説明

ポリウレタン分解能を有する微生物及びポリウレタン分解方法

【課題】 ポリウレタン分解能を有する微生物及びそれを用いたポリウレタンの分解方法の提供。
【解決手段】 ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物とポリウレタン含有物とを接触させて、ポリウレタンを分解することを特徴とするポリウレタン分解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン分解方法及びポリウレタン分解剤、並びにポリウレタン含有廃棄物処理方法及びポリウレタン含有廃棄物処理剤に関する。また本発明は、高分子化合物の分解能を有する微生物の単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、主鎖中にウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称であり、ポリオールとポリイソシアネートとの付加重合により合成されるものである。ポリウレタンは、ポリオールの種類によってエステル型ポリウレタンとエーテル型ポリウレタンとに大別される。
【0003】
また、ポリウレタンは、例えば、自動車等のシート、衣類の繊維、靴のクッション、接着剤及び塗料等の工業製品に広く使用されている。ポリウレタンを含む工業製品の製造過程、あるいは、不要となった工業製品自体は、ポリウレタン含有廃棄物として何らかの処理を経なければならない。例えば、ポリウレタン含有廃棄物は、焼却処理、化学的分解処理又は生分解処理等によって減容化され、最終的に廃棄される。なかでも生分解処理は、焼却処理を行う場合に問題となる大気汚染や、化学的分解処理を行う場合に問題となる高コストの問題を解決する手法として注目をされている。
【0004】
ポリウレタンの生分解処理としては、一般に、エステル型ポリウレタンがエーテル型ポリウレタンと比較して容易に分解されうることから、エステル型ポリウレタンを対象として所定の菌を用いて行われている。例えば、特許文献1〜3には、細菌が生産する酵素(エステラーゼ)が、エステル型ポリウレタンのエステル結合を切断し、分解する技術(微生物、酵素)が開示されている。また特許文献4には、プラスチックの生分解性簡易測定法として、ラッカーゼを含む酵素を利用する方法が開示されている。
【0005】
一方、エーテル型ポリウレタンは、分子中にエーテル結合やウレタン結合といった自然界にはあまり存在していない結合を有しているため、難分解性であることが知られている。本発明者は、エーテル型ポリウレタンを分解処理するための方法として、酵素や化学物質を用いた反応が有効であることを見出している(特許文献5〜7参照)。しかしながら、生分解処理に使用可能な、エーテル型ポリウレタンを効率的に分解する微生物は報告されていない。
【0006】
以上のように、エーテル型ポリウレタンを効率的に分解処理するための方法及び微生物の開発が望まれている。
【0007】
また、従来、高分子化合物の分解能を有する微生物を取得するため、分解微生物の単離には、培養液の一部を採取して移植する集積培養法が用いられている(例えば非特許文献1及び2参照)。集積培養法は、微生物の分離を行う前に目的とする微生物の数を増加させ、与えられた培養条件下で最大の増殖速度を有する微生物が優勢となることを利用して、目的微生物を分離するものである。しかしながらこの分離方法では、微生物が、分解対象化合物を分解し、増殖できる場合には、その微生物を目的微生物として単離することができるが、微生物が、化合物を分解した後、その分解物を資化して増殖できない場合には、目的の微生物は少量にしか存在しないため単離することができない。また、化合物の分解とは関係のない微生物が優勢となり、結果として目的の微生物を分離できないことも多い。
【0008】
従って、高分子化合物の分解能を有する微生物を効率よく単離するための方法が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−201192号公報
【特許文献2】特開平9−224664号公報
【特許文献3】特開平10−271994号公報
【特許文献4】特開2002−58500号公報
【特許文献5】特願2003−140561号
【特許文献6】特願2003−282817号
【特許文献7】特願2003−301332号
【非特許文献1】岡見吉郎ら編、「最新微生物ハンドブック」、サイエンスフォーラム株式会社、p.82-84、1986年
【非特許文献2】「微生物の分離法」、R&Dプランニング、p.657-663、1986年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上述した実状に鑑み、ポリウレタン分解能を有する微生物及びそれを用いたポリウレタンの分解方法を提供することを目的とする。また本発明は、高分子化合物の分解能を有する微生物の単離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、エーテル型ポリウレタンの分解能を有する細菌及び担子菌を見出し、これらのポリウレタン分解能を有する微生物を用いることによりポリウレタンを効率的に分解することができるという知見を得た。また、ポリウレタン分解能を有する微生物を単離する際に、移植による集積培養法を行わずに一定期間培養を継続することによってポリウレタン分解能を有する微生物を効率的に単離することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物とポリウレタン含有物とを接触させて、ポリウレタンを分解することを特徴とするポリウレタン分解方法。
(2)ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物を含むことを特徴とするポリウレタン分解剤。
【0013】
上記分解方法及び分解剤は、エーテル型ポリウレタンに対して優れた分解効率を示すため、分解対象となるポリウレタン又はポリウレタン含有物は、エーテル型ポリウレタンを主成分とするものであってもよい。
【0014】
また、上記分解方法及び分解剤において、ポリウレタン分解能を有する微生物は、細菌又は担子菌に属するものとすることができる。
【0015】
ここで、ポリウレタン分解能を有する細菌としては、ホンギア属、ストレプトマイセス属、サーマス属、ブレビバシラス属、ミクロモノスポラ属、プロミクロモノスポラ属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属、スフィンゴモナス属、バシラス属、ロドコッカス属及びクツネリア属からなる群より選択される属に属するものが含まれる。そのような属に属する細菌としては、例えば、ホンギア・コレエンシス、ストレプトマイセス・アヌラタス、ストレプトマイセス・ラベンジュレ、ストレプトマイセス・セプタタス、ストレプトマイセス・ノドサス、ストレプトマイセス・テンダエ、サーマス・サーモフィラス、ブレビバシラス・コシネンシス、ミクロモノスポラ・シトレ、プロミクロモノスポラ・スクモエ、シュードモナス・フルバ、アグロバクテリウム・アルベルティマグニ、アグロバクテリウム・ルビ、スフィンゴモナス・エキノイデス、バシラス・ハルマパラス、バシラス・スブティリス、ロドコッカス・ロドクロウス及びクツネリア・ビリドグリセアが挙げられる。
【0016】
またポリウレタン分解能を有する担子菌としては、マクカワタケ属、シミタケ属、マンネンタケ属、カワラタケ属、キカイガラタケ属、マツオウジ属及びディコミツス属からなる群より選択される属に属するものが含まれる。そのような属に属する担子菌としては、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム、オオウズラタケ、マンネンタケ、ニクウスバタケ、アラゲカワラタケ、キカイガラタケ、シイタケ及びマツエノオオウズラタケが挙げられる。
【0017】
さらに、上記(1)及び(2)を提供することによって、廃棄物に含有されているポリウレタンを分解処理することもできる。すなわち、本発明は、ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物とポリウレタン含有廃棄物とを接触させて、ポリウレタンを分解することを特徴とするポリウレタン含有廃棄物の処理方法、並びにポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物を含むことを特徴とするポリウレタン含有廃棄物処理剤を包含する。
【0018】
(3)高分子化合物の分解能を有する微生物の単離方法であって、
(a)高分子化合物の存在下で微生物含有サンプルを培養するステップであって、その際、移植による集積培養を行なわず、少なくとも1ヶ月間にわたり培養を継続することを含む、培養ステップ、
(b)高分子化合物の変化又は培地の変化を観察するステップ、
(c)変化が観察された微生物含有サンプルから微生物を単離するステップ、
を含む、高分子化合物分解微生物の単離方法。
【0019】
ここで、高分子化合物は、微生物により唯一の炭素源として使用されることが好ましい。また、高分子化合物としては例えばポリウレタンを用いることができる。
また微生物には、細菌、放線菌、糸状菌、担子菌、藻類及び原生動物が含まれる。
上記単離方法においては、さらに、単離した微生物の高分子化合物分解能を評価するステップを行ってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るポリウレタン分解方法及びポリウレタン分解剤により、ポリウレタン、特にエーテル型ポリウレタンを効率的に分解することができる。また、本発明に係るポリウレタン分解方法及びポリウレタン分解剤により、各種の分野で分解・減容化が望まれるポリウレタン含有廃棄物を処理することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る高分子化合物の分解能を有する微生物の単離方法により、高分子化合物の分解能を有する微生物を簡便かつ高効率で単離することができ、そのように単離された微生物は産業廃棄物の処理、バイオレメディエーション等の分野で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ポリウレタン分解方法
本発明に係るポリウレタンの分解方法(以下、「本分解方法」ともいう)は、ポリウレタン分解能を有する微生物(以下、「ポリウレタン分解微生物」ともいう)を利用することにより、ポリウレタンを含有する対象物を処理する方法である。
【0023】
本発明者は、種々の土壌サンプル及び水サンプルから、ポリウレタン分解能を有する微生物を単離することに成功した。かかるポリウレタン分解微生物には、ポリウレタン分解能を有する細菌(ポリウレタン分解細菌)及びポリウレタン分解能を有する担子菌(ポリウレタン分解担子菌)が含まれる。
【0024】
単離されたポリウレタン分解細菌は、ホンギア属、ストレプトマイセス属、サーマス属、ブレビバシラス属、ミクロモノスポラ属、プロミクロモノスポラ属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属、スフィンゴモナス属、バシラス属、ロドコッカス属又はクツネリア属に属するものである。かかるポリウレタン分解能を有する細菌としては、下記の表1に挙げるものを例示することができる。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示されるサーマス・サーモフィラスH54株は、独立行政法人、産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、平成16年11月12日付でFERM P−20298として寄託されている。上記菌株は本発明者らにより、土壌及び水から単離された細菌である。この菌株の菌学的性質は実施例5に示す通りである。
【0027】
また単離されたポリウレタン分解担子菌は、白色腐朽菌であるマクカワタケ属(Phanerochaete)、マンネンタケ属(Ganoderma)、カワラタケ属(Coriolus)、マツオウジ属(Lentinus)及びディコミツス属(Dichomitus)、並びに褐色腐朽菌であるシミタケ属(Tyromyces)及びキカイガラタケ属(Gloeophyllum)に属するものである。かかるポリウレタン分解能を有する担子菌としては、下記の表2に挙げるものを例示することができる。
【0028】
【表2】

【0029】
表2において、ATCC、IFO、CBS又はKの略語を用いて示した株の名称は、各分譲機関におけるカタログ番号である。ATCCは「American Type Culture Collection Rockville,U.S.A」、IFOは「Institute for Fermentation,Osaka,Japan」、CBSは「The Centraalbureau voor Schimmelcultures,Utrecht,The Netherlands」の各分譲機関を表す。表2に列挙した菌株は、いずれも各分譲機関からカタログ番号に従って容易に入手することが出来る。
【0030】
表1及び2に例示したポリウレタン分解能を有する微生物は、ポリウレタンを分解し資化することにより、ポリウレタンを唯一の炭素源として資化し、増殖できる点で好ましい。
【0031】
本分解方法においては、ポリウレタン分解能を有する微生物のうち少なくとも1種を用いる限り、複数種を組み合わせて使用することも可能である。例えば、ポリウレタン分解細菌の2種以上の組み合わせ、ポリウレタン分解担子菌の2種以上の組み合わせ、又は、ポリウレタン分解細菌の1種以上とポリウレタン分解担子菌の1種以上の組み合わせを用いることができる。
【0032】
また本分解方法においては、上記ポリウレタン分解微生物の培養物を使用することもできる。
ここでポリウレタン分解微生物の培養物を使用する場合には、ポリウレタン分解微生物の培養物は、その培養物のまま使用してもよいし、培養物を濾過、遠心分離若しくは抽出等の精製処理を行って使用してもよいし、又は培養物を水等で希釈して使用してもよい。培養物は、上述したポリウレタン分解微生物を培養することに調製することができ、その培養条件としては、後述するような通常の培養条件を用いればよい。
【0033】
本分解方法においては、ポリウレタンを含むものであればいかなるものも分解対象とすることができる。具体的な対象物としては、ポリウレタンを用いて製造された各種工業製品又はその廃棄物、あるいは、当該工業製品及び廃棄物を前処理した処理物を挙げることができる。工業製品としては、例えば、自動車等のシート、衣類の繊維、靴のクッション、接着剤及び塗料等を挙げることができる。ここで、本分解方法においては、ポリウレタンとして如何なるモノマー成分を有するポリウレタンをも分解することができるが、特に、分子中にエーテル結合を有するエーテル型ポリウレタンを効率よく分解することができる。
【0034】
本分解方法では、ポリウレタン含有物を、上述したポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物と接触させることで、当該ポリウレタン含有物に含まれるポリウレタンを分解することができる。
【0035】
ここで「接触」とは、ポリウレタン含有物と共にポリウレタン分解微生物の菌体を培養すること、ポリウレタン含有物とポリウレタン分解微生物の菌体又は培養物とを混合すること、ポリウレタン含有物にポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物を散布すること、ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物を不織布等に接種したものをポリウレタン含有物に静置することなどを指す。
【0036】
ポリウレタン含有物と共にポリウレタン分解微生物を培養する場合には、通常の培養条件を用いればよく、例えば、培地として、グルコース、デンプン、スクロース等の炭素源、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、酵母エキス、ペプトン等の窒素源を含有し、好ましくは、リン酸カリウム、硝酸マグネシウム、塩化カルシウム等の無機塩類や微量金属類、アミノ酸類、ビタミン類等の微量成分を含有する培地を用いて、静置培養、振盪培養、通気培養、通気撹拌培養等の各種培養条件を用いて培養を行うことができる。また培地は、固体培地及び液体培地のいずれも使用することができる。ここで、培養の最適条件に関しては、用いる微生物の種類により異なるため、上記培地及び培養方法は用いる微生物に適するものに適宜選択及び調製され、また、温度、pH、培養期間等のその他の培養条件も適宜選択されて培養が行われることが好ましい。
【0037】
例えば、ポリウレタン分解能を有する細菌を用いて本分解方法を実施する場合には、好ましい培地としては、NB培地(Nutrient Broth;Beckton Dickinson等より入手可能)、LB培地(Luria-Bertani培地;1%バクトトリプトン、0.5%バクト−イーストエクストラクト、1%NaCl、NaOHでpHを7.0〜7.5に調整)、M9培地(NaHPO6.0g、KHPO 3.0g、NaCl 0.5g、NHCl 1.0g、1M MgSO1.0ml、2M グルコース5.6ml、1%ビタミンB1(チアミン)1.0ml、1M CaCl 0.1ml)、M培地(最少培地;2.2g NaHPO・12HO、0.8g KHPO、3.0g NHNO、10.0mg FeSO・7HO、10.0mg CaCl・2HO、10.0mg MgSO・7HO、1g酵母エキス、1L蒸留水)等が挙げられ、好ましい培養条件は、温度25〜35℃、好ましくは約30℃において、pH6〜8であり、培養期間はおよそ1週間〜3ヶ月程度である。また、ポリウレタン分解能を有する担子菌を用いて本分解方法を実施する場合には、好ましい培地としては、ポテトデキストロース培地(PD培地;Difco社等より入手可能)、Kirk培地(1L中、10gグルコース、0.2g酢酸エキス、6.2gポリペプトン、5mlの2Hコハク酸バッファー(pH4.5)、1.8g酒石酸アンモニウム、2.0g KHPO、0.5g MgSO・7HO、0.1g CaCl・2HO、10mgチアミン−HCl、10ml Kirk微量元素溶液(1L、pH4.5中、9gニトリロ三酢酸ナトリウム、3g MgSO・7HO、2.73g MnSO、6g NaCl、0.6g FeSO・7HO、1.1g CoSO・7HO、0.6g CaCl・2HO、1.1g ZnSO・7HO、60mg CuSO・5HO、110mg AlK(SO・12HO、60mg HBO、70mg NaMoO・2HO))、木粉培地(1L中、10gグルコース、20mlコーンスティープリカー、50mg MnSO・5HO、10ml Kirk微量元素溶液、5μl 2Mコハク酸バッファー(pH4.5))等が挙げられ、好ましい培養条件は、温度20〜30℃、好ましくは約25℃において、pH4〜6であり、培養期間はおよそ1週間〜3ヶ月程度である。
【0038】
使用するポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物の量は、使用する微生物の種類、ポリウレタン含有物中のポリウレタンの存在量などを考慮して、望ましい結果が得られるように決定しうる。
【0039】
さらに、ポリウレタンの分解をさらに効率的に行うために、ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物と共にその他の追加成分を使用してもよく、そのような追加成分としては、限定するものではないが、ポリウレタン分解微生物の増殖を促進する培養液等が挙げられる。
【0040】
以上のように、ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物とポリウレタン含有物とを接触させることによって、ポリウレタン含有物に含まれるポリウレタンを分解することができる。
【0041】
また、本分解方法をポリウレタン含有廃棄物の処理に適用することができ、ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物を用いてポリウレタン含有廃棄物に含まれるポリウレタンを分解し、ポリウレタン含有廃棄物を分解・減容化することができる。
【0042】
ポリウレタン含有廃棄物の処理方法においては、上述したポリウレタンを含有する廃棄物を、ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物と接触させる前に、分解処理に適するように前処理することが好ましい。例えば前処理としては、具体的には、工業製品等の対象物をシュレッダー等により粉砕する処理、加熱処理、加熱・加湿処理等を挙げることができる。
【0043】
ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物によるポリウレタンの分解終了後は、分解処理済のポリウレタン含有廃棄物を適切な分離装置、例えば振動篩、膜、ベルトプレス又は遠心分離装置等を用いて、ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物を分離することができる。あるいは、分離を行わずに分解処理済のポリウレタン含有廃棄物をさらなる処理に供してもよい。微生物は、事前に動物試験等により安全性を確認されたものを用いるか、あるいは安全性を徹底するために使用後に殺菌処理を行うことが好ましい。
【0044】
本分解方法を用いることにより、各種の分野で分解・減容化が望まれるポリウレタンを効率的に分解することができる。例えば、プラスチック、紙、ゴム等からなるシュレッダーダストは産業廃棄物の1種であり、その減容化が望まれているが、本発明により、シュレッダーダストの体積の最大を占めるポリウレタンを分解することによって、減容化することができる。また、産業廃棄物処理場において原位置での分解及び減容化が可能であるため、新たに処理場を掘削する必要がなく、また廃棄物を移動させる必要がないため経済的である。
【0045】
2.ポリウレタン分解剤
本発明に係るポリウレタン分解剤は、ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物を含むものである。本分解剤は、ポリウレタン分解微生物のうちの1種を単独で、又は複数種を組み合わせて含有することができ、また1種又は複数種のポリウレタン分解微生物から調製された培養物を含有してもよい。ポリウレタン分解微生物の菌体及びその培養物は、前項「1.ポリウレタン分解方法」に記載のように調製することができる。
【0046】
本分解剤の形態は特に限定されず、ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物のそのままの形態、ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物を適当な溶媒中に溶解若しくは懸濁した形態、あるいは該ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物を保存可能なように凍結又は乾燥した形態など、任意の形態をとることができる。このような形態は、当技術分野で公知の方法に従って適宜調製することができる。
【0047】
また、本分解剤は、他の成分を含んでもよい。他の成分は、ポリウレタン分解微生物の菌体又はその培養物のポリウレタン分解能を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、微生物の増殖に効果があるビール類、米ぬか、おがくず等、微生物の安定化に効果がある麦飯石、その他の微生物担体等が挙げられる。
【0048】
本分解剤は、ポリウレタン含有物と接触させて使用するが、ポリウレタン含有物との接触は、前項「1.ポリウレタン分解方法」に記載のようにすることができる。また、使用量は、使用する微生物の種類、ポリウレタン含有物中のポリウレタンの存在量などを考慮して、望ましい結果が得られるように決定しうる。また、本分解剤は、ポリウレタン含有廃棄物処理剤として用いることも可能である。
【0049】
本分解剤により、ポリウレタンの分解を、本分解剤を使用することのみで簡便に行うことが可能となる。
【0050】
3.高分子化合物の分解能を有する微生物の単離方法
本発明に係る高分子化合物の分解能を有する微生物の単離方法は、従来行われている移植による集積培養を行わず、微生物含有サンプルを高分子化合物と接触させたまま長期間にわたって培養を継続することを特徴とするものである。
【0051】
従って、本単離方法においては、微生物含有サンプルを高分子化合物の存在下にて少なくとも1ヶ月にわたり培養する。その際、移植による集積培養は行わない。移植による集積培養とは、当技術分野で公知の培養方法であり、特定条件下での微生物の培養中に、培養液の一部を採取して新たな培養液に植え継ぎ、数日から数週間毎にその操作を繰り返すことによって、特定条件下で増殖する微生物を集積するものである(非特許文献1)。本単離方法では、このような移植による集積培養を行わず(培地を採取して植え継ぐことなく)、長期間にわたって培養を継続する。本分解方法によって、従来の方法では高分子化合物の分解能を有する微生物を単離することのできなかったサンプルから、複数の分解微生物を単離することに成功した(実施例2及び4参照)。
【0052】
培養は、通常の培養条件を用いればよく、例えば、培地として、グルコース、デンプン、スクロース等の炭素源、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、酵母エキス、ペプトン等の窒素源を含有し、好ましくは、リン酸カリウム、硝酸マグネシウム、塩化カルシウム等の無機塩類や微量金属類、アミノ酸類、ビタミン類等の微量成分を含有する培地を用いることができる。
【0053】
また、培養は、高分子化合物の存在下で行われる。本単離方法において、高分子化合物は特に限定されるものではなく、例えば、プラスチック類(ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸など)などが挙げられる。
【0054】
ここで、好ましくは、高分子化合物が、微生物により唯一の栄養源(例えば炭素源)として使用されるように培地の成分を調製する。このような培地を使用することによって、高分子化合物を分解し、その分解物を資化して増殖することのできる微生物を単離することができ、またそのような微生物は効率的に固形高分子化合物を分解可能であるため好ましい。
【0055】
培養は、少なくとも1ヶ月間、好ましくは約1ヶ月〜15ヶ月、より好ましくは約3ヶ月〜12ヶ月にわたり、培地を移植することなく、静置培養、振盪培養などにより行う。また、温度、pH等のその他の培養条件も適宜選択されて培養が行われることが好ましい。
【0056】
高分子化合物の分解能を有する微生物の供与源は、微生物を含有するサンプルであれば特に限定されるものではなく、例えば、土壌サンプル、水サンプル(例えば温泉サンプル)、植物サンプルなどを用いることができる。また単離しようとする微生物の種類も特に限定されるものではなく、例えば、細菌、放線菌、糸状菌、担子菌、藻類、及び原生動物が挙げられる。
【0057】
上述のようにして、高分子化合物の存在下にて微生物含有サンプルを培養した後、その高分子化合物の変化及び培養液の変化を観察する。高分子化合物の変化としては、形状、色の変化があり、例えば、その形状変化は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて亀裂として観察することができる。また、培養液の変化は、例えば濁り、変色などにより観察することができる。
【0058】
続いて、上記の変化が観察された微生物含有サンプルから、微生物を単離する。微生物を単離する方法は当技術分野で周知であり、任意の方法によって行うことができる。
【0059】
本単離方法においては、単離した微生物の高分子化合物分解力を評価するステップをさらに行ってもよい。具体的には、例えば、高分子化合物の存在下にて単離微生物を培養し、一定期間の経過後、該高分子化合物の重量変化を測定することにより、分解された高分子化合物の量を評価することができる。
【0060】
本単離方法により、高分子化合物を分解する微生物を、従来は単離することのできなかったような微生物でも簡便かつ高効率で単離することができる。そのように単離された微生物は、固形高分子化合物の分解力に優れ、産業廃棄物の処理、バイオレメディエーション等の分野で特に有用である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本方法をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
〔実施例1〕振盪培養によるポリウレタン分解能を有する細菌の単離(集積培養法)
本実施例においては、振盪培養によりポリウレタン分解能を有する細菌を単離した。
【0063】
50ml容チューブ(ポリプロピレン製、コーニング社)に、10mlのM培地(2.2g NaHPO・12HO、0.8g KHPO、3.0g NHNO、10.0mg FeSO・7HO、10.0mg CaCl・2HO、10.0mg MgSO・7HO、1g酵母エキス、1L蒸留水)を添加し、その中に、土壌サンプル1g又は河川水等液体サンプル1mlを加え、ポリウレタンテストピース(エーテル型ポリウレタン、1cm角に細断したもの)を1個入れ、30℃で2週間振盪培養(100rpm)した(1次集積培養)。
【0064】
培養2週間後のすべてのチューブ(チューブAとする)から培養液1mlを取り、9mlのM培地が入った50ml容チューブ(チューブBとする)に移し、新たにポリウレタンテストピースを入れ、30℃にて100rpmで振盪培養した(2次集積培養)。残ったチューブAは、ポリウレタンテストピースを入れたまま、30℃にて静置した。
【0065】
2週間培養後のチューブBのうち、培養液に濁り又は変色が観察されるか、ポリウレタンテストピース自体に変色等の変化が見られたサンプルについては、培養液1mlを取り、9mlのM培地が入った50ml容チューブ(チューブCとする)に移し、新たにポリウレタンテストピースを入れ、30℃、100rpmで振盪培養した(3次集積培養)。チューブCに植え継ぎしなかったチューブBは廃棄し、残ったチューブBは、ポリウレタンテストピースを入れたまま、30℃にて静置した。
【0066】
さらに2週間培養後のチューブCのうち、培養液に濁りが観察されたサンプルについては、培養液1mlを取り、0.8%NaCl溶液にて、希釈し、DNB固体培地(NB培地を100倍希釈したDNB培地に、寒天1.8%加えた固体培地)に塗布し、30℃で培養した。また、上記チューブCから1ml培養液を取り、9mlのM培地が入った50ml容チューブ(チューブDとする)に移し、新たにポリウレタンテストピースを入れ、30℃にて100rpmで振盪培養した(4次集積培養)。チューブDに植えつがなかったチューブCは廃棄し、残ったチューブCは、ポリウレタンテストピースを入れたまま30℃にて静置した。
【0067】
培養2週間後に、チューブD中の培養液に濁りがあるかどうか、ポリウレタンテストピースの形に変化があるかどうかを観察した。培養液の濁りやポリウレタンテストピースの形状に変化があったサンプルについては、培養液1mlを取り、0.8%NaCl溶液にて、希釈し、DNB固体培地に塗布し、30℃で培養した。それ以外のチューブは、廃棄とした。
【0068】
DNB固体培地培養後、1週間目までに固体培地上に出現したコロニーを全種類釣菌し、DNB固体培地に植菌し、30℃で培養した。シングルコロニーとなるまで純粋分離を繰り返した。単離菌は、DNB固体培地に植菌、培養後、パラフィルムでよく密封し、ポリウレタン分解試験に使用するまで4℃で保存した。また、培養液1mlを2mlチューブにとり、80%グリセロール溶液を500μlとり、よく懸濁させ、−80℃にて凍結保存した。最終的に751株を単離した。
【0069】
〔実施例2〕静置培養によるポリウレタン分解能を有する細菌の単離
本実施例においては、移植による集積培養法を行わずに静置培養によりポリウレタン分解能を有する細菌を単離した。
【0070】
50ml容チューブ(ポリプロピレン製、コーニング社)に、10mlのM培地を添加し、その中に、土壌サンプル1g又は河川水等液体サンプル1mlを加え、ポリウレタンテストピースを1個入れ、30℃で2週間振盪培養した(100rpm)後、そのままポリウレタンテストピースを入れ、30℃にて静置した(実施例1におけるチューブA)。
【0071】
10ヶ月静置培養後のサンプルから、ポリウレタンテストピースを取り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)観察に供した。その結果、ポリウレタンテストピースの形状に変化が観察された71種のサンプルについては、その培養液1mlを取り、0.8%NaCl溶液にて、希釈し、DNB固体培地に塗布し、30℃で培養した。
【0072】
さらに亀裂が認められたサンプルから再度菌株の単離を行うため、もとの土壌又は河川水サンプルをそれぞれ1g又は1ml取り、10mlのM培地に懸濁し、DNB固体培地に塗布し、30℃で培養した。DNB固体培地での培養後、1週間目までに固体培地上に出現したコロニーを全種類釣菌し、DNB固体培地に植菌し、30℃で培養した。シングルコロニーとなるまで純粋分離を繰り返した。単離菌は、DNB固体培地に植菌、培養後、パラフィルムでよく密封し、ポリウレタン分解試験に使用するまで4℃で保存した。最終的に330株を単離した。
【0073】
培養2ヶ月目まで、1週間ごと観察し、ポリウレタンシートの形状に変化が見られたサンプルについては、そこから微生物を同じ固体培地に植菌し、培養した。シングルコロニーとなるまで純粋分離を繰り返し、単離菌は、固体培地で培養後、パラフィルムでよく密封し、ポリウレタン分解試験に使用するまで4℃で保存した。また、細菌の場合には、培養液1mlを2mlチューブにとり、80%グリセロール溶液を500μlとり、よく懸濁させ、−80℃にて凍結保存した。最終的に330株を単離した。
【0074】
〔実施例3〕ポリウレタン分解能を有する好熱性細菌の単離
本実施例においては、ポリウレタン分解能を有する細菌を単離するため、好熱性細菌サンプルから単離を実施した。
【0075】
20ml容ガラスバイアルに、7mlの好熱菌分離用培地(下記参照)を添加し、その中に、土壌サンプル1g又は河川水等液体サンプル1mlを加え、ポリウレタンテストピースを1個入れ、アルミキャップで密栓し、80℃で静置培養した(1次集積培養)。ここで、好熱菌単離用培地は、2gペプトン、2g酵母エキス、6g NaCl、20ml Castenholzの10倍溶液塩溶液(1gニトリロ三酢酸、0.6g CaSO・2HO、1g MgSO・7HO、0.08g NaCl、1.03g KNO、6.89g NaNO、1.11g NaHPO、蒸留水(1Lまで))、2ml FeCl・5HO溶液(0.4g FeCl・5HO、蒸留水(1Lまで))、2ml Nithsch’s微量成分溶液(0.5ml HSO、3.16g MnSO・5HO、0.5g ZnSO・7HO、0.5g HBO、0.025g CuSO・5HO、0.025g NaMo・2HO、0.046g CoCl・6HO、蒸留水(1Lまで))、蒸留水(1Lまで)、pH8.0からなるものとした。
【0076】
培養1週間後のすべてのバイアル(バイアルA)から培養液1mlを取り、6mlの好熱菌単離用培地が入った20ml容ガラスバイアル(バイアルB)に移し、新たにポリウレタンテストピースを入れ、80℃で静置培養した(2次集積培養)。
【0077】
1週間培養後のバイアルBのうち、培養液に濁り又は変色が観察されるか、ポリウレタンテストピースに変色などの変化がみられたサンプルについては、培養液1mlを取り、6mlの好熱菌単離用培地が入った20ml容ガラスバイアルに移し、新たにポリウレタンテストピースを入れ、50℃又は80℃で静置培養した。
【0078】
さらに1週間培養後のチューブCのうち、培養液に濁りが観察されたサンプルについては、培養液1mlを取り、0.8%NaCl溶液にて希釈し、好熱菌用固体培地(好熱菌分離用培地に2%のPhytogel(Sigma社製)を使用した)に塗布し、50℃又は80℃で培養した。好熱菌用固体培地で培養後、1週間目までに固体培地上に出現したコロニーを全種類釣菌し、好熱菌用固体培地に植菌し、50℃又は80℃で培養した。シングルコロニーとなるまで純粋分離を繰り返した。単離菌は、好熱菌用固体培地に植菌、培養後、パラフィルムでよく密封し、ポリウレタン分解試験に使用するまで4℃で保存した。また、培養液1mlを2mlチューブにとり、80%グリセロール溶液を500μlとり、よく懸濁させ、−80℃にて凍結保存した。最終的に、80℃培養から16株を、50℃培養から78株を単離した。
【0079】
〔実施例4〕単離した微生物によるポリウレタン分解試験
本実施例においては、実施例1〜3において単離した微生物のポリウレタン分解力を、ポリウレタンテストピースの重量減少により、定量的に評価することとした。
【0080】
実施例1に記載のようにして振盪培養で取得した細菌の場合は、当該微生物をNB固体培地に植菌し、30℃で培養し、生育させた後、当該菌を10mlのM培地(0.1%酵母エキス含)の入った50ml容チューブに植菌し、あらかじめ重量を測定したポリウレタンテストピースを1個入れ、30℃で振盪培養した。振盪速度は、100rpmとした。
【0081】
実施例2に記載のようにして静置培養で取得した細菌の場合は、当該微生物をNB固体培地に植菌し、30℃で培養し、生育させた後、当該菌を10mlのM培地(0.1%酵母エキス含)の入った50ml容チューブに植菌し、あらかじめ重量を測定したポリウレタンテストピースを1個入れ、30℃で静置培養した。
【0082】
実施例3に記載のようにして単離した好熱菌の場合は、当該微生物を好熱菌用固体培地に植菌し、50℃または80℃で培養し、生育させた後、当該菌を7mlの好熱菌用培地の入った20ml容ガラスバイアルに植菌し、あらかじめ重量を測定したポリウレタンテストピースを1個入れ、アルミキャップで密栓し、50℃または80℃で静置培養した。
【0083】
それぞれ1ヵ月後に、ポリウレタンテストピースを取り出し、手もみによりよく水洗し、80℃で8時間乾燥させた後、重量を測定した。最終的に80℃培養から16株を、50℃培養から78株を単離した。
【0084】
実施例1に記載のようにして単離した微生物(751株)のポリウレタン分解力をN=2で評価した。その結果、最高で3.0%/月の重量減少を示す株(101612F;沖縄県西表島大富 堆肥から分離)を見出した。分解率の高かった微生物のOD(濁度)が高くなかったことから、ポリウレタンを分解し、その分解物を炭素源として、増殖している可能性は低いものと考えられた。
【0085】
また実施例2に記載のようにして単離した微生物(330株)のポリウレタン分解力を評価したところ、最高で8.7%/月の重量減少を示す株(90603D;広島県向島広大臨海試験所 土壌から分離)を見出した。
【0086】
実施例3に記載のようにして単離した好熱性細菌(16株+78株)のポリウレタン分解力を評価したところ、50℃培養からは、有意な分解力を示す(2%以上の分解率)株は見られなかったが、80℃培養において、最高で6.0%/月の重量減少を示す株(H54;静岡県熱川温泉温泉菩薩横 源泉から分離)を見出した。
【0087】
〔実施例5〕ポリウレタン分解能を有する細菌の同定
実施例4の分解試験において2%/月以上の重量減少を示した微生物について同定を行なった。ポリウレタン分解細菌の同定には、16S rRNA遺伝子の配列をもとにした系統解析により行った。
【0088】
結果を表3に示す。実施例3に従って好熱菌から単離された株は、サーマス・サーモフィラスと同定された。それ以外の株は、実施例2により単離された株である。
【0089】
【表3】

【0090】
上記サーマス・サーモフィラスH54株は、独立行政法人、産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、平成16年11月12日付でFERM P−20298として寄託されている。この菌株の菌学的性質は次の通りである。
(1)形態的性質
(a)細胞の多形性の有無:多形性なし
(b)運動性の有無:運動性なし
(c)胞子の有無:胞子なし
(2)培養的性質
(a)肉汁Phytogel平板培養:クリーム色、光沢なし、拡散性色素なし
(b)肉汁液体培養:表面発育なし
(3)化学分類学的性質
(a)16S rDNA塩基配列に基づく系統解析:
H54株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)
tggagagttt gatcctggct cagggtgaac gctggcggcg tgcctaagac atgcaagtcg tgcgggccgc
cggggtttta ctccgtggtc agcggcggac gggtgagtaa cgcgtgggtg acctacccgg aagaggggga
caacccgggg aaactcgggc taatccccca tgtggacccg ccccttgggg tgtgtccaaa gggctttgcc
cgcttccgga tgggcccgcg tcccatcagc tagttggtgg ggtaatggcc caccaaggcg acgacgggta
gccggtctga gaggatggcc ggccacaggg gcactgagac acgggcccca ctcctacggg aggcagcagt
taggaatctt ccgcaatggg cgcaagcctg acggagcgac gccgcttgga ggaagaagcc cttcggggtg
taaactcctg aacccgggac gaaacccccg acgaggggac tgacggtacc ggggtaatag cgccggccaa
ctccgtgcca gcagccgcgg ta
【0091】
blast検索をおこなったところ、サーマス・サーモフィラスHB8株の16S rDNA配列(アクセッションNo.X07998)と99.8%の相同性を示し、またサーマス・サーモフィラスHB27株の16S rDNA配列(アクセッションNo.AE017307)と99.6%の相同性を示した。
【0092】
〔実施例6〕担子菌によるポリウレタン分解試験
本実施例においては、担子菌のポリウレタン分解力を評価し、ポリウレタン分解力の高い担子菌を単離した。
【0093】
担子菌をポテトデキストロース(PD)固体培地(Difco社製)に植菌し、25℃で前培養し、生育させた。その後の培養は、(A)PD培地で振盪培養、(B)Kirk培地(1L中、10gグルコース、0.2g酢酸エキス、6.2gポリペプトン、5mlの2Hコハク酸バッファー(pH4.5)、1.8g酒石酸アンモニウム、2.0g KHPO、0.5g MgSO・7HO、0.1g CaCl・2HO、10mgチアミン−HCl、10ml Kirk微量元素溶液(1L、pH4.5中、9gニトリロ三酢酸ナトリウム、3g MgSO・7HO、2.73g MnSO、6g NaCl、0.6g FeSO・7HO、1.1g CoSO・7HO、0.6g CaCl・2HO、1.1g ZnSO・7HO、60mg CuSO・5HO、110mg AlK(SO・12HO、60mg HBO、70mg NaMoO・2HO))で静置培養、(C)木粉培地(1L中、10gグルコース、20mlコーンスティープリカー、50mg MnSO・5HO、10ml Kirk微量元素溶液、5μl 2Mコハク酸バッファー(pH4.5))で静置培養の3通りで行った。
【0094】
PD培地での振盪培養には、300ml容三角フラスコに50mlのPD培地を加え、上記の前培養した菌を植菌し、25℃で、1ヶ月間振盪培養した。植菌は、固体培地に生育した菌を寒天ごとコルクボーラーで打ち抜き、そのままフラスコに入れた。
【0095】
Kirk培地での静置培養には、300ml容三角フラスコに50mlのKirk培地を加え、上記の前培養した菌を植菌し、25℃で、1ヶ月間静置培養した。植菌は、固体培地に生育した菌を寒天ごとコルクボーラーで打ち抜き、そのままフラスコに入れた。
【0096】
木粉培地での静置培養には、300ml容三角フラスコにブナ木粉10gと20mlのKirk培地を加え、上記の前培養した菌を植菌し、25℃で、1ヶ月間静置培養した。植菌は、固体培地に生育した菌を寒天ごとコルクボーラーで打ち抜き、そのままフラスコに入れた。
【0097】
それぞれN=3で実施し、1ヵ月後にポリウレタンテストピースを取り出し、実施例4と同様に重量を測定した。
【0098】
その結果を表4に示す。試験した担子菌のうち、最高で3.8%/月の重量減少を示す担子菌が存在した。
【0099】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係るポリウレタン分解方法及びポリウレタン分解剤により、ポリウレタン、特にエーテル型ポリウレタンを効率的に分解することができる。また、本発明に係るポリウレタン分解方法及びポリウレタン分解剤により、各種の分野で分解・減容化が望まれるポリウレタン含有廃棄物を処理することができる。
【0101】
さらに、本発明に係る高分子化合物を分解する微生物の単離方法により、高分子化合物分解微生物を簡便かつ高効率で単離することができ、そのように単離された微生物はバイオレメディエーション等の分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物とポリウレタン含有物とを接触させて、ポリウレタンを分解することを特徴とするポリウレタン分解方法。
【請求項2】
ポリウレタン含有物がエーテル型ポリウレタンを主成分とすることを特徴とする請求項1記載のポリウレタン分解方法。
【請求項3】
ポリウレタン分解能を有する微生物が細菌又は担子菌に属するものである請求項1又は2記載のポリウレタン分解方法。
【請求項4】
ポリウレタン分解能を有する細菌が、ホンギア属、ストレプトマイセス属、サーマス属、ブレビバシラス属、ミクロモノスポラ属、プロミクロモノスポラ属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属、スフィンゴモナス属、バシラス属、ロドコッカス属及びクツネリア属からなる群より選択される属に属するものである、請求項3記載のポリウレタン分解方法。
【請求項5】
ポリウレタン分解能を有する細菌が、ホンギア・コレエンシス、ストレプトマイセス・アヌラタス、ストレプトマイセス・ラベンジュレ、ストレプトマイセス・セプタタス、ストレプトマイセス・ノドサス、ストレプトマイセス・テンダエ、サーマス・サーモフィラス、ブレビバシラス・コシネンシス、ミクロモノスポラ・シトレ、プロミクロモノスポラ・スクモエ、シュードモナス・フルバ、アグロバクテリウム・アルベルティマグニ、アグロバクテリウム・ルビ、スフィンゴモナス・エキノイデス、バシラス・ハルマパラス、バシラス・スブティリス、ロドコッカス・ロドクロウス及びクツネリア・ビリドグリセアからなる群より選択される少なくとも1種の細菌であることを特徴とする請求項3又は4記載のポリウレタン分解方法。
【請求項6】
ポリウレタン分解能を有する担子菌が、マクカワタケ属、シミタケ属、マンネンタケ属、カワラタケ属、キカイガラタケ属、マツオウジ属及びディコミツス属からなる群より選択される属に属するものである、請求項3記載のポリウレタン分解方法。
【請求項7】
ポリウレタン分解能を有する担子菌が、ファネロカエテ・クリソスポリウム、オオウズラタケ、マンネンタケ、ニクウスバタケ、アラゲカワラタケ、キカイガラタケ、シイタケ及びマツエノオオウズラタケからなる群より選択される少なくとも1種の担子菌であることを特徴とする請求項3又は6記載のポリウレタン分解方法。
【請求項8】
ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物を含むことを特徴とするポリウレタン分解剤。
【請求項9】
ポリウレタンがエーテル型ポリウレタンを主成分とすることを特徴とする請求項8記載のポリウレタン分解剤。
【請求項10】
ポリウレタン分解能を有する微生物が細菌又は担子菌に属するものである請求項8又は9記載のポリウレタン分解剤。
【請求項11】
ポリウレタン分解能を有する細菌が、ホンギア属、ストレプトマイセス属、サーマス属、ブレビバシラス属、ミクロモノスポラ属、プロミクロモノスポラ属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属、スフィンゴモナス属、バシラス属、ロドコッカス属及びクツネリア属からなる群より選択される属に属するものである、請求項10記載のポリウレタン分解剤。
【請求項12】
ポリウレタン分解能を有する細菌が、ホンギア・コレエンシス、ストレプトマイセス・アヌラタス、ストレプトマイセス・ラベンジュレ、ストレプトマイセス・セプタタス、ストレプトマイセス・ノドサス、ストレプトマイセス・テンダエ、サーマス・サーモフィラス、ブレビバシラス・コシネンシス、ミクロモノスポラ・シトレ、プロミクロモノスポラ・スクモエ、シュードモナス・フルバ、アグロバクテリウム・アルベルティマグニ、アグロバクテリウム・ルビ、スフィンゴモナス・エキノイデス、バシラス・ハルマパラス、バシラス・スブティリス、ロドコッカス・ロドクロウス及びクツネリア・ビリドグリセアからなる群より選択される少なくとも1種の細菌であることを特徴とする請求項10又は11記載のポリウレタン分解剤。
【請求項13】
ポリウレタン分解能を有する担子菌が、マクカワタケ属、シミタケ属、マンネンタケ属、カワラタケ属、キカイガラタケ属、マツオウジ属及びディコミツス属からなる群より選択される属に属するものである、請求項10記載のポリウレタン分解剤。
【請求項14】
ポリウレタン分解能を有する担子菌が、ファネロカエテ・クリソスポリウム、オオウズラタケ、マンネンタケ、ニクウスバタケ、アラゲカワラタケ、キカイガラタケ、シイタケ及びマツエノオオウズラタケからなる群より選択される少なくとも1種の担子菌であることを特徴とする請求項10又は13記載のポリウレタン分解剤。
【請求項15】
ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物とポリウレタン含有廃棄物とを接触させて、ポリウレタンを分解することを特徴とするポリウレタン含有廃棄物の処理方法。
【請求項16】
ポリウレタン分解能を有する微生物の菌体又はその培養物を含むことを特徴とするポリウレタン含有廃棄物処理剤。
【請求項17】
高分子化合物の分解能を有する微生物の単離方法であって、
(a)高分子化合物の存在下で微生物含有サンプルを培養するステップであって、その際、移植による集積培養を行なわず、少なくとも1ヶ月間にわたり培養を継続することを含む、培養ステップ、
(b)高分子化合物の変化又は培地の変化を観察するステップ、
(c)変化が観察された微生物含有サンプルから微生物を単離するステップ、
を含む、高分子化合物分解微生物の単離方法。
【請求項18】
高分子化合物が微生物により唯一の炭素源として使用される、請求項17記載の単離方法。
【請求項19】
高分子化合物がポリウレタンである、請求項17又は18記載の単離方法。
【請求項20】
微生物が細菌、放線菌、糸状菌、担子菌、藻類及び原生動物から選択される、請求項17〜19のいずれか1項に記載の単離方法。
【請求項21】
さらに、単離した微生物の高分子化合物分解能を評価するステップを含む、請求項17〜20のいずれか1項に記載の単離方法。

【公開番号】特開2006−158237(P2006−158237A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351274(P2004−351274)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】