説明

ポリウレタン多孔質体の注型成形品及びその製造方法

【課題】 ウレタンプレポリマーの水分散体をポリアミン化合物で架橋させて注型成形品を製造する場合に、硬化反応物の脱型性に優れ、微細な構造を有する注型成形品が容易に製造されるポリウレタン多孔質体の注型成形品の製造方法及び寸法精度に優れた微細構造を有する注型成形品を提供すること。
【解決手段】 本発明の注型成形品は、ポリオール、鎖長剤、イソシアネート及び0.1〜4重量%の親水性鎖長剤を反応させる工程、得られた末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを水と混合して分散させる工程、得られたウレタンプレポリマー水分散体を1,4−ジアミノブタンと混合し、得られた混合物を成形型内に注入して架橋させる工程、及び得られた硬化反応物を脱型して水分を除去する工程を含有することで製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン多孔質体の注型成形品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な連続気孔を有するポリウレタン多孔質体は、例えば、ウレタンエマルションを、一次架橋剤としての水溶性ポリイソシアネートと二次架橋剤としてのポリアミン化合物とで反応させることにより製造されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ウレタンプレポリマーのエマルションに対して、架橋剤としてポリアミン化合物のみを用いてポリウレタン多孔質体を製造することができれば、用いる成分の数を少なくすることができるので、製造コストの観点から非常に有用である。
【0004】
かかる技術課題を解決すべく、特許文献2には、ポリオール、鎖長剤、親水性鎖長剤及びイソシアネートを重合させて得られた末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの水分散体をポリアミン化合物で架橋させるにあたり、ウレタンプレポリマーを構成する反応成分中、親水性鎖長剤の含有量を特定範囲に設定することで、吸水性ロール、OA機器用ロール、吸水性部材、印面部材等として有用な物性を示す注型成形品を製造できることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−48940号公報
【特許文献2】特開2005−126670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載の技術的事項に基づいて、微細な構造を有する注型成形品を製造しようとすると、硬化不良により硬化反応物の脱型が困難になる場合があること、及び寸法精度に優れた成形品を製造することができない場合があることが見出された。
【0007】
したがって、本発明の主たる課題は、ウレタンプレポリマーの水分散体をポリアミン化合物で架橋させて注型成形品を製造する場合に、硬化反応物の脱型性に優れ、微細な構造を有する注型成形品が容易に製造されるポリウレタン多孔質体の注型成形品の製造方法及び寸法精度に優れた微細な構造を有する注型成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、硬化剤として1,4−ジアミノブタンを用いることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 ポリオール、鎖長剤、イソシアネート及び0.1〜4重量%の親水性鎖長剤を反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの水分散体と1,4−ジアミノブタンとを成形型内で架橋させて得られる硬化反応物から、水分を除去して得られるポリウレタン多孔質体の注型成形品、
〔2〕 前記〔1〕記載のポリウレタン多孔質体を用いてなる義肢関連用具、
〔3〕 ポリオール、鎖長剤、イソシアネート及び0.1〜4重量%の親水性鎖長剤を反応させる工程、
得られた末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを水と混合して分散させる工程、
得られたウレタンプレポリマー水分散体を1,4−ジアミノブタンと混合し、得られた混合物を成形型内に注入して架橋させる工程、
及び得られた硬化反応物を脱型して水分を除去する工程、
を含有するポリウレタン多孔質体の注型成形品の製造方法、
〔4〕 得られたウレタンプレポリマー水分散体を1,4−ジアミノブタンと混合し、得られた混合物を成形型内に注入して架橋させる工程において、前記混合物を成形型内に注入した後、加圧する工程をさらに有する、前記〔3〕記載の注型成形品の製造方法、
〔5〕 義肢関連用具用の成形型を用いて義肢関連用具を製造する、前記〔3〕または〔4〕記載の注型成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
〔1〕の発明によれば、ウレタンプレポリマーの水分散体をポリアミン化合物で架橋させてなる注型成形品において、寸法精度に優れた微細な構造を有する成形品が提供される。
〔2〕の発明によれば、シリコーン製の義肢関連用具と比べて、軽量で、かつ人体に装着した場合に蒸れにくい義肢関連用具が提供される。
〔3〕の発明によれば、ウレタンプレポリマーの水分散体をポリアミン化合物で架橋させて注型成形品を製造するにあたり、硬化反応物の脱型性に優れ、微細な構造を有する注型成形品を容易に製造することができる。
〔4〕の発明によれば、架橋時に生じた気泡を微小化して表面精度の良好な注型成形品を製造することができる。
〔5〕の発明によれば、シリコーン製の義肢関連用具と比べて、人体に装着した場合に蒸れにくく、かつ軽量な義肢関連用具を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るポリウレタン多孔質体の注型成形品は、ウレタンプレポリマーを水中に分散させたウレタンプレポリマー水分散体と1,4−ジアミノブタンとを混合し、得られた混合物を成形型内で架橋させて得られるものである。また、本発明におけるウレタンプレポリマーとは、ポリオール、鎖長剤、イソシアネート及び親水性鎖長剤を必須成分として重合して得られ、末端イソシアネート基を有するものをいう。
【0012】
ポリオールとしては、通常のポリウレタンの製造に使用され、分子中に水酸基を2個以上有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリル系ポリオール、ヒマシ油系ポリオール、シリコーン系ポリオール等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、得られる成形品の劣化を抑制する観点から、ポリカーボネートポリオールが好ましく用いられる。なお、前記でいう劣化には、光による劣化、水による劣化等が含まれる。
【0013】
ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等)及び/又は複素環式エーテル(テトラヒドロフラン等)を重合又は共重合して得られるもの、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−ポリプロピレン(ブロック又はランダム)グリコール、ポリエチレン−テトラメチレン(ブロック又はランダム)グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ−2−メチルテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等が挙げられる。または、アミン化合物(モノ又はジアミン、ヒドラジン、置換ヒドラジン等)にアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等)を付加したアミン系エーテルポリオール等が挙げられる。
【0014】
ポリエステルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、グルタル酸、アゼライン酸等)及び/又は芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、テレフタル酸等)と低分子グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサン等)とを縮重合させたもの、具体的にはポリエチレングリコールアジペート、ポリブタンジオールアジペート、ポリヘキサンジオールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートジオール、ポリブチレンイソフタレートジオール等が挙げられる。
【0015】
ポリカーボネートポリオールとしては、ポリブタンジオールカーボネート、ポリ−3−メチルペンタンジオールカーボネート、ポリヘキサンジオールカーボネート、ポリノナンジオールカーボネート、ポリブタンジオールヘキサンジオールカーボネート、ポリペンタンジオールヘキサンジオールカーボネート、ポリ−2−メチルオクタンジオールノナンジオールカーボネート、ポリ−3−メチルペンタンジオールヘキサンジオールカーボネート等が挙げられる。
【0016】
ポリラクトンポリオールとしては、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール、ポリ−3−メチルバレロラクトンジオール等が挙げられる。
【0017】
ポリオレフィンポリオールとしては、ポリブタジエングリコール、ポリイソプレングリコールまたはその水素化物等が挙げられる。
【0018】
シリコーン系ポリオールとは、ポリシロキサン主鎖に水酸基を導入したものである。また、導入した水酸基は、ポリシロキサン主鎖の両末端、または片末端にあればよい。
【0019】
また、上記ポリオールの数平均分子量としては、得られる成形品に微細な連続気孔を形成させる観点から、好ましくは500〜5000、より好ましくは500〜4000、特に好ましくは500〜3000である。
【0020】
鎖長剤としては、通常のポリウレタンの製造に使用され、分子中に水酸基を2個以上有する短鎖ジオール化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、ノナンジオール、オクタンジオール、ジメチロールヘプタン、1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
鎖長剤の配合量は、良好な製品特性を有する成形品を得る観点から、上記ポリオール100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜7重量部、特に好ましくは1〜5重量部である。
【0022】
イソシアネートとしては、通常のポリウレタンの製造に使用され、末端にイソシアネート基を2つ以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製ジフェニルメタンイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート及びその水素添加物;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
イソシアネートの配合量としては、得られるウレタンプレポリマーの末端がイソシアネート基を有する限り特に限定されず、上記ポリオール、鎖長剤及び後述する親水性鎖長剤がそれぞれ有する活性水素基と定量的に反応するよう配合すればよい。
【0024】
親水性鎖長剤としては、分子内にアニオン性親水基(カルボキシル基又はスルホン基)を1個以上有するポリヒドロキシ化合物等のアニオン性鎖長剤、エチレンオキサイド化合物等のノニオン性鎖長剤、N−メチルジエタノールアミン等のカチオン性鎖長剤が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。こられの中でも、アニオン性鎖長剤が好ましく用いられ、具体的には、2,2−ジメチロール乳酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、1,4−ブタンジオール−2−スルホン酸等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
親水性鎖長剤の配合量は、用いるポリオール及びイソシアネートの種類にもよるが、得られるウレタンプレポリマーの水分散性及び後述する硬化特性を向上させる観点並びに微細な連続気孔を有する成形品を得る観点から、ウレタンプレポリマーを構成する反応成分中、好ましくは0.1〜4重量%、より好ましくは1〜4重量%、特に好ましくは1〜3重量%である。すなわち、親水性鎖長剤の配合量が0.1重量%を下回ると、得られるウレタンプレポリマーの水分散性が極端に低下するおそれがある。他方、親水性鎖長剤の配合量が4重量%を上回ると、得られるウレタンプレポリマー水分散体の硬化特性が損なわれるおそれがある。本明細書において「ウレタンプレポリマーを構成する反応成分」とは、ウレタンプレポリマーを製造する際に用いる必須原料をいい、具体的には、ポリオール、鎖長剤、イソシアネート及び親水性鎖長剤をいう。
【0026】
ウレタンプレポリマーは公知の方法で製造することができ、特に限定されないが、例えば、分子内に活性水素基を含まない有機溶剤の存在下、又は非存在下で、ポリオールと鎖長剤と親水性鎖長剤とイソシアネートとを、ワンショット法または多段法により、好ましくは20〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、2〜10時間、反応させる方法等が挙げられる。ここで、上記必須成分の添加順序は特に限定されない。また、反応終点は、粘度及び末端NCO%で管理するのが好ましい。
【0027】
上記有機溶剤は、ウレタンプレポリマー製造時の粘度を下げるために用いられ、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N’−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0028】
本発明におけるウレタンプレポリマーの水分散体は、上記ウレタンプレポリマーを水中に分散させたものであり、水に対するウレタンプレポリマーの配合割合(以下、「固形分濃度」という場合がある)は、得られる成形品の強度を確保する観点から、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは35〜60重量%である。
【0029】
ウレタンプレポリマー水分散体の製造方法は特に限定されず、例えば、ウレタンプレポリマーと水とを室温下(20〜40℃)、ディスパーミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザー等の分散装置を用いて、混合、分散する方法等が挙げられる。
【0030】
ここで、親水性鎖長剤としてアニオン性鎖長剤を用いる場合、ウレタンプレポリマーの水分散性を向上させる観点から、あらかじめウレタンプレポリマーを構成する親水性鎖長剤のアニオン性親水基を中和させておいてもよい。かかる中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン等の低級アルキルアミン;アンモニア等の無機中和剤が挙げられる。これらの中でも、後述する水分除去行程により取り除きやすい点で、水より低い沸点を有するトリメチルアミン、トリエチルアミンが好ましく用いられる。
【0031】
中和剤の配合量としては、特に限定されないが、通常は、親水性鎖長剤のアニオン性親水基とほぼ同当量配合することが好ましい。
【0032】
さらに、ウレタンプレポリマーの水分散性を向上させる観点から、界面活性剤を適宜用いてもよい。使用しうる界面活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等)、高級アルコールプロピレンオキサイド付加物、高級アルコール(エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド)付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等)、アリールフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、脂肪酸ポリエチレングリコールエステル、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、長鎖アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル(ソルビタンエステル)、ソルビタンエステルエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等のノニオン界面活性剤;アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩等のアニオン界面活性剤;第四級アルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。こられの中でも、ウレタンプレポリマーの水分散性を向上させる観点及び後述する水洗行程を効率良く行う観点から、HLB値が6〜20のノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0033】
界面活性剤の配合量は、ウレタンプレポリマーに対し、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%、特に好ましくは3〜15重量%である。
【0034】
本発明において、1,4−ジアミノブタンは硬化剤(架橋剤)として用いられる。上述したウレタンプレポリマーの水分散体の好適な固形分濃度では、硬化剤として1,4−ジアミノブタン以外のポリアミン化合物(例えば、エチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ネオペンチルジアミン)をウレタンプレポリマーの水分散体と混合して成形型内に注入した場合、十分な強度が得られない等の硬化不良が生じるが、本発明者らの検討によれば、1,4−ジアミノブタンを用いた場合にのみ、硬化不良が生じないことが確認されている。
【0035】
1,4−ジアミノブタンの配合量としては、ウレタンプレポリマー水分散体の活性イソシアネート基(水分散前における理論値)と1,4−ジアミノブタンの活性水素基との当量比として、好ましくは10〜90%、より好ましくは15〜50%、特に好ましくは20〜40%である。
【0036】
本発明の注型成形品は公知の方法で製造することができ、製造方法は特に限定されないが、例えば、上記で得られたウレタンプレポリマーの水分散体と1,4−ジアミノブタンとを室温下(20〜40℃)で均一に混合し、得られた混合物を成形型内に注入し、20〜50℃で、10時間以上静置した状態で架橋を進行させ、得られた硬化反応物を脱型して水分を除去する方法等が挙げられる。本発明において、ウレタンプレポリマーの水分散体と1,4−ジアミノブタンとの混合物は、両成分を混合した後遅くとも2分以内に成形型内に注入することが望ましい。かかる時間を超えて前記混合物を成形型内に注入すると、注入不良が生じる場合がある。また、成形に使用する成形型の材質についても特に限定されず、シリコーン製、テフロン(登録商標)製、金属製等が用いられる。
【0037】
上記の製造方法では、架橋時に生じた気泡を微小化して表面精度の良好な成形品を得るため、得られたウレタンプレポリマー水分散体を1,4−ジアミノブタンと混合し、得られた混合物を成形型内に注入して架橋させる工程において、前記混合物を成形型内に注入した後、加圧する工程をさらに有することが望ましい。かかる加圧操作を行うタイミング及び時間は特に限定されないが、通常は、前記混合物を成形型内に注入した直後(すなわち、架橋反応の初期)から継続して数時間程度行われる。具体的には、前記混合物が注入された成形型を通常の加圧注型に用いられる加圧槽の中に入れ、1〜5kgf/cm程度の圧力で加圧する。
【0038】
本発明の成形品には、本発明の目的を損なわない範囲で、任意成分として、上述した中和剤、界面活性剤の他、着色剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、増粘剤、pH調整剤、消臭剤、防かび剤等の添加剤が含まれていてもよく、これらを単独で又は2種以上を混合して添加することが可能である。なお、本発明では、任意成分として、ポリウレタンの製造で通常用いられる低収縮剤や離型剤を含ませる必要はない。
【0039】
また、親水性鎖長剤としてアニオン性鎖長剤が構成成分として含有されてなるウレタンプレポリマー水分散体中に中和剤が添加されている場合、得られるポリウレタン多孔質体の劣化を抑制する観点から、アニオン性鎖長剤のアニオン性親水基と反応し得る化合物を添加してウレタンプレポリマーを架橋させてもよい。かかる化合物としては、例えば、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、エポキシ系化合物、メラミン系化合物等が挙げられる。また、上記化合物を添加した場合、アニオン性親水基と塩を形成していた中和剤がアニオン性鎖長剤から解離するので、後述する水洗工程を効率良く行うことができる。
【0040】
上記成形品の製造において、ウレタンプレポリマー水分散体中のウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基は、周りに存在する水と反応してしまうため、ウレタンプレポリマーを水に分散後、通常は、48時間以内に1,4−ジアミノブタンと反応させることが好ましい。
【0041】
上記水分除去方法としては、室温下で自然乾燥させてもよいが、通常は水分除去時間を短縮するため、熱風乾燥機等を用いて70℃以上で乾燥させることが好ましい。なお、得られた硬化反応物中に中和剤、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、pH調整剤等が含まれているときは、上記乾燥行程の前に、例えば、洗濯機等を用いてこれらの成分を水洗しておくことが好ましい。
【0042】
上記の製造工程によれば、微細な構造を有する成形品を製造する場合でも、硬化不良を生じず、硬化反応物の脱型を容易に行うことができる。さらに、得られる注型成形品は寸法精度に優れた微細な構造を有するものとなる。
【0043】
本発明の成形品は、種々の形状を有する成形品として適用可能であり、例えば、図1に示す人の手、図2に示すブラシ、図3に示す足踏み具等、微細な構造を有する各種製品に好適に使用することができる。本発明の成形品は、例えば義肢関連用具として好適である。本明細書において「義肢関連用具」とは、通常の義肢(義手、義足)及び失われた肉体の一部に装着する人工物(例えば、人工指、人工乳房、人工耳、人工鼻等)において、その全部または一部を構成するものをいう。本発明の成形品を義肢関連用具として用いることで、シリコーン製の義肢関連用具と比べて、軽量で、かつ人体に装着した場合に蒸れにくい義肢関連用具を提供することができる。義肢関連用具を製造するにあたっては、当該対象となる義肢関連用具の構造をキャビティとして有する成形型(すなわち、義肢関連用具用の成形型)を用いて上記の製造方法に従って製造すればよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0045】
1. 成形品の製造例1〜2
1−1. 原料
成形品の製造に用いた原料は次のとおりである。
(1)ポリオール:ポリカーボネートポリオール(日本ポリウレタン工業社製、商品名「ニッポランN−965」、分子量1,000)
(2)鎖長剤:エチレングリコール
(3)イソシアネート:1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート
(4)親水性鎖長剤:2,2−ジメチロールプロピオン酸
(5)中和剤:トリエチルアミン
(6)界面活性剤:三洋化成工業社製、商品名「ナロアクティーN−140」、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、HLB 14.7
(7)酸化防止剤:共同薬品社製、商品名「スミライザーGA−80」
(8)消泡剤:信越化学工業社製、商品名「KS−538」
(9)水
(10)有機溶剤:N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)
(11)硬化剤:1,4−ジアミノブタン、エチレンジアミン
【0046】
1−2. 製造例1(本発明品)
3口丸底フラスコに、N−965(ポリオール)、エチレングリコール(鎖長剤)、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアネート)、2,2−ジメチロールプロピオン酸(親水性鎖長剤)、トリエチルアミン(中和剤)、GA−80(酸化防止剤)及びDMF(有機溶剤)を表1に示す配合割合で加え、80℃で3時間攪拌し、ウレタンプレポリマーを得た。
上記と並行して、水、N−140(界面活性剤)及びKS−538(消泡剤)を表1に示す配合割合で混合した溶液を別途調製し、35℃に保った状態で、該溶液に上記で調製したウレタンプレポリマーを添加し、10分間攪拌を行い、ウレタンプレポリマー水分散体を得た。
上記で得られたウレタンプレポリマー水分散体に1,4−ジアミノブタン(硬化剤)を表1に示す配合割合で加え、35℃で10秒間混合した後、得られた混合物をシリコーン製の成形型(キャビティ寸法:縦20cm,横20cm,高さ10cm)に注入し、40℃で16時間静置して架橋させた。得られた硬化反応物を脱型し、次いで洗濯機で水洗し、最後に100℃で6時間乾燥させて注型成形品を得た。
【0047】
1−3. 製造例2〜4(比較品1〜3)
硬化剤として1,4−ジアミノブタンに代えてエチレンジアミンを使用し、水と硬化剤の配合量を表1に示すように変更したこと以外は製造例1と同様の方法で注型成形品を得た。
【0048】
【表1】

【0049】
1−4. 評価
(脱型性)
硬化反応物の脱型時に硬化反応物の脱型のし易さ(脱型性)、脱型した後の硬化反応物の外観を評価した。
(収縮率)
硬化反応物を脱型した後の硬化反応物の縦,横及び高さの各寸法を測定し,基準値(縦20cm,横20cm,高さ10cm)に対する収縮率を測定した。
【0050】
1−5. 結果
(脱型性)
製造例1(本発明品)の硬化反応物は、脱型時の抵抗が小さく脱型しやすかった。また、脱型後の硬化反応物は、平面視が正方形で、全体が直方体からなり、脱型時に破断された部分や切欠された部分はまったく認められなかった。
一方、製造例2〜4(比較品1〜3)の硬化反応物は、いずれも脱型時の抵抗が大きく、無理やり脱型しようとすると、硬化反応物の一部が成形型に密着したままの状態で脱型され、大部分が破断した状態で脱型された。
上記の結果から、製造例1の硬化反応物は脱型性に優れるが、製造例2〜4(比較品1〜3)の硬化反応物は脱型性に劣ることが分かった。
【0051】
(収縮率)
製造例1(本発明品)の硬化反応物の収縮率は、縦横については0.67%(縦横2点の平均値)、高さについては0.39%であった。一方、製造例2〜4(比較品1〜3)の硬化反応物はプリン状になり測定不能であった。
上記の結果から、製造例1の硬化反応物の収縮率は1%未満であり小さいと評価できたが、製造例2〜4(比較品1〜3)の硬化反応物は硬化不良のため、収縮率は評価できなかった。
【0052】
2. 成形品の製造例3〜5(本発明品)
人の手、ブラシ又は足踏み具の構造をキャビティとして有する成形型を使用したこと以外は、製造例1と同様の方法で、注型成形品を製造した(図1〜図3を参照)。得られた成形品は、全て製造時の脱型性に優れるとともに、キャビティの微細構造を忠実に再現した構造を有していた。具体的には、図1に示す人の手の成形品は、指の指紋にいたるまでキャビティの微細構造を忠実に再現して成形されており、図2に示すブラシの成形品は、基台状に多数設けられた細径の円錐状刷毛部がキャビティの微細構造を忠実に再現して成形されており、図3に示す足踏み具は、基台状に多数設けられた略円柱状の足踏み部がキャビティの微細構造を忠実に再現して成形されていた。以上の結果から、本発明の製造方法によれば、微細構造を有する成形品であっても、低収縮剤や離型剤を配合する必要がないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、微細な構造を有する種々の注型成形品及びその製造方法として適用可能であり、例えば、図1に示す人の手、図2に示すブラシ、図3に示す足踏み具等、各種製品に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】人の手の形状をした注型成形品の一例を示す外観斜視図である。
【図2】ブラシの形状をした注型成形品の一例を示す外観斜視図である。
【図3】足踏み具の形状をした注型成形品の一例を示す外観斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール、鎖長剤、イソシアネート及び0.1〜4重量%の親水性鎖長剤を反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの水分散体と1,4−ジアミノブタンとを成形型内で架橋させて得られる硬化反応物から、水分を除去して得られるポリウレタン多孔質体の注型成形品。
【請求項2】
請求項1記載のポリウレタン多孔質体を用いてなる義肢関連用具。
【請求項3】
ポリオール、鎖長剤、イソシアネート及び0.1〜4重量%の親水性鎖長剤を反応させる工程、
得られた末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを水と混合して分散させる工程、
得られたウレタンプレポリマー水分散体を1,4−ジアミノブタンと混合し、得られた混合物を成形型内に注入して架橋させる工程、
及び得られた硬化反応物を脱型して水分を除去する工程、
を含有するポリウレタン多孔質体の注型成形品の製造方法。
【請求項4】
得られたウレタンプレポリマー水分散体を1,4−ジアミノブタンと混合し、得られた混合物を成形型内に注入して架橋させる工程において、前記混合物を成形型内に注入した後、加圧する工程をさらに有する、請求項3記載の注型成形品の製造方法。
【請求項5】
義肢関連用具用の成形型を用いて義肢関連用具を製造する、請求項3または4記載の注型成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−24426(P2010−24426A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260501(P2008−260501)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000222417)トーヨーポリマー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】