説明

ポリエステルの製造方法

【課題】 本発明の課題は、熱分解性カルボン酸を原料として使用したポリエステルの製造方法にあり、煩雑な回収工程のない、あるいは熱分解性カルボン酸エステルを使用することのない製造方法にある。
【解決手段】 多価アルコール(A)及び熱分解性カルボン酸(B)を、金属酸化物担体(c1)と担持する金属元素を含む酸化物(c2)とを含む固体酸触媒(C)を用いて反応させることを特徴とする熱分解性原料のポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解性原料、特にシュウ酸を原料として使用するポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在化学工業におけるポリエステル樹脂の合成は、チタン系もしくは錫系の均一系触媒を用いて行っている。しかし、用いられる原料としては、エステル化反応温度が150〜250℃であるため熱分解性カルボン酸であるシュウ酸等を用いたポリエステル樹脂の合成において、反応途中でシュウ酸が熱分解を起こすため、ポリエステルを得ることは困難である。そこで、シュウ酸ジメチル等のカルボン酸エステルを用いたポリエステルの製造方法が知られている。(特許文献1参照)
【0003】
また、シュウ酸−エチレングリコールのオリゴマーを低温で製造し、オリゴマーを回収して洗浄し、高温でのポリエステル化する2段反応することも行われている(特許文献2参照)。
【0004】
これらの方法は、収率が悪かったり、回収工程など工程数が多く製造上煩雑であったりして、工業的生産には不利であった。
【特許文献1】特開平06−145313号公報
【特許文献2】特開平09−059359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、熱分解性カルボン酸を原料として使用したポリエステルの製造方法にあり、煩雑な回収工程のない、あるいは熱分解性カルボン酸エステルを使用することのない製造方法にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決する触媒について鋭意研究を行った結果、熱分解性カルボン酸と多価アルコールとから脱水縮合反応によりポリエステル樹脂を製造するに当たり、ポリエステル製造用触媒として特定の固体酸触媒を用いると、かかる課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、多価アルコール(c1)及び熱分解性カルボン酸(c2)を、金属酸化物担体(c1)と担持する金属元素を含む酸化物(c2)とを含む固体酸触媒(C)を用いて反応させることを特徴とするポリエステルの製造方法、好ましくは前記担体(c1)がジルコニア、前記酸化物(c2)が三酸化モリブデンであるポリエステルの製造方法、好ましくは固体酸触媒(C)のハメットの酸度関数H0が、H0=−3〜−9であることを特徴とするポリエステルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属酸化物担体(c1)と担持する金属元素を含む酸化物(c2)とを含む固体酸触媒(C)を用いることによって、
(1)熱分解性カルボン酸であるシュウ酸、マロン酸を原料として耐溶剤性に優れたポリエステル樹脂を効率よく生産できる。
(2)ポリエステル樹脂の製造が容易にでき、触媒の回収・再利用可能なので、使用できる触媒量に制限がなく、従来の均一系触媒に比べ、触媒を多量に用いることができ、生産性が向上し、工業的に有利である。
(3)現在使用されている触媒に比べ、反応温度がより低温でポリエステルを合成することが可能である。
等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する固体酸触媒(C)は、金属酸化物担体(c1)と担持金属酸化物(c2)とからなるものである。
この金属酸化物担体(c1)としては、触媒の設計・装飾の容易性、触媒能を充分に発揮するか否か、酸性溶液への溶解性などの点から、ジルコニア(二酸化ジルコニウム、ZrO2)を用いる。また、このジルコニアは、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、チタニア(TiO2)又はゼオライト等を併用したものであっても良い。これらを併用する場合、ジルコニアの含有量が、モル比で10%以上含んでいることが好ましく、さらに好ましくは30%以上含んだものである。
【0010】
前記担持金属酸化物(c2)の金属元素としては、触媒の設計上からモリブデンである。この担持金属酸化物(c2)としては、三酸化モリブデン(MoO3)である。さらに、担持金属酸化物(c2)の金属元素としては、モリブデンと共にタングステン、タンタル等を併用したものであっても良い。これらの担持金属酸化物(c2)としては、三酸化タングステン(WO3)、五酸化タンタル(Ta25)等が挙げられる。
【0011】
固体酸触媒(C)のMo/Zr(Moはモリブデン、Zrはジルコニウム)比は、重量比で0.05〜0.40が好ましい。この固体酸触媒(C)は、例えば水酸化ジルコニウムとモリブデン酸アンモニウムとの反応生成物(モリブデン酸ジルコニア)により調製できる。その調製方法としては、金属酸化物担体(c1)に金属酸化物(c2)を平衡吸着法、Incipient wetness法、蒸発乾固法等により担持し、さらに反応生成物を焼成することにより得られる。この時の焼成温度は、好ましくは673K〜1473K、より好ましくは900K〜1100Kとするのが良い。
【0012】
前記の固体酸触媒(C)の酸強度は、ハメットの酸度関数H0で表すと、H0が−3〜−9であることが好ましい。ハメットの酸度関数H0は、水溶液の酸・塩基の強さがpHで表されるように、固体表面の酸・塩基点の強度を表す指標になる。この関数は、水溶液中ではpH=H0であるため、その強度が直感的に理解され、また、実験操作が簡便であるため広く受け入れられている。H0の値が小さい程強い酸性を示し、H0の値が大きい程強い塩基性を示す。本発明における反応系では、本発明の固体酸触媒(C)のH0が−3より大き過ぎると触媒活性を示さず反応が進行しにくくなる。一方、本発明の固体酸触媒(C)のH0が−9より小さ過ぎるとグリコールの分子内脱水による炭素−炭素二重結合の生成、さらにはこの二重結合とグリコールによるエーテル化反応などの副反応を起こすおそれがあり好ましくないからである。
【0013】
前記酸度関数とは、溶液の酸塩基の強さを定量的に表わす数値のひとつで、溶液が水素イオンを与える能力、または水素イオンを受け取る能力を示す関数であり、酸についてはルイス・ハメットによるハメットの酸度関数が一般的に用いられ、溶液が中性塩基にプロトンを移動させる傾向を表現している。
ハメットの酸度関数は、電気的に中性の塩基Bが水溶液中で下記式のように結合する。
B + H+ ⇔ BH+
そして、BH+の酸解離定数をpKBH+とし、Bをある溶液に入れたときH+と結合する割合をCBH+、結合しない割合をCBとすると、ハメットの酸度関数(H0)は下記式で表される。
0=−pKBH+ +log(CBH+/CB)
本発明で使用する固体酸触媒(C)のハメットの酸度関数(H0)は、好ましくは−3〜−9のものである。ハメットの酸度関数(H0)は、水溶液の酸・塩基の強さがpHで表されるように、固体表面の酸・塩基点の強度を表す指標になる。この関数は、水溶液中ではpH=H0であるため、その強度が直感的に理解され、また、実験操作が簡便であるため広く受け入れられている。H0の値が小さい程強い酸性を示し、H0の値が大きい程強い塩基性を示している。
本発明におけるエステル化反応系では、固体酸触媒(C)の酸度関数(H0)が−3より大き過ぎると触媒活性を示さず、エステル化反応が進行しにくくなり、ポリエステル製造触媒として使用できない。一方、本発明の固体酸触媒(C)の酸度関数(H0)が−9より小さ過ぎるとグリコールの分子内脱水による炭素−炭素二重結合の生成、さらにはこの二重結合とグリコールによるエーテル化反応などの副反応を起こすおそれがあり、ポリエステル製造固体酸触媒として好ましくないからである。
【0014】
<NH3−TPD測定によるハメットの酸度関数(H0)の測定方法>
測定方法:
試料として固体酸触媒 0.1gを日本ベル製TPD-AT-1型昇温脱離装置の石英セル(内径10 mm)にセットし、ヘリウムガス (30 cm3 min-1, 1 atm)流通下で423 K (150℃)まで5 K min-1で昇温し、423 Kで3時間保った。その後ヘリウムガスを流通させたまま373 K (100℃)まで7.5 K min-1で降温した後に真空脱気し、100 Torr (1 Torr = 1/760 atm = 133 Pa)のNH3を導入して30分間吸着させ、その後12 分間脱気した後に水蒸気処理を行った。水蒸気処理としては、373 Kで約25 Torr (約3 kPa)の蒸気圧の水蒸気を導入、そのまま30分間保ち、30分間脱気、再び30分間水蒸気導入、再び30分間脱気の順に繰り返した。その後ヘリウムガス 0.041 mmol s-1 (298 K, 25℃, 1 atmで60 cm3 min-1に相当する)を減圧(100 Torr)を保ちながら流通させ、373 Kで30分間保った後に試料床を10 K min-1で983 K (710℃)まで昇温し、出口気体を質量分析計(ANELVA M-QA 100F)で分析した。
測定に際しては質量数(m/e) 2, 4, 14, 15, 16, 17, 18, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 44のマススペクトルを全て記録した。終了後に1 mol %-NH3/He標準ガスをさらにヘリウムで希釈してアンモニアガス濃度0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4 mol %、合計流量が0.041 mmol s-1となるようにして検出器に流通させ、スペクトルを記録し、アンモニアの検量線を作成して検出器強度を補正した。昇温脱離時に測定した主な各質量スペクトルのアンモニア離脱TPDスペクトルから、実測に基づく1点法で、ピーク面積から酸量、ピーク位置などから平均酸強度を決定する。酸量と酸強度(ΔH)を算出し、酸度関数(H0)を計算して求める。
【0015】
固体酸触媒(C)は、反応原料物に対して触媒作用を発揮して反応が進行する。すなわち、反応原料物である多価アルコール(A)と多価カルボン酸(B)とは、触媒表面上の活性サイトに吸着、反応、脱離などのプロセスを経て反応が進行することになる。担体(c1)に金属酸化物(c2)を担持し固体酸触媒(C)の活性サイトを形成することが好ましく、特に担体表面で触媒作用を発揮させることが好ましいことから、主に担体(c1)表面に酸化物(c2)を担持させることが好ましい。
【0016】
金属酸化物担体(c1)に金属酸化物(c2)を担持する方法としては、平衡吸着法、Incipient wetness法、蒸発乾固法等が挙げられる。
平衡吸着法は、金属酸化物担体(c1)を担持させる金属の溶液に浸して吸着させた後、過剰分の溶液を濾別する方法である。担持量は溶液濃度と細孔容積で決まる。担体を加えるにつれて溶液の組成が変化するなどの問題がある。
Incipient Wetness法は、金属酸化物担体(c1)を排気後、細孔容積分の担持させる金属の溶液を少しずつ加えて金属酸化物担体(c1)の表面が均一に濡れた状態にする方法である。金属担持量は溶液濃度で調節する。
蒸発乾固法は、金属酸化物担体(c1)を溶液に浸した後、溶媒を蒸発させて溶質を担持する方法である。担持量を多くできるが、担体と弱く結合した金属成分は乾燥時に濃縮されて還元処理後には大きな金属粒子になりやすい。
これらの中で、触媒の特性を考慮しつつ担持方法を選ぶことが好ましく、本発明のモリブデン酸ジルコニア固体酸触媒では、Incipient Wetness法もしくは蒸発乾固法が好ましく用いられる。
【0017】
本発明の固体酸触媒を調整する方法としては、例えば、モリブデン酸ジルコニアでは、モリブデン酸化合物及びジルコニウム化合物を上記の担持方法により共存させ、空気中で好ましくは673K〜1473Kで焼成処理を行うことにより得られる。これらのモリブデン酸化合物及びジルコニウム化合物の選定には、担体表面の等電点を考慮し、担持させる金属の化合物を選定する必要がある。例えば、そのモリブデン酸化合物としては、モリブデン酸アンモニウム((NH46Mo724・4H2O)が好ましく挙げられ、ジルコニウム化合物としては水酸化ジルコニウムが好ましく挙げられる。焼成温度は673K〜1473Kの範囲で行うことが好ましい。更に好ましくは773K〜1273Kの範囲である。これは、焼成温度が673Kより低いと、酸化ジルコニウムとモリブデン酸の結合が充分に形成されず、得られた触媒の活性が低下する恐れがあるためである。また、1473Kより高い場合、表面積が激減するために反応基質との接触面積が充分に得られないために、活性が低下する恐れがあるためである。さらに、触媒活性評価により、更に好ましい焼成温度は900K〜1100Kである。
【0018】
固体酸触媒(C)は、固体状の触媒であり、エステル反応の原料である多価アルコール(A)、多価カルボン酸(B)の液相に溶解しないものである。また、固体酸触媒(C)は、必要に応じて任意の元素をさらに1種類あるいはそれ以上の種類を添加しても良い。その任意の元素としてはケイ素、アルミニウム、リン、タングステン、セシウム、ニオブ、チタン、スズ、銀、銅、亜鉛、クロム、テルル、アンチモン、ビスマス、セレン、鉄、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、セリウム、マンガン、コバルト、ヨウ素、ニッケル、ランタン、プラセオジウム、ネオジウム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムなどが挙げられる。
【0019】
かかる担持金属酸化物(c2)の形態としては、特に限定されるものではないが、例えば粒子状、クラスター等の形態が好ましく挙げられる。また、その担持金属酸化物(c2)の微粒子のサイズにも限定されないが、サブミクロンからミクロン単位以下となる粒子状態などを形成する状態が好ましく、各粒子が会合・凝集などをしていても良い。
【0020】
固体酸触媒(C)の形状としては、粉末状、球形粒状、不定形顆粒状、円柱形ペレット状、押し出し形状、リング形状等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、数オングストローム程度もしくはそれ以上の大きさの細孔を有するものであっても良く、反応場がその細孔内で空間を制御した状態であっても良い。これらの固体酸触媒(C)の大きさも特に限定されないが、ポリエステルを合成した後に触媒を単離することを考慮すると、担体は比較的粒子径が大きいものが好ましい。反応に際して固定床流通式反応器を用いる際は、担体が球状である場合、その粒子直径が極端に小さいと反応物を流通させる時に大きな圧力損失が生じ、有効に反応物が流通できなくなる恐れがある。また、粒子径が極端に大きいと反応原料物が固体酸触媒(C)と効率良く接触しなくなり、有効に触媒反応が進まなくなる恐れがある。そこで、固体酸触媒(C)のサイズは、触媒を充填するカラムの大きさと、最適な空隙率により決定することが好ましく、本発明の触媒の光散乱法(マイクロトラックX100装置)もしくはふるい分け法での平均粒径は、1μm〜1cmが好ましい。さらに好ましくは0.5mm〜8mmの顆粒状の金属酸化物担体(c1)に、egg shell型(外層担持)に金属酸化物(c2)を担持したものが好ましい。
【0021】
次に、本発明の多価アルコール(A)と熱分解性カルボン酸(B)とを用いた、前記固体酸触媒(C)の存在下にポリエステルを製造する方法を説明する。その際のポリエステルとは、(不)飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオールである。その際の装置は、固体酸触媒(C)を充填した流通式反応器又は回分式反応器に供給して脱水縮合反応させることが好ましい。さらに本発明は、固体酸触媒(C)の存在下に多価アルコール(A)と熱分解性カルボン酸(B)とを脱水縮合反応させ、所定の分子量に達した時点で固体酸触媒(C)を除去することができるものである。
触媒除去の方法としては、特別な操作は特に無い。例えば回分式反応器を用いた場合は、簡単な濾過操作で行え、固定床流通式反応器を用いた場合はそういった濾過操作の必要も無く、固体酸触媒を充填したカラム内を流通して得られたポリエステル樹脂中に固体酸触媒(C)が残らない製造方法である。
【0022】
回分式反応器では、反応原料物である多価アルコール(A)と熱分解性カルボン酸(B)とを反応器に仕込んで、撹拌しながら反応を行ない、一定時間後にポリエステル樹脂生成物を取り出す方法で行う。非定常操作であるから、反応器内の組成は時間とともに変化することになる。遅い反応で高ポリエステル転化率を要求されるときは、回分式反応器が有利であり、小規模生産に有利に使用できる。
一方、流通式反応器は、定常的な流通操作によって、物質の損失を少なくし、反応状態を安定にしてポリエステル樹脂の品質を一定に保ち、生産費を低減させることが可能であり、ポリエステル樹脂を連続的に製造する方法としてはより有利である。
これらの反応器のうち、反応終了後に触媒の回収を特殊な操作をする必要なく行える固定床流通式反応器を用いるのが特に好ましい。
【0023】
本発明で用いられる多価アルコール(A)としては、通常ポリエステルの合成に用いられる多価アルコールが挙げられる。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9ノナンジオール、2,4−ジエチルー1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。これらの多価アルコールは、単独又は2種類以上組み合わせて使用することができる。また、末端水酸基を有するオリゴマーも使用できる。
【0024】
本発明で用いられる熱分解性カルボン酸(B)とは、シュウ酸、マロン酸である。また、併用できる非熱分解性カルボン酸(D)としては、通常ポリエステルの合成に使用される飽和二塩基酸、α,β−不飽和二塩基酸等の多塩基酸を挙げることができる。飽和二塩基酸とは、例えば、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、シュベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12ドデカンジカルボン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ダイマー酸、ハロゲン化無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、またこれらのジアルキルエステル等の二塩基酸、もしくはこれらに対応する酸無水物等、ピロメリット酸等の多塩基酸が挙げられる。これらの多価カルボン酸を単独又は2種類以上組み合わせて用いることができる。α,β−不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸等を挙げることができる。不飽和ポリエステル中における量は、好ましくは30〜50重量%である。飽和二塩基酸としては、例えば、等を挙げることができる。
【0025】
本発明で使用する多価アルコール(A)と熱分解性カルボン酸(B)必要により併用する非熱分解性カルボン酸(D)との割合は、それらの官能基数を考慮し、当量比で1:3〜3:1であることが好ましく、より好ましくは1:2〜2:1である。目的とする樹脂により、適宜当量比が選択される。
【0026】
本発明の固体酸触媒(C)を用いたポリエステルの製造方法は、原料である熱分解性カルボン酸(B)、多価アルコール(A)を脱水縮合させるに当り、例えば(1)常圧下に多価アルコールと多価カルボン酸とを縮合重合させる方法、(2)真空下で両者を縮合重合せしめる方法、(3)トルエンの如き不活性溶剤の存在下で縮合重合を行ったのち、縮合水と溶剤とを共沸させて反応系外に除去せしめる方法などがある。縮合重合反応は、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが、得られるポリエステルの着色を防止する点で好ましい。
【0027】
従来の均一系触媒として用いられていたチタン系及び錫系の触媒は、反応温度が140℃以下ではほとんど反応が進行しないため、それ以上の温度で反応させる必要があった。
しかしながら、前記固体酸触媒(C)は、例えばMoO3/ZrO2では、115℃でも反応を進行させることが可能であり(実施例参照)、前記固体酸触媒(C)を用いることで従来に比べ低温でエステル化反応をすることが可能となるため、省エネルギー化の観点から工業的に有利である。
【実施例】
【0028】
次に、実施例及び比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。実施例及び比較例の部は、特記しないかぎり重量部を表す。
【0029】
調整例1<固体酸触媒(MoO3/ZrO2)(C1)の調製>
MoO3/ZrO2は、100℃で一晩乾燥させた水酸化ジルコニウム(Zr(OH)4、日本軽金属工業製)50gを、純水にモリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O(キシダ化学製)]を必要量溶かした水溶液(0.04mol・dm-3)を用い、水酸化ジルコニウムの細孔容積分の前記モリブデン酸アンモニウム水溶液を少しずつ加えてジルコニウム担体表面が均一に濡れた状態にして得た(Incipient Wetness法)。三酸化モリブデン(MoO3)の担持量が、重量比でMo/Zr=0.1となるように溶液濃度で調節した。反応前処理として酸素雰囲気下で焼成温度1073Kで3時間焼成を行った。自然放置冷却し、常温にして、固体酸触媒(C1)を得た。
【0030】
調整例2<固体酸触媒(MoO3/ZrO2)(C2)の調製>
焼成温度を673Kに変えた以外は上記調整例1と同様に調製し、固体酸触媒(C2)を得た。
【0031】
<NH3−TPD測定によるH0関数の測定方法>
測定方法:
前記固体酸触媒(C1)、同(C2)約0.1 gを日本ベル製TPD-AT-1型昇温脱離装置の石英セル(内径10 mm)にセットし、ヘリウムガス (30 cm3 min1, 1 atm)流通下で423 K (150℃)まで5 K min1で昇温し、423 Kで3時間保った。その後ヘリウムガスを流通させたまま373 K (100℃)まで7.5 K min1で降温した後に真空脱気し、100 Torr (1 Torr = 1/760 atm = 133 Pa)のNH3を導入して30分間吸着させ、その後12 分間脱気した後に水蒸気処理を行った。水蒸気処理としては、373 Kで約25 Torr (約3 kPa)の蒸気圧の水蒸気を導入、そのまま30分間保ち、30分間脱気、再び30分間水蒸気導入、再び30分間脱気の順に繰り返した。その後ヘリウムガス 0.041 mmol s1 (298 K, 25℃, 1 atmで60 cm3 min1に相当する)を減圧(100 Torr)を保ちながら流通させ、373 Kで30分間保った後に試料床を10 K min1で983 K (710℃)まで昇温し、出口気体を質量分析計(ANELVA M-QA 100F)で分析した。
【0032】
測定に際しては質量数(m/e) 2, 4, 14, 15, 16, 17, 18, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 44のマススペクトルを全て記録した。終了後に1 mol %-NH3/He標準ガスをさらにヘリウムで希釈してアンモニアガス濃度0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4 mol %、合計流量が0.041 mmol s1となるようにして検出器に流通させ、スペクトルを記録し、アンモニアの検量線を作成して検出器強度を補正した。
【0033】
図1,図2に、昇温脱離時に測定した主な各質量スペクトルを示した。他の質量数(m/e)の信号はほぼベースライン上にあり、ピークを示さなかった。
どちらの試料でも、500 K付近にアンモニアの脱離を示すm/e = 16のピークが見られ、さらに固体酸触媒C1では900 K以上、固体酸触媒C2では780 K付近に小さなm/e = 16のショルダーが見られる。しかし、これら高温のショルダーの出現と同時に、m/e = 44の大きなピーク(CO2のフラグメント)およびm/e = 28 (CO2のフラグメント+N2)も見られていることから、高温のショルダーはCO2のフラグメントによるものであって、アンモニアによるものではないと考えられる。そこで、後述のアンモニアの定量ではこの部分を除いた。
図3には、m/e = 16から算出したアンモニアTPDスペクトルを示した。これらのスペクトルから酸量と酸強度(ΔH)を算出し、表−1に示した。
実測に基づく1点法では、ピーク面積から酸量、ピーク位置などから平均酸強度を決定できる。この方法によると質量当たりの固体酸触媒(C1)の酸量は約0.03 mol kg-1、固体酸触媒Bの酸量は約0.2 mol kg-1と差があるように思われるが、表面密度(酸量/表面積)は固体酸触媒(C1)、(C2)とも0.4〜0.7 nm-2程度であった。平均酸強度は固体酸触媒(C1)がΔH = 133 kJ mol-1、H0に換算して−7.4に対して、固体酸触媒(C2)がΔH = 116 kJ mol-1、H0に換算して−4.4とやや弱かった。
【0034】
【表1】

【0035】
(実施例1)〈シュウ酸系ポリエステルの合成〉
5L4ッ口フラスコにエチレングリコール1023部とシュウ酸3977部および、固体酸触媒(C1)50部を仕込み、冷却管、凝集管、窒素導入管をセットし、窒素ブローしながら115℃まで昇温し、16時間脱水縮合させ常温固体のポリエステルポリオールを得た。なお触媒は、1ミクロンのフィルターで吸引ろ過し取り除いた。得られたポリエステルは融点141℃の常温白色の固体であった。また、分子量はヘキサフルオロイソプロパーノールを溶媒に用いたGPCを用いて測定し、数平均分子量が1058であった。
【0036】
(実施例2)〈シュウ酸系ポリエステルの合成〉
5L4ッ口フラスコに1,4ブタンジオール1369部とアジピン酸3631部および、イソフタル酸1498部および、固体酸触媒(C2)50部を仕込み、冷却管、凝集管、窒素導入管をセットし、窒素ブローしながら115℃まで昇温し、12時間脱水縮合させポリエステルポリオールを得た。なお触媒は、1ミクロンのフィルターで吸引ろ過し取り除いた。得られたポリエステルは、融点149℃の常温白色固体であった。分子量は、ヘキサフルオロイソプロパーノールを溶媒に用いたGPCを用いて測定し、数平均分子量が989であった。
【0037】
(比較例1)〈EGアジピン酸の合成〉
5L4ッ口フラスコにエチレングリコール715部とアジピン酸4285部および、固体酸触媒(C1)50部を仕込み、冷却管、凝集管、窒素導入管をセットする。次に、窒素ブローしながら115℃まで昇温し、14時間脱水縮合させポリエステルポリオールを得た。なお触媒は、1ミクロンのフィルターで吸引ろ過し取り除いた。得られたポリエステルは、OHV111.8、酸価0.48、融点45℃の常温白色固体であった。
【0038】
(比較例2)〈BGアジピン酸の合成〉
5L4ッ口フラスコに1、4ブタンジオール982部とアジピン酸1318部、固体酸触媒(C1)50部を添加した。次に、冷却管、凝集管、窒素導入管をセットし、窒素ブローしながら115℃まで昇温し、12時間脱水縮合させポリエステルポリオールを得た。なお触媒は、1ミクロンのフィルターで吸引ろ過し取り除いた。得られたポリエステルは、OHV112.2、酸価0.39、融点53℃の常温白色固体であった。
【0039】
<ポリエステル樹脂の溶剤溶解性>
合成したポリエステルの各種溶剤に対する溶解性を確認した。樹脂1gをマイヤーに測り取り、溶剤30mlと攪拌子を加え、30分間攪拌し溶解状態を観察した。メチレンクロライド及びN−メチルピロリドンについては、加熱後の溶解性を確認した。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

<評価>
○:完全に溶解する
△:一部溶解するが、不溶解物が残る
×:溶解しない
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】質量分析計による固体酸触媒C1の昇温脱離時に測定した主な質量スペクトル
【図2】質量分析計による固体酸触媒C2の昇温脱離時に測定した主な質量スペクトル
【図3】TPD−AT−1型昇温脱離装置による固体酸触媒C1及びC2のアンモニアTPDスペクトル
【符号の説明】
【0043】
A 固体酸触媒C1
B 固体酸触媒C2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール(A)及び熱分解性カルボン酸(B)を、金属酸化物担体(c1)と担持する金属元素を含む酸化物(c2)とを含む固体酸触媒(C)を用いて反応させることを特徴とする熱分解性原料のポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記熱分解性カルボン酸(B)が、シュウ酸であることを特徴とするポリエステルの製造方法
【請求項3】
前記担体(c1)がジルコニアで、前記酸化物(c2)が三酸化モリブデンである固体酸触媒を用いたことを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記固体酸触媒(C)のハメットの酸度関数H0が、H0=−3〜−9であることを特徴とする請求項1、2いずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
さらに、非熱分解性カルボン酸(D)を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記固体酸触媒(C)の組成が、モリブデン酸ジルコニアである請求項1〜4いずれかに記載のポリエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77240(P2010−77240A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245733(P2008−245733)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】