例えば、ヒドラジド系の金属不活性剤である2,3−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジド(ADEKA社製、CDA−10)が挙げられ、フレキシブル配線板に使用する場合に、金属と接触するポリイミド組成物の樹脂劣化を防止することができる。CDA−10以外の金属不活性剤としては、ヒドラジド系のものとしてデカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、トリアゾール系のものとして3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
また、本実施の形態において得られたシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂には、架橋剤が含有されていてもよい。架橋剤の量としては、シロキサン変性ブロックポリイミド樹脂100重量部に対して、50重量部以下であることが好ましい。架橋剤の量が50重量部を超えると、シロキサン変性ブロックポリイミド樹脂組成物の安定性が悪くなり、粘度が上昇してしまうため、溶液としての取り扱いが悪くなる。
【0046】
好適な架橋剤の例としては、エポキシ基やマレイミド基が挙げられる。これらは、溶剤に溶解するものであれば特に限定するものではないが、例えば下記のような化合物を挙げることができる。官能基としてエポキシ基を有する架橋剤としては、ビスF型エポキシ化合物、ビスA型エポキシ化合物、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル化合物、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、ジブロモネオペンチルグリコールグリシジルエーテル等のハロゲン化された難燃性エポキシ化合物、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、例えば、一般式(1)〜(5)に基づくハードセグメント及びソフトセグメントをイミド化させるのであれば、ハードセグメント及びソフトセグメントが夫々2種以上含むことも可能である。また、一般式(1)〜(5)に基づくハードセグメント及びソフトセグメントをイミド化させる際に、他の酸無水物及びジアミンを本発明の目的の範囲で添加してイミド化することも可能である。
【0048】
また、例えば、異種のハードセグメント同士や、異種のソフトセグメント同士をイミド化させることも可能である。すなわち、一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(4)、(5)から選ばれる少なくとも1種のジアミンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第1活性末端基を有する少なくとも1種のセグメントを合成し、一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(4)、(5)から選ばれる少なくとも1種のジアミンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第2活性末端基を有する少なくとも1種のセグメントを合成し、第1活性末端基を有する少なくとも1種のセグメントと、第2活性末端基を有する少なくとも1種のセグメントをイミド化させるようにしてもよい。
【実施例】
【0049】
<3.実施例>
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
<末端アミン活性PI[a-ODPA(56.7mol%)/x22-9409(66.7mol%)]の重合>
窒素導入管と、ディーンスタークトラップを付与した100mLのセパラブルフラスコA中へジアミノシロキサン 26.80g(20.00mmol、信越化学社製、品名x22−9409、アミン価670)、γ−ブチロラクトン(GBL) 10gを入れ、良く攪拌した後、酸二無水物モノマーである3,4’−オキシジフタル酸無水物(a−ODPA) 5.273g(17.00mmol)を徐々に加えた。この分散液へ、共沸剤であるトルエン 5gを加え、内温を180℃まで昇温して、30分保持した後トルエンをトラップから除去し、さらに30分間180℃にて攪拌してトルエンを除去しながら、溶液イミド化を実施し、下記(6)式で表されるアミン末端ポリイミド樹脂を生成させた。このアミン末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0051】
【化7】

【0052】
<末端酸無水物活性PI[a-ODPA(43.3mol%)/BAPP(33.3mol%)]の重合>
一方、窒素導入管と、ディーンスタークトラップを付与した新たな100mLセパラブルフラスコB中へ2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP) 4.105g(10.00mmol)、GBL15gを入れ、完全に溶解させ、a−ODPA 4.032g(13.00mmol)を徐々に加えた。この分散液へ、共沸剤であるトルエン 5gを加え、内温を180℃まで昇温して、30分保持した後トルエンをトラップから除去し、さらに30分間180℃にて攪拌してトルエンを除去しながら、溶液イミド化を実施し、下記(7)式で表される酸二無水物末端ポリイミド樹脂を生成させた。この酸二無水物末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0053】
【化8】

【0054】
<PI〔[a-ODPA(56.7mol%)/x22-9409(66.7mol%)]/[a-ODPA(43.3mol%)/BAPP(33.3mol%)]〕の重合>
セパラブルフラスコA中で合成されたアミン末端ポリイミド樹脂(固形分濃度76%)を酸二無水物末端ポリイミド樹脂(固形分濃度34%)が生成しているセパラブルフラスコB中へGBL 1.8gで洗い流しながら全て投入し、良く攪拌した後、共沸剤であるトルエン 5gを加え、内温を180℃まで昇温して、30分保持した後トルエンをトラップから除去し、さらに30分間180℃にて攪拌してトルエンを除去しながら、溶液イミド化を実施して下記(8)式で表される目的物質を得た。
【0055】
【化9】

【0056】
[実施例2]
<末端アミン活性PI[a-ODPA(50.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]の重合>
a−ODPAを4.653g(15.00mmol)加えた以外は、実施例1と同様にして、アミン末端ポリイミド樹脂を生成させた。このアミン末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0057】
<末端酸無水物活性PI[a-ODPA(50.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]の重合>
a−ODPAを4.653g(15.00mmol)加えた以外は、実施例1と同様にして、酸二無水物末端ポリイミド樹脂を生成させた。この酸二無水物末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0058】
<PI〔[a-ODPA(50.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]/[a-ODPA(50.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]〕の重合>
アミン末端ポリイミド樹脂[a-ODPA(50.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]を酸二無水物末端ポリイミド樹脂[a-ODPA(50.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]に投入し、実施例1と同様にして、目的物質を得た。
【0059】
[実施例3]
<末端アミン活性PI[a-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]の重合>
a−ODPAを3.722g(12.00mmol)加えた以外は、実施例1と同様にして、アミン末端ポリイミド樹脂を生成させた。このアミン末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0060】
<末端酸無水物活性PI[a-ODPA(60.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]の重合>
a−ODPAを5.584g(18.00mmol)加えた以外は、実施例1と同様にして、酸二無水物末端ポリイミド樹脂を生成させた。この酸二無水物末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0061】
<PI〔[a-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]/[a-ODPA(60.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]〕の重合>
アミン末端ポリイミド樹脂[a-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]を酸二無水物末端ポリイミド樹脂[a-ODPA(60.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]に投入し、実施例1と同様にして、目的物質を得た。
【0062】
[実施例4]
<末端アミン活性PI[s-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]の重合>
a-ODPAの代わりに4,4’−オキシジフタル酸無水物(s−ODPA)を3.722g(12.00mmol)加えた以外は、実施例3と同様にして、アミン末端ポリイミド樹脂を生成させた。このアミン末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0063】
<末端酸無水物活性PI[s-ODPA(60.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]の重合>
a-ODPAの代わりにs−ODPAを5.584g(18.00mmol)加えた以外は、実施例3と同様にして、酸二無水物末端ポリイミド樹脂を生成させた。この酸二無水物末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0064】
<PI〔[s-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]/[s-ODPA(60.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]〕の重合>
アミン末端ポリイミド樹脂[s-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]を酸二無水物末端ポリイミド樹脂[s-ODPA(60.0mol%)/BAPP(33.3mol%)]に投入し、GBL7.9gで洗い流しながら全て投入し、良く攪拌した後、共沸剤であるトルエン 5gを加え、内温を180℃まで昇温して、30分保持した後トルエンをトラップから除去し、さらに30分間180℃にて攪拌してトルエンを除去しながら、溶液イミド化を実施して、目的物質を得た。重量平均分子量(Mw)は48947、数平均分子量(Mn)は10229であった。
【0065】
[実施例5]
<末端アミン活性PI[a-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]の重合>
実施例3と同様にして、アミン末端ポリイミド樹脂を生成させた。このアミン末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0066】
<末端酸無水物活性PI[a-ODPA(60.0mol%)/4,4'-ODA(33.3mol%)]の重合>
BAPPの代わりに4,4’−オキシジアニリン(4,4’−ODA)を2.002g(10.00mmol)加えた以外は実施例3と同様にして、酸二無水物末端ポリイミド樹脂を生成させた。この酸二無水物末端ポリイミド樹脂のイミド化率は100%(FT−IR)であった。
【0067】
<PI〔[a-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]/[a-ODPA(60.0mol%)/4,4'-ODA(33.3mol%)]〕の重合>
アミン末端ポリイミド樹脂[a-ODPA(40.0mol%)/x22-9409(66.7mol%)]を酸二無水物末端ポリイミド樹脂[a-ODPA(60.0mol%)/4,4'-ODA(33.3mol%)]に投入し、GBL0.4gで洗い流しながら全て投入し、良く攪拌した後、共沸剤であるトルエン 5gを加え、内温を180℃まで昇温して、30分保持した後トルエンをトラップから除去し、さらに30分間180℃にて攪拌してトルエンを除去しながら、溶液イミド化を実施して、目的物質を得た。重量平均分子量(Mw)は33013、数平均分子量(Mn)は8724であった。
【0068】
[合成例1]
<シロキサンポリイミド樹脂の合成>
窒素導入管と、ディーンスタークトラップを付与した500mLのセパラブルフラスコ中へジアミノシロキサン 64.96g(48.48mmol、信越化学社製、品名x22−9409、アミン価670)、GBL 20gを入れ、良く攪拌した後、酸二無水物モノマーであるa−ODPA 15.04g(48.48mmol)を徐々に加えた。この分散液へ、共沸剤であるトルエン 5gを加え、内温を180℃まで昇温して、30分保持した後トルエンをトラップから除去し、さらに30分間180℃にて攪拌してトルエンを除去しながら、溶液イミド化を実施し、下記(9)式で表されるホモポリマーのポリイミド樹脂を生成させた。
【0069】
【化10】

【0070】
[合成例2]
<芳香族ポリイミド樹脂の合成>
窒素導入管と、ディーンスタークトラップを付与した500mLセパラブルフラスコ中へBAPP 25.62g(62.46mmol)、GBL 55gを入れ、完全に溶解させ、a−ODPA 19.36g(62.46mmol)を徐々に加えた。この分散液へ、共沸剤であるトルエン 5gを加え、内温を180℃まで昇温して、30分保持した後トルエンをトラップから除去し、さらに30分間180℃にて攪拌してトルエンを除去しながら、溶液イミド化を実施し、下記(10)式で表されるホモポリマーのポリイミド樹脂を生成させた。
【0071】
【化11】

【0072】
[比較例1]
<ブレンド>
合成例1及び合成例2で得られたポリイミド樹脂ワニスをそれぞれ10g秤取り、直径5mmのZr攪拌ビーズを適量用いて、株式会社シンキー製の遊星式攪拌装置(2000rpm、自転公転比=2:5)にて混合した。
【0073】
[比較例2]
<ランダム共重合>
窒素導入管と、ディーンスタークトラップを付与した500mLセパラブルフラスコ中へジアミノシロキサン 79.98g(59.69mmol、信越化学社製、品名x22−9409、アミン価686)、BAPP 12.25g(29.85mmol)、GBL 80gを入れ、良く攪拌した後、a−ODPA 27.78g(89.54mmol)を徐々に加えた。この分散液へ、共沸剤であるトルエン 30gを加え、内温を180℃まで昇温して、30分保持した後トルエンをトラップから除去し、さらに30分間180℃にて攪拌してトルエンを除去しながら、溶液イミド化を実施し、下記(11)式で表されるランダム共重合体の均一な溶液を得た。
【0074】
【化12】

【0075】
[分子量測定]
実施例1〜3のアミン末端ポリイミド樹脂(ポリイミド樹脂A)、酸二無水物末端ポリイミド樹脂(ポリイミド樹脂B)、シロキサン変性ブロックポリイミド樹脂、及び比較例2のランダム共重合体の一部を抽出し、これらをそれぞれTHF(テトラヒドロフラン)で0.5wt%に希釈して、GPC(Gel Permeation Chromatography ;ゲル浸透クロマトグラフ)システム(昭和電工(株)製、Shodex GPC system-21)により分析を行い、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、多分散度(Mw/Mn)を測定した。また、実施例3のシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂及び比較例2のランダム共重合体について、還元粘度(ηred)を測定した。カラム(KF−G、KF−606、KF−605、KF−604、KF−601、KF−600D)の温度は40℃、流量は1mL/minとし、標準ポリスチレンで校正した。
【0076】
表1に、実施例1〜3のアミン末端ポリイミド(ポリイミドA)、酸二無水物末端ポリイミド(ポリイミドB)のGPC測定結果を示す。また、表2に、実施例1〜3のシロキサン変性ブロックポリイミド樹脂、及び比較例2のランダム共重合体のGPC測定結果を示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
また、図4は、実施例1〜3及び比較例2のポリイミド樹脂のGPCチャートである。実施例1〜3のブロックポリイミド樹脂のGPCチャートも比較例2のランダムポリマーのGPCチャートもほとんど一致していた。また、ブロックサイズに関係なく、保持時間21.5minに小さいピークが観測されているが、これは、官能基を持たないシロキサンがモノマーに含まれていたためだと考えられる。
【0080】
[弾性率等の測定]
動的粘弾性測定装置(TAインスツルメンツ社製DMA−Q800)に実施例3及び比較例2の試料(長さ30mm、幅10mm、厚さ50μm)を装着し、昇温速度5℃/minの条件下で、温度範囲−100〜200℃の貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E”)を測定した。また、周波数10MHzの測定条件で得られたtanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大点における温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0081】
図5に、実施例3のポリイミド樹脂のDMAカーブ(a)及び比較例3のポリイミド樹脂のDMAカーブ(b)を示す。両者の貯蔵弾性率E’は、−30℃以下では約2GPaで一定となった。これは、シロキサンセグメントが−30℃以下で凍結してしまったためだと考えられる。また、実施例3のポリイミド樹脂は、比較例2のランダム共重合体よりも、室温における貯蔵弾性率(E’)が低いため、実施例3のポリイミド樹脂への架橋剤の添加量を増加させることができ、弾性率、耐薬品性、ガラス転移温度などの特性を大きく制御することが可能であることが分かる。
【0082】
また、熱重量分析(TGA)を用い、窒素雰囲気下又は空気雰囲気下で10℃/分の昇温速度で測定し、5%重量損失温度を熱分解温度(T)とした。また、ガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0083】
また、引っ張り試験機(東洋ボールドウィン社製テンシロンUTM−II)を用いて、8mm/minの引張り速度にて試験し、実施例3及び比較例2の試料(長さ30mm、幅10mm、厚さ50μm)の引張弾性係数(E)、破断伸び(ε)、引張強度(σ)を測定した。
【0084】
表3に、実施例3及び比較例3の測定結果を示す。
【0085】
【表3】

【0086】
[特性評価]
次に、実施例1〜3、合成例1、2、及び比較例1、2について、重合溶液の状態、フィルム化した際の内部の相分離状態、相分離構造、及びタックを評価した。
【0087】
重合溶液の状態は、重合後、室温で14日間静置後、外観を目視で確認した。ここで、溶液にムラが無く透明な液体を「均一透明」と評価した。また、溶液にムラは無いが、濁っている状態を「均一濁り」と評価した。また、溶液が二層に分離している状態を「液分離」と評価した。
【0088】
フィルム化した際の内部の相分離状態は、重合溶液をガラス板上へドクターブレードによって流延し、強制対流式オーブンによって100℃10分で乾燥させた。このとき、激しい液分離が生じて流延できない場合を「成膜不可」と評価した。乾燥後、減圧オーブンによって200℃で1時間ベークした。得られたフィルムをガラス板から剥がして、液体窒素中で凍結させた後、断面を切って、金属顕微鏡、及び走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。このとき、膜が柔らかすぎてガラス基板から剥がすことができなかった場合を「剥離不可」と評価した。
【0089】
相分離構造の観察は、SEMによって断面観察ができた試料は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EXD)によって、スポット元素分析を行った。ケイ素をモニターすることで、相分離を形成している相がシロキサンPIか芳香族PIか判断した。
【0090】
タックは、200℃で1時間ベークして得られたフィルムをガラス面へ張り、その密着の程度を0〜5の6段階で評価した。0は全くタックが無い状態、5はタックが非常に強い状態を示し、その間を数値で評価した。
【0091】
表4に、これらの評価結果を示す。また、図6〜8は、それぞれ実施例1のフィルムの金属顕微鏡写真、SEM写真、及び相分離構造の模式図である。また、図9〜11は、それぞれ実施例2のフィルムの金属顕微鏡写真、SEM写真、及び相分離構造の模式図である。
【0092】
【表4】

【0093】
比較例1のような従来のポリマーブレンドでは、本反応系のような場合、瞬時に液分離が生じてしまい流延による成膜が不可能であった。また、合成例1のホモポリイミド樹脂は、γ−ブチロラクトン溶媒で固形分濃度が80%以上であり、印刷特性が優れることが期待されたが、膜が柔らかく、ガラス転移温度が室温を下回るため、フィルム化が困難であった。また、合成例2のホモポリイミド樹脂は、ガラス転移温度が高く、弾性率も高いため、FPCのカバーレイとして使用した場合、反発力の増大が懸念される。
【0094】
比較例2は、ポリイミド樹脂成分のシロキサンとBAPPとをランダム共重合させたものであるため、フィルム化が可能であったが、両ポリイミド樹脂の性質が平均化され、タック性も高くなかった。
【0095】
実施例1〜3、及び比較例2は、ポリイミド樹脂を構成する全モノマーの構成比は同じであるが、重合溶液の状態、フィルムの相分離状態、タック性が異なることが分かった。すなわち、実施例1〜3では、比較例2のランダム共重合体では見られない特性(タック性の増加など)が発現した。これは、末端活性基を残しつつ、異種ポリマーを形成させ、両ポリマーを重合させるブロック操作によって相分離構造を変化させた結果であると考えられる。
【0096】
例えば、表1に示すポリイミドAの数平均分子量において、4000以上の数平均分子量が大きくなるに伴い、タック力が向上した。また、図6〜8に示す実施例1の相分離構造と、図9〜11に示す実施例2の相分離構造とから、実施例1の方が海島構造における芳香族ポリイミドの島が小さく、タック力が大きいことが分かった。
【0097】
[スクリーン印刷性]
図12は、スクリーン印刷のテストパターンを示す模式図である。固形分濃度60%の実施例3のポリイミド樹脂ワニスにチキソトロピー調整剤(日本アエロジル社製、アエロジルRY200)を10phr添加した。これを、スペース400μm、PIライン600μmの間隔でコーティング後、100℃で10分間乾燥させた。光学顕微鏡で観察したところ、スクリーン印刷性が良好であることが分かった。
【0098】
同様に、固形分濃度55%の実施例4のポリイミド樹脂ワニス、および固形分濃度60%の実施例5のポリイミド樹脂ワニスへ、それぞれチキソトロピー調整剤(日本アエロジル社製、アエロジルRY200)を15phr、消泡剤(信越化学社製、FA−600)を175ppm添加し、スクリーン印刷性を確認したところ実施例3と比較して同等の良好な印刷性を確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(4)で示される芳香族ジアミンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第1活性末端基を有する少なくとも1種のハードセグメントを合成し、
一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(5)で示されるジアミノシロキサンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第2活性末端基を有する少なくとも1種のソフトセグメントを合成し、
前記第1活性末端基を有する少なくとも1種のハードセグメントと、前記第2活性末端基を有する少なくとも1種のソフトセグメントとをイミド化させるポリイミド樹脂の製造方法。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、存在しないか、又は水素、メチル基、トリフルオロメチル基を示し、Xは、C=O、SO、S、O、C、又は直接結合を示す。また、各ベンゼン環は、ハロゲン、アルキル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。)
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、存在しないか、又は水素、メチル基、トリフルオロメチル基を示し、Y、Y及びZは、それぞれ独立に、C=O、SO、S、O、C、又は直接結合を示す。また、各ベンゼン環は、ハロゲン、アルキル基、ヒドロキシル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。また、mは、0又は1である。)
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、存在しないか、又は炭素数1〜4のアルキレン基、若しくはフェニレン基を示し、それらは置換基を有していてもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1以上の炭化水素、脂肪族、又は芳香族から選ばれる1価の有機基を示す。また、nは1以上の整数である。)
【請求項2】
前記ソフトセグメントの数平均分子量が、4000以上である請求項1記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ハードセグメントの数平均分子量が、2000以上である請求項1記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法で得られたポリイミド樹脂。
【請求項5】
相分離構造を有する請求項4記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
フィルム状である請求項4又は5記載のポリイミド樹脂。
【請求項7】
一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(4)、(5)から選ばれる少なくとも1種のジアミンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第1活性末端基を有する少なくとも1種のセグメントを合成し、
一般式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の酸二無水物と、一般式(4)、(5)から選ばれる少なくとも1種のジアミンとを反応させ、酸無水物基又はアミノ基からなる第2活性末端基を有する少なくとも1種のセグメントを合成し、
前記第1活性末端基を有する少なくとも1種のセグメントと、前記第2活性末端基を有する少なくとも1種のセグメントとをイミド化させるポリイミド樹脂の製造方法。
【化4】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、存在しないか、又は水素、メチル基、トリフルオロメチル基を示し、Xは、C=O、SO、S、O、C、又は直接結合を示す。また、各ベンゼン環は、ハロゲン、アルキル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。)
【化5】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、存在しないか、又は水素、メチル基、トリフルオロメチル基を示し、Y、Y及びZは、それぞれ独立に、C=O、SO、S、O、C、又は直接結合を示す。また、各ベンゼン環は、ハロゲン、アルキル基、ヒドロキシル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。また、mは、0又は1である。)
【化6】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、存在しないか、又は炭素数1〜4のアルキレン基、若しくはフェニレン基を示し、それらは置換基を有していてもよい。また、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1以上の炭化水素、脂肪族、又は芳香族から選ばれる1価の有機基を示す。また、nは1以上の整数である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−1701(P2012−1701A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141097(P2010−141097)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】