説明

ポリイミド系フィルムの製造方法

【課題】ポリイミド系フィルムの強度、平面性を維持しつつ、接着剤に対する接着性を向上でき、かつその接着性を高温下においても維持できるポリイミド系フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族テトラカルボン酸類の残基としてピロメリット酸残基と、芳香族ジアミン類の残基としてベンゾオキサゾール骨格を含むジアミン残基とを有するポリイミドを主成分とするポリイミドフィルムの表層に、反応性官能基を形成する工程と、前記反応性官能基に、極性官能基を有する化合物をグラフト重合処理により付加する工程とを含む、ポリイミド系フィルムの製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張弾性率や引張破断強度に優れ、かつエポキシ樹脂などの接着剤との接着性に優れたポリイミド系フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、−269℃〜300℃までの広い温度範囲での物性変化が極めて少ないために、電気及び電子分野での応用、用途が拡大している。電気分野では、例えば車両用モーターや産業用モーター等のコイル絶縁、航空機電線及び超導電線の絶縁等に使用されている。一方、電子分野では、例えばフレキシブルプリント基板や、半導体実装用フィルムキャリヤーのベースフィルム等に利用されている。このようにポリイミドフィルムは、種々の機能性ポリマーフィルムの中でも極めて信頼性の高いものとして、電気及び電子分野で広く利用されている。しかしながら、最近では電気及び電子分野等のファイン化にともなって大きな問題が顕在化してきている。例えば、銅を蒸着又はメッキ等によって積層させた銅/ポリイミドフィルム積層体からなるプリント基板は、経時変化や環境変化によって銅層とポリイミドフィルムとの密着力が低下し、更にはその界面で剥離が発生する傾向にあった。
【0003】
他方、情報通信機器(放送機器、移動体無線、携帯通信機器等)、レーダーや高速情報処理装置などといった電子部品の基材の材料としては、従来、セラミックが用いられていた。セラミックからなる基材は耐熱性を有し、近年の情報通信機器の信号帯域の高周波数化(GHz帯に達する)にも対応し得る。しかし、セラミックはフレキシブルでなく、薄くできないので使用できる分野が限定される。
【0004】
そのため、有機材料からなるフィルムを高周波用途の電子部品の基材として用いる検討がなされ、ポリイミドからなるフィルム、ポリテトラフルオロエチレンからなるフィルム等が提案されている。ポリイミドからなるフィルムは耐熱性に優れ、また、強靭であるのでフィルムを薄くできるという長所を備えているが、高周波の信号への適用において、信号強度の低下や信号伝達の遅れなどといった問題が懸念される。さらに引張破断強度や引張弾性率は、未だ不十分であり、線膨張係数においても大きすぎるなどの課題を有している。ポリテトラフルオロエチレンからなるフィルムは、高周波にも対応し得るが、引張弾性率が低いためフィルムを薄くできない点、金属導体や抵抗体などとの接着性が悪い点、線膨張係数が大きく温度変化による寸法変化が著しくて微細な配線を有する回路の製造に適さない点等が問題となり、使用できる分野が限定される。このように、耐熱性、高機械的物性、フレキシブル性を具備した基材用として十分な物性のフィルムは未だ得られていない。
【0005】
引張弾性率を高くしたポリイミドフィルムとして、ベンゾオキサゾール環を主鎖に有するポリイミドからなるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが提案されている(特許文献1、特許文献2等参照)。このポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを誘電層とするプリント配線板も提案されている(特許文献3参照)。これらのベンゾオキサゾール環を主鎖に有するポリイミドからなるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、引張破断強度や引張弾性率が改良され、線膨張係数においても満足し得る範囲のものとなっているが、その優れた機械的物性の反面で、金属や接着剤等に対する接着性が不十分であるなどの課題を有していた。
【0006】
また、ポリイミドフィルムの表面をプラズマやコロナ放電によって表面改質処理を行うことが提案されているが(例えば特許文献4)、接着性の改良における再現性に課題を有しており、また改質された表面が周辺環境により変化しやすく、特に高温下においては改質効果が経時劣化するという問題点を有していた。また、ポリイミドフィルムの接着性改良に、ポリイミドフィルムをアルカリ溶液で処理した後、酸溶液で処理する方法も提案されているが(特許文献5参照)、接着剤等に対する接着性については、未だ不十分であった。
【0007】
また、接着性を有しないポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を形成したフィルム(特許文献6)や、ポリイミドフィルムとポリアミド系樹脂からなるフィルムとが積層されたフイルム(特許文献7)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−056992号公報
【特許文献2】特表平11−504369号公報
【特許文献3】特表平11−505184号公報
【特許文献4】特開2004−51712号公報
【特許文献5】特開平07−003055号公報
【特許文献6】特開平09−169088号公報
【特許文献7】特開平07−186350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献6や特許文献7等のように、ポリイミドフィルム上に熱可塑性樹脂層を設ける方策は、熱可塑性樹脂層が数μm以上の厚みを持つため、ベンゾオキサゾール環を主鎖に有するポリイミドからなるポリイミドフィルムのような線膨張係数が低めのフィルムに適用すると、熱可塑性樹脂層とポリイミドフィルムとの線膨張係数差により、特に加熱時にフィルムがカールしてしまうという問題が生じる。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち本発明は、ポリイミド系フィルムの強度、平面性を維持しつつ、接着剤に対する接着性を向上でき、かつその接着性を高温下においても維持できるポリイミド系フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、芳香族テトラカルボン酸類の残基としてピロメリット酸残基と、芳香族ジアミン類の残基としてベンゾオキサゾール骨格を含むジアミン残基とを有するポリイミドを主成分とするポリイミドフィルムの表層に、反応性官能基を形成する工程と、
前記反応性官能基に、極性官能基を有する化合物をグラフト重合処理により付加する工程とを含む、ポリイミド系フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリイミド系フィルムの製造方法によれば、特定のポリイミドフィルムの表層に反応性官能基を形成した後、グラフト重合処理によって極性官能基を有する化合物を付加することで、フィルムの強度、平面性を維持しつつ、接着剤に対する接着性を向上でき、かつその接着性を高温下においても維持できるポリイミド系フィルムを製造することができる。これにより、特に軽少短薄な回路基板用途やフレキシブルプリント回路基板用途などの銅張積層板を効率よく生産でき、更にこれを使用して軽少短薄な回路基板を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリイミド系フィルムに使用されるポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸類の残基と芳香族ジアミン類の残基とを有するポリイミドであり、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを溶媒中で反応させて得られたポリアミド酸をイミド化させて得られるポリイミドが好ましく、融点が300℃以上又は明確な融点を有しない非熱可塑性ポリイミドがより好ましい。
【0015】
本発明では、フィルムの強度の観点から、芳香族テトラカルボン酸類の残基としてピロメリット酸残基と、芳香族ジアミン類の残基としてベンゾオキサゾール骨格を含むジアミン残基とを有するポリイミドを主成分とするポリイミドフィルムを用いる。なお、前記「主成分」とは、本発明の効果を損なわない程度であれば、添加剤等の他の成分が含まれていてもよいことを意味する。例えば、他の成分のポリイミドフィルム中の含有量が、0〜10質量%程度であれば、フィルムの強度を維持できる。なお、前記他の成分としては、フィルム表面に滑り性を付与するための滑剤や、酸化防止剤などの添加剤、色素、導電性付与剤等が挙げられる。滑剤としては、平均粒子径0.03〜3μm程度の無機微粒子や有機微粒子が使用でき、具体例として、酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、粘土鉱物などを含む微粒子が挙げられる。
【0016】
上記ポリイミドを形成するためのモノマーの組み合わせとしては、ベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類と、ピロメリット酸類との組み合わせが好ましい。本発明で好ましく使用できるベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類として、下記の化合物が例示できる。
【0017】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0018】
2,2’−p−フェニレンビス(5−アミノベンゾオキサゾール)、2,2’−p−フェニレンビス(6−アミノベンゾオキサゾール)、1−(5−アミノベンゾオキサゾロ)−4−(6−アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6−(4,4’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:5,4−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(4,4’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:4,5−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(3,4’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:5,4−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(3,4’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:4,5−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(3,3’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:5,4−d’〕ビスオキサゾール、2,6−(3,3’−ジアミノジフェニル)ベンゾ〔1,2−d:4,5−d’〕ビスオキサゾール。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基の配位位置に応じて定められる各異性体であり、具体的には、上記に構造を示した5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが例示できる。
【0020】
本発明においては、使用する芳香族ジアミン類が全てベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類であってもよいが、他の芳香族ジアミン類を1種又は2種以上併用することもできる。ただし、フィルムの強度の観点からは、前記ベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類を全ジアミンの70モル%以上使用することが好ましい。
【0021】
上記他の芳香族ジアミン類としては、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミン類における芳香環上の水素原子の一部もしくは全てが、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルコキシル基、シアノ基、又は、アルキル基もしくはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基もしくはハロゲン化アルコキシル基で置換された芳香族ジアミン類等が挙げられる。
【0022】
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸類は、例えば芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられるが、フィルムの強度の観点からは、ピロメリット酸無水物を全芳香族テトラカルボン酸無水物類の70モル%以上使用することが好ましい。なお、使用する芳香族テトラカルボン酸無水物類の全てがピロメリット酸無水物であってもよい。
【0023】
上記芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、下記の芳香族テトラカルボン酸無水物類を例示できる。
【0024】
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【0025】
これらの芳香族テトラカルボン酸無水物類は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明においては、芳香族テトラカルボン酸無水物類以外に、フィルム強度を損なわない程度に、非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を1種又は2種以上併用することもできる。例えば、非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類が、全テトラカルボン酸無水物類の30モル%未満であれば、強度が高いフィルムを形成できる。
【0027】
上記非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類としては、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0028】
芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重合する際のモル比は、フィルム強度の観点から、芳香族ジアミン類:芳香族テトラカルボン酸無水物類=1:0.9〜1.1であることが好ましく、1:0.95〜1.05であることがより好ましく、1:0.98〜1.02であることが更に好ましい。
【0029】
芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられるが、なかでもN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましく適用される。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜20質量%となるような量が挙げられる。
【0030】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/又は混合する条件が挙げられる。必要により重合反応を二段階以上に分けたり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
【0031】
本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが2.5dl/g以上が好ましく、3.0dl/g以上がより好ましい。
【0032】
また、重合反応の前に反応溶液に少量の末端封止剤を添加して重合を制御してもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合、その使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
【0033】
良質なポリアミド酸の溶液を製造するには、重合反応中に真空脱泡することが好ましい。さらに、以下に述べるポリアミド酸の溶液を支持体上に流延・塗布するに際して、予め減圧などの処理によって該溶液中の気泡や溶存気体を除去しておくことも、本発明のポリイミド系フィルムを得るために有効な処理である。
【0034】
ポリアミド酸溶液を流延(塗布)する支持体は、ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形するに足る程度の平滑性、剛性を有していればよく、表面が金属、プラスチック、ガラス、磁器などで形成されたドラム又はベルト状回転体などが挙げられる。また、適度な剛性と高い平滑性を有するポリイミドフィルムを支持体として利用する方法も好ましい態様である。中でも、表面が金属からなる支持体が好ましく、該金属としては、防錆性及び耐腐食性に優れるステンレス鋼が好ましい。支持体の表面にはCr、Ni、Snなどの金属メッキを施してもよい。支持体表面は必要に応じて鏡面にしたり、あるいは梨地状に加工することができる。また、使用する支持体によって乾燥における風量や温度は適宜選択すればよい。支持体へのポリアミド酸溶液の塗布方法は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等、いずれであってもよく、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0035】
上記のポリアミド酸溶液を用いてポリイミドフィルムを形成する方法としては、上記のようにしてポリアミド酸溶液を流延(塗布)し、乾燥することによって、ポリアミド酸フィルムを得た後、熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)や、ポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、ポリアミド酸溶液を流延(塗布)した後、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる方法(所謂、化学閉環法)を挙げることができる。
【0036】
熱閉環法の熱処理温度は、150〜500℃が好ましい。熱処理温度が150℃以上であれば、閉環反応が速やかに行われる。また、熱処理温度が500℃以下であれば、フィルムの脆性が高くなるのを抑制できる。同様の観点から、好ましい熱処理方法は、150〜250℃で3〜20分間熱処理した後に、350〜500℃で3〜20分間熱処理する、所謂2段階熱処理方法が挙げられる。
【0037】
熱閉環法であっても、化学閉環法であっても、支持体に形成されたポリイミドフィルムの前駆体(グリーンシート、フィルム)を、完全にイミド化する前に支持体から剥離してもよいし、イミド化後に剥離してもよい。
【0038】
上記の方法で得られるポリイミドフィルムの厚さは特に限定されないが、通常1〜150μm程度であり、好ましくは2〜50μmである。ポリイミドフィルムの厚さは、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。
【0039】
本発明では、上記のようにして得られたポリイミドフィルムの表層に、反応性官能基を形成する工程(以下、「反応性官能基形成工程」ともいう)と、この反応性官能基に、極性官能基を有する化合物をグラフト重合処理により付加する工程(以下、「グラフト重合処理工程」ともいう)とを経て、ポリイミド系フィルムが得られる。
【0040】
反応性官能基形成工程は、ポリイミドフィルムのポリマー鎖中のイミド環を開環させてカルボキシル基やアミド基などの反応性官能基を生成させる工程であってもよく、ポリイミドフィルムの表層に、酸無水物基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等の反応性官能基を付加する工程であってもよい。
【0041】
反応性官能基形成工程の具体例としては、アルカリ水溶液処理、プラズマ処理、UV/オゾン処理が挙げられ、好ましくはアルカリ水溶液処理、大気圧プラズマ処理であり、コストの観点からアルカリ水溶液処理がより好ましい。
【0042】
アルカリ水溶液処理としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液で処理する方法が好ましく、pH8〜12のアルカリ水溶液で処理する方法がより好ましい。pHが8以上であれば、官能基を生成させるためのイミド開環反応が速やかに行われる。また、pHが12以下であれば、過剰なイミド開環反応によりポリイミドフィルムの脆性が高くなるのを抑制できる。なお、アルカリ水溶液処理は、ポリイミドフィルムをアルカリ水溶液中に浸漬する方法や、ポリイミドフィルム表面にアルカリ水溶液をスプレーする方法等、いずれの方法であってもよい。
【0043】
また、アルカリ水溶液には、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類、アルキルアミン、イミダゾール、低級アルコールアミン、アンモニアなどのアミン類やN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの極性溶媒が含まれていてもかまわない。本発明では、これらのアルカリ水溶液でポリイミドフィルムの表層を処理した後、酸溶液で中和処理することが好ましい。中和処理により、アルカリ水溶液処理で生成したカルボン酸塩基を反応性の高いカルボン酸に変換できるからである。
【0044】
反応性官能基形成工程としてプラズマ処理を採用する場合、処理方法は、プラズマによる表面処理であれば特に限定されるものではないが、これらの手段は一般的な高分子フィルムの分野では公知の表面改質手段であり、好ましくは、窒素を20vol%以上、酸素を0.01vol%以上および不活性ガスを含む混合気体の大気圧雰囲気下でのプラズマ放電処理法が例示できる。その場合、窒素の含有量が30vol%以上、酸素の含有量が0.1vol%以上が好ましく、窒素50vol%以上、酸素0.5vol%以上がより好ましい。また、不活性ガスは好ましくはアルゴンであるがヘリウムを併用してもかまわない。例えば、同じプラズマ放電処理法を採用するにしても、酸素を含まない場合は酸素を含有する反応性官能基が生成しにくい。また、不活性ガス含有量が多いと、ガスコストが高くなる。
【0045】
グラフト重合処理工程は、上記のようにしてポリイミドフィルム表面に生成させた官能基に、極性官能基を有する化合物(以下、「極性官能基含有化合物」ともいう)を結合させるグラフト重合処理、好ましくはポリイミドフィルム表面に生成させた官能基に極性官能基含有化合物を化学結合させるグラフト重合処理であり、接着剤に対する接着性を向上させる観点から、ポリイミドフィルム表面を均質に覆う薄膜を形成出来る方法が好ましい。更に、ポリイミドフィルム表面の官能基を起点もしくは結合点として重合反応が進行するグラフト重合法が、薄膜の厚さを薄く出来るという点でより好ましい。グラフト重合処理は、気相中で処理する方法であってもよく、液相中で処理する方法であってもよいが、極性官能基含有化合物を含む気相中で、ポリイミドフィルム表面に放電処理を施し、プラズマによりグラフト重合を開始させるプラズマグラフト重合処理が、より均質な薄膜を形成できる点で好ましい。
【0046】
上記極性官能基は、グラフト重合後においては接着性を向上させる官能基として機能する。よって、接着剤に対する接着性を向上させる観点から、上記極性官能基は、水酸基、アミノ基、シアノ基、アミド基、酸無水物基及びカルボニル基から選ばれる1種以上であることが好ましい。なお、上記「カルボニル基」は、カルボキシル基、アルデヒド基、エステル基などのように官能基中にカルボニル基を有するものも含む。同様の観点から、上記極性官能基は、水酸基、アミノ基、及びカルボキシル基から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0047】
また、グラフト重合を速やかに行う観点から、極性官能基含有化合物は、1つ以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物、例えばビニル化合物が好ましい。この場合、極性官能基含有化合物において、上記ポリイミドフィルム表面に生成させた官能基と反応する部分は、上記極性官能基であっても上記二重結合部分であってもよい。なお、グラフト重合後において上記極性官能基に接着性向上機能を発揮させる観点から、極性官能基含有化合物同士の重合反応は、上記二重結合部分同士の反応により行われることが好ましい。なお、上記反応は、例えば、後述する印加電力や、極性官能基含有化合物の流量等により制御できる。
【0048】
1つ以上の炭素−炭素二重結合を有する極性官能基含有化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、ヒドロキシアルキルアクリレート、無水マレイン酸、シアノアクリレート、アクリルアミドなどがあり、接着剤に対する接着性を向上させる観点、及びグラフト重合の反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。本発明では、これら極性官能基含有化合物を1種又は2種以上使用することができる。
【0049】
プラズマグラフト重合により極性官能基含有化合物を付加する場合、官能基の量を制御し、形成される薄膜の強度を保持する観点、及び形成される薄膜とポリイミドフィルムとの密着強度を確保する観点から、グラフト重合を行う気相中に、1,7−オクタジエン、n−ヘキサン、ヘキサメチルジシロキサン等の極性官能基を有さない化合物を含有させることが望ましい。極性官能基を有さない化合物と極性官能基含有化合物の比率は、流量比率や濃度比で容易に制御できる。
【0050】
プラズマグラフト重合を行う際の印加電力は、例えば0.1〜1W程度の低出力であることが好ましい。低出力であれば、反応性官能基の解離反応よりも炭素−炭素二重結合が優先的に解離するため、効率よく極性官能基を導入できる。
【0051】
グラフト重合処理工程において得られる極性官能基含有化合物層の厚みは、均質な薄膜を形成して接着性を向上させる観点から、後述する実施例に記載の測定方法で得られた測定値として、1〜100nmであることが好ましく、5〜50nmであることがより好ましい。極性官能基含有化合物層の厚みは、プラズマグラフト重合を行う際の極性官能基含有化合物の流量、重合時間等により制御できる。
【0052】
上記の方法で得られるポリイミド系フィルムの引張弾性率は、フィルムを薄くして軽少短薄な回路基板用に好適な銅張積層板を形成する観点から、5.5GPa以上であることが好ましく、6GPa以上であることがより好ましく、7GPa以上であることが更に好ましい。
【0053】
上記の反応性官能基形成工程とグラフト重合処理工程とを経て得られるポリイミド系フィルムは、極性官能基含有化合物層の厚みを薄くできることから、平面性の維持が容易である。また、表層に存在する極性官能基含有化合物の極性官能基により、接着剤に対する接着性を向上できる。ここで、上記「接着剤」とは、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上の接着剤を言い、例えば、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤等が例示できる。従来は、Tgの高い接着剤を用いると、高温環境での接着力維持が困難であった。このような接着剤でも、本発明によれば、高温環境に晒した後でも接着力が維持される。特に、従来は接着力維持が極めて困難であったエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂用硬化剤を成分として含む接着剤を用いても、本発明によれば、高温環境に晒した後でも接着力を維持できる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0055】
<ポリアミド酸溶液の還元粘度(ηsp/C)>
ポリアミド酸溶液の還元粘度(ηsp/C)は、ウベローデ型の粘度管により、溶液温度:30℃の条件で測定した。
【0056】
<ポリイミドフィルムの厚さ>
ポリイミドフィルムの厚さは、マイクロメーター(Mahr社製、ミリトロン1240)を用いて測定した。
【0057】
<ポリイミド系フィルムの引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度>
ポリイミド系フィルムを、MD方向及びTD方向にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とし、引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAG−IS)を用い、25℃、チャック間距離40mm、引張速度50mm/分の条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。
【0058】
<極性官能基含有化合物層の厚み>
生成した極性官能基含有化合物層(グラフトポリマー層)の厚みが非常に薄いことと、ポリイミドフィルム表面に凹凸が存在することから、ポリイミドフィルム表面に形成された極性官能基含有化合物層の厚みを直接測定するのは困難であったため、以下の方法で間接的に測定した。即ち、シリコンウェハーを2枚(それぞれ、シリコンウェハーA、シリコンウェハーBとする)用意し、シリコンウェハーA上の一部に、シリコンウェハーBを重ねた後、シリコンウェハーAの露出部分(シリコンウェハーBで被覆されていない部分)に後述する各例の条件に従って極性官能基含有化合物層を形成することで、シリコンウェハーA上に極性官能基含有化合物層を形成した領域と、極性官能基含有化合物層を形成していない領域とを設けた。次に、極性官能基含有化合物層を形成した領域と、極性官能基含有化合物層を形成していない領域との界面を原子間力顕微鏡で観察し、極性官能基含有化合物層の厚みを測定した。厚みの計測には、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPA300/SPI3800Nを使用した。
【0059】
<接着性の評価(剥離強度)>
ポリイミド系フィルムの処理面同士を向かい合わせて、その間に接着剤を充填させ、100℃にてロールラミネートした後、160℃、10MPa、1時間の条件でプレスし、接着剤を硬化させた後、幅10mmの短冊状に切り出した試料(未処理試料)について剥離強度を測定した。別途、上記と同様の方法で接着剤を硬化させた後、150℃、168時間の条件で加熱処理し、幅10mmの短冊状に切り出した試料(熱処理試料)について剥離強度を測定した。上記接着剤には、京セラケミカル社製TFA890EA−35−Cを用いた。また、剥離強度は、引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAG−IS)を用い、25℃、引張速度20mm/分の条件でT字剥離試験により測定した。
【0060】
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール500質量部を仕込んだ。次いで、N−メチル−2−ピロリドン5000質量部を加えて完全に溶解させた後、ピロメリット酸無水物485質量部を加え、更にコロイダルシリカのN−メチル−2−ピロリドン溶液を加えた。そして、25℃の反応温度で48時間攪拌し、淡黄色で粘調なポリアミド酸溶液(1)を得た。得られたポリアミド酸溶液の還元粘度(ηsp/C)は、4.1dl/gであった。なお、上記コロイダルシリカのN−メチル−2−ピロリドン溶液としては、蒸留したN−メチル−2−ピロリドン50質量部に、コロイダルシリカ1000ppmを混合して、ホモジナイザーで15分攪拌したものを用いた。
【0061】
(ポリイミドフィルムの作製)
上記のポリアミド酸溶液(1)をステンレス鋼製ベルトにT型ダイを用いてコーティングした。ダイのリップギャップは260μmであった。次いで、110℃にて22分間乾燥することにより得られた自己支持性をもつポリアミド酸フィルムをステンレス鋼製ベルトから剥離し、連続式の乾燥炉にて、200℃で3分間乾燥した後、20秒間で499℃にまで昇温して499℃にて7分間加熱し、更に、5分間で25℃まで冷却し、厚さ9.8μmの褐色のポリイミドフィルムを得た。
【0062】
(実施例1)
温度25℃の0.01M−KOH水溶液に、上記ポリイミドフィルムを3分間浸漬し、水洗後、0.2M−HCl水溶液に1分間浸漬して中和処理を行った。得られた反応性官能基付与フィルムを用い、下記条件でプラズマグラフト重合処理による極性官能基含有化合物層を形成した。誘導コイル電極を巻き付けた真空チャンバー内に反応性官能基付与フィルムを設置し、真空度を1×10−3mbarとした。その後、アクリル酸を1.8cm/分の流量、1,7−オクタジエンを0.2cm/分の流量でチャンバー内に導入し、誘導コイル電極に周波数13.56MHz、出力1Wのラジオ波を印加することでチャンバー内にプラズマを発生させ、30分間プラズマグラフト重合を行った。同条件でシリコンウェハー上に生成した極性官能基含有化合物層の厚みは39nmであった。得られたポリイミド系フィルムはカールせず良好な平面性を保っていた。また、得られたポリイミド系フィルムの引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度は、以下の通りであった。
引張弾性率:MD方向;8.6GPa、TD方向;8.5GPa
引張破断強度:MD方向;506MPa、TD方向;499MPa
引張破断伸度:MD方向;31%、TD方向;34%
【0063】
また、得られたポリイミド系フィルムの剥離強度を測定し、接着性を評価した。結果を表1に示す。なお、表1の総合評価は、以下の基準で判断した。
○:未処理試料の剥離強度≧4.0N/cmかつ熱処理試料の剥離強度≧4.0N/cm
△:未処理試料の剥離強度≧4.0N/cmかつ熱処理試料の剥離強度<4.0N/cm
×:未処理試料の剥離強度<4.0N/cm
【0064】
(実施例2)
プラズマグラフト重合時間を15分としたこと以外は、実施例1と同様に表面処理を行い、同様に評価した。結果を表1に示す。なお、同条件でシリコンウェハー上に生成した極性官能基含有化合物層の厚みは20nmであった。
【0065】
(実施例3)
反応性官能基形成処理としてアルカリ処理の代わりに下記の条件で大気圧プラズマ処理を実施したこと以外は、実施例1と同様に表面処理を行い、同様に評価した。結果を表1に示す。なお、同条件でシリコンウェハー上に生成した極性官能基含有化合物層の厚みは38nmであった。
電極間距離:2.0mm
電極幅:500mm
ガス流量:窒素;15L/分、酸素;窒素の4vol%(1L/分以下)
電力条件:400W、150V、2.67A、30kHz
処理時間:30秒
【0066】
(実施例4)
反応性官能基形成処理としてアルカリ処理の代わりに下記の条件でUV/オゾン処理を実施したこと以外は、実施例1と同様に表面処理を行い、同様に評価した。結果を表1に示す。なお、同条件でシリコンウェハー上に生成した極性官能基含有化合物層の厚みは39nmであった。
装置:センエンジニアリング社製 SKB1101N01
光源:低圧水銀ランプ、波長;185nm、254nm
照射強度:20mW/cm以上(照射距離10mm)
処理時間:30秒
【0067】
(比較例1)
表面処理を行わないポリイミドフィルム(即ち実施例1で用いたポリイミドフィルム)を比較例1の試料として用い、上記と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(比較例2)
プラズマグラフト重合処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0069】
(比較例3)
プラズマグラフト重合処理を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の方法でフィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例4)
反応性官能基形成工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示すように、本発明の実施例は、総合評価がいずれも○であり、比較例に比べ、接着剤に対する接着性を向上でき、かつその接着性を高温下においても維持できるポリイミド系フィルムが得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸類の残基としてピロメリット酸残基と、芳香族ジアミン類の残基としてベンゾオキサゾール骨格を含むジアミン残基とを有するポリイミドを主成分とするポリイミドフィルムの表層に、反応性官能基を形成する工程と、
前記反応性官能基に、極性官能基を有する化合物をグラフト重合処理により付加する工程とを含む、ポリイミド系フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記グラフト重合処理が、プラズマグラフト重合処理である請求項1に記載のポリイミド系フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記極性官能基が、水酸基、アミノ基、及びカルボキシル基から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載のポリイミド系フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記反応性官能基を形成する工程は、前記ポリイミドフィルムの表層をアルカリ水溶液で処理する工程である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド系フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミド系フィルムの引張弾性率が、5.5GPa以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミド系フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−225707(P2011−225707A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96269(P2010−96269)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】