説明

ポリウレタン発泡体

【課題】低密度の発泡体について歪特性を向上させることができるポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び無機化合物の水和物を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られ、JIS K 7222:1999に準拠して測定される見掛け密度が16〜22kg/mという低密度の発泡体である。この場合、発泡剤として水をポリオール類100質量部当たり5〜9質量部用いる。触媒としては、滴定法による樹脂化活性定数が0.22×10〜2.0×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.4×10−1〜3.0×10−1であるアミン触媒及び金属触媒を用いる。係る金属触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜0.4質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば寝具類、吸音材、緩衝材等として用いられ、圧縮残留歪で代表して表される歪特性に優れるポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、密度25kg/m以下の低密度の軟質ポリウレタン発泡体を製造する際に、発泡剤を水のみとした場合、水の添加量を増大させる必要があることから、泡化反応が促進されて発泡時における発熱温度が170℃以上に達する。このため、ポリウレタンの酸化劣化(スコーチ)に基づく自己発火の可能性があるとともに、スコーチにより、得られる軟質ポリウレタン発泡体が変色する。そのような事態を回避するために、従来の水の添加量のままで発泡助剤として塩化メチレンや液化炭酸ガスを添加する技術が知られている。
【0003】
しかし、塩化メチレンは環境等に悪影響を与える物質の一つであって、使用が規制されている。一方、液化炭酸ガスによる発泡は、液化炭酸ガスを高圧で供給する専用の設備が必要であり、発泡を円滑に行うためには製造条件が限定されるうえに、製造コストも上昇する。そこで、吸熱を目的として、リン酸カルシウムの水和物、硫酸カルシウムの水和物等の無機化合物の水和物を添加する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この技術によれば、反応温度の上昇に伴って無機化合物の水和物が分解し、水が解離して蒸発するため、反応により生ずる熱が吸熱され、ポリウレタン発泡体の最高発熱温度が抑えられる。
【特許文献1】国際公開WO 90/03997号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載されている技術においては、得られるポリウレタン発泡体の歪特性、すなわち圧縮残留歪(圧縮永久歪)が非常に大きく、そのようなポリウレタン発泡体は実際の使用には耐え得ないものであった。特に、圧縮力が加熱時に加わるような用途において、圧縮力による歪が復元されず、その用途における規格が満たされなくなって、使用することができなくなる。そのような欠点は特に、発泡剤として水のみを用いて得られるポリウレタン発泡体の見掛け密度が16〜22kg/mという低密度の場合に生じていた。これは、樹脂化反応(ウレタン化反応)と泡化反応とのバランスが悪く、樹脂化反応が強くなり過ぎたり、樹脂化反応に対して泡化反応が過剰になったりすることから生ずるものと考えられる。
【0005】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、低密度の発泡体について歪特性を向上させることができるポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び無機化合物の水和物を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られ、JIS K 7222:1999に準拠して測定される見掛け密度が16〜22kg/mであるポリウレタン発泡体であって、前記発泡剤として水をポリオール類100質量部当たり5〜9質量部用いるとともに、触媒として滴定法による樹脂化活性定数が0.22×10〜2.0×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.4×10−1〜3.0×10−1であるアミン触媒及び金属触媒を含有し、さらに前記金属触媒をポリオール類100質量部当たり0.1〜0.4質量部含有することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1に記載の発明において、前記ポリオール類は、ポリエチレンオキシド単位の含有量が4〜12モル%のポリアルキレンポリオールであることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記無機化合物の水和物は、硫酸塩の水和物であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、発泡剤として水をポリオール類100質量部当たり5〜9質量部用いることにより、発泡を促進させて見掛け密度が16〜22kg/mという低密度のポリウレタン発泡体を得ることができる。また、触媒として滴定法による樹脂化活性定数が0.22×10〜2.0×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.4×10−1〜3.0×10−1であるアミン触媒を用いることにより、樹脂化反応と泡化反応とを抑制し、しかもそれらの反応のバランスを調整することができる。さらに、金属触媒の含有量をポリオール類100質量部当たり0.1〜0.4質量部に設定することにより、樹脂化反応の過度の進行が抑えられるとともに、樹脂化反応と泡化反応とのバランスが保たれる。従って、低密度の発泡体について圧縮残留歪で代表される歪特性を向上させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、ポリオール類は、ポリエチレンオキシド単位の含有量が4〜12モル%のポリアルキレンポリオールであることから、請求項1に係る発明の効果に加え、初期の樹脂化反応を補助することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、前記無機化合物の水和物は、硫酸塩の水和物であることから、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体の原料の発泡過程に沿って硫酸塩の水和物が分解されて水を生成し、吸熱作用を良好に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態におけるポリウレタン発泡体(以下、単に発泡体ともいう)は次のようにして得られるものである。すなわち、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び無機化合物の水和物を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させることにより得られる。この際、発泡剤としての水が通常より多くなるようにポリオール類100質量部当たり5〜9質量部用いられる。触媒としては、滴定法による樹脂化活性定数が0.22×10〜2.0×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.4×10−1〜3.0×10−1であるマイルドな活性を有するアミン触媒が用いられる。さらに触媒としての金属触媒がポリオール類100質量部当たり0.1〜0.4質量部用いられる。
【0013】
ポリウレタン発泡体の原料が反応する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類との樹脂化反応(ウレタン化反応、付加重合反応)が起きてポリウレタン骨格が形成される。同時に、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化(発泡)反応が起き、炭酸ガスが発生して発泡体が形成される。さらに、これらの反応生成物とポリイソシアネート類とのビューレット反応やアロファネート反応等の架橋(硬化)反応が起き、発泡体に架橋構造が形成される。
【0014】
触媒としてのアミン触媒及び金属触媒は、上記の各反応を促進するために用いられる。また、無機化合物の水和物は、ポリウレタン発泡体の原料が反応及び発泡する過程で分解して水を生成し、その水が蒸発する際に蒸発潜熱を奪うことで温度上昇を抑える機能を発現する。このようにして得られるポリウレタン発泡体は、JIS K 7222:1999に準拠して測定される見掛け密度が16〜22kg/mという低密度のポリウレタン発泡体である。
【0015】
次に、前記ポリウレタン発泡体の原料について順に説明する。
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。これらのうち、ポリイソシアネート類との反応性に優れているという点と、ポリエステルポリオールのように加水分解をしないという点から、ポリエーテルポリオールが好ましい。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、それらの変性体等が用いられる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0016】
ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。ポリエチレンオキシド単位の含有量が多い場合には、その含有量が少ない場合に比べて親水性が高くなり、極性の高い分子、ポリイソシアネート類等との混合性が良くなり、その結果反応性が高くなる。ポリエーテルポリオール中のポリエチレンオキシド単位は4〜12モル%であることが好ましい。ポリエチレンオキシド単位の含有量が4モル%未満の場合には、樹脂化反応を十分に促進させることができなくなる。一方、12モル%を越える場合には、樹脂化反応が過度に進行し、得られる発泡体の歪特性が低下する傾向を示す。
【0017】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが用いられる。これらのポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0018】
前記ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数個有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらの変性物等が用いられる。ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は100以下又は100を越えてもよいが、通常90〜130程度の範囲であり、100〜110程度が好ましい。ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類、発泡剤としての水等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。従って、イソシアネート指数が100を越えるということは、ポリイソシアネート類がポリオール類等より過剰であることを意味する。
【0019】
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させてポリウレタン発泡体とするためのもので、泡化反応の反応性が高く、取扱いの容易な水が用いられる。発泡剤が水の場合、ポリウレタン発泡体の見掛け密度を16〜22kg/mにするため、その含有量がポリオール類100質量部当たり5〜9質量部に設定される。水の含有量が5質量部未満の場合には、泡化反応が十分に行われず、ポリウレタン発泡体の見掛け密度が22kg/mを越える傾向となり、低密度の発泡体が得られなくなる。一方、9質量部を越える場合には、発泡及び硬化時に温度が上昇しやすくなり、その温度を低下させることが難しくなる。
【0020】
次に、触媒としては、滴定法による樹脂化活性定数が0.22×10〜2.0×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.4×10−1〜3.0×10−1であるアミン触媒及び金属触媒が用いられる。アミン触媒の樹脂化活性定数及び泡化活性定数/樹脂化活性定数の比は、樹脂化反応と泡化反応とを抑え、それらの反応のバランスを調整するために上記範囲に設定される。樹脂化活性定数は、樹脂化反応を効果的に抑制するために、0.22×10〜1.0×10であることが望ましい。また、泡化活性定数は0.8×10〜6.0×10であることが好ましく、0.8×10〜0.5×10であることがより好ましい。
【0021】
ここで、樹脂化活性定数と泡化活性定数は、滴定法(Titration Method)すなわちA.Farkas法によって算出される値である〔Journal of American Chemical Society,82,642(1960)〕。この方法について、以下に説明する。
【0022】
ポリウレタン発泡体の製造における樹脂化反応、泡化反応等の反応速度は、一般に次式で表される。
dx/dt=K(a−x)
但し、xは例えば樹脂化反応の場合、イソシアネート基の濃度(mol/L)、aは例えばイソシアネート基及び水酸基の初期濃度(mol/L)、Kは反応速度定数及びtは反応時間(h)を表す。
【0023】
この反応速度式に基づいて、(a−x)とtとの関係を実験により測定することで反応速度定数Kが算出される。
一方、反応速度定数について次式が成り立つとすると、各触媒について触媒定数Kcが求められる。
【0024】
K=Ko+KcC
但し、Koは無触媒の場合の反応速度定数(L/mol・h)、Kcは各触媒の触媒定数(L/(mol)・h)及びCは反応系の触媒濃度(mol/L)を表す。
【0025】
一般に、ポリウレタン発泡体を製造する際の樹脂化反応における樹脂化活性定数を示す触媒定数Kは、TDI(トリレンジイソシアネート)とDEG(ジエチレングリコール)との反応系で代表され、泡化反応における泡化活性定数を示す触媒定数Kは、TDI(トリレンジイソシアネート)とHOとの反応系で代表される。
【0026】
前記樹脂化活性定数Kが0.22×10未満の場合には樹脂化の促進が不足し、良好な発泡体が得られず、2.0×10を越える場合には樹脂化が過剰に促進され、得られる発泡体の歪特性が悪化する。また、泡化活性定数(K)/樹脂化活性定数(K)の比が0.4×10−1未満の場合には泡化反応が樹脂化反応に比べて弱く、発泡が不足して良好な発泡体が得られず、3.0×10−1を越える場合には泡化反応が樹脂化反応に比べて過剰に進行し、得られる発泡体の歪特性が悪くなる。
【0027】
上記のアミン触媒として具体的には、N−メチル−N′−ヒドロキシエチルピペラジン(K=0.61×10、K=0.11×10、K/K=1.86×10−1)、N−エチルモルホリン(K=0.22×10、K=0.01×10、K/K=0.47×10−1)、N−(N′,N′−2−ジメチルアミノエチル)モルホリン(K=0.93×10、K=0.08×10、K/K=0.81×10−1)、脂肪族モノアミン(K=0.75×10、K=0.22×10、K/K=3.00×10−1)等が挙げられる。また、金属触媒としては、ジブチルスズジラウレート、オクチル酸スズ(スズオクトエート)等が挙げられる。
【0028】
アミン触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.01〜0.5質量部であることが好ましく、0.1〜0.5質量部であることがより好ましい。アミン触媒の含有量が0.01質量部未満の場合には、樹脂化反応及び泡化反応を十分にかつバランス良く促進させることができなくなる。一方、0.5質量部を越える場合には、樹脂化反応や泡化反応が過度に促進されたり、両反応のバランスを損なう結果を招くおそれがある。また、金属触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜0.4質量部に設定される。金属触媒の含有量が0.1質量部未満の場合には、樹脂化反応と泡化反応とのバランスを欠き、発泡を良好に行うことができなくなる。その一方、0.4質量部を越える場合には、樹脂化反応や泡化反応が過剰に促進されるとともに、両反応のバランスが悪くなり、発泡体の歪特性が悪化する。
【0029】
次に、無機化合物の水和物は、加熱によって分解し、分解により水を生成する材料である。無機化合物の水和物として具体的には、硫酸カルシウム・2水和物(CaSO・2HO、二水石膏、比重2.32、分解温度128〜163℃)、硫酸マグネシウムの1水和物から7水和物(MgSO・HOからMgSO・7HO、比重2.57〜1.68、分解温度150℃)、硫酸鉄の1水和物から5水和物(FeSO・HOからFeSO・5HO、比重2.97、分解温度100〜130℃)又はそれらの混合物、その他酸化アルミニウムの1水和物から3水和物(Al・HOからAl・3HO、比重2.4〜3.4、分解温度150〜360℃)、硫酸銅の5水和物(CuSO・5HO、比重2.29)等が用いられる。無機化合物の水和物に含まれる水和水は、固体結晶として常温で安定に存在するものであり、結晶水である。無機化合物の水和物としては、硫酸カルシウムの水和物、硫酸マグネシウムの水和物、硫酸鉄の水和物等の硫酸塩の水和物が好ましい。硫酸塩の水和物は、ポリウレタン発泡体の原料の発泡過程に沿って例えば100℃以上で硫酸塩の水和物が次第に分解されて水を生成し、吸熱作用を発現できるからである。
【0030】
なお、無機化合物の水和物の比重は1.5〜4.0であることが好ましい。この比重が1.5未満では、無機化合物の水和物(粉体)を体積として大量にポリウレタン発泡体の原料、例えばポリオールに添加しなければ所定の質量を添加できず、粉体とポリオールとの混合撹拌を十分に行うことができない。しかも、ポリウレタン発泡体中に占める無機化合物の水和物の体積が大きくなって、ポリウレタン発泡体としての物性が低下する。一方、その比重が4.0を越えると、ポリウレタン発泡体の原料特にポリオール中において長期保管すると沈降しやすく反応混合液中への分散性が悪くなって、発熱温度を低下させるという無機化合物の水和物の機能が低下する。無機化合物の水和物の分解温度は、100〜170℃であることが好ましい。分解温度が100℃未満の場合には、ポリウレタン原料による発泡及び硬化の初期の段階で、すなわち発熱温度の低い段階で分解による水が生成するため、発泡及び硬化に悪影響を与えたり、生成した水が発泡剤として機能したりするおそれがある。ちなみに、硫酸カルシウム2水和物(二水石膏)は、128℃で分子中の2モルの水のうちの1.5モルの水が分解して遊離の水となり、硫酸カルシウム0.5水和物(半水石膏)となる。また、硫酸マグネシウム7水和物は、150℃で分子中の7モルの水のうちの6モルの水が分解して遊離の水となり、硫酸マグネシウム1水和物となる。
【0031】
無機化合物の水和物の含有量は、ポリオール類100質量部当たり20〜40質量部であることが好ましい。この含有量が20質量部未満の場合には、分解して生成する水の量が少なく、反応及び発泡に基づく発熱温度の上昇を十分に抑制することができなくなる。一方、含有量が40質量部を越える場合には、発泡体中に無機化合物の水和物が多量に含まれる結果、発泡体としての物性が低下する傾向を示すとともに、過剰な水が発泡剤として機能し、泡化反応が過度に進行するおそれがある。
【0032】
また、ポリウレタン発泡体の原料には整泡剤を含有することが好ましい。係る整泡剤は、発泡剤による発泡体のセルの大きさと均一性を調整するためのもので、破泡作用を抑制するために水溶性の化合物が使用される。そのような水溶性の整泡剤としては、シリコーン系化合物が好ましい。シリコーン系化合物は優れた界面活性作用を有し、ポリウレタン発泡体の原料各成分の相溶性を高め、気泡を安定化させて細かい均一な気泡を生成することができる。シリコーン系化合物(非イオン系界面活性剤)としては、例えばオルガノシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体、シリコーン−グリース共重合体又はそれらの混合物等が挙げられる。整泡剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜5質量部程度であることが好ましい。
【0033】
ポリウレタン発泡体の原料には上記各成分のほか必要に応じ、セルオープナー、難燃剤、架橋剤、充填剤、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等を配合することができる。
【0034】
そして、ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させるワンショット法或はポリオール類とポリイソシアネート類とを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類を反応させるプレポリマー法のいずれも採用される。また、ポリウレタン発泡体は、常温大気圧下に発泡、硬化させて得られるスラブ発泡体及び成形型内にポリウレタン発泡体の原料(反応混合液)を注入、型締めして型内で発泡、硬化させて得られるモールド発泡体のいずれの方法により製造されるものであってもよい。この場合、スラブ発泡体の方が連続生産できる点から好ましい。
【0035】
このようにして得られるポリウレタン発泡体は、JIS K 7222:1999に規定された密度が16〜22kg/mという低密度のものとなり、その圧縮残留歪が4.0〜9.5%(その目安は10%以下である)のものとなる。さらに、ポリウレタン発泡体は、例えば硬さが60〜90N、反発弾性率が25〜35%、引張強さが60〜75kPa、伸びが90〜130%及び引裂強さが3.9〜5.4N/cm及び通気量が30〜60L/minという発泡体として良好な物性を有するものとなる。係るポリウレタン発泡体は、クッション性が良く、軽量な軟質ポリウレタン発泡体である。軟質ポリウレタン発泡体は、一般にセル(気泡)が連通構造を有し、復元性のあるものをいう。従って、軟質ポリウレタン発泡体は、クッション性、衝撃吸収性、吸音性等の特性を発揮することができる。このような物性をもつポリウレタン発泡体は、ベッド、マットレス、枕等の寝具類、吸音材、緩衝材等として好適に用いられる。
【0036】
さて、本実施形態の作用を説明すると、アミン触媒として滴定法による樹脂化活性定数が0.22×10〜2.0×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.4×10−1〜3.0×10−1である化合物を用いる。このようなアミン触媒を使用するため、樹脂化反応が抑制されるとともに、樹脂化反応に対する泡化反応が抑えられ、それらの反応がバランス良く進行する。さらに、金属触媒の含有量をポリオール類100質量部当たり0.1〜0.4質量部に設定することにより、樹脂化反応の過度の進行が抑えられるとともに、樹脂化反応と泡化反応とのバランスが保たれる。従って、樹脂化反応及び泡化反応の急激かつバランスを欠いた進行に基づく発泡体の歪が効果的に抑制される。
【0037】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態におけるポリウレタン発泡体においては、発泡剤として水を通常より多くなるようにポリオール類100質量部当たり5〜9質量部用いることにより、発泡を促進させて見掛け密度が16〜22kg/mという低密度のポリウレタン発泡体を得ることができる。また、触媒として前記特定のアミン触媒と金属触媒とを所定量使用することにより、樹脂化反応の過度の進行が抑えられるとともに、樹脂化反応と泡化反応とのバランスが保持される。従って、低密度の発泡体について圧縮残留歪で代表される歪特性を向上させることができる。さらに、繰返し圧縮残留歪についても向上させることができる。
【0038】
・ 前記ポリオール類として、ポリエチレンオキシド単位の含有量が4〜12モル%のポリアルキレンポリオールを用いることにより、樹脂化反応の反応性を高めることができ、特に初期の樹脂化反応を補助することができる。
【0039】
・ 前記無機化合物の水和物として硫酸塩の水和物を用いることにより、ポリウレタン発泡体の原料の発泡過程に沿って硫酸塩の水和物が分解されて水を生成し、吸熱作用を良好に発揮することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例及び比較例で用いたアミン触媒について、樹脂化活性定数(Kで示す)、泡化活性定数(Kで示す)及び泡化活性定数/樹脂化活性定数の比(K/Kで示す)を表1に示す。
【0041】
【表1】

(実施例1〜4及び比較例1、2)
まず、各実施例及び比較例で用いたポリウレタン発泡体の原料を以下に示す。
【0042】
ポリオール #3000(hetero):グリセリンにプロピレンオキシド及びエチレンオキシド(8%)を付加重合させたポリエーテルポリオールで、分子量3000、水酸基の官能基数が3、水酸基価56(mgKOH/g)、三洋化成工業(株)製、ポリオール GP-3050F
二水石膏:比重2.32、平均粒子径40μmの二水石膏、(株)ノリタケカンパニーリミテド製
触媒33LV:トリエチレンジアミン、アミン化合物、中京油脂(株)製
LV33:トリエチレンジアミンとプロピレングリコールとの質量比が1:2の混合物よりなる触媒、中京油脂(株)製
触媒A−1:N,N,N′,N″-ペンタメチルジエチレントリアミン相当品、GE東芝(株)製
触媒TOYOCAT HPW:N−メチル−N′−ヒドロキシエチルピペラジン
触媒TOYOCAT NEM:N−エチルモルホリン
触媒TOYOCAT DAEM:N−(N′,N′−2−ジメチルアミノエチル)モルホリン
触媒TOYOCAT D60:脂肪族モノアミン
触媒TOYOCAT TEA:トリエチルアミン
整泡剤BF2370:シリコーン、ゴールドシュミット社製
金属触媒 MRH-110:ジブチルスズジラウレート、城北化学工業(株)製
ポリイソシアネート T-80:トリレンジイソシアネート(2,4-トリレンジイソシアネート80質量%と2,6-トリレンジイソシアネート20質量%との混合物)、日本ポリウレタン工業(株)製
そして、表2に示す配合割合で各例におけるポリウレタン発泡体の原料を調製した。ここで、比較例1では無機化合物の水和物として二水石膏を配合し、触媒として2種類のアミン触媒(触媒33LVと触媒A−1)を用いた例で、特許文献1におけるExample 11の2に相当する例、比較例2では触媒としてトリエチルアミンのみを用いた例を示した。
【0043】
これらのポリウレタン発泡体の原料を縦、横及び深さが各500mmの発泡容器内に注入し、常温、大気圧下で発泡させた後、加熱炉を通過させて硬化(架橋)させることにより軟質スラブ発泡体を得た。得られた軟質スラブ発泡体を切り出すことによってシート状のポリウレタン発泡体を製造した。このポリウレタン発泡体について、見掛け密度、硬さ、セル数、反発弾性率、引張強さ、伸び、引裂強さ、圧縮残留歪及び最高発熱温度を以下の測定方法に従って測定した。それらの結果を表2に示す。
(測定方法)
見掛け密度(kg/m):JIS K 7222:1999に準拠して測定した。
【0044】
硬さ(N):JIS K 6400−2:2004に準拠して測定した。
引張強さ(kPa)、伸び(%)及び引裂強さ(N/cm):JIS K 6400−5:2004に準拠して測定した。
【0045】
圧縮残留歪(%):JIS K 6400−4:2004に準拠して測定した。
通気量(L/min):ASTM D3574に準拠して測定した。
最高発熱温度(℃):発泡用容器の中央部に熱電対を差し込み、発泡及び反応時において上昇した最も高い温度を示した。
【0046】
【表2】

実施例1〜4においては、触媒として樹脂化活性定数が0.22×10〜0.93×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.47〜3.00×10−1であるアミン触媒及び金属触媒であるジブチルスズジラウレートをポリオール100質量部当たり0.25質量部含有している。このため、表2に示したように、特に圧縮残留歪を4.6〜6.0%に抑えることができた。
【0047】
その一方、樹脂化活性定数が4.26×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が37.3×10−1である触媒A−1と樹脂化活性定数が3.63×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が1.34×10−1である触媒33LVとを用いた比較例1では、圧縮残留歪が32.0%という大きな値になり、実用性はなかった。また、泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が5.18×10−1という大きな値を示す触媒TOYOCAT TEAを用いた比較例2では、圧縮残留歪が実施例1〜4に比べて大きい11.0%という値になった。
(比較例3〜9)
触媒の種類を表3に示すものに変更し、その含有量をポリオール100質量部当たり0.05質量部とした以外は比較例1と同様にして実施し、ポリウレタン発泡体を製造した。得られたポリウレタン発泡体について、見掛け密度、硬さ、セル数、反発弾性率、引張強さ、伸び、引裂強さ、圧縮残留歪及び最高発熱温度を測定し、それらの結果を表3に示す。表3における触媒の説明を以下に示す。
【0048】
触媒TOYOCAT NP:N−(2−ジメチルアミノエチル)−N′−メチルピペラジン
触媒TOYOCAT TE:N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン
触媒TOYOCAT DT:N,N,N′,N″-ペンタメチルジエチレントリアミン
触媒TOYOCAT ETS:ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル
触媒TOYOCAT RX−3:N,N−ジメチルアミノエトキシエタノール
触媒TOYOCAT RX−5:N,N,N′−トリメチルアミノエチルエタノールアミン
【0049】
【表3】

比較例3〜9におけるアミン触媒は、樹脂化活性定数が0.22×10〜0.93×10という条件及び泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.47〜3.00×10−1という条件のいずれか又は双方を満たしていない。そのため、表3に示したように、特に圧縮残留歪が11.0〜18.0という高い値を示した。
(実施例5〜8)
触媒の種類及び含有量を表4に示すように変更するとともに、発泡剤としての水の含有量をポリオール100質量部当たり7.0質量部及び8.0質量部に変更した以外は実施例1と同様にして実施し、ポリウレタン発泡体を製造した。得られたポリウレタン発泡体について、見掛け密度、硬さ、セル数、反発弾性率、引張強さ、伸び、引裂強さ、圧縮残留歪及び最高発熱温度を測定し、それらの結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

実施例5〜8では、発泡剤としての水を実施例1〜4に比べて増量させたが、触媒として樹脂化活性定数が0.61×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が1.86×10−1のTOYOCAT HPW又は樹脂化活性定数が0.22×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.47×10−1のTOYOCAT NEMを使用した。そのため、表4に示すように、特に圧縮残留歪を6.8〜7.0に抑えることができた。
(実施例9〜11及び比較例10、11)
実施例9では、実施例1において、ポリオール類として#3000(hetero)70質量部に下記に示す#3000(homo)30質量部を加え、エチレンオキシドの含有量を4.5質量%に設定した。実施例10及び11では金属触媒 MRH-110の含有量を表5に示すように変更した。一方、比較例10では、実施例1において、触媒としてA−1のみを使用した。比較例11では、比較例1において、触媒33LVを0.015質量部及び触媒A−1を0.01質量部に半減させ、その他は比較例1と同様にして実施し、ポリウレタン発泡体を製造した。得られたポリウレタン発泡体について、見掛け密度、硬さ、セル数、反発弾性率、引張強さ、伸び、引裂強さ、圧縮残留歪及び最高発熱温度を測定し、それらの結果を表5に示す。
【0051】
ポリオール#3000(homo): グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させたポリエーテルポリオール、分子量3000、水酸基の官能基数が3、水酸基価56(mgKOH/g)、三洋化成工業(株)製、GP-3000NS
【0052】
【表5】

表5に示す結果から実施例9及び10では、圧縮残留歪について実施例1とほぼ同様の結果を得た。実施例11では、金属触媒の含有量を増加させたことにより、圧縮残留歪が実施例1に比べて若干増大し、9.5%になった。一方、本発明の範囲外の触媒A−1のみを使用した比較例10では圧縮残留歪が16.0%、比較例11では圧縮残留歪が18.0%に達した。
【0053】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 触媒として、滴定法による樹脂化活性定数及び泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が前記範囲に入らないアミン触媒を併用することも可能である。
【0054】
・ 無機化合物の水和物としては、複数種類の水和物、例えば硫酸カルシウムの水和物と硫酸マグネシウムの水和物とを組合せて配合することもできる。その場合には、より広い温度範囲で無機化合物の水和物の機能を発揮させることができ、反応及び発泡時における発熱温度を効果的に低下させることができる。
【0055】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 滴定法による泡化活性定数は0.8×10〜6.0×10であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。この場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果を向上させることができる。
【0056】
・ 前記硫酸塩の水和物は、硫酸カルシウムの水和物又は硫酸マグネシウムの水和物であることを特徴とする請求項3に記載のポリウレタン発泡体。この場合、請求項3に係る発明の効果に加え、無機化合物の水和物の機能を効果的に発揮することができる。
【0057】
・ 前記無機化合物の水和物の含有量は、ポリオール類100質量部当たり20〜40質量部であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。この場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、発泡体の物性を損なうことなく、無機化合物の水和物による吸熱作用を十分に発揮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び無機化合物の水和物を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られ、JIS K 7222:1999に準拠して測定される見掛け密度が16〜22kg/mであるポリウレタン発泡体であって、
前記発泡剤として水をポリオール類100質量部当たり5〜9質量部用いるとともに、触媒として滴定法による樹脂化活性定数が0.22×10〜2.0×10でかつ泡化活性定数/樹脂化活性定数の比が0.4×10−1〜3.0×10−1であるアミン触媒及び金属触媒を含有し、さらに前記金属触媒をポリオール類100質量部当たり0.1〜0.4質量部含有することを特徴とするポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記ポリオール類は、ポリエチレンオキシド単位の含有量が4〜12モル%のポリアルキレンポリオールであることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記無機化合物の水和物は、硫酸塩の水和物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2007−169556(P2007−169556A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372356(P2005−372356)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】