説明

ポリエステルの製造方法

【課題】ポリエステルの製造工程で発生するグリコールを再使用する連続法ポリエステル製造方法において、高品質のポリエステルを経済的に、かつ安定して製造する方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー混合槽にて混合しスラリーとなし、該スラリーをエステル化反応槽に供給してエステル化反応を行い、得られたポリエステル低重合体を続いて重縮合反応槽に供給して重縮合することによりポリエステルを連続製造する方法において、該ポリエステル製造工程より留出するグリコールを該ポリエステルの製造工程内に設けた蒸留塔により水を主成分とした低沸点留分を分留除去しスラリー調製槽に戻し循環再使用する方法において、該蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を該蒸留塔に循環させるポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルの製造工程で発生するグリコールを再使用する連続法ポリエステル製造方法において、高品質のポリエステルを経済的に、かつ安定して製造することができるポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、その優れた特性からフィルム、繊維、ボトルをはじめ様々な用途に用いられている。なかでもポリエチレンテレフタレートは機械的強度、耐薬晶性、寸法安定性に優れることから、一般的に使用されている。
【0003】
一般にポリエステルの製造は、エステル化反応と重縮合反応の2段階で行われる。該直接エステル化法においては、ポリエステルの製造は芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー調合槽でスラリーを調合しエステル化反応槽に供給されエステル化反応が行われる。芳香族ジカルボン酸が固体でありグリコールに不溶であることより、これらの原料はスラリー状でエステル化反応槽に供給されるが、このスラリーの流動性を確保するため、理論必要量以上のグリコールを原料として供給し、過剰部分を回収する方法が一般的である。また、エステル化されたオリゴマーは重縮合反応槽で脱グリコール反応によりポリエステルが生成される。これらの過剰使用のグリコールや重縮合反応により生ずるグリコールは回収され再使用する必要がある。これらのグリコールの回収、再使用の方法はポリエステルの製造コストに大きく影響を及ぼすので、各種方法が開示されている。
【0004】
エステル化反応槽の留出液の低沸点留分を精留除去しスラリー調合槽に循環し再使用する方法(特許文献1参照)、エステル化反応槽から取り出されるエチレングリコールの低沸点留分を精留除去しエチレングリコール貯槽に供給するとともに、この一部を重縮合反応槽に設けられた湿式コンデンサーの循環液として用い凝縮液をエチレングリコール貯槽に供給し、該エチレングリコール貯槽に滞留したエチレングリコールをスラリー調合用に再使用する方法(特許文献2参照)、重縮合反応槽より発生する留出液を湿式コンデンサーにて凝縮し、エステル化反応槽に設けられた蒸留塔へ送り低沸点留分を除いた後、スラリー調合槽に戻して再使用する方法(特許文献3参照)、重縮合反応槽で発生する留出液を連続的に単蒸留し、この連続単蒸留缶の底部抜き出し液を回分式単蒸留缶に送液して単蒸留を行い、初留部分を除いた蒸留液を重縮合反応ガスの凝縮用冷媒液の一部と使用する方法(特許文献4参照)、エステル化反応槽留出液および重縮合反応槽留出液の一部は低沸点留分を精留除去し、重縮合反応槽留出液の残りの一部は低沸点留分と高沸点留分を除去し、スラリー調合に循環し再使用する方法(特許文献5参照)、エステル化反応2段階目の反応槽から取り出される留出液を蒸留精製せずに直接、原料の一部、または全量として再使用する方法(特許文献6参照)、重縮合反応槽からの留出液をフラッシュ蒸留により低沸点留分を精留除去して原料グリコールの一部として再使用する方法(特許文献7参照)が開示されている。
【特許文献1】特開昭53−126096号公報
【特許文献2】特開昭55−56120号公報
【特許文献3】特開昭60−163918号公報
【特許文献4】特開平8−325363号公報
【特許文献5】特許第3424755号公報
【特許文献6】特開平10−279677号公報
【特許文献7】WO01/083582号公報
【0005】
上記技術の中で特許文献2および3で開示されている方法は、品質と経済性のバランス、すなわちコストパフォーマンスが優れているが、該方法は、例えば、回収グリコールの移送ラインの詰まりが起こることがある等の長期にわたり安定して運転することに関しては課題が残されていた。また、世界的のポリエステルの大増産の動きの中で、さらなるコストパフォーマンスの優れたポリエステルの製造技術の構築が嘱望されている。
【0006】
また、上記方法で回収されたグリコールの中には、例えば、反応で生成した水が完全に除去されずに再使用されるケースも含まれている。該方法においては、該回収グリコールの使用は、例えばエステル化反応の進行に影響し、結果としてポリエステルの品質や生産性に影響が及ぶ。しかしながら、これらの特許文献において開示されている技術は、原料グリコールの回収再使用方法に関する技術の開示であり、該回収グリコールを再使用する製造方法におけるポリエステルの品質安定化のためのポリエステル製造工程における反応条件等の最適化に関しては何ら言及されていない。
【0007】
また、ポリエステル製造工程で回収されたグリコール中の水分量を近赤外線分析装置で測定して反応系に供給する原料および回収液の合計した組成を所定量範囲内となるように制御する方法が開示されている(特許文献8参照)。該特許文献においては、例えば、回収グリコール中の水分量やジエチレングリコール量が近赤外線分析装置により迅速、かつ精度よく測定できることが開示されている。
【特許文献8】特開平10−182802号公報
【0008】
一方、ポリエチレンテレフタレートの製造において、製造工程を安定化させるためには、エステル化反応によって得られる中間体である低重合体のカルボキシル末端基とヒドロキシル末端基の比率(以下「末端基比」と記載)を調整することが重要とされている。
【0009】
例えば、末端基比が大きく変動すると重縮合工程において重縮合反応の進行速度が変動するために、エチレングリコール除去の負荷変動を生じたり、ポリマーが所定の重合度に到達しない等の問題が発生する。品質においてはポリマーの色相が変化するような現象が生じる。
【0010】
そこで、例えば、重縮合工程へ供給するポリエステルオリゴマーのエステル化率を90〜98%の範囲内で一定になるように、エステル化反応時の温度、圧力滞留時間およびエチレングリコール供給量からなる少なくとも1種の反応条件を調節しカルボキシル末端基量が20〜50eq/tonのポリエステルを得る方法、重縮合工程へ供給するポリエステルオリゴマーのエステル化率を92〜98%の範囲であり、かつ全末端基中のカルボキシル末端基の割合が35%以下にすることによりカルボキシル末端基量が35eq/tonのポリエステルを得る方法、第1重縮合反応時の温度、滞留時間およびエチレングリコール供給量からなる少なくとも1種の反応条件を調節するか、若しくはエステル化反応物のエステル化反応率と共に第1重縮合反応条件を調節しカルボキシル末端基量が15〜50eq/tonのポリエステルを得る方法およびポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基量を9〜30eq/tonにして重縮合工程に供給する方法が開示されている(特許文献9〜12参照)。
【特許文献9】特開平10−176043号公報
【特許文献10】特開平10−251391号公報
【特許文献11】特開平11−106498号公報
【特許文献12】特開2001−329058号公報
【0011】
さらに、製品ポリマーの色調を測定し、その測定値の目標値に対する偏差に応じてエステル化工程でのエステル化率を調節する方法、製品ポリマーの色調を測定し、その測定値の目標値に対する偏差に応じて第1重縮合反応時の滞留時間を調節する方法および製品ポリマーの色調および極限粘度を測定してその測定値の目標値に対する偏差に応じて第1段重縮合反応缶へのエチレングリコールの供給量を調節することにより、製造されるポリエステルの色調(b値)の標準偏差が平均値の0.05倍以内に保ち、かつ極限粘度の標準偏差が平均値の0.005倍以内に保つ方法が開示されている(特許文献13〜15参照)。
【特許文献13】特許3375403号公報
【特許文献14】特開2004−75955号公報
【特許文献15】特開2004−75957号公報
【0012】
しかし、上記の方法では、製品ポリマーの色調を測定した時点では、すでに重縮合反応が進行しているので、エステル化率の調節が遅れるために、上記問題が解消されているとはいえない。
【0013】
また、ポリエステルの製造工程へ供給するテレフタル酸とエチレングリコールとからなるスラリーの密度や濃度を連続測定して、該測定値より求められるスラリー中のテレフタル酸に対するエチレングリコールのモル比に基づいてエステル化反応を制御する方法やスラリー濃度の変化に応じてスラリー中のテレフタル酸とエチレングリコールとの比率の変動を制御する方法が開示されている(特許文献16および17参照)。
【特許文献16】特開平6−247899号公報
【特許文献17】特開2004−75956号公報
【0014】
上記方法は、エステル化反応に供給されスラリー濃度によりポリエステル生成反応が一定になるように制御される点で得られるポリエステルの品質安定化にとっては好ましい方法である。
【0015】
上記課題を解決する方法として、ポリエステルの製造工程中の原料、反応中間生成物または最終生成物のうち1種以上についての近赤外線特性を連続的に測定し、得られた分光スペクトルから測定物中の物性を解析し、解析データに基づいて製造工程中の反応条件を制御する方法が開示されている(特許文献18参照)該特許文献において、ポリエステル連続製造工程の重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口に近赤外線吸収スペクトルの検出端子を設置して、常時抜き出し口を通過するポリエステルのカルボキシル末端基濃度を連続的に測定すると供に、第2エステル化反応槽の出口にも近赤外線吸収スペクトルの検出端子を設置して、該検出端子部を通過するポリエステルオリゴマーのエステル化率を連続測定し、目標エステル化率になるように第2エステル化反応槽温度調節器へフィードバックし、生成ポリエステルのカルボキシル末端基濃度変化を抑制する方法が開示されている。該方法は、ポリエステルのカルボキシル末端基濃度を安定化する制御方法としては有効な方法であるが、ポリエステル製造工程の2ヶ所のポリエステルおよびオリゴマーの特性値を検出し制御する方法であり、検出器および制御装置の設備投資やその性能維持のためのメンテナンス費用が高額なり、かつ制御系の複雑になるという課題を有する。さらに、反応制御が応答速度の遅い第2エステル化反応槽の温度制御により行われているという課題もある。該課題は連動している。すなわち、反応制御が応答速度の遅い第2エステル化反応槽の温度制御で実施されているために上記した複雑な制御が必要となるものと推察される。そこで、より単純化された制御系で生成ポリエステルのカルボキシル末端基濃度変化を安定化できる方法の構築が嘱望されている。
【特許文献18】特開平11−315137号公報
【0016】
これらの特許文献9〜18において開示されているポリエステルの品質安定化の技術においては、ポリエステル製造コストや品質に大きく影響を及ぼす回収グリコールの使用による影響に関しては考慮がなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、ポリエステルの製造工程で発生するグリコールを再使用する連続法ポリエステル製造方法において、高品質のポリエステルを経済的に、かつ安定して製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために鋭意検討し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー混合槽にて混合しスラリーとなし、該スラリーをエステル化反応槽に供給してエステル化反応を行い、得られたポリエステル低重合体を続いて重縮合反応槽に供給して重縮合することによりポリエステルを連続製造する方法において、該ポリエステル製造工程より留出するグリコールを該ポリエステルの製造工程内に設けた蒸留塔により水を主成分とした低沸点留分を分留除去しスラリー調製槽に戻し循環再使用する方法において、該蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を該蒸留塔に循環させることを特徴とするポリエステルの製造方法である。
この場合において、上記蒸留塔底部より取り出される残留分の液温を160〜175℃に制御することが好ましい。
また、この場合において、上記蒸留塔の中段の温度を制御して蒸留残留分中の水分量を調整することが好ましい。
また、この場合において、上記蒸留塔を少なくとも2基設けて、第1エステル化反応槽から留出するグリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとを区分して、水を主成分とした低沸点留分を分留除去することが好ましい。
また、この場合において、回収グリコール中の水分量をX±2.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内に制御することが好ましい。
また、この場合において、第2エステル化反応槽以降からの留出分を処理する蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を第2エステル化反応槽以降のエステル化反応槽に供給することが好ましい。
また、この場合において、上記スラリーの温度を設定値の±4℃以内に制御してエステル化反応槽に定量供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリエステル製造方法は、ポリエステルの製造工程で発生するグリコールが再使用されるのでポリエステル製造コストが低減できるという利点を有する。その上に、回収グリコールの送液ラインの詰まり防止のための改善がなされており、長期にわたり安定して生産を続けることができるという特徴を有する。さらに、該グリコールを回収する蒸留塔の設備費や該蒸留におけるランニングコストが低減できるので、ポリエステルの製造コストの大幅な低減に繋げることができる。その上に、回収グリコール中の水分量やエステル化反応槽へ供給する芳香族ジカルボン酸とグリコールからなるスラリーの温度を特定範囲に制御するという極めて単純な反応制御方法により、得られるポリエステルの品質、特にカルボキシル末端基の変動が抑制でき、均一な品質のポリエステルが安定して生産できるという特徴を有する。すなわち、極めて高いコストパフォーマンスを有したポリエステル製造方法であるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のポリエステルの製造方法の実施形態を説明する。
【0021】
本発明におけるポリエステル製造方法は、芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー調製槽にて混合しスラリーとなし、該スラリーをエステル化反応槽に供給してエステル化反応を行い、得られたポリエステル低重合体を続いて重縮合反応槽に供給して重縮合することによりポリエステルを連続製造する方法に拘る。
【0022】
直接エステル化法はエステル交換法に比べ経済性の点で有利である。また、連続式重縮合法は回分式重縮合法に比して品質の均一性や経済性において有利である。
【0023】
本発明においては、エステル化および重縮合工程の反応器の個数やサイズおよび各工程の製造条件等は限定なく適宜選択できる。
【0024】
例えば、テレフタル酸1モルに対して1.02〜2.0モル、好ましくは1.03〜1.95モルのエチレングリコ−ルが含まれたスラリ−を調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。エステル化反応は、1〜3個のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置を用い反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら実施する。第1段目のエステル化反応の温度は240〜270℃、好ましくは245〜265℃、圧力は常圧〜0.29MPa、好ましくは0.005〜0.19MPaである。最終段目のエステル化反応の温度は通常250〜290℃好ましくは255〜275℃であり、圧力は通常0〜0.15MPa、好ましくは0〜0.13MPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらのエステル化反応の反応率の上昇は、それぞれの段階で滑らかに分配されることが好ましい。最終的にはエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。これらのエステル化反応により分子量500〜2000程度の低次縮合物が得られる。引き続き重縮合反応槽に移送し重縮合を行う。該重縮合工程の反応槽数も限定されない。一般には初期重縮合、中期重縮合および後期重縮合の3段階方式が取られている。重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は0.065〜0.0026MPa、好ましくは200〜20Torrで、最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は0.0013〜0.000013MPa、好ましくは0.00065〜0.000065MPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階の重縮合反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらの重縮合反応工程の各々において到達される極限粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
【0025】
本発明においては、上記のポリエステル製造工程より留出するグリコールを該ポリエステルの製造工程内設けた蒸留塔で、水を主成分とした低沸点留分を分留除去し、蒸留塔底部より取り出される残留分(以下、回収グリコールと称することもある)を循環再使用することが重要である。該対応によりポリエステルの製造コストの低減を図ることができる。
【0026】
本発明においては、上記のグリコールの回収方法において、蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を該蒸留塔に循環させること(以下、蒸留塔液循環法と称する)が重要である。該方法の実施により、該残留分の送液ラインのライン詰りの発生が抑制され、長期の安定生産が可能となる。ポリエステル製造工程で留出するグリコール中には、飛沫同伴等によりポリエステルのオリゴマー類等よりなるグリコールに難溶性あるいは不溶性の固形分が含まれる。該固形分は、当然のことであるが上記蒸留において、蒸留塔残留分中に含まれポリエステル製造工程に循環される。従って、ポリエステルの製造を長期に渡り連続して実施した場合に、該残留分の送液ラインにおいて、残留分中に存在する固形分あるいは送液ライン中で析出する固形分により該送液ラインの送液性の低下やライン詰まりが発生し安定運転が困難な場合があるという課題を有しておりその改善が嘱望されていた。本発明は上記の極めて単純な方法で該課題を解決したものである。上記蒸留塔液循環法の実施により上記課題が解決される理由は明確でないが、残留分の送液流量および流速の増加、液温度維持、該温度変動抑制および残留分の蒸留塔内の滞留延長による固形分の構造変化等の複数の要因の総和により固形分の析出が抑制されることにより引き起こされるものと推察される。ここで、構造変化は、化学変化と物理変化の両方の効果が加味されていると推察される。すなわち、化学変化としては、固形分中のオリゴマーのグリコリシスによる低分子量化によりグリコールへの溶解性の向上および結晶性低下等が、また、物理変化としては固形分の結晶性等の等の変化が考えられる。また、蒸留塔液循環法の実施は、ライン詰りの抑制に加えて分留精度の向上にも繋がる。
【0027】
従って、残留分の液温および該温度範囲の設定、蒸留塔底部の残留分の貯留容量、循環液の戻し位置および循環量等が重要となる。該条件は限定されないが、以下の方法が好ましい。例えば、循環液の戻し位置は、蒸留塔の中段から蒸留塔底部の残留分の貯留部の最上部が好ましい。蒸留精度向上の点では蒸留塔の中段への戻しが好ましいが、温度管理の点では不利になる。両者のバランスにおいて適宜決定される。循環に用いるポンプはリバース形とノンリバース形のどちらでもよいが、リバース形が好ましい。貯留量は循環量に対し25〜70質量%に保つことが好ましい。該循環量は残留分の30〜75質量%が好ましい。
また、蒸留塔の液面の制御について例えば、エステル化反応槽から留出するグリコールの他に蒸留塔に加えるグリコールの流量を制御することが考えられる。蒸留塔に加えるグリコールは新規グリコール、重合工程で発生し回収したグリコール、他の蒸留塔から留出したグリコール、別の系から回収したグリコールのいずれを用いてもよい。蒸留塔に加えるグリコールの流量は直接的制御する必要は無く、グリコール貯留槽やその前工程の液面や温度などを制御することにより間接的に流量を一定範囲内で規定するものであってもよい。また、蒸留塔からの抜き出し量により液面制御することも考えられる。この場合、抜き出し量は先にも述べたように貯留量を循環量に対し25〜70質量%に保ち、該循環量を残留分の30〜75質量%に保つ範囲内であることが好ましい。抜き出し量は直接的に流量制御する必要は無く、抜き出した液が流入する工程やその後工程の液面や温度などにより間接的に流量を一定範囲内に規定するものであってもよい。
また、循環液温度は、160〜180℃がより好ましい。164〜173℃がより好ましく、168〜175℃がさらに好ましい。該温度維持および温度制御のために循環ラインに温度調整機能を付加するのが好ましい。該温度が160℃未満の場合は、ライン詰り頻度が高くなる。逆に、180℃を超えた場合は、エネルギーロスの増加に繋がり経済的に不利となる。また、蒸留精度の低下に繋がる。
【0028】
本発明においては、蒸留塔の本数や容量は限定されない。例えば、従来公知の1基の蒸留塔で、ポリエステル製造工程から留出する留出分の全量を一括して処理しても構わないが、蒸留塔を少なくとも2基設けて、第1エステル化反応槽から留出するグリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとを区分して分留することが好ましい。
【0029】
一般にポリエステル製造方法におけるエステル化反応は2個以上の反応槽で行う多段反応方式で実施されることが多い。該方法においては、エステル化反応槽から留出するグリコールおよび該グリコールに含まれる水分量は後段になるに従い少なくなる。また、重縮合工程で発生するグリコールは水分含有量がさらに少なくなる。特に、第1エステル化反応槽からグリコールはポリエステルの製造工程で発生するグリコールの約70%以上を占めることが多く、かつ水分量も圧倒的に多い。従って、第1エステル化反応槽よりから留出グリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとは区分してそれぞれ別個の蒸留塔で分留した方が留出液の全量を1基の蒸留塔で分留する前記特許文献11や12で開示されている方法よりもコストパフォーマンスを高めることができる。すなわち、蒸留塔を分割することにより、それぞれの反応槽で発生するグリコール量および水分量に見合った性能とサイズが設定できるのでトータルの蒸留塔の設備投資や、分留のランニングコストの低減に繋げられるので経済的に有利である。また、回収グリコールの品質安定化の点でも有利である。該蒸留塔の塔数は限定されないが2基が好ましい。3基以上でも構わない。
【0030】
本発明の2基以上の蒸留塔で分割分留する場合は、第1エステル化反応槽よりの留出グリコールは水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分をスラリー調製槽に戻して再使用するのが好ましい(以下、スラリー調製槽に戻して再使用するグリコールを回収グリコールと称する)。一方、第2エステル化反応槽以降の反応槽より留出するグリコールは水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分をスラリー調製槽に戻して再使用してもよいし、第1エステル化反応槽の留出グリコールを分留する蒸留塔に供給して第1エステル化反応槽からの留出グリコールの残留分と合わせて再分留をしてスラリー調製槽の戻してもよい。また、両者を併用してもよい。特に、第2エステル化反応槽以降の反応槽より留出するグリコールは水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分を第1エステル化反応槽の留出グリコールを分留する蒸留塔に供給して第1エステル化反応槽からの留出グリコールの残留分と合わせて再分留してスラリー調製槽に戻す方法は、分留の精度が向上することができる。さらに、後述する回収グリコール中の水分量の制御が一箇所になり、制御が簡略化されるという2重の効奏が発揮される。
【0031】
上記方法に用いられる蒸留塔の性能は限定されないが、蒸留制御法の場合は、8〜18段が好ましい。9〜15段がより好ましい。また、水分調整法の場合は、25〜40段が好ましい。22〜38段がより好ましい。泡鐘カラムおよび充填カラムのどちらでもよい。蒸留塔を複数設けて実施する場合は、全蒸留塔を同じ性能のものを用いてもよいし、それぞれの性能を変えてもよい。第2エステル化反応槽以降の留出分の分留物を第1エステル化反応槽の留出分の分留用蒸留塔に供給し再分留する場合は第1エステル化反応槽に設置する蒸留塔より第2エステル化反応槽に設置する蒸留塔は段数を低くしてもよい。
【0032】
上記のグリコール回収方法においては、エステル化反応槽からの留出物の低沸点留分の分留除去は、留出物自体が有する熱により連続的に行うことが好適である。このことにより、運転経費の節減と設備の簡略化をより高めることができる。必要に応じて、配管の加熱や熱交換により補助加熱してもよい。
【0033】
一方、重縮合反応槽からの留出物は、湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収されるので、加熱して蒸留塔に供給することが必要となる。
また、エステル化反応槽より留出するグリコールの場合は、該グリコールに含まれる固形分は融点が低く、エステル化反応工程で反応系に溶解、反応してポリエステルに取り込まれるので除去する必要はない。ただし、前述した蒸留塔液循環法等による固形分析出による蒸留残留分の送液ラインの詰り防止を行うことが好ましい。
【0034】
一方、重縮合反応槽より留出する留分に含有される固形分は融点が高く、回収グリコールに含有されてポリエステル製造工程に循環されるとポリエステル製造工程でポリエステルに反応せずに異物の発生に繋がる場合があるので好ましくない。従って、該固形分を回収グリコールに混入させない方策を取り入れるのが好ましい。該方策は限定されないが湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収された凝縮液中の固形分を除去し蒸留塔に供給するのが好ましい。該固形分の除去方法も限定されない。例えば、濾過、遠心分離あるいは自然沈降等およびこれらを組み合わせた方法で実施するのが好ましい。
【0035】
上記方法で回収された回収グリコールの再使用方法は限定されない。回収グリコール貯槽に蓄え、再使用するのが好ましい。この場合、蒸留塔下部の体積を大きくしてこの部分に貯留を回収グリコール貯槽への供給量を調整してもよい。また、回収グリコール貯留することなく直接スラリー調製槽に供給してもよい。
【0036】
本発明においては、スラリー調製に用いられる回収グリコールの使用割合は限定されないが、ポリエステル製造工程で発生するグリコールの全量を使用し、不足分を新規のグリコールで供給する自己バランス方式で実施するのが好ましい。
【0037】
本発明においては、回収グリコール中の水分量は、X±2.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内に制御することが好ましい。X±1.8質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内がより好ましく、X±1.5質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内がさらに好ましい。一方、変動範囲の下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.1質量%が好ましく、±0.3質量%がより好ましい。該方法で実施することにより、上記した水分量によるエステル化反応への影響の安定化と回収コストのバランスが取れる。さらに、その上に、該回収グリコール中の水分によりカルボン酸とグリコールよりなるスラリーの流動性が向上し、エステル化反応の安定化に繋がり、結果としてポリエステルの品質の安定化に繋がるという効果が発現される。すなわち、ポリエステルの製造を新規グリコールのみで製造あるいは、回収グリコールの水分量を実質的に無水状態にして回収して製造する場合に比べて、回収グリコール中の水分によりスラリーの流動性が向上し、該スラリーのエステル化反応槽への供給精度が向上し工程や品質の安定化に繋げることができる。また、スラリー調製時のグリコール使用量を低くしてもスラリーの供給安定性が確保できるのでスラリー中のグリコール量比を下げてとも安定生産が可能となり経済的に有利となる。すなわち、設定値が3質量%を超えた場合は、スラリーの流動性の向上効果が飽和する上に、エステル化反応が不安定になりポリエステルオリゴマーの特性変動が大きくなり、結果として最終ポリエステルのカルボキシル末端基濃度や色調等の品質変動が大きくなるので好ましくない。逆に設定値が2質量%未満では、回収コストが上がり、かつスラリーの流動性が悪化するので好ましくない。また、変動範囲が±2質量%を超えた場合は、エステル化反応が不安定になりポリエステルオリゴマーの特性変動が大きくなり、結果として最終ポリエステルのカルボキシル末端基濃度や色調等の品質変動が大きくなるので好ましくない。
【0038】
上記の回収グリコール中の水分量を上記範囲にする方法は限定されないが、蒸留塔の圧力および温度の制御を行い、蒸留塔底部より取り出される分留の残留分中の水分量を制御するのが好ましい。
【0039】
蒸留塔の圧力は限定されないが、該蒸留塔に供給されるグリコールの発生源であるエステル化反応槽の圧力設定と連動して設定するのが好ましい。該エステル化反応槽の圧力との連動および蒸留効率と蒸留に要するエネルギーとのバランス等を総合的なパフォーマンスより微加圧状態で実施するのが好ましい。
【0040】
上記のエステル化反応槽の圧力設定と連動して設定する方法においては、蒸留塔は塔頂圧力を10〜300kPa(ゲージ圧)に保つことが好ましい。全蒸留塔を該圧力範囲で制御してもよい。20〜250kPa(ゲージ圧)がより好ましく、80〜200kPa(ゲージ圧)がさらに好ましい。10kPa(ゲージ圧)未満では、大気圧変動による圧力変動の影響を受け、蒸留塔の温度管理精度の低下に繋がる。また、大気圧の変動によりエステル化反応槽の圧力が変化しエステル化反応の変動増大に繋がるので好ましくない。一方、300kPa(ゲージ圧)を超えた場合は、分留精度の低下に繋がる。また、該塔頂圧力でエステル化反応槽の圧力調整をする方法においては、エステル化反応工程におけるジエチレングリコールの副生が増大に繋がるので好ましくない。さらに、エステル化反応槽の圧力の増大により、圧力変動によるエステル化反応に対する影響度が大きくなるためにエステル化反応の変動が増大するので好ましくない。
【0041】
上記の蒸留塔の塔頂圧力の制御方法は限定されない。例えば、蒸留塔のベント配管に調圧弁を設置し、該調圧弁で調整する方法や該ベント配管を水封し、該水封の液面あるいは水封部分の配管の位置変更で調整する方法などが挙げられる。
【0042】
本発明は、グリコールとしてエチレングリコールを用いたポリエステルの製造方法に適用するのが好ましい。該グリコールとしてエチレングリコールを用いる場合は、上記分留において、残留分を回収グリコールとしてスラリー調製槽の戻すラインを有する蒸留塔の中段温度を106±3℃に制御することが好ましい。該制御は上記の圧力制御と連動して実施することが好ましい。一般に蒸留塔の制御は蒸留塔の塔頂温度で管理されるが、本発明の分留においては、該塔頂温度で管理して、蒸留塔の底部より取り出される残留分中の水分量に制御するには、極めて範囲の狭い温度制御をする必要がある。一方、例えば、特許文献10で開示されている塔底部の温度で管理した場合は、塔頂温度が成り行き任せとなり、塔頂より取り出される水を主体とした低沸点留分中のエチレングリコール量の変動が大きくなる。一般に、該低沸点留分は廃棄処分されるので該低沸点留分中のエチレングリコール量の変動が大きくなると廃液の処理負荷の変動に繋がり、環境負荷が増大するので好ましくない。蒸留塔中段の温度管理をすることにより、上記課題のバランスが取れる。なお、中段温度とは、蒸留塔の棚段のほぼ中央部を意味している。すなわち、棚段数が奇数段の場合は中央の棚段部に、偶数の場合は、2分割した各分割部の中央側の棚段のいずれかの部分の温度を指す。該温度範囲は106±2℃がより好ましい。該温度が103℃未満では、残留分中の水分量が上記範囲より多くなるので好ましくない。一方、110℃を超えた場合は、残留分中の水分量が上記範囲より少なくなり、かつ低沸点留分中のエチレングリコール量が増大し、該低沸点留分を廃液処理する場合の負荷が増大するので好ましくない。
【0043】
本発明においては、上記蒸留塔の性能を高めて回収エチレングリコール中の水分量を1質量%以下として、該回収エチレングリコールに水を添加して上記水分量範囲に調整しても構わない。また、蒸留塔底部より取り出される残留分中の水分量を、例えば、近赤外分光光度計を用いてオンラインで計測して回収エチレングリコール中の水分量の制御精度を向上させる方法を採用してもよい。
【0044】
残留分を回収グリコールとしてスラリー調製槽の戻すラインを有しない蒸留塔の場合、例えば、蒸留塔を2基として、第2エステル化反応槽以降の留出分を処理する蒸留塔の残留分を第1エステル化反応槽の留出分を処理する蒸留塔に供給し、第1エステル化反応槽より留出するグリコールと併せて再分留して回収グリコールとする場合は、第2エステル化反応槽以降の留出分を処理する蒸留塔については、上記温度管理の適用は任意であり、回収の収率や消費エネルギーがベストになる条件を考慮して設定するのが好ましい。
【0045】
本発明においては、上記方法の第2エステル化反応槽以降の反応槽よりの留出分を処理する蒸留塔底部より取り出される残留分の一部を第2エステル化反応槽以降のエステル化反応槽に供給するのが好ましい。例えば、特許文献18等において、第1エステル化反応槽からの留出分の蒸留残留分を第2エステル化反応槽に供給する方法が開示されているが、本発明において該方法で実施した場合は、該残留液中に含まれる水分量が多いでのエステル化反応の変動が大きくなるという課題に繋がる。これに対して、第2エステル化反応槽以降より留出する留出分の蒸留残留分中の水分量は第1エステル化反応槽より留出する留出分の蒸留残留分中の水分量よりも低いので、上記課題が抑制できる。また、該残留分の方が残留分温度が高いのでエステル化反応槽内温度との温度差が小さくなるのでエステル化反応の変動がさらに抑制されるという効果も付加される。
【0046】
本発明においては、上記方法で回収されるグリコール中の水分量をオンラインで計測し、該水分量変動によるフィードバック回路により蒸留塔温度を変えることにより回収グリコール中の水分量を制御してもよい。該水分量計測の方法は限定されないが、近赤外線分光光度計を用いて定量することが好ましい。
【0047】
該近赤外線分光光度計を用いて定量する方法により実施する場合は、例えば、蒸留塔底部あるいは、該蒸留塔底部よりスラリー調製槽に至る回収グリコールの送液ラインに近赤外線分光光度計の検出器を設置して該回収グリコール中の水分量をオンライン計測し、該計測値を蒸留塔の温度設定値にフィードバックして制御する方法(以下、蒸留制御法と称する)。また、回収グリコール中の水分量を1質量%以下として、該回収グリコール中の水分量を近赤外線分光光度計を用いて連続計測をしながら該回収グリコールに水を添加して水分量を調整してもよい(以下、水分調整法と称する)。該水分量調整は該回収グリコールをスラリー調製槽に供給するまでの任意の場所で実施できる。また、該調整方法も限定されない。例えば、スラリー調製槽への回収グリコールの供給ラインに水分調整槽を設けて、該水分調整槽に近赤外線分光光度計の検出器を設置して該回収グリコール中の水分量をオンライン計測し、該計測値が上記水分量範囲になるように添加する水の量を調整する方法が挙げられる。後者の方法は、前記した蒸留塔の性能を高める必要があり経済的に不利であり、前者の方法の方がより好ましい。
【0048】
該近赤外線分光光度計を用いて定量することによりオンライン計測する場合の計測装置および測定波長は限定されない。
【0049】
計測器はオンラインで連続的に測定可能な近赤外分光光度計であれば、特に限定されない。例えば、NIRSシステムズ社(ニレコ社)、BRAN LUEBBEおよび横河電機社製の近赤外オンライン分析計等の市販品を使用してもよいし、本目的のためにシステム化した装置を製作して対応してもよい。
【0050】
測定波長は限定されない。水分既知のグリコールサンプルを用いて、感度が高く、かつ外乱の少ない波長を調査して適宜設定して検量線を作成して計測するのが好ましい。例えば、1922nmの波長を用いるのが好ましい。また、複数の波長を組み合わせた検量線より算出してもよい。
【0051】
本発明においては、上記したような製造方法のカルボン酸とグリコールとからなるスラリーをスラリー調製槽で調製してエステル化反応槽に連続的に供給する過程において、該スラリーの温度を設定値の±4℃以内に制御してエステル化反応槽に定量供給することが好ましい。該スラリー温度は設定値の±3℃以内に制御するのがより好ましく、±2℃以内に制御するのがさらに好ましい。±1℃以内に制御するのが特に好ましい。±4℃を超えた場合は、上記の回収グリコール中の水分量を本発明の範囲に制御しても、エステル化反応の進行の変動が大きくなりポリエステルオリゴマー(以下単にオリゴマーと称することがある)のカルボキシル末端基濃度の変動が大きくなる場合あり、後続の重縮合反応の進行や最終製品であるポリエステルの色調や透明性等の品質変動に繋がるので好ましくない。一方、下限は無変動である±0℃が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.1℃が好ましく、±0.3℃がより好ましい。
【0052】
上記スラリー温度の制御方法は限定されないが、上記スラリー調製槽の温度又はテレフタル酸温度を検出し、該調製槽に供給されるグリコール温度にフィードバックし制御するのが好ましい。また、スラリー温度制御はスラリー調製槽やスラリーの移送ラインに熱交換器を設置して制御してもよい。また、スラリー調製槽に循環ラインを設けてスラリー調製槽中のスラリーを循環させて温度制御の精度向上を図ってもよい。該方法の場合は、循環ラインにも温度制御機能を付加するのが好ましい。以上の方法を単独でおこなってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。また、スラリー調製槽出口からエステル化反応槽供給するまでの間にスラリー貯留槽を設けてスラリー温度制御の精度を高めてもよい。該方法の場合に、スラリー貯留槽に温度制御機構を付加してもよい。該スラリー貯留槽を設ける方法はスラリー調製槽におけるスラリー調整はバッチ式で実施してもよい。バッチ式スラリー調製法は、スラリー調製における重要工程管理項目であるスラリーのカルボン酸とグリコールとの組成比の管理が容易となるので該管理の制御系を簡略化することができるという利点にも繋がる。また、該方法の場合は、スラリー貯留槽において、上記のカルボン酸とグリコールとの組成比の調整が実施できるので、該組成比の変動抑制に繋げることもできるという利点を有する。該方法においては、スラリー調製を連続法やセミバッチ法で実施してもよい。また、該方法と前者の方法を組み合わせて実施してもよい。
【0053】
上記設定値は限定されないが室温から180℃が好ましい。本発明においては、ポリエステルの製造工程で発生する回収グリコールがスラリー調製のグリコールの一部と使用される。該回収グリコールは加温状態にある。従って、該設定温度は加温状態が好ましく70〜160℃がより好ましい。
【0054】
本発明においては、エステル化反応槽へ供給されるスラリーは定量供給を前提としている。すなわち、スラリーのエステル化反応槽への供給量を設定値±3%以内に制御することが好ましい。±2.5%以内がより好ましく、±2.0%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より±0.3%が好ましく、±0.5%がより好ましい。供給量の変動が設定値±3%を超えた場合は、本発明の効果が十分に発現できない場合がある。
【0055】
上記スラリーの供給量の制御方法は限定されない。例えば、流量計を用いて設定流量になるように送液ポンプ回転数を変更する方法、送液ラインの送液ポンプの後に、スラリー調合槽に戻るバイパスラインを設け、送液ポンプの回転数を一定回転とし、送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるようにバイパスラインに設けたコントロール弁の開度を調整する方法、スラリー調製槽と第1エステル化反応槽の位置に高低差を設けて、ヘッド圧でスラリーの送液を行い、該送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるように送液ラインに設けたコントロール弁の開度調整により行う等が挙げられる。流量計の種類は限定されない。例えば、ローター流量計、ローターピストン流量計、オーバル流量計およびマイクロモーション流量計等が挙げられる。また、第1エステル化反応槽の液面レベルが一定になるように調整してもよい。
【0056】
また、本発明においては、スラリーを供給する第1エステル化反応槽の条件の変動を抑制することにより、本発明の効果が安定して発現することができる。
【0057】
例えば、該スラリーの中のカルボン酸とグリコールとのモル比もエステル化反応に影響するので一定範囲に制御することが好ましい。該変動範囲は、前記した公知技術の範囲で十分である。設定値±0.3%以内が好ましい。設定値±0.25%以内がより好ましく、設定値±0.2%以内がさらに好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.01%が好ましく、±0.02%がより好ましい。
【0058】
上記モル比の調整方法は限定されないが、オンラインで連続計測してスラリー調製槽へのカルボン酸および/またはグリコール供給量を調整する方法が好ましい。計測方法も限定されない。密度計や近赤外線分光光度計で計測する方法が挙げられる。
【0059】
また、エステル化反応は第1エステル化槽の温度、圧力および滞留時間(限定されたポリエステル製造ラインにおいては、反応槽の液面レベル)の影響を受けるので、該要因は設定条件範囲に制御することが好ましい。例えば、温度は設定値±3%以内が好ましく、±2%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。また、圧力は設定値±4%以内が好ましく、±3%以内がより好ましい。±2.5%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。また、液面レベルは設定値±0.2%以内が好ましく、±0.1%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.02%が好ましく、±0.05%がより好ましい。該液面レベルの制御は前記のスラリー流量制御を上記範囲にすることにより制御が可能である。
【0060】
本発明においては、上記の反応均一化のための制御を実施することにより、後続の重縮合反応や最終ポリエステルの品質に大きく影響を及ぼす最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が抑制され、ポリエステルの品質の安定化が図れるが、上記したような製造方法において、最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を測定して、該カルボキシル末端基濃度変動によるフィードバック回路により第2エステル化反応槽以降に供給されるグリコール添加量を変更することで反応制御を行うことにより該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動をより低減することができる。
【0061】
該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度の平均値は限定されない。後続の重縮合反応の進行や最終製品であるポリエステルのカルボキシル末端基濃度等の要求により適宜設定される。例えば、後続の重縮合反応の進行、すなわち重縮合活性に関しては、ポリエステルの製造に用いられる重縮合触媒の種類により最適範囲が異なる。また、最終製品であるポリエステルのカルボキシル末端基濃度の設定に関しても、該ポリエステルの使用用途等により最適範囲が異なる。例えば、後続の固相重縮合の重縮合を考慮した場合は高め設定が、また、ポリエステルの加水分解安定性を要求される分野へ使用する場合は低め設定が好ましい。一般には、100〜1000eq/tonの範囲が好ましい。200〜900eq/tonがより好ましい。
【0062】
この場合において、オリゴマー中のカルボキシル末端基濃度の検出方法は限定されない。定時サンプリングによる評価による間歇評価法で行ってもよいし、例えば、最終エステル化反応槽出口部に、近赤外分光光度計等のカルボキシル末端基濃度をオンラインで連続測定できる検出器を設置してオンライン計測を行い連続評価法で行ってもよい。
【0063】
上記のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度調整用に用いるグリコールは、前述のごとく回収グリコールや蒸留塔底部より抜き出される蒸留塔残留分を用いてもよいが、新規グリコールを用いた方が調製効果が安定するので好ましい。
【0064】
本発明においては、得られるポリエステルのカルボキシル末端基の標準偏差(s)が1.2以下であることが好ましい。1.1以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましい。
【0065】
本発明に拘るポリエステルとして具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボシキレート、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフォノキシ)エタン4,4′−ジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレートなどが挙げられる。本発明は、なかでも汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてポリエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエステル共重合体の製造において好適である。
【0066】
上記のポリエステルを得るために用いるジカルボン酸としては、芳香族、脂肪族及び脂環族のジカルボン酸であれば特に制限はない。具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4`一ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0067】
本発明で用いるジオールは特に制限はない。例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0068】
また、必要に応じて5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸等のアルカリ金属塩、2−スルホ−1,4−ブタンジオール、2,5−ジメチル−3−スルホ−2,5−ヘキサンジオール等のスルホン酸金属塩を含有するジカルボン酸、グリコールを使用してもよい。
【0069】
本発明の重縮合反応では公知の重縮合触媒が使用される。例えば、リチウム、ナトリウム、カルシウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、砒素、セリウム、ホウ素、カドミウム、マンガン等の金属及びこれら金属を含む金属化合物が挙げられる。なかでも、アンチモン、ゲルマニウム、チタンおよびアルミニウム系の重縮合触媒の使用が好ましい。
【0070】
このようにして得られる本発明のポリエステル樹脂は品位が安定しているだけでなく、例えば、得られたポリエステルを用いて固相重縮合して、さらにポリエステルの重縮合を進めて高重合度のポリエステルを得る固相重縮合工程の安定化も繋げることができる。 従って、本発明で得られるポリエステルは、特に、高強力繊維用に用いる固相重縮合ポリエステル用のプレポリマーの製造に適用するのが好ましい。
【実施例】
【0071】
本発明を、以下の実施例を用いて具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を例示するものであり、限定されるものではない。また、下記の実施例中の極限粘度、オリゴマーカルボキシル末端基濃度及びポリマーカルボキシル末端基濃度は下記の方法により測定した。
【0072】
(1)極限粘度
試料をフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)50mlに溶解する。この溶液を40mlウベローデ粘度管に取り、30℃の恒温槽中で落下秒数を計測して極限粘度(IV)を算出した。
【0073】
(2)オリゴマーカルボキシル末端基濃度
オリゴマーを乾燥に呈すことなくハンディーミル(粉砕器)にて粉砕した。試料1.00gを精秤し、ピリジン20mlを加えた。沸石を数粒加え、15分間煮沸還流し溶解させた。煮沸還流後直ちに、10mlの純水を添加し、室温まで放冷した。フェノールフタレインを指示薬としてN/10−NaOHで滴定した。試料を入れずにブランクも同じ作業を行う。なお、オリゴマーがピリジンに溶解しない場合は、ベンジルアルコール中で行った。下記式に従って、AVo(eq/ton)を算出する。
AVo=(A−B)×0.1×f×1000/W
(A=滴定数(ml),B=ブランクの滴定数(ml),f=N/10−NaOHのファクター,W=試料の重さ(g))
【0074】
(3)ポリマー酸価
試料15mgをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)/CDCl=1/1混合溶媒0.13mlに溶解し、CDCl 0.52mlで希釈し、さらに0.2Mトリエチルアミン溶液(HFIP/CDCl 1/9)を22μl添加した溶液を用いて、500MHzのH−NMR測定をして定量した。該定量を3回測定してその平均値を用いた。
【0075】
(実施例1)
エチレングリコール及びテレフタル酸をモル比が1.7となるようにスラリー調製槽に連続的に供給した。スラリー調製槽中のスラリー温度が90±2℃になるようにグリコール温度を制御した。スラリー調製槽の温度制御は連続的にスラリー調製槽温度と該調製槽に供給するグリコール温度を監視しながら、フィードバック回路により連続的にグリコール添加温度を熱交換器を用いて変更するとともに、スラリー調製槽にも温度調整機能を付け、該スラリー調製槽内スラリー温度が一定になるように制御をした。該スラリーと三酸化アンチモンをエステル反応槽へ連続的に供給し、255℃で連続的に第1エステル化反応を行った。続いて第2エステル化反応槽にて第2エステル化反応を260℃で行い、さらに第3エステル化反応缶に供給し、平均滞留時間0.5時間で260℃で反応させてオリゴマーを得た。そのオリゴマーを重縮合反応槽に連続供給した。スラリー流量の変動率は設定値の±1.5%以内に制御した。該スラリー流量はロータリーピストン流量計を用いて送液ポンプの回転数を変えて調整した。また、エチレングリコール及びテレフタル酸をモル比は、±0.25%以内に制御した。該モル比の調整は、近赤外線分光光度計を用いてスラリーのテレフタル酸量を計測して、スラリー調製槽に供給するエチレングリコール量を調整することにより行った。また、第1エステル化反応槽の温度および圧力変動は±1.3%以内に制御した。また、第1エステル化反応槽の液面レベルの変動は±0.2%以内であった。エステル化反応槽の圧力は、エチレングリコールを回収する蒸留塔の塔頂圧力制御により行った。該オリゴマーを2時間毎にサンプリングをしてオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を測定し、その測定値に基づき重縮合反応工程に供給するオリゴマーのカルボキシル末端基濃度量が一定となるようにフィードバック回路により自動的に計算された量のエチレングリコールを第2エステル化反応槽に添加することでエステル化反応制御を行った。該エチレングリコールは後述の第2エステル化反応槽以降で留出する留出分を蒸留する蒸留塔の塔底部より抜き出した残留分の一部を用いて175±2℃に調整し供給した。
【0076】
上記ポリエステル製造工程におけるエチレングリコールの流れを図1に示す。
スラリー調合槽2へ供給される新規エチレングリコールと回収エチレングリコールは質量比で0.4:0.6である。
【0077】
第1エステル化反応槽3より留出する留出分は段数が15段の泡鐘タイプの蒸留塔9に、第2エステル化反応槽4、第3エステル化反応槽5および重縮合反応槽6〜8より留出する留分は段数が9段の泡鐘タイプの蒸留塔10に供給され水を主体として低沸点留分を除去する。3基の重縮合反応槽6〜8よりから留出する留出分は減圧系で発生するため各反応槽に設置された湿式コンデンサーで凝縮させてエチレングリコール凝縮液貯槽16〜18に供給された後に蒸留塔10に供給される。該供給液は熱交換器22で蒸留のための熱量が供給される。この時、湿式コンデンサーに噴霧されるエチレングリコール液の温度の上昇を抑えるために冷却器19〜21で冷却し湿式コンデンサーに供給される。この凝縮液は各湿式コンデンサーで凝縮された凝縮液自体の自己循環で実施されるが、必要に応じて新規エチレングリコールを供給してもよい。また、上記凝縮液はエチレングリコール凝縮液貯槽16〜18に設置した金網で固形分を分離して蒸留塔10に供給した。両蒸留塔ともに、底部より取り出される残留分の一部をそれぞれの蒸留塔の中間部に循環させた。該循環液の温度は168℃近辺で安定していた。該循環により蒸留塔底部より取り出される残留液(本実施例の場合は回収エチレングリコール)の送液ラインの詰まりは発生しなかった。蒸留塔9は、7段目に設置した温度検出器で検出した温度が106±2℃になるよう制御した。得られた残留分はエチレングリコール貯層15に供給される。得られた回収エチレングリコール中の水分量は3±0.5質量%に制御されていた。また、蒸留塔10は5段目の空間の温度は126±2℃で制御し、得られた残留分は蒸留塔9の中段に供給した。また、前述のごとく該残留分の一部を第2エステル化反応槽に供給した。得られた残留分中の水分量は0.5±0.5質量%であった。なお、エステル化反応槽3〜5からの留出分に関しては、蒸留に必要な熱は留出分自体が有する熱量で足りるので加熱の必要はない。なお、蒸留塔の塔頂の圧力を100kPa±2%以内(ゲージ圧)に制御した。該圧力は蒸留塔ベント配管に設置した調圧弁で制御した。
【0078】
次いで、重縮合反応槽において減圧下で連続的に重縮合反応を行った。生成したポリマーはストランド状にして抜き出し、水冷後にペレット状態にカットした。以上の方法により連続的にペレットを生産し、時間の異なる代表サンプルを採取した。そのサンプルの極限粘度、オリゴマー酸価、ポリマー酸価を測定した。そのサンプル間の平均値、変動幅および標準偏差(s)を表1に示す。いずれの測定値も良好で安定に推移し、品質変動の小さいポリエステルが得られた。また、長期にわたり安定性生産ができた。
なお、表1に示した値は、12時間毎にサンプリングした50個のサンプル(25日分)の評価結果である。また、標準偏差(s)は下記式で求めた。
標準偏差(s)={(測定値―平均値)の和/サンプル数(50)}1/2
【0079】
【表1】

【0080】
(比較例1)
実施例1において、蒸留塔9および10に設けた蒸留塔底部より抜き出した残留分の蒸留塔への循環ラインを取り外し、該循環を取りやめて残留分の全量をそれぞれの供給先に送液するように変更する以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。本比較例のポリエステル製造工程におけるエチレングリコールの流れを図2に示す。本比較例で実施した場合は、蒸留塔底部から抜き出した残留分の送液ラインにおいて、時々固形分析出によるライン詰りが起こり、長期に渡り安定生産をすることができなかった。
【0081】
(比較例2)
比較例1において、蒸留塔9の棚段数を7段として、温度検出器の位置を4段目の空間に変更し、該温度を106±5℃で管理するよう変更する以外は、比較例1と同様の方法でポリエステルを得た。回収エチレングリコール中の水分量は3±2.2質量%であった。結果を表1に示す。本比較例の方法で実施した場合は、比較例1の課題に加えてポリエステルの品質変動が増大した。
【0082】
(比較例3)
比較例2において、第1エステル化反応槽に供給するスラリー温度の制御を取りやめる以外は、比較例2と同様の方法でポリエステルを得た。スラリー温度は90±10℃であった。結果を表1に示す。本比較例で実施した場合は、比較例2よりもさらにポリエステルの品質変動が大きくなった。
【0083】
(実施例2)
実施例1において、蒸留塔9の塔底部よりの残留分の抜き出しラインに近赤外線分光光度計の検出端子を設置して、該回収エチレングリコール中の水分量を波長1922nmで測定し、その測定値に基づき該水分量が一定になるように蒸留塔の7段目に設置した温度検出器で検出した温度にフィードバックして該温度を制御することにより、該回収エチレングリコール中の水分量が3±0.5質量%になるように制御するように変更する以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。結果を表1に示す。本実施例で実施すると、実施例1で実施した場合よりもさらにポリエステルの品質変動が小さくなった。
【0084】
(実施例3)
実施例1おいて、第3エステル化反応槽5から第1重縮合反応槽へのポリエステルオリゴマーの移送ラインにバイパスラインを設け、該バイパスラインに設置した近赤外分光光度計を用いてオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を波長1444nmで測定し、その測定値に基づき重縮合反応工程に供給するオリゴマーのカルボキシル末端基濃度量が一定となるようにエチレングリコールをフィードバック回路により自動的に計算された量を第2エステル化反応槽に添加することでエステル化反応制御を行うように変更する以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。結果を表1に示す。本実施例で実施すると、実施例1で実施した場合よりもさらにポリエステルの品質変動が小さくなった。
【0085】
(実施例4〜6)
実施例1〜3で得られたポリエステル樹脂を固相重合反応槽へ供給し、減圧下67Pa、槽内温度を240℃コントロールした状態で6時間、固相重合反応を実施した。同様の方法で5バッチ反応をおこない、反応終了後に各バッチのレジンをサンプリングして極限粘度測定を実施した。また、得られた固相重縮合ポリエステルを用いてタイヤコード用原糸の紡糸を行った。結果を表2に示す。いずれの実施例で得られたポリエステルも品質が均一であり糸切れ回数が少なく、紡糸の操業安定性が良好であった。
【0086】
(比較例3および4)
それぞれ比較例2および3で得られたポリエステル樹脂を使用した以外は、実施例4〜6に準じて固相重合を5バッチ行い、レジンをサンプリングした。また、得られた固相重縮合ポリエステルを用いてタイヤコード用原糸の紡糸を行った。結果を表2に示す。これらの比較例で得られたポリエステル樹脂は、実施例1〜3で得られたポリエステルに比べて品質の均一性に劣るので、糸切れ回数が多く、紡糸の操業安定性が劣っていた。
【0087】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のポリエステル製造方法は、ポリエステルの製造工程で発生するグリコールが再使用されるのでポリエステル製造コストが低減できるという利点を有する。その上に、回収グリコールの送液ラインの詰まり防止のための改善がなされており、長期にわたり安定して生産を続けることができるという特徴を有する。さらに、該グリコールを回収する蒸留塔の設備費や該蒸留におけるランニングコストが低減できるので、ポリエステルの製造コストの大幅な低減に繋げることができる。その上に、回収グリコール中の水分量やエステル化反応槽へ供給する芳香族ジカルボン酸とグリコールからなるスラリーの温度を特定範囲に制御するという極めて単純な反応制御方法により、得られるポリエステルの品質、特にカルボキシル末端基の変動を抑制でき、均一な品質のポリエステルが安定して生産できるという特徴を有する。すなわち、極めて高いコストパフォーマンスを有したポリエステル製造方法であるという利点を有する。従って、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例1におけるポリエステル製造工程のエチレングリコールの流 れ図である。
【図2】比較例1におけるポリエステル製造工程のエチレングリコールの流 れ図である。
【符号の説明】
【0090】
1:計量タンク
2:スラリー調合槽
3:第1エステル化反応槽
4:第2エステル化反応槽
5:第3エステル化反応槽
6:第1重縮合反応槽
7:第2重縮合反応槽
8:第3重縮合反応槽
9、10:蒸留塔
11〜13:湿式コンデンサー
14:エチレングリコール貯槽
15〜17:エチレングリコール凝縮液貯槽
18〜20:冷却器
21:熱交換器
22〜37:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー混合槽にて混合しスラリーとなし、該スラリーをエステル化反応槽に供給してエステル化反応を行い、得られたポリエステル低重合体を続いて重縮合反応槽に供給して重縮合することによりポリエステルを連続製造する方法において、該ポリエステル製造工程より留出するグリコールを該ポリエステルの製造工程内に設けた蒸留塔により水を主成分とした低沸点留分を分留除去しスラリー調製槽に戻し循環再使用する方法において、該蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を該蒸留塔に循環させることを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
上記蒸留塔底部より取り出される残留分の液温を160〜175℃に制御することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル製造方法
【請求項3】
上記蒸留塔の中段の温度を制御して蒸留残留分中の水分量を調整することを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
上記蒸留塔を少なくとも2基設けて、第1エステル化反応槽から留出するグリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとを区分して、水を主成分とした低沸点留分を分留除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
回収グリコール中の水分量をX±2.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内に制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
第2エステル化反応槽以降からの留出分を処理する蒸留塔の底部より抜き出した残留分の一部を第2エステル化反応槽以降のエステル化反応槽に供給することを特徴とする請求項4または5に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
上記スラリーの温度を設定値の±4℃以内に制御してエステル化反応槽に定量供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−9150(P2007−9150A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195346(P2005−195346)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】