説明

ポリエステルの製造方法

【課題】チタン化合物、リン化合物以外の溶解助剤や重金属類を含有することなく、グリコール中での安定性が高く、取り扱いが簡便であり、十分な重合活性を有し、色相が良好なポリマーを得るポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】テレフタル酸、脂肪族ジオール、チタン化合物と特定のリン化合物Aの反応生成物及び特定のリン化合物Bを用いるポリエステルの製造方法であって、チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物が、グリコール及び酢酸の存在下、リン化合物Aとチタン化合物とをチタン原子に対するリン原子のモル比率(P/Ti)が1.8〜2.5となるように反応させた反応生成物であり、リン化合物Bをテレフタル酸1モルに対して2.0×10−5〜8.0×10−5モルとなるように使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色相良好なポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、機械的強度、耐熱性、透明性及びガスバリア性に優れており、ジュース、清涼飲料、炭酸飲料などの飲料充填容器の素材をはじめとしてフィルム、シート、繊維などの素材として好適に使用されている。
【0003】
このようなポリエステルは、通常、テレフタル酸などのジカルボン酸と、エチレングリコールなどの脂肪族ジオールとを原料として製造される。具体的には、まず、芳香族ジカルボン酸類と脂肪族ジオールとのエステル化反応により低次縮合物(エステル低重合体)を形成し、次いで重縮合触媒の存在下にこの低次縮合物を脱グリコール反応(液相重縮合)させて、高分子量化している。また、場合によっては固相重縮合を行い、さらに分子量を高めている。
【0004】
ポリエステルの製造方法では、重縮合触媒として、従来アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物などが使用されている。しかしながら、アンチモン化合物を触媒として製造したポリエチレンテレフタレートは透明性、耐熱性の点でゲルマニウム化合物を触媒として製造したポリエチレンテレフタレートに劣っている。また、ゲルマニウム化合物はかなり高価であるため、ポリエステルの製造コストが高くなるという問題があった。このため製造コストを下げるため、重縮合時に飛散するゲルマニウム化合物を回収して再利用するなどのプロセスが検討されている。
【0005】
ところでチタン化合物はエステルの重縮合反応を促進する作用のある元素であることが知られており、チタンアルコキシド、四塩化チタン、シュウ酸チタニル、オルソチタン酸などが重縮合触媒として公知である。このようなチタン化合物を重縮合触媒として利用するために多くの検討が行われており、チタン化合物とモノアルキルホスフェートの反応物を触媒として用いることにより製品ポリマーの品質に関しては従来のチタン化合物を触媒に使用するポリマーの欠点をほぼ克服した技術も報告されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、従来からよく知られているチタン化合物を重縮合触媒に用いた場合、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物に比べ活性はあるものの、溶媒への溶解性が劣るため、触媒調製後に沈殿し容器、装置底部で堆積・凝結しやすいという問題があった。
【0006】
そのようなチタン化合物触媒の溶媒への不溶性や触媒粒子の沈降性に関して、チタン化合物の加水分解によって得られた固体状チタン触媒をエチレングリコールの他、グリセリンのような溶解助剤、硫酸のような酸成分を添加の上、120〜200℃で加熱溶解することによりチタン原子換算で3000〜10000ppmの濃度のエチレングリコール溶液を得る方法が述べられている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この方法では固体状チタン触媒を調製するのに加水分解、脱水乾燥など非常に煩瑣な処理工程が必要である上、溶解助剤や酸成分などの余分な添加剤を必要としており、特に飲料充填用容器向けのポリエチレンテレフタレート樹脂を製造する際に充填飲料への溶出やフレーバー性への悪影響が懸念される。
【0007】
また、チタンブトキシドとエチレングリコールの混合液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて透明溶液を得るとしている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、既述のように触媒調整時のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の添加は黄色透明液しか得られず、それを重合触媒として用いた樹脂の色相も黄色味が強いものとなることが広く知られている。事実、特許文献2で得られているポリエチレンテレフタレートの色相はb値が最低でも3.7と黄色味が極めて強く、特に飲料充填容器の成形材料としては不適切である。
【0008】
側鎖にエーテル結合を有するリン酸エステル化合物とチタン化合物の反応物(例えば、特許文献4参照。)、及び側鎖末端にヒドロキシル基を有するリン酸エステル化合物とチタン化合物の反応物(例えば、特許文献5参照。)が良好な重合活性を有し、かつ触媒粒子が液中で沈降しにくいという技術を開示している。しかし、これらの方法でも触媒粒子の沈降を完全に抑制できてはいない。
【0009】
チタン(IV)−2−エチルヘキソキシドとモノアルキルホスフェートの反応物がエチレングリコール溶液中では浮遊して沈降せず分散性が良く、触媒活性も良好であることが示されている(例えば特許文献6参照。)しかし、この手法ではチタン(IV)−2−エチルヘキソキシドとモノアルキルホスフェートを反応させる際に副生する2−エチルヘキサノールの揮発性がエチレングリコールと同程度であるため、触媒液中に残留したまま重合工程にフィードされ、重合反応で副生し溜去されるエチレングリコール中に残留し、しかも蒸留でも分離されにくく、そのまま回収エチレングリコール中に濃縮される恐れもある。
【0010】
【特許文献1】国際公開第03/008479号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/016467号パンフレット
【特許文献3】国際公開第99/028033号パンフレット
【特許文献4】特開2005−290289号公報
【特許文献5】特開2005−290290号公報
【特許文献6】特開2005−290291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、グリコール及び酢酸存在下、チタン化合物、安定剤であるリン化合物を予め反応させた化合物と安定剤として作用するリン化合物を別個の状態で添加することを特徴とし、触媒調製後はグリコール溶媒表面付近に浮遊し容器、装置底部で堆積・凝結することが無いので、グリコール分散液としての取り扱いが容易であり、十分な重合活性を有すること、チタン化合物、リン化合物以外の溶解助剤及び/又は重金属などを含有しない、色相が良好で末端カルボキシル数が少ないポリエステルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するためにポリエステルの製造に用いられる重縮合触媒について鋭意研究したところ、重縮合触媒として、チタン原子とリン原子とからなる特定の化合物と、更に特定のリン化合物とを別個に用いることによって、色相が良好な優れた品質のポリエステルを製造できることを見いだして本発明を完成するに至った。即ち上記課題はテレフタル酸、脂肪族ジオール、チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物及びリン化合物Bを用いるポリエステルの製造方法であって、
チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物が、グリコール及び酢酸の存在下、下記一般式(1)で表されるリン化合物Aとチタン化合物とをチタン原子に対するリン原子のモル比率(P/Ti)が1.8〜2.5となるように反応させた反応生成物であり、リン化合物Bが下記一般式(2)で表されるリン化合物であり、一般式(2)で表されるリン化合物Bをテレフタル酸1モルに対して2.0×10−5〜8.0×10−5モルとなるように使用することを特徴とするポリエステルの製造方法によって解決する事ができる。
【0013】
【化1】

[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に8個未満の炭素原子を有するアルキル基又は水素原子を表す。]
【0014】
【化2】

[上記式中、R、R及びRはそれぞれ独立に8個未満の炭素原子を有するアルキル基又はアリール基を表す。]
【発明の効果】
【0015】
本発明によるポリエステル製造用触媒として使用するチタン化合物とリン化合物Aとの反応生成物はグリコール及び酢酸存在下で調製すると、触媒調製後はグリコール溶媒表面付近に浮遊し容器、装置底部で堆積・凝結することが無いので、グリコール分散液としての取り扱いが容易であり、十分な重合活性を有する。また、別個にリン化合物Bを添加することにより、チタン化合物とリン化合物Aとの反応生成物を単独で用いた場合に比べて、より色相が良好なポリエステルを製造することができる。更に本発明の触媒で製造されたポリエステルは、チタン化合物、リン化合物A、リン化合物B以外の溶解助剤や重金属などを含有することがなく、色相が良好で末端カルボキシル数が少ないため、一般及び工業用途以外に、包材やシート用途、特に飲料充填ボトル用の成形容器や飲料充填カップ及び蓋のシートの材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリエステル製造用の触媒は、後述するチタン化合物とリン化合物Aを混合し、反応させる方法により得たチタン触媒と、別個に特定のリン化合物Bを添加することにより得ることが出来る。しかしながら、本発明の触媒を得る場合、そのチタン化合物とリン化合物Aの配合比、反応方法、反応条件などの製造方法が適切でないと、十分に反応が起こらず、多くの未反応のチタン化合物や未反応のリン化合物Aが存在してしまう。以下、本発明のポリエステル製造用の触媒であるチタン化合物とリン化合物Aを効率よく反応させ、高い含有率のものを得るための製造方法と、特定のリン化合物の使用方法について説明する。
【0017】
本触媒の合成に用いるチタン化合物としては、チタンテトラアルコキシド及びその縮合体、並びにその他の有機チタン錯体化合物を好ましく挙げる事ができる。具体的にはチタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラフェノラート、ヘキサメチルジチタネート、オクタメチルトリチタネート、ヘキサエチルジチタネート、オクタエチルトリチタネート、ヘキサイソプロピルジチタネート、オクタイソプロピルトリチタネート、ヘキサノルマルプロピルジチタネート、オクタノルマルプロピルトリチタネート、ヘキサブチルジチタネート、オクタブチルトリチタネート、ヘキサフェニルジチタネート、オクタフェニルトリチタネート、チタンテトラキスアセチルアセトナート錯体、チタンテトラキス(2,4−ヘキサンジオナト)錯体、チタンテトラキス(3,5−ヘプタンジオナト)錯体、チタンジメトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジエトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジノルマルプロポキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジブトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジヒドロキシビスグリコレート、チタンジヒドロキシビスラクテート、チタンジヒドロキシビス(2−ヒドロキシプロピオネート)、乳酸チタン、チタンオクタンジオレート、チタンジメトキシビストリエタノールアミネート、チタンジエトキシビストリエタノールアミネート、チタンジブトキシビストリエタノールアミネートなどが好ましく挙げられる。これらの中でリン化合物Aと反応させ本発明の触媒化合物を調製する際に生じるアルコールが重合反応器内に濃縮される恐れが小さく、かつ安価で経済的に有利なことからチタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド及びそれらの縮合体、すなわちヘキサイソプロピルジチタネート、オクタイソプロピルトリチタネート、ヘキサノルマルプロピルジチタネート、オクタノルマルプロピルトリチタネート、ヘキサブチルジチタネート、オクタブチルトリチタネートがより好ましい。
【0018】
さらに本発明のポリエステル製造用触媒においては、このチタン化合物に対し、下記一般式(1)で表されるリン化合物Aを反応させる必要がある。
【0019】
【化3】

[上記式中、R及びRは、それぞれ独立に8個未満の炭素原子を有するアルキル基又は水素原子を表す。]
【0020】
つまり上記一般式(1)で表わされるモノアルキルホスフェート、ジアルキルホスフェートが好ましい。具体的にはモノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノイソプロピルホスフェート、モノノルマルプロピルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノペンチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ジノルマルプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジペンチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、ジヘプチルホスフェートを挙げる事ができる。
【0021】
これらは、単一種で用いても混合物で用いてもよく、例えばモノアルキルホスフェートとジアルキルホスフェート、種類の異なるモノアルキルホスフェートの混合物の組合せをあげることができる。実際には経済性、安定性などからモノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェートとジブチルホスフェートとの混合物が特に好ましい。
【0022】
又、本発明のチタン触媒は、チタン化合物とリン化合物Aとをグリコールを媒体として酢酸存在下で加熱することにより製造するが、その場合反応生成物はグリコール中に懸濁物として得られる。
【0023】
ここでのグリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールを例示することができる。この触媒として用いる反応生成物の製造に用いるグリコールには、得られた触媒を用いて製造するポリエステルの原料として用いる脂肪族ジオールと同じグリコール化合物を使用することが、ポリエステルとして異種の脂肪族ジオール(グリコール)の共重合により融点の低下、結晶性の低下を防ぐことができる点で好ましい。
【0024】
チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物を製造する際の反応温度は、常温では反応が不十分であったり、反応に過大に時間を要する問題があるため、通常50℃〜200℃の温度で反応させることが好ましく、反応時間は、1分〜4時間で完結させるのが好ましい。
【0025】
例えば、グリコールとしてエチレングリコールを用いることが好ましいが、その場合50℃〜150℃が好ましく、ヘキサメチレングリコールを用いる場合100℃〜200℃が好ましい範囲であり、又、反応時間は、30分〜2時間がより好ましい範囲となる。反応温度が高すぎたり、時間が長すぎると、触媒の劣化が起こるため好ましくない。
【0026】
又、本触媒を反応させるに当り、チタン化合物とリン化合物Aとの配合割合が、チタン原子に対するリン原子のモル比率(P/Ti)として1.8以上2.5以下であることが好ましく、更に好ましくは、1.9以上2.3以下である。1.8未満では、未反応チタン化合物が存在し、ポリマーの大幅な色相悪化などの問題が起こり、逆に2.5を超えると、チタン化合物の有する重合活性を大幅に低下させるため、好ましくない。また重合活性が低下し、所定の固有粘度にするのに重縮合時間が長く必要になる事で結果として得られるポリエステルの色相が悪くなることもありえる。
【0027】
またそのチタン化合物とリン化合物Aの反応生成物を製造する際に酢酸を存在させることが必要である。この事項は、得られた触媒となる反応生成物の粒子をグリコール溶媒中で浮遊、分散させることを容易にし、溶液を調整する容器の底部に沈殿・凝結を防ぐことができる点で好ましい。このような状態を保つことにより、触媒としての重縮合反応の活性が低下しない、溶液状態での保存、ポリエステル製造工程への仕込みを容易に実施することができる。または理屈は定かではないが、酢酸を添加しないと得られるポリエステルの色相が悪化することが認められたので、酢酸は上記の事項以外にも結果としてポリエステルの色相を良好にすることにも寄与していると言える。その酢酸の添加量は得られる反応生成物のグリコール溶液の重量濃度として0.2〜4.0重量%となるように添加することが好ましい。
【0028】
本発明の触媒を使用したポリエステルの製造においては、最終的に得られるポリエステル中に、チタン金属原子換算で、1〜50ppmになる量で触媒として使用するのが好ましく、3〜30ppmになる量で使用するのがさらに好ましい。
【0029】
また、本発明のポリエステル製造用触媒として別個に用いるリン化合物Bとしては、下記一般式(2)で表されるリン化合物を用いる必要がある。
【0030】
【化4】

[上記式中、R、R及びRはそれぞれ独立に8個未満の炭素原子を有するアルキル基又はアリール基を表す。]
【0031】
つまり上記一般式(2)で表わされるトリアルキルリン酸、トリアリールリン酸、モノアルキルジアリールリン酸、ジアルキルモノアリールリン酸を挙げることができる。具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリノルマルプロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリヘキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリス(メチルフェニル)、リン酸ジメチルモノベンジル、リン酸ジメチルモノフェニル、リン酸ジブチルモノベンジル、リン酸ジブチルモノフェニルを挙げる事ができる。これらは、単一種で用いても混合物で用いてもよく、また、予めグリコールへ混合してもよく、更には予めグリコールと反応させ、アルコラートとして用いることもできる。これらの中でも、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル若しくはリン酸トリフェニル又はこれらを予めグリコールと反応させアルコラートとした化合物を用いることが好ましい。
【0032】
なお、上記チタン化合物とリン化合物Aとの反応生成物と、別個に用いるリン化合物Bは、重縮合反応時に存在していればよい。このため触媒の添加は、原料スラリー調製工程、エステル化工程、液相重縮合工程等のいずれの工程で行ってもよい。また、触媒全量を一括添加しても、複数回に分けて添加してもよい。更に、反応生成物と別個に用いるリン化合物も同時に添加しても、別々に添加しても良い。
【0033】
また、リン化合物Bが下記一般式(2)で表されるリン化合物であり、一般式(2)で表されるリン化合物Bをテレフタル酸1モルに対して2.0×10−5〜8.0×10−5モルとなるように使用することが必要である。テレフタル酸1モルに対してリン化合物Bを用いる量が2.0×10−5モル未満であると得られるポリエステルの色相が悪化することがあり、8.0×10−5モルを越えるとチタン化合物とリン化合物Aとの反応生成物の重縮合触媒としての重合活性が低下したり、得られるポリエステルの末端カルボキシ数が増えて、耐加水分解性が悪化し包材やシート用途、特に飲料充填ボトル用の成形容器や飲料充填カップ及び蓋のシートの材料として不適な場合がある。
【0034】
更に、チタン化合物中のチタン原子のモル量をTと、リン化合物B中のリン原子のモル量をSとするときS/Tが2.0以下となるように、チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物及びリン化合物Bを用いることが好ましい。より好ましくはS/Tが1.5以下である。S/Tが2.0を超える場合、チタン化合物とリン化合物との反応性生物の有する重合活性を大幅に低下させるため、好ましくない。そして、得られるポリエステル中の金属原子として、チタン、リン以外の金属原子は、金属元素濃度換算で10ppm以下が好ましく、更には5ppm以下が好ましい。また、重金属の含有量としては、5ppm以下が好ましく、更には3ppm以下が好ましい。
【0035】
次に、本発明である上述の触媒を使用したポリエステルの製造方法について説明する。上述の触媒を用いて、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、脂肪族ジオールとを重縮合させてポリエステルを製造することができる。好ましい態様は、テレフタル酸、脂肪族ジオールを原料として用い、チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物を重縮合触媒として用い、更にリン化合物Bを用い重縮合させてポリエステルを製造することである。
【0036】
(原料)
本発明においては主としてテレフタル酸と、脂肪族ジオールとしてエチレングリコールを用いる態様が好ましく挙げることができるが、少量の、例えば全ジカルボン酸成分又は全脂肪族ジオール成分に対して20モル%以下の共重合成分を含んでいてもよい。そのような共重合成分の例として、芳香族ジカルボン酸としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いることができる。脂肪族ジオールとしては、例えばトリメチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ジエチレングリコール、ビス(トリメチレン)グリコール、ビス(テトラメチレン)グリコールを用いることができる。
【0037】
テレフタル酸や上記の芳香族ジカルボン酸とともに、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸など又はそのエステル形成性誘導体を原料として使用することができ、エチレングリコールや上記の脂肪族ジオールとともに、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。さらに、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を原料として使用することができる。
【0038】
(エステル化工程)
まず、ポリエステルを製造するに際して、テレフタル酸と、脂肪族ジオールをエステル化させる。具体的には、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを含むスラリーを調製する。このようなスラリーには芳香族ジカルボン酸1モルに対して、通常1.1〜1.6モル、好ましくは1.2〜1.5モルの脂肪族ジオールが含まれる。このスラリーは、エステル化反応工程に連続的に供給される。
【0039】
エステル化反応は、反応物を自己循環させなから一段で実施する方法又は、2つ以上のエステル化反応器を直列に連結し実施する方法が好ましく、いずれも脂肪族ジオールが還流する条件下で、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら行う。
【0040】
反応物を自己循環させなから一段で連続的にエステル化を行う場合の反応条件は、通常、反応温度が240〜280℃、好ましくは250〜270℃であり、反応圧力は常圧〜0.3MPaの条件下で行われ、エステル化率が通常90%以上、好ましくは95%以上になるまで反応させることが望ましい。
【0041】
このエステル化工程により、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとのエステル化反応物(オリゴマー)が得られ、このオリゴマーの重合度が4〜10程度である。上記のようなエステル化工程で得られたオリゴマーは、次いで重縮合(液相重縮合)工程に供給される。
【0042】
(液相重縮合工程)
次に液相重縮合工程において、上記したチタン化合物とリン化合物Aの反応生成物である重縮合触媒の存在下に、エステル化工程で得られたオリゴマーを、減圧下でかつポリエステルの融点以上の温度(通常240〜290℃)に加熱することにより重縮合させる。この重縮合反応では、未反応の脂肪族ジオール及び重縮合で発生する脂肪族ジオールを反応系外に留去させながら行われることが望ましい。
【0043】
重縮合反応は、1槽で行ってもよく、複数の槽に分けて行ってもよい。例えば、重縮合反応が2段階で行われる場合には、第1槽目の重縮合反応は、反応温度が245〜290℃、好ましくは260〜280℃、圧力が100〜1kPa、好ましくは50〜2kPaの条件下で行われ、最終第2槽での重縮合反応は、反応温度が265〜300℃、好ましくは270〜290℃、反応圧力は通常1000〜10Paで、好ましくは500〜30Paの条件下で行われる。そして所望の重合度になったことを、例えばポリエステルの溶融粘度の増加により攪拌翼にかかる攪拌電力エネルギー(負荷)をモニターする事でとらえることができる。これにより所望の重合度(又は平均分子量、極限粘度)になったことを確認する。このようにして、本発明の触媒を用いてポリエステルを製造ずることができる。この重縮合工程で得られるポリエステルは、通常、溶融状態で押出しながら、冷却後、粒状(チップ状)のものを得る。得られたポリエステルの極限粘度IVは0.40〜0.80dL/g、好ましくは0.50〜0.70dL/gであることが望ましい。更に、必要に応じてこの後公知の手法に準じて結晶化処理及び/又は固相重合を行っても良い。
【0044】
よって本発明による上記のポリエステルの製造方法は、チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物がグリコール溶媒中での分散が良好で取り扱いが容易であり、更に特定のリン化合物を別個に添加することにより、十分な重合活性を有し、色相が良好なポリエステルを生産でき、非常に有用である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。各実施例、比較例において物性評価は次のように行った。
(ア)触媒中のチタン原子、リン原子濃度
乾燥した触媒サンプルを走査型電子顕微鏡(日立計測器サービス株式会社製S570型)にセットし、これに連結したエネルギー分散型X線マイクロアナライザー(XMA、株式会社堀場製作所製EMAX−7000)を用いて触媒のチタン原子及びリン原子濃度を求めた。
(イ)極限粘度(IV)
ポリエステル0.6gをo−クロロフェノール50cc中に加熱溶解した後、一旦冷却させ、その溶液をウベローデ式粘度計を用いて35℃の温度条件で測定した溶液粘度から算出した。
(ウ)色相(Col−b:黄色味)
粒状のポリマーサンプルを160℃×90分乾燥機中で熱処理し、結晶化させた後、カラーマシン社製CM−7500型カラーマシンで測定した
(エ)ジエチレングリコール(DEG)含有量
サンプルをヒドラジンにて分解し、ガスクロマトグラフィー(GC)にて測定した。
(オ)末端カルボキシル数(末端COOH数)
ポリマーサンプルを粉砕して精秤した後ベンジルアルコールに溶解し、水酸化カリウムによる中和滴定により求めた。それをポリエステル単位重量当たりの数値に換算した。
【0046】
[実施例1]
エチレングリコール525.6重量部とモノブチルホスフェート4.4重量部を入れて混合攪拌した中に、更に酢酸を最終の触媒溶液全体の重量に対して1重量%となるように添加した。次にチタンテトラブトキシドのエチレングリコール溶液68.4重量部(最終の触媒のエチレングリコール溶液中のチタン原子の濃度で1重量%に相当する。)をゆっくり添加し、徐々に昇温して120℃の温度で1時間攪拌保持したのち、得られた懸濁液を室温まで放冷した(この溶液中でモノブチルホスフェートに由来するリン原子と、チタンテトラブトキシドに由来するチタン原子のモル比率(P/Ti)は2.0である。)。この液100mLを100mLメスシリンダーに採取し24時間静置しても、液中に触媒粒子は浮遊、分散したままで、底部に沈殿・凝結はしなかった。以下、このチタン化合物/リン反応化合物を含む溶液を「TM2触媒液」と称する。底部に沈殿・凝結が観察されなかったので、TM2触媒液の重量を計量する事で容易にポリエステル製造工程に投入することができた。
【0047】
また、別個に添加するリン化合物として、エチレングリコール99重量部とリン酸トリメチル1重量部とを混合し、徐々に昇温して140℃の温度で6時間攪拌保持したのち、得られた溶液を室温まで放冷した(以下、この触媒液を「S触媒液」と略す)。
【0048】
一方、予め225重量部のテレフタル酸とエチレングリコールを反応して得られたポリエステルオリゴマーが滞留する反応器内に、攪拌下、窒素雰囲気で255℃、常圧下に維持された条件下に、179重量部の高純度テレフタル酸と95重量部のエチレングリコールとを混合して調製されたスラリーを一定速度で供給し、反応で発生する水とエチレングリコールを系外に留去ながら、エステル化反応を4時間し反応を完結させた。この時のエステル化率は、98%以上で、生成されたポリエステルオリゴマーの重合度は、約5〜7であった。
【0049】
このエステル化反応で得られたオリゴマー225重量部を重縮合反応槽に移し、重縮合触媒として、TM2触媒液を1.8重量部(テレフタル酸成分1モルに対してチタン原子が4.0×10−5モル相当の量)、更にS触媒液を0.453重量部(テレフタル酸成分1モルに対してリン原子(リン化合物)が3.0×10−5モル相当の量)投入した。引続き系内の反応温度を250から282℃、又、反応圧力を常圧から60Paにそれぞれ段階的に上昇及び減圧し、反応で発生する水,エチレングリコールを系外に除去しながら重縮合反応を行った。
【0050】
重縮合反応の進行度合いを、系内の攪拌翼への負荷をモニターしなから確認し、所望の重合度に達した時点で、反応を終了した。その後、系内の反応物を吐出部からストランド状に連続的に押出し、冷却、カッティングして、約3mm程度の粒状ペレットを得た。この時の重縮合反応時間は、149分であった。又、得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.657dL/g、色相(Col−b)が0.4、DEG含有量が1.18wt%、末端COOH数が17eq/10kgであった。
【0051】
[実施例2]
実施例1において、重縮合触媒として、TM2触媒液を1.8重量部(テレフタル酸成分1モルに対してチタン原子が4.0×10−5モル相当の量)、更にS触媒液を0.906重量部(テレフタル酸成分1モルに対してリン原子(リン化合物)が6.0×10−5モル相当の量)投入した以外は同様に操作を行った。この時の重縮合反応時間は、187分であった。又、得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.653dL/g、色相(Col−b)が−0.7、DEG含有量が1.15wt%、末端COOH数が19eq/10kgであった。
【0052】
[比較例1]
実施例1において、重縮合触媒として、TM2触媒液を1.8重量部(テレフタル酸成分1モルに対してチタン原子が4.0×10−5モル相当の量)のみ投入した以外は同様に操作を行った。この時の重縮合反応時間は140分であった。又、得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.658dL/g、色相(Col−b)が2.5、DEG含有量が1.18wt%、末端COOH数が18eq/10kgであった。
【0053】
[比較例2]
実施例1において、重縮合触媒として、TM2触媒液を1.8重量部(テレフタル酸成分1モルに対してチタン原子が4.0×10−5モル相当の量)、更にS触媒液を1.51重量部(テレフタル酸成分1モルに対してリン原子(リン化合物)が10.0×10−5モル相当の量)投入した以外は同様に操作を行った。この時、規定のサイクル内で溶融粘度が目標値に到達せず、重縮合反応が未完了となった。重縮合反応時間が210分の時に得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.597dL/g、色相(Col−b)が−2.7、DEG含有量が1.19wt%、末端COOH数が23eq/10kgであった。
【0054】
[比較例3]
エチレングリコール525.6重量部とモノブチルホスフェート4.4重量部を入れて混合攪拌した中に、更に酢酸を最終の触媒溶液全体の重量に対して1重量%となるように添加した。次にチタンテトラブトキシドのエチレングリコール溶液68.4重量部(最終の触媒のエチレングリコール溶液中のチタン原子の濃度で1重量%に相当する。)をゆっくり添加し、徐々に昇温して120℃の温度で1時間攪拌保持したのち、得られた懸濁液を室温まで放冷した(この溶液中でモノブチルホスフェートに由来するリン原子と、チタンテトラブトキシドに由来するチタン原子のモル比率(P/Ti)は3.0である。以下、この溶液を「TM3触媒液」と略す)。
【0055】
次に、実施例1において、重縮合触媒として、TM3触媒液を1.9重量部(テレフタル酸成分1モルに対してチタン原子が4.0×10−5モル相当の量)のみ投入した以外は同様に操作を行った。この時、規定のサイクル内で溶融粘度が目標値に到達せず、重縮合反応が未完了となった。重縮合反応時間が210分の時に得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.634dL/g、色相(Col−b)が2.1、DEG含有量が1.18wt%、末端COOH数が28eq/10kgであった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によるポリエステル製造用触媒を用いるポリエステルの製造方法は、グリコール中での安定性が高く、従来のポリエステル製造用チタン化合物触媒に比べ、グリコール分散液としての取り扱いが容易で、十分な重合活性を有し、色相が良好なポリエステルを製造することができる。更に本発明の触媒で製造されたポリエステルは、チタン化合物、リン化合物以外の溶解助剤や重金属類を含有することがなく、色相が良好で末端カルボキシル数が少ないため、一般及び工業用途以外に、包材やシート用途、特に飲料充填ボトル用の成形容器や飲料充填カップ及び蓋のシートの材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸、脂肪族ジオール、チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物及びリン化合物Bを用いるポリエステルの製造方法であって、
チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物が、グリコール及び酢酸の存在下、下記一般式(1)で表されるリン化合物Aとチタン化合物とをチタン原子に対するリン原子のモル比率(P/Ti)が1.8〜2.5となるように反応させた反応生成物であり、リン化合物Bが下記一般式(2)で表されるリン化合物であり、一般式(2)で表されるリン化合物Bをテレフタル酸1モルに対して2.0×10−5〜8.0×10−5モルとなるように使用することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【化1】

[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に8個未満の炭素原子を有するアルキル基又は水素原子を表す。]
【化2】

[上記式中、R、R及びRはそれぞれ独立に8個未満の炭素原子を有するアルキル基又はアリール基を表す。]
【請求項2】
チタン化合物中のチタン原子のモル量をTと、リン化合物B中のリン原子のモル量をSとするときS/Tが2.0以下となるように、チタン化合物とリン化合物Aの反応生成物及びリン化合物Bを用いることを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
グリコールがエチレングリコールであることを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
チタン化合物がチタンテトラアルコキシドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
脂肪族ジオールとグリコールとして同じ化合物を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2009−275201(P2009−275201A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130654(P2008−130654)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】