説明

ポリエステルフィルム及びその製造方法、太陽電池用バックシート並びに太陽電池モジュール

【課題】400nm付近の長波紫外線(UV−A)領域を含む広い範囲で紫外線遮蔽効果を有し、長期に亘り優れた耐光性及び耐加水分解性を有するとともに、ブリードアウトが抑制された良好な面状を有するポリエステルフィルム及びその製造方法、並びに、長期耐久性を備えた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂と、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤とを含み、前記紫外線吸収剤の含量分布が0.1〜7.0%であるポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム及びその製造方法、太陽電池用バックシート並びに太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池モジュールの太陽光入射側とは反対側(裏面側)に配されるバックシート(太陽電池用バックシート)には、ポリエステルなどの樹脂材料が使用されるに至っている。ポリエステルには、通常はその表面にカルボキシル基や水酸基が多く存在しており、水分が存在する環境では加水分解を起こしやすく、経時で劣化する傾向がある。そのため、屋外等の常に風雨に曝されるような環境におかれる太陽電池モジュール等に用いられるポリエステルは、その加水分解性が抑えられていることが求められる。
【0003】
また、太陽電池市場は近年急激に拡大し、広大な土地に太陽電池パネルを多数並べて設置して用いる、産業用途の需要が世界的に広まっており、こうした設置方法においては、並べて設置された他の太陽電池パネルから反射された光が太陽電池パネルの裏面に入射し、また、太陽電池の裏面も人目に晒されることが多いことから、太陽電池裏面保護膜にも、紫外線劣化を抑制する要求、特に紫外線による変色を抑制する要求が高まっている。屋外での使用により太陽電池の裏面側にも紫外線が当たるため、ポリエステル製のバックシートを用いる場合には、紫外線による劣化を抑制することも重要である。
【0004】
耐加水分解性、耐光性などの耐候性を向上させるため、紫外線吸収剤(以下、UV吸収剤、あるいは、単に、UV剤と略記する場合がある)、末端カルボキシル基量、面配向度などの観点から種々の太陽電池用バックシートが提案されている。
例えば、特許文献1には、二軸配向ポリエステルフィルムであって、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.1〜5重量%含有するポリエステル組成物からなる太陽電池裏面保護膜用フィルムが開示されている。
特許文献2には、滑剤の含有量が500ppm以下であり、紫外線吸収剤の含有量が4重量%以下である、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムが開示されている。
特許文献3には、触媒由来のチタン化合物およびリン化合物を特定の含有量で含むポリエステルフィルムであって、フィルムを構成するポリエステルの末端カルボキシル基濃度が40当量/トン以下である太陽電池用バックシートが開示されている。
特許文献4には、二軸延伸されたポリエステルフィルムであって、該フィルムの極限粘度IVが0.6〜1.8の範囲であり、面配向度fnの範囲が0.165〜0.180である太陽電池用ポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−188105号公報
【特許文献2】特開2006−310461号公報
【特許文献3】特開2007−204538号公報
【特許文献4】特開2007−70430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
耐候性を向上させる太陽電池用バックシートは種々提案されているものの、耐光性と機械的強度については十分でなく、特に波長400nm付近の紫外線を長期間照射された場合に機械的強度が劣化し易いため、長期間にわたって耐加水分解性とともに耐光性に優れることが望まれる。さらに、ポリエステルフィルムを太陽電池用バックシートの支持体として用いる場合、封止材や他の機能を有する層又はフィルムとの長期間にわたる密着性も要求される。
【0007】
本発明は、400nm付近の長波紫外線(UV−A)領域を含む広い範囲で紫外線遮蔽効果を有し、長期に亘り優れた耐光性及び耐加水分解性を有するとともに、ブリードアウトが抑制された良好な面状を有するポリエステルフィルム及びその製造方法、並びに、長期耐久性を備えた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂と、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤とを含み、前記紫外線吸収剤の含量分布が0.1〜7.0%であるポリエステルフィルム。
<2> 前記ポリエステル樹脂の極限粘度が0.60〜0.90であり、前記紫外線吸収剤が下記一般式(1)で表される化合物である<1>に記載のポリエステルフィルム。
【化1】


〔式中、R1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eは、各々独立に、水素原子、又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、R1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eの少なくとも1つはハメット則のσp値が正である置換基であり、該置換基は互いに結合して環を形成してもよい。R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n、及びR1pは、各々独立に、水素原子、又は1価の置換基を表し、該置換基は互いに結合して環を形成してもよい。〕
<3> 前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、または環状イミノエステル系の紫外線吸収剤を総量で0.1〜10質量%を含み、波長390nmでの透過率が5%以下である<1>又は<2>に記載のポリエステルフィルム。
<4> 前記ポリエステル樹脂の末端カルボン酸基の量が5〜20eq/tonであり、極限粘度が0.70〜0.90である<1>〜<3>のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<5> 前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、または環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の含量分布が0.1〜5.0%である<1>〜<4>のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<6> 前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の含量分布が0.5〜4.0%である<1>〜<5>のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<7> 前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤と、末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂のペレットとをそれぞれ二軸押出機に投入し、溶融押出しして未延伸フィルムを形成する工程と、
前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程と、を有し、<1>〜<6>のいずれかに記載のポリエステルフィルムを製造するポリエステルフィルムの製造方法。
<8> 二軸押出混練機にて前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤と末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂とを含み、前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の総量が10質量%〜30質量%であるマスターペレットを作製する工程と、
前記マスターペレットと末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂のペレットとを混合し、単軸押出機にて溶融押出して未延伸フィルムを形成する工程と、
前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程と、を有し、<1>〜<6>のいずれかに記載のポリエステルフィルムを製造するポリエステルフィルムの製造方法。
<9> <1>〜<6>のいずれかに記載のポリエステルフィルムを含む太陽電池用バックシート。
<10> <1>〜<6>のいずれかに記載のポリエステルフィルムを含む太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、400nm付近の長波紫外線(UV−A)領域を含む広い範囲で紫外線遮蔽効果を有し、長期に亘り優れた耐光性及び耐加水分解性を有するとともに、ブリードアウトが抑制された良好な面状を有するポリエステルフィルム及びその製造方法、並びに、長期耐久性を備えた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明で用いる二軸押出機の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について詳細に説明する。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
本発明者らは、紫外線吸収剤をバインダーとなるポリエステル樹脂に均一に分散させることができれば、フィルム全体に渡って紫外線に対して高い耐性を発揮し、特に太陽電池の裏面を保護するバックシート(太陽電池用バックシート)に好適に使用することができると考えた。しかし、一般的に、紫外線吸収剤は、フィルムのバインダーとなるポリエステル樹脂との相溶性が低く、例えば、上記紫外線吸収剤と末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂とを単軸押出機に投入して溶融押出しを行った後、延伸してフィルム状に成形しても、紫外線吸収剤が面内に均一に分散したフィルムを製造することが困難であった。
【0013】
そこで、例えば、紫外線吸収剤を多めに投入して溶融押出しを行えば、紫外線吸収剤の分散状態が偏ってもフィルム全体にわって耐紫外線を向上させることができると考えられるが、紫外線吸収剤は高価であるため、コストが大幅に上昇するほか、紫外線吸収剤がフィルム表面にブリードアウトし易くなり、他の層又はフィルムとの積層構造としたときに高い密着性が得られない。
【0014】
本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、特にトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の含有量を特定範囲内とし、これらの紫外線吸収剤と末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂とを十分混練して溶融押出しを行えば、紫外線吸収剤の含量分布のばらつきが小さく抑えられ、紫外線吸収剤のブリードアウトが抑制された良好な面状を保つとともに、波長400nm付近の紫外線を受けても劣化し難く、屋外での長期間の使用に耐え得るポリエステルフィルムが得られることを見出した。
【0015】
<ポリエステルフィルム>
本発明のポリエステルフィルムは、末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂と、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤とを含み、前記紫外線吸収剤の含量分布が0.1〜7%であるポリエステルフィルムである。
【0016】
−ポリエステル樹脂−
本発明のポリエステルフィルムのバインダーとなるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸又はそのエステル誘導体と、ジオール化合物とを公知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
前記ジカルボン酸又はそのエステル誘導体としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸又はそのエステル誘導体が挙げられる。
【0017】
前記ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等が挙げられる。
【0018】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、リン化合物などが挙げられる。通常は、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に挙げると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0019】
好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、より好ましくはPETである。PETは、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるものが好ましく、より好ましくはTi系触媒である。
【0020】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能である。本発明においては、ポリエステルフィルムの末端COOH量を30eq/トン以下の範囲に調整するのに好適である。
【0021】
Ti系触媒を用いた重合により得たTi触媒系PETの製造には、例えば、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特許3436268号公報、特許3979866号公報、特許3780137号、特開2007−204538号公報等に記載の重合方法を用いることができる。
【0022】
チタン(Ti)系化合物を、1ppm以上30ppm以下、より好ましくは2ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用いて重合を行なうことが好ましい。この場合、本発明の方法によって製造されるポリエステルフィルムには、1ppm以上30ppm以下のチタンが含まれる。
Ti系触媒の量は、1ppm以上であると好ましいIVが得られ、30ppm以下であると、末端COOHを低く抑えることができ、耐加水分解性の向上に有利である。
【0023】
ポリエステル樹脂の末端カルボン酸基の量(AV)は30eq/ton以下であり、5〜30eq/tonであることが好ましい。ポリエステル樹脂の末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下であれば、高い耐加水分解性を有し、耐光性と相俟って、高い耐候性を有するポリエステルフィルムとすることができる。なお、耐加水分解性の観点から、ポリエステル樹脂の末端カルボン酸基の量は少ないほど好ましいが、5eq/ton以下とすることは困難である。
【0024】
また、ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)は0.60〜0.90であることが好ましい。ポリエステル樹脂の極限粘度が0.60以上であれば、高い力学強度を保つことができる。一方、ポリエステル樹脂の極限粘度が高いほど溶融粘度が高くなり、溶融時のせん断応力が強くなるため、高温の加熱あるいは発熱によって熱分解し易くなるが、IVが0.90以下であれば、熱分解の発生を抑制することができ、良好な成膜適性を保つことができる。これらの観点から、ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)は0.70〜0.90であることがより好ましく、0.75〜0.85であることがさらに好ましい。
【0025】
−紫外線吸収剤−
本発明のポリエステルフィルムは、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤を含み、該紫外線吸収剤の含量分布が0.1〜7.0%である。フィルムの上記紫外線吸収剤の含量分布が0.1%未満であれば、製膜中に強い混練分散が要求され、樹脂の熱劣化による耐加水分解性を低下させ、7.0%を超えると、耐紫外線性のバラツキが大きく、濃度が少ない部分の光劣化が発生易く、または紫外線吸収剤がフィルム表面にブリードアウトし、良好な面状が得られない。
本発明におけるポリエステルフィルムにおける上記紫外線吸収剤の含量分布は以下の方法によって測定される。
フィルムの長手方向に任意の等間隔で10点、及び、幅方向に任意の等間隔で10点それぞれサンプリングし、計20箇所のサンプルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、吸光度が飽和しない程度まで上記混合溶媒に希釈した溶液を、分光光度計((株)島津製作所製MPC3100)にて石英セルを用いて吸光度を測定する。使用する紫外線吸収剤の各濃度と吸光度の検量線を予め作成し、検量線から各20点の紫外線吸収剤の含有量(質量%)を求める。下記式で紫外線吸収剤の含量分布を求める。
紫外線吸収剤の含量分布(%)=100×(最大含有量−最小含有量)/平均含有量
【0026】
トリアジン系の紫外線吸収剤としては、例えば、下記式(1)で表される化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール等が挙げられる。
【0027】
【化2】


式(1)中、R1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eは、各々独立に、水素原子、又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、R1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eの少なくとも1つはハメット則のσp値が正である置換基であり、該置換基は互いに結合して環を形成してもよい。R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n、及びR1pは、各々独立に、水素原子、又は1価の置換基を表し、該置換基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0028】
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール、2,2’−メチレンビス(4−クミルフェニル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールを例示することができる。中でも2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール、2,2’−メチレンビス(4−クミルフェニル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノールなどが挙げられる。
【0029】
環状イミノエステル系の紫外線吸収剤としては、下記に限定されるものではないが、例えば、2−メチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−ブチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−フェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(1−または2−ナフチル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(4−ビフェニル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−p−ニトロフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−m−ニトロフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−p−ベンゾイルフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−p−メトキシフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−o−メトキシフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−シクロヘキシル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−p−(またはm−)フタルイミドフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、N−フェニル−4−(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)フタルイミド、N−ベンゾイル−4−(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)アニリン、N−ベンゾイル−N−メチル−4−(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)アニリン、2−(p−(N−メチルカルボニル)フェニル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2,2’−ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−エチレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−テトラメチレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−デカメチレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン 、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6−または1,5−ナフチレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−メチル−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−ニトロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−クロロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(1,4−シクロヘキシレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、1,3,5−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ベンゼン、1,3,5−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ナフタレン、2,4,6−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ナフタレン、2,8−ジメチル−4H,6H−ベンゾ(1,2−d;5,4−d’)ビス(1,3)−オキサジン−4,6−ジオン、2,7−ジメチル−4H,9H−ベンゾ(1,2−d;4,5−d’)ビス(1,3 )−オキサジン−4,9−ジオン、2,8−ジフェニル−4H,8H−ベンゾ(1,2−d;5,4−d’)ビス(1,3)−オキサジン−4,6−ジオン、2,7−ジフェニル−4H,9H−ベンゾ(1,2−d;4,5−d’)ビス(1,3)−オキサジン−4,6−ジオン、6,6’−ビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−ビス(2−エチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−ビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−メチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−メチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−エチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−エチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−ブチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−ブチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−オキシビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−オキシビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−スルホニルビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−スルホニルビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−カルボニルビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,6’−カルボニルビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−メチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−メチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−ビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−エチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−オキシビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−スルホニルビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、7,7’−カルボニルビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,7’−ビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,7’−ビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン 、6,7’−メチレンビス(2−メチル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、6,7’−メチレンビス(2−フェニル−4H,3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが挙げられる。
なお、本発明のポリエステルフィルムは、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、及び環状イミノエステル系の紫外線吸収剤うち、少なくとも1種を含めばよく、トリアジン系紫外線吸収剤を2種以上又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を2種以上、または環状イミノエステル系紫外線吸収剤を2種以上含んでもよいし、あるいは、トリアジン系紫外線吸収剤とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤と環状イミノエステル系の紫外線吸収剤とから選ばれる2種以上併用してもよい。
【0030】
耐紫外線の向上と良好な面状を得る観点から、上記紫外線吸収剤の含量分布は、0.1〜5.0%であることが好ましく、0.5〜4.0%であることがより好ましい。
【0031】
耐紫外線及び面状をより向上させる観点から、ポリエステルフィルムにおけるトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、及び環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の総含有量は0.1〜10質量%であり、波長390nmでの透過率が5%以下であることが好ましい。
フィルム内のトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、及び環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の総含有量が0.1質量%以上であって、含量分布が0.1〜7.0%の範囲内にあれば、波長390nmでの透過率を5%以下に抑えることができる。また、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、及び環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の総含有量が10質量%以下であれば、材料コストを低く抑えることができるほか、紫外線吸収剤のブリードアウトを抑えて面状の悪化を抑制し、他の層又はフィルムとの密着性を高く保つことができる。
【0032】
耐紫外線と良好な面状をより向上させる観点から、上記紫外線吸収剤の含有量が0.2〜6質量%であることがより好ましく、上記紫外線吸収剤の含有量が0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムは、耐光性を向上させる観点から、トリアジン系の紫外線吸収剤を含むことが好ましく、特に下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種を含有し、ポリエステル樹脂の極限粘度が0.60〜0.90であることが好ましい。
式(1)で表される紫外線吸収剤は、従来の紫外線吸収剤に比べてより長波の紫外線に吸収を持ち、400nm付近の長波紫外線(UV−A)領域を含む広い範囲で紫外線遮蔽効果が得られる。これにより、長期使用時において、従来に比べてより優れた耐光性能が保てる。しかも、下記一般式(1)で表される化合物は、末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂との相溶性が極めて高く、ポリエステルフィルムにしたときの紫外線吸収剤の含量分布を小さくし易い点でも好ましい。
【0034】
【化3】

【0035】
前記一般式(1)において、R1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eは、各々独立に、水素原子、又はヒドロキシ基(OH基)を除く1価の置換基を表す。前記置換基の少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である基であり、該置換基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0036】
1a、R1b、R1c、R1d、R1eで表される置換基のうち、1〜3個がハメット則のσp値が正である置換基を表すことが好ましく、1〜2個がハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましい。
【0037】
前記一般式(1)における1価の置換基(以下、「置換基A」とする。)としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜20のアルキル基(例えばメチル、エチル)、炭素数6〜20のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、カルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、アルキルカルボニル基(例えばアセチル)、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、アミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、置換スルホアミノ基)、アシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基(R1a、R1b、R1c、R1d、R1eで表される1価の置換基には含まれない。)、炭素数1〜20のアルコキシ基(例えばメトキシ)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、スルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ)、チオシアネート基、アルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、アリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、炭素数6〜20のヘテロ環基(例えばピリジル、モルホリノ)などを挙げることができる。
前記1価の置換基は、無置換でもよいし、更に置換基で置換されていてもよく、置換基を複数有する場合は該複数の置換基は同じでも異なってもよい。置換基で置換されている場合の置換基の例としては、前記「1価の置換基A」の例として挙げられた各基を挙げることができる。また、置換基同士が結合して環が形成されてもよい。
【0038】
置換基同士が結合して形成される前記環としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピリダジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環、ゲルモール環、ホスホール環等が挙げられる。
【0039】
前記一般式(1)における1価の置換基Aとしては、ハロゲン原子、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、置換又は無置換のアルキル部位の炭素数が1〜20のアルコキシカルボニル基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のアルキル部位の炭素数が1〜20のアルキルカルボニル基、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基、ヒドロキシ基(R1a、R1b、R1c、R1d、R1eで表される1価の置換基には含まれない。)、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換又は無置換の炭素数6〜18のアリールオキシ基、置換又は無置換のスルファモイル基、チオシアネート基、又は置換又は無置換のアルキル部位の炭素数が1〜20のアルキルスルホニル基が好ましい。これらの中でも、ヒドロキシ基(R1a、R1b、R1c、R1d、R1eで表される1価の置換基には含まれない。)、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、アミド基がより好ましく、ヒドロキシ基(R1a、R1b、R1c、R1d、R1eで表される1価の置換基には含まれない。)、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基が更に好ましい。
アルコキシ基のアルキル部位は、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が更に好ましい。炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、t−ヘキシル、n−オクチル、t−オクチル、i−オクチルを挙げることができ、メチル又はエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0040】
前記R1a、R1b、R1c、R1d、R1eのうち、本発明における好ましい第一の態様として、R1a、R1c、R1eのうち少なくとも1つが1価の置換基を表し、該置換基の少なくとも1つがハメット則のσp値が正である置換基を表す態様が挙げられる。中でも、R1cがハメット則のσp値が正である置換基を表す態様がより好ましい。また、R1cがハメット則のσp値が正である置換基であり、R1a、R1b、R1d、R1eが水素原子を表す態様が更に好ましい。R1cがハメット則のσp値が正である置換基を表す場合、電子求引性基によりLUMOが安定化されるため、励起寿命が短くなり、耐光性が向上するため好ましい。
【0041】
第一の態様においては、一般式(1)中のR1a、R1c、R1eにおける「ハメット則のσp値が正である置換基」としては、好ましくはσp値が0.1〜1.2の電子求引性基である。σp値が0.1以上の電子求引性基の具体例としては、COOR(Rは、水素原子又は1価の置換基を表し、好ましくは水素原子、アルキル基であり、より好ましくは水素原子である。)、CONR(Rは、水素原子又は1価の置換基を表す。)、CN、ハロゲン原子、NO、SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。)、アシル基、ホルミル基、アシルオキシ基、アシルチオ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアルキルホスフィニル基、ジアリールホスフィニル基、ホスホリル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アシルチオ基、スルファモイル基、チオシアネート基、チオカルボニル基、イミノ基、N原子で置換されたイミノ基、カルボキシ基(又はその塩)、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基(例えばCF)、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルコキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアリールオキシ基、アシルアミノ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルアミノ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルチオ基、σ値が0.2以上の他の電子求引性基で置換されたアリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アゾ基、セレノシアネート基などが挙げられる。
ハメットのσp値については、Hansch, C.; Leo, A.; Taft, R. W . Chem. Rev. 1991, 91, 165-195に詳しく記載されている。
【0042】
前記「ハメット則のσp値が正である置換基」としては、優れた耐光性と相溶性を有する観点から、より好ましくはCOOR、CONR、CN、CF、ハロゲン原子、NO、及びSOMから選択される。ここで、R及びRは、各々独立に、水素原子、又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す(Mに関して以下同様である)。)。この中でも、「ハメット則のσp値が正である置換基」は、上記同様の理由から、COOR又はCNが更に好ましく、COORが特に好ましい。
【0043】
前記R、Rは、水素原子又は1価の置換基を表し、ここでの1価の置換基としては前記置換基Aを挙げることができる。中でも、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がより好ましい。炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、t−ヘキシル、n−オクチル、t−オクチル、i−オクチルを挙げることができ、メチル又はエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
また、前記Mで表されるアルカリ金属としては、Ca、Mg、Na、K、Baが挙げられ、Ca、Mgが好ましい(以下、Mについて同様である)。
【0044】
前記一般式(1)で表される化合物において、R1cがCOOR、CONR、CN、CF、ハロゲン原子、NO、SOMのいずれかである態様が好ましく、更には、COOR又はCNである態様がより好ましく、CNである態様が更に好ましい。
【0045】
前記一般式(1)において、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n、及びR1pは、各々独立に、水素原子、又は1価の置換基を表し、該置換基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0046】
1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが1価の置換基を表す場合、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pの少なくとも1つが、前記「ハメット則のσp値が正である置換基」を表すことが好ましく、R1g、R1h、R1i及びR1jの少なくとも1つが、前記「ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基」を表すことがより好ましく、更には、R1hが前記「ハメット則のσp値が正である置換基」を表すことが更に好ましい。
【0047】
本発明においては、優れた耐光性を示す点で、R1c及びR1hが前記「ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基」を表す場合が特に好ましい。
【0048】
また、本発明において、優れた耐光性を示す点で、R1h又はR1nが、それぞれ独立に、水素原子、COOR、CONR、CN、CF、ハロゲン原子、NO、SOMのいずれかであることが好ましく、R1h又はR1nが水素原子であることがより好ましく、R1h及びR1nが水素原子であることが更に好ましく、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子を表すことが特に好ましい。
【0049】
前記一般式(1)で表される化合物において、優れた耐光性を示す点で、R1cが「ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基」であって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子である場合が好ましく、R1cがCOOR、CONR、CN、CF、ハロゲン原子、NO、又はSOMのいずれかであって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子である場合がより好ましい。
【0050】
前記一般式(1)で表される化合物は、pKaが−5.0〜−7.0の範囲であることが好ましく、−5.2〜−6.5の範囲であることがより好ましく、−5.4〜−6.0の範囲であることが更に好ましい。
【0051】
また、本発明における好ましい第二の態様として、R1b、R1c及びR1dの少なくとも1つは、ハメット側のσp値が正である置換基であるのが好ましく、更にはσp値が0.3〜1.2の範囲が好ましい。
また、R1b及びR1dが、各々独立に1価の置換基を表し、R1a、R1c及びR1eが水素原子を表し、R1b及びR1dが、各々独立に1価の置換基を表し、R1b及びR1dの少なくとも1つはハメット則のσp値が正である置換基である態様を挙げることができる。これにより、一般式(1)で表される化合物は、特に末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂との相溶性が優れる。ポリマーとの相溶性、特にポリエステルとの相溶性に優れることから、該化合物を含むポリエステル樹脂組成物としたときには、一般式(1)で表される化合物の析出又はブリードアウトが発生し難くいものとする効果を有する。
【0052】
第二の態様においては、前記一般式(1)中のR1b及びR1dにおける「ハメット則のσp値が正である置換基」としては、好ましくはCOOR、CONR、CN、CF、ハロゲン原子、NO、及びSOMから選択される。ここで、R及びRは、各々独立に、水素原子、又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。R、Rで表される1価の置換基としては、既述の置換基Aを挙げることができる。
【0053】
前記「ハメット則のσp値が正である置換基」としては、優れた耐光性及びポリエステル樹脂との相溶性を示す点で、より好ましくはCOOR又はシアノ基であり、更にはCOORであることが好ましい。「ハメット則のσp値が正である置換基」がシアノ基である場合は、より優れた耐光性を示し、また「ハメット則のσp値が正である置換基」がCOORである場合は、より優れた相溶性を示す。
【0054】
は、水素原子又はアルキル基を表すことが好ましく、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜15の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が更に好ましい。また、Rは、ポリエステル樹脂との相溶性の観点からは、炭素数5〜15の分岐鎖のアルキル基がより好ましい。
分岐鎖のアルキル基は、2級炭素原子又は3級炭素原子を有し、2級炭素原子又は3級炭素原子を1〜5個含むことが好ましく、1〜3個含むことが好ましく、1又は2個含むことが好ましく、2級炭素原子及び3級炭素原子を1又は2個含むことがより好ましい。また、不斉炭素を1〜3個含むことが好ましい。
は、ポリエステル樹脂との相溶性の観点からは、2級炭素原子及び3級炭素原子を1又は2個含み、不斉炭素を1又は2個含む炭素数5〜15の分岐鎖のアルキル基であることが特に好ましい。
これは、化合物構造の対称性が崩れ、相溶性が向上するためである。
【0055】
一方、紫外線吸収能の観点からは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がより好ましい。炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、t−ヘキシル、n−オクチル、t−オクチル、i−オクチルを挙げることができ、メチル又はエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0056】
また、本発明において、優れた耐光性を示す点で、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが1価の置換基を表す場合は、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pの少なくとも1つが前記「ハメット則のσp値が正である置換基」を表すことがより好ましく、R1g、R1h、R1i及びR1jの少なくとも1つが前記「ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基」を表すことがより好ましく、R1hが前記「ハメット則のσp値が正である置換基」を表すことが更に好ましい。R1b又はR1d、及びR1hが前記「ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基」を表すことが特に好ましい。
本発明において、優れた耐光性を示す点で、R1h又はR1nがそれぞれ独立に水素原子、COOR、CONR、シアノ基、CF、ハロゲン原子、ニトロ基、SOMのいずれかであることが好ましく、R1h又はR1nが水素原子であることがより好ましく、R1h及びR1nが水素原子であることが更に好ましく、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子を表すことが特に好ましい。
【0057】
前記一般式(1)で表される化合物においては、優れた耐光性を示す点で、R1b、R1c又はR1dが「ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2)である置換基」であって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子である場合が好ましく、R1b、R1c又はR1dがCOOR、CONR、シアノ基、CF、ハロゲン原子、ニトロ基、又はSOMのいずれかであって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子である場合がより好ましい。
特に好ましくは、R1a、R1b、R1d、R1e、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n、及びR1pが水素元素であり、R1cがCOOR〔Rは1価の置換基を表す。〕である。
【0058】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示す。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記の具体例において、Meはメチル基を、Phはフェニル基を、−C13はn−ヘキシルをそれぞれ表す。
【0059】
【化4】

【0060】
【化5】

【0061】
【化6】

【0062】
【化7】

【0063】
【化8】

【0064】
【化9】

【0065】
【化10】

【0066】
【化11】

【0067】
【化12】

【0068】
【化13】

【0069】
前記一般式(1)で表される化合物は、構造とその置かれた環境によって互変異性体を取り得るが、一般式(1)で表される化合物には、互変異性体も含まれる。
【0070】
前記一般式(1)で表される化合物は、同位元素(例えば、H、H、13C、15N、17O、18Oなど)を含有していてもよい。
【0071】
前記一般式(1)で表される化合物は、任意の方法で合成することができる。
例えば、公知の特許文献や非特許文献(例えば、特開平7−188190号公報、特開平11−315072号公報、特開2001−220385号公報や、「染料と薬品」第40巻12号(1995)の325〜339ページなど)を参照して合成することができる。具体的には、前記例示化合物(16)は、サリチルアミドと3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリドと2−ヒドロキシベンズアミジン塩酸塩とを反応させることにより合成できる。また、サリチルアミドとサリチル酸と3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンズアミジン塩酸塩とを反応させることによっても合成できる。
【0072】
前記一般式(1)で表される化合物は、ポリエステル樹脂に対する相溶性に優れるという特徴を有すると共に、構造式中の特定位置に「ハメット則のσp値が正である置換基」を有するため、電子求引性基によりLUMOが安定化されるため、励起寿命が短くなり、優れた耐光性を有している。したがって、紫外線吸収剤として用いた場合に、トリアジン系化合物等の従来より用いられている紫外線吸収剤では高濃度で含有すると析出や長期使用によるブリードアウトが生じたり或いは分解で黄変する等の悪影響を生じ易いが、本発明における既述の一般式(1)で表される化合物は優れた相溶性と耐光性を有するため、高濃度で含有する場合でも析出やブリードアウトが生じず、長時間使用した場合でも分解せず黄変を防ぐことができる。
【0073】
前記一般式(1)で表される化合物は、一種のみ用いてもよく、異なる構造を有する二種以上を併用することもできる。
【0074】
前記一般式(1)で表される化合物の極大吸収波長は、特に限定されないが、好ましくは250〜400nmであり、より好ましくは280〜380nmである。半値幅は、好ましくは20〜100nmであり、より好ましくは40〜80nmである。
前記極大吸収波長及び半値幅は、従来公知の方法により容易に測定される値である。測定方法に関しては、例えば日本化学会編「第4版実験化学講座7分光II」(丸善,1992年)180〜186ページなどに記載されている。具体的には、適当な溶媒に試料を溶解し、石英製又はガラス製のセルを用いて試料用と対照用の2つのセルを使用し、分光光度計によって測定される。溶媒としては、試料の溶解性に合わせて、測定波長領域に吸収を持たないこと、溶質分子との相互作用が小さいこと、揮発性があまり著しくないこと等が求められる。本発明における極大吸収波長及び半値幅は、酢酸エチルを用いて濃度約5×10−5mol・dm−3の溶液を調製し、光路長10mmの石英セルで測定される値である。
【0075】
スペクトルの半値幅に関しては、例えば日本化学会編「第4版実験化学講座3 基本操作III」(丸善、1991年)154ページなどに記載がある。なお、成書では波数目盛りで横軸を取った例で半値幅の説明がなされる場合があるが、本発明における半値幅は波長目盛りで軸を取った場合の値を用いる。半値幅の単位は[nm]である。具体的には、極大吸収波長における吸光度の1/2の吸収帯の幅を表し、吸収スペクトルの形を表す値として用いられる。半値幅が小さいスペクトルはシャープなスペクトルを示し、半値幅が大きいスペクトルはブロードなスペクトルを示す。ブロードなスペクトルを与える紫外線吸収化合物は、極大吸収波長から長波側の幅広い領域にも吸収を有するので、黄色味着色がなく、長波紫外線領域を効果的に遮蔽するためには、半値幅が小さいスペクトルを有する紫外線吸収化合物の方が好ましい。
【0076】
光の吸収の強さ、すなわち振動子強度は、時田澄男著「化学セミナー9 カラーケミストリー」(丸善、1982年)154〜155ページに記載されるように、モル吸光係数の積分に比例し、吸収スペクトルの対称性がよいときは、振動子強度は極大吸収波長における吸光度と半値幅の積に比例する(但し、この場合の半値幅は波長目盛りで軸を取った値である)。このことは遷移モーメントの値が同じとした場合、半値幅が小さいスペクトルを有する化合物は極大吸収波長における吸光度が大きくなることを意味している。このような紫外線吸収化合物は少量使用するだけで極大吸収波長周辺の領域を効果的に遮蔽できるメリットがあるが、波長が極大吸収波長から少し離れると急激に吸光度が減少するために、幅広い領域を遮蔽することができない。
【0077】
前記一般式(1)で表される化合物は、極大吸収波長におけるモル吸光係数が20000以上であることが好ましく、30000以上であることがより好ましく、50000以上であることが特に好ましい。モル吸光係数が20000以上であると、前記一般式(1)で表される化合物の質量当たりの吸収効率が高いため、紫外線領域を完全に吸収するのに要する「一般式(1)で表される化合物」の量を低減できる。これは、皮膚刺激性や生体内への蓄積を防ぐ観点、及びブリードアウトが生じにくい点から好ましい。
なお、モル吸光係数については、例えば日本化学会編「新版実験化学講座9 分析化学[II]」(丸善、1977年)244ページなどに記載されており、極大吸収波長及び半値幅を求める際に合わせて求めることができる。
【0078】
本発明におけるポリエステルフィルムは、紫外線吸収剤として異なる構造を有する2種以上の前記一般式(1)で表される化合物を含有してもよい。また、前記一般式(1)で表される化合物とそれ以外の1種以上の他の紫外線吸収剤とを併用してもよい。基本骨格構造の異なる2種(好ましくは3種)の紫外線吸収剤を併用すると、紫外線吸収剤の分散状態が安定化すると共に、広い波長領域の紫外線を吸収することができる。
一般式(1)以外の他の紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、メロシアニン系、シアニン系、ジベンゾイルメタン系、桂皮酸系、シアノアクリレート系、安息香酸エステル系などの化合物が挙げられる。具体的には、ファインケミカル(2004年5月号、28〜38ページ)、「高分子用機能性添加剤の新展開」(東レリサーチセンター調査研究部門発行、96〜140ページ、1999年)、「高分子添加剤の開発と環境対策」(大勝靖一監修、シーエムシー出版、54〜64ページ、2003年)などに記載の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0079】
前記他の紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチル酸系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾオキサゾール系化合物、メロシアニン系化合物、トリアジン系化合物である。より好ましくはベンゾオキサジノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。特に好ましくは、ベンゾオキサジノン系化合物である。他の紫外線吸収剤は、特願2008−273950号公報の段落番号〔0117〕〜〔0121〕に詳細な記載があり、同公報に記載の材料を適用できる。
他の紫外線吸収剤を併用する場合、他の紫外線吸収剤の含有比率は、本発明の効果を損なわないように保つ観点から、一般式(1)で表される紫外線吸収剤の量に対して50質量%以下が好ましい。
【0080】
前記一般式(1)で表される化合物は、ベンゾオキサジノン系化合物と組み合わせて含有することが好ましい。一般式(1)で表される化合物は、長波長領域において優れた耐光性を有するため、より長波長領域まで遮蔽可能なベンゾオキサジノンの劣化を防ぐという効果を奏し、ベンゾオキサジノン系化合物と共に用いることで、より長波長領域まで長時間において遮蔽効果が持続できるため好ましい。
【0081】
前記一般式(1)で表される化合物を紫外線吸収剤として含有することで高い紫外線遮蔽効果が得られるが、更には、隠蔽力の強い白色顔料、例えば酸化チタンなどを併用してもよい。
また、外観、色調の観点あるいは好みにより、微量(0.05質量%以下)の着色剤を併用してもよい。また、透明あるいは白色であることが重要である用途では、蛍光増白剤を併用してもよい。蛍光増白剤としては市販のものや特開2002−53824号公報に記載の一般式[1]や具体的化合物例1〜35などが挙げられる。
【0082】
本発明のポリエステルフィルムは、面状を悪化させない範囲で、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及び環状イミノエステル系以外の他の紫外線吸収剤を含んでもよい。
具体的には、ベンゾフェノン系化合物、サリチル酸系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾオキサゾール系化合物、メロシアニン系化合物が挙げられ、好ましくはベンゾオキサジノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物が挙げられ、特に好ましくは、ベンゾオキサジノン系化合物である。これらの他の紫外線吸収剤は、特願2008−273950号公報の段落番号〔0117〕〜〔0121〕に詳細な記載があり、同公報に記載の材料を適用できる。
他の紫外線吸収剤を併用する場合、他の紫外線吸収剤の含有比率は、本発明の効果を損なわないように保つ観点から、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系化合物の紫外線吸収剤の総量に対して30質量%以下が好ましい。
【0083】
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0084】
−その他の成分−
本発明のポリエステルフィルムは、上記ポリエステル樹脂と紫外線吸収剤のほか、酸化防止剤、易滑剤(微粒子)、着色剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを必要に応じて含有することができる。
【0085】
上記のようにトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の含量分布が0.1〜7%である本発明のポリエステルフィルムは、紫外線照度900mW/cm下の破断伸度保持率が10%以上に保持される照射時間(破断伸度保持時間)が30時間〜100時間であり、且つ120℃、100%RHでサーモ処理した後の破断伸度保持率が30%以上に保持されるサーモ処理時間(破断伸度保持時間)が70時間以上200時間以下の性能を有することができる。
なお、紫外線照度900mW/cm×30時間の紫外線照射は屋外使用での直射日光による紫外線劣化の約12年分に相当し、裏面使用時では、反射日光による紫外線劣化の約25年に相当する。また、120℃100%RHの70時間は屋外使用の約20年に相当する。
【0086】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明のポリエステルフィルムを製造する方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法によって好適に製造することができる。
【0087】
−第1の製造方法−
本発明のポリエステルフィルムは、前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤と、末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂のペレットとをそれぞれ二軸押出機に投入し、溶融押出しして未延伸フィルムを形成する工程と、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程と、を有する方法によって好適に製造するこができる。
溶融押出しを行う際、二軸押出機を用いれば、単軸押出機を用いる場合よりもポリエステル樹脂中に紫外線吸収剤を均一に分散させることができ、本発明のポリエステルフィルムを製造することができる。
また、二軸延伸したフィルムを、熱固定及び緩和を施すことが好ましい。
【0088】
原料となるポリエステル樹脂の形態としては、ペレット、フラフ、それらの混合物などを用いることができる。
原料となるポリエステル樹脂のペレットは、エステル化工程、固相重合工程を経て好適に得ることができる。
【0089】
まず、本発明で用いるポリエステル原料樹脂について、それを作製するためのエステル化工程及び固相重合工程とともに詳述する。
【0090】
ポリエステル原料樹脂の末端カルボン酸基量(AV;以下、末端COOH量又はAVということがある。)としては、30eq/ton(トン)以下であり、5〜30eq/ton(トン)が好ましく、8〜25eq/ton(トン)であることがより好ましい。原料樹脂として用いるポリエステル樹脂の末端COOH量を前記範囲とすることにより、溶融押出後に得られるポリエステルフィルムの末端COOH量も低く抑えやすく、最終的なフィルムの耐加水分解性、すなわち耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0091】
本発明においては、前記ポリエステル原料樹脂として、その全質量に対して(0質量%超)15質量%以下の範囲で、ポリエステル樹脂の回収屑を含むことが好ましい。回収屑には、ポリエステルの粉砕物、回収ポリエステルを再溶融したリサイクル材などが含まれる。回収屑を添加すると、異なる形状の原料樹脂の嵩比重の増減により、上記したような樹脂の充満率と最大剪断応力σを達成するのに有効である。具体的には、例えば、サイズの異なる2種以上の原料樹脂を混合する、あるいは1種のポリエステル樹脂と2種以上の回収フィルムの粉砕材(例:フィルム粉砕したチップなどの粉砕屑)とを原料樹脂として混合する、等の方法により、ポリエステル原料樹脂の嵩を調節することができる。これにより、充満率を調整することが可能である。
このとき、回収屑の極限粘度と、回収屑以外の原料樹脂の極限粘度との差は、0.01〜0.2であることが好ましい。この差の範囲内とすることで、押出時の発熱抑制により末端COOH量の増加をより抑えることができる。
【0092】
上記の中でも、ポリエステルの回収屑を原料樹脂全質量に対して(0質量%超)10質量%以下の範囲で含有し、回収屑と回収屑以外の原料樹脂との間の極限粘度の差を0.01〜0.1とすることがより好ましく、更に好ましくは、ポリエステルの回収屑を原料樹脂全質量に対して(0質量%超)8質量%以下の範囲で含有し、回収屑と回収屑以外の原料樹脂との間の極限粘度の差を0.01〜0.05の範囲とする。
【0093】
前記原料樹脂の嵩比重とは、粉末を一定容積の容器の中に一定状態で入れる等して、所定形状にした粉末の質量を、そのときの体積で除算して求められる比重(単位体積あたりの質量)をいい、嵩比重が小さいほど嵩張る。
本発明において、原料樹脂の嵩比重としては、0.6〜0.8の範囲が好ましい。この嵩比重が0.6以上であると、溶融押出をより安定的に行なうことができる。嵩比重が0.8以下であると、局所的な発熱を効果的に抑制することができる。
【0094】
−エステル化工程−
エステル化工程では、(a)エステル化反応、及び(b)エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させる重縮合反応を設けることができる。
【0095】
(a)エステル化反応
ポリエステルを重合する際のエステル化反応においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合し、この際の重縮合反応に用いる重合触媒としてチタン化合物が用いられる。
【0096】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、また、前記脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0097】
前記チタン化合物の使用量としては、ポリエステル樹脂におけるチタン元素含有量が20ppm以下となる量が好ましく、より好ましくは10ppm以下である。ポリエステル樹脂におけるチタン元素含有量の下限は、通常は1ppmであるが、好ましくは2ppmである。
チタン化合物の量が前記範囲内であると、フィルム製造時に分解反応が起こり難く、ポリエステルの分子量が低下しないように保て、ポリエステルの強度や耐熱性が良好であると共に、加工工程での取り扱い性、及び太陽電池用部材として用いた時の耐候性、耐加水分解性に優れる。また、チタン化合物の量が1ppm以上であると、生産性を保つことができ、目的とする重合度を有し、末端カルボキシル基量を抑えた耐候性、耐加水分解性に優れたポリエステルの製造に好適である。
【0098】
前記チタン化合物に加えて、さらにリン化合物を用いてもよい。この場合、リン化合物の量は、ポリエステル樹脂におけるリン元素量が1ppm以上となる量が好ましく、より好ましくは5ppm以上である。ポリエステル樹脂におけるリン元素量の上限は、300ppmが好ましく、より好ましくは200ppmであり、さらに好ましくは100ppmである。
前記チタン化合物とともにリン化合物を用いることにより、耐候性をより向上させることができる。すなわち、チタンの触媒としての活性を低下させポリエステルが分解反応を起こすことを抑制することができる。
リン化合物の量を300ppm以下とすることで、ゲル化を防ぎ、異物となってフィルムに現れる現象を抑制することができ、品質の良好なポリエステルフィルムが得られる。本発明においては、チタン化合物、リン化合物を上記した範囲で含有することで、耐候性をより向上させることができる。
【0099】
チタン化合物としては、有機キレートチタン錯体、並びに一般的には酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。本発明においては、有機キレートチタン錯体を用いた形態が好ましく、また本発明の効果を損なわない限りにおいて、有機キレートチタン錯体に加えて他のチタン化合物を併用してもよい。チタン化合物の例としては、アルキルチタネート又はその部分加水分解物、酢酸チタン、蓚酸チタニル化合物などの公知の化合物が挙げられる。具体的には、例えば、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナートなどが挙げられる。
このようなチタン化合物を用いたTi系ポリエステルの合成には、例えば、特公平8−30119号公報、特許2543624号、特許3335683号、特許3717380号、特許3897756号、特許3962226号、特許3979866号、特許399687号1号、特許4000867号、特許4053837号、特許4127119号、特許4134710号、特許4159154号、特許4269704号、特許4313538号等に記載の方法を適用することができる。
【0100】
リン化合物の例としては、リン酸、亜リン酸又はそのエステルホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、亜ホスホン酸化合物、亜ホスフィン酸化合物などの公知の化合物が挙げられる。具体的には、例えば、正リン酸、ジメチルフォスフェート、トリメチルフォスフェート、ジエチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、ジプロピルフォスフェート、トリプロピルフォスフェート、ジブチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、ジアミルフォスフェート、トリアミルフォスフェート、ジヘキシルフォスフェート、トリヘキシルフォスフェート、ジフェニルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、エチルアシッドフォスフェート、ジメチルフォスファイト、トリメチルフォスファイト、ジエチルフォスファイト、トリエチルフォスファイト、ジプロピルフォスファイト、トリプロピルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、ジフェニルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、ジアミルフォスファイト、トリアミルフォスファイト、ジヘキシルフォスファイト、トリヘキシルフォスファイトなどが挙げられる。
【0101】
また、前記チタン化合物及び前記リン化合物以外の金属化合物は含まないことが好ましいが、フィルムの生産性を向上するために、溶融時の体積固有抵抗値を低くする目的で、通常用いられる100ppm以下の範囲でマグネシウム、カルシウム、リチウム、マンガン等の金属を含有してもよく、好ましくは60ppm以下、より好ましくは50ppm以下の範囲で含有することができる。また、粒子や各種添加剤を配合するために、マスターバッチ法を利用する等の方法を用いる場合などにおいて、触媒以外の金属成分としてアンチモンを含有してもよく、耐加水分解性、耐候性を高める観点から、アンチモンのフィルム全体に対する含有量をアンチモン金属元素量で30ppm以下とすることができ、好ましくは20ppm以下とすることができる。
【0102】
チタン化合物を触媒として製造したポリエステルとリン化合物を含有するポリエステルとを混合することにより、上記した量のチタン及びリンを含むポリエステルフィルムを作製してもよい。この場合、所定量のリン化合物を含有するポリエステルをマスターバッチとして作製しておき、それをチタン触媒によるポリエステルと混合する方法が好ましい。リン化合物のマスターバッチを製造する方法としては、ゲルマニウム触媒により重合する方法、最少量のアンチモン触媒により重合する方法、チタン触媒によるポリエステルに溶融押出する工程で添加する方法などが挙げられる。中でも、ゲルマニウム触媒を用いることが特に好ましい。
ポリエステルフィルム中に含有するリン元素と触媒由来のチタン元素との比としては、モル比(P/Ti)で1.0〜20.0の範囲が好ましく、より好ましくは5.0〜15.0の範囲である。この比率の範囲内であると、耐候性をより向上させることができる。
【0103】
本発明におけるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、及びこれらの共重縮合体が好ましい。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート及びこの共重縮合体が特に好ましい。共重縮合体としては、エチレンテレフタレート由来の構成単位が50モル%以上であるものが好ましく、70モル%以上がより好ましい。
【0104】
(b)重縮合
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0105】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0106】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が13.3×10−3〜1.3×10−3MPa(100〜10torr)、より好ましくは6.67×10−3〜2.67×10−3MPa(50〜20torr)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が2.67×10−3〜1.33×10−4MPa(20〜1torr)、より好ましくは1.33×10−3〜4.0×10−4MPa(10〜3torr)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が1.33×10−3〜1.33×10−5MPa(10〜0.1torr)、より好ましくは6.67×10−4〜6.67×10−5MPa(5〜0.5torr)である態様が好ましい。
【0107】
−固相重合工程−
本発明においては、上記に加えて更に、ポリエステルを固相重合する固相重合工程を設けることができる。固相重合は、既述のエステル化反応により重合したポリエステル又は市販のポリエステルをペレット状などの小片形状にし、これを用いて好適に行なえる。具体的には、固相重合として、特許第2621563号、特許第3121876号、特許第3136774号、特許第3603585号、特許第3616522号、特許第3617340号、特許第3680523号、特許第3717392号、特許第4167159号等に記載の方法を用いることができる。
【0108】
固相重合は、150℃以上250℃以下、より好ましくは170℃以上240℃以下、さらに好ましくは190℃以上230℃以下で5時間以上100時間以下、より好ましくは10時間以上80時間以下、さらに好ましくは15時間以上60時間以下の条件で行なうのが好ましい。また、固相重合は、真空中あるいは窒素(N)気流中で行なうことが好ましい。更に、多価アルコール(エチレングリコール等)を1ppm以上1%以下混合してもよい。
【0109】
固相重合は、バッチ式(容器内に樹脂を入れ、この中で所定の時間熱を与えながら撹拌する方式)で実施してもよく、連続式(加熱した筒の中に樹脂を入れ、これを加熱しながら所定の時間滞流させながら筒中を通過させて、順次送り出す方式)で実施してもよい。
【0110】
本発明においては、原料樹脂として用いるポリエステルの重合度は、ポリエステルフィルムの使用用途の要求特性に合わせて適宜選択すればよいが、一般には、溶融重縮合で0.3≦IV≦0.65のポリエステルを得て、溶融重縮合で得られたポリエステルを固相重縮合により0.71≦IV≦0.90に上昇させるのが好ましい。
【0111】
本発明においては、滑り性、固着性などを改善するため、無機系粒子や有機系粒子を含有させることが好ましい。
無機粒子としては、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化ジルコニウム、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化バリウム、カーボンブラック、硫化モリブデン、酸化アンチモン等が挙げられる。これらの中では、安価でかつ粒子径が多種ある点で、二酸化ケイ素が好ましい。
有機粒子としては、炭素−炭素二重結合を一分子中に2個以上含有する化合物(例えばジビニルベンゼン)により架橋構造を達成したポリスチレン又はポリアクリレートポリメタクリレートが挙げられる。
【0112】
無機粒子及び有機粒子は、表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、界面活性剤、分散剤としての高分子、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
【0113】
また、ポリエステルには、帯電防止剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料などを含有してもよい。また、有機溶剤を含有していてもよい。
【0114】
−溶融押出し工程−
図1は、本発明で用いることができる二軸押出機の構成例を概略的に示している。二軸押出機100は、図1に示すように、ホッパー12及び押出口14を有するシリンダ(バレル)10と、駆動手段21によって回転するスクリュ20A及び20Bとを備えており、両スクリュには、第1のニーディングディスク部24A、第2のニーディングディスク部24Bが設けられている。スクリュ20A,20Bの形状としては、例えば、等ピッチの1条のらせん状フライト22が設けられたフルフライトスクリュが用いられる。バレル10の周囲には、バレル内の温度を制御する温度制御手段30が配置されており、押出口14の先(押出方向)にはフィルタとダイが設けられている。スクリュの押出口14の側には、ピッチの短いスクリュ28が設けられている。これより、バレル10壁面の樹脂移動速度が高まり、温調効率を上げることができる。温度制御手段30は、原料供給口12から押出口14に向けて長手方向に9つに分割された加熱/冷却装置C1〜C9で構成されており、このようにバレル10の周囲に分割配置された加熱/冷却装置C1〜C9により、例えば加熱溶融部C1〜C7と冷却部C8〜C9の各領域(ゾーン)に区画し、バレル10内を領域ごとに所望の温度に制御することが可能である。また、ニーディングディスク部24A,24Bの各々の下流側には、真空ベント16A,16Bが設けられている。また、逆スクリュ(不図示)を用いることにより、樹脂をせき止め、ベント16A,16Bを引く際のメルトシールを形成することができる。また、シリンダの内部は、ホッパー側から原料供給部、スクリュ圧縮部、計量部となっている。
【0115】
本発明におけるシリンダは、内径(直径)Dが140mm以上であることが好ましい。本発明においては、特に、シリンダの内径Dが150mm以上である大型のベント式二軸押出機を用いて溶融押出する場合が好適である。
【0116】
また、シリンダの内径Dに対する押出量Q[kg/hr]の比率としては、スクリュ回転数をN[rpm]とすると、下記式を満たす場合が好ましい。
【0117】
【数1】



【0118】
本発明においては、二軸押出機の内部をベント吸引することが好ましい。
ポリエステルが高温に曝された際の加水分解反応の進行を抑制するには、樹脂に残存する水分及びエステル化反応で生成した水分をできる限り、系外(シリンダ外)に排除することが効果的である。そのため、二軸押出機はベント付きのものが好ましく、ベントにより真空吸引しながら水分などを排除することが好ましい態様である。
また、ベント真空吸引により、ポリエステルに残存する酸素やオリゴマーなどの揮発成分を排除することも好ましい。この場合、残存酸素による溶融樹脂の酸化分解やオリゴマーがフィルム表面に析出の発生を抑えることができる。
このようなベント吸引は、押出機内を不活性ガス(窒素等)の気流を通して置換後、真空排気しながら実施することが好ましい。
【0119】
本発明においては、シリンダの樹脂押出方向下流に、樹脂の押出量を制御する押出制御用ギアポンプと、樹脂中の異物を除去する異物除去フィルタとを備えた二軸押出機を用いることより好適に溶融押出することができる。
具体的には、押出量の変動を減少させてフィルム厚の精度を向上させる観点から、押出機とダイとの間に樹脂の押出量を制御するギアポンプを設けることが好ましい。このギアポンプは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するものである。押出機の先端部分の樹脂圧力が若干変動しても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリュ回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。
また、ポリエステル溶融樹脂中の異物や凝集した添加剤(微粒子などの凝集体)などを除去する観点から、異物除去フィルタを設けることが好ましい。異物除去フィルタによる濾過としては、例えば、ブレーカープレート式の濾過や、リーフ型ディスクフィルタを組み込んだ濾過装置による濾過を行なうのが好ましい。濾過は、1段で行なってもよいし、多段濾過をおこなうようにしてもよい。濾過精度は、40μm〜3μmが好ましく、20μm〜3μmがより好ましく、さらに好ましくは10μm〜3μmである。濾材は、ステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成は、線材を編んだもの、金属繊維もしくは金属粉末を焼結したもの(焼結濾材)が使用でき、中でも焼結濾材が好ましい。
【0120】
本発明では、粉状又は液状のトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤と、末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル原料樹脂(好ましくはポリエチレンテレフタレート樹脂)のペレットとをそれぞれ二軸押出機に投入し、溶融押出しする。二軸押出機に投入するトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の総量は、原料全体に対して0.1〜10質量%が好ましい。
【0121】
更に、例えば、易滑剤(微粒子)、着色剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを必要に応じて添加してもよい。
【0122】
−未延伸フィルム形成工程−
未延伸フィルム形成工程は、前記押出工程で溶融押出されたポリエステル樹脂をキャストロール(冷却ロール)上で冷却固化することにより未延伸フィルムを形成する。
【0123】
帯状に吐出された溶融樹脂(メルト)は、キャストロール上で冷却、固化されて所望厚のポリエステルフィルムが得られる。このとき、延伸前のフィルム厚は、2600μm以上6000μm以下の範囲が好ましい。この範囲であると、その後の延伸を経て、厚み260μm以上500μm以下のポリエステルフィルムを得ることができる。
前記メルトの固化後の厚みは、3100μm以上6000μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは3300μm以上5000μm以下であり、さらに好ましくは3500μm以上4500μm以下の範囲である。固化後延伸前の厚みが6000μm以下であることで、メルト押出し中に皺が発生し難く、ムラの発生が抑えられる。また、固化後の厚みが2600μm以上であることで、良好な耐電圧特性が得られる。
【0124】
前記押出工程で二軸押出機から押出された溶融樹脂をダイを通じてキャストロール上でキャストする際、溶融樹脂の140℃〜230℃における温度領域での平均冷却速度を、230℃/分〜500℃/分の範囲とすることが好ましい。耐候性向上には高延伸倍率が有効であるが、そのために球晶抑制を図る観点から、平均冷却速度は前記範囲であるのが好ましい。ここでの平均冷却速度は、結晶形成に最も大きな影響を及ぼす140℃〜230℃の間の平均の冷却速度であり、球晶形成などに伴なう結晶化が抑えられ、耐候性をより高めることができる。
平均冷却速度は、230℃/分以上であると、球晶形成などに伴なう結晶化を抑え、高延伸倍率に延伸してもフィルムが破断し難く、高配向の延伸フィルムを得られる。また、球晶形成の抑止により、延伸ムラが大幅に低減し、後述の太陽電池用途において塗布する際のムラ発生が生じ難くなる。このように、ポリエステルフィルムの耐加水分解性が大幅に向上し、球晶抑制によりフィルムの密着不良を抑制することができる。また、平均冷却速度が500℃/分以下であると、急激なメルトの固化を防ぎ、破断やキャストロール上での皺発生による延伸ムラ、密着不良となるのを防止することができる。
【0125】
前記平均冷却速度としては、280〜500℃/分がより好ましく、更に好ましくは300〜450℃/分である。
【0126】
前記平均冷却速度は、下記の方法により調節、実現することが可能である。
(1)冷却風量と冷却風の温度とを調整する。
(2)溶融樹脂(メルト)に0.1%〜5%(好ましくは0.2%〜3%、より好ましくは0.3%〜2%)の厚みムラを与える。これにより、冷却ロールへの密着が改善され、冷却効率が向上し、前記平均冷却速度の範囲に調製することが可能である。これは、メルトは冷却ロールに接触した際に収縮するが、上記のように僅かに厚みムラを付与しておくことでメルトがスムースに冷却ロール上で収縮し、均一に冷却ロールと接触させ得るため、冷却効率が向上するためと考えられる。つまり、厚みムラがない場合、メルトの滑りが低下しやすく、一部は冷却ロールに粘着し、他の一部は粘着点間で引き伸ばされ(収縮応力に因る)、冷却ロールと接触できずに冷却速度が低下すると推測される。
厚みムラは、5%以下であることで、冷却効率が増加しすぎず球晶形成がある程度保たれるため、球晶によるフィルム強度の向上効果が得られ。また0.1%以上であることで、フィルム内の凝集破壊による密着力低下を防ぐことができる。
【0127】
溶融樹脂(メルト)中の未融解物(異物)としては、0.1個/kg以下が好ましい。球晶はメルト中の未融解物を核として形成され易いが、未溶融物(異物)の量が0.1個/kg以下であることで球晶形成が抑えられ、延伸時の延伸ムラの発生をより抑えることができる。なお、未溶融物(異物)は、結晶物や分解生成された不溶物などであり、この異物はサイズが1μm以上10mm以下のものをさす。
【0128】
未融解物の量としては、溶融樹脂(メルト)中に0.005個/kg以上0.07個/kg以下の範囲であるのがより好ましく、さらに好ましくは0.1個/kg以上0.05個/kg以下である。未融解物(異物)は、位相差顕微鏡及びCCDカメラを用いて、ポリエステルフィルムの拡大画像を撮影し、画像処理装置を用いて異物数を計数することにより求められる。
【0129】
−二軸延伸工程−
本発明における二軸延伸工程は、前記未延伸フィルム形成工程で形成された未延伸フィルムを縦方向及び横方向に二軸延伸する。
具体的には、未延伸のポリエステルフィルムを、例えば、70℃以上140℃以下の温度に加熱されたロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に3倍以上5倍以下の延伸率で延伸し、20℃以上50℃以下の温度のロール群で冷却することが好ましい。続いて、フィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き、80℃以上150℃以下の温度に加熱された雰囲気中で、長手方向に直角な方向(幅方向)に3倍以上5倍以下の延伸率で延伸することが好ましい。
【0130】
延伸率は、長手方向と幅方向それぞれ3倍以上5倍以下とするのが好ましい。また、その面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は、9倍以上15倍以下であることが好ましい。面積倍率が9倍以上であると、得られる二軸延伸積層フィルムの反射率や隠蔽性、フィルム強度が良好であり、また面積倍率が15倍以下であると、延伸時の破れを回避することができる。
【0131】
二軸延伸する方法としては、上述のように、長手方向と幅方向の延伸とを分離して行なう逐次二軸延伸方法のほか、長手方向と幅方向の延伸を同時に行なう同時二軸延伸方法のいずれであってもよい。
【0132】
得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて、好ましくは原料となる樹脂のガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度で1秒以上30秒以下の熱処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却する。一般に、熱処理温度(Ts)が低いとフィルムの熱収縮が大きいため、高い熱寸法安定性を付与するためには、熱処理温度は高い方が好ましい。しかしながら、熱処理温度を高くし過ぎると配向結晶性が低下し、その結果形成されたフィルムが耐加水分解性に劣ることがある。そのため、本発明のポリエステルフィルムの熱処理温度(Ts)としては、40℃≦(Tm−Ts)≦90℃であるのが好ましい。より好ましくは、熱処理温度(Ts)を50℃≦(Tm−Ts)≦80℃、更に好ましくは55℃≦(Tm−Ts)≦75℃とすることが好ましい。
【0133】
更には、本発明のポリエステルフィルムは、太陽電池モジュールを構成するバックシートとして好適に用いることができるが、モジュール使用時には雰囲気温度が100℃程度まで上昇することがある。そのため、熱処理温度(Ts)としては、160℃以上Tm−40℃(但し、Tm−40℃>160℃)以下であるのが好ましい。より好ましくは170℃以上Tm−50℃(但し、Tm−50℃>170℃)以下、更に好ましくはTsが180℃以上Tm−55℃(但し、Tm−55℃>180℃)以下である。
【0134】
また必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に3〜12%の弛緩処理を施してもよい。
【0135】
−熱固定工程−
本発明における熱固定工程は、前記二軸延伸工程で二軸延伸して形成された延伸フィルムを熱固定する。
熱固定は、180℃以上240℃以下の温度で好適に行なうことができる。熱固定時の温度が180℃以上であると、熱収縮率の絶対値が小さい点で好ましく、逆に熱固定時の温度が240℃以下であると、フィルムが不透明になり難く、また破断頻度が少なくなる点で好ましい。
この場合、熱固定する時間は、2〜60秒が好ましく、3秒〜40秒がより好ましく、4秒〜30秒がさらに好ましい。
【0136】
一般に、延伸後のフィルムの熱固定は、長尺状の熱風吹き出し口を有する複数本のプレナムダクトを長手方向に垂直に配置した熱固定装置により行なわれる。このような熱固定装置では、加熱効率を良くするために熱風の循環が行なわれている。熱固定装置に取り付けられた循環ファンにより熱固定装置内の空気を吸引し、吸引した空気を温調して再びプレナムダクトの熱風吹き出し口から排出される。このように、熱風の吹き出し→循環ファンによる吸引→吸引した空気の温調→熱風の吹き出しといった熱風循環が行なわれる。
フィルム製造の際の熱固定は、(1)熱固定装置のプレナムダクトの温度・風量の調節、(2)熱固定装置のプレナムダクトの熱風吹き出し口の遮断条件の調整、(3)延伸ゾーンと熱固定装置との間における加熱の遮断を行なうことで好適に行なえる。
【0137】
前記(1)では、加温・冷却を段階的に行うために、熱固定装置は一般に、温度の異なるいくつかの熱固定ゾーンに分かれており、隣り合う熱固定ゾーン間の温度差と風速差との積が、いずれも250℃・m/s以下となるように、各プレナムダクトから吹き出される熱風の温度、風量を調節することが好ましい。例えば熱固定装置が第1〜第3の熱固定ゾーンに分割されている場合、第1ゾーン〜第2ゾーン間の温度差と風速差との積、第2ゾーン〜第3ゾーン間の温度差と風速差との積のいずれもが、250℃・m/s以下となるように調節されることが好ましい。熱風の温度、風量を調節することによって、熱風の循環がスムーズになる。これより、高温での熱固定でも平面性の良好なフィルムが得られる。隣り合う熱固定ゾーン間における温度差と風速差との積が250℃・m/s以下である(例えば隣り合う熱固定ゾーン同士の温度差が20℃となるように設定すると共に隣り合う熱固定ゾーン同士の風速差が10m/sとなるように設定する)と、熱固定装置における熱風の循環がスムーズになる。加えて、隣り合う熱固定ゾーン間の温度差と風速差との積が250℃・m/s以下であると、フィルムの通過により生じる随伴流として上流の熱固定ゾーンから下流の熱固定ゾーンへと流れ込む空気の温度差が小さくなる。そのため、下流の熱固定ゾーンの幅方向における温度が安定する点で好ましい。また、温度差と風速差との積は、200℃・m/s以下が好ましく、150℃・m/s以下がより好ましい。
また、前記(2)及び(3)の詳細については、特開2009-149065号公報の段落番号[0081]〜[0082]の記載を参照することができる。
【0138】
−緩和工程−
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、上記の熱固定に加え、熱固定された延伸フィルムの長手方向及び幅方向に緩和処理を施す緩和工程を設けることが好ましい。熱固定された延伸フィルムに対し、さらにフィルム長手方向及び幅方向の緩和を行なうことで、フィルム端縁部の熱収縮率を小さくすることができる。
【0139】
例えば、フィルム長手方向の緩和処理は、クリップ間に屈曲可能な構造を持たせ、縦方向のクリップ間隔を調整することで、クリップの進行方向の間隔が収縮し、長手方向が緩和される。緩和率は、1%以上8%以下が好ましく、1.5%以上7%以下が更に好ましい。
熱緩和時における温度(熱緩和温度)としては、170℃〜240℃が好ましく、180℃〜230℃がより好ましい。
【0140】
緩和の好ましい方法として、複数のチェンリンクが環状に連結された屈曲可動な一対のクリップチェンに取り付けられたクリップで前記延伸フィルムの幅方向両端部を把持し、クリップ間に屈曲可能な構造を持たせ、クリップを案内レールに沿って走行させてチェンリンクの屈曲角度が変位することでクリップ走行方向におけるクリップ間距離を収縮(長手方向のクリップ間隔を調整)させることにより、熱固定後の延伸フィルムの長手方向の緩和処理を行なうことができる。このような方法は、特開2009-149065号公報の段落番号[0085]の記載を参照することができる。具体的には、フィルム端部を保持するクリップとこれと隣接のクリップとの間に屈曲可動なチェンリンクで連結するジョイント部があり、このジョイント部に連結したベアリングが案内レールであるガイドレールを走行することで、チェンリンクの屈曲角度が変位する。これにより、クリップの進行方向の間隔が収縮するため、長手方向の緩和が行なえる。
【0141】
従来、フィルムの寸法変化を改良するために、縦及び横延伸したポリエステルフィルムを高温(220℃以上)熱固定処理を行なう場合があるが、このような高温熱固定処理では、配向した緊張非晶分子の結晶化が進み、フィルム白化及び長期での耐加水分解性が悪化してしまう。また、高温熱固定処理ではフィルムが着色し易い。特に太陽電池用途(例えば太陽光が入射する側と反対側に設けられる裏面保護層であるバックシート)は、ポリエステルフィルムを積層、塗布等して作られるが、積層、塗布の加工工程でポリエステルフィルムの熱寸法変化でカールや積層体の密着剥れなどの問題が生じやすい。
本発明においては、二軸延伸後のポリエステルフィルムを比較的に低温の190℃〜220℃で熱固定処理を行ない、その後、長手方向と幅方向とに緩和処理を実施することで、配向した緊張非晶分子を壊さず、長期の耐加水分解性を維持しながらフィルムの寸法安定性をより効果的に良化することができる。すなわち、テンター内の熱固定処理を行なった後、幅方向に1%〜10%の緩和率で縮めることが好ましく、より好ましくは1%〜7%、更に好ましくは2%〜5%緩和することが望ましい。
さらに、長手方向に1%〜8%の緩和率で縮めることが好ましい。緩和は、2%〜8%がより好ましく、さらに好ましくは2%〜7%である。
なお、ここでいう「緩和率」とは、緩和する長さを延伸前の寸法で割った値をさす。
【0142】
長手方向の緩和処理は、複数のチェンリンクが環状に連結された屈曲可動な一対のクリップチェンに取り付けられたクリップで前記延伸フィルムの幅方向両端部を把持し、クリップを案内レールに沿って走行させてチェンリンクの屈曲角度が変位することでクリップ走行方向におけるクリップ間距離を収縮させることにより、前記延伸フィルムの長手方向の緩和処理を行なうことが好ましい。
長手方向の緩和処理は、ポリエステルフィルムの作製工程で連続的に行なうことが可能であり(インライン工程)、後工程で追加の工程を加えることなく加工が可能である。
【0143】
本発明のポリエステルフィルムは、上記ポリエステルフィルムの製造方法により好適に作製される。
【0144】
ポリエステルフィルムの耐加水分解性については、破断伸度保持時間により評価することができる。これは、強制的に加熱処理(サーモ処理)することで加水分解を促進させた際の破断伸度の低下から求められる。具体的な測定方法は後述する。
【0145】
本発明のポリエステルフィルムでは、実用的な厚みの範囲で高耐電圧特性を付与する観点から、延伸後の厚みを125μm以上500μm以下の範囲とすることが好ましい。ポリエステルフィルムの耐電圧特性として近年必要とされている1000V以上の高耐電圧性を付与するには、延伸後の厚みを180μm以上400μm以下の範囲とすることが好ましい。また、耐加水分解性の低下も少なく抑えることができる。厚みは、260μm以上であると耐電圧を保つことができる。逆に、500μmを越える厚みは実用的でない。
上記の中でも、延伸後のポリエステルフィルムの厚みは、150μm以上380μm以下の範囲が好ましく、更に好ましくは180μm以上350μm以下の範囲である。
【0146】
前記耐電圧は、JIS C 2151に準拠し、破壊時の(短絡する)電圧値を測定することにより求められる値である。
【0147】
−第2の製造方法−
本発明のポリエステルフィルムは、二軸押出混練機にて前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤と末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂とを含み、前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の総量が10質量%〜30質量%であるマスターペレットを作製する工程と、前記マスターペレットと末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂のペレットとを混合し、単軸押出機にて溶融押出して未延伸フィルムを形成する工程と、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程と、を有する方法によって好適に製造することができる。
【0148】
この方法では、例えば、固相重合後のポリエステル樹脂に対し、10質量%〜30質量%の割合でトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤を添加し、二軸混練押出機でマスターペレットを作製する。そして、このマスターペレットと末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂とを混合し、単軸押出機にて溶融押出して未延伸フィルムを形成する。上記のように二軸混練押出機で紫外線吸収剤を含むマスターペレットを予め作製すれば、マスターペレット中に紫外線吸収剤が十分分散し、このマスターペレットとポリエステル樹脂を、好ましくは紫外線吸収剤の総量が0.1〜10質量%となるように混合して単軸押出機で溶融押出し後、二軸延伸すれば、紫外線吸収剤が面内方向に均一に分散したポリエステルフィルムが得られる。
なお、紫外線吸収剤の分散性を一層向上させるため、上記マスターペレットとポリエステル樹脂を混合して二軸押出機で溶融押出後、二軸延伸してもよい。
【0149】
<太陽電池用バックシート>
本発明のポリエステルフィルムは、太陽電池用ポリエステルフィルム、具体的には、太陽電池発電モジュールの太陽光入射側とは反対側の裏面に配置される裏面保護シート(いわゆるバックシート)の基材として好適である。
本発明のポリエステルフィルムをそのまま太陽電池用バックシートとして使用することもできるが、耐光性(耐紫外線性)以外の機能、例えば、装飾性、耐電圧性、ガスバリア性、耐候性等を有する層又はフィルムと貼り合わせて太陽電池用バックシートを構成してもよい。
【0150】
例えば、太陽電池モジュールを構成する封止材との接着性を高めるための易接着層、反射性又は装飾性を付与するための着色層、耐候性を向上させるための耐候層などが挙げられる。例えば、機能層を形成するための塗布液を本発明のポリエステルフィルムに塗布し、乾燥させることで厚みが薄い機能層を形成することができる。
また、上記のような機能層に相当する機能を有する他のポリエステルフィルムを用意し、接着剤を介して貼り合わせてバックシートを構成してもよい。
【0151】
<太陽電池モジュール>
本発明のポリエステルフィルムを含む太陽電池用バックシートを用いて太陽電池モジュールとすることができる。
本発明の太陽電池モジュールは、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明のポリエステルフィルム(太陽電池用バックシート)との間に配置して構成されている。基板とポリエステルフィルムとの間は、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂(いわゆる封止材)で封止して構成することができる。これにより、長寿命の太陽電池モジュールとすることができる。
【0152】
太陽電池モジュール、太陽電池セル、バックシート以外の部材については、例えば、「太陽光発電システム構成材料」(杉本栄一監修、(株)工業調査会、2008年発行)に詳細に記載されている。
【0153】
透明性の基板は、太陽光が透過し得る光透過性を有していればよく、光を透過する基材から適宜選択することができる。発電効率の観点からは、光の透過率が高いものほど好ましく、このような基板として、例えば、ガラス基板、アクリル樹脂などの透明樹脂などを好適に用いることができる。
【0154】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0155】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0156】
(実施例1)
−1.原料ポリエステルペレットの作製−
(1)固相重合無しPET−1の作製 (Ti触媒PET)
第一エステル化反応槽に、高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成し、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更にクエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃で攪拌下、平均滞留時間を約4.3時間として反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体は、Ti添加量が元素換算値で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は、600当量/トンであった。
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃、平均滞留時間1.2時間にて反応させ、酸価が200当量/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽は、内部が3ゾーンに仕切られており、第1ゾーンでは上記反応を行ない、第2ゾーンから酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で75ppmになるように連続的に供給し、続いて第3ゾーンからリン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給して、エステル化反応生成物を得た。
次に、得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力2.67×10−3MPa(20torr)とし、平均滞留時間を約1.8時間として重縮合させた。その後さらに、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力6.67×10−4MPa(5torr)、滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。
次いで、さらに第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽においては、反応槽内温度278℃、反応槽内圧力2.0×10−4MPa(1.5torr)、滞留時間1.5時間の条件で反応(重縮合)させ、反応物(ポリエチレンテレフタレート;PET)を得た。得られた反応物を、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてPETペレット(断面:長径約2〜5mm、短径約2〜3mm、長さ:約4〜7mm)を作製した。
【0157】
得られたポリエステル樹脂について、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR−ICP−MS;SIIナノテクノロジー社製のAttoM)を用いて測定したところ、Ti=10ppm、Mg=70ppm、P=58ppmであった。また、得られたPETは、固有粘度(IV)=0.66、末端カルボキシル基の濃度(AV)=23当量/トン、融点=257℃、溶液ヘイズ=0.3%であった。なお、IV及びAVの測定は後述する方法により行なった。
【0158】
(2)固相重合無しPET−2の作製(Sb触媒PET)
ジメチルテレフタレート100部とエチレングリコール70部とを、エステル交換触媒として酢酸カルシウム1水塩及び酢酸マグネシウム4水塩を使用して、常法にしたがってエステル交換反応させた後、トリメチルフォスフェートを添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。更に、チタニウムテトラブトキサイドと三酸化アンチモンとを添加した。その後、高温高真空下で常法にしたがって重縮合を行ない、固有粘度(IV)=0.60、末端カルボキシル基の濃度(AV)=28当量/トンのポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。なお、IV及びAVの測定は後述する方法により行なった。
【0159】
(3)固相重合無しPET−3の作製(Sb触媒PET)
固相重合無しPET−2と同様に、重縮合温度と時間を調整し、固有粘度(IV)=0.58、末端カルボキシル基の濃度(AV)=31当量/トンのポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。なお、IV及びAVの測定は後述する方法により行なった。
得られたPETを冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてPETペレット(断面:長径約2.5〜7mm、短径約1〜4mm、長さ:約3〜7mm)を作製した。
【0160】
(4)PEN樹脂
2,6−ナフタレン酸ジメチル100部とエチレングリコール60部の混合物に、酢酸マンガン四水和物0.030部をエステル交換反応釜に仕込み、140℃から230℃まで徐々に昇温しつつ、生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行った。この間190℃にて反応を続け、完全にメタノールの留出が終了したのち、リン化合物としてリン酸トリメチル0.020部を加え反応を終了させた。続いて5分後に重合触媒三酸化アンチモン0.024部を加え250℃まで加熱して一部のエチレングリコールを留出させたのち、重縮合反応釜へオリゴマーを移した。その後、常法に従い高真空下で加熱しながら、最終内温295℃にて所望の粘度に到達した時点で反応を終了させ、吐出部からストランド状に連続的に押し出し、冷却カッティングして約3mm前後のポリエチレン−2,6−ナフタレートの粒状ペレットを得た。このポリマーの固有粘度は0.60、末端カルボキシル基濃度AV=23当量/トンであった。
【0161】
(5)−固相重合PET1〜固相重合PET4の作製−
上記のようにTi系触媒又はSb系触媒を用いて作製した各PETペレットを、長さ/直径=20のサイロに投入し、150℃で予備結晶化処理した後、窒素雰囲気下、固相重合を実施した。このとき、固相重合時の温度を200〜230℃、時間を10〜50時間に調整し、固相重合後の末端COOH量(AV)とIVが表1に示す種種の固相重合PET1〜固相重合PET4のペレットを作製した。
【0162】
紫外線吸収剤として、下記構造を有する化合物A−1を用いた。
【0163】
【化14】

【0164】
実施例1〜14、19〜21及び比較例1〜3の押出し工程
表1に記載のポリエステル原料ペレットと紫外線吸収剤(UV剤)を用い、図1に示すように2箇所にベントが設けられたシリンダー内に下記構成のスクリュを備え、シリンダーの周囲には長手方向に温度制御を行うことができるヒータ(温度制御手段)を備えたダブルベント式同方向回転噛合型の二軸押出機を準備した。二軸機内の最大剪断速度を制御できるようにニーディングデスクの配置位置と長さを調整し、表1に示す紫外線吸収剤の含量分布を得た。
スクリュ径D:180mm
長さL[mm]/スクリュ径D[mm]:31.5(1ゾーンの幅:3.5D)
スクリュ形状:第1ベント直前に可塑化混練部、第2ベント直前に脱気促進混練部
【0165】
二軸押出機の押出機出口以降には、下記構成のギアポンプ、金属繊維フィルタおよびダイを接続し、ダイを加熱するヒータの設定温度は285℃とし、平均滞留時間は10分とした。
ギアポンプ:2ギアタイプ
フィルタ:金属繊維焼結フィルタ(孔径20μm)
ダイ:リップ間隔4mm
【0166】
実施例17、18の押出し工程
(1)マスターペレットの作製
表1に記載のポリエステル原料ペレットと紫外線吸収剤(UV剤)を用い、図1に示すように2箇所にベントが設けられたシリンダー内に下記構成のスクリュを備え、シリンダーの周囲には長手方向に温度制御を行うことができるヒータ(温度制御手段)を備えたダブルベント式同方向回転噛合型の二軸押出機を準備した。
スクリュ径D:180mm
長さL[mm]/スクリュ径D[mm]:31.5(1ゾーンの幅:3.5D)
スクリュ形状:第1ベント直前に可塑化混練部、第2ベント直前に脱気促進混練部
UV剤の濃度がそれぞれ10〜20質量%のマスターペレットを作製した。
【0167】
(2)1軸押出工程
前記マスターペレットを用い、含水率20ppm以下に乾燥させた後、同原料のポリエステル樹脂ペレットと混合し、直径50mmの1軸混練押出し機のホッパーに投入し、表1に記載の温度で溶融して押出した。
【0168】
実施例15、16、比較例4の押出し工程
実施例15、16では、上記のようにマスターペレットを作製して二軸押出を行った。比較例4では、マスターペレットを作製せずに一軸押出を行った。
【0169】
(延伸工程)
押出機出口から押出された溶融体(メルト)をギアポンプ、金属繊維フィルタ(孔径20μm)を通した後、ダイから冷却(チル)ロールに押出した。押出されたメルトは、静電印加法を用いて冷却ロールに密着させた。冷却ロールは、中空のチルロールを用い、この中に熱媒として水を通して温調できるようになっている。
続いて、冷却ロール上で帯状に成形された樹脂シートの二軸延伸を行った。延伸温度と延伸倍率は表1に示す通りである。
【0170】
(熱固定工程)
延伸後のフィルムの幅方向及び製膜方向に緩和(緩和率:3.5%)し、220℃で熱固定した。
これにより表2に示す厚みのPETフィルムを製造した。
【0171】
(評価)
‐末端COOH量(AV)‐
原料ペレットと得られたPETフィルムについて、0.1gの試料をベンジルアルコール10mlに溶解後、さらにクロロホルムを加えて混合溶液を得、これにフェノールレッド指示薬を滴下した。この溶液を、基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、滴下量から末端カルボキシル基量を求めた。結果を下記表1、2に示す。
【0172】
‐IV(極限粘度)‐
固有粘度(IV)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr−1)濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステル樹脂を1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、25℃の溶液粘度から求めた。
【0173】
‐紫外線吸収剤の含量分布‐
紫外線(UV)剤の含量分布を以下のように測定した。
フィルムの長手方向に任意10cm間隔で10点、及び、幅方向に任意10cm間隔で10点それぞれサンプリングし、計20箇所のサンプルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、吸光度が飽和しない程度まで上記混合溶媒に希釈した溶液を、分光光度計((株)島津製作所製MPC3100)にて石英セルを用いて吸光度を測定する。使用する紫外線吸収剤の各濃度と吸光度の検量線を予め作成し、検量線から各20点の紫外線吸収剤の含有量(質量%)を求める。下記式で紫外線吸収剤の含量分布を求める。
紫外線吸収剤の含量分布(%)=100×(最大含有量−最小含有量)/平均含有量
【0174】
‐390nmの光透過率‐
分光光度計((株)島津製作所製MPC3100)を用い、波長200〜900nmの光線透過率を、2nm間隔で測定した。測定した各波長の光線透過率から波長390nmの光線透過率を算出した。
【0175】
‐UV照射後の破断伸度保持時間‐
得られた延伸フィルムに対し、メタルハライドランプ(350nm以下カットフィルター存在化)(商品名:アイスーパーUVテスター、岩崎電気製)で紫外線照度90mW/cm、温度63℃、湿度50%の条件で紫外線(UV)照射を行った。照射後のフィルムを、破断伸度保持率が10%以上に保持される照射時間(破断伸度保持時間)[hr]を測定した。破断伸度保持率は、下記式で求められる。
破断伸度保持率[%]=[(UV照射後の破断伸度)/(UV照射前の破断伸度)]×100
【0176】
具体的には、紫外線照度90mW/cm下、5時間〜200時間を5時間間隔で紫外線照射処理し、各フィルムの破断伸度を測定し、得られた測定値を紫外線照射処理前の破断伸度で除算し、各紫外線照射処理時間での破断伸度保持率を求める。そして、横軸に紫外線照射時間、縦軸に破断伸度保持率をとってプロットし、これを結んで破断伸度保持率が10%以上となるまでの処理時間[hr]を求める。
【0177】
‐湿熱処理後の破断伸度保持時間‐
得られた延伸フィルムを120℃、100%RHで湿熱処理(サーモ処理)した後の破断伸度保持率が、湿熱処理前の破断伸度に対して30%以上の範囲に保持できる破断伸度半減時間[hr]を測定した。破断伸度保持率は、下記式で求められる。
破断伸度保持率[%]=[(サーモ処理後の破断伸度)/(サーモ処理前の破断伸度)]×100
【0178】
具体的には、120℃、100%RHで10時間〜300時間[hr]を10時間間隔で熱処理(サーモ処理)を実施した後、各サーモ処理サンプルの破断伸度を測定し、得られた測定値をサーモ処理前の破断伸度で除算し、各サーモ処理時間での破断伸度保持率を求める。そして、横軸にサーモ時間、縦軸に破断伸度保持率をとってプロットし、これを結んで破断伸度保持率が30%以上となるまでの処理時間[hr]を求める。
【0179】
前記破断伸度は、引っ張り試験機にポリエステルフィルムのサンプルをセットし、25℃、60%RH環境下で20mm/分で引っ張ることにより破断するまでの伸度を、MD方向(縦方向;Machine Direction)及びTD方向(横方向;Transverse Direction)のそれぞれについて幅方向に10等分した各点にて20cm間隔で5回繰り返して計50点を測定し、得られた値を平均して求められる値である。なお、上記で得られる50点の破断伸度保持時間の最大値と最小値の差(絶対値)を、50点の破断伸度の平均値で除算し百分率で示すことにより、破断伸度保持時間分布[%]を得ることができる。
【0180】
‐面状適性‐
得られたPETフィルムの表面の面状を下記の方法によって評価した。
全幅で長手方向に1mの長さに切り出し、この試料にシャーカステン上で光を透過させながらルーペで異物・汚れの有無及び大きさを観察し、下記基準で評価した。
◎:50μm以上の大きさの異物が5個未満、フィルム表面のUV剤ブリードアウトの汚れは全く見られない。
○:50μm以上の大きさの異物が5個以上10個未満、フィルム表面のUV剤ブリードアウトの汚れは僅か見られる。
×:50μm以上の大きさの異物が10個以上、フィルム表面のUV剤ブリードアウトの汚れは顕著に見られる。
【0181】
‐製膜適性‐
連続製膜3000mの時点で、ロール上のUV剤汚れやフィルム破断などを下記の方法によって評価した。
◎:ロール汚れが全く見られなく、フィルム破断も全く見られない。
○:ロール汚れが目視で見られるが、フィルム破断が発生しない。
×:ロール汚れが目視で顕著に見られ、継続製膜が困難な状況であり、またはフィルム破断が発生する。
【0182】
(太陽電池用バックシートとしての評価)
PETフィルムの片面に東洋インキ製造株式会社製の製品名LIS−073−50(100重量部)と製品名CR−001(10重量部)とを混合したウレタン系接着剤を固形分の塗工量が5g/mとなるように塗布し、この接着剤を介して厚さ50μmの白色ポリエチレンテレフタレートフィルムを接着して積層型の太陽電池用バックシートを作製した。なお、PETフィルムは屋外暴露面に配置した。
【0183】
‐耐UV性‐
上記太陽電池用バックシートの耐UV性を下記の方法によって評価した。
得たバックシートのPETフィルム面に前記ポリエステルフィルムの評価と同様に、紫外線照度90mW/cm下、5時間〜200時間を5時間間隔で紫外線照射処理し、各フィルムの破断伸度と部分放電電圧を測定した。部分放電電圧は、IEC60664に準拠した測定値である。
評価基準を以下に示す。
◎:破断伸度保持率20%以上と部分放電電圧の保持率90%以上の紫外線照射時間が50時間以上
○:破断伸度保持率20%以上と部分放電電圧の保持率90%以上の紫外線照射時間が30時間以上50時間未満
×:破断伸度保持率20%以上と部分放電電圧の保持率90%以上の紫外線照射時間が30時間未満
【0184】
‐耐加水分解性‐
上記太陽電池用バックシートの耐加水分解性を下記の方法によって評価した。
得たバックシートのPETフィルム面に前記ポリエステルフィルムの評価と同様に、120℃、100%RHで10時間〜300時間[hr]を10時間間隔で熱処理(サーモ処理)を実施した後、各サーモ処理サンプルの破断伸度と部分放電電圧を測定した。部分放電電圧は、IEC60664に準拠した測定値である。
評価基準を以下に示す。

◎:破断伸度保持率30%以上と部分放電電圧の保持率90%以上のサーモ処理時間が70時間以上
○:破断伸度保持率30%以上と部分放電電圧の保持率90%以上のサーモ処理時間が50時間以上70時間未満
×:破断伸度保持率30%以上と部分放電電圧の保持率90%以上のサーモ処理時間が50時間未満
【0185】
‐総合評価‐
上記のポリエステルフィルム及びこれを用いたバックシートの耐UV性及び耐加水分解性、面状、製膜適性に基づき、下記の基準で総合評価した。
◎:前記の面状、製膜適性、バックシートの耐UV性、バックシートの耐加水分解性の評価ランクは全てが「◎」、またはポリエステルフィルムの破断伸度保持率が10%以上のUV照射時間が50時間以上、及びポリエステルフィルムの耐加水分解性70時間以上
○:前記の面状、製膜適性、バックシートの耐UV性、バックシートの耐加水分解性の評価ランクは「×」が一個もなく、少なくとも一個が「○」であり、またはポリエステルフィルムの破断伸度保持率が10%以上のUV照射時間が30時間以上50時間未満、及びポリエステルフィルムの耐加水分解性が50時間以上70時間未満
×:前記の面状、製膜適性、バックシートの耐UV性、バックシートの耐加水分解性の評価ランクは少なくとも一個が「×」であり、またはポリエステルフィルムの破断伸度保持率が10%以上のUV照射時間が30時間未満、及びポリエステルフィルムの耐加水分解性が50時間未満
【0186】
(実施例2〜20)
実施例1に対し、原料(PET樹脂、紫外線吸収剤)、製造条件を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。
実施例1と同様に評価を行った。結果を下記表2に示す。
なお、表1中、各紫外線吸収剤は以下の通りである。
【0187】
【化15】



【0188】
【化16】

【0189】
【化17】

【0190】
B−3:アデカスタブ LA−31(2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール)
【0191】
B−4:下記式で表される環状イミノエステル系紫外線吸収剤
【0192】
【化18】



【0193】
(実施例21)
実施例1に対し、原料樹脂をPENに変更し、製造条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0194】
(比較例1〜4)
実施例1に対し、原料(PET樹脂、紫外線吸収剤)、製造条件を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを製造し、実施例1と同様に評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0195】
【表1】

【0196】
【表2】

【0197】
表2に示すように、実施例のポリエステルフィルムは、UV剤のブリードアウトが抑制され、面状に優れたものであり、UV照射したときの破断伸度保持時間及びサーモ処理したときの破断伸度保持時間がバランス良く保たれていた。また、これらのポリエステルフィルムを用いて構成したバックシートは、耐UV性、及び耐加水分解性に優れていた。
一方、比較例のポリエステルフィルムを用いて構成したバックシートでは、面状又は耐UV性のいずれかが悪く、屋外での長期使用に耐えがたいと考えられる。
【0198】
さらに、上記実施例、比較例で得られた延伸フィルムからサンプルを切り出し、サンプルフィルムの片面に下記処方の易接着層、下塗り層、バリア層、防汚層を塗布及び乾燥により形成して太陽電池用バックシートを作製した。
【0199】
(i)易接着性層
下記組成の諸成分を混合して易接着性層用塗布液を調製し、これを固形分塗布量が0.09g/mになるようにポリエステルフィルム上に塗布した。その後、180℃で1分間乾燥させ、易接着性層を形成した。
<易接着性層用塗布液の組成>
・ポリオレフィン樹脂水分散液 ・・・5.2質量部
(バインダー:ケミパールS75N、三井化学(株)製、固形分:24質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・7.8質量部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物 ・・・0.8質量部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分25質量%)
・シリカ微粒子水分散物 ・・・2.9質量部
(アエロジルOX−50、日本アエロジル(株)製、固形分:10質量%)
・蒸留水 ・・・83.3質量部
【0200】
次に、サンプルフィルムの易接着性層が形成されている側と反対側の面に、下記の(ii)下塗り層、(iii)バリア層、及び(iv)防汚層をサンプルフィルム側から順次、塗設した。
【0201】
(ii)下塗り層
下記組成の諸成分を混合して下塗り層用塗布液を調製し、この塗布液をサンプルフィルムに塗布し、180℃で1分間乾燥させ、下塗り層(乾燥塗設量:約0.1g/m)を形成した。
<下塗り層用塗布液の組成>
・ポリエステル樹脂 ・・・1.7質量部
(バイロナールMD−1200、東洋紡(株)製、固形分:17質量%)
・ポリエステル樹脂 ・・・3.8質量部
(ペスレジンA-520、高松油脂(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・1.5質量部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・カルボジイミド化合物 ・・・1.3質量部
(カルボジライトV−02−L2、日清紡(株)製、固形分:10質量%)
・蒸留水 ・・・91.7質量部
【0202】
(iii)バリア層
続いて、形成された下塗り層の表面に下記の蒸着条件にて厚み800Åの酸化珪素の蒸着膜を形成し、バリア層とした。
<蒸着条件>
・反応ガス混合比(単位:slm):ヘキサメチルジシロキサン/酸素ガス/ヘリウム=1/10/10
・真空チャンバー内の真空度:5.0×10−6mbar
・蒸着チャンバー内の真空度:6.0×10−2mbar
・冷却・電極ドラム供給電力:20kW
・フィルムの搬送速度:80m/分
【0203】
(iv)防汚層
以下に示すように、第1及び第2防汚層を形成するための塗布液を調製し、バリア層の上に第1防汚層用塗布液、第2防汚層用塗布液の順に塗布し、2層構造の防汚層を塗設した。
【0204】
<第1防汚層>
−第1防汚層用塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、第1防汚層用塗布液を調製した。
<塗布液の組成>
・セラネートWSA1070(DIC(株)製)・・・45.9質量部
・オキサゾリン化合物(架橋剤)・・・7.7質量部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・2.0質量部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・顔料分散物 ・・・33.0質量部
・蒸留水 ・・・11.4質量部
【0205】
−第1防汚層の形成−
得られた塗布液を、バインダー塗布量が3.0g/mになるように、バリア層の上に塗布し、180℃で1分間乾燥させて第1防汚層を形成した。
【0206】
−第2防汚層用塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、第2防汚層用塗布液を調製した。
<塗布液の組成>
・フッ素系バインダー:オブリガード(AGCコーテック(株)製)・・・45.9質量部
・オキサゾリン化合物 ・・・7.7質量部
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%;架橋剤)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・2.0質量部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・前記顔料分散物 ・・・33.0質量部
・蒸留水 ・・・11.4質量部
【0207】
−第2防汚層の形成−
調製した第2防汚層用塗布液を、バインダー塗布量が2.0g/mになるように、バリア層上に形成された第1防汚層の上に塗布し、180℃で1分間乾燥させて第2防汚層を形成した。
【0208】
以上のようにして、ポリエステルフィルムの一方の側に易接着層を有し、他方の側に下塗り層、バリア層、及び防汚層を有するバックシートを作製した。
作製した太陽電池用バックシートについて上記と同様に耐光性及び耐加水分解性を測定したところ、各実施例、比較例と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0209】
10 シリンダー
12 供給口
14 押出機出口
16A,16B ベント
20A,20B スクリュ
22 フライト
30 温度制御手段
100 二軸押出機
C1〜C9 加熱/冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂と、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤とを含み、前記紫外線吸収剤の含量分布が0.1〜7.0%であるポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂の極限粘度が0.60〜0.90であり、前記紫外線吸収剤が下記一般式(1)で表される化合物である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【化1】


〔式中、R1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eは、各々独立に、水素原子、又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、R1a、R1b、R1c、R1d、及びR1eの少なくとも1つはハメット則のσp値が正である置換基であり、該置換基は互いに結合して環を形成してもよい。R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n、及びR1pは、各々独立に、水素原子、又は1価の置換基を表し、該置換基は互いに結合して環を形成してもよい。〕
【請求項3】
前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤を総量で0.1〜10質量%を含み、波長390nmでの透過率が5%以下である請求項1又は請求項2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂の末端カルボン酸基の量が5〜20eq/tonであり、極限粘度が0.70〜0.90である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の含量分布が0.1〜5.0%である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の含量分布が0.5〜4.0%である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤と、末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂のペレットとをそれぞれ二軸押出機に投入し、溶融押出しして未延伸フィルムを形成する工程と、
前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程と、を有し、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを製造するポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
二軸押出混練機にて前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤と末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂とを含み、前記トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、又は環状イミノエステル系の紫外線吸収剤の総量が10質量%〜30質量%であるマスターペレットを作製する工程と、
前記マスターペレットと末端カルボン酸基の量が30eq/ton以下のポリエステル樹脂のペレットとを混合し、単軸押出機にて溶融押出して未延伸フィルムを形成する工程と、
前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程と、を有し、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを製造するポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを含む太陽電池用バックシート。
【請求項10】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを含む太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2012−122000(P2012−122000A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274103(P2010−274103)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】