説明

ポリウレタン発泡体のシート状製品及びその製造方法

【課題】 積み重ねたときのブロッキングを防止することができるポリウレタン発泡体のシート状製品及びシート状製品を容易に製造することができるシート状製品の製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリウレタン発泡体のシート状製品10は、ポリウレタン発泡体のシート11の片面に樹脂フィルム12が接合されて構成されている。シート11中に含まれる融点100℃以下の成分はアセトン溶出量として1質量%以下となるように構成されている。このシート状製品10は、樹脂フィルム12上に、ポリオール類、ポリイソシアネート化合物、触媒及び発泡剤を含むポリウレタン発泡体の原料15を供給し、ポリオール類とポリイソシアネート化合物とを反応させ、かつ発泡させてシート11を形成することにより得られる。前記反応及び発泡後には60〜130℃の温度で5〜15分の加熱処理が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンピュータのハードディスクから発生する騒音を低減するために使用されるポリウレタン発泡体のシート状製品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ(パソコン)等に用いられるハードディスクドライブにおいては、駆動時のモータ音やディスクの風切り音が発生して騒音となるため、ハードディスクドライブの本体と基板との間へ吸音材を挟み込むことにより、発生音の低減が図られている。これらの吸音材として、例えばポリウレタン発泡体のシート状製品が用いられている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平10−254454号公報(第2頁及び第4頁)
【特許文献2】特開平10−83667号公報(第2頁、第4頁〜第6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記ポリウレタン発泡体のシート状製品は、ハードディスクドライブの本体と基板との間に挟み込まれる前には通常積み重ねて保管される。そのとき、各シート状製品は密着された状態でそれらの重みにより加圧されている。このため、各シート状製品間が接着されたいわゆるブロッキング現象を引き起こし、使用時に1枚ずつ引き剥がすことが困難になる。その結果、シート状製品を1枚ずつ取り出して、ハードディスクドライブの本体と基板との間に挟み込むように組み付ける作業が容易ではないという問題があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、積み重ねたときのブロッキングを防止することができるポリウレタン発泡体のシート状製品及びそのようなシート状製品を容易に製造することができるポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体のシート状製品は、ポリウレタン発泡体よりなるシートの少なくとも片面に樹脂フィルムが接合されて構成され、前記シート中に含まれる融点100℃以下の成分が、ソクスレー(ソックスレー又はソックスレイ)抽出法によりアセトンで8時間抽出したときの溶出量として1質量%以下となるように構成されていることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体のシート状製品は、請求項1に係る発明において、電子部品用の吸音材として用いられることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法は、樹脂フィルム上に、ポリオール類、ポリイソシアネート化合物、触媒及び発泡剤を含むポリウレタン発泡体の原料を供給し、ポリオール類とポリイソシアネート化合物とを反応させ、かつ発泡させてポリウレタン発泡体のシートを形成し、そのシートに樹脂フィルムが接着されたポリウレタン発泡体のシート状製品を製造するに当たり、前記反応及び発泡後に60〜130℃の温度で5〜15分加熱処理することを特徴とするものである。
【0007】
請求項4に記載の発明のポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法は、樹脂フィルム上に、ポリオール類、ポリイソシアネート化合物、触媒及び発泡剤を含むポリウレタン発泡体の原料を供給すると共に、そのポリウレタン発泡体の原料の上に離型フィルムを載せ、ポリオール類とポリイソシアネート化合物とを反応させ、かつ発泡させてポリウレタン発泡体のシートを形成し、そのシートに樹脂フィルムが接着されたポリウレタン発泡体のシート状製品を製造するに当たり、前記反応及び発泡後に60〜130℃の温度で5〜15分加熱処理することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体のシート状製品においては、シート中に含まれる融点100℃以下の成分が、ソクスレー抽出法によりアセトンで8時間抽出したときの溶出量として1質量%以下となるように構成されている。このため、ブロッキングを引き起こす成分の含有量が抑えられ、シート状製品を積み重ねたときに、各シート状製品同士が接着することを回避することができる。このように、各シート状製品間のブロッキングを効果的に防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体のシート状製品によれば、ハードディスクドライブ等の電子部品用の吸音材として好適に用いることができる。
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法においては、ポリウレタン発泡体のシートに樹脂フィルムが接着されたポリウレタン発泡体のシート状製品を製造するに当たり、反応及び発泡後に60〜130℃の温度で5〜15分の加熱処理が行われる。このような加熱処理により、ブロッキングを防止することができるポリウレタン発泡体のシート状製品を容易に製造することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明のポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法では、ポリウレタン発泡体の原料の上に離型フィルムが載せられる。このため、樹脂フィルムと離型フィルムとの間の厚みを一定にしたポリウレタン発泡体のシート状製品をより容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のポリウレタン発泡体のシート状製品10は、ポリウレタン発泡体よりなるシート11の片面に樹脂フィルム12が接合されて構成されている。前記シート11中に含まれる成分のうち融点100℃以下の成分は、アセトン溶出量として1質量%以下となるように設定され、シート状製品10を重ね合せたときに互いに接着して剥れ難くなるブロッキングを防止することができる。ここで、アセトン溶出量は、シート状製品10の1gをソクスレー抽出法によりアセトンで8時間抽出したときの溶出量(質量%)を表す。ブロッキングの原因となる融点100℃以下の成分としては、ポリウレタン発泡体の原料中の未反応のポリオール、ポリオールのオリゴマー等が考えられる。
【0012】
このシート状製品10は、例えば電子部品用の吸音材、具体的にはコンピュータにおけるハードディスクドライブの本体と基板との間に挟み込まれて用いられる。そのため、シート状製品10の厚みは、5mm以下であることが好ましく、1〜5mmであることがより好ましい。また、ポリウレタン発泡体よりなるシート11は、連続気泡型の軟質ポリウレタン発泡体によって形成されていることが好ましい。独立気泡に比べて連続気泡内には音が有効に吸収され、音の伝播が低減されるからである。更に、シート11の両表面の近傍位置には軟質ポリウレタン発泡体の硬化物による2〜50μm程度の厚みの皮膜が形成されていることが好ましい。
【0013】
このようなポリウレタン発泡体のシート状製品10は、以下のようにして製造することができる。
図2はポリウレタン発泡体のシート状製品10の製造装置を示す概略断面図である。同図に示すように、装置本体13の後方位置(図2の左方位置)には樹脂フィルム12が巻回された送り出しローラ14が配設され、その樹脂フィルム12が前方に位置する装置本体13上へ送り出されるようになっている。樹脂フィルム12を形成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂等のポリウレタン発泡体のシート11と接着性のよいものが用いられる。
【0014】
装置本体13の後端部上方位置には、ポリウレタン発泡体の原料15(液体)を下方へ開口された供給口16から吐出する原料供給装置17が配設されている。そして、原料供給装置17の供給口16から吐出される原料15が、送り出しローラ14から送り出される樹脂フィルム12上に供給されるようになっている。原料供給装置17の上方位置には、送出ローラ18が配設され、離型フィルム19が巻回されている。離型フィルム19を形成する樹脂としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が用いられる。そして、送出ローラ18に巻回された離型フィルム19は、原料供給装置17から供給されたポリウレタン発泡体の原料15の上に載るようになっている。原料供給装置17の前方位置には押えローラ20が配設され、樹脂フィルム12と離型フィルム19との間にポリウレタン発泡体の原料15が挟まれた状態で、離型フィルム19の上面から押圧し、樹脂フィルム12と離型フィルム19との間の厚さを調整するようになっている。
【0015】
この押えローラ20の前方位置には発泡部21が設けられ、その前方位置には反応部22が並設されている。発泡部21の上部には発泡用通路23が貫通形成され、その発泡用通路23を通る対象物に10〜70℃の加熱エアを吹き付ける。反応部22の上部には反応用通路24が貫通形成され、その反応用通路24を通る対象物に50〜150℃の加熱エアを吹き付ける。本実施形態では発泡部21が30℃に設定され、反応部22が70℃に設定されている。そして、樹脂フィルム12と離型フィルム19との間に挟まれたポリウレタン発泡体の原料15が発泡用通路23を通るときに自然発泡され、その後反応用通路24を通るときに反応(硬化)されるようになっている。その結果、ポリウレタン発泡体のシート11の片面(下面)に樹脂フィルム12が接着され、他面(上面)に離型フィルム19が重ねられる。
【0016】
反応部22の前方位置には加熱処理装置25が配設され、その上部には加熱処理用通路26が貫通形成されている。加熱処理用通路26内は60〜130℃の温度に保持されるようになっている。そして、加熱処理用通路26内を通るポリウレタン発泡体のシート状製品をその温度で5〜15分保持して加熱処理を行い、融点100℃以下の成分を揮散させ、かつポリオール類とポリイソシアネート化合物との反応を促進するように構成されている。加熱処理装置25の前方位置には、加熱処理後の離型フィルム19を巻き取る巻き取りローラ27が配設されている。尚、その後ロール状に巻かれたシート状製品10を、別途バッチ処理的に異なる乾燥炉で4〜20時間、後硬化(アフターキュア)することが上記の効果を向上させる点から好ましい。
【0017】
前記ポリウレタン発泡体の原料15は、ポリオール類、ポリイソシアネート化合物、触媒、発泡剤、整泡剤等よりなっている。ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールとはそれぞれ単独で、又はそれらを組合せて使用することができる。
【0018】
ポリエーテルポリオールは、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、それらの変性体等が用いられる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0019】
ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させたトリオール、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、更にエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、更にエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオール中のポリエチレンオキシド単位は10〜30モル%程度である。ポリエチレンオキシド単位の含有量が多い場合には、ポリプロピレンオキシド単位に比べて親水性が高くなり、極性の高い分子、ポリイソシアネート化合物等との混合性が良くなる。その結果、反応性が高くなる。このポリオールは、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0020】
一方、ポリエステルポリオールは、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。
【0021】
ポリオール類と反応させるポリイソシアネート化合物はイソシアネート基を複数有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が用いられる。
【0022】
ここで、ポリイソシアネート化合物のイソシアネートインデックスは80〜130であることが好ましく、100〜120であることがより好ましい。ここで、イソシアネートインデックスは、ポリオール類の水酸基及び発泡剤(水)に対するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。従って、その値が100未満の場合には水酸基がイソシアネート基より過剰であることを意味し、100を越える場合にはイソシアネート基が水酸基より過剰であることを意味する。イソシアネートインデックスが80未満の場合には、ポリオール類がポリイソシアネート化合物と十分に反応することができず、柔軟性が大きく、形状保持性が低下する原因となる。一方、イソシアネートインデックスが130を越える場合には、ポリウレタン発泡体が硬くなったりしてその物性が低下する。
【0023】
触媒はポリオール類とポリイソシアネート化合物とのウレタン化反応を促進するためのものである。係る触媒としては、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の3級アミン、オクチル酸スズ等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。これらのうち、ポリウレタン発泡体を得るためには、3級アミン等のアミン類又はこれと金属含有触媒を併用することが望ましい。触媒の配合量は、ポリオール類100質量部に対して、アミン系触媒の場合0.05〜1.0質量部、金属を含む触媒の場合0.05〜0.5質量部であることが好ましい。この配合量が0.05質量部未満の場合にはポリオール類とポリイソシアネート化合物との反応が不十分となり、1.0質量部又は0.5質量部を越える場合には前記反応が過度に促進されやすくなる。
【0024】
発泡剤はポリウレタンを発泡させてポリウレタン発泡体とするためのものである。この発泡剤としては、水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤の配合量は、ポリオール類100質量部に対して、0.5〜3.0質量部であることが好ましい。この配合量が0.5質量部未満の場合には発泡が不十分となり、3.0質量部を越える場合には発泡が過大になり、目的とするポリウレタン発泡体を得ることが難しくなる。
【0025】
ポリウレタン発泡体の原料15としては、界面活性剤等の整泡剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等を添加することもできる。難燃剤としては、ハロゲン化リン酸エステル、縮合リン酸エステル等が用いられる。
【0026】
そして、発泡ポリウレタンの原料15を発泡及び反応させて軟質ポリウレタン発泡体を製造するが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート化合物との付加重合反応(ウレタン化反応)、ポリイソシアネート化合物と発泡剤としての水との泡化反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート化合物との架橋反応である。
【0027】
前記ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ワンショット法又はプレポリマー法が採用される。ワンショット法は、ポリオール類とポリイソシアネート化合物とを直接反応させる方法である。プレポリマー法は、ポリオール類とポリイソシアネート化合物との各一部を事前に反応させて末端にイソシアネート基又は水酸基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類又はポリイソシアネート化合物を反応させる方法である。ワンショット法はプレポリマー法に比べて製造工程が一工程で済み、製造条件の制約も少ないことから好ましい方法であり、製造コストを低減させることができる。
【0028】
原料配合を適宜調整することにより、連続気泡型の構造を有するポリウレタン発泡体を得ることができる。そして、連続気泡型であることでセル内に音を吸い込む吸音性能を発揮させることができるため好ましい。独立気泡型の構造を有するものは、音がポリウレタン発泡体表面で反射されてセル内にほとんど吸収されない。
【0029】
さて、ポリウレタン発泡体のシート状製品10を製造する場合には、図2に示すように、送り出しローラ14から樹脂フィルム12を送り出し、その樹脂フィルム12上に原料供給装置17からポリウレタン発泡体の原料15を供給する。そして、その前方位置において、送出ローラ18から離型フィルム19を原料15の上に重ね合せるようにして供給し、押えローラ20で押えて原料15が挟まれた状態の樹脂フィルム12と離型フィルム19との間の厚さを調整する。
【0030】
その後、発泡部21内で30℃に保持して原料15を自然発泡させて発泡体を形成する。続いて、70℃に設定された反応部22内で加熱することにより、原料15中のポリオール類とポリイソシアネート化合物とを反応(硬化)させる。次いで、加熱処理装置25の加熱処理用通路26を通過することにより、ポリウレタン発泡体のシート11が加熱処理される。このとき、加熱処理装置25においては、60〜130℃の温度で5〜15分の加熱処理が行われる。その後、ロール状に巻かれたシート状製品10を、別途バッチ処理的に、異なる乾燥炉で4〜20時間アフターキュアされる。そのため、ポリウレタン発泡体のシート11中に含まれる成分のうち、主として融点が100℃以下の成分がシート11の表面から揮散されると同時に、ポリオール類とポリイソシアネート化合物との反応硬化が促進される。よって、シート状製品10の表面に存在するブロッキング原因物質の量を十分に減少させることができる。
【0031】
最後に、巻き取りローラ27で離型フィルム19が巻き取られる。このようにして、ポリウレタン発泡体のシート11の下面に樹脂フィルム12が接着されたシート状製品10が製造される。
【0032】
得られたシート状製品10は、例えばハードディスクドライブの本体と基板との間に圧縮状態で挿入して使用される。この場合、シート状製品10は連続気泡型の軟質ポリウレタン発泡体によって構成されていることから、独立気泡に比べて連続気泡内には音が有効に吸収され、音の伝播が低減される。また、シート状製品10の片面には樹脂フィルム12が接着されており、面密度(kg/m2)が大きくなって、ヤング率が大きくなり、振動の伝播が抑えられ、振動伝播音を効果的に低減させることができる。更に、ポリウレタン発泡体のシート11の表面にはポリウレタン発泡体の加熱硬化物による皮膜が形成され、その皮膜によっても振動の伝播が抑えられる。
【0033】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態のポリウレタン発泡体のシート状製品10においては、ポリウレタン発泡体のシート11中に含まれる融点100℃以下の成分が、ソクスレー抽出法によりアセトンで8時間抽出したときの溶出量として1質量%以下となるように構成されている。このため、ブロッキングを引き起こす成分の含有量が抑えられ、シート状製品10を積み重ねて保管したときに、各シート状製品10同士が接着することを回避することができる。このように、各シート状製品10間のブロッキングを効果的に防止することができる。
【0034】
・ このポリウレタン発泡体のシート状製品10を製造するためには、図2に示すように、樹脂フィルム12上にポリウレタン発泡体の原料15が供給されると共に、その上に離型フィルム19が供給される。その状態で押えローラ20により厚みが一定値に設定される。その後、発泡部21で発泡され、続いて反応部22で反応が行われる。次いで、加熱処理装置25において、60〜130℃の温度で5〜15分の加熱処理が行われる。その後、巻き取りローラ27で離型フィルム19を巻き取ることにより、ポリウレタン発泡体のシート状製品10が製造される。
【0035】
上記の製造過程における加熱処理により、融点が100℃以下の成分を揮散させることができると共に、反応硬化を促進させることができる。従って、ポリウレタン発泡体のシート状製品10のブロッキングを防止することができる。更に、離型フィルム19を用いたことにより、樹脂フィルム12と離型フィルム19との間の厚みを一定にしたポリウレタン発泡体のシート状製品10をより容易に製造することができる。
【0036】
・ 上記のようなポリウレタン発泡体のシート状製品10は、電子部品例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータのハードディスクドライブをはじめ、コンパクトディスク(CD)のドライブ、ミニディスク(MD)のドライブ等の騒音防止用又は振動防止用として好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
(実施例1〜8及び比較例1〜11)
ポリウレタン発泡体の原料として、表1〜表4に示す組成のものを用意し、前述した製造装置によってポリウレタン発泡体のシート11の片面に樹脂フィルム12としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み0.05mm)が接着された厚み2mmのシート状製品10を製造した。尚、押えローラ20と装置本体13との隙間は、発泡剤としての水が1.5質量部の場合には0.1mm、水が1.0質量部の場合には0.2mmとした。また、発泡部21の温度を30℃、反応部22の温度を70℃とした。
【0038】
得られたシート状製品10について、密度(kg/m3)、溶出量(質量%)、VOC量(ppm)及びピックアップ試験の結果を、下記に記載する方法によって測定し、それらの結果を表1〜表4に示した。また、表1〜表4における略号の意味を次に示す。
【0039】
密度(kg/m3):JIS K6400に基づいて測定した。
溶出量(質量%):シート状製品10の1gをソクスレー抽出法によりアセトンで8時間抽出し、抽出された成分をゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)にて定量した。
【0040】
VOC量(ppm):ドイツの規格であるVDA278に基づいて、100℃、10分間加熱時における揮発性有機化合物(VOC)の量を測定した。
ピックアップ試験:図3(a)に示すように、シート状製品10を平面形状が階段状になるように打ち抜いたハードディスク用のダンパー材28を、図3(b)に示すように、10枚重ねて図示しないポリスチレン製の容器に入れた。そして、図示しない圧縮面(下面)に両面テープのついた直径50mmの圧縮板をダンパー材28の上方に配置し、エアシリンダにてダンパー材28を上から圧縮した。圧縮時間は0.5秒、積層枚数にもよるが、ダンパー材28の一枚の厚みの元厚に対して50〜80%の厚みに圧縮した。そして、その後ダンパー材28を10枚全てについて1枚ずつ取り出すことができた場合を○、少なくとも2枚重なって取り出された場合を△、10枚重なって取り出された場合を×として評価した。
(表1〜表4中の略号)
ポリエーテルポリオール(GP3000):三洋化成工業(株)製のポリエーテルポリオール、水酸基価56mgKOH/g、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させたトリオール、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-P-クレゾール(BHT)を含む。
【0041】
ポリエーテルポリオール(GP3050F):三洋化成工業(株)製のポリエーテルポリオール、水酸基価56mgKOH/g、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させたトリオール、酸化防止剤としてBHTを含まない。
【0042】
ポリエーテルポリオール(GL3000):三洋化成工業(株)製のポリエーテルポリオール、水酸基価56mgKOH/g、グリセリンにプロピレンオキシド(80モル%)を付加重合させ、更にエチレンオキシド(20モル%)を付加重合させたトリオール。
【0043】
ポリエーテルポリオール(プレミノール3003):旭硝子(株)製のポリエーテルポリオール、水酸基価56mgKOH/g、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させたトリオール。
【0044】
難燃剤(BDPO):日華化学(株)製の固体状リン系難燃剤、融点110℃、分解温度250℃、水に不溶。
難燃剤(CR504):大八化学(株)製の難燃剤、塩素化リン酸エステル、常温で液状。
【0045】
アミン触媒(カオライザーNo.25):花王(株)製、アミン触媒。
スズ触媒(MRH110):城北化学(株)製のオクチル酸第1スズ。
スミジュール0379:住友バイエル(株)製の4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)プレポリマー、イソシアネート基は25質量%。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

表1に示すように、実施例1〜4では、70℃又は100℃で5時間の加熱処理を行ったことから、融点100℃以下の成分の溶出量を0.59〜0.86質量%にすることができた。このため、ピックアップ試験でダンパー材28を10枚全てについて1枚ずつ取り出すことができた。また、VOC量を128〜154ppmに抑えることができた。表2に示すように、実施例5〜8では、70℃又は100℃で5時間又は15時間の加熱処理を行ったことから、融点100℃以下の成分の溶出量を0.18〜0.81質量%にすることができた。このため、ピックアップ試験でダンパー材28を10枚全てについて1枚ずつ取り出すことができた。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

これに対して、表3及び表4に示すように、加熱処理を行わなかった場合(比較例1〜7)には、融点100℃以下の成分の溶出量が4.6〜8.5質量%で、1質量%を遥かに越える量であった。そのため、ピックアップ試験ではダンパー材28が少なくとも2枚重なって取り出されるか、或は10枚重なって取り出される結果となった。また、VOC量は198〜831ppmに達した。更に、加熱処理を150℃で3時間行った場合(比較例8)には、融点100℃以下の成分の溶出量が12.1質量%という高い値を示し、ピックアップ試験でダンパー材28が少なくとも2枚重なって取り出されるという結果であった。加えて、加熱処理を70℃で3時間行った場合(比較例9〜11)には、融点100℃以下の成分の溶出量が1.3〜1.5質量%で、1質量%を越える量であり、ピックアップ試験でダンパー材28が少なくとも2枚重なって取り出されるという結果であった。
【0050】
尚、前記実施形態を、次のように変更して具体化することも可能である。
・ ポリウレタン発泡体のシート状製品10の製造装置において、加熱処理装置25を装置本体13の発泡部21と一体化することもできる。或は、加熱処理装置25を巻き取りローラ27の前方位置に配設し、離型フィルム19を巻き取った後に加熱処理装置25で加熱処理を行うこともできる。
【0051】
・ ポリウレタン発泡体のシート状製品10の製造装置において、送出ローラ18に巻回されている離型フィルム19に代えて樹脂フィルム12を巻回し、ポリウレタン発泡体のシート11の両面に樹脂フィルム12を接着させることもできる。
【0052】
・ ポリウレタン発泡体のシート11のみを製造し、そのシート11の片面又は両面にポリウレタン系接着剤等の接着剤を塗布して樹脂フィルム12を接着することもできる。また例えば、ポリウレタン発泡体として軟質スラブポリウレタン発泡体を用い、それをシート状に切り出した後、その表面に樹脂フィルムを接着してシート状製品10を作製することもできる。軟質スラブポリウレタン発泡体は原料をベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間に原料が常温、大気圧下で自然発泡し、その後乾燥炉内で硬化(キュア)することにより得られる。
【0053】
・ ポリウレタン発泡体のシート11は、モールド成形法等によって得ることもできる。
更に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0054】
・ 前記シートの表面には、ポリウレタン発泡体の硬化物による皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン発泡体のシート状製品。このように構成した場合、シート状製品の表面に存在する密度の高いより平滑な皮膜によりブロッキングが起き易いため、そのようなブロッキングを効果的に抑制することができる。
【0055】
・ 前記樹脂フィルムを連続的に移動させると共に、前記原料を樹脂フィルム上に連続的に供給し、シート状製品を連続的に製造することを特徴とする請求項3に記載のポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法。この製造方法によれば、ポリウレタン発泡体のシート状製品の生産性を向上させることができる。
【0056】
・ 前記発泡は自然発泡であり、反応は加熱反応であることを特徴とする請求項3に記載のポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法。この製造方法によれば、発泡速度を抑え、反応を促進させることができる。
【0057】
・ 前記ポリウレタン発泡体の原料の上に離型フィルムを載せた後、その離型フィルムの上から押圧し、樹脂フィルムと離型フィルムとの間の間隔を一定にし、ポリオール類とポリイソシアネート化合物とを反応させ、かつ発泡させてポリウレタン発泡体のシートを形成することを特徴とする請求項4に記載のポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法。この製造方法によれば、ポリウレタン発泡体のシート状製品の厚みを一定にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態におけるポリウレタン発泡体のシート状製品を示す概略断面図。
【図2】ポリウレタン発泡体のシート状製品の製造装置を示す概略断面図。
【図3】(a)は実施例におけるハードディスク用のダンパー材を示す平面図、(b)はそのダンパー材を積み重ねた状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0059】
10…シート状製品、11…ポリウレタン発泡体のシート、12…樹脂フィルム、15…ポリウレタン発泡体の原料、19…離型フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン発泡体よりなるシートの少なくとも片面に樹脂フィルムが接合されて構成され、前記シート中に含まれる融点100℃以下の成分が、ソクスレー抽出法によりアセトンで8時間抽出したときの溶出量として1質量%以下となるように構成されていることを特徴とするポリウレタン発泡体のシート状製品。
【請求項2】
電子部品用の吸音材として用いられることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン発泡体のシート状製品。
【請求項3】
樹脂フィルム上に、ポリオール類、ポリイソシアネート化合物、触媒及び発泡剤を含むポリウレタン発泡体の原料を供給し、ポリオール類とポリイソシアネート化合物とを反応させ、かつ発泡させてポリウレタン発泡体のシートを形成し、そのシートに樹脂フィルムが接着されたポリウレタン発泡体のシート状製品を製造するに当たり、前記反応及び発泡後に60〜130℃の温度で5〜15分加熱処理することを特徴とするポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法。
【請求項4】
樹脂フィルム上に、ポリオール類、ポリイソシアネート化合物、触媒及び発泡剤を含むポリウレタン発泡体の原料を供給すると共に、そのポリウレタン発泡体の原料の上に離型フィルムを載せ、ポリオール類とポリイソシアネート化合物とを反応させ、かつ発泡させてポリウレタン発泡体のシートを形成し、そのシートに樹脂フィルムが接着されたポリウレタン発泡体のシート状製品を製造するに当たり、前記反応及び発泡後に60〜130℃の温度で5〜15分加熱処理することを特徴とするポリウレタン発泡体のシート状製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−21493(P2006−21493A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203519(P2004−203519)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】